説明

鞍乗り型車両の前輪操舵装置

【課題】本発明は、車両前部における部品配置の自由度を高めることができる鞍乗り型車両の前輪操舵装置を提供することを課題とする。
【解決手段】自動二輪車の前輪操舵装置90は、前輪13を軸支するフォーク部材33と、ステアリングハンドル32を取付けたステアリングステム31と、このステアリングステム31とフォーク部材33との間を伸縮可能に連結する連結部材34とを備えている。連結部材34は、アッパーサイドアーム93、94と、これらのアッパーサイドアーム93、94の下部に連結されるロアサイドアーム95、96とから構成され、ロアサイドアーム95、96の下端部は、フォーク部材33に連結され、アッパーサイドアーム93、94の上端部は、ステアリングステム31に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗り型車両の前輪操舵装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車体フレームに前輪を軸支するフォーク部材が揺動可能に設けられ、このフォーク部材にステアリングハンドルが連結されている鞍乗り型車両の前輪操舵装置が知られている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1の図1において、車体フレーム(7)(括弧付き数字は、特許文献1記載の符号を示す。以下同じ。)から車両前方へリンクアーム(5、6)が延設され、これらのリンクアーム(5、6)の先端部にフォーク部材(4)が揺動可能に設けられ、このフォーク部材(4)に前輪(3)が軸支され、フォーク部材(4)に、車両側面視でV字状を呈し車両前方が閉じているリンク部材(12)が取付けられ、このリンク部材(12)にステアリングハンドル(11)が取付けられている。
【0004】
リンク部材(12)は、上端部がステアリングハンドル(11)に連結され、下端部がフォーク部材(4)に連結されている部材であり、ステアリングハンドル(11)にパンタグラフのように伸縮可能に取付けられている。ステアリングハンドル(11)の転舵力は、リンク部材(12)を介してフォーク部材(4)へ伝達される。
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、リンク部材(12)は、ステアリングハンドル(11)から車両の前方へV字状に突設され、フォーク部材(4)に連結されているので、車両前部の部品配置に制約が生ずる場合がある。車両前部において、部品配置の自由度を高めることができる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1616780号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、車両前部における部品配置の自由度を高めることができる鞍乗り型車両の前輪操舵装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、エンジン及び/又は車体フレームから車両前方に延設されるリンクアームと、このリンクアームに揺動可能且つ転舵可能に支持され前輪を軸支するフォーク部材と、車体フレームの前部に回動可能に軸支されステアリングハンドルを取付けたステアリングステムと、このステアリングステムとフォーク部材との間を伸縮可能に連結する連結部材と、が備えられている鞍乗り型車両の前輪操舵装置において、連結部材は、ステアリングハンドル側に連結される左右一対のアッパーサイドアームと、これらのアッパーサイドアームの下部に連結されると共に、フォーク部材側に連結される左右一対のロアサイドアームと、から構成され、これらの左右一対のロアサイドアームの下端部は、車両長手方向軸に略平行な連結軸にて、フォーク部材に連結され、これらの左右一対のアッパーサイドアームの上端部は、車両長手方向軸に略平行な連結軸にて、ステアリングステムに連結されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、左右一対のロアサイドアームは、車幅方向の一側上方から車幅方向の他側下方へ延びている第1ロアサイドアームと、車幅方向の他側上方から車幅方向の一側下方へ延びている第2ロアサイドアームと、から構成され、第1ロアサイドアームと第2ロアサイドアームとは、車両を前から見たときに、X字状に交差していることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、第1ロアサイドアームと第2ロアサイドアームのうちの車両前方側に配置される一方のサイドアームは、その後面が車両前方に凹ませるように形成され、第1ロアサイドアームと第2ロアサイドアームのうちの車両後方側に配置される他方のサイドアームは、その前面が車両後方に凹ませるように形成され、後面と前面との間が所定の隙間をもって、一方のサイドアームと他方のサイドアームとが配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、リンクアームは、アッパリンクアームと、このアッパリンクアームの下方に設けられているロアリンクアームと、から構成され、ステアリングハンドルと左右一対のアッパーサイドアームの間に、車幅方向に平行に軸支される上側揺動リンクが設けられ、フォーク部材とロアサイドアームの間に、車幅方向に平行に軸支される下側揺動リンクが設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、鞍乗り型車両に、ステアリングステムによって回動自在に支持され、ステアリングハンドルが取付けられるステアリングブラケットが備えられ、このステアリングブラケットは、車幅方向中央後部に設けられステアリングステムが通るステアリング挿通孔と、このステアリング挿通孔の左右外方に設けられステアリングハンドルを連結するハンドル連結部と、このハンドル連結部の前方に左右一対突出され上側揺動リンクを軸支するステー部と、が備えられていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明では、アッパーサイドアームとロアサイドアームとからなる連結部材は、ステアリングブラケット並びにフォーク部材の転舵中心より前方に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、フォーク部材とステアリンクハンドルの間を連結する連結部材は、ステアリングハンドル側に連結される左右一対のアッパーサイドアームと、これらのアッパーサイドアームの下部に連結される左右一対のロアサイドアームとから構成されている。
【0015】
前輪が地面から力を受けフォーク部材が上昇したときに、アッパーサイドアーム及びロアサイドアームは、車両長手方向に設けた上下の連結軸を軸として車両内側又は車両外側へ移動する。すなわち、アッパーサイドアーム及びロアサイドアームは、車幅方向に移動し、車両長手方向への移動はない。アッパーサイドアーム及びロアサイドアームが車両長手方向へ移動しなくなれば、車両前部の部品配置に影響を与えることがなくなり、車両前部の部品配置の自由度を高めることができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、第1ロアサイドアームと第2ロアサイドアームとから構成されている連結部材は、フォーク部材が上昇したときに、上の連結軸及び下の連結軸を軸として回動し、X字状に交差した状態のまま、屈曲する。このようにX字状に交差した状態で屈曲する連結部材であれば、フォーク部材が上昇したときに、車幅方向外側への連結部材の張出が抑えられる。車幅方向外側への張出が抑えられるので、前輪操舵装置の小型化を図ることができる。
【0017】
請求項3に係る発明では、一方のサイドアームの後面と他方のサイドアームの前面とは、共に凹ませるように形成されているので、車両を側方から見たときに、一方のサイドアームと他方のサイドアームの間の間隔を狭くすることが可能になる。両者の間隔が狭くなれば、車両長手方向で連結部材の配置スペースを減らすことが可能になる。したがって、転舵装置の一層の小型化を図ることができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、上下の揺動リンクは、車幅方向に平行に軸支されている。つまり、上下の揺動リンクは、車両の前後に揺動可能に構成した。
前輪が地面から力を受けたとき、フォーク部材には、ステアリング軸方向の力だけでなくフォーク部材を車両前後に揺動させる力がはたらく場合がある。
【0019】
連結部材の上端部に、車幅方向に平行な軸を有する上の揺動リンクを設け、連結部材の下端部に、車幅方向に平行な軸を有する下の揺動リンクを設けた。
仮に、連結部材の上端部及び下端部に、揺動リンクが設けられていない場合には、フォーク部材が前後に揺動したときに、ステアリング軸直角方向の変位を吸収することができない。
【0020】
この点、本発明では、連結部材の上端部及び下端部に、揺動リンクが設けられているので、フォーク部材が前後に揺動したときの変位を吸収することができる。したがって、フォーク部材が前後に揺動したときであっても、転舵操作を円滑に行わせることができる。
【0021】
請求項5に係る発明では、鞍乗り型車両に、ステアリングステムによって回動自在に支持され、ステアリングハンドルが取付けられるステアリングブラケットが備えられ、このテアリングブラケットに左右一対突出されたステー部が備えられ、このステー部に直接上側揺動リンクが連結されている。
【0022】
したがって、部品点数を増加させることなく、上側揺動リンクに大きな転舵モーメントを伝達することが可能になる。
【0023】
請求項6に係る発明では、連結部材は、ステアリングブラケット並びにフォーク部材の転舵中心より前方に配置されているので、連結部材がステアリングブラケット並びにフォーク部材の転舵中心又はその近傍に配置されている場合に較べると、転舵時に連結部材に加わる荷重を低くすることができる。連結部材にかかる荷重が低くなれば、連結部材の肉厚等を減らすことができ、連結部材を軽量にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る鞍乗り型車両の左側面図である。
【図2】本発明に係る鞍乗り型車両に備えられている前輪操舵装置の左側面図である。
【図3】本発明に係る車体フレームから延びフォーク部材に連結されるリンクアームを説明する平面図である。
【図4】本発明に係る鞍乗り型車両に備えられている前輪操舵装置の要部側面図である。
【図5】図4の5矢視図である。
【図6】図5の6矢視図である。
【図7】前輪操舵装置が伸びている状態及び縮んでいる状態を説明する図である。
【図8】図5の作用説明図である。
【図9】実施例に係る前輪操舵装置の構成及び比較例に係る前輪操舵装置の構成を説明する図である。
【図10】図5の別実施例図及び作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図中及び実施例において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」は、各々、自動二輪車に乗車する運転者から見た方向を示す。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0026】
先ず、本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。
図1に示されているように、鞍乗り型車両としての自動二輪車10は、車体フレーム11と、この車体フレーム11の前部に設けられ前輪13を懸架する前輪懸架装置15と、車体フレーム11の後部に設けられ駆動輪である後輪14を懸架する後輪懸架装置16と、車体フレーム11に懸架される駆動源としてのエンジン17と、前輪13と後輪14の間に設けられ乗員が着座する着座シート18とを備え、この着座シート18に乗員が跨って乗車する車両である。
【0027】
後輪懸架装置16は、車体フレーム11の後部を構成するピボット部21から後方に延設され後輪14を回動自在に支持するリヤスイングアーム22と、このリヤスイングアーム22と車体フレーム11の間に設けたリンク機構23と、このリンク機構23とピボット部21の間に渡されているリヤクッションユニット24とから構成されている。
【0028】
本実施例では、エンジン17にV型エンジンが採用され、このV型エンジンの上方に燃料タンク25が配置されている。なお、エンジンの型式は、V型エンジンに限定されることはなく任意の形式のエンジンで良いものとする。
前輪懸架装置15については、次図以降で詳細に説明する。
【0029】
次に、車体前部の構成について説明する。
図2に示されているように、自動二輪車10に車体フレーム11が設けられ、この車体フレーム11の前端部にステアリングステム31が設けられ、このステアリングステム31にステアリングブラケット30が一体的に設けられ、このステアリングブラケット30にステアリングハンドル32が設けられ、ステアリングブラケット30に連結部材34の上端部が連結され、この連結部材34の下端部に前輪13を軸支するフォーク部材33が連結されている。
【0030】
車体フレーム11は、ステアリングステム31を回動自在に支持するヘッドパイプ35と、このヘッドパイプ35から斜め後下方に延設されるメインフレーム41と、このメインフレーム41の後端部に設けられているセンタフレーム40と、このセンタフレーム40の下部から下方へ延設されるピボット部21と、メインフレーム41の前部から略下方に延設されるダウンフレーム42と、このダウンフレーム42の下端部から後方へ延設される第1サブフレーム43と、この第1サブフレーム43の後端部から後方へ延設されセンタフレーム40へ連結される第2サブフレーム45と、第1サブフレーム43と第2サブフレーム45の間で車幅方向に延設されるクロス部材51と、ダウンフレーム42の中間部からクロス部材51へ向けメインフレーム41と略平行に延設される第3サブフレーム46と、メインフレーム41の中間部からクロス部材51へ延設される第4サブフレーム47と、メインフレーム41の後部からクロス部材51へ延設されている第5サブフレーム49と、を備えている。
【0031】
なお、センタフレーム40、メインフレーム41、ダウンフレーム42、第1サブフレーム43、第2サブフレーム45、第3サブフレーム46、第4サブフレーム47及び第5サブフレーム49は、各々、左右に一対設けられている。
【0032】
次に、車体フレームから延びフォーク部材に連結されるリンクアームの構成について説明する。
リンクアーム61は、アッパーリンクアーム62と、このアッパーリンクアーム62の下方に配置されているロアリンクアーム63とから構成される。そして、これらのアッパーリンクアーム62とロアリンクアーム63とによってフォーク部材33が車体フレーム11に対して揺動可能に支持されている。
【0033】
アッパーリンクアーム62は、後端部が車幅方向左右に延びているアッパー後ピン65及びこのアッパー後ピン65に嵌めたニードルベアリングを介して車体フレーム側に揺動可能に取付けられ、前端部が第1球面軸受67を介してフォーク部材33に揺動可能且つ転舵可能に取付けられている。
【0034】
同様に、ロアリンクアーム63は、後端部が車幅方向左右に延びているロア後ピン66及びこのロア後ピン66に嵌めたニードルベアリングを介して車体フレーム側に揺動可能に取付けられ、前端部が後述する第2球面軸受68を介してフォーク部材33に揺動可能且つ転舵可能に取付けられている。
【0035】
ロアリンクアーム63の車幅方向左右にロアクロスメンバ73が取付けられ、メインフレーム41の車幅方向左右にアッパークロスメンバ72が取付けられ、ロアクロスメンバ73にクッションユニット74の下端部が取付けられ、メインフレーム41の車幅方向左右に延びているアッパークロスメンバ72に、クッションユニット74の上端部が取付けられている。
【0036】
次に、リンクアーム61の構成部材であるアッパーリンクアーム62について説明する。
図3に示されているように、車体フレーム11から車両前方に左右一対のアッパーリンクアーム62L、62Rが延設され、これらの左右一対のアッパーリンクアーム62L、62Rに揺動可能且つ転舵可能に前輪13を軸支するフォーク部材33が支持されている。
【0037】
ロアリンクアーム(図2、符号63)は、アッパーリンクアーム62と同様に、左右に一対設けられている部材であり、説明を省略する。
なお、本実施例では、リンクアームは、車体フレームから延設されているが、エンジンから延設されるものであっても良い。
【0038】
次に、前輪操舵装置の構造について詳細に説明する。
図4に示されているように、アッパーリンクアーム62の先端部に第1球面軸受67が取付けられ、この第1球面軸受67にフォーク部材33が取付けられている。
第1球面軸受67は、フォーク部材33側に取付けられ球面状を呈する球面支持部76と、上方から球面支持部76に嵌合するキャップ部77とからなる。
【0039】
フォーク部材33の後部で、且つ、第1球面軸受67の下方に、凹部81が形成され、この凹部81に、ロアリンクアーム63の先端部が延びており、このロアリンクアーム63の先端部に、第2球面軸受68のキャップ部79が取付けられ、凹部81の下面81aに、球面状を呈しキャップ部79を支持する第2球面軸受68の球面支持部78が取付けられている。
上記構成により、前輪13を軸支するフォーク部材33は、車体フレーム11に揺動可能で且つ転舵可能となる。
【0040】
ヘッドパイプ35には、ベアリング107を介してステアリングステム31が設けられ、このステアリングステム31にステアリングブラケット30が取付けられ、このステアリングブラケット30にステアリングハンドル32が取付けられている。
ステアリングステム31とフォーク部材33との間は連結部材34によって伸縮可能に連結されている。
【0041】
前輪懸架装置15には、ステアリングハンドル32や連結部材34を含む前輪操舵装置90が含まれている。すなわち、前輪懸架装置15に、車体フレーム11の前部に回動可能に軸支されステアリングハンドル32を取付けたステアリングステム31が含まれている。
【0042】
図5に示されているように、連結部材34は、ステアリングハンドル32側に連結される左右一対のアッパーサイドアーム93、94と、これらのアッパーサイドアーム93、94の下部に連結されると共に、フォーク部材33側に連結される左右一対のロアサイドアーム95、96とから構成され、左のアッパーサイドアーム93と右のロアサイドアーム96とが中連結軸99によって連結され、右のアッパーサイドアーム94と左のロアサイドアーム95とが中連結軸99によって連結されている。
【0043】
すなわち、左右一対のロアサイドアーム95、96は、車幅方向の一側(左側)上方から車幅方向の他側(右側)下方へ延びている第1ロアサイドアーム95と、車幅方向の他側(右側)上方から車幅方向の一側(左側)下方へ延びている第2ロアサイドアーム96とから構成され、第1ロアサイドアーム95と第2ロアサイドアーム96とは、車両を前から見たときに、X字状に交差している。
なお、本実施例では、車幅方向の一側を左側とし他側を右側としたが、車幅方向の一側を右側とし他側を左側とすることは差し支えない。
【0044】
この他、ステアリングハンドル32と左右一対のアッパーサイドアーム93、94の間に、車幅方向に平行に軸支される上側揺動リンク97、98が介在され、フォーク部材33と左右一対のロアサイドアーム95、96の間に、車幅方向に平行に軸支される下側揺動リンク101、102が介在されている。
【0045】
すなわち、左右一対のロアサイドアーム95、96の下端部は、車両長手方向軸に略平行な連結軸104、104を介して下側揺動リンク101、102に連結され、これらの下側揺動リンク101、102は、下揺動軸106、106を介してフォーク部材33に連結されている。
【0046】
また、左右一対のアッパーサイドアーム93、94の上端部は、車両長手方向軸に略平行な連結軸103、103を介して上側揺動リンク97、98に連結され、これらの上側揺動リンク97、98は、上揺動軸105、105を介してステアリングブラケット30に連結されている。なお、ステアリングブラケット30は、ステアリングステム31と一体的に設けられている。
【0047】
以下、ステアリングハンドル32が取付けられているステアリングブラケット30の構成について説明する。
図6に示されているように、ステアリングブラケット30は、車幅方向中央後部に設けられステアリングステム31が通るステアリング挿通孔108と、このステアリング挿通孔108の左右外方に設けられステアリングハンドル32を連結するハンドル連結部111、112と、これらのハンドル連結部111、112の前方に左右一対突出され上側揺動リンク97、98を軸支する左右のステー部113、114と、が備えられている。
【0048】
車両前部に、ステアリングステム31によって回動自在に支持され、ステアリングハンドル32が取付けられるステアリングブラケット30が備えられ、このステアリングブラケット30に、転舵力をフォーク部材(図5、符号33)へ伝達する連結部材34が連結されているステー部113、114が備えられ、このステー部113、114に、上側揺動リンク97、98が連結されている。
ステアリングブラケット30に、上側揺動リンク97、98が連結される左右のステー部113、114が備えられているので、簡便な構成で、転舵に係る剛性を高めることができる。
【0049】
第1ロアサイドアーム95と第2ロアサイドアーム96のうちの車両前方側に配置される一方のサイドアームとしての第1ロアサイドアーム95は、その後面115が車両前方に凹ませるように形成され、第1ロアサイドアーム95と第2ロアサイドアーム96のうちの車両後方側に配置される他方のサイドアームとしての第2ロアサイドアーム96は、その前面116が車両後方に凹ませるように形成され、第1ロアサイドアームの後面115と第2ロアサイドアームの前面116との間が所定の隙間(δ)をもって、第1ロアサイドアーム95と第2ロアサイドアーム96とが配置されている。
【0050】
図4に戻って、第1ロアサイドアームの後面115と第2ロアサイドアームの前面116とは、共に凹ませるように形成されているので、車両を側方から見たときに、第1ロアサイドアーム115と第2ロアサイドアーム116の間の間隔を狭くすることが可能になる。両者の間隔が狭くなれば、車両長手方向で連結部材34の配置スペースを減らすことが可能になる。したがって、前輪操舵装置90の一層の小型化を図ることができる。
【0051】
以上に述べた鞍乗型車両の作用を次に述べる。
図7(a)において、前輪操舵装置90が伸びている状態が示されており、この状態は、車両停止時又は定常走行時等の状態である。なお、前輪懸架装置15には、車両の前部重量がかかっている。
【0052】
図7(b)において、前輪操舵装置90が縮んでいる状態が示されており、この状態は、前輪ブレーキをかけたときや前輪13が地面から衝撃力を受けたとき等の状態である。
このとき、前輪懸架装置15には、車両の前部重量がかかることに加え、フォーク部材33の下方から力を受けている。連結部材34は屈曲している。これらの連結部材34の作用について、次図にて説明する。
【0053】
図8(a)は図7(a)の状態に対応する図であり、連結部材34が伸びている状態が示されている。
図8(b)は図7(b)の状態に対応する図であり、連結部材34が縮んでいる状態が示されており、前輪13が地面から力を受けフォーク部材33が上昇したときに、アッパーサイドアーム93、94及びロアサイドアーム95、96は、各々、車両長手方向に設けた上下の連結軸103、103、104、104及び中連結軸99、99を軸として、車幅方向に移動する。このとき、各連結軸は、軸方向が車両長手方向に配置されているので、車両長手方向への移動はない。このため、車両前部の部品配置に影響を与える心配はなくなるため、車両前部の部品配置の自由度を高めることができる。
【0054】
加えて、第1ロアサイドアーム95と第2ロアサイドアーム96とを構成要素とする連結部材34は、フォーク部材33が上昇したときに、上の連結軸103、103及び下の連結軸104、104及び中連結軸99、99を軸として回動し、X字状に交差した状態のまま屈曲する。このようにX字状に交差した状態で屈曲する連結部材34であれば、フォーク部材33が上昇したときに、車幅方向外側へ連結部材34の張出が抑えられる。車幅方向外側への張出が抑えられるので、前輪操舵装置90の小型化を図ることができる。
【0055】
図5に戻って、上下の揺動リンク97、98、101、102は、車幅方向に平行に軸支されている。詳細には、上の揺動リンク97、98は、上揺動軸105、105を介してステアリングブラケット30に揺動可能に取付けられ、下の揺動リンク101、102は、下揺動軸106、106を介してフォーク部材33に揺動可能に取付けられている。
前輪13が地面から力を受けたとき、フォーク部材33には、ステアリング軸方向の力だけでなくフォーク部材33を車両前後に揺動させる力がはたらく場合がある。
仮に、連結部材34の上端部及び下端部に揺動リンクを設けない場合には、ステアリング軸直角方向の変位を吸収することができない。
【0056】
この点、本発明では、連結部材34の上端部に、車幅方向に平行な軸を有する上側揺動リンク97、98を設け、連結部材34の下端部に、車幅方向に平行な軸を有する下側揺動リンク101、102を設けた。そうすると、フォーク部材33が前後に揺動した場合であっても、フォーク部材33に連結部材34が揺動可能になるので、転舵操作を円滑に行わせることができる。
【0057】
図9(a)において、実施例に係る前輪操舵装置の構成が示されている。前輪操舵装置90は縮んでいる状態にあり、この状態は、前輪ブレーキをかけたときや前輪13が地面から衝撃力を受けたとき等の状態である。
前輪操舵装置90は、連結部材34が高さ方向に縮まることで、フォーク部材33のストロークを吸収する。
【0058】
図9(b)において、比較例に係る前輪操舵装置の構成が示されている。
鞍乗り型車両の前輪操舵装置210に、車体フレーム201からリンクアーム202、203が延設され、これらのリンクアーム202、203に前輪204を軸支するフォーク部材205が揺動可能に支持されている。
【0059】
ステアリングハンドル211側とフォーク部材205側の間は離間され、ステアリングハンドル211側に設けたステアリングステム213とフォーク部材205とは、車両側面視で、車両前方に閉じているV字状を呈するリンク部材214で連結され、このリンク部材の下端部215がフォーク部材205の車幅方向中心に窄まった位置に連結されている。リンク部材214は、フォーク部材205の回転軸から離間し前方に延びているため、操舵機構の大型化を招く。
【0060】
図9(a)に戻って、この点、本発明では、前輪13が地面から力を受けフォーク部材33が上昇したときに、アッパーサイドアーム93及びロアサイドアーム95は、車両長手方向に設けた上下の連結軸103、104を軸として車両内側へ移動する。すなわち、アッパーサイドアーム93及びロアサイドアーム95は、車幅方向に移動し、車両長手方向への移動はない。このため、車両前部の部品配置に影響を与える心配はなくなるため、車両前部の部品配置の自由度を高めることができる。
【0061】
図2に戻って、連結部材34は、ステアリングブラケット30並びにフォーク部材33の転舵中心Cより車両前方に離間して配置されている。
連結部材34がステアリングブラケット30並びにフォーク部材33の転舵中心C又はその近傍に配置されている場合に較べると、転舵時に連結部材34に加わる荷重を低くすることができる。連結部材34にかかる荷重が低くなれば、連結部材34の肉厚等を減らすことができ、連結部材34を軽量にすることができる。
【実施例2】
【0062】
次に、本発明の実施例2を図面に基づいて説明する。
図10(a)に示されているように、前輪操舵装置90Bに、連結部材34Bが備えられ、この連結部材34Bは、ステアリングハンドル32側に連結される左右一対のアッパーサイドアーム93B、94Bと、これらのアッパーサイドアーム93B、94Bの下部に連結されると共に、フォーク部材33側に連結される左右一対のロアサイドアーム95B、96Bと、から構成されている。
【0063】
実施例1と大きく異なる点は、第1ロアサイドアーム95Bと第2ロアサイドアーム96Bとは、車両を前から見たときに、交差していない点にある。その他は、図5と大きく変わるところはなく説明を省略する。
【0064】
図10(b)に連結部材が縮んでいる状態が示されており、前輪13が地面から力を受けフォーク部材33が上昇したときに、アッパーサイドアーム93B、94B及びロアサイドアーム95B、96Bは、車両長手方向に設けた上下の連結軸103、103、104、104を軸として、車幅方向に移動し、車両長手方向への移動はない。このような構成であっても、車両前部の部品121の配置に影響を与える心配はなくなるため、車両前部の部品配置の自由度を高めることができる。
【0065】
尚、本発明は、実施の形態では自動二輪車に適用したが、いわゆる、鞍乗り型三輪車(三輪バギー)、鞍乗り型四輪車(四輪バギー)にも適用可能であり、一般の鞍乗り型車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、自動二輪車に好適である。
【符号の説明】
【0067】
10…鞍乗り型車両(自動二輪車)、11…車体フレーム、13…前輪、17…エンジン、30…ステアリングブラケット、31…ステアリングステム、32…ステアリングハンドル、33…フォーク部材、34…連結部材、61…リンクアーム、62…アッパリンクアーム、63…ロアリンクアーム、90…鞍乗り型車両の前輪操舵装置、93…左のアッパーサイドアーム、94…右のアッパーサイドアーム、95…左のロアサイドアーム(第1ロアサイドアーム)、96…右のロアサイドアーム(第2ロアサイドアーム)、97…上側揺動リンク、98…上側揺動リンク、101…下側揺動リンク、102…下側揺動リンク、103…連結軸、104…連結軸、108…ステアリング挿通孔、9…、111…ハンドル連結部、113…ステー部、114…ステー部、115…第1ロアサイドアームの後面、116…第2ロアサイドアームの前面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン及び/又は車体フレームから車両前方に延設されるリンクアームと、このリンクアームに揺動可能且つ転舵可能に支持され前輪を軸支するフォーク部材と、前記車体フレームの前部に回動可能に軸支されステアリングハンドルを取付けたステアリングステムと、このステアリングステムと前記フォーク部材との間を伸縮可能に連結する連結部材と、が備えられている鞍乗り型車両の前輪操舵装置において、
前記連結部材は、前記ステアリングハンドル側に連結される左右一対のアッパーサイドアームと、これらのアッパーサイドアームの下部に連結されると共に、前記フォーク部材側に連結される左右一対のロアサイドアームと、から構成され、
これらの左右一対のロアサイドアームの下端部は、車両長手方向軸に略平行な連結軸にて、前記フォーク部材に連結され、
これらの左右一対のアッパーサイドアームの上端部は、車両長手方向軸に略平行な連結軸にて、前記ステアリングステムに連結されていることを特徴とする鞍乗り型車両の前輪操舵装置。
【請求項2】
前記左右一対のロアサイドアームは、車幅方向の一側上方から車幅方向の他側下方へ延びている第1ロアサイドアームと、車幅方向の他側上方から車幅方向の一側下方へ延びている第2ロアサイドアームと、から構成され、
前記第1ロアサイドアームと前記第2ロアサイドアームとは、車両を前から見たときに、X字状に交差していることを特徴とする請求項1記載の鞍乗り型車両の前輪操舵装置。
【請求項3】
前記第1ロアサイドアームと前記第2ロアサイドアームのうちの車両前方側に配置される一方のサイドアームは、その後面が車両前方に凹ませるように形成され、
前記第1ロアサイドアームと前記第2ロアサイドアームのうちの車両後方側に配置される他方のサイドアームは、その前面が車両後方に凹ませるように形成され、
前記後面と前記前面との間が所定の隙間をもって、前記一方のサイドアームと前記他方のサイドアームとが配置されていることを特徴とする請求項2記載の鞍乗り型車両の前輪操舵装置。
【請求項4】
前記リンクアームは、アッパリンクアームと、このアッパリンクアームの下方に設けられているロアリンクアームと、から構成され、
前記ステアリングハンドルと前記左右一対のアッパーサイドアームの間に、車幅方向に平行に軸支される上側揺動リンクが設けられ、
前記フォーク部材と前記ロアサイドアームの間に、車幅方向に平行に軸支される下側揺動リンクが設けられていることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の鞍乗り型車両の前輪操舵装置。
【請求項5】
請求項4記載の鞍乗り型車両に、前記ステアリングステムによって回動自在に支持され、前記ステアリングハンドルが取付けられるステアリングブラケットが備えられ、
このステアリングブラケットは、車幅方向中央後部に設けられ前記ステアリングステムが通るステアリング挿通孔と、このステアリング挿通孔の左右外方に設けられ前記ステアリングハンドルを連結するハンドル連結部と、このハンドル連結部の前方に左右一対突出され前記上側揺動リンクを軸支するステー部と、が備えられていることを特徴とする鞍乗り型車両の前輪操舵装置。
【請求項6】
前記アッパーサイドアームとロアサイドアームとからなる連結部材は、前記ステアリングブラケット並びに前記フォーク部材の転舵中心より前方に配置されることを特徴とする請求項5記載の鞍乗り型車両の前輪操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−121435(P2011−121435A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279560(P2009−279560)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】