説明

鞍乗型車両のフロントフォーク

【課題】 フロントフォークの長さを短くして、車両をコンパクトにする。
【解決手段】 縦向きに延びて、その上端部が車体フレーム2側に支持され、下端部が前車輪6の車軸5を支持するフロントフォーク4を設ける。このフロントフォーク4は、縦向きに延びるダンパチューブ16と、ダンパチューブ16の下端部に取り付けられて車軸5を支持するアクスルブラケット17と、車体フレーム2側に支持され、ダンパチューブ16に軸方向に摺動可能に嵌入されて、このダンパチューブ16内の圧油室18,19を区画するピストン20と、圧油室19とこの圧油室19の外部の貯油室24との間における圧油の流動を規制して減衰力を発生させ、かつ、この減衰力の大きさを可変とする減衰力発生部30とを備える。減衰力発生部30をダンパチューブ16の外部でアクスルブラケット17に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰力の大きさを可変とする減衰力発生部を備えた鞍乗型車両のフロントフォークに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記フロントフォークには、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、自動二輪車において、上端部が車体フレームに支持され、下端部が前車輪の車軸を支持するフロントフォークを備えている。
【0003】
上記フロントフォークは、縦向きに延びて下端部側が上記車軸を支持するダンパチューブと、上記車体フレーム側にピストンロッドを介し支持され、上記ダンパチューブに軸方向に摺動可能に嵌入されて、このダンパチューブ内の圧油室を上、下圧油室に区画するピストンと、上記下圧油室とこの下圧油室の外部の貯油室との間で圧油を流動させ、かつ、この圧油の流動を規制して減衰力を発生させる減衰力発生部とを備えている。
【0004】
上記減衰力発生部は、その外殻を構成するケースと、このケースの内部油室に嵌入されてこの内部油室を、上記貯油室に連通する第1油室、および上記下圧油室に連通する第2油室に区画し、かつ、上記第1、第2油室とを互いに個別に連通させる第1、第2油路が形成された本体部と、この本体部に取り付けられ、上記第1油路の開度を調整可能とする低速減衰弁と、上記本体部に取り付けられ、上記下圧油室側の上記第2油室から上記貯油室側の第1油室に向かって上記第2油路を流動する圧油の圧力が所定値以上のとき、上記第2油路をその圧力に応じて開閉可能に開けると共に、上記所定値を調整可能とする高速減衰弁とを備えている。
【0005】
また、円筒形状の操作部材が、その軸心回りにのみ回動可能となるよう上記ケースの内部油室の開口に支持されている。上記操作部材に上記本体部が螺合されている。上記操作部材の捻回により、上記本体部が上記ケースに対し相対移動可能とされ、この相対移動により、上記圧力の所定値が調整可能とされている。
【0006】
そして、上記操作部材の捻回により、この本体部を上記ケースの内方に対し往移動させたとき、上記所定値が小さくなり、上記本体部を復移動させたとき、上記所定値が大きくなることとされている。
【0007】
車両の走行時に、走行面から前車輪と車軸とを介し上記緩衝器に衝撃力が与えられると、上記ダンパチューブとピストンとが相対移動して、上記緩衝器が収縮動作しようとする。すると、まず、上記ダンパチューブの下圧油室の圧油が上記第2油室に導入される。
【0008】
上記緩衝器の収縮動作の開始当初や、衝撃力が小さい場合には、この収縮動作は低速であるため、上記第2油室に達した圧油は、まず、上記第1油路と低速減衰弁とを通り、上記第1油室に流動させられ、ここから上記貯油室に流動させられる。そして、この圧油の流動は上記低速減衰弁により規制され、この規制により減衰力が発生して、上記収縮動作時の衝撃力が緩和される。
【0009】
また、上記緩衝器の収縮動作が進行するなどしてこの動作が高速になると、上記第2油室の圧油は、上記低速減衰弁を通る流動に加え、上記第2油路と高速減衰弁とを通り、上記第1油室に流動させられる。そして、この圧油の流動は上記高速減衰弁によって規制され、上記各規制により、より大きい減衰力が発生して、上記収縮動作時の衝撃力がより確実に緩和される。
【0010】
ここで、上記低速減衰弁への操作により第1油路の開度を調整し、また、上記操作部材の捻回により、上記高速減衰弁における上記圧力の所定値を調整すれば、減衰力の大きさが所望値に調整される。
【0011】
また、上記ケースは、上記ダンパチューブの下端部とアクスルブラケットとにより構成され、上記減衰力発生部の本体部、低速減衰弁、および高速減衰弁は、上記ダンパチューブ内の圧油室に設けられている。
【0012】
【特許文献1】特開平8−159202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記したように、減衰力発生部の本体部、低速減衰弁、および高速減衰弁は、上記ダンパチューブ内の圧油室に設けられている。つまり、上記フロントフォークにおけるダンパチューブと減衰力発生部とは縦方向で列設されている。このため、上記フロントフォークの長さが過大になりがちであり、よって、上記車両が大型になるおそれを生じる。
【0014】
また、上記減衰力発生部は、上記したケース、本体部、および低、高速減衰弁に加え、操作部材を備えている。このため、フロントフォークの部品点数が多くて、その構成が複雑であるという問題点がある。
【0015】
また、上記ケースに対する操作部材の螺合は、一般に右ねじにより螺合させられている。このため、上記操作部材を右回りに(もしくは左回りに)捻回させると、上記本体部が上記ケースの内方に対し往移動(もしくは復移動)して、上記所定値が小さく(もしくは大きく)され、つまり、減衰力が小さく(もしくは大きく)される。
【0016】
しかし、操作部材を右回りに(もしくは左回りに)捻回させた場合には、一般的な操作感覚として、大きい(もしくは小さい)減衰力が得られる、と考えられる。このため、所望の減衰力を得ようとする場合に、上記操作部材を誤って操作するおそれを生じる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、フロントフォークの長さを短くして、車両をコンパクトにすることである。
【0018】
また、本発明の他の目的は、上記フロントフォークを、より簡単な構成にし、また、所望の大きさの減衰力を得ようとするための上記フロントフォークへの操作に、誤りが生じないようにすることである。
【0019】
請求項1の発明は、縦向きに延びるダンパチューブ16と、このダンパチューブ16の下端部に取り付けられて前車輪6の車軸5を支持するアクスルブラケット17と、車体フレーム2側に支持され、上記ダンパチューブ16に軸方向に摺動可能に嵌入されて、このダンパチューブ16内の圧油室18,19を区画するピストン20と、上記圧油室19とこの圧油室19の外部の貯油室24との間における圧油の流動を規制して減衰力を発生させ、かつ、この減衰力の大きさを可変とする減衰力発生部30とを備えた鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記減衰力発生部30を上記ダンパチューブ16の外部で上記アクスルブラケット17に取り付けたものである。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて、上記減衰力発生部30が、その外殻を構成するケース31と、このケース31の内部油室33に嵌入されてこの内部油室33を、上記貯油室24に連通する第1油室38、および上記圧油室19に連通する第2油室39に区画し、かつ、上記第1油室38と第2油室39とを互いに個別に連通させる第1、第2油路43,44が形成された本体部40と、この本体部40に取り付けられ、上記第1油室38の開度を調整可能とする低速減衰弁48と、上記本体部40に取り付けられ、上記圧油室19から貯油室24に向かって上記第2油路44を流動する圧油の圧力が所定値以上のとき、上記第2油路44をその圧力に応じて開閉可能に開けると共に、上記所定値を調整可能とする高速減衰弁55とを備えた鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記ケース31に上記本体部40を螺合し、この本体部40をその捻回により上記ケース31に対し相対移動させることにより、上記所定値を調整可能としたものである。
【0021】
請求項3の発明は、請求項2の発明に加えて、上記本体部40の捻回により、この本体部40を上記ケース31の内方に対し往移動Cさせたとき、上記所定値が小さくなり、上記本体部40を復移動Dさせたとき、上記所定値が大きくなるようにした鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記ケース31に対し本体部40を左ねじ59により螺合させたものである。
【0022】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0023】
本発明による効果は、次の如くである。
【0024】
請求項1の発明は、縦向きに延びるダンパチューブと、このダンパチューブの下端部に取り付けられて前車輪の車軸を支持するアクスルブラケットと、車体フレーム側に支持され、上記ダンパチューブに軸方向に摺動可能に嵌入されて、このダンパチューブ内の圧油室を区画するピストンと、上記圧油室とこの圧油室の外部の貯油室との間における圧油の流動を規制して減衰力を発生させ、かつ、この減衰力の大きさを可変とする減衰力発生部とを備えた鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記減衰力発生部を上記ダンパチューブの外部で上記アクスルブラケットに取り付けている。
【0025】
このため、上記ダンパチューブと減衰力発生部とは互いに並設させることができる。よって、従来の技術のようにフロントフォークにおけるダンパチューブと減衰力発生部とを縦方向で列設したことに比べて、上記フロントフォークの長さを短くできる。この結果、上記車両をコンパクトにできる。
【0026】
請求項2の発明は、上記減衰力発生部が、その外殻を構成するケースと、このケースの内部油室に嵌入されてこの内部油室を、上記貯油室に連通する第1油室、および上記圧油室に連通する第2油室に区画し、かつ、上記第1油室と第2油室とを互いに個別に連通させる第1、第2油路が形成された本体部と、この本体部に取り付けられ、上記第1油室の開度を調整可能とする低速減衰弁と、上記本体部に取り付けられ、上記圧油室から貯油室に向かって上記第2油路を流動する圧油の圧力が所定値以上のとき、上記第2油路をその圧力に応じて開閉可能に開けると共に、上記所定値を調整可能とする高速減衰弁とを備えた鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記ケースに上記本体部を螺合し、この本体部をその捻回により上記ケースに対し相対移動させることにより、上記所定値を調整可能としている。
【0027】
つまり、上記減衰弁を設けた本体部は、従来の技術のような操作部材を設けることなく、上記ケースに直接に螺合させられており、上記本体部の捻回により、上記所定値が調整可能とされ、これにより、減衰力の大きさが可変とされている。
【0028】
このため、上記減衰力発生部は、上記ケース、本体部、および低、高速減衰弁を備えることで足り、従来の技術のように減衰弁における上記所定値の設定の調整のために別途の操作部材を設ける、ということは不要である。よって、フロントフォークの部品点数を少なくできて、その構成を簡単にできる。
【0029】
請求項3の発明は、上記本体部の捻回により、この本体部を上記ケースの内方に対し往移動させたとき、上記所定値が小さくなり、上記本体部を復移動させたとき、上記所定値が大きくなるようにした鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記ケースに対し本体部を左ねじにより螺合させている。
【0030】
このため、上記本体部を右回りに(もしくは左回りに)捻回させると、上記本体部がケースの内方に対し復移動(もしくは往移動)して、上記所定値が大きく(もしくは小さく)され、つまり、減衰力が大きく(もしくは小さく)される。
【0031】
よって、上記本体部を右回りに(もしくは左回りに)捻回させることにより、減衰力を大きく(もしくは小さく)でき、これは、一般的な操作感覚に合致する。この結果、所望の大きさの減衰力を得ようとするための上記フロントフォークへの操作に、誤りが生じるということは防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の鞍乗型車両のフロントフォークに関し、このフロントフォークの長さを短くして、車両をコンパクトにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0033】
即ち、縦向きに延びて、その上端部が車体フレーム側に支持され、下端部が前車輪の車軸を支持するフロントフォークが設けられる。このフロントフォークは、縦向きに延びるダンパチューブと、このダンパチューブの下端部に取り付けられて上記車軸を支持するアクスルブラケットと、上記車体フレーム側に支持され、上記ダンパチューブに軸方向に相対的に摺動可能に嵌入されて、このダンパチューブ内の圧油室を区画するピストンと、上記圧油室とこの圧油室の外部の貯油室との間における圧油の流動を規制して減衰力を発生させ、かつ、この減衰力の大きさを可変とする減衰力発生部とを備えている。上記減衰力発生部を上記ダンパチューブの外部で上記アクスルブラケットに取り付けている。
【実施例】
【0034】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0035】
図2,3において、符号1は、自動二輪車として例示された鞍乗型車両である。また、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。
【0036】
上記車両1は、車体フレーム2と、この車体フレーム2のヘッドパイプ3に操向可能に支持されるフロントフォーク4と、このフロントフォーク4に車軸5により支持される前車輪6と、上記フロントフォーク4に支持され、上記前車輪6をその上方から覆う樹脂製のフロントフェンダ7と、上記前車輪6を制動可能とするディスクブレーキ8とを備えている。上記車両1は、その前車輪6と不図示の後車輪とが走行面9に接地して、走行可能とされる。
【0037】
上記フロントフォーク4は、上記ヘッドパイプ3に嵌入されてこのヘッドパイプ3の軸心10回りに回動可能に支持される不図示の操向軸と、この操向軸の上、下端部に支持されるアッパ、ロアブラケット11,12と、上記軸心10と平行に縦向きに延びて上記アッパ、ロアブラケット11,12に跨って支持されると共に、上記車軸5を支持する左右一対の緩衝器13とを備えている。
【0038】
上記緩衝器13は、縦向きに延びるダンパチューブ16と、このダンパチューブ16の下端部に支持されて、上記車軸5を支持する鋳造製のアクスルブラケット17と、上記ダンパチューブ16内に軸方向に相対的に摺動可能となるよう嵌入されて上記ダンパチューブ16内の圧油室を上、下圧油室18,19に仕切るピストン20と、縦向きに延び、その上端部が車体フレーム2側である上記アッパ、ロアブラケット11,12に支持され、下端部に上記ピストン20が連結されるピストンロッド21とを備えている。
【0039】
また、上記緩衝器13は、上記ダンパチューブ16に外嵌され、上端部がこのダンパチューブ16の上端部と結合され、下端部が上記アクスルブラケット17を支持するアウタチューブ23を備えている。上記ダンパチューブ16とアウタチューブ23との間の下部に貯油室24が形成され、上部には、ガスが封入されたガス室25が形成されている。これら貯油室24とガス室25とは、上記各圧油室18,19の外部に位置している。
【0040】
また、上記緩衝器13は、上記ダンパチューブ16の上部とピストンロッド21とに外嵌されて、このピストンロッド21の上端部に結合されるカバーチューブ26と、このカバーチューブ26に内嵌され、上記ダンパチューブ16とカバーチューブ26とを互いに離反させるよう付勢するばね27とを備えている。上記緩衝器13は、上記ばね27に対抗しながら上記ダンパチューブ16とピストン20とが相対移動して収縮動作A可能とされている。一方、上記緩衝器13は、上記ばね27の付勢力により上記ダンパチューブ16とピストン20とが相対移動して伸長動作B可能とされている。
【0041】
上記緩衝器13は、上記ピストン20に設けられる減衰弁29を備えている。この減衰弁29は、上記ダンパチューブ16とピストン20とが相対移動して、上記緩衝器13が収縮動作Aしたり伸長動作Bしたりするとき、上記両圧油室18,19のうち、一方の圧油室から他方の圧油室に向けて上記ピストン20を貫通するよう圧油を流動させ、かつ、この圧油の流動を規制して、減衰力を発生する。
【0042】
また、上記緩衝器13は、その収縮動作A時や伸長動作B時に、上記下圧油室19と上記貯油室24との間で圧油が流動するとき、この圧油の流動を規制して減衰力を発生し、かつ、この減衰力の大きさを可変とする減衰力発生部30を備えている。この減衰力発生部30は、上記ダンパチューブ16よりも前方の外部で、このダンパチューブ16の近傍に配置され、上記アクスルブラケット17に取り付けられている。
【0043】
図1において、上記減衰力発生部30は、その外殻を構成して上記アクスルブラケット17を介しダンパチューブ16に支持されるケース31を備えている。このケース31は、上記ダンパチューブ16の外部で、上記アクスルブラケット17に鋳造により一体的に形成されるケース本体32を備えている。このケース本体32の内部油室33は縦向きに延び有底で、その上端部には、外部に向かって開く開口34が形成されている。この開口34には環形状のキャップ35が螺合により着脱可能に固着されている。
【0044】
上記減衰力発生部30は、上記ケース31の内部油室33に嵌脱可能に嵌入されてこの内部油室33を第1油室38と第2油室39とに区画する本体部40を備えている。上記アクスルブラケット17に形成された第1連通路41により、上記上圧油室18と貯油室24とが互いに連通し、上記アクスルブラケット17に形成された第2連通路42により、上記下圧油室19と第2油室39とが互いに連通させられている。上記本体部40には、上記第1油室38と第2油室39とを互いに個別に連通させる第1−第3油路43−45が形成されている。
【0045】
上記本体部40に取り付けられ、上記第1油路43の開度を調整可能とする低速減衰弁48が設けられている。上記本体部40の一部分49は、上記キャップ35の内孔を貫通してケース31の外部に露出している。上記低速減衰弁48は、上記本体部40の一部分49に右ねじ50により螺合されるニードル弁51を備え、このニードル弁51の捻回用の操作部52は、上記ケース31の上方の外部に向かい露出している。
【0046】
上記本体部40に取り付けられる高速減衰弁55が設けられている。この高速減衰弁55は、上記第2油室39から第1油室38に向かって上記第2油路44を流動する圧油の圧力が所定値以上のとき、その圧力に応じた開度となるよう上記第2油路44を開閉可能に開け、圧油の流動を規制すると共に、上記所定値を大きくしたり、小さくしたり調整可能とするものである。上記高速減衰弁55は、圧油が上記第2油路44を第2油室39から第1油室38に向かってのみ流動することを許容するリーフバルブ56と、上記ケース31のキャップ35と上記リーフバルブ56との間に介設されて、上記第2油路44を閉じるよう上記リーフバルブ56を弾性的に付勢するばね57とを備えている。
【0047】
上記ケース31のキャップ35の内周面に上記本体部40が左ねじ59により螺合されている。上記本体部40の捻回用の操作部60は、上記本体部40の一部分49に形成されて上記ケース31の上方の外部に向かい露出している。上記右ねじ50、左ねじ59、および各操作部52,60は、同一の軸心61上に位置している。
【0048】
上記本体部40をその左回りの捻回により上記ケース31に対し相対移動させ、上記本体部40を上記ケース31の内方に対し往移動Cさせたとき、上記リーフバルブ56に対するばね57の付勢力が小さくなって、上記所定値が小さくされる。一方、上記本体部40をその右回りの捻回により復移動Dさせたとき、上記ばね57の付勢力が大きくなって、上記所定値が大きくされる。つまり、上記ケース31への本体部40の相対移動により、上記ばね57の付勢力を変化させることにより、上記所定値が調整可能とされている。
【0049】
上記本体部40に取り付けられる他の減衰弁63が設けられている。この他の減衰弁63は、上記第1油室38から第2油室39に向かって上記第3油路45を流動する圧油の圧力が所定値以上のとき、その圧力に応じた開度となるよう上記第3油路45を開閉可能に開け、圧油の流動を規制するものである。上記他の減衰弁63は、圧油が上記第3油路45を第1油室38から第2油室39に向かってのみ流動することを許容するリーフバルブ64と、上記第3油路45を閉じるよう上記リーフバルブ64を弾性的に付勢するばね65とを備えている。
【0050】
上記キャップ35、本体部40、低速減衰弁48、高速減衰弁55、および他の減衰弁63は、これらが一体的に上記ケース本体32の内部油室33に嵌脱可能に嵌入されて、上記ケース本体32に固着されている。
【0051】
車両1の走行時に、走行面9から前車輪6と車軸5とを介し上記緩衝器13に衝撃力が与えられると、上記ばね27に対抗して上記ダンパチューブ16とピストン20とが相対移動し、上記緩衝器13が収縮動作Aしようとする。すると、上記ダンパチューブ16の下圧油室19の圧油が上記第2連通路42を通り上記減衰力発生部30の第2油室39に導入される。
【0052】
上記緩衝器13の収縮動作Aの開始当初や、衝撃力が小さい場合には、この収縮動作Aは低速であるため、上記第2油室39に達した圧油は、まず、上記第1油路43と低速減衰弁48とを通り、上記第1油室38に流動させられ、ここから上記第1連通路41を通り上記貯油室24に流動させられる(矢印E)。そして、この圧油の流動は上記低速減衰弁48により規制され、この規制により減衰力が発生して、上記収縮動作A時の衝撃力が緩和される。
【0053】
また、上記緩衝器13の収縮動作Aが進行するなどしてこの動作が高速になると、上記第2油室39の圧油は、上記低速減衰弁48を通る流動に加え、上記第2油路44と高速減衰弁55とを通り、上記第1油室38に流動させられる(矢印F)。そして、この圧油の流動は上記高速減衰弁55によって規制され、上記各規制により、より大きい減衰力が発生して、上記収縮動作A時の衝撃力がより確実に緩和される。
【0054】
ここで、上記低速減衰弁48のニードル弁51への操作により第1油路43の開度を調整し、この開度を大きくしたり、小さくしたり調整すれば、減衰力の大きさを、図4中一点鎖線から二点鎖線を経て実線で示すように小さくしたり、大きくしたり調整できる。
【0055】
図4で示すように、緩衝器13の収縮動作A時の減衰力は、動作速度が速くなるに従って増加するが、この減衰力の増加の傾きは、上記低速減衰弁48の調整量を変化させても、ほぼ同じである。
【0056】
また、上記高速減衰弁55につき、上記本体部40を捻回することにより、上記第2油路44を開くときの圧油の圧力の所定値を大きくしたり、小さくしたり調整すれば、減衰力の大きさを、図5中実線から二点鎖線を経て一点鎖線で示すように大きくしたり、小さくしたり調整できる。
【0057】
図5で示すように、緩衝器13の収縮動作A時の減衰力は、動作速度が速くなるに従って増加するが、この減衰力の増加の傾きは、上記高速減衰弁55における上記所定値をより大きくするに従い、より大きくなる。
【0058】
一方、上記衝撃力により緩衝器13が伸長動作Bする場合には、上記ダンパチューブ16内の下圧油室19は負圧になるため、まず、上記貯油室24の油が上記第1連通路41を通り第1油室38に流入し、ここから上記第3油路45と他の減衰弁63とを通り第2油室39に流動させられ、更に、ここから上記第2連通路42を通り上記下圧油室19に流動させられる(図G)。そして、この油の流動は上記他の減衰弁63により規制され、この規制により減衰力が発生して、上記伸長動作B時の衝撃力が緩和される(図4,5中実線)。
【0059】
上記構成によれば、減衰力発生部30を上記ダンパチューブ16の外部で上記アクスルブラケット17に取り付けている。
【0060】
このため、上記ダンパチューブ16と減衰力発生部30とは互いに並設させることができる。よって、従来の技術のようにフロントフォーク4の緩衝器13におけるダンパチューブ16と減衰力発生部30とを縦方向で列設したことに比べて、上記フロントフォーク4の長さを短くできる。この結果、上記車両1をコンパクトにできる。
【0061】
また、前記したように、ケース31に上記本体部40を螺合し、この本体部40をその捻回により上記ケース31に対し相対移動させることにより、上記所定値を調整可能としている。
【0062】
つまり、上記低、高速減衰弁48,55を設けた本体部40は、従来の技術のような操作部材を設けることなく、上記ケース31に直接に螺合させられており、上記本体部40の捻回により、上記所定値が調整可能とされ、これにより、減衰力の大きさが可変とされている。
【0063】
このため、上記緩衝器13における減衰力発生部30は、上記ケース31、本体部40、低速減衰弁48、および高速減衰弁55を備えることで足り、従来の技術のように高速減衰弁55における所定値の設定の調整のために別途の操作部材を設ける、ということは不要である。よって、フロントフォーク4の緩衝器13の部品点数を少なくできて、その構成を簡単にできる。
【0064】
また、前記したように、本体部40の捻回により、この本体部40を上記ケース31の内方に対し往移動Cさせたとき、上記所定値が小さくなり、上記本体部40を復移動Dさせたとき、上記所定値が大きくなるようにした緩衝器において、上記ケース31に対し本体部40を左ねじ59により螺合させている。
【0065】
このため、上記本体部40を右回りに(もしくは左回りに)捻回させると、上記本体部40がケース31の内方に対し復移動D(もしくは往移動C)して、上記所定値が大きく(もしくは小さく)され、つまり、減衰力が大きく(もしくは小さく)される。
【0066】
よって、上記本体部40を右回りに(もしくは左回りに)捻回させることにより、減衰力を大きく(もしくは小さく)でき、これは、一般的な操作感覚に合致する。この結果、所望の大きさの減衰力を得ようとするための上記フロントフォーク4の緩衝器13への操作に、誤りが生じるということは防止される。
【0067】
また、上記減衰力発生部30は、上記ダンパチューブ16よりも前方の近傍に配置され、かつ、上記低速減衰弁48の操作部52と、本体部40を捻回させるための高速減衰弁55の操作部60とは、上記ケース31の上方の外部に向けて露出させられている。
【0068】
このため、上記各操作部52,60への操作は、車両1の前方の広い空間を作業空間として上記ダンパチューブ16に邪魔されることなく容易にできる。つまり、フロントフォーク4の緩衝器13における減衰力の大きさの調整作業は容易にできる。
【0069】
なお、以上は図示の例によるが、上記フロントフォーク4は、自動三輪車などの鞍乗型車両に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図3の部分拡大断面図である。
【図2】車両の前部側面図である。
【図3】図2の部分拡大断面図である。
【図4】低速減衰弁を調整したときの減衰力特性図である。
【図5】高速減衰弁を調整したときの減衰力特性図である。
【符号の説明】
【0071】
1 車両
2 車体フレーム
4 フロントフォーク
5 車軸
6 前車輪
13 緩衝器
16 ダンパチューブ
17 アクスルブラケット
18 圧油室
19 圧油室
20 ピストン
21 ピストンロッド
23 アウタチューブ
24 貯油室
25 ガス室
30 減衰力発生部
31 ケース
32 ケース本体
33 内部油室
34 開口
35 キャップ
38 第1油室
39 第2油室
40 本体部
43 第1油路
44 第2油路
48 低速減衰弁
49 一部分
51 ニードル弁
52 操作部
55 高速減衰弁
59 左ねじ
60 操作部
61 軸心
A 収縮動作
B 伸長動作
C 往移動
D 復移動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦向きに延びるダンパチューブと、このダンパチューブの下端部に取り付けられて前車輪の車軸を支持するアクスルブラケットと、車体フレーム側に支持され、上記ダンパチューブに軸方向に摺動可能に嵌入されて、このダンパチューブ内の圧油室を区画するピストンと、上記圧油室とこの圧油室の外部の貯油室との間における圧油の流動を規制して減衰力を発生させ、かつ、この減衰力の大きさを可変とする減衰力発生部とを備えた鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記減衰力発生部を上記ダンパチューブの外部で上記アクスルブラケットに取り付けたことを特徴とする鞍乗型車両のフロントフォーク。
【請求項2】
上記減衰力発生部が、その外殻を構成するケースと、このケースの内部油室に嵌入されてこの内部油室を、上記貯油室に連通する第1油室、および上記圧油室に連通する第2油室に区画し、かつ、上記第1油室と第2油室とを互いに個別に連通させる第1、第2油路が形成された本体部と、この本体部に取り付けられ、上記第1油室の開度を調整可能とする低速減衰弁と、上記本体部に取り付けられ、上記圧油室から貯油室に向かって上記第2油路を流動する圧油の圧力が所定値以上のとき、上記第2油路をその圧力に応じて開閉可能に開けると共に、上記所定値を調整可能とする高速減衰弁とを備えた鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記ケースに上記本体部を螺合し、この本体部をその捻回により上記ケースに対し相対移動させることにより、上記所定値を調整可能としたことを特徴とする請求項1に記載の鞍乗型車両のフロントフォーク。
【請求項3】
上記本体部の捻回により、この本体部を上記ケースの内方に対し往移動させたとき、上記所定値が小さくなり、上記本体部を復移動させたとき、上記所定値が大きくなるようにした鞍乗型車両のフロントフォークにおいて、
上記ケースに対し本体部を左ねじにより螺合させたことを特徴とする請求項2に記載の鞍乗型車両のフロントフォーク。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−9993(P2007−9993A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−189882(P2005−189882)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000201766)ヤマハモーターパワープロダクツ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】