説明

音声再生装置

【課題】 複数の音声のいずれか1つを選択して視聴可能な複数の音声を出力すること。
【解決手段】 カーオーディオ装置1は、第1の音声信号と逆位相の第1逆音声信号を生成する第1逆位相生成部13と、第2の音声信号と逆位相の第2逆音声信号を生成する第2逆位相生成部23と、第1の音声信号および第2の逆音声信号をミキシングした第1ミキシング信号を出力する第1ミキサ16と、第2の音声信号および第1の逆音声信号をミキシングした第2ミキシング信号を出力する第2ミキサ26と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声再生装置に関し、複数の音声を同時に再生する音声再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両にカーオーディオなどの音声再生装置が装着されることが多い。車両は、複数人が搭乗可能であり、複数人それぞれが異なる音声を聞くことを望む場合がある。例えば、前部座席の搭乗者がラジオを聞き、後部座席の搭乗者がDVDを再生した映像と音声とを視聴する場合などである。この場合、車両に搭載されているスピーカからは、ラジオの音声と、DVDを再生した音声とが出力される。このため、2つの異なる音声が混ざってしまい、聞きづらいといった問題がある。また、車両の前部と後部とにそれぞれスピーカが設置されている場合には、前部のスピーカからラジオの音声を出力し、後部のスピーカからDVDを再生した音声を出力することができるが、この場合にあっても、前部のスピーカから出力されるラジオの音声は、後部座席の搭乗者に聞こえてしまい、後部のスピーカから出力されるDVDを再生した音声は、前部座席の搭乗者に聞こえてしまう。このため、1台の車両内で複数の音声を再生すると、複数の音声それぞれを良好に聞くことができないといった問題があった。
【0003】
特開平5−19775号公報には、エンジンなどの騒音に対し逆位相の関係にある二次音を機械振動の周波数及び車室等の空間音響伝達関数から求め、この二次音を車室内に放射することで、騒音を相殺する騒音低減装置が記載されている。
【0004】
しかしながら、特開平5−19775号公報に記載の騒音低減装置は、1種類の音を低減することができるが、複数種類の音それぞれを複数の場所で低減することができないといった問題がある。
【特許文献1】特開平5−19775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上述した問題点を解決するためになされたもので、この発明の目的の1つは、複数の音声のいずれか1つを選択して視聴可能な複数の音声を出力することが可能な音声再生装置を提供することである。
【0006】
この発明の他の目的は、所定の位置でのみ聞こえる音声を出力することが可能な音声再生方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するためにこの発明のある局面によれば、音声再生装置は、第1の音声信号と逆位相の第1逆音声信号を生成する第1逆音声生成手段と、第2の音声信号と逆位相の第2逆音声信号を生成する第2逆音声生成手段と、第1の音声信号および第2の逆音声信号をミキシングした第1ミキシング信号を出力する第1ミキシング手段と、第2の音声信号および第1の逆音声信号をミキシングした第2ミキシング信号を出力する第2ミキシング手段と、を備える。
【0008】
この局面に従えば、第1の音声信号および第2の逆音声信号をミキシングした第1ミキシング信号を出力するとともに、第2の音声信号および第1の逆音声信号をミキシングした第2ミキシング信号を出力するので、第1の音声信号が第1の逆音声信号で減衰される位置においては、第1の音声信号が聞こえなくなり、第2の音声信号が第2の逆音声信号により減衰される位置においては、第2の音声信号が聞こえなくなる。このため、異なる複数の音声を出力した場合であっても、複数の音声のいずれか1つを聞くことができる。その結果、複数の音声のいずれか1つを選択して視聴可能な複数の音声を出力することが可能な音声再生装置を提供することができる。
【0009】
好ましくは、第1逆音声信号を遅延させる第1遅延手段と、第2逆音声信号を遅延させる第2遅延手段と、をさらに備える。
【0010】
この局面によれば、第1逆音声信号を遅延させるので、第1の音声信号と第1の逆音声信号それぞれの伝達距離が違う場合であっても、第1の音声信号を第1逆音声信号で減衰することができる。また、第2逆音声信号を遅延させるので、第2の音声信号と第2の逆音声信号それぞれの伝達距離が違う場合であっても、第2の音声信号を第2逆音声信号で減衰することができる。
【0011】
好ましくは、第1遅延手段は、第1ミキシング信号を出力する第1スピーカと第1の視聴位置までの距離と、第2ミキシング信号を出力する第2スピーカと第1の視聴位置までの距離と、に基づいて第1遅延時間を決定し、第1遅延手段は、第1スピーカと第2の視聴位置までの距離と、第2スピーカと第2の視聴位置までの距離と、に基づいて第2遅延時間を決定する。
【0012】
この局面に従えば、第1スピーカと第1の視聴位置までの距離と、第2スピーカと第1の視聴位置までの距離と、に基づいて第1遅延時間が決定され、第1スピーカと第2の視聴位置までの距離と、第2スピーカと第2の視聴位置までの距離と、に基づいて第2遅延時間が決定される。このため、第1の音声信号を第1逆音声信号で減衰することができ、第2の音声信号を第2逆音声信号で減衰することができる。
【0013】
好ましくは、移動速度を検出する速度検出手段をさらに備え、第1遅延手段は、検出された移動速度に応じて第1遅延時間を補正する第1補正手段を含み、第2遅延手段は、検出された移動速度に応じて遅延時間を補正する第2補正手段を含む。
【0014】
この局面に従えば、移動速度に応じて第1遅延時間が補正され、移動速度に応じて第2遅延時間が補正される。このため、移動体に搭載される場合であっても、第1の音声信号を第1逆音声信号で減衰することができ、第2の音声信号を第2逆音声信号で減衰することができる。
【0015】
好ましくは、第1ミキシング手段は、第2逆音声信号の音量を変化させる第1音量制御段を含み、第2ミキシング手段は、第1逆音声信号の音量を変化させる第2音量制御手段を含む。
【0016】
この局面に従えば、第2逆音声信号の音量が制御されるので、第2の音声信号を第2逆音声信号で減衰するとともに、第1の音声信号を聞く聴者に第2の逆音声信号を聞こえにくくすることができる。また、第1逆音声信号の音量が制御されるので、第1の音声信号を第1逆音声信号で減衰するとともに、第2の音声信号を聞く聴者に第1の逆音声信号を聞こえにくくすることができる。
【0017】
この発明の他の局面によれば、音声再生装置は、音声信号を発生する音声信号発生手段と、音声信号発生手段で発生した音声信号を出力する第1出力手段と、音声信号と逆位相の逆音声信号を生成する逆音声生成手段と、生成された逆音声信号を出力する第2音声出力手段と、を備える。
【0018】
この局面に従えば、発声された音声信号が出力されるとともに、その音声信号と逆位相の音声信号が出力されるので、音声信号が減衰される位置と、減衰されない位置とが発生する。このため、音声信号が逆音声信号で減衰される位置においては、音声信号が聞こえなくなる。このため、音声を聞くことのできる位置と聞くことのできない位置とが発生する。その結果、所定の位置でのみ聞こえる音声を出力することが可能な音声再生装置を提供することができる。
【0019】
好ましくは、音声信号発生手段により発生された音声信号を遅延させて、第1出力手段に入力する遅延手段を、さらに備える。
【0020】
この局面に従えば、逆音声信号を生成する時間だけ音声信号を遅延して出力することができるので、音声信号を効率的に減衰することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。以下の説明では同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0022】
以下の説明では、音声再生装置の一例としてカーオーディオ装置を説明するが、複数種類の音声を同時に再生可能な装置であれば、カーオーディオ装置に限定されず、例えば、移動体でなく土地や建物に固定して設置されるオーディオ機器であってもよい。
【0023】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の実施の形態の1つにおけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。図1を参照して、カーオーディオ装置1は、ナビゲーションI/F(インターフェース)2と、カードI/F3と、ハードディスクドライブ(HDD)4と、DVD(Digital Versatile Disk)ドライブ5と、複数の圧縮音声信号のうちから1つを選択する第1および第2セレクタ11,21と、圧縮音声信号を復号する第1および第2デコーダ12,22と、入力される音声信号と逆位相の音声信号を生成する第1および第2逆位相生成部13,23と、デジタルの音声信号をアナログに変換する第1〜第4D/A変換部14,15,24,25と、2種類のアナログの音声信号をミキシングするための第1および第2ミキサ16,26と、前部スピーカ17と、後部スピーカ27と、を含む。
【0024】
ナビゲーションI/F2は、ナビゲーション装置と接続するためのインターフェースであり、ナビゲーション装置から出力される音声信号が入力され、入力される音声信号を第1セレクタ11および第2セレクタ21に出力する。ナビゲーション装置から出力される音声信号は、例えば、ナビゲートするためのテキストを音声合成して生成される音声信号である。
【0025】
カードI/F3は、メモリカードが着脱可能であり、装着されたメモリカードにアクセスして、メモリカードに記憶されている圧縮音声信号を読み出し、読み出した圧縮音声信号を第1セレクタ11および第2セレクタ21に出力する。HDD4は、大容量記憶装置としてのハードディスク(HD)にアクセスし、HDに記憶された圧縮音声信号を読み出し、読み出した圧縮音声信号を第1セレクタ11および第2セレクタ21に出力する。DVDドライブ5は、DVDに記録された圧縮音声信号を読み出し、読み出した圧縮音声信号を第1セレクタ11および第2セレクタ21に出力する。
【0026】
第1セレクタ11は、ナビゲーションI/F2、カードI/F3、HDD4およびDVDドライブ5がそれぞれ出力する複数の圧縮音声信号のうちから1つを選択し、第1デコーダ12に出力する。第1セレクタ11が、複数の圧縮音声信号のいずれを選択するかは、ユーザが操作部に入力する操作に従う。ここでは、第1セレクタ11は、前部座席に設けられた前操作部にユーザが入力する操作に従って、複数の圧縮音声信号のうちから1つを選択する。
【0027】
第1デコーダ12は、第1セレクタ11から入力される圧縮音声信号を復号し、復号して得られるデジタルの音声信号を第1逆位相生成部13および第1D/A変換部14に出力する。
【0028】
第1逆位相生成部13は、第1デコーダ12から入力されるデジタルの音声信号に基づいて、その音声信号と逆位相の音声信号を生成し、生成した逆位相の音声信号を第2D/A変換部15に出力する。
【0029】
第1D/A変換部14は、第1デコーダ12から入力されるデジタルの音声信号を、アナログの音声信号に変換し、アナログの音声信号を第1ミキサ16に出力する。第2D/A変換部15は、第1逆位相生成部13から入力される逆位相のデジタルの音声信号を、アナログの音声信号に変換し、アナログの音声信号を第2ミキサ26に出力する。
【0030】
第2セレクタ21は、ナビゲーションI/F2、カードI/F3、HDD4およびDVDドライブ5がそれぞれ出力する複数の圧縮音声信号のうちから1つを選択し、第2デコーダ22に出力する。第2セレクタ21が、複数の圧縮音声信号のいずれを選択するかは、ユーザが操作部に入力する操作に従う。ここでは、第2セレクタ21は、後部座席に設けられた後操作部にユーザが入力する操作に従って、複数の圧縮音声信号のうちから1つを選択する。
【0031】
第2デコーダ22は、第2セレクタ21から入力される圧縮音声信号を復号し、復号して得られるデジタルの音声信号を第2逆位相生成部23および第3D/A変換部24に出力する。
【0032】
第2逆位相生成部23は、第2デコーダ22から入力されるデジタルの音声信号に基づいて、その音声信号と逆位相の音声信号を生成し、生成した逆位相の音声信号を第4D/A変換部25に出力する。
【0033】
第3D/A変換部24は、第2デコーダ22から入力されるデジタルの音声信号を、アナログの音声信号に変換し、アナログの音声信号を第2ミキサ26に出力する。第4D/A変換部25は、第2逆位相生成部23から入力される逆位相のデジタルの音声信号を、アナログの音声信号に変換し、アナログの音声信号を第1ミキサ16に出力する。
【0034】
第1ミキサ16は、2つの音声信号それぞれを増幅し、ミキシングする。第2ミキサ26は、2つの音声それぞれを増幅し、2つの音声信号をミキシングする。第1ミキサ16は、第1音量制御部16Aを含む。第1音量制御部16Aは、第2ミキサ26が第3D/A変換部24から入力されるアナログの音声信号を増幅した後の振幅を第2ミキサ26から取得し、取得した振幅に基づいて、第4D/A変換部25から入力される逆位相のアナログの音声信号を増幅する際の利得を制御する。換言すれば、第1音量制御部16Aは、第4D/A変換部25から入力される逆位相のアナログの音声信号を出力する音量を、第2セレクタ21により選択された音声信号が出力される音量に基づいて、制御する。第1ミキサ16は、第1D/A変換部14から入力されるアナログの音声信号と、第1音量制御部16Aが出力する逆位相のアナログの音声信号とをミキシングし、ミキシングした音声信号(ミキシング信号)を前部スピーカ17に出力する。前部スピーカ17は、第1ミキサ16から入力される音声信号を出力する。
【0035】
第2ミキサ26は、第2音量制御部26Aを含む。第2音量制御部26Aは、第1ミキサ16が第1D/A変換部14から入力されるアナログの音声信号を増幅した後の振幅を第1ミキサ16から取得し、取得した振幅に基づいて、第2D/A変換部15から入力される逆位相のアナログの音声信号を増幅する際の利得を制御する。換言すれば、第2音量制御部26Aは、第2D/A変換部15から入力される逆位相のアナログの音声信号を出力する音量を、第1セレクタ11により選択された音声信号が出力される音量に基づいて、制御する。第2ミキサ26は、第3D/A変換部24から入力されるアナログの音声信号と、第2音量制御部26Aが出力する逆位相のアナログの音声信号とをミキシングし、ミキシングした音声信号(ミキシング信号)を後部スピーカ27に出力する。後部スピーカ27は、第2ミキサ26から入力される音声信号を出力する。
【0036】
例えば、第1セレクタ11により、ナビゲーションI/F2が選択され、第2セレクタ21によりDVDドライブ5が選択された場合について説明する。前部スピーカ17からナビゲーションI/F2から入力される音声信号と、DVDドライブ5から入力される音声信号に対して逆位相の音声信号とが出力される。一方、後部スピーカ27からナビゲーションI/F2から入力される音声信号に対して逆位相の音声信号と、DVDドライブ5から入力される音声信号とが出力される。この状態において、後部座席のユーザが聞く音について図2を用いて説明する。
【0037】
図2は、音を減衰させる原理を説明する図である。図2を参照して、後部座席のユーザの耳の位置を視聴位置Lとし、視聴位置Lと前部スピーカ17との間の距離をD1、視聴位置Lと後部スピーカ27との間の距離をD2とする。この距離D1と距離D2とは、前部スピーカ17から出力される音声と、後部スピーカ27から出力される逆位相の音声とが打ち消し合う位置である。このため、後部座席のユーザは、前部スピーカ17から出力される音声が、後部スピーカ27から出力される逆位相の音声により減衰されるので、前部スピーカ17から出力されるナビゲートのための音声を視聴することがない。一方、視聴位置Lにおいて、後部スピーカ27から出力される音声は、前部スピーカ17から出力される逆位相の音声と打ち消し合わない位置なので、後部座席のユーザは、後部スピーカ27から出力されるDVDを再生した音声を視聴することができる。ただし、前部スピーカ17から出力されるDVDを再生した音声と逆位相の音声も視聴される。このため、第1音量制御部16Aにおいては、後部座席のユーザに聞こえない程度の振幅に変換するのが好ましい。
【0038】
ここでは、後部座席のユーザが聞く音について説明したが、前部座席のユーザが聞く音についても同様である。すなわち、前部座席のユーザは、後部スピーカ27から出力される音声が、前部スピーカ17から出力される逆位相の音声により減衰されるので、後部スピーカ27から出力されるDVDを再生した音声を視聴することがない。一方、前部座席のユーザは、前部スピーカ17から出力されるナビゲートのための音声を視聴することができる。ただし、後部スピーカ27から出力されるナビゲートのための音声と逆位相の音声も視聴される。このため、第2音量制御部26Aにおいては、前部座席のユーザに聞こえない程度の振幅に変換するのが好ましい。
【0039】
<第1の変形例>
図3は、第1の変形例におけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。図3を参照して、図1に示した機能ブロック図と異なる点は、第2D/A変換部15と第2ミキサ26との間に第1遅延部18が追加された点、および第4D/A変換部25と第1ミキサ16との間に第2遅延部28が追加された点である。その他の構成は図3に示した構成と同じなのでここでは説明を繰り返さない。
【0040】
第1遅延部18は、第2D/A変換部15から逆位相のアナログの音声信号が入力される。第1遅延部18は、アナログの音声信号を遅延させ、遅延させた音声信号を第2ミキサ26に出力する。第1遅延部18が音声信号を遅延させる遅延量は、後操作部に設けられたボリュームによって定められる。
【0041】
第2遅延部28は、第4D/A変換部25から逆位相のアナログの音声信号が入力される。第2遅延部28は、アナログの音声信号を遅延させ、遅延させた音声信号を第1ミキサ16に出力する。第2遅延部28が音声信号を遅延させる遅延量は、前操作部に設けられたボリュームによって定められる。
【0042】
ここで図2を参照して、ユーザの耳の視聴位置Lと前部スピーカ17との間の距離はD1(m)、視聴位置Lと後部スピーカ27との間の距離はD2(m)である。音速をV(m/s)とすれば、前部スピーカ17から発せられた音が視聴位置Lに到達するまでの時間はD1/V(s)であり、後部スピーカ27から発せられた音が視聴位置Lに到達するまでの時間はD2/V(s)である。したがって、遅延量は、(D1−D2)/V(s)となる。
【0043】
前部座席に登場するユーザの耳の位置を視聴位置LLとし、視聴位置LLと前部スピーカ17との間の距離をDD1(m)、視聴位置LLと後部スピーカ27との間の距離をDD2(m)とすれば、前部スピーカ17から発せられた音が視聴位置LLに到達するまでの時間はDD1/V(s)であり、後部スピーカ27から発せられた音が視聴位置LLに到達するまでの時間はDD2/V(s)である。したがって、遅延量は、(DD2−DD1)/V(s)となる。
【0044】
ここでは、遅延量を、前部座席および後部座席にそれぞれ備えられた前部操作部および後部操作部がそれぞれ有するボリュームで調整するようにしたが、前部座席に搭乗するユーザの耳の視聴位置LLと前部スピーカ17および後部スピーカ27それぞれまでの距離DD1,DD2と、後部座席に搭乗するユーザの耳の視聴位置Lと前部スピーカ17および後部スピーカ27それぞれまでの距離D1,D2と、を予め入力しておくようにしてもよい。さらに、ユーザの耳の位置は、前部座席または後部座席それぞれに搭乗するユーザの耳の位置が予め分かっている場合は、遅延量を予め定めておくようにしてもよい。
【0045】
第1の変形例におけるカーオーディオ装置1は、逆位相の音声信号を遅延させるので、後部スピーカ27から出力される音声を、前部スピーカ17から出力される逆位相の音声で正確に減衰することができ、前部スピーカ17から出力される音声を、後部スピーカ27から出力される逆位相の音声で正確に減衰することができる。このため、音声信号が伝達する距離と逆位相の音声信号が伝達する距離とが異なる場合であっても、音声信号を逆位相の音声信号で減衰することができる。
【0046】
<第2の変形例>
第2の変形例におけるカーオーディオ装置1は、車両の速度に応じて遅延量を変化させるようにしたものである。車内の空気が車両の移動に伴って移動するオープンカー等に適用可能である。図4は、第2の変形例におけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。図4を参照して、図3に示した機能ブロック図と異なる点は、速度検出部31が追加された点、および第1遅延部18Aおよび第2遅延部28Aが変更された点である。その他の構成は図3に示した構成と同じなのでここでは説明を繰り返さない。
【0047】
速度検出部31は、車両の速度を検出し、検出した速度を第1遅延部18および第2遅延部28に出力する。第1遅延部18Aは、第1補正部33を含み、第2遅延部28Aは第2補正部35を含む。
【0048】
第1遅延部18Aが有する第1補正部33は、速度検出部31から入力される速度に応じて第1遅延調整量を算出し、算出した第1遅延量調整量を先に求めた遅延量に加算することにより、遅延量を補正する。第1遅延部18Aは、第2D/A変換部15から入力される逆位相の音声信号を、補正された遅延量だけ遅延させ、遅延させた音声信号を第2ミキサ26に出力する。
【0049】
第2遅延部28Aが有する第2補正部35は、速度検出部31から入力される速度に応じて第2遅延調整量を算出し、算出した第2遅延量調整量を先に求めた遅延量に加算することにより、遅延量を補正する。第2遅延部28Aは、第4D/A変換部25から入力される逆位相の音声信号を、補正された遅延量だけ遅延させ、遅延させた音声信号を第1ミキサ16に出力する。
【0050】
ここで、図2をさらに参照して、音速をV(m/s)、車両の速度をv(m/s)とすると、前部スピーカ17から出力される音の視聴位置Lにおける相対速度は、(V+v)(m/s)であり、後部スピーカ27から出力される音の視聴位置Lにおける相対速度は、(Vcosα−v)(m/s)である。ただし、αは、視聴位置Lと前部スピーカ17とを結ぶ線分と、進行方向とのなす角である。前部スピーカ17から発せられた音が視聴位置Lに到達するまでの時間はD1/(Vcosα+v)(s)であり、後部スピーカ27から発せられた音が視聴位置Lに到達するまでの時間はD2/(Vcosβ−v)(s)である。なお、βは、視聴位置Lと後部スピーカ27とを結ぶ線分と、進行方向とのなす角である。したがって、第2遅延調整量は、(D1/(Vcosα+v)−D2/(Vcosβ−v))(s)となる。この場合、遅延量は、(D1−D2)/V(s)+(D1/(Vcosα+v)−D2/(Vcosβ−v))である。なお、遅延調整量は、マイナスの値をとる場合がある。
【0051】
前部座席に登場するユーザの耳の位置をLLとし、視聴位置LLと前部スピーカ17との間の距離をDD1(m)、視聴位置LLと後部スピーカ27との間の距離をDD2(m)とすれば、前部スピーカ17から発せられた音が視聴位置LLに到達するまでの時間はDD1/(Vcosγ+v)(s)であり、後部スピーカ27から発せられた音が視聴位置LLに到達するまでの時間はDD2/(Vcosδ−v)(s)である。ただし、γは、視聴位置LLと前部スピーカ17とを結ぶ線分と、進行方向とのなす角であり、δは、視聴位置LLと後部スピーカ27とを結ぶ線分と、進行方向とのなす角である。したがって、第1遅延調整量は、(DD2/(Vcosγ−v)−DD1/(Vcosδ+v))となる。この場合、遅延量は、(DD2−DD1)/V+(DD2/(Vcosγ−v)−DD1/(Vcosδ+v))である。
【0052】
ここでは、第1および第2遅延調整量を、速度をパラメータとして算出するようにしたが、速度と遅延調整量とを対応付けたテーブルを記憶しておき、そのテーブルから遅延調整量を求めるようにしてもよい。
【0053】
第2の変形例におけるカーオーディオ装置1においては、車両の速度に応じて遅延量を調整するようにしたので、後部スピーカ27から出力される音声を、前部スピーカ17から出力される逆位相の音声で減衰することができ、前部スピーカ17から出力される音声を、後部スピーカ27から出力される逆位相の音声で減衰することができる。
【0054】
なお、第2の変形例は、屋外に設置された音響機器にも適用できる。この場合、車速を検出するのに代えて、風速を検出する。第2の変形例における速度を、検出した風速に置き換えることにより、第2の変形例を屋外に設置された音響機器に適用することができる。
【0055】
なお、本実施の形態においては、車両の前後にスピーカを搭載する例を示したが、車両の左右にスピーカを搭載するようにしてもよい。この場合には、車両の左右に搭乗する二人の搭乗者が異なる音声を聞くことができる。さらに、車両の前後左右の4箇所にスピーカを搭載するようにすれば、前後左右に搭乗する4人の搭乗者がそれぞれ異なる音声を聞くことができる。この場合、1つのスピーカから1つの音声信号と、他の3つの音声信号の逆位相の音声信号を出力することになる。このように、設置するスピーカの数と同じ数の音声を異なる位置で聞くことができる。
【0056】
<第2の実施の形態>
図5は、第2の実施の形態におけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。図5を参照して、カーオーディオ装置1Aは、ナビゲーションI/F2と、カードI/F3と、HDD4と、DVDドライブ5と、複数の圧縮音声信号のうちから1つを選択するセレクタ41と、圧縮音声信号を復号するデコーダ42と、入力される音声信号と逆位相の音声信号を生成する逆位相生成部43と、デジタルの音声信号をアナログに変換する第1〜第2D/A変換部44,45と、第1増幅器47と、第2増幅器48と、前部スピーカ17と、後部スピーカ27と、を含む。
【0057】
カーオーディオ装置1Aは、ナビゲーションI/F2と、カードI/F3と、HDD4と、DVDドライブ5は、音声信号を発生し、発生した音声信号をセレクタ41に出力する。セレクタ41は、ナビゲーションI/F2、カードI/F3、HDD4およびDVDドライブ5がそれぞれ出力する複数の圧縮音声信号のうちから1つを選択し、デコーダ42に出力する。セレクタ41が、複数の圧縮音声信号のいずれを選択するかは、ユーザが操作部に入力する操作に従う。
【0058】
デコーダ42は、セレクタ41から入力される圧縮音声信号を復号し、復号して得られるデジタルの音声信号を逆位相生成部43および第1D/A変換部44に出力する。逆位相生成部43は、デコーダ42から入力されるデジタルの音声信号に基づいて、その音声信号と逆位相の音声信号を生成し、生成した逆位相の音声信号を第2D/A変換部45に出力する。
【0059】
第1D/A変換部44は、デコーダ42から入力されるデジタルの音声信号を、アナログの音声信号に変換し、アナログの音声信号を遅延部46に出力する。遅延部46は、入力される音声信号を遅延させ、遅延させた音声信号を第1増幅器47に出力する。遅延部46が音声信号を遅延させる遅延量は、逆位相生成部43が音声信号から逆位相の音声信号を生成するのに必要な時間である。遅延部46は、予め定めた遅延量だけ音声信号を遅延させるようにしてもよいし、逆位相生成部43から逆位相の音声信号を取得して、音声信号を逆位相の音声信号と同期して出力させるようにしてもよい。また、操作部に設けられたボリュームによって定まる遅延量としてもよい。
【0060】
第2D/A変換部45は、逆位相生成部43から入力される逆位相のデジタルの音声信号を、アナログの音声信号に変換し、アナログの音声信号を第2増幅器48に出力する。
【0061】
第1増幅器47は、遅延部46から入力される逆位相の音声信号を増幅し、前部スピーカ17に出力する。第2増幅器48は、第2D/A変換部45から入力される音声信号を増幅し、後部スピーカ27に出力する。第2増幅器48は、第1増幅器47が逆位相の音声信号を増幅した後の振幅を第1増幅器47から取得し、取得した振幅に基づいて、第2D/A変換部45から入力される逆位相のアナログの音声信号を増幅する際の利得を制御する。換言すれば、第2増幅器48は、第2D/A変換部45から入力される逆位相のアナログの音声信号を出力する音量を、セレクタ41により選択された音声信号が出力される音量に基づいて、制御する。
【0062】
例えば、セレクタ41により、ナビゲーションI/F2が選択された場合について説明する。前部スピーカ17からナビゲーションI/F2から入力される音声信号が出力される一方、後部スピーカ27からナビゲーションI/F2から入力される音声信号に対して逆位相の音声信号が出力される。
【0063】
この状態において、後部座席のユーザは、前部スピーカ17から出力される音声が、後部スピーカ27から出力される逆位相の音声により減衰されるので、前部スピーカ17から出力されるナビゲートのための音声を視聴することがない。一方、前部座席のユーザは、前部スピーカ17から出力されるナビゲートのための音声を視聴することができる。ただし、後部スピーカ27から出力されるナビゲートのための音声と逆位相の音声も視聴される。このため、第2増幅器48においては、前部座席のユーザに聞こえない程度の振幅に変換するのが好ましい。
【0064】
このように、第2の実施の形態におけるカーオーディオ装置1Aは、ナビゲーションI/F2と、カードI/F3と、HDD4と、DVDドライブ5のうちのいずれか1つが発生する音声信号を前部スピーカ17から出力し、その音声信号と逆位相の音声信号を後部スピーカ27から出力する。このため、ナビゲーションI/F2と、カードI/F3と、HDD4と、DVDドライブ5のうちから選ばれた1つが発生する音声信号に基づく音声を前部座席に搭乗するユーザにのみ聞かせることができる。
【0065】
また、ナビゲーションI/F2と、カードI/F3と、HDD4と、DVDドライブ5のうちから選ばれた1つが発生する音声信号に基づく音声を、逆位相の音声信号を生成する時間だけ遅延させるので、音声を効率的に減衰することができる。
【0066】
なお、第2の実施の形態においては、音声信号を前部スピーカ17から出力し、逆位相の音声信号を後部スピーカ27から出力する例を示したが、前部スピーカ17および後部スピーカ27の前段に切換器を設けるようにし、音声信号を後部スピーカ27から出力し、逆位相の音声信号を前部スピーカ17から出力するようにしてもよい。この場合には、ナビゲーションI/F2と、カードI/F3と、HDD4と、DVDドライブ5のうちから選ばれた1つが発生する音声信号に基づく音声を後部座席に搭乗するユーザにのみ聞かせることができる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0068】
<付記>
(1) 第1の音声信号と逆位相の第1逆音声信号を生成するステップと、
第2の音声信号と逆位相の第2逆音声信号を生成するステップと、
前記第1の音声信号および前記第2の逆音声信号をミキシングした第1ミキシング信号を出力する第1ミキシングステップと、
前記第2の音声信号および前記第1の逆音声信号をミキシングした第2ミキシング信号を出力する第2ミキシングステップと、を含む音声再生方法。
(2) 前記第1逆音声信号を遅延させるステップと、
前記第2逆音声信号を遅延させるステップと、をさらに含む(1)に記載の音声再生方法。
(3) 前記第1ミキシング信号を出力する第1スピーカと第1の視聴位置までの距離と、前記第2ミキシング信号を出力する第2スピーカと前記第1の視聴位置までの距離と、に基づいて第1遅延時間を決定するステップと、
前記第1スピーカと第2の視聴位置までの距離と、前記第2スピーカと前記第2の視聴位置までの距離と、に基づいて第2遅延時間を決定するステップと、をさらに含む(2)に記載の音声再生装置。
(4) 移動速度を検出するステップをさらに含み、
前記第1逆音声信号を遅延させるステップは、検出された移動速度に応じて前記第1遅延時間を補正するステップを含み、
前記第2逆音声信号を遅延させるステップは、検出された移動速度に応じて前記第2遅延時間を補正するステップを含む、(3)に記載の音声再生装置。
(5) 前記第1ミキシングステップは、前記第2逆音声信号の音量を変化させるステップを含み、
前記第2ミキシングステップは、前記第1逆音声信号の音量を変化させるステップを含む、(1)に記載の音声再生装置。
(6) 音声信号を発生するステップと、
前記音声信号を出力するステップと、
前記音声信号と逆位相の逆音声信号を生成するステップと、
生成された前記逆音声信号を出力するステップと、を含む音声再生方法。
(7) 発生された前記音声信号を遅延させるステップを、さらに含む(6)に記載の音声再生装置。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態の1つにおけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【図2】音を減衰させる原理を説明する図である。
【図3】第1の変形例におけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【図4】第2の変形例におけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【図5】第2の実施の形態におけるカーオーディオ装置の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0070】
1 カーオーディオ装置、2 ナビゲーションI/F、3 カードI/F、4 HDD、5 DVDドライブ、11 第1セレクタ、12 第1デコーダ、13 第1逆位相生成部、14 第1D/A変換部、15 第2D/A変換部、16 第1ミキサ、16A 音量制御部、17 前部スピーカ、18,18A 第1遅延部、21 第2セレクタ、22 第2デコーダ、23 第2逆位相生成部、24 第3D/A変換部、25 第4D/A変換部、26 第2ミキサ、26A 第2音量制御部、27 後部スピーカ、28,28A 遅延部、31 速度検出部、33 第1補正部、35 第2補正部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の音声信号と逆位相の第1逆音声信号を生成する第1逆音声生成手段と、
第2の音声信号と逆位相の第2逆音声信号を生成する第2逆音声生成手段と、
前記第1の音声信号および前記第2の逆音声信号をミキシングした第1ミキシング信号を出力する第1ミキシング手段と、
前記第2の音声信号および前記第1の逆音声信号をミキシングした第2ミキシング信号を出力する第2ミキシング手段と、を備えた音声再生装置。
【請求項2】
前記第1逆音声信号を遅延させる第1遅延手段と、
前記第2逆音声信号を遅延させる第2遅延手段と、をさらに備えた請求項1に記載の音声再生装置。
【請求項3】
前記第1遅延手段は、前記第1ミキシング信号を出力する第1スピーカと第1の視聴位置までの距離と、前記第2ミキシング信号を出力する第2スピーカと前記第1の視聴位置までの距離と、に基づいて第1遅延時間を決定し、
前記第1遅延手段は、前記第1スピーカと第2の視聴位置までの距離と、前記第2スピーカと前記第2の視聴位置までの距離と、に基づいて第2遅延時間を決定する、請求項2に記載の音声再生装置。
【請求項4】
移動速度を検出する速度検出手段をさらに備え、
前記第1遅延手段は、検出された移動速度に応じて前記第1遅延時間を補正する第1補正手段を含み、
前記第2遅延手段は、検出された移動速度に応じて前記第2遅延時間を補正する第2補正手段を含む、請求項3に記載の音声再生装置。
【請求項5】
前記第1ミキシング手段は、前記第2逆音声信号の音量を変化させる第1音量制御段を含み、
前記第2ミキシング手段は、前記第1逆音声信号の音量を変化させる第2音量制御手段を含む、請求項1に記載の音声再生装置。
【請求項6】
音声信号を発生する音声信号発生手段と、
前記音声信号発生手段で発生した音声信号を出力する第1出力手段と、
前記音声信号と逆位相の逆音声信号を生成する逆音声生成手段と、
生成された前記逆音声信号を出力する第2音声出力手段と、を備えた音声再生装置。
【請求項7】
前記音声信号発生手段により発生された前記音声信号を遅延させて、前記第1出力手段に入力する遅延手段を、さらに備えた請求項6に記載の音声再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−88784(P2009−88784A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253513(P2007−253513)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】