説明

頂面回転式ピストン

【課題】 直噴ガソリン機関において、エンジン回転数、エンジン負荷及び燃料噴射時期に対する成層燃焼のロバスト性(適応性)を大幅に向上できる頂面回転式ピストンを提供する。
【解決手段】 ピストン本体2と、ピストン頂面の一部を回転させる頂面回転体1とに2分割し、頂面回転体1を、ピストン本体2と周方向へ摺動自在に係合した頂面回転式ピストン100であって、頂面回転体1の頂面にキャビティ3を形成し、頂面回転体1の中心軸をピストン本体2の中心軸に対し、オフセットした状態にする。これにより、エンジン高回転時に、噴射した燃料の噴霧9がキャビティ3から外れることを防止し、成層燃焼させることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頂面回転式ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関においては、燃焼速度向上を目的として、燃焼室に空気を吸入する吸気ポートを螺旋状に形成したヘリカルポートや、コントロールバルブを備えた可変吸気ポートが提案されている。これらの吸気ポートにより吸気すると、燃焼室内にはスワール(横渦)やタンブル(縦渦)といった気流が発生する。このような気流は、燃焼室内の空気と燃料との混合及び燃焼を促進する。充分な気流を得るため、ヘリカルポートの先端部には、絞りが形成される。また、可変吸気ポートは、気流を発生させるため、コントロールバルブで一部のポートを遮断する。
【0003】
このような吸気ポートを採用した場合には、燃焼室内に充分な気流を発生させることができる。その一方、内燃機関の吸気行程で気流を発生させているため、圧縮行程では、発生させた気流が相当減衰してしまう。また、このような吸気ポートでは、絞りやコントロールバルブにより気体の吸入量が制限されるため、ポート流量係数が低下してしまう。そのため、特許文献1では、以下のような技術が提案されている。特許文献1によると、油圧を動力源として、ピストン上部に備えられた有底円筒体の側面にオイルを噴射して、この円筒体を回転させる。この円筒体の円筒内周面には、フィンが設けられており、回転により燃焼室内に旋回空気流を発生させる。また、非特許文献1によれば、ピストン内に備えられた羽根車にオイルを噴射することにより、ピストン頂面に設けられて、羽根車と連結した回転体を回転させる。この回転体上面にフィンを備えることにより、回転時に燃焼室内に旋回空気流を発生させることが可能である。
【0004】
これらの技術は、従来の内燃機関に適用することで燃焼速度及び燃費を向上させるには有効である。しかし、近年実用化されている直噴ガソリン機関においては、大幅な燃費向上のため、燃料を燃焼室に直接噴霧し、濃い混合気を点火プラグの周囲に集めて燃焼させる成層燃焼を行っている。このような成層燃焼は、燃料と空気とを予め混合させた混合気に点火する従来の内燃機関の燃焼とは、燃焼態様が異なる。そのため、直噴ガソリン機関においては、これらの提案技術を適用しても効果が発揮されない。
【0005】
上述した直噴ガソリン機関において、成層燃焼を実現させる方式には、ウォールガイド式、エアガイド式及びスプレーガイド式がある。このうちウォールガイド式とは、ピストン頂面にキャビティと呼ばれる凹状の溝を形成し、キャビティに向けて噴射した燃料の噴霧を、キャビティの壁面に沿わせて点火プラグに案内する方式である。噴射した燃料の噴霧を点火プラグに好適に案内するためには、ピストンの往復運動に合せて適切な噴射時期に燃料を噴射する必要がある。適切な位置にピストンがある場合には、ピストン頂面のキャビティに向けて燃料を噴射することが可能となる。
【特許文献1】特開平6−2614号公報
【非特許文献1】公技番号2003−503377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エンジン回転が高回転になると、ピストンの往復運動が速くなり、キャビティに向けて噴射した燃料の噴霧が点火プラグに適切に案内される前に運動速度が速くなったピストンが移動してしまう。そのため、エンジン回転が高回転になると、成層燃焼させることができなくなる。この対策としては、燃料噴射時期を早めることができれば、ピストンの運動速度に対応することができる。しかし、燃料噴射時期を早めた場合には、燃料噴射時のピストンの位置が上死点手前へ変化する。これにより、キャビティの位置も上死点手前へ変化してしまうため、噴射した燃料の噴霧がキャビティから外れてしまい、成層燃焼させることができなくなる。また、エンジンの負荷が高負荷になると、燃料を噴射する時間が長く必要になる。そのため、エンジン高回転、高負荷時には、燃料の噴射が間に合わなくなり、燃料噴射時のピストン位置が上死点方向へずれる。これにより、キャビティの位置も上死点方向へ変化してしまい、噴射した燃料の噴霧がキャビティから外れるため、成層燃焼させることができなくなる。
【0007】
そこで本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、直噴ガソリン機関において、エンジン回転数、エンジン負荷及び燃料噴射時期に対する成層燃焼のロバスト性(適応性)を大幅に向上できる頂面回転式ピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、ピストン本体と、ピストン頂面の一部を回転させる頂面回転体とに2分割し、該頂面回転体を、前記ピストン本体と周方向へ摺動自在に係合した頂面回転式ピストンであって、前記頂面回転体の頂面に凹状の溝を形成し、前記頂面回転体の中心軸を前記ピストン本体の中心軸に対し、オフセットした状態とすることを特徴とする。本発明によれば、エンジン高回転時に燃料噴射時期を早めて上死点手前のピストン位置で燃料を噴射しても、噴射した燃料の噴霧を点火プラグに案内できるよう凹状の溝を適切な位置に移動できる。これにより、エンジン高回転時でも、噴射した燃料の噴霧が凹状の溝から外れることを防止し、成層燃焼させることが可能になる。
【0009】
また、本発明は、前記頂面回転体の回転中心から前記凹状の溝の外周までの距離が、周方向への角度変化に伴い、前記頂面回転体の半径長さを上限として次第に長く変化するように形成した部分を含んでもよい。エンジン回転が次第に高回転に変化する場合、成層燃焼を維持するためには、燃料噴射時期を次第に早める必要がある。燃料噴射時期を次第に早めると、燃料噴射時のピストン位置は、上死点付近から上死点手前へ次第に変化する。本発明によれば、上死点付近から上死点手前への燃料噴射時のピストン位置の変化に対応させて、ピストン頂面上での凹状の溝の位置を次第に変化させることができる。これにより、エンジン回転が次第に高回転に変化しても、噴射した燃料の噴霧が凹状の溝から次第に外れることを防止でき、継続的に成層燃焼させることが可能である。
【0010】
また、本発明は、前記凹状の溝が、前記頂面回転式ピストンの位置が上死点付近で、前記頂面回転式ピストンの頂面の外周付近に位置し、前記頂面回転式ピストンの位置が上死点手前へ変化するに伴い、前記頂面回転式ピストンの頂面の中心付近に移動してもよい。本発明によれば、燃料噴射時期を早めて燃料噴射時のピストン位置が上死点付近から上死点手前に変化しても、凹状の溝の位置を、ピストン頂面の外周付近から中心付近へ次第に変化させることができる。これにより、噴射した燃料の噴霧が凹状の溝から次第に外れることを防止できる。そのため、従来の成層燃焼領域でのエンジン回転から高回転までエンジン回転が変化しても、継続的に成層燃焼させることが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、直噴ガソリン機関において、エンジン回転数、エンジン負荷及び燃料噴射時期に対する成層燃焼のロバスト性を大幅に向上できる頂面回転式ピストンを提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る頂面回転式ピストン100を示す図である。図1(a)は、頂面回転式ピストン100の図1(b)におけるA−A断面図であり、図1(b)は、頂面回転式ピストン100の上面図である。本ピストンは、例えば直噴ガソリン機関で使用される。頂面回転体1を回転させる手段としては、既知の手段を用いてよい。例えば、図1(a)に破線で示すように、頂面回転体1の下面に円周方向へ第1歯車22を配設し、この第1歯車22と噛合する第2歯車23をコネクティングロッド24の小端部25に刻設することにより、ピストン往復運動に伴い、頂面回転体1を往復回転運動させることが可能である。また、コネクティングロッド24は、図示しないクランクシャフトと連結している。このクランクシャフトのクランク角に対するピストンの往復運動方向の位置は、一義的に決定される。一方、クランク角に対する頂面回転体1の回転位置も、上述した歯車の噛合構造を備えているため、一義的に決定される。したがって、このような回転手段により、ピストンの往復運動方向の位置に対して、頂面回転体1の回転位置を一義的に決定できる。ただし、頂面回転体1を回転させる手段として、この手段を用いなければならないわけではなく、ピストンの往復運動方向の位置に対して、頂面回転体1の回転位置を一義的に決定できる回転手段であれば、適宜の手段を用いて構わない。
【0014】
図1(a)に示すように、頂面回転体1を、ピストン本体2に形成された有底円筒状の収容部2aに収容する。頂面回転体1は、ピストン本体2の収容部2aの底面略円中心に備えられた図示しないピストン連結具によって、ピストン本体2と円周方向へ摺動自在に係合している。図1(b)に示すように、頂面回転体1の頂面には、キャビティ(凹状の溝)3を形成する。キャビティ3は、頂面回転体1の回転中心Pからキャビティ3の外周までの距離4が、周方向への角度変化に伴い、例えば距離4aから距離4bへ、さらに距離4bから距離4cへと次第に長くなるように、一部分が形成されている。また、頂面回転体1の回転中心Pを、ピストン本体2の略円中心Qに対して同心ではなく、オフセットした状態にする。
【0015】
図2は、エンジン低回転時において、本発明に係る頂面回転式ピストン100が、直噴ガソリン機関内で上死点付近の位置にある状態を示す図である。図2(a)は、頂面回転式ピストン100の図2(b)におけるA−A断面図であり、図2(b)は、頂面回転式ピストン100の上面図である。図2(a)に示すように、頂面回転式ピストン100は、図示しないシリンダブロックに形成されたシリンダ5内に往復運動自在に収容されている。シリンダブロック上にはシリンダヘッド6が備えられ、頂面回転式ピストン100の頂面、シリンダ5の内面及びシリンダヘッド6の壁面により燃焼室10を形成する。また、シリンダヘッド6には、燃焼室10内へ燃料を直接噴射する燃料噴射ノズル7が備えられている。燃料噴射ノズル7は、高圧噴射により燃料の微粒化を促進し、燃焼室10内で燃料と空気との超希薄な混合気を生成するものである。また、シリンダヘッド6の壁面頂部には、混合気に点火をするための点火プラグ8が備えられている。図2(b)に示すように、エンジン低回転時において、燃料噴射時のピストン位置が上死点付近の場合、キャビティ3は頂面回転式ピストン100の頂面上の外周付近に位置している。
【0016】
この構成で燃料噴射ノズル7によって燃料を噴射すると、燃料噴射ノズル7の噴射方向の先にキャビティ3が位置しているため、高圧噴射された燃料の噴霧9はキャビティ3へ向かって噴射される。噴射された燃料の噴霧9はキャビティ3の壁面に沿って方向転換し、点火プラグ8へ案内される。これによって、点火プラグ8付近に濃い混合気を集めて点火可能となり、エンジン低回転時において、成層燃焼を実現できる。
【0017】
図3は、エンジン高回転時において、本発明に係る頂面回転式ピストン100が、直噴ガソリン機関内で上死点手前の位置にある状態を示す図である。図3(a)は、頂面回転式ピストン100の図3(b)におけるA−A断面図であり、図3(b)は、頂面回転式ピストン100の上面図である。エンジン回転が高回転の場合には、頂面回転式ピストン100の往復運動が速くなるため、成層燃焼させるためには、燃料噴射時期を早める必要がある。燃料噴射時期を早めると、燃料噴射時のピストン位置は図2(a)に示した上死点付近から、図3(a)に示すように上死点手前に変化する。これにより、図3(a)に示すように、噴射した燃料の噴霧9は、ピストン頂面上において外周付近から中心付近へずれる。このとき、頂面回転体1の頂面に形成されたキャビティ3が図2(a)の位置のまま固定された状態の場合には、噴射した燃料の噴霧9は、キャビティ3から外れてしまう。しかし、本実施例では、図3(a)に示すように、頂面回転式ピストン100が上死点手前の位置の場合、頂面回転体1が回転することで、キャビティ3の位置がピストン頂面の中心付近に変化するようにしている。したがって、エンジン高回転時に燃料噴射時期を早めて上死点手前のピストン位置で燃料を噴射しても、噴射した燃料の噴霧9がキャビティ3から外れることを防止できる。これにより、噴射された燃料の噴霧9はキャビティ3の壁面に沿って方向転換し、点火プラグ8へ案内されるので、点火プラグ8付近に濃い混合気を集めて点火可能となり、エンジン高回転時においても、成層燃焼を実現できる。
【0018】
また、図1(b)に示したように、キャビティ3は、頂面回転体1の回転中心Pからキャビティ3の外周までの距離4が、周方向への角度変化に伴い、次第に長くなるように形成されている。燃料噴射時期を次第に早めた場合、燃焼噴射時のピストン位置は、上死点付近から上死点手前へ次第に変化する。これに対応して頂面回転体1が回転し、キャビティ3の位置を変化させる。このとき、キャビティ3を周方向への角度変化に伴い、次第に長くなるように形成しているので、キャビティ3の位置を次第に変化させることができる。これにより、エンジン回転が次第に高回転に変化しても、噴射した燃料の噴霧9がキャビティ3から外れることを防止でき、継続的に成層燃焼させることができる。
【0019】
また、エンジン回転が高回転になり、かつエンジンの負荷が高負荷になると、燃料噴射時期が間に合わなくなり、燃料噴射時のピストン位置が次第に上死点方向へずれる。これに伴い、噴射した燃料の噴霧9は、キャビティ3の位置が固定されている場合、次第にキャビティ3から外れる。しかし本実施例では、燃料噴射時のピストン位置が上死点手前から上死点付近へ変化するのに対応して頂面回転体1が回転するので、キャビティ3の位置を次第に変化させることができる。そのため、エンジン高回転、高負荷時であっても、噴射した燃料の噴霧9が次第にキャビティ3から外れることを防止し、噴射した燃料の噴霧9を点火プラグ8へ案内して成層燃焼を実現できる。以上により、従来の成層燃焼領域でのエンジン回転から高回転までエンジン回転を変化させても、継続的に成層燃焼を実現することが可能である。
【0020】
なお、頂面回転体1の頂面に形成するキャビティ3の形状は、本実施例で示したものに限られるものではなく、適用する直噴ガソリン機関に合せて適宜の形状に形成してよい。また、頂面回転体1の頂面に形成するキャビティ3の位置についても同様である。
【0021】
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る頂面回転式ピストン100の構成を示す図
【図2】エンジン低回転時において、本発明に係る頂面回転式ピストン100が、直噴ガソリン機関内で上死点付近の位置にある状態を示す図
【図3】エンジン高回転時において、本発明に係る頂面回転式ピストン100が、直噴ガソリン機関内で上死点手前の位置にある状態を示す図
【符号の説明】
【0023】
1 頂面回転体
2 ピストン本体
2a 収容部
3 キャビティ
4 頂面回転体1の回転中心Pからキャビティ3の外周までの距離
5 シリンダ
6 シリンダヘッド
7 燃料噴射ノズル
8 点火プラグ
9 燃料の噴霧
10 燃焼室
100 頂面回転式ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン本体と、ピストン頂面の一部を回転させる頂面回転体とに2分割し、該頂面回転体を、前記ピストン本体と周方向へ摺動自在に係合した頂面回転式ピストンであって、
前記頂面回転体の頂面に凹状の溝を形成し、
前記頂面回転体の中心軸を前記ピストン本体の中心軸に対し、オフセットした状態にすることを特徴とする頂面回転式ピストン。
【請求項2】
前記頂面回転体の回転中心から前記凹状の溝の外周までの距離が、周方向への角度変化に伴い、前記頂面回転体の半径長さを上限として次第に長く変化するように形成した部分を含むことを特徴とする請求項1記載の頂面回転式ピストン。
【請求項3】
前記凹状の溝が、前記頂面回転式ピストンの位置が上死点付近で、前記頂面回転式ピストンの頂面の外周付近に位置し、前記頂面回転式ピストンの位置が上死点手前へ変化するに伴い、前記頂面回転式ピストンの頂面の中心付近に移動することを特徴とする請求項1または2記載の頂面回転式ピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−220093(P2006−220093A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35311(P2005−35311)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】