説明

顔料分散液、インクジェット記録用インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置

【課題】高い堅牢性を有し品位に優れた画像を長期にわたって安定して記録することのできる顔料分散液、インク、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置を提供すること。
【解決手段】高分子分散剤、顔料、および水から主としてなる顔料分散液において、上記顔料が、少なくとも疎水性ユニットとノニオン性親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体で被膜された樹脂被膜顔料であり、さらに該樹脂被膜顔料が少なくとも疎水性ユニットとアニオン性の親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体である高分子分散剤に内包され、該高分子分散剤の疎水性ユニットが少なくとも1種の疎水性モノマーからなるブロック部を有することを特徴とする顔料分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散液、インクジェット記録用インク(以下単に「インク」という場合がある)、インクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置に関する。さらに詳しくは、保存安定性が高く、印字画像の定着性と堅牢性が良好でインクジェット記録に適した色材分散体タイプの顔料分散液、水性インク、該インクを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷インクの着色剤として、耐水性や耐光性などの堅牢性に優れた顔料などの水不溶性色材が広く用いられている。しかし、水不溶性色材を水性インクの色材として用いるためには、水性媒体中に水不溶性色材を安定して分散させることが要求される。そのため、高分子化合物や界面活性剤などの分散剤を添加して水不溶性色材を水性媒体中に均一に分散させた色材分散体タイプの水性インクが使用されている。
【0003】
近年、インクジェット記録用途においても、画像堅牢性の面からこの色材分散体タイプの水性インクを使用するようになってきている。インクジェット記録においては、紙面上でのインクの定着性や耐水性を向上させるために、インク中の色材粒子に凝集機能や水不溶化機能を持たせる試みがとられている。しかしながら、このような機能を色材粒子に持たせることによって、インク中での色材粒子の分散安定性が低下することになり、インクの保存中に色材粒子が凝集して濃度むらや沈降が発生しやすくなり、インクジェット装置のノズル先端部でインク乾燥による目詰りが発生し、インクの吐出安定性が低下しやすくなるなどという問題点を持つ。
【0004】
上記問題点を解決するために、特許文献1、2および3では、親水性セグメントに特定構造のアクリル系モノマー構造を有するブロックポリマーが提案されているが、これらのブロックポリマーでは、ポリマーを構成する親水性のモノマー構造部の被記録材に対する親和性が不充分なため、インクとして使用した際にはインク定着性や耐擦過性などの画像堅牢性は充分に満足できるレベルではない。さらに、産業用途における長期にわたる連続印字が要求される用途において、インクの吐出安定性が大きく低下してしまうという課題がある。
【0005】
また、特許文献4では互いに反対電荷を有する複数のイオン性樹脂でイオンコンプレックスを形成させることで顔料を多層被膜したカプセル化物が提案されている。しかし、この提案においては、高温保存時や長期保存時においては、それら樹脂間でのイオンコンプレックス形成状態が不安定になり、凝集が発生しやすくなり、特に熱エネルギーを使用したインクジェットプリンターに使用する場合ではインクの吐出性が低下する問題点を有する。
【0006】
さらに、特許文献5では分散剤と被膜形成樹脂を含有する顔料分散液が提案されているが、この提案においては、被膜形成樹脂を分散剤や顔料とは別に顔料分散液中に含有させるだけでは、被膜形成樹脂が顔料表面に吸着していないために顔料分散液が増粘したり、遊離の被膜形成樹脂による顔料粒子の凝集が発生する場合もあり、インクジェットインク用途では、インクの吐出性や保存安定性が大きく低下する問題点も有する。
【0007】
特許文献6では非水溶性樹脂によって被膜された顔料を反応性乳化剤の共重合体でカプセル化した顔料分散体が提案されているが、この提案では、顔料被膜樹脂が非水溶性であるため、カプセルが不安定になりやすい高温時に非水溶性樹脂の露出発生による顔料粒子の凝集という課題を有する。特に、産業用途における長期連続印字が要求される熱エネルギーを使用したサーマル方式のインクジェット用水系インクにおいてはインクの吐出性の低下を招く場合があり、大きな課題である。
【特許文献1】特開平4−227668号公報
【特許文献2】特開平5−179183号公報
【特許文献3】特開2005−177756号公報
【特許文献4】特開2006−122900号公報
【特許文献5】特許第3961733号公報
【特許文献6】特開2003−89757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記問題点に鑑みて為されたもので、熱的安定性が高く、定着性や耐擦過性などの堅牢性が高く品位に優れた画像をどのような場合でも長期にわたって安定して記録することのできる顔料分散液(インク)を提供することであり、さらには堅牢性と品位に優れた画像を記録し得るインクとインクジェット記録方法、およびこのようなインクを含むインクカートリッジおよびインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の発明によって上記課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明は、高分子分散剤、顔料、および水から主としてなる顔料分散液において、上記顔料が、少なくとも疎水性ユニットとノニオン性の親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体で被膜された樹脂被膜顔料であり、さらに該樹脂被膜顔料が少なくとも疎水性ユニットとアニオン性の親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体である高分子分散剤に内包され、該高分子分散剤の疎水性ユニットが少なくとも1種の疎水性モノマーからなるブロック部を有することを特徴とする顔料分散液を提供する。
【0010】
上記本発明の顔料分散液においては、被膜樹脂のノニオン性親水基を有する親水性ユニットが、少なくとも下記一般式(1)のアクリルアミド構造の繰り返し単位構造を有すること;

(式中、R1は水素またはメチル基を、Xは水素または炭素数1から4のアルキル基を表し、nは1から10である。)
【0011】
被膜樹脂の疎水性ユニットが、少なくとも芳香族炭化水素を含有する置換基を有するビニルモノマーからなること;芳香族炭化水素を含有する置換基を有するビニルモノマーが下記一般式(2)のビニルモノマーであること;

(式中、R2は水素またはメチル基を、Yは−R3、−OR3または−COOR3を表す。ここでR3は炭素数1から18のアルキル基を表す。)
【0012】
被膜樹脂の親水性ユニットの溶解性パラメータが、被膜樹脂の疎水性ユニットの溶解性パラメータに対して+2〜+14[(J/cm31/2]の範囲にあること;高分子分散剤の疎水性ユニットの疎水性モノマーからなるブロック部が、下記一般式(3)の繰り返し単位構造からなるブロック部であること;

(式中、R2は水素またはメチル基を、Yは−R3、−OR3または−COOR3を表す。ここでR3は炭素数1から18のアルキル基を表す。)
【0013】
被膜樹脂の疎水性ユニットの溶解性パラメータが、高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータに対して−2〜+2[(J/cm31/2]の範囲にあること;被膜樹脂全体の溶解性パラメータが、高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータに対して+1〜+5[(J/cm31/2]の範囲にあること;高分子分散剤がノニオン性の親水基を持つ親水性ユニットを有すること;高分子分散剤が、疎水性ユニット、ノニオン性の親水基を有する親水性ユニットおよびアニオン性の親水基を有する親水性ユニットの順番で少なくとも構成されていること;顔料が、顔料表面に被膜樹脂の疎水性ユニットが吸着し、その外側に親水性ユニットが配向したカプセル構造を形成した樹脂被膜顔料であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記顔料分散液と、少なくとも水溶性有機溶媒を混合させてなることを特徴とするインクジェット記録用インクを提供する。
【0015】
また、本発明は、インクにエネルギーを与えて、該インクを飛翔させて被記録材に付与して行うインクジェット記録方法において、上記インクが、前記本発明のインクであることを特徴とするインクジェット記録方法を提供する。該記録方法においては、エネルギーが、熱エネルギーであることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、該インクが上記本発明のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクカートリッジ;およびインクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジと、該インクを吐出させるためのヘッド部を備えたインクジェット記録装置において、該インクが上記本発明のインクであることを特徴とするインクジェット記録装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明によれば、高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも長期にわたって安定して記録することのできる顔料分散液(インク)を提供することができ、さらには堅牢性と品位に優れた画像を記録し得るインクとインクジェット記録方法、インクカートリッジおよびインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、高分子分散剤、顔料、および水から主としてなる顔料分散液(インク)において、上記顔料が、少なくとも疎水性ユニットとノニオン性の親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体で被膜されている樹脂被膜顔料であり、さらに該樹脂被膜顔料が、少なくとも疎水性ユニットとアニオン性の親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体である高分子分散剤に内包され、該高分子分散剤の疎水性ユニットが少なくとも1種の疎水性モノマーからなるブロック部を有するものを使用することで、高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも安定して記録することが可能な顔料分散液(インク)を提供することができることを見出した。
【0019】
高分子分散剤で顔料がカプセル化(内包)された構造の顔料粒子を形成させる場合において、樹脂被膜顔料は、高分子分散剤と被膜樹脂間での親和性を制御しやすいため高分子分散剤で安定にカプセル化された顔料粒子を形成させるのに有利である。本発明に使用する顔料は、疎水性のユニットと親水性のユニットを併有する共重合体で被膜されている樹脂被膜顔料であるため、顔料表面が疎水性のみの樹脂で被膜されているような場合に比べ、被膜樹脂と高分子分散剤との親和性以外に被膜樹脂の親水性ユニットが分散媒との親和性をも持つようになる。そのため高分子分散剤で形成されるカプセルが不安定になり、被膜樹脂顔料表面が露出しやすい高温状況下などにおいても、被膜樹脂の有する分散媒との親和性によって、分散安定性がほとんど低下することがなく、分散安定性の高い顔料分散液(インク)を得ることができる。
【0020】
特に、被膜樹脂の親水性ユニットに分散媒である水と親和性の高いエチレンオキシド構造を有するアクリルアミド構造の繰り返し単位構造を有する場合は、顔料分散液の安定性がより向上し、さらに本発明者らの検討で見出されたエチレンオキシド構造を有するアクリルアミド構造は、他のアクリルエステル類構造やアクリルアミド類構造などと比べ、水媒体中での熱的安定性が高いので顔料分散液の高温保存時や熱エネルギーでインクを飛翔させるインクジェット記録装置に使用する際に高い分散安定性を維持することが可能となり、インクの高温保存性やインクの長期吐出安定性が向上される。
【0021】
特に本発明で使用する被膜樹脂は、疎水性ユニットとノニオン性親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体であるため、顔料表面に被膜樹脂の疎水性ユニットが吸着し、親水性ユニットがその外側に配向したカプセル構造を形成するようになり、上記効果がより一層向上されるようになる。また、顔料分散液の製造工程においても、被膜樹脂にノニオン性親水基を有する親水性ユニットを使用しているため、顔料と高分子分散剤を混練する際に一般的に使用するアルコール、ケトン、エーテルなどの極性溶媒とも良く親和できるようになり、樹脂被膜顔料が、これらの溶媒中で凝集することなく、均一状態になり高分子分散剤と樹脂被膜顔料との混練が容易になる。
【0022】
さらに高分子分散剤の疎水性ユニットが、樹脂被膜顔料と良好な親和性を持つ疎水性モノマーからなるブロック部を含有するため、高分子分散剤が樹脂被膜顔料を安定的にカプセル化し、顔料分散液の安定性が向上される。被膜樹脂全体の溶解性パラメータが高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータに対して+1〜+5[(J/cm31/2]の範囲とすることで、高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロックと被膜樹脂の疎水性ユニットが被膜顔料の表面に吸着し、高分子分散剤の親水性ユニットがその外側に配向したカプセルを形成することが可能となる。上記溶解性パラメータの差が+1[(J/cm31/2]未満の場合には、顔料を被膜している被膜樹脂の疎水性ユニットや顔料表面と高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部間の親和が強くなりすぎて、顔料被膜樹脂の形成する上述の配向状態が不安定になり、一方、上記溶解性パラメータの差が+5[(J/cm31/2]より大きい場合には、被膜顔料の表面に高分子分散剤の疎水性ユニットだけでなく、高分子分散剤の親水性ユニットも吸着するため、高分子分散剤の形成するカプセルが不安定になり、顔料の分散安定性や高温安定性の低下を招いてしまう。また、疎水性ユニットのブロック部が樹脂被膜顔料をカプセル化しているため、親水性ユニットと分散媒である水との親和性が向上しやすくなり、インクの保存安定性や吐出安定性が向上する。特にこれらの効果はそれぞれの構造をブロック化させることでより向上される。この効果は、高分子分散剤の疎水性ユニットに樹脂被膜顔料との親和性がより高い芳香族炭化水素基を含有する特定構造のブロック部を含有させることで、さらに向上させることが可能となる。
【0023】
また、印字画像においても、被膜樹脂がノニオン性の親水ユニットと被記録材の有する親水基との親和性が高いため定着性が向上される。特に高分子分散剤のカプセルが不安定になってカプセルが崩れているような場合や、強い力での擦過時などのカプセル形状が崩壊しやすくなる状況下では、疎水性の被膜樹脂を使用した場合や被膜樹脂自体を使用していない場合に比べ、定着性や耐擦過性などの堅牢性がより一層向上される。特に被膜樹脂の親水性ユニットにエチレンオキシド構造を有するアクリルアミド構造の繰り返し単位構造を有し、さらに高分子分散剤の親水性ユニットにインク中の水や水溶性有機溶媒と親和性の高いエチレンオキシド構造を有する場合は、顔料分散液が被記録材表面だけに残ることなく画像濃度や滲み性の低下を招かない範囲でインクと共に適度に被記録材内部に浸透することが可能となり、さらに被記録材と親和性の高いアミド構造を合わせ持つことから被記録材との密着性が最良となり、顔料分散液の定着性や耐擦過性などの堅牢性が大きく向上されると考えられる。芳香族炭化水素基を含有する特定構造のブロック部を高分子分散剤の疎水性ユニットに有する場合は、さらにこの効果が向上されるようになる。
【0024】
これらの効果により、顔料分散液の被記録材内部への浸透による発色性低下がなく良効な画像堅牢性や定着性を達成でき、かつインクの長期保存時の安定性を向上させるとともに、インクジェット装置に使用する際に必ず発生するノズル先端部でのインク濃縮のように、インク組成が大きく変化する場合においても、顔料の分散安定性が低下することなくインクの安定な吐出が可能になる。さらに、インクジェットノズルのクリーニング回復動作を頻繁に行うことのできないラインヘッドを有するインクジェット装置の場合においても、ノズル周辺部へのインクの付着が抑制できるため、インクの不吐出や印字ヨレが発生しにくく、長期にわたって良好な連続印字性能を達成できる。
【0025】
以下、本発明の顔料分散液の構成材料についてさらに詳細に説明する。
(顔料)
本発明においては、従来から使用されている有機顔料、無機顔料のいずれも使用することが可能であるが、特に黒色顔料と、シアン、マゼンタ、イエローの着色顔料が有用である。
【0026】
顔料の顔料分散液中の含有量は、顔料分散液全質量に対して、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは1.0〜20質量%であり、インク中での含有量は、インク全質量に対して、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。インク中での顔料の量が0.1質量%未満では十分な画像濃度が得にくい場合があり、一方、顔料の量が15質量%を超えると、ノズルにおける目詰りなどによるインクの吐出安定性の低下が起こる場合がある。
【0027】
(被膜樹脂)
本発明で使用する上記顔料の被膜樹脂は、疎水性ユニットとノニオン性親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体であり、それぞれのユニットは単一のモノマー種からだけでも、2種以上のモノマー種からでも、それぞれのユニットが疎水基を有するモノマーやノニオン性親水基を有するモノマーでそれぞれ構成されていれば使用することができる。中でも、ノニオン性親水基を有する親水性ユニットが少なくとも下記一般式(1)のアクリルアミド構造の繰り返し単位構造を有すると、顔料分散液の高温保存性やインクでの長期吐出安定性がより向上するため好ましい。
【0028】

(式中、R1は水素またはメチル基を、Xは水素または炭素数1から4のアルキル基を表し、nは1から10である。)
上記モノマー構造の繰り返し単位数としては、5から100、好ましくは10から50であると顔料分散体の分散安定性と被記録材上での定着性がより向上するため望ましい。
【0029】
上記一般式(1)の構造を形成するために使用するモノマーとしては、例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)アクリルアミド、N−(2−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)メタクリルアミド、N−(メトキシエチル)アクリルアミド、N−(2−(2−エトキシエトキシ)エチル)アクリルアミド、N−(2−(2−(2−ブトキシエトキシ)エトキシ)エチル)メタクリルアミド、N−(2−(2−(2−(2−(2−(2−メキシエトキシ)エトキシ)エトキシ)エトキシ)エトキシ)エチル)メタクリルアミドなどが挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0030】
また、被膜樹脂の疎水性ユニットが、少なくとも芳香族炭化水素を含有する置換基を有するビニルモノマーからなると、顔料分散液の保存安定性やインクでの吐出安定性がより向上するため望ましく、芳香族炭化水素を含有する置換基を有するビニルモノマーが下記一般式(2)のビニルモノマーであるのがより望ましい。
【0031】

(式中、R2は水素またはメチル基を、Yは−R3、−OR3または−COOR3を表す。ここでR3は炭素数1から18のアルキル基を表す。)
【0032】
このようなモノマーとしては、例えば、1−メチル−4−ビニルベンゼン、1−エチル−4−(プロペン−2−イル)ベンゼン、1−ブチル−4−(プロペン−2−イル)ベンゼン、1−ドデシル−4−(プロペン−2−イル)ベンゼン、4−メトキシ−ビニルベンゼン、4−ブトキシ−ビニルベンゼン、メチル−4−ビニルベンゾエート、ブチル−4−ビニルベンゾエート、ドデシル−4−ビニルベンゾエート、ヘキサデシル−4−ビニルベンゾエート、オクタデシル−4−ビニルベンゾエートなどが挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用することも可能である。上記モノマー構造の繰り返し単位数としては、10から200、好ましくは20から150、より好ましくは20から100であると顔料分散体の分散安定性と被記録材上での定着性がより向上するため望ましい。
【0033】
さらに、被膜樹脂の親水性ユニットの溶解性パラメータが、被膜樹脂の疎水性ユニットの溶解性パラメータに対して+2〜+14[(J/cm31/2]の範囲に、好ましくは+3〜+10[(J/cm31/2]の範囲に、より好ましくは+4〜+8[(J/cm31/2]の範囲にあると、高分子分散剤との親和性が良好でかつ分散安定性や吐出特性がさらに良好となり、印字画像の堅牢性もより一層向上するため望ましい。また、高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータに対して被膜樹脂の疎水性ユニットの溶解性パラメータが−2〜+2[(J/cm31/2]の範囲にあると、高分子分散剤との親和性がより向上し、高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータに対して、被膜樹脂全体の溶解性パラメータが+1〜+5[(J/cm31/2]の範囲にあると、高温時の顔料の分散安定性やインクでの長期吐出安定性がより一層向上するので望ましい。このように被膜樹脂のそれぞれのユニットの溶解性パラメータを調整することによって、分散体中で顔料表面に被膜樹脂の疎水性ユニットが吸着し、その外側に親水性ユニットが配向したカプセル構造をした樹脂被膜顔料の形状が形成されやすくなり、より安定な顔料分散性やインクの吐出性と、より高い画像特性を発揮できるようになる。
【0034】
本発明の被膜樹脂や高分子分散剤である高分子の溶解性パラメータ(δ[(J/cm31/2])は、高分子の無限溶解度または最高膨潤度を与える溶媒の溶解性パラメータ=高分子の溶解性パラメータとする実験的に算出した値や高分子の官能基の分子凝集エネルギーから算出した値である。本発明でのこれらの高分子の溶解性パラメータは高分子の官能基の分子凝集エネルギーから算出した値を使用している。高分子の溶解性パラメータ(δ)を官能基の分子凝集エネルギーから算出する方法は、δ=(ΔE/V)1/2=(ΣΔei/ΣΔvi1/2(式中、ΔEはそれぞれのモル蒸発熱、Vはそれぞれのモル体積、Δeiはそれぞれの原子団の蒸発エネルギー(J/mol)、Δviはそれぞれの原子団のモル体積(cm3/mol)である。)の式から算出する方法が挙げられる。なお、原子団の蒸発エネルギーおよび原子団のモル体積はFedorsの値を使用して算出した。
【0035】
本発明での親水性および疎水性ユニットの溶解性パラメータは、それぞれのユニットごとの溶解性パラメータを示し、ユニットが単一のモノマーから構成されている場合ではそのモノマー単位の官能基の分子凝集エネルギーから、そしてユニットが複数のモノマーから構成されている場合ではそれぞれのモノマー単位の官能基の分子凝集エネルギーとその含有比率から算出した値を使用する。また、疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータも同様に、ブロック部が単一のモノマーから構成されている場合ではそのモノマー単位の官能基の分子凝集エネルギーから、そしてブロック部が複数のモノマーから構成されている場合ではそれぞれのモノマー単位の官能基の分子凝集エネルギーとその含有比率から算出した値を使用する。
【0036】
本発明に使用する被膜樹脂は、上記モノマー類をラジカル重合やアニオン重合などの常法の重合方法で得ることができる。これらの被膜樹脂は、重量平均分子量で3,000から50,000の範囲にあるのが好ましく、より好ましくは5,000から30,000の範囲である。得られた被膜樹脂の同定は、NMRやIRによる官能基の定性・定量や各種クロマトグラフィーによる解析などで行うことが可能である。
【0037】
上記被膜樹脂で顔料を被膜して本発明に使用する樹脂被膜顔料を作製する方法として、被膜樹脂と顔料とを混練する工程のみで作製することもできるが、以下の方法で作製すると顔料表面に被膜樹脂の疎水性ユニットが吸着し、親水性ユニットがその外側に配向したカプセル構造を形成するようになり、顔料分散液中の樹脂被膜顔料の安定性がより一層向上するため望ましい。樹脂被膜顔料の好ましい作製方法しては、被膜樹脂をエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、アセトン、エタノール、メタノールなどの有機溶媒に溶解した溶液と顔料とを混練し、その後多量の水と混合させることで被膜樹脂の疎水性ユニットを顔料表面に吸着させ、親水性ユニットをその外側に配向させた状態を形成し、有機溶媒を減圧などの常法にて除去して被膜樹脂の疎水性ユニットを顔料表面に固定化し、必要に応じて濾過・遠心分離・乾燥などを行い、樹脂被膜顔料を得る方法が挙げられる。
【0038】
被膜樹脂の含有量は、顔料分散液全質量に対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.2〜10質量%であり、インク中での含有量は、インク全質量に対して、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%である。顔料と被膜樹脂との含有比率は、固形分質量比で好ましくは10:1〜1:2、より好ましくは5:1〜1:1であると、印字画像の定着性や堅牢性とインクの吐出安定性や保存安定性について良好なレベルが得られる。
【0039】
(高分子分散剤)
本発明に使用する高分子分散剤は、少なくとも疎水性ユニットとアニオン性の親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体であり、疎水性ユニットが少なくとも1種の疎水性モノマーからなるブロック部を有するものである。
【0040】
疎水性ユニットとしては、少なくとも1種の疎水性モノマーからなるブロック部を有していればよい。2種以上の疎水性モノマーが含有されている場合でも疎水性モノマーのみで構成されているブロックであれば、それぞれの疎水性モノマー同士がランダム状態でもブロック状態でも使用できる。より好ましくはそれぞれの疎水性モノマーがブロック状態で構成されているものがより安定なカプセルを形成できるため望ましい。疎水性モノマーからなるブロック部の疎水性モノマーの繰り返し単位としては、2種以上の疎水性モノマーで構成されている場合、疎水性モノマーの繰り返し単位の総数として、10から200、好ましくは20から150、より好ましくは20から100であると顔料との親和性が良好になるため望ましい。
【0041】
疎水性モノマーとしては、疎水性の置換基を有するビニルモノマーが好ましい。中でも、下記一般式(3)の繰り返し単位構造を構成させるモノマーが、顔料との親和性がより向上し安定なカプセルを形成できるため望ましい。

【0042】
上記一般式(3)におけるR2は水素またはメチル基であるのが好ましく、Yは−R3、−OR3または−COOR3であるのが好ましい。ここでR3は炭素数1から18のアルキル基であるのが好ましい。このようなモノマーとしては、例えば、1−メチル−4−ビニルベンゼン、1−エチル−4−(プロペン−2−イル)ベンゼン、1−ブチル−4−(プロペン−2−イル)ベンゼン、1−ドデシル−4−(プロペン−2−イル)ベンゼン、4−メトキシ−ビニルベンゼン、4−ブトキシ−ビニルベンゼン、メチル−4−ビニルベンゾエート、ブチル−4−ビニルベンゾエート、ドデシル−4−ビニルベンゾエート、ヘキサデシル−4−ビニルベンゾエート、オクタデシル−4−ビニルベンゾエートなどが挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0043】
アニオン性の親水基を有する親水性ユニットは、アニオン性の親水基を有するモノマーを重合することで得られるユニットであり、アニオン性の親水基を有するモノマーとしてはアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、スチレンスルホン酸、スチレンカルボン酸、モノ−(2−アクリロイロキシ−1−メチル−エチル)フタレートが挙げられ、中でもアクリル酸、メタクリル酸が重合性の点で好ましい。これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。この際、親水性ユニットが、アニオン性の親水基を有するセグメントのブロック部とノニオン性の親水基を有するセグメントのブロック部で構成されていると、被記録材上での顔料分散体の定着性がより一層良好となり望ましい。
【0044】
特に、高分子分散剤が、一般式(3)の繰り返し単位構造からなるブロック部、ノニオン性の親水基を有するセグメントのブロック部およびアニオン性の親水基を有するセグメントのブロック部の順番で少なくとも構成されていると、顔料分散液の分散安定性と被記録材上での定着性が最良となりより望ましい。ノニオン性の親水基を有するセグメントとしては、上述の被膜樹脂で使用した一般式(1)のセグメント以外に、メトキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルメタクリレート、ポリオキシエチレンモノメチルエーテルアクリレート、ポリオキシエチレンモノエチルエーテルメタクリレートなどの側鎖にオキシアルキレン基を有するアクリルモノマー類から得られるものが使用できる。
【0045】
本発明に使用する高分子分散剤は、上記モノマー類をラジカル重合やアニオン重合などの常法の重合方法で得ることができ、特にリビングラジカル重合法などが好適に用いられる。リビングラジカル重合法を用いることにより長さ(分子量)を正確に揃えた共重合体やブロック共重合体が作製可能である。これらの高分子分散剤は、重量平均分子量で3,000から50,000の範囲にあるのが好ましく、より好ましくは5,000から30,000の範囲である。得られた高分子分散剤の同定は、NMRやIRによる官能基の定性・定量や各種クロマトグラフィーによる解析などで行うことが可能である。
【0046】
高分子分散剤の酸価としては、好ましくは10〜150mgKOH/g、より好ましくは30〜100mgKOH/gであると、良好なレベルの印字両画像の定着性と発色性を得ることができる。また、高分子分散剤のアニオン性親水基は、アルカリで中和されていることが必要であるが、未中和のアニオン性親水基が含有されていても使用でき、中和度として好ましくは50から100mol%、より好ましくは80から100mol%であると、インクの吐出性の低下が抑制できるため望ましい。アニオン性親水基の中和方法は、アニオン性親水基を含有するビニルモノマーをアルカリで先に中和してから重合する方法やアニオン性親水基を含有するビニルモノマーを重合してからアルカリで後から中和する方法のいずれも可能であるが、モノマーの重合効率を上げるためには後から中和する方法が好ましい。この中和に使用するアルカリとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属類、アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられ、カリウムの場合にインクの吐出性がより向上するため好ましい。具体例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムなどが挙げられる。なお、本発明での高分子分散剤の酸価は、日本工業規格JIS−K0070に記載の酸価測定方法に準じて測定した値を示す。
【0047】
顔料分散液中における高分子分散剤の含有量は、顔料分散液全質量の好ましくは0.5から30質量%、より好ましくは1.0から20質量%の範囲であり、インク中での含有量はインク全質量の好ましくは0.1から15質量%、より好ましくは0.5から10質量%の範囲である。また、樹脂被膜顔料と高分子分散剤との含有比率は、固形分質量比で好ましくは10:1〜1:3、より好ましくは5:1〜1:2であると、印字画像の定着性や堅牢性とインクの吐出安定性や保存安定性ついて良好なレベルが得られる。
【0048】
上記高分子分散剤で樹脂被膜顔料を内包した本発明の顔料分散液を作製する方法としては、以下の方法で作製すると樹脂被膜顔料表面に高分子分散剤の疎水性ブロック部が吸着し、親水性ユニットがその外側に配向したカプセル構造が安定して形成されるため望ましい。具体的には、高分子分散剤をエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類やエタノール、メタノールなどのアルコール類の有機溶媒に溶解し、必要に応じてアルカリで高分子分散剤のアニオン性親水基を中和し、樹脂被膜顔料とよく混練した後に水を添加して、有機溶媒を減圧などの常法にて除去し、必要に応じて濾過・遠心分離などを行い分散顔料粒子を含む顔料分散液を得る方法が挙げられる。
【0049】
顔料分散液中の顔料粒子の平均粒子径は、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下であると、インクでの吐出安定性がさらに向上し、また印字画像の発色性も良好になる。本発明での粒子径はレーザー光散乱法を用いて測定した値を使用する。
【0050】
以上が本発明の顔料分散液を主として構成する材料であるが、これら以外の水溶性有機溶媒も好適に使用するのが好ましい。本発明の顔料分散液に使用する水溶性有機溶媒としては、水溶性の有機溶媒であれば使用することができ、2種以上の水溶性有機溶媒の混合溶媒としても使用できる。これらの水溶性有機溶媒の顔料分散液中に占める好ましい割合は、顔料分散液全質量の2から30質量%、より好ましくは5から20質量%である。
【0051】
好ましい水溶性有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、チオジグリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオールなどのトリオール類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールなどのヒンダードアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコーリモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;グリセリン、ジメチルスルホキシキド、グリセリンモノアリルエーテル、ポリエチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルフォラン、β−ジヒドロキシエチルウレア、ウレア、アセトニルアセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン、ジアセトンアルコールなどである。
【0052】
以上の成分以外に、界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤、防黴剤などの各種の添加剤を添加してもよい。
【0053】
本発明のインクジェット記録用インクは、上記顔料分散液と、少なくとも水(この水は、顔料分散液中の水でもよく、脱イオン水などを別途加えてもよい)と水溶性有機溶媒を混合させることで得られるインクである。
本発明のインクジェット記録用インクで使用する水溶性有機溶媒は、上記顔料分散液の項で記載したものが好適に使用できる。これらの中でも、沸点が120℃以上の水溶性有機溶媒を使用すると、ノズル先端部でのインク濃縮が抑制されるため好ましい。これらの水溶性有機溶媒のインク中に占める割合は、インク全質量の好ましくは5から50質量%、より好ましくは10から30質量%である。
【0054】
また、顔料分散液と水溶性有機溶媒を混合する際には、必要に応じて、水や界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤、防黴剤などの各種の添加剤を添加してもよい。
【0055】
さらに、インクのpHが好ましくは8.0から10.0の範囲に、より好ましくは8.4から9.8の範囲になるように調整すると、インクの長期保存安定性が向上し、長期保存後のインクの吐出性低下が抑制されるため好ましい。pH調整剤としては、トリエタノールアミンなどの有機アミンや水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や有機酸が挙げられる。
【0056】
本発明のインクジェット記録方法の特徴は、インクにエネルギーを与えてインクを飛翔させて行うインクジェット記録方法において、上記本発明のインクを使用することである。エネルギーとしては、熱エネルギーや力学的エネルギーを用いることができるが、熱エネルギーを用いる場合が好ましい。
【0057】
本発明のインクジェット記録方法において、被記録材は限定されるものではないが、いわゆるインクジェット専用紙、ハガキや名刺用紙、ラベル用紙、ダンボール用紙、インクジェット用フィルムや各種コピー用紙などが好ましく使用される。コーティング層を持つ被記録材としては、少なくとも親水性ポリマーおよび/または無機多孔質体を含有した少なくとも一方の面にインクを受容するコーティング層を持つ被記録材が望ましい。
【0058】
上記本発明のインクを用いて記録を行うインクジェット記録装置としては、A4サイズ紙を主に用いる一般家庭用プリンターや、名刺やカードを印刷対象とするプリンター、あるいは業務用の大型プリンターなどが挙げられるが、好適なインクジェット記録装置の一例を以下に説明する。
【0059】
(熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置)
図1は、ヘッドにインク供給チューブ104を介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ100の一例を示す図である。101は供給用インクを収納したインク袋であり、その先端には塩素化ブチルゴム製の栓102が設けられている。この栓102に針103を挿入することにより、インク袋101中のインクを記録ヘッド(303から306)に供給できる。また、インクカートリッジ内に廃インクを受容するインク吸収体を設けてもよい。本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上記のごとき記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、それらが一体になったものも好適に用いられる。
【0060】
図2は、本実施例に使用したインクジェット記録ヘッドの構造を説明するための模式図である。各ノズル202には、それぞれに対応した発熱体204(ヒータ)が設けられており、記録ヘッド駆動回路からヒータ204に所定の駆動パルスを印加することにより加熱し、気泡を発生させ、その作用で吐出口202からインク液滴を吐出する。なお、ヒータ204はシリコン基板206の上に半導体製造プロセスと同様の手法で形成される。203は各ノズル202を構成するノズル隔壁であり、205は各ノズル202にインクを供給するための共通液室であり、207は天板である。
【0061】
本実施形態による記録装置の一部透視図を図3に示す。記録装置300の被記録用紙302は例えばロール供給ユニット301から供給され、記録装置300本体に具備された搬送ユニットによって、連続的に搬送される。搬送ユニットは搬送モータ312、搬送ベルト313などから構成される。記録は、記録媒体の画像切り出し位置がブラックの記録ヘッド303の下を通過するときに、記録ヘッドからブラックインクを吐出開始、同様に、シアン304、マゼンタ305、イエロー306の順に、各色のインクを選択的に吐出してカラー画像を形成する。
【0062】
記録装置300はこの他、各記録ヘッドを待機中にキャップするキャップ機構311、各々の記録ヘッド303から306にインクを供給するためのインクカートリッジ307から310、インクの供給や回復動作のためのポンプユニット(不図示)、記録装置全体を制御する制御基板(不図示)などによって構成されている。
【0063】
図4は本実施例に使用したインクジェット記録装置における回復処理系の概略図である。記録ヘッド303から306が下降したとき、そのインク吐出口形成面がキャップ機構311内の塩素化ブチルゴムにより形成されたキャップ400に近接することにより所定の回復動作の実行が可能である。
【0064】
回復処理系におけるインク再生回路部は補給されるインクが貯留されポリエチレン袋に収容されるインクカートリッジ100と、吸引ポンプ403などを介して接続されるサブタンク401と、キャップ400とサブタンク401との間を接続する塩化ビニルにより形成されたインク供給路409に配されキャップ機構311からのインクをサブタンク401に回収する吸引ポンプ403、キャップから回収したインク中のゴミなどを除去するフィルター405、インク供給路408を介して接続され記録ヘッド303から306の共通液室にインクを供給する加圧ポンプ402、記録ヘッドから戻ったインクをサブタンク401に供給するインク供給路407、弁404aから404dを主要な要素として構成されている。
【0065】
記録ヘッド303から306のクリーニング時において回復弁404bを閉鎖し加圧ポンプ402を作動することによりサブタンク401から記録ヘッドにインクを加圧供給し、ノズル406から強制排出させる。これにより記録ヘッドのノズル内の泡、インク、ゴミなどを排出する。吸引ポンプ403は、記録ヘッドからキャップ機構311内に排出されたインクをサブタンク401に回収する。
【0066】
(力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置)
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例としては、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図5に示す。
【0067】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82などを指示固定するための基板84とから構成されている。
【0068】
図5において、インク流路80は、感光性樹脂などで形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケルなどの金属を電鋳やプレス加工による穴あけなどにより吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタンなどの金属フィルムおよび高弾性樹脂フィルムなどで形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZTなどの誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板82を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を詳細に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、文中、「部」および「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
また、被膜樹脂および高分子分散剤の同定には、核磁気共鳴吸収測定装置(H1−NMR、日本電子社製ECA400、溶媒;テトラヒドロフラン−d8を使用)およびGPC(東ソー(株)製HLC8220、カラム;TSK−GEL4000HXL、TSK−GEL3000HXL、TSK−GEL2000HXLを使用し、カラムオーブン温度40.0℃)を用い、顔料分散液の顔料の平均粒子径にはレーザー散乱法の粒度分布測定装置FPAR−1000(大塚電子(株)製)で測定しキュムラント法にて算出した。
【0070】
(被膜樹脂aの作製)
還流管、滴下ロート、温度計および攪拌装置を備えたガラス製4つ口フラスコを窒素置換した後、テトラヒドロフラン100部を添加し攪拌しながら加熱した。系内温度が65℃に達したところで、疎水性ユニットを構成するモノマーとして1−メチル−4−ビニルベンゼン200ミリモルと親水性ユニットを構成する前記一般式(1)の構造を有するモノマーであるN−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)アクリルアミド50ミリモルと開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル1ミリモルをテトラヒドロフラン50部に溶解した溶液を滴下ロートから1時間かけて徐々に滴下し、その後5時間加熱と攪拌を続け合成を行った。重合を停止させた後溶媒を除去して、表1に記載の被膜樹脂aを得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行った。
【0071】
(被膜樹脂b〜kの作製)
被膜樹脂aと同様の方法で、疎水性ユニットと親水性ユニットのモノマー種と添加量とを変更することで、表1に記載の被膜樹脂b〜kを作製した。
【0072】

【0073】

【0074】
(高分子分散剤Aの作製)
還流管、滴下ロート、温度計および攪拌装置を備えたガラス製4つ口フラスコを窒素置換した後、ジメチルホルムアミド200部とペンタメチルジエチレントリアミン0.5部とを仕込み、次いで疎水性ユニットの疎水性モノマーとしてブチル−4−ビニルベンゾエート50ミリモルと開始剤としてのクロロエチルベンゼン1ミリモルを添加し、攪拌しながら加熱した。系内温度が80℃に達したところで塩化第一銅0.2部を加え重合を開始し、疎水性ユニットの疎水性モノマーからなるブロック部(A成分)を合成した。分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、A成分の重合が完了した後、次いでアニオン性の親水基を有するセグメントを形成し得るモノマーとしてメタクリル酸のカルボキシル基をブチル基でエステル化したブチルメタクリレート20ミリモル(C成分)を添加して合成を行った。重合を停止させた後、エステル化させたカルボキシル基は水酸化ナトリウム/メタノール溶液で加水分解し酸析することでカルボン酸型に変化させ、表2に記載のACジブロック共重合体(高分子分散剤A)を得た。化合物の同定には、NMRおよびGPCを用いて行った。
【0075】
(高分子分散剤B〜Lの作製)
高分子分散剤Aと同様の方法で、疎水性ユニットと親水性ユニットのモノマー種と添加量とを変更することで、表2に記載の高分子分散剤B〜Lを作製した。なお、高分子分散剤IにおいてはAモノマーの重合完了後にBモノマーとCモノマーを混合して添加することで、高分子分散剤JとKにおいてはAモノマーの重合完了後にBモノマーを添加して重合してから、Cモノマーを添加して重合することで、また、高分子分散剤EとFにおいてはC成分として無水マレイン酸を用いて重合した後に加水分解する方法で、高分子分散剤LにおいてはAモノマーとCモノマーを混合して添加することでそれぞれ作製した。
【0076】

【0077】

【0078】
[実施例1]
(顔料分散液1の作製)
上記被膜樹脂a30部をテトラヒドロフラン100部に添加し攪拌して均一な溶液を調製した。この溶液にカーボンブラック(三菱化学製 MA100)30部を添加しホモジナイザーにてよく混練し、水300部に攪拌しながら添加した。その後、ロータリーエバポレータにてテトラヒドロフランを減圧除去し、孔径3マイクロメートルのフィルターにて濾過して粗大粒子を除去した後ドライオーブンにて乾燥して樹脂被膜顔料を作製した。この樹脂被膜顔料の顔料と被膜樹脂の質量比は1:1であり、全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、親水性ユニットがその外側に配向していると想定される結果であった。
【0079】
次いで上記高分子分散剤A10部をメタノール200部に添加して調製した溶液と上記樹脂被膜顔料30部とをよく混合し、中和剤として水酸化カリウムを高分子分散剤のアニオン性基の1当量に相当する量を添加して高分子分散剤のアニオン性基を中和したのち水200部を攪拌しながら加え、ビーズミル分散機にてよく混練した。その後ロータリーエバポレータにてメタノールを減圧除去して濃度調整を行い、平均粒子径150nmで顔料濃度15%、被膜樹脂15%、高分子分散剤濃度10%の顔料分散液1を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータ(SP値)は高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して−0.7[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.0[(J/cm31/2]であった。また、得られた顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0080】
[実施例2]
(顔料分散液2の作製)
実施例1の被膜樹脂を被膜樹脂bに、高分子分散剤を高分子分散剤Bに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径130nmで顔料濃度15%、被膜樹脂1.5%、高分子分散剤濃度1.5%の顔料分散液2を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して−1.9[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+4.2[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0081】
[実施例3]
(顔料分散液3の作製)
実施例1の顔料をC.I.ピグメントイエロー128に、被膜樹脂を被膜樹脂cに、高分子分散剤を高分子分散剤Cに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径190nmで顔料濃度10%、被膜樹脂20%、高分子分散剤濃度30%の顔料分散液3を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0.4[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+2.5[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0082】
[実施例4]
(顔料分散液4の作製)
実施例1の顔料をC.I.ピグメントイエロー74に、被膜樹脂を被膜樹脂dに、高分子分散剤を高分子分散剤Dに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径100nmで顔料濃度5%、被膜樹脂1%、高分子分散剤濃度10%の顔料分散液4を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.6[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+2.0[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0083】
[実施例5]
(顔料分散液5の作製)
実施例1の顔料をC.I.ピグメントレッド122に、被膜樹脂を被膜樹脂eに、高分子分散剤を高分子分散剤Eに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径140nmで顔料濃度15%、被膜樹脂5%、高分子分散剤濃度20%の顔料分散液5を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.2[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.9[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0084】
[実施例6]
(顔料分散液6の作製)
実施例1の顔料をC.I.ピグメントレッド202に、被膜樹脂を被膜樹脂fに、高分子分散剤を高分子分散剤Fに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径120nmで顔料濃度20%、被膜樹脂20%、高分子分散剤濃度4%の顔料分散液6を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して−1.6[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.5[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0085】
[実施例7]
(顔料分散液7の作製)
実施例1の顔料をC.I.ピグメントブルー15:3に、被膜樹脂を被膜樹脂gに、高分子分散剤を高分子分散剤Gに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径130nmで顔料濃度30%、被膜樹脂10%、高分子分散剤濃度10%の顔料分散液7を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.4[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+2.3[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0086】
[実施例8]
(顔料分散液8の作製)
実施例1の顔料をC.I.ピグメントイエロー93に、被膜樹脂を被膜樹脂hに、高分子分散剤を高分子分散剤Hに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径100nmで顔料濃度1%、被膜樹脂0.1%、高分子分散剤濃度1%の顔料分散液8を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0.7[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.7[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0087】
[実施例9]
(顔料分散液9の作製)
実施例1の被膜樹脂を被膜樹脂iに、高分子分散剤を高分子分散剤Iに、それぞれの添加量を変更し、その他は実施例1と同様にして、平均粒子径110nmで顔料濃度0.5%、被膜樹脂0.2%、高分子分散剤濃度0.5%の顔料分散液9を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0.1[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.7[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0088】
[実施例10]
(顔料分散液10の作製)
実施例1の被膜樹脂を被膜樹脂jに、高分子分散剤を高分子分散剤Jに、それぞれの添加量を変更し、さらにトリエチレングリコールを添加する以外は実施例1と同様にして、平均粒子径90nmで顔料濃度10%、被膜樹脂5%、高分子分散剤濃度5%、トリエチレングリコール濃度5%の顔料分散液10を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0.0[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+2.0[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0089】
[実施例11]
(顔料分散液11の作製)
実施例1の被膜樹脂を被膜樹脂kに、高分子分散剤を高分子分散剤Kに、それぞれの添加量を変更し、さらにグリセリンを添加する以外は実施例1と同様にして、平均粒子径90nmで顔料濃度15%、被膜樹脂10%、高分子分散剤濃度10%、グリセリン濃度20%の顔料分散液11を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+2.0[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+3.3[(J/cm31/2]であった。また、得られた樹脂被膜顔料と顔料分散液を全反射赤外分光光度計・ラマン分光光度計・透過型電子顕微鏡・オージェ電子分光装置で分析したところ、被膜樹脂の疎水性ユニットが顔料表面に吸着し、被膜樹脂の親水性ユニットがその外側に配向し、樹脂被膜顔料が高分子分散剤で内包された構造体を形成していることが確認された。
【0090】
[比較例1]
(顔料分散液12の作製)
実施例1の被膜樹脂を疎水性ポリマーである市販のポリスチレン樹脂(Mw5,000/疎水性ユニットのみであるため、親水性ユニット部と疎水性ブロック部の溶解性パラメータの差は0とした)に、高分子分散剤を高分子分散剤Lに変更した以外は実施例1と同様にして、平均粒子径170nmで顔料濃度15%、被膜樹脂15%、高分子分散剤濃度10%の顔料分散液12を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0[(J/cm31/2]であった。
【0091】
[比較例2]
(顔料分散液13の作製)
実施例1の高分子分散剤を高分子分散剤Lに変更した以外は実施例1と同様にして、平均粒子径150nmで顔料濃度15%、被膜樹脂15%、高分子分散剤濃度10%の顔料分散液13を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して−0.3[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+1.5[(J/cm31/2]であった。
【0092】
[比較例3]
(顔料分散液14の作製)
実施例5の被膜樹脂を疎水性ポリマーである市販のポリメタクリル酸ステアリル樹脂(Mw17,000/疎水性ユニットのみであるため、親水性ユニット部と疎水性ブロック部の溶解性パラメータの差は0とした)に変更した以外は実施例5と同様にして、平均粒子径190nmで顔料濃度15%、被膜樹脂5%、高分子分散剤濃度20%の顔料分散液14を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して−3.1[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して−3.1[(J/cm31/2]であった。
【0093】
[比較例4]
(顔料分散液15の作製)
実施例5の被膜樹脂を疎水性ポリマーである市販の塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体(Mw15,000/塩化ビニルと酢酸ビニルのモル比=2:1/疎水性ユニットのみであるため、親水性ユニット部と疎水性ブロック部の溶解性パラメータの差は0とした)に変更した以外は実施例5と同様にして、平均粒子径180nmで顔料濃度15%、被膜樹脂5%、高分子分散剤濃度20%の顔料分散液15を得た。なお、被膜樹脂の疎水性ユニット部の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0.9[(J/cm31/2]で、被膜樹脂全体の溶解性パラメータは高分子分散剤の疎水性ユニット部の溶解性パラメータに対して+0.9[(J/cm31/2]であった。
【0094】
[比較例5]
(顔料分散液16の作製)
被膜樹脂を使用せずに顔料単体に変更した以外は実施例7と同様にして、平均粒子径140nmで顔料濃度30%、高分子分散剤濃度10%の顔料分散液16を得た。
【0095】
(評価1)
実施例1〜11と比較例1〜5の顔料分散液を使用し、以下の成分を混合し、充分攪拌して、それぞれインクを作製した。
・顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 10.0部
・イオン交換水 50.0部
【0096】
実施例1〜11と比較例1〜5の顔料分散液の分散安定性と、実施例1〜11と比較例1〜5の顔料分散液を使用したインクの、吐出安定性、印字画像の画像品位と堅牢性および保存安定性についての試験を行った。なお、画像品位と堅牢性および吐出安定性については、各インクを記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置P−660CII(キヤノンファインテック製)にそれぞれ搭載して、普通紙GF−500(キヤノン製)に印字を行い、評価を行った。その結果、表3に記載したように、いずれの実施例の顔料分散液(インク)も比較例の顔料分散液(インク)に比べて分散安定性や保存安定性と吐出安定性が良好で、画像品位と堅牢性が良好な結果が得られた。
【0097】

【0098】
*1:分散安定性
各顔料分散液を密閉状態で100℃3日間保存した後、試験前後の粒子径を測定し、下式で粒子径増加率(%)を求め分散安定性の尺度とした。粒子径の測定には動的光散乱法(商品名:レーザー粒径解析システムFPAR−1000;大塚電子(株)社製)を用いた。評価基準は下記の通りとした。

◎:粒子径増加率(%)が5%未満である。
○:粒子径増加率(%)が5%以上10%未満である。
△:粒子径増加率(%)が10%以上30%未満である。
×:粒子径増加率(%)が30%以上である。
【0099】
*2:間欠吐出安定性
各インクを密閉状態で100℃3日間保存した後、15℃で湿度が10%の環境下において、100%ベタ画像を印字し3分間休止した後、再度100%ベタ画像を印字した画像を下記の評価基準で評価した。
◎:白スジが全くなく、正常に印字されている。
○:印字の最初の部分に僅かに白スジが見られる。
△:画像全体に白スジが見られる。
×:画像がほとんど印字されていない。
【0100】
*3:連続吐出安定性
密閉状態で100℃3日間保存した各インクでハガキサイズのグラデーションパターンを1000枚連続印字し、1000枚目の画像のヨレ、不吐の吐出特性を下記の基準で評価した。
◎:ヨレ、不吐がなく、正常に印字されている。
○:不吐は発生していないが、一部にヨレが見られる。
△:不吐が一部発生し、画像全体にヨレが見られる。
×:不吐が多く発生し、画像全体にヨレが見られる。
【0101】
*4:画像品位
密閉状態で100℃3日間保存した各インクで画像を印字し、その画像を下記評価基準で評価した。
◎:画像の滲みがなく、彩度が高い。
○:画像の滲みはないが、若干彩度が低い。
△:画像の滲みが若干見られる。
×:画像の滲みが多く、彩度も低い。
【0102】
*5:堅牢性
密閉状態で100℃3日間保存した各インクで100%ベタ画像を印字し、印字30秒後に印字部を2×104N/m2の荷重をかけてシルボン紙で擦り、その画像を下記評価基準で評価した。
◎:画像の擦れがなく、シルボン紙への付着がない。
○:画像の擦れがないが、シルボン紙への付着が見られる。
△:画像の擦れが若干見られる。
×:画像の擦れが多い。
【0103】
*6:保存安定性
各インクを密閉状態で100℃3日間保存した後、試験前後の粒子径を測定し、下式で粒子径増加率(%)を求め分散安定性の尺度とした。粒子径の測定には動的光散乱法(商品名:レーザー粒径解析システムFPAR−1000;大塚電子(株)社製)を用いた。評価基準は下記の通りとした。

◎:粒子径増加率(%)が5%未満である。
○:粒子径増加率(%)が5%以上10%未満である。
△:粒子径増加率(%)が10%以上30%未満である。
×:粒子径増加率(%)が30%以上である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
以上説明したように本発明によれば、熱的安定性が高く、高い堅牢性を有し品位に優れた画像をどのような場合でも長期にわたって安定して記録することのできる顔料分散液(インク)を提供することができ、さらには堅牢性と品位に優れた画像を記録し得るインクとインクジェット記録方法とインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】インクカートリッジの構造を説明するための模式図である。
【図2】インクジェット記録ヘッドの構造を説明するための模式図である。
【図3】インクジェット記録装置の透視図である。
【図4】インクジェット記録装置における回復処理系の概略図である。
【図5】インクジェット記録ヘッドの別の構成例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0106】
100:インクカートリッジ
101:インク袋
102:ゴム栓
103:針
104:チューブ
201:ベースプレート
202:インクノズル(吐出口)
203:隔壁
204:ノズルヒータ
205:共通液室
206:基板
207:天板
300:記録装置
301:ロール供給ユニット
302:被記録媒体(ロール紙)
303:記録ヘッド(ブラック)
304:記録ヘッド(シアン)
305:記録ヘッド(マゼンタ)
306:記録ヘッド(イエロー)
307:インクカートリッジ(ブラック)
308:インクカートリッジ(シアン)
309:インクカートリッジ(マゼンタ)
310:インクカートリッジ(イエロー)
311:キャップ機構
312:搬送モータ
313:搬送ベルト
400:キャップ
401:サブタンク
402:加圧ポンプ
403:吸引ポンプ
404a:供給弁
404b:回復弁
404c:大気開放弁
404d:リサイクル弁
405:フィルター
406:フェース(ノズル)面
80:インク流路
81:オリフィスプレート
82:振動板
83:圧電素子
84:基板
85:吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子分散剤、顔料、および水から主としてなる顔料分散液において、上記顔料が、少なくとも疎水性ユニットとノニオン性親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体で被膜された樹脂被膜顔料であり、さらに該樹脂被膜顔料が少なくとも疎水性ユニットとアニオン性の親水基を有する親水性ユニットからなる共重合体である高分子分散剤に内包され、該高分子分散剤の疎水性ユニットが少なくとも1種の疎水性モノマーからなるブロック部を有することを特徴とする顔料分散液。
【請求項2】
被膜樹脂のノニオン性親水基を有する親水性ユニットが、少なくとも下記一般式(1)のアクリルアミド構造の繰り返し単位構造を有する請求項1に記載の顔料分散液。

(式中、R1は水素またはメチル基を、Xは水素または炭素数1から4のアルキル基を表し、nは1から10である。)
【請求項3】
被膜樹脂の疎水性ユニットが、少なくとも芳香族炭化水素を含有する置換基を有するビニルモノマーからなる請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項4】
芳香族炭化水素を含有する置換基を有するビニルモノマーが、下記一般式(2)のビニルモノマーである請求項3に記載の顔料分散液。

(式中、R2は水素またはメチル基を、Yは−R3、−OR3または−COOR3を表す。ここでR3は炭素数1から18のアルキル基を表す。)
【請求項5】
被膜樹脂の親水性ユニットの溶解性パラメータが、被膜樹脂の疎水性ユニットの溶解性パラメータに対して+2〜+14[(J/cm31/2]の範囲にある請求項1から4のいずれか1項に記載の顔料分散液。
【請求項6】
高分子分散剤の疎水性ユニットの疎水性モノマーからなるブロック部が、下記一般式(3)の繰り返し単位構造からなるブロック部である請求項1に記載の顔料分散液。

(式中、R2は水素またはメチル基を、Yは−R3、−OR3または−COOR3を表す。ここでR3は炭素数1から18のアルキル基を表す。)
【請求項7】
被膜樹脂の疎水性ユニットの溶解性パラメータが、高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータに対して−2〜+2[(J/cm31/2]の範囲にある請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項8】
被膜樹脂全体の溶解性パラメータが、高分子分散剤の疎水性モノマーからなるブロック部の溶解性パラメータに対して+1〜+5[(J/cm31/2]の範囲にある請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項9】
高分子分散剤が、ノニオン性の親水基を有する親水性ユニットを有する請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項10】
高分子分散剤が、疎水性ユニット、ノニオン性の親水基を有する親水性ユニットおよびアニオン性の親水基を有する親水性ユニットの順番で少なくとも構成される請求項9に記載の顔料分散液。
【請求項11】
顔料が、顔料表面に被膜樹脂の疎水性ユニットが吸着し、その外側に親水性ユニットが配向したカプセル構造を形成した樹脂被膜顔料である請求項1に記載の顔料分散液。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の顔料分散液と、少なくとも水溶性有機溶媒を混合させてなることを特徴とするインクジェット記録用インク。
【請求項13】
インクにエネルギーを与えて、該インクを飛翔させて被記録材に付与して行うインクジェット記録方法において、上記インクが、請求項12に記載のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項14】
エネルギーが、熱エネルギーである請求項13に記載のインクジェット記録方法。
【請求項15】
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、該インクが請求項12に記載のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項16】
インクを収容したインク収容部を備えたインクカートリッジと、該インクを吐出させるためのヘッド部を備えたインクジェット記録装置において、該インクが請求項12に記載のインクジェット記録用インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−59368(P2010−59368A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228926(P2008−228926)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000208743)キヤノンファインテック株式会社 (1,218)
【Fターム(参考)】