説明

顔料成分及び染料成分を有する高分子着色剤並びに対応するインク組成物

【課題】改善された彩度と、良好な耐水性、耐光性とを示す、顔料成分及び染料成分の両方を含む着色剤を提供する。
【解決手段】本発明の高分子着色剤は、ポリマーが共有結合している顔料と、前記ポリマーに共有結合した染料とを含むことができる。前記の顔料、ポリマー、及び染料の少なくとも1つに分散剤を共有結合させることができる。顔料成分と染料成分の両方を含むことによって、当該高分子着色剤は、改善された彩度、耐水性、及び耐光性を実現し得る。染料成分と顔料成分とは、所望の外観に応じて、実質的に同じ色とすることも、又は異なる色とすることもできる。本発明の高分子着色剤は、インクジェット組成物中に含有させることによく適しているが、当該高分子着色剤は、他の多くの用途にもまた適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、着色剤及び着色剤の製造法に関する。より詳細には、本発明は、顔料及び染料の両成分を含む組成物に関する。
(優先権の主張)
本願は、2004年10月25日付けの米国仮特許出願第60/622,276号の利益を要求するものである。
【背景技術】
【0002】
着色剤は、物品及び印刷画像に有用且つ審美的な外観をもたらすために、多くの用途において広く用いられている。通常の着色剤は、たいていの場合、顔料又は染料の何れかに分類することができる。そのような着色剤は、製造物品中に直に混合させることができるが、しばしば、カラー画像印刷用として、着色剤を含有するインク組成物を調製することが望まれる。当該インク組成物は、典型的に、染料又は顔料を含有する適切な溶媒などの液体ビヒクルを含む。染料系インクにおいては、一般に、所与の液体ビヒクルに可溶性である着色剤が用いられる。対照的に、顔料系インクに関しては、典型的に、液体ビヒクルに不溶性であり且つそれに分散するところの固体着色剤を用いて色をもたらすことができる。
【0003】
染料及び顔料着色剤は、それぞれ、特定の情況において有益である特定の性質を有しており、印刷画像に所定のカラー特性を賦与することができる。しかしながら、染料及び顔料着色剤はまた、それぞれに固有の課題を呈するところの種々の制限及び欠点も有する。詳細には、染料着色剤は、十分な彩度及び溶液中での長期安定性を示す。しかし、染料着色剤はまた、多くの場合、耐水性、耐光性、及びスミア(擦り汚れ)耐性に劣る。対照的に、顔料着色剤は、典型的に、良好な耐水性、耐光性、及びスミア耐性を有する。しかしながら、顔料着色剤はまた、多くの場合、制限された彩度、及び溶液中での顔料粒子の分散を維持することに関連する多数の問題を抱えている。即ち、顔料インクの顔料粒子は、しばしば、時間が経過すると沈降してしまう。
【0004】
このように、特定の用途において染料及び顔料着色剤の何れを用いるかという選択は、多くの場合、これらの制限に束縛される。特定の商品においては、これらの束縛を最小限とするために、種々の化学的及び物理的メカニズムが用いられている。従って、このような制限を軽減させ得る、改善された諸特性を有する着色剤及びインク調合物を開発するための研究が続けられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
種々のインクにおける使用に適する、改善された彩度並びに十分な耐水性、耐光性の両方を有する着色剤を開発することが有益であろうと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様では、高分子着色剤が提供され、当該着色剤は、ポリマーが共有結合した顔料を含むことができる。さらに、当該ポリマーに染料を共有結合させることができる。加えて、顔料、ポリマー、及び染料の少なくとも1つに分散剤を共有結合させることができる。
【0007】
あるいはまた、インクジェットインク組成物が提供され、当該インク組成物は、液体ビヒクル、ポリマー結合型染料、及び顔料を含むことができる。ポリマー結合型染料には、ポリマーと共有結合している染料が含まれ得る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、改善された彩度と、十分な耐水性、耐光性の両方を有する着色剤を提供することができる。本発明の他の特徴並びに利点は、例示目的で本発明の特徴を記載する以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の特定の実施形態を開示、説明するにあたり、本発明が本明細書に開示する特定のプロセスや材料に限定されないことを理解されたい。何故ならば、それらはある程度変更し得るからである。また、本明細書において用いられる用語は、特定の実施形態を専ら記述するだけの目的で用いられるものであって、本発明の範囲を限定する意のないことも理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定されるものとする。
【0010】
本発明を説明し、範囲請求を行う際には、以下の用語を用いることとする。
【0011】
別途明確に指示のない限り、単数形は、複数形の意味を包含する。従って、例えば、「染料」という場合、1つ又は複数の当該材料(即ち、染料)の意を包含する。
【0012】
本明細書で用いるとき、「液体ビヒクル」は、着色剤を基材へと搬送するのに用い得る液体組成物を包含するものとして定義される。液体ビヒクルは当分野で周知であり、本発明の実施形態に従って広範なインクビヒクルを使用することができる。そのようなインクビヒクルは、限定はしないが、界面活性剤、溶媒、共溶媒、緩衝剤、殺生物剤、粘度修正剤、金属イオン封止剤、安定化剤、及び水をはじめとする、様々な各種薬剤からなる混合物を含むことができる。幾つかの実施形態では、液体ビヒクルはまた、ポリマー、UV硬化性材料、可塑剤、及び/又は共溶媒のような他の添加物を含有することもできる。
【0013】
本明細書で用いるとき、「顔料」は、液体ビヒクルに実質的に不溶性であるところの着色剤粒子を指す。
【0014】
本明細書で用いるとき、「染料」は、液体ビヒクルに実質的に可溶性であるところの着色剤成分を指す。
【0015】
本明細書で用いるとき、「官能基化」とは、共有結合によって、顔料粒子に化合物を化学的に結合させることを指す。これは、化合物がイオン結合又はその他の比較的弱い分子間力により顔料粒子に結合することとは異なるものである。
【0016】
本明細書で用いるとき、「ブリード」とは、或るインクが、隣り合って印刷された他のインク中へと進入する現象を指す。ブリードは、典型的に、基材上に隣接して印刷されたインクが十分乾燥する以前に起こる。ブリードの程度は、種々の因子の中でも、インクの乾燥速度、インクの化学作用(即ち、反応性若しくは非反応性ブリード抑制メカニズムの存在)、及び基材の種類などの、種々の因子に依存する。
【0017】
本明細書で用いるとき、「耐水性」は、基材上に印刷された後に、インクが示す、水に対する耐性の程度を意味する。典型的に、この特性は、インクが乾燥した後に測定され、湿分の存在下でインクがスミア(擦り汚れ)を起こしたり又は転移する傾向を評価する。
【0018】
本明細書で用いるとき、「彩度」とは、ASTM(ASTM E284)において定義されるように、同一明度のグレーからの色の逸脱の程度を示すのに用いられるカラー特性である。また、彩度/明度比(C/L)であるところの色飽和度を表すのに使用される。典型的に、染料着色剤は、同一乃至実質的に同一の色相を有する顔料着色剤よりも大きい飽和度を有する。
【0019】
本明細書で用いるとき、「ニュートラルグレー」とは、色不変性(即ち、蛍光及び太陽光のような異なる光源下で観察する際に色の見掛けが実質的に変化しないこと)を実質的に呈する色調のグレーを意味する。さらに、非ニュートラルグレー色は、かすかな赤若しくは褐色の色調、即ち見掛けを有する傾向がある。
【0020】
本明細書で用いるとき、インクセットに関していう用語「反応性」とは、2つ又はより多くのインクジェットインク間での化学反応を意味する。そのような反応性インクセットは、塩を用いたメカニズム、pH差を用いたメカニズム、重合を用いたメカニズム、又はその他の当業者に周知の反応性メカニズムのいずれかによって相互作用し得る。
【0021】
本明細書で用いるとき、「自己分散型顔料」とは、顔料表面に分散剤を化学結合又は誘引させるなどして、分散剤で官能基化された顔料を意味する。分散剤には、小分子又はポリマーを用いることができる。
【0022】
本明細書で用いるとき、「ポリマー分散型顔料」とは、顔料が、ポリマーと結合しているか、又はポリマーによって少なくとも部分的にカプセル化されている、1種の自己分散型顔料を意味する。ポリマーは、直に若しくは中間結合基を介して顔料表面に共有結合することができる。あるいはまた、ポリマーは、共有結合以外の分子間引力によって顔料表面に結合することができる。
【0023】
本明細書で用いるとき、確認された(又は提示された)特性又は情況に関していう用語「実質的に同一」とは、確認された(又は提示された)特性又は情況からの、測定又は視認できないほど十分に小さい程度の偏差を包含する意がある。許容し得る厳密な偏差値は、幾つかの場合、特定の情況に依存する。従って、例えば、或る着色剤が、他の着色剤と「実質的に」同じ色を有する場合、それらの色(即ち、色相又はその他の関連する特性)は、目視検査時に、知覚できないか又はほとんど知覚できない範囲内で異なっていてよい。当然、その他の特性は、かなり異なっていてもよい。例えば、ブラック顔料は、ブラック染料と実質的に同一の色及び色相を有し得るが、彩度、光学濃度、光沢、溶解度等は、互いに劇的に異なり得る。逆に、特性を提示する場合にいう「実質的に異なる」とは、視認及び/又は測定できる程度に差異のあることを意味する。
【0024】
本明細書では、濃度、量、及びその他の数値データを範囲形式で提示する場合がある。そのような範囲形式は、単に便利且つ簡潔なために用いるものであって、範囲の限界値として明記された数値を含むだけでなく、各数値及び副範囲があたかも明記されているかのように、その範囲内に包含される個別の数値又は副範囲を全て包含するものと柔軟に解釈すべきことを理解されたい。例えば、約1%〜約20%という重量範囲は、1%、約20%という明記された濃度限界値を含むだけではなくて、2%、3%、4%のような個別の濃度、及び5%〜15%、10%〜20%等のような副範囲を含むものと解釈すべきである。
【0025】
本発明によれば、高分子着色剤は、ポリマーが共有結合している顔料を含むことができる。さらに、染料をそのポリマーに共有結合させることができる。顔料、ポリマー、及び染料の少なくとも1つに分散剤を共有結合させることで、高分子着色剤に液体ビヒクル中における分散安定性を賦与することができる。顔料及び染料の両成分を含有することによって、高分子着色剤は、それぞれの諸特性から利益を得ることができる。染料及び顔料成分は、所望する見掛け(外観)に応じて、実質的に同一の色のものを用いたり、異なる色のものを用いたりすることができる。本発明の高分子着色剤は、インクジェット組成物に含有させるのによく適するが、当該高分子着色剤は、その他の多くの用途にもまた適している。
【0026】
他の実施形態では、インクジェットインク組成物が提供され、当該インク組成物は、液体ビヒクル、ポリマー結合型染料、及び顔料から構成することができる。ポリマー結合型染料は、ポリマーに共有結合している染料を含むことができ、当該染料は第1のカラーを有する。さらに、顔料は、第1のカラーとは色相が実質的に異なる第2のカラーを有し得る。この実施形態では、顔料は、自己分散型、ポリマー分散型としたり、又はポリマーに共有結合させることができる。
【0027】
高分子着色剤
本発明の高分子着色剤は、本明細書に開示する原理に従って染料及び/又は顔料に共有結合させ得る広範なポリマーを含むことができる。無水物、カルボン酸、スルホン酸、スルホン酸ビニル、アミン、アルコール、チオール等のような反応基を含むポリマーが、適切なポリマーの例である。用い得る具体的なポリマーの例としては、限定はしないが、無水マレイン酸コポリマー、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、アミン又はアルコールを含有するコポリマー、及びそれらの組合せが挙げられる。一態様では、当該ポリマーは、染料の反応性基と反応し得るよう構成された無水物基を含むことができる。別の態様では、当該ポリマーは、染料の結合サイトとして機能し得るカルボン酸基と、任意選択的に、結合基、耐光性促進基、分散剤等のような、付加的な基を含むことができる。
【0028】
一態様においては、適切なポリマーとしては、限定はしないが、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー、ビニルピロリドン−無水マレイン酸コポリマー、スチレンアクリル酸コポリマー、スチレンメタクリル酸コポリマー、4−ビニルアニリン−アクリル酸コポリマー、4−ビニルアニリン−メタクリル酸コポリマー、及びそれらの組合せを挙げることができる。本発明の詳細な態様では、当該ポリマーとして、限定はしないが、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー、ビニルピロリドン−無水マレイン酸コポリマー、及びそれらの組合せなどの無水マレイン酸コポリマーを用いることができる。特に有用であることが確認された1つのポリマーは、無水マレイン酸コポリマー(SMA)である。その他の具体的なポリマーとしては、スチレン−アクリル酸、ポリエチレンイミン/無水フタル酸、ポリエチレンイミン/フェニル無水コハク酸、ポリエチレンイミン/無水コハク酸、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン、ポリウレタン、ポリ尿素、アクリルポリマー、ビニルポリマー、ポリピロリドン、エポキシ、ポリエステル、多糖、ポリペプチド、セルロース、ポリ第四アミン、ポリアミン、及びそれらのコポリマーを挙げることができる。さらに、スルホン酸、フッ素酸、及びα−及び/又はβ−フルオロカルボン酸を含むものなどの、中性pH付近で顔料を分散させ得るポリマーが挙げられる。そのようなポリマーの幾つかの具体例としては、スチレン−ビニルスルホン酸コポリマー、スチレン−アクリル酸ブチル−メタクリル酸−ビニルスルホン酸コポリマー、スチレン−トリフルオロアクリル酸−ビニルスルホン酸コポリマー、スチレン−α−(トリフルオロメチル)アクリル酸−ビニルスルホン酸コポリマー、スチレン−トリフルオロアクリル酸コポリマー等を挙げることができる。
【0029】
本願発明の高分子着色剤は、ポリマーと共有結合している染料を含むことができる。一態様においては、当該染料は、顔料への結合以前に、ポリマーに共有結合させることができるが、このことは要求されない。適切な染料は、活性基を有しており、それは、特定のポリマーとの結合を形成すべく反応して、ポリマー−染料着色剤を形成し得る。多数の染料が、この目的に適合し得る。特に、ヒドロキシ、アミン、カルボン酸、スルホン酸、チオール、ハロトリアジン、マレイミド、ビニルスルホン、及びそれらの組合せのような活性基を有する染料は、適切なポリマーとの共有結合を容易に形成することができる。あるいはまた、カルボキシ、スルホニル等の活性基を有する染料は、アミノ又はヒドロキシ基を有するポリマーと反応し得る。従って、上述の反応性基及び活性基は、具体的な実施形態に応じて、染料又はポリマーのどちらかに存在させることができる。染料及びポリマーはまた、上述の基の何れかに容易に変換され且つそのような変換後に染料とポリマーとを結合させ得るところのその他の官能基を含むこともできる。当業者であれば、種々のカップリング反応、並びに広範な染料とポリマーとを結合させるのに必要となる関連する反応基は分かろう。具体的な一態様では、脂肪族アミン活性基を有する染料を、無水物、カルボキシ、スルホニル等の基を有するポリマーに容易に結合させることができる。適切な染料の非限定的な例には、食用染料、FD&C染料、酸性染料、直接染料、反応性染料、フタロシアニン染料、フタロシアニンスルホン酸誘導体、及びそれらの組合せを挙げることができる。適切な染料の幾つかの具体例としては、C.I.Acid Red 440、C.I.Reactive Red 3、C.I.Reactive Red 13、C.I.Reactive Red 23、C.I.Reactive Red 24、C.I.Reactive Red 33、C.I.Reactive Red 43、C.I.Reactive Red 45、C.I.Reactive Red 120、C.I.Reactive Red 180、C.I.Reactive Red 194、C.I.Reactive Red 220、C.I.Reactive Violet 4、C.I.Reactive Blue 19、C.I.Reactive Blue 5、C.I.Reactive Blue 49、C.I.Reactive Yellow 2、C.I.Reactive Yellow 3、C.I.Reactive Black 39、及びそれらの組合せを挙げることができる。
【0030】
さらに、アルコール及び芳香族アミンのような活性基を有する染料は、さほど求核性でない傾向がある。それ故、このような染料とポリマーとの結合は、限定はしないが、ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の求核触媒を添加することで促進することができる。あるいはまた、ビニルスルホン基を有するもののような反応性染料は、例えば、当業者に周知のマイケル付加反応を用いて、チオールのような染料連結基を介して結合させることができる。例えば、2−アミノエタンチオールは、無水物又はその他の反応性基を有するポリマーと反応し得る。次いで、水酸化ナトリウムの存在下で、チオール基を反応性染料と反応させて、ポリマー結合型染料着色剤を形成することができる。
【0031】
本発明の他の代替実施形態においては、染料を、後で共重合して本発明に従うポリマーを形成し得るようなモノマーに結合させることができる。上述のポリマーは、このような実施形態に適している。例えば、メタクリレート官能基化染料は、スチレン、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーと共重合し得る。上述のメタクリレート官能基化染料の例は、米国特許出願第2004/0024100号(参照することでその内容を本明細書に取り入れることとする)にさらに詳しく記述されている。
【0032】
各ポリマー鎖に対する染料分子の結合の程度は、反応条件、ポリマー、及び染料に応じて変更し得る。しかしながら、一般的な指針として、染料対ポリマー鎖の比は、染料分子(ミリモル)/ポリマー(グラム)比で、約0.05mmol/g〜10mmol/g、多くの場合、約1mmol/g〜約5mmol/gの範囲とし得る。従って、染料分子/顔料粒子の比は、顔料1グラム当たり、染料分子約10μmol〜約100mmolとし得、場合によっては、顔料1グラム当たり、染料分子約0.05mmol〜約2mmolとし得る。
【0033】
他の一実施形態では、ポリマーは、それに共有結合している2つ又はより多くの種類の染料を含むことができる。さらなる染料の結合は、第1の染料の結合と同時に実施するか、又は後段において実施することができる。さらに、付加的な染料は、第1の染料と実質的に同一の色とし得る。そのような付加的な染料を用いることで、分散安定性、pH、耐光性、コスト、及び/又はその類のような多くの特性に影響を及ぼすことができる。任意に、付加的な染料(単数又は複数)は、第1の染料とは実質的に異なる色を有することができる。例えば、75度以上という色相角度差は、明らかに、実質的に異なる色を示すであろう。指針を示せば、色相角度差は、レッドからイエロー、イエローからグリーン、及びグリーンからブルーで、ほぼ90度である。
【0034】
本発明のポリマー及び方法を用いることで、一般に知られている多くの顔料を共有結合させることができる。詳細には、各種顔料は、ポリマーに直に結合し得るか又は連結基を介してポリマーに結合し得る、適切な化学成分により官能基化することができる。顔料を官能基化する方法は、当業者に既知である。例えば、米国特許第5,554,739号、第5,707,432号、及び第5,851,280号、及び米国特許出願第2003/0195291号、第2003/0213410号、第2003/0217672号、及び第2004/0007152号は、多数の方法を用いて顔料を官能基化する方法を開示している。
【0035】
顔料に結合させる一般的な連結基及び官能基の非限定的な例としては、2−(4−アミノフェニル)スルホニルエタンスルホナート、ジアゾニウム塩反応生成物、4−アミノベンジルアミン、4−アミノフェニルアラニン、及びその他の求核基を挙げることができる。任意に、官能基化された顔料にある種のポリマーを直に結合させることができる。例えば、アミノフェニル基を含むポリマーを、ジアゾ化の後で顔料に直に結合させることができるであろう。そのようなポリマーの一例は、スチレンモノマーの幾つかが4−アミノスチレンで置換されているスチレンアクリレートポリマーであろう(即ち、4−ビニルアニリン)。しばしば、ポリマーに連結活性基を導入して、連結基がそこに結合するのを助長することが望ましい。例えば、ポリマーを2−アミノエタンチオールと反応させてチオール基を生成し、次いで、2−(4−アミノフェニル)スルホニルエタンスルホナートで官能基化された顔料と結合させるために用いることができる。その他の連結活性基としては、限定はしないが、無水物、アミン等を挙げることができる。
【0036】
厳密な比は、幾分変更し得るが、顔料粒子対ポリマー鎖の重量比は、約10:1〜1:10とし得る。さらに、染料を顔料に直に結合させるのではなく、ポリマーに結合させることによって、本発明のポリマー分散剤(共有結合又はカプセル化する)、ポリマー−染料着色剤、及び/又はその他の有用な添加物のために、多くの顔料表面積を利用させることができる。従って、染料の量は、顔料粒子に安定性をもたらす分散剤を付与する能力を減じることなく(即ち、顔料粒子への分散剤結合量を減じることなく)、高めることができる。
【0037】
適切な顔料として、ブラック顔料、ホワイト顔料、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料等を用い得る。さらに、顔料は、当分野でよく知られているように有機粒子又は無機粒子とし得る。適切な無機顔料には、例えば、カーボンブラックが含まれる。しかしながら、酸化チタン、コバルトブルー(CoO−Al)、クロムイエロー(PbCrO)、及び酸化鉄のようなその他の無機顔料も適し得る。適切な有機顔料としては、例えば、ジアゾ顔料やモノアゾ顔料をはじめとするアゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニンブルー及びフタロシアニングリーン、ペリレン顔料、ペリノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴイド顔料、イソインドリノン顔料、ピラントロン顔料,及びキノフタロン顔料のようなフタロシアニン顔料)、不溶性染料キレート(例えば、塩基性染料タイプのキレート及び酸性染料タイプのキレート)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料等が挙げられる。フタロシアニンブルーの代表的な例としては、銅フタロシアニンブルー及びその誘導体(Pigment Blue 15)が挙げられる。キナクリドンの代表的な例としては、Pigment Orange 48、Pigment Orange 49、Pigment Red 122、Pigment Red 192、Pigment Red 202、Pigment Red 206、Pigment Red 207、Pigment Red 209、Pigment Violet 19及びPigment Violet 42が挙げられる。アントラキノンの代表的な例としては、Pigment Red 43、Pigment Red 194(Perinone Red)、Pigment Red 216(Brominated Pyranthrone Red)及びPigment Red 226(Pyranthrone Red)が挙げられる。ペリレンの代表的な例としては、Pigment Red 123(Vermillion)、Pigment Red 149(Scarlet)、Pigment Red 179(Maroon)、Pigment Red 190(Red)、Pigment Violet 19、Pigment Red 189(Yellow Shade Red)及びPigment Red 224が挙げられる。チオインジゴイドの代表的な例としては、Pigment Red 86、Pigment Red 87、Pigment Red 88、Pigment Red 181、Pigment Red 198、Pigment Violet 36、及びPigment Violet 38が挙げられる。ヘテロ環イエローの代表的な例としては、Pigment Yellow 1、Pigment Yellow 3、Pigment Yellow 12、Pigment Yellow 13、Pigment Yellow 14、Pigment Yellow 17、Pigment Yellow 65、Pigment Yellow 73、Pigment Yellow 74、Pigment Yellow 151、Pigment Yellow 117、Pigment Yellow 128及びPigment Yellow 138が挙げられる。上述の顔料は、バスフ社、エンゲルハルド社(Engelhard Corporation)及びサンケミカル社をはじめとする、多数の発売元から粉末又は圧縮固形物の形態で市販されている。
【0038】
用い得るブラック顔料の例には、カーボンブラックが含まれる。カーボン顔料には、許容し得る光学濃度及び印刷特性をもたらすほとんどの市販のカーボン顔料を用い得る。本発明の使用に適するカーボン顔料としては、限定はしないが、カーボンブラック、黒鉛、ガラス質炭素、木炭、及びそれらの組合せが挙げられる。そのようなカーボンブラック顔料は、チャネル法、コンタクト法、ファーネス法、アセチレン法、又はサーマル法のような様々な既知の方法で製造することができ、キャボット社、コロンビアンケミカル社(Columbian Chemicals Company)、デグッサ社(Degussa AG)、及びデュポン社(E.I.DuPont de Nemours and Company)のような発売元から市販されている。適切なカーボンブラック顔料としては、限定はしないが、MONARCH 1400、MONARCH 1300、MONARCH 1100、MONARCH 1000、MONARCH 900、MONARCH 880、MONARCH 800、MONARCH 700、CAB−O−JET 200、及びCAB−O−JET 300、REGAL、BLACK PEARS、ELFTEX、MOGUL、及びVULCAN顔料のようなキャボット社製の顔料;RAVEN 7000、RAVEN 5750、RAVEN 5250、RAVEN 5000、及びRAVEN 3500のようなコロンビアン社製の顔料;Color Black FW200、RAVEN FW2、RAVEN FW2V、RAVEN FW1、RAVEN FW18、RAVEN S160、RAVEN FW S170、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4、PRINTEX U、PRINTEX 140U、PRINTEX V、及びPRINTEX 140Vのようなデグッサ社製の顔料;デュポン社から入手し得るTIPURE R−101がある。上記の顔料のリストには、非修飾顔料微粒子、小分子結合型顔料微粒子、及びポリマー分散型顔料微粒子が包含される。
【0039】
同様に、広範なカラー顔料もまた、本発明に用いることができ、それ故、以下のリストに限定の意はない。例えば、カラー顔料は、ブルー、ブラウン、シアン、グリーン、ホワイト、バイオレット、マゼンタ、レッド、オレンジ、イエロー、並びにそれらの混合物とし得る。カラー顔料としては、キャボット社から入手可能な、CABO−JET250C、CABO−JET260M、及びCABO−JET270Y;バスフ社から入手可能な、PALIOGEN Orange、PALIOGEN Orange 3040、PALIOGEN Blue L 6470、PALIOGEN Violet 5100、PALIOGEN Violet 5890、PALIOGEN Yellow 1520、PALIOGEN Yellow 1560、PALIOGEN Red 3871K、PALIOGEN Red 3340、HELIOGEN Blue L6901F、HELIOGEN Blue NBD 7010、HELIOGEN Blue K7090、HELIOGEN Blue L7101F、HELIOGEN Blue L6900、L7020、HELIOGEN Blue D6840、HELIOGEN Blue D7080、HELIOGEN Green L8730、HELIOGEN Green K8683、及びHELIOGEN Green L9140;チバガイギー社から入手可能な、CHROMOPHTAL Yellow 3G、CHROMOPHTAL Yellow GR、CHROMOPHTAL Yellow 8G、IGRAZIN Yellow 5GT、IGRALITE Rubine 4BL、IGRALITE Blue BCA、MONASTRAL Magenta、MONASTRAL Scarlet、MONASTRAL Violet R、MONASTRAL Red B、及びMONASTRAL Violet Maroon B;ホイバッハ社から入手可能な、DALAMAR Yellow YT−858−D及びHEUCOPHTHAL Blue G XBT−583D;ヘキストスペシャルティケミカル(Hoechst Specialty Chemicals)社から入手可能な、Permanent Yellow GR、Permanent Yellow G、Permanent Yellow DHG、Permanent Yellow NCG−71、Permanent Yellow GG、Hansa Yellow RA、Hansa Brilliant Yellow 5GX−02、Hansa Yellow−X、NOVOPERM Yellow HR、NOVOPERM Yellow FGL、Hansa Brilliant Yellow 10GX、Permanent Yellow G3R−01、HOSTAPERM Yellow H4G、HOSTAPERM Yellow H3G、Hostaperme Orange GR、HOSTAPERM Scarlet GO、HOSTAPERM Pink E、Permanent Rubine F6B、及びHOSTAFINEシリーズ;モバイケミカル社から入手可能な、QUINDO Magenta、INDOFAST Brilliant Scarlet、QUINDO Red R6700、QUINDO Red R6713、及びINDOFAST Violet;サンケミカル社から入手可能な、L74−1357 Yellow、L75−1331 Yellow、及びL75−2577 Yellowがある。その他の顔料の例としては、Normandy Magenta RD−2400、Permanent Violet VT2645、Argyle Green XP−111−S、Brilliant Green Toner GR 0991、Sudan Blue OS、PV Fast Blue B2GO1、Sudan III、Sudan II、Sudan IV、Sudan Orange G、Sudan Orange 220、Ortho Orange OR 2673、Lithol Fast Yellow 0991K、Paliotol Yellow 1840、Lumogen Yellow D0790、Suco−Gelb L1250、Suco−Yellow D1355、Fanal Pink D4830、Cinquasia Magenta、Lithol Scarlet D3700、Toluidine Red、Scarlet for Termoplast NSD PS PA、E.D.Toluidine Red、Lithol Rubine Toner、Lithol Scarlet 4440、Bon Red C、Royal Brilliant Red RD−8192、Oracet Pink RF、及びLithol Fast Scarlet L4300を挙げることができる。これらの顔料は、ヘキストセラニーズ社(Hoechst Celanese Corporation)、ポールユーリッヒ(Paul Uhlich)社、バスフ社、アメリカンヘキスト(American Hoechst)社、チバガイギー社、アルドリッチ社、デュポン社、ユージーン クールマン オブ カナダ(Ugine Kuhlman of Canada)社、ドミニオンカラー社(Dominion Color Company)、マグルーダー(Magruder)社、及びマテソン(Matheson)社のような発売元から市販されている。その他の適切なカラー顔料の例は、Colour Index,3rd edition(The Society of Dyers and Colourists,1982)に記載されている。
【0040】
特に挙げていないその他の顔料もまた、本明細書に提供した開示内容に基づいて、顔料に結合させるのに適し得る。上述の顔料は、単一にて、又は2つ以上を組合せて用いることができる。典型的に、本発明の顔料の直径は、約10nm〜約10μm、一態様では10nm〜約500nmとし得るが、もし顔料が分散状態を維持し且つ適切なカラー特性をもたらすことができれば、この範囲外の径を用いてることもできる。本発明の1つの詳細な態様においては、当該顔料は、インクジェットインク組成物の約1wt%〜約20wt%にて含有することができ、多くの場合、インクジェットインク組成物の約2wt%〜約5wt%にて含有することができる。
【0041】
しばしば、顔料と染料は、実質的に同一の色を有することができる。このようにすることで、高分子着色剤は、顔料に起因して耐光性、耐水性、及び永続性を一方で改善しながら、染料の存在に起因して改善された彩度を有することができる。本発明の代替的な一実施形態では、顔料は、染料とは異なる色とし得る。例えば、顔料がブラック色を有し且つ染料がシアン又はマゼンタ色を有することができ、その結果、高分子着色剤は、ニュートラルグレーであるところの有効色を有することになる。あるいはまた、シアン及びマゼンタの両染料を同一のポリマー又は別々のポリマーに共有結合させて、次いで、それらを同一の顔料に結合させることができる。従って、一般的な事項として、2つ以上の種類の染料を同一のポリマー鎖に結合させることができる。加えて、2つ以上の種類のポリマー及び/又はポリマー−染料の組合せを顔料粒子に結合させることもできる。
【0042】
本発明の高分子着色剤は、さらに、それに結合した分散剤を含むことができる。適切な分散剤を、顔料、ポリマー、及び/又は染料に結合させることができる。特定の一実施形態では、分散剤を顔料に結合させることができる。多くの場合において、本発明に従って顔料にポリマーを結合させることで、顔料に分散剤を直に結合させるための追加的な余地がもたらされる。他の実施形態では、分散剤をポリマーに結合させることが望まれる場合がある。染料の結合に用いたものと類似の反応性基を用いて、分散剤をポリマーに結合させることができる。さらに、分散剤を染料と同時に、又は別個のステップにおいて結合させることができる。一般に、染料、分散剤、及び顔料の結合順序は、具体的な製造設計に適合するよう調節することができる。多くの場合、結合順序は重要ではないが、たいていの場合、分散剤が結合しているポリマー−染料着色剤に、最終段階で顔料を結合させることができる。たいていの場合、当該反応性基にはカルボン酸を用いることができるが、ヒドロキシ、アミノ、無水物、スルホン酸、チオール、ハロトリアジン、マレイミド及びビニルスルホン等の反応性基を用いることもできる。
【0043】
本発明の高分子染料への結合に有用な広範な分散剤が、当業者には既知である。適切な分散剤の広範な種類の非限定的な例としては、ポリアルキルグリコール、ポリアルキルイミン、アリールジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸)、炭水化物、アクリレート、メタクリレート、トレハロース、及びそれらの異性体やそれらの組合せが挙げられる。一般的な事柄として、グリコール分散剤は、中性及び比較的高いpHで安定する傾向があり、一方、イミン分散剤は、比較的低いpH(例えば、約4−6)で安定する傾向がある。特定の一実施形態では、当該分散剤には、ポリエチレングリコールを用いることができる。分散剤は分散安定性を改善するのに役立つばかりでなく、ブリード抑制を改善することもできる。幾つかの適切な分散剤の具体例としては、限定はしないが、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、トレハロース、及びそれらの組合せが挙げられる。幾つかの実施形態では、染料と結合しているポリマーは、顔料がポリマー分散型となるよう、分散剤であり得る。
【0044】
本発明の他の任意選択の実施形態においては、高分子着色剤は、種々の安定化添加剤を含むことができる。そのような安定化添加剤は、改善された耐光性、オゾン耐性、立体安定性、静電安定性などをもたらし得る任意の官能基とし得る。適切な安定化添加剤の比限定的な具体例は、PEG(立体安定性並びに特定の染料の溶解度を改善)、炭水化物(立体安定性)、ポリエチレンイミン(一般に酸性pHにおいて静電安定性)、アクリレート(一般に高pHにおいて静電安定性)等が挙げられる。本発明のさらなる利点としては、光褪色及び/又は空気への露出による劣化から、染料の保護性を改善し得ることである。これは、大多数の染料が、それが結合しているポリマーに埋没していたり、隣接するポリマー鎖に埋没していたりすることに起因する。
【0045】
一般的事項として、本発明の高分子着色剤は、上述のような構造を有することができる。しかしながら、特定の一実施形態においては、当該高分子着色剤は、無水マレイン酸コポリマーをベースとする、式1に記載の一般構造を有し得る。
【0046】
【化1】

【0047】
式中、x、y及びzは、ポリマーが約20,000未満の分子量を有するように、ゼロではない正の整数であり;R1は、zが少なくとも3であり且つ染料、分散剤、及び連結基の各々が少なくとも1つずつは存在するという条件付で、顔料に結合している染料、分散剤、又は結合基であり;そしてR2は、疎水性基である。上記の構造が必ずしもブロックコポリマーを表すものではないことは理解されよう。そうではなく、簡潔に表すためにポリマーの構成単位を分離して記載したものであり、実際の実施形態では、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、又は記載したモノマー単位からなる他の任意の配列とし得る。R2は、スチレン、4−アルキルスチレン、アルキルアクリレート、メタクリレート、メチルビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、酢酸ビニル、ビニルピロリドン等の多数の疎水性モノマーを用いて設けることができる。さらに、式1に記載するように無水マレイン酸を用いる場合、基zのモノマー単位は、一般に、R1基(即ち、染料、添加物、又は分散剤)と無水マレイン酸の無水物部分との反応によって形成される。従って、無水マレイン酸単位のもとの数は、zだけ減じられて、本発明の高分子着色剤の製造中にy個の無水マレイン酸単位を残すことになる。
【0048】
さらに別のより詳細な態様では、高分子着色剤は、次の一般構造を有し得る。
【0049】
【化2】

【0050】
式中、a、b、及びcは、ポリマーが約20,000未満の分子量をもつように、ゼロでない正の整数である。
【0051】
インクジェット組成物
本発明の高分子着色剤は、限定はしないが、インク組成物、成形物品等のようなな用途において利用することができる。一態様では、本発明の高分子着色剤は、インクジェットインク組成物の一部として含有され得る。従って、本明細書に記載したような、高分子着色剤は、適切な液体ビヒクル中に分散させることができる。
【0052】
さらに別の代替実施形態では、インクジェットインク組成物は、液体ビヒクル、ポリマー結合型染料、及び顔料から構成することができる。本実施形態では、ポリマー結合型染料は、ポリマーに共有結合している染料を含むことができ、当該染料は第1のカラーを有する。顔料は、第1のカラーとは色相が実質的に異なる第2のカラーを有することができる。
【0053】
前述の場合、顔料は、必ずしも染料に結合されず且つ既知の原理に従って分散させることができる。従って、顔料は、高分子着色剤を形成するべく、ポリマー分散させるか、自己分散させるか、又はポリマー結合型染料に共有結合させることができる。本発明のさらに詳細な態様においては、当該ポリマーは、ポリマーに共有結合している少なくとも2つの異なる染料を有することができる。一態様では、染料の色は、シアン、マゼンタ、又はイエローとし得、顔料の色は、ブラックとし得る。
【0054】
本発明のインクジェット可能なインク組成物は、典型的に、水、共溶媒、界面活性剤、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封止剤、粘度修正剤、湿潤剤、バインダー、可塑剤、定着剤、及び/又はその他の既知の添加物を含み得る、水性調合物、即ちインクビヒクルを用いて調製することができる。更に、本発明は、ブリード抑制能を向上させるために、反応性インクセットと共に用いることができる。典型的に、本発明のインクジェットインク組成物は、約0.8〜約8cpsという粘度を有し得る。本発明の一態様では、当該インクビヒクルは、インクジェットインク組成物の約70wt%〜約98wt%を構成し得る。
【0055】
上述のように、共溶媒を本発明のインクジェット組成物に含有させることができる。本発明に使用される適切な共溶媒は、水溶性の有機共溶媒であり、限定はしないが、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリ(グリコール)エーテル、ラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、長鎖アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、グリコールブチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アミド、エーテル、カルボン酸、エステル、有機スルフィド、有機スルホキシド、スルホン、アルコール誘導体、カルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブ、エーテル誘導体、アミノアルコール、及びケトン等が挙げられる。例えば、共溶媒としては、炭素数30以下の第1脂肪族アルコール、炭素数30以下の第1芳香族アルコール、炭素数30以下の第2脂肪族アルコール、炭素数30以下の第2芳香族アルコール、炭素数30以下の1,2−ジオール、炭素数30以下の1,3−ジオール、炭素数30以下の1,5−ジオール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテルの高次の同族体、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテルの高次の同族体、ラクタム、置換ホルムアミド、未置換ホルムアミド、置換アセトアミド、及び未置換アセトアミドを挙げることができる。本発明の実施において好ましく用いられる共溶媒の具体例としては、限定はしないが、1,5−ペンタンジオール、2−ピロリドン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、3−メトキシブタノール、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等がある。共溶媒を添加することで、インク中の水の蒸発速度を低下させて詰まりを最小限としたり、粘度、pH、表面張力、光学濃度、及び印刷品質のようなインクのその他の諸特性を変更することができる。共溶媒の濃度は、約0wt%〜約50wt%の範囲とし得る。
【0056】
任意に、種々の緩衝剤もまた、本発明のインクジェットインク組成物に使用することができる。典型的な緩衝剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのような、アルカリ金属の水酸化物;クエン酸;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、及びジメチルエタノールアミンのようなアミン;及び本発明の着色剤の特性に干渉しないその他の塩基性又は酸性成分のようなpH制御溶液が挙げられる。用いる場合、緩衝剤は、典型的に、インクジェットインク組成物の約10wt%未満にて含有させる。
【0057】
本発明の別の態様においては、種々の殺生物剤を用いて有害微生物の成長を阻害することができる。適切な殺生物剤の幾つかの非限定例としては、安息香酸塩、ソルビン酸塩、NUOSEPT(ヌデックス社(Nudex,Inc.)、ヒュルスアメリカ(Huls America)社の1部門)、UCARCIDE(ユニオンカーバイド社)、VANCIDE(RTヴァンダービルト社)、及びPROXEL(アイシーアイ アメリカ社)のような市販品、及びその他の既知の殺生物剤が挙げられる。典型的に、前述の殺生物剤は、インクジェットインク組成物の約5wt%未満、多くの場合、約0.1wt%〜約0.25wt%にて含有される。
【0058】
本発明の別の態様においては、高分子着色剤を基材に固定化するように機能するバインダーを含むことができる。本発明の使用に適するバインダーは、典型的に、約100〜約50,000g/molの分子量を有する。非限定的な例としては、ポリエステル、ポリエステル−メラニン、スチレン−アクリル酸コポリマー、スチレン−アクリル酸−アルキルアクリレートコポリマー、スチレン−マレイン酸コポリマー、スチレン−マレイン酸−アルキルアクリレートコポリマー、スチレン−メタクリル酸コポリマー、スチレン−メタクリル酸−アルキルアクリレートコポリマー、スチレン−マレイン酸半エステルコポリマー、ビニルナフタレン−アクリル酸コポリマー、ビニルナフタレン−マレイン酸コポリマー、及びそれらの塩が挙げられる。
【0059】
任意に、通常の水溶性界面活性剤、例えば、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(PEO)ブロックコポリマー、アセチレンPEO、PEOエステル、PEOアミン、PEOアミド、及びジメチコンコポリオールを用いることもできる。これらの材料の幾つかは、商品名TERGITOL、SURFYNOL、ZONYL、TRITON、MERPOL等を付して市販されている。用いる場合、界面活性剤は、インクジェットインク組成物の0.01〜約10wt%とし得る。
【0060】
インクジェットインク組成物を調製した後は、当分野で周知のようにそれらを1つ又は複数のインクジェットペンの中に入れることができる。本発明の1つの詳細な態様では、本発明に従って基材上に画像を印刷するためのシステムは、インクジェットペンを形成するべく、それぞれ、インクジェットインク組成物を含んでいる少なくとも1つの射出チャンバを具備することができる。典型的なインクジェットペンは、サーマル、圧電、又はその他の既知のインクジェット技術を用いて、それを介してインクジェットインク組成物を基材に送出し得る複数のオリフィスを有するオリフィスプレートを具備し得る。
【0061】
(実施例)
以下の実施例に、現在最もよく知られている本発明の実施形態を説明する。しかしながら、以下の実施例は、本発明の原理の応用についての単なる例示、説明に過ぎないことを理解されたい。当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多数の修正及び代替の組成物、方法、並びにシステムを案出し得る。添付の特許請求の範囲は、そのような修正並びに代替の構成を網羅するよう意図したものである。従って、特定のものに関して本発明を説明してきたが、以下の実施例は、本発明の最も実用的且つ好ましい実施形態であると現在思われるものに関しさらに詳述するものである。
【実施例1】
【0062】
染料C.I.Acid Red 440は、以下のようにして、スチレン無水マレイン酸ポリマー(SMA 1000)に結合させることができる。窒素雰囲気下で、フラスコ中の1リットルの乾燥DMFに、110g(544mmole無水物)のSMA 1000を添加する。この懸濁液を撹拌しつつ、50℃まで加熱することで、透明な溶液がもたらされる。この溶液に、窒素下で、80.4g(220mmole)のAR440染料、22.3g(220mmole)のトリエチルアミン及び2.7g(22mmole)のジメチルアミノピリジンを添加する。当該混合物を、この温度で少なくとも4時間撹拌する。当該混合物に、36.4g(320mmole)の2−アミノエタンチオールヒドロクロリド、続いて、64.8g(640mmole)のトリエチルアミンを添加する。その混合物を一晩撹拌し、その間に、窒素雰囲気下で室温まで冷却する。次いで、当該混合物を、氷冷却された余剰の1N塩酸に添加する。これによって、赤みを帯びたポリマー−染料の結合体が沈殿する。当該沈殿物をろ過し、1N HCLで数回、続いて、脱イオン水で洗浄する。次いで、当該混合物を、室温の真空デシケータで乾燥させる。
【0063】
上記染料−ポリマー結合体とpigment red 122との結合は、以下のように実施する。窒素下で100mLの1N NaOHの撹拌溶液に、上述の20gのポリマー−染料結合体を添加する。当該混合物を50℃まで加熱して、完全に溶解させる。この透明なマゼンタ溶液に、2−(4−アミノフェニル)スルホニルエタンスルホナートで既に修飾されたpigment red 122の10%水性分散物400gを添加する。1N NaOHをさらに25mL添加することによって、pHを約12−13まで上げ、そして当該混合物を窒素雰囲気下、室温にて一晩撹拌する。得られる分散物をアクリル酸ナトリウムでキャップし、ダイアフィルトレーションにより精製する。
【実施例2】
【0064】
窒素雰囲気下で、フラスコ中の1リットルの乾燥DMFに、110g(544mmole無水物)のSMA 1000を添加する。その懸濁液を撹拌しながら50℃まで加熱することで、透明な溶液がもたらされる。この溶液に、45.4g(400mmole)の2−アミノエタンチオールヒドロクロリド及び100g(100mmole)のJEFFAMINE XTJ506(ハンツマン社(Huntsman Corporation)から入手できるポリオキシアルキレンアミン分散剤)を添加し、その混合物を窒素雰囲気下で約30分間撹拌する。次いで、101.2g(1mole)のトリエチルアミンを滴下添加する。当該混合物を、次いで、室温まで冷却し、窒素雰囲気下で一晩撹拌する。次いで、当該混合物を、氷冷却された余剰の1N塩酸に添加する。これによって、白色のポリマー沈殿物が生じる。その沈殿物をろ過し、1N HCLで数回、続いて、脱イオン水で洗浄する。次いで、その混合物を室温の真空デシケーターで乾燥させる。
【0065】
窒素下で、700mLの1N NaOHの撹拌溶液に、上述の修飾されたSMAポリマー140gを添加する。当該混合物を50℃まで加熱して、完全に溶解させる。その溶液に、染料reactive blue 19の10%水溶液502g(80mmole)を添加する。1N NaOHをさらに150ml添加することによって、そのpHを約12−13まで上げ、そして当該混合物を窒素雰囲気下、室温にて一晩撹拌する。次いで、当該混合物を、氷冷却された余剰の1N塩酸に添加する。これによって、染料−ポリマー結合体のブルーの沈殿物が生じる。当該沈殿物をろ過し、そして1N HCLで数回、続いて、脱イオン水で洗浄する。次いで、その混合物を、室温の真空デシケーターで乾燥させる。
【0066】
上記の染料−ポリマー結合体とカーボンブラック顔料との結合は、以下のように実行する。窒素下で100mLの1N NaOHの撹拌溶液に、上述の染料−ポリマー結合体20gを添加する。当該混合物を50℃まで加熱して、完全に溶解させる。この透明なブルーの溶液に、2−(4−アミノフェニル)スルホニルエタンスルホナートで既に修飾されたカーボンブラックの10%水性分散物400gを添加する。1N NaOHをさらに25ml添加することによって、そのpHを約12−13まで上げ、そして当該混合物を窒素雰囲気下、室温にて一晩撹拌する。得られる分散物をアクリル酸ナトリウムでキャップし、ダイアフィルトレーションにより精製する。
【0067】
上述の構成は、本発明の原理の応用を単に説明するものであることは分かろう。代表的な実施形態に関して本発明を説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多数の修正及び代替の構成を案出することができる。特許請求の範囲に記載の本発明の原理及び概念から逸脱することなく、多数の修正をなし得ることは、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリマーがそこに共有結合している顔料と、
b)前記ポリマーに共有結合している第1の染料と、
c)前記顔料、前記ポリマー、及び前記第1の染料のうち少なくとも1つに共有結合している分散剤と、
を含んで成る、高分子着色剤。
【請求項2】
前記ポリマーが、無水マレイン酸コポリマー、アクリル酸コポリマー、メタクリル酸コポリマー、アミン又はアルコールを含有するコポリマー、及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項3】
前記ポリマーが、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー、ビニルピロリドン−無水マレイン酸コポリマー、スチレンアクリル酸コポリマー、スチレンメタクリル酸コポリマー、4−ビニルアニリン−アクリル酸コポリマー、4−ビニルアニリン−メタクリル酸コポリマー、及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項4】
前記ポリマーが、連結基を介して前記顔料に結合している、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項5】
さらに、前記ポリマーに共有結合している第2の染料を含む、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項6】
前記第2の染料が、前記第1の染料とは異なる色である、請求項5に記載の高分子着色剤。
【請求項7】
前記顔料が、前記第1の染料とは異なる色である、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項8】
前記分散剤が、前記顔料に結合している、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項9】
前記分散剤が、前記ポリマーに結合している、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項10】
前記高分子着色剤の染料分子/顔料粒子比が、約10マイクロモル/グラム〜約100ミリモル/グラムである、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項11】
さらに、安定化添加剤を含む、請求項1に記載の高分子着色剤。
【請求項12】
a)以下の成分
i)液体ビヒクル、
ii)ポリマーに共有結合しており且つ第1のカラーを有する染料を含むポリマー付着型染料、
iii)第1のカラーとは実質的に異なる色相を有する第2のカラーを有する顔料、
を含むインクジェットインク組成物と、
b)前記インクジェットインク組成物を収容する射出チャンバを備えたインクジェットペンと、
を具備する、インクジェットシステム。
【請求項13】
前記顔料が、ポリマー分散型である、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記顔料が、前記ポリマーと共有結合して高分子着色剤を形成している、請求項12に記載のシステム。
【請求項15】
さらに、前記ポリマーに共有結合している少なくとも2つの異なる染料を含む、請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
高分子着色剤を形成する方法であって、
a)染料をポリマーに結合させてポリマー−染料着色剤を形成するステップ、
b)前記ポリマーを顔料に結合させるステップ、及び
c)前記ポリマー−染料着色剤と前記顔料の少なくとも一方に分散剤を結合させるステップ、
を包含する、方法。
【請求項17】
前記ポリマーが、反応基と反応し得るように構成されている無水物基を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記分散剤が、前記染料を前記ポリマーに結合させる前に、前記ポリマー又は前記顔料に結合される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記染料が、前記ポリマーを前記顔料に結合させる前に、前記ポリマーに結合される、請求項16に記載の方法。

【公開番号】特開2006−124704(P2006−124704A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308030(P2005−308030)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】