説明

食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルム

【課題】 人体に影響が無く安全性の高い抗菌作用と生分解性とを有する食品用フィルム又は成型フィルムの提供。
【解決手段】 生分解性フィルムにイソチアン酸エステル類化合物及び/又はテルペン類化合物のサイクロデキストリン包接物をコーティングしてなる食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生成食品の保存や流通時に、生鮮食品や包装材料に付着又は浮遊している微生物や黴の繁殖を抑制し、食品の品質を保持するのに有効である、環境適合性食品用フィルム又は食品用成型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンビニエンスストアや各種弁当専門店等の繁栄により、各種食品(例えば、弁当、和菓子、ケーキ、惣菜)が製造工場から各店舗に届けられるまでの流通時及び当該食品をユーザが食するまでの期間、当該食品の日持ちを確実に担保する手段が、益々重要になってきている。特に、微生物の増殖やカビ発生は、食中毒の原因にもなるので、これらを抑制することは極めて重要である。
【0003】
ところで、従来、この種の抗菌性食品用フィルムとして、例えば合成樹脂フィルムを製造する際に樹脂中に抗菌性ゼオライト等の無機物を分散させたフィルムがある。しかしながら、このような抗菌性食品用フィルムは、生鮮食品と直接接触した部分では抗菌効果を発揮するものの、生鮮食品と直接接触していない部分においては微生物の繁殖を抑制するのが困難であり、生鮮食品の品質保持が部分的で不十分であるという問題がある。更には、合成樹脂フィルムは、通常、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン等を用いた、そのまま廃棄できない石油系の物質で構成されている。したがって、ユーザにとっては、分別回収を行なう必要があり非常に面倒であると共に、その面倒さ故、例えば、山や海等の観光地においては、前記物質が廃棄され、その結果、国内の多くの観光地が深刻なゴミ問題という悩みを抱えているというのが実情である。
【特許文献1】特開平4−318033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、人体に影響が無く安全性の高い抗菌作用を有する食品用フィルム又は成型フィルムの提供を第一の目的とし、更に、抗菌性に加え生分解性を有する食品用フィルム又は成型フィルムの提供を第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(1)は、生分解性フィルムにイソチアン酸エステル類化合物及び/又はテルペン類化合物のサイクロデキストリン包接物をコーティングしてなる食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルムである。
【0006】
本発明(2)は、紙、レーヨン紙及び不織布から選択される基材が、生分解性接着剤を介して前記生分解性フィルムにドライラミネート加工されている、前記発明(1)の食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルムである。
【0007】
本発明(3)は、更に生分解性インキが使用されている、前記発明(1)又は(2)の食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基本的な構成に関してはすべて生分解性なので、環境に優しく分別回収の必要がない。更に、揮発性で強い刺激臭があったイソチアン酸エステル類等をサイクロデキストリンで包接して無臭化させたものを用いている(常温では無臭で、湿度40%以下では刺激臭が無い)ので、非常に使いやすく安定したフィルム製剤(例えば弁当用フィルム製剤)を提供することを可能にした。加えて、食中毒・カビ・腐敗菌に対し、制菌作用があり、鮮度保持・日持ち向上に優れた効果を発揮する。また、水・水蒸気・湿気に反応し抗菌作用を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本明細書中の各用語の意義について説明すると共に、発明を実施するための最良形態について詳述する。尚、本発明の技術的範囲は、以下で詳述する最良形態に何ら限定されるものではない。
【0010】
イソチアン酸エステル類化合物とは、イソチアン酸エステル及びその誘導体を指し、例えば、イソチオシアン酸アリル、イソチオシアン酸イソアミル、イソチオシアン酸イソブチル、イソチオシアン酸イソプロピル、イソチオシアン酸エチル、イソチオシアン酸ニトロフェニル、イソチオシアン酸フェニル、イソチオシアン酸ブチル、イソチオシアン酸プロピル、イソチオシアン酸ベンジル、イソチオシアン酸メチルを挙げることができ、優れた効果から、イソチオシアン酸アリルがより好適である。
【0011】
テルペン類化合物としては、α−ピネン、L−リモネン、D−リモネン、モノテルペン、セスキテルペン等の炭化水素、テルペンアルコール、テルペンアルデヒド、テルペンケトン、テルペンオキシド、テルペン酸等が好適である。
【0012】
前記イソチアン酸エステル類化合物及び/又は前記テルペン類化合物が包接されるサイクロデキストリンとは、澱粉に酵素(サイクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ)を作用させて得られる環状オリゴ糖であり、グルコース残基の数が6個のα型、7個のβ型、8個のγ型のサイクロデキストリンが一般に使用されるが、その他マルトシルサイクロデキストリン、ジメチルサイクロデキストリンの如き分岐サイクロデキストリンや修飾サイクロデキストリン、又はサイクロデキストリンポリマー等も使用可能である。尚、当該包接化合物は、例えば、0.1〜70重量%のサイクロデキストリン水溶液にイソチオシアネート類化合物及び/又はテルペン類化合物を混合攪拌し、次いで該混合液を噴霧乾燥することにより製造可能である。また、市販品としては、塩水港精糖株式会社からデキシーパールK−100という商品名で入手可能である。
【0013】
生物分解性プラスチックは、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸、ポリアルキレンサクシネート、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエステルカーボネート、ポリアミノ酸、ポリエステルアミド、酢酸セルロース、澱粉、澱粉とPCLとPVAの混合物、キトサン、ポリヒドロキシブチレート/バリレート(PHB/V)等がある。コストや使いやすさ等の理由からポリ乳酸が好適である。
【0014】
生分解性インキは、特に限定されないが、例えば、生分解性のバインダー樹脂、当該バインダー樹脂を可溶化する溶媒、着色顔料又は磁性顔料とから構成されている。ここで、バインダー樹脂としては、例えば、澱粉変性物系や脂肪族ポリエステル系を挙げることができ、澱粉変性物系が好適である。市販品としては、例えば、澱粉変性物系としてはバイオテックカラーHGC(大日精化製)、脂肪族ポリエステル系としてはバイオテックカラーHGP(大日精化製)、ポリ乳酸系としてはバイオテックカラーTE(大日精化製)、また、大豆蛋白質としてはDupont Soy Polymers社製のPro-Cote(登録商標)を挙げることができる。尚、着色顔料及び磁性顔料としては、従来のインキ組成物において用いられているものを適宜選択して使用することができる。例えば、カーミン6B、レッド2B、モノアゾエロー、ジスアゾエロー、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、クロモフタロエロー、クロモフタルレッド等のアゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、ジオキサジンバイオレット、イソインドリノンエローベリレン、ペリノン、フラバントロン、チオインジゴ等の多環式顔料;無機顔料としては、酸化チタン、べんがら、沈降性硫酸バリウム、沈降性炭酸カルシウム、含水珪酸塩、無水珪酸塩、アルミニウム粉、カーボンブラック、パール顔料;磁性顔料としては、いわゆるハード磁性材、例えば磁性酸化鉄、コバルト被着磁性酸化鉄、バリウムフェライト等の高保磁力材等、鉄、ニッケル、クロム等の強磁性金属;いわゆるソフト磁性材、例えばパーマロイ、センダスト等の強磁性合金等の粉末を挙げることができる。
【0015】
生分解性接着剤も、特に限定されず、例えば、ポリ乳酸系接着剤としてバイオテックDL E−L(大日精化製)、Dupont Soy Polymers社製のPro-Cote(登録商標)の水溶液、ランディPL−1000(ミヨシ油脂株式会社製)、ランディPL−2000(ミヨシ油脂株式会社製)が使用可能である。
【0016】
本明細書にいう「抗菌」は、「殺菌」及び/又は「制菌」を意味し、更に「菌」は、カビ類等の微生物全般を含む。
【0017】
次に、食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルムの製造方法について説明する。まず、生分解性フィルムを準備する。このフィルムに対し、イソチアン酸エステル類化合物及び/又はテルペン類化合物のサイクロデキストリン包接物溶液を塗布する。ここで、前記サイクロデキストリン包接物溶液の塗布方法は、特に制限されず、例えば、刷毛塗り、グラビアコーター、スプレー加工、ロールコーターを用いた方法、ディッピング法等がある。そして、塗布後、乾燥させて溶媒を除去することにより、前記サイクロデキストリン包接物の皮膜(コート層)がフィルム表面に形成される。尚、コーティングする範囲は、フィルム全体であっても一部であってもよい。
【0018】
また、前記サイクロデキストリン包接物の皮膜を形成する前に、フィルム表面に生分解性インキ層を形成させてもよい。この生分解性インキ層は、所定事項や図柄を印刷したり、ケースを着色等したりするために設けられる。
【0019】
更に、前記フィルムに所定の基材(紙、レーヨン紙及び不織布)を生分解性接着剤で接着して積層体(ラミネート)を形成させてもよい。この場合、生分解性インキ層は、フィルム側に形成させても所定の基材上に形成させてもよい。また、積層方法は、使用する生分解性接着剤の種類やスペックに基づき、一般に行なわれる手法(例えばドライラミネート加工)で可能である。
【0020】
次に、図1〜図4を参照しながら、本発明に係る食品用抗菌生分解性フィルム及び食品用抗菌生分解性成型フィルムを説明する。尚、図中、1は生分解性フィルム、2は生分解性インキ層、3はサイクロデキストリン包接物層、4は生分解性接着剤層、5は基材である。まず、図1及び図3を参照しながら、本発明に係る食品用抗菌生分解性フィルムを説明する。当該フィルムAは、生分解性フィルム1の一方の面に生分解性インキ層2が形成されており、更に前記層2にサイクロデキストリン包接物層3が形成されている。ここで、各フィルムや層の厚みは限定されず、例えば、10μ〜50μmの範囲である。そして、当該フィルムAは、図3に示すように、例えば、弁当容器内の食材の上に置く形で利用される。次に、図2及び図4を参照しながら、本発明に係る食品用抗菌生分解性成型フィルムを説明する。当該フィルムBは、一方の面に生分解性インキ層2が形成された生分解性フィルム1が、生分解性接着剤層4を介して基材5とラミネートされており、更に、当該積層体の表面にサイクロデキストリン包接物層3が形成されている。ここで、各フィルムや層の厚みは限定されず、図Aの態様と同じく、例えば、10μ〜50μmの範囲である。成型用は厚みに限定しない。そして、当該フィルムBは、図4に示すように、例えば、カップ等の食品を入れる容器として利用される。尚、本発明のフィルムや成型フィルムの形状は、図示した形状に限定されず、例えば、フィルムに関しては、波状、円形状、三角状、成型フィルムに関しては、角柱状、ひだ状等を含め、どのような形状でもよい。
【0021】
尚、本発明に係るフィルムの用途としては、例えば、弁当用抗菌シート・おせち用抗菌シート・フィルムケース(和菓子・洋菓子・惣菜用)を挙げることができる。また、使用に際しては、特にフィルムケースはサイクロデキストリン包接物のコート面を内側にすることで、食品(例えば惣菜)自身の抗菌効果が向上し、外側に向ければ弁当容器全体に抗菌効果をもらたすことができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
製造例1(食品用抗菌生分解性フィルム)
20重量%のサイクロデキストリン水溶液にイソチアン酸アリルをサイクロデキストリン固形分に対して11重量%混合攪拌して包接化合物水溶液を得た後、ポリ乳酸二軸延伸フィルム(商品名「エコロージュ」、三菱樹脂株式会社製、融点155〜175℃)の表面に塗布し、乾燥させて10〜30μm厚のコート層を形成させ、本例のフィルムを得た。尚、前記ポリ乳酸二軸延伸フィルムの塗布面には、事前に、バイオテックカラーHGC(大日精化製)を用いて周知手段で模様を付したものを用いた。
【0023】
製造例2(食品用抗菌生分解性成型フィルム)
バイオテックカラーHGC(大日精化製)を用いて周知手段で模様を付したポリ乳酸二軸延伸フィルム(商品名「エコロージュ」、三菱樹脂株式会社製、融点155〜175℃)の表面(模様を付した側)にランディPL−2000(ミヨシ油脂株式会社製)を塗布して乾燥させた後、レーヨンパルプ紙を重ねてローラで両者を挟んで加圧加熱成型して積層体を得た。次に、20重量%のサイクロデキストリン水溶液にイソチアン酸アリルをサイクロデキストリン固形分に対して11重量%混合攪拌して包接化合物水溶液を得た後、前記積層体の表面(紙側)に塗布し、乾燥させて10〜30μm厚のコート層を形成させ、本例の成型フィルムを得た。
【0024】
試験例1(抗菌試験)
製造例1のフィルム及び製造例2の成型フィルムに関して、抗菌性の評価を行った。ここで、抗菌性試験は、サンプルを20×20cm大に製袋して、その中にマグロドリップを混釈した液体培地シャーレを入れて10℃で48時間放置した後、液体培地中の生菌数を測定して抗菌効果の有無を調査し、〇は抗菌効果が認められることを示し、×は認められないことを示している。結果を表1に示す。
【0025】
試験例2(生分解性試験)
製造例1のフィルム及び製造例2の成型フィルムに関して、抗菌性の評価を行った。ここで、生分解性試験は、10cm×10cm、厚さ0.2cmの平板フィルムを調製し、このフィルムを土中に埋設して、生分解性をその重量変化によって調べた。重量の減少(2ヶ月後の重量減量率%)は、平板フィルムが生分解を受ける程度を示す。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本最良形態に係る食品用抗菌生分解性フィルムAの一例を示したものである。
【図2】図2は、本最良形態に係る食品用抗菌生分解性成型フィルムBの一例を示したものである。
【図3】図3は、弁当箱中の惣菜とごはんの上に食品用抗菌生分解性フィルムAを乗せた例を示したものである。
【図4】図4は、カップ状の食品用抗菌生分解性成型フィルムB内にケーキが入っている例を示したものである。
【符号の説明】
【0028】
1 生分解性フィルム
2 生分解性インキ層
3 サイクロデキストリン包接物層
4 生分解性接着剤層
5 基材
6 惣菜
7 ごはん

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性フィルムにイソチアン酸エステル類化合物及び/又はテルペン類化合物のサイクロデキストリン包接物をコーティングしてなる食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルム。
【請求項2】
紙、レーヨン紙及び不織布から選択される基材が、生分解性接着剤を介して前記生分解性フィルムにラミネート加工されている、請求項1記載の食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルム。
【請求項3】
更に生分解性インキが使用されている、請求項1又は2の食品用抗菌生分解性フィルム又は食品用抗菌生分解性成型フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−199852(P2006−199852A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13965(P2005−13965)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年1月20日 大日精化工業株式会社がインターネットアドレス(http://www.daicolor.co.jp/release/release2005/r050120.html)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年1月21日 「化学工業日報」に発表
【出願人】(501272731)株式会社ティー・ティー・シー (7)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】