説明

駆動リングの製造方法、駆動リング、および駆動リングを用いた可変ノズル機構

【課題】耐摩耗性および耐久信頼性を向上できる駆動リングの製造方法を提供する。
【解決手段】製造段階の駆動リング10である被加工物W10を円環状に成形する円環成形工程と、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12のいずれか一方を、ブリッジ部W11および内周部W12の他方に対して折り曲げる塑性加工を行い、駆動リング10のブリッジ部11および内周部12を成形する外周部成形工程と、被加工物W10のアーム溝W13・W13・・・および駆動リンク溝W14に塑性加工を行う嵌合部加工工程と、を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の部材を同期させて動作させるための駆動リングの製造方法、駆動リング、および駆動リングを用いた可変ノズル機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の嵌合部が形成され、当該各嵌合部に所定の部材を嵌合させた状態で回動することで、前記所定の部材を同期させて動作させる駆動リングが知られている。
【0003】
このような駆動リングとしては、例えば、特許文献1に開示される調整リング(駆動リング)がある。特許文献1に開示される駆動リングは、その内周部分に複数の係合凹部(嵌合部)が形成される。各係合凹部には、複数のブレードレバーの頭部が係合する。また、ブレードレバーには、ガイドブレード(VNベーン)と連結するブレード軸が取り付けられる。
このような駆動リングを回動させた場合、各ブレードレバーおよび各ガイドブレードがそれぞれ同期して回動する。
【0004】
このような駆動リングは、一般的に略板状の金属部材を、前記駆動リングの形状に沿って打ち抜くことで製造されている。
しかし、このようにして製造された駆動リングでは、ブレードレバーの頭部と係合する係合凹部の磨耗度合いが比較的大きく、また、駆動リングの疲労強度向上も望めない。そのため、ガイドブレード制御の更なる高精度化や板厚減少による更なる小型・軽量化が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−526939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、耐摩耗性および耐久信頼性を向上できる駆動リングの製造方法、駆動リング、および駆動リングを用いた可変ノズル機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1においては、円環状に形成される外周部と、前記外周部の軸方向における一端側から、前記外周部の形状に沿って径方向内側に延出する内周部と、前記内周部から前記外周部の一部まで窪んだ形状を有する複数の嵌合部とが形成され、前記各嵌合部にて所定の部材と嵌合し、前記所定の部材を同期させて動作させる駆動リングの製造方法であって、製造段階の前記駆動リングである被加工物を円環状に成形する円環成形工程と、前記被加工物の前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分のいずれか一方を、前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分の他方に対して折り曲げる塑性加工を行い、前記駆動リングの外周部および内周部を成形する外周部成形工程と、前記被加工物の前記嵌合部に対応する部分に塑性加工を行う嵌合部加工工程と、を行う、ものである。
【0008】
請求項2においては、前記円環成形工程は、板状の被加工物を前記駆動リングの前記外周部の軸方向に沿った寸法および前記内周部の径方向に沿った寸法に基づいて、円環状に打ち抜くことで行われる、ものである。
【0009】
請求項3においては、嵌合部加工工程は、前記被加工物の両端部が当接するように前記被加工物を円環状に曲げることで行われる、ものである。
【0010】
請求項4においては、円環状に形成される外周部と、前記外周部の軸方向における一端側から、前記外周部の形状に沿って径方向内側に延出する内周部と、前記内周部から前記外周部の一部まで窪んだ形状を有する複数の嵌合部とが形成され、前記各嵌合部にて所定の部材と嵌合し、前記所定の部材を同期させて動作させる駆動リングであって、前記駆動リングは、製造段階の前記駆動リングである被加工物を円環状に成形することで、円環状に成形され、前記外周部および前記内周部は、前記被加工物の前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分のいずれか一方を、前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分の他方に対して折り曲げる塑性加工を行うことで成形され、前記被加工物の前記嵌合部に対応する部分には、塑性加工が行われる、ものである。
【0011】
請求項5においては、前記駆動リングは、板状の被加工物を前記駆動リングの前記外周部の軸方向に沿った寸法および前記内周部の径方向に沿った寸法に基づいて打ち抜くことで、円環状に成形される、ものである。
【0012】
請求項6においては、前記嵌合部に対応する部分に行う塑性加工として、前記被加工物の両端部が当接するように前記被加工物を円環状に曲げる、ものである。
【0013】
請求項7においては、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の駆動リングを用いた可変ノズル機構であって、前記嵌合部に一端部が嵌合され、前記駆動リングの回動によって他端部を中心に回動するベーンアームと、前記ベーンアームの他端部側に回動可能に支持される軸部が形成され、前記駆動リングの回動によって、前記軸部を中心に回動するVNベーンと、前記嵌合部に一端部が嵌合され、他端部の回動により、前記駆動リングを回動させる駆動リンクと、を備え、前記ベーンアームおよび前記駆動リンクの一端部は、前記嵌合部の前記外周部側に嵌合される、ものである
【発明の効果】
【0014】
本発明は、駆動リングを成形するときに、嵌合部を加工硬化させるとともに駆動リングに対して残留圧縮応力を付与できるため、耐摩耗性および耐久信頼性を向上できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】駆動リングの斜視図。
【図2】図1におけるA方向矢視図。
【図3】駆動リングの製造方法を示す説明図。
【図4】被加工物の断面図。
【図5】駆動リングの外周部および内周部を成形する変形例を示す図。(a)内周部を折り曲げる説明図。(b)被加工物の断面図。
【図6】駆動リングを用いたVN機構を示す斜視図。
【図7】駆動リングとベーンアームとの嵌合部分を示す図。
【図8】別実施形態の駆動リングの製造方法を示す説明図。
【図9】溶接部と駆動リンクとの位置関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、駆動リング10の製造方法について図面を参照して説明する。
本実施形態の駆動リング10は、説明の便宜上、ターボチャージャーに設けられる可変ノズル機構(VN(Variable Nozzle)機構、以下、「VN機構」と表記する)に用いられるものとする(図6参照)。
【0017】
まず、駆動リング10について説明する。
駆動リング10は、所定の部材を同期させて動作させるものである。図1に示すように、駆動リング10には、ブリッジ部11、内周部12、複数のアーム溝13・13・・・、および駆動リンク溝14が形成される。
【0018】
ブリッジ部11は、駆動リング10の外周部であり、連続した円環形状に形成される。
【0019】
内周部12は、駆動リング10の軸方向におけるブリッジ部11の一端側から、ブリッジ部11の形状に沿って駆動リング10の径方向の内側に延出する。
【0020】
従って、駆動リング10の軸方向に沿う方向より駆動リング10を見た場合、ブリッジ部11が駆動リング10の径方向外側に位置するとともに、内周部12が駆動リング10の径方向内側に位置するような、略円環状となる。
また、駆動リング10の径方向に沿う方向より駆動リング10を見た場合、駆動リング10の軸方向一端側にブリッジ部11が位置するとともに、駆動リング10の軸方向他端側に内周部12が位置するような、略長方形状となる。
【0021】
つまり、駆動リング10の軸方向に沿った断面形状は、ブリッジ部11と内周部12とで略直角となるような略L字状(階段形状)となる(図4参照)。
【0022】
図1および図2に示すように、各アーム溝13・13・・・は、それぞれ駆動リング10に所定の部材を嵌合させるものである。各アーム溝13・13・・・は、それぞれ内周部12の径方向内側の端部より径方向外側の端部まで窪むとともに、ブリッジ部11に向かってさらに窪んでいる。
すなわち、各アーム溝13・13・・・は、それぞれ内周部12からブリッジ部11の一部まで窪んでいる。
【0023】
つまり、駆動リング10は、軸方向における内周部12が形成される側において、その径方向に開放している。また、各アーム溝13・13・・・が形成される部分にて、ブリッジ部11は、その軸方向の長さが短くなる(図2に示す符号L1・L2参照)。
【0024】
このように各アーム溝13・13・・・を形成することで、それぞれ駆動リング10の径方向外側の端部にて、所定の部材と嵌合したときに、ブリッジ部11が干渉しない。従って、各アーム溝13・13・・・は、それぞれ駆動リング10の径方向外側の端部にて、所定の部材と嵌合可能に構成される。
【0025】
図1に示すように、各アーム溝13・13・・・は、それぞれ駆動リング10の軸心を中心に、等間隔に位相をずらした状態で、駆動リング10に形成される。本実施形態の各アーム溝13・13・・・は、それぞれ36°ずつ位相をずらした状態で十箇所に形成される。
【0026】
駆動リンク溝14は、駆動リング10を動作させるための部材と嵌合して、駆動リング10の回動支点となるものである。駆動リンク溝14は、隣接するあるアーム溝13とアーム溝13との間に配置され、アーム溝13と略同一の形状に形成される。
【0027】
つまり、駆動リング10は、各溝13・14が形成される部分を除いて、その軸方向に沿った断面形状が略L字状となる。
【0028】
このように構成される駆動リング10は、各溝13・14に所定の部材を嵌合させ、駆動リンク溝14と嵌合する部材からの駆動トルクを受けて回動する。
つまり、各溝13・14は、所定の部材を同期させて動作させるために、所定の部材と嵌合する複数の嵌合部として機能する。
【0029】
次に、このような駆動リング10を製造する駆動リング10の製造方法について説明する。本実施形態の駆動リング10の製造方法では、薄い略板状の金属部材を加工して駆動リング10を製造する。
なお、以下では、説明の便宜上、製造段階にある駆動リング10、つまり、前記略板状の金属部材や製造途中の金属部材を「被加工物W10」と表記する。
【0030】
まず、駆動リング10の製造方法では、図3に示すように、所定の厚さに圧延された略板状の被加工物W10を、所定の打ち抜き加工機等で略円環状に打ち抜く(図3に示す符号S11参照)。
このような略板状の被加工物W10は、その長手方向および短手方向の長さが、駆動リング10の外径寸法よりも大きな形状の金属部材によって構成される。
【0031】
なお、被加工物W10は、必ずしも圧延された金属部材を用いる必要はなく、例えば、焼結によって成形された略板状の金属部材等を用いても構わない。
【0032】
これにより、被加工物W10を略円環状に成形する。この時点の被加工物W10は、その径方向に沿う面が平らな略円環状である。
従って、被加工物W10をその径方向外側から見た場合、駆動リング10のブリッジ部11に対応する部分および内周部12に対応する部分(以下、「被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12」と表記する)が重なった状態の略長方形状となる。
つまり、被加工物W10は、ブリッジ部W11だけが見える状態であり、その軸方向に沿った断面形状が略長方形状である(図3に示す符号S12時点の被加工物W10参照)。
本例においては、この状態の被加工物W10は、径方向における内周縁から外周縁までの寸法が厚み寸法よりも大きく形成されている。
【0033】
このように、駆動リング10の製造方法では、略板状の被加工物W10を打ち抜くような塑性加工を行う。これにより、被加工物W10全体が加工硬化される。
【0034】
被加工物W10を打ち抜いた後で、所定の曲げ加工機等で、略円環状に成形された被加工物W10のブリッジ部W11を内周部W12に対して折り曲げて、ブリッジ部W11が内周部W12に対して略垂直となるように成形する(図3に示す符号S12参照)。つまり、略円環状に成形した被加工物W10に対して塑性加工を行って、駆動リング10のブリッジ部11および内周部12を成形する。
【0035】
このような塑性加工を行うことにより、曲げられた被加工物W10のブリッジ部W11、すなわち、駆動リング10のブリッジ部11がさらに加工硬化される(図3に示す加工硬化部位W16参照)。
また、被加工物W10の内周部W12の径方向外側の端部、すなわち、駆動リング10の内周部12の径方向外側の端部も、さらに加工硬化される(図3に示す加工硬化部位W15・W16参照)。
【0036】
さらに、図4に示すように、被加工物W10のブリッジ部W11を曲げることによって、被加工物W10の曲げた部分に、圧縮残留応力が付与される(図4に示す圧縮残留応力発生部位W17(17)参照)。
【0037】
このようなブリッジ部11および内周部12の加工硬化および駆動リング10への圧縮残留応力の付与により、駆動リング10の疲労強度が向上する。従って、駆動リング10の耐久信頼性を向上できる。
【0038】
この時点の被加工物W10には、アーム溝13・13・・・が成形されていない。従って、被加工物W10の軸方向に沿った断面形状は、どの位置においても略L字状となる。
【0039】
なお、図5(a)に示すように、略円環状に成形された被加工物W10の内周部W12をブリッジ部W11に対して折り曲げても構わない。この場合、図5(b)に示すように、駆動リング10の内周部12およびブリッジ部11の内周部12側の端部が、他の部分よりもさらに加工硬化される(図5(b)に示す加工硬化部位W15(15)・W16(16)参照)。また、ブリッジ部11および内周部12には圧縮残留応力が付与される。
なお、この場合における折り曲げ加工がなされる前の被加工物W10は、厚み寸法が径方向における内周縁から外周縁までの寸法よりも大きく形成されている。
【0040】
つまり、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12は、どちらを折り曲げても構わない。
【0041】
このように、駆動リング10の製造方法では、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12のいずれか一方を、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12の他方に対して折り曲げる塑性加工を行い、駆動リング10のブリッジ部11および内周部12を成形する外周部成形工程を行う。
また、ブリッジ部11および内周部12は、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12のいずれか一方を、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12の他方に対して折り曲げる塑性加工を行うことで成形される。
【0042】
また、図3に示すように、略円環状に成形した時点の被加工物W10のブリッジ部W11は、その径方向の寸法が、駆動リング10のブリッジ部11の軸方向の寸法に対応する(図3に示す符号S12・S13時点の被加工物W10参照)。
【0043】
このように、駆動リング10の製造方法では、被加工物W10を円環状に成形する円環成形工程を行う。当該円環成形工程は、板状の被加工物W10を駆動リング10のブリッジ部11の軸方向に沿った寸法および内周部12の径方向に沿った寸法に基づいて、円環状に打ち抜くことで行われる。
また、駆動リング10は、板状の被加工物W10を駆動リング10のブリッジ部11の軸方向に沿った寸法および内周部12の径方向に沿った寸法に基づいて打ち抜くことで、円環状に成形される。
【0044】
略リング状の被加工物W10を折り曲げた後で、所定の打ち抜き加工機等により、被加工物W10の内周部W12の一部を打ち抜く(図3に示す符号S13参照)。
これにより、被加工物W10の内周部W12に各アーム溝13・13・・・および駆動リンク溝14に対応する部分(以下、「被加工物W10の各アーム溝W13・W13・・・および駆動リンク溝W14」と表記する)を成形する(図3に示す符号S14参照)。
【0045】
ここで、前述のように、略板状の被加工物W10を打ち抜いたときに、被加工物W10全体が加工硬化されている(図3に示す符号S11参照)。従って、被加工物W10の各溝W13・W14は、それぞれ略板状の被加工物W10を打ち抜いた時点で塑性加工が行われ、加工硬化されることとなる。
また、前述のように、略円環状の被加工物W10を曲げたとき、その内周部W12の径方向外側の端部がさらに加工硬化されている。
【0046】
このように、被加工物W10を打ち抜いて略円環状の被加工物W10を成形する工程は、被加工物W10の各溝W13・W14に塑性加工を行う嵌合部加工工程として機能する。
また、被加工物W10の各溝13・14には、被加工物W10を打ち抜いて略円環状の被加工物W10を成形する塑性加工が行われる。
【0047】
これによれば、各溝13・14を全体的に加工硬化できるとともに、その径方向外側の端部をさらに加工硬化できる(図3に示す加工硬化部位W15・W16参照)。
【0048】
このような各溝13・14の加工硬化により、各溝13・14に他の部材を嵌合させたときの、各溝13・14の摩耗を低減できる。つまり、駆動リング10の耐磨耗性を向上できる。
特に、被加工物W10を曲げたときにさらに加工硬化される部分である、各溝13・14の径方向外側の端部において、駆動リング10の耐摩耗性をさらに向上できる。
【0049】
また、前述のように、ブリッジ部11の軸方向の長さは、各溝13・14が形成される部分の方が、各溝13・14が形成されない部分よりも、短くなる(図2に示す符号L1・L2参照)。このような、軸方向の長さが短くなる部分は、ブリッジ部11における疲労強度が低下する部分となる。
【0050】
駆動リング10の製造方法では、前述したような加工硬化および圧縮残留応力の付与により、駆動リング10の疲労強度を向上させている。
つまり、駆動リング10の製造方法では、各溝13・14をブリッジ部11の一部まで窪ませることで発生するブリッジ部11の部分的な疲労強度の低下を、このような加工硬化および残留圧縮応力によって抑制している。
【0051】
これによれば、ブリッジ部11の疲労強度が部分的に低下することなく各溝13・14を、ブリッジ部11の一部まで窪ませることができる。従って、ブリッジ部11の疲労強度を充分に確保した状態で、各溝13・14の径方向外側の端部に、所定の部材を嵌合可能な駆動リング10を製造できる。
【0052】
本実施形態では、略板状の被加工物W10を略円環状に打ち抜くことで、被加工物W10の各溝W13・W14を加工硬化させている。このような場合には、略円環状の被加工物W10を削ることで、各溝W13・W14を成形しても構わない。
つまり、被加工物W10の各溝W13・W14は、それぞれ少なくとも一回塑性加工を行って、その側面を加工硬化させればよい。
【0053】
仮に、略板状の被加工物W10を削って略円環状に成形した場合、被加工物W10の各溝W13・W14を打ち抜いて成形すればよい。このような場合には、各溝W13・W14を成形する工程が嵌合部加工工程として機能する。
ただし、被加工物W10をより広範囲に加工硬化できるという観点より、板状の被加工物W10を打ち抜くことで、略円環状に成形することが好ましい。
【0054】
また、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12を成形する工程と、各溝W13・W14を成形する工程とを行う順番は、本実施形態に限定されるものでない。すなわち、各溝W13・W14を成形した後で、被加工物W10のブリッジ部W11および内周部W12を成形しても構わない。
【0055】
以下では、駆動リング10の製造方法によって製造される駆動リング10を、ターボチャージャーの排気ガス流量を調整するVN機構1で用いた場合に、駆動リング10がVN機構1およびターボチャージャーに与える効果について説明する。
【0056】
図6および図7に示すように、VN機構1は、駆動リング10、複数のベーンアーム20・20・・・、VNプレート30、複数のVNベーン40・40・・・、および駆動リンク50を具備する。
【0057】
駆動リング10は、各アーム溝13・13・・・にて各ベーンアーム20・20・・・と嵌合するとともに、駆動リンク溝14にて駆動リンク50と嵌合する。
【0058】
各ベーンアーム20・20・・・は、それぞれ一端部21が各アーム溝13・13・・・に嵌合され、他端部にて各VNベーン40・40・・・の軸部41を支持する。つまり、各ベーンアーム20・20・・・の一端部21は、それぞれ各アーム溝13・13・・・の側面と接触する。
また、各ベーンアーム20・20・・・の一端部21は、それぞれ各アーム溝13・13・・・の径方向外側(ブリッジ部11側)にて、各アーム溝13・13・・・に嵌合される(図2参照)。
【0059】
VNプレート30は、駆動リング10よりも大きな外径を有する略円環状に形成され、駆動リング10の軸方向において、駆動リング10と各VNベーン40・40・・・との間に配置され、駆動リング10等を支持する。
【0060】
各VNベーン40・40・・・は、それぞれ駆動リング10の軸方向に延出する軸部41が形成される。各VNベーン40・40・・・は、それぞれ軸部41の一端部が各ベーンアーム20・20・・・の他端部に回動可能に支持されるとともに、他端部が支持プレートに回動可能に支持される。各VNベーン40・40・・・は、それぞれ図6におけるVNプレート30の裏側に位置する。
なお、図6においては、図面を見易くするために、一部のVNベーン40だけを記載しているが、実際には、一つのベーンアーム20に一つのVNベーン40が支持される。
【0061】
また、図6におけるVNプレート30の裏側にターボチャージャーの排気ガス流路が形成され、各VNベーン40・40・・・は、それぞれ前記排気ガス流路上に配置される。
【0062】
駆動リンク50は、その一端部51が駆動リンク溝14に嵌合され、他端部が正逆回転可能なモータに連結される。
また、駆動リンク50の一端部51は、ベーンアーム20の一端部21と同様に、駆動リンク溝14の径方向外側にて、駆動リンク溝14に嵌合される(図2参照)。
【0063】
前記モータの回動により、駆動リンク50の他端部を中心に駆動リンク50の一端部51が回動する。駆動リング10は、前記駆動リンク50の他端部の回動による駆動トルクを受けて回動する。
このとき、各ベーンアーム20・20・・・は、それぞれその一端部21にトルクがかかり、その他端部を中心に回動する。当該各ベーンアーム20・20・・・の回動に伴って各VNベーン40・40・・・は、それぞれ軸部41を中心に回動する。
【0064】
このように、駆動リング10は、回動することによって、各溝13・14に嵌合される各ベーンアーム20・20・・・や各VNベーン40・40・・・や駆動リンク50等を同期させて回動(動作)させる。
【0065】
VN機構1は、このような駆動リング10の回動により、各VNベーン40・40・・・の角度(開度)を調整することで、ターボチャージャーの排気ガス流量を調整する。
【0066】
このようなVN機構1に、駆動リング10を用いた場合、各ベーンアーム20・20・・・の一端部21を、駆動リング10の軸方向から見たときに、ブリッジ部11と重なるように配置できる。
【0067】
仮に、従来技術にあるような駆動リングを用いた場合、当該駆動リングの外径寸法は、耐久信頼性等の観点から、前記駆動リング10の中心からベーンアーム20の一端部21までの長さよりも充分に長くなる。
一方、本実施形態の駆動リング10を用いた場合、駆動リング10の外径寸法を、駆動リング10の中心からベーンアーム20の一端部21までの長さよりもやや長い程度の長さ寸法に設定できる。
【0068】
つまり、駆動リング10の外径寸法を小さく設定できるため、VN機構1を収容するハウジング等を小型化できる。
【0069】
このように、本実施形態の駆動リング10を、ターボチャージャーのVN機構1に用いた場合には、VN機構1の形状を小さくできるため、ターボチャージャーを小型化できる。これに伴って、ターボチャージャーを低コスト化できる。
【0070】
次に、駆動リング10の製造方法の別実施形態について説明する。なお、以下では、説明の便宜上、本実施形態の駆動リング10と略同一形状の駆動リング110を製造するものとする。また、別実施形態の駆動リング110は、前記VN機構1に用いるものとする。
【0071】
まず、別実施形態の駆動リング110の製造方法では、図8に示すように、長手方向の長さに対して短手方向の長さが短い略短冊状の金属部材を曲げる。より詳細には、略短冊状の被加工物W110(金属部材)の両端部が当接するように、被加工物W110を略円環状に曲げる(図8に示す符号S111・S112参照)。
【0072】
このように曲げられる略短冊状の被加工物W110は、駆動リング110の外径等に基づいてその長手方向の長さ寸法が適宜設定され、駆動リング110のブリッジ部111および内周部112の形状等に基づいて、その短手方向の長さ寸法が適宜設定される。
【0073】
略円環状に被加工物W110を曲げた後で、被加工物W110の当接する一端面を溶接によって接合することで、被加工物W110を略円環状に成形する(図8に示す符号S112参照)。つまり、別実施形態の駆動リング110の製造方法では、被加工物W110に溶接部W118が形成されることとなる。
【0074】
このように略短冊状の被加工物W110を折り曲げて略円環状に成形する場合、被加工物W110全体を曲げることとなる。従って、被加工物W110全体が加工硬化されることとなる(図8に示す符号S113参照)。
このように被加工物W110全体を曲げた場合には、被加工物W110全体が、本実施形態の加工硬化部位W16と略同程度に加工硬化される(図8に示す加工硬化部位W116参照)。すなわち、被加工物W110は、本実施形態の被加工物W10と比較して、内周部W112がさらに加工硬化される。
【0075】
このように、被加工物W110の各溝W113・W114は、それぞれ略短冊状の被加工物W110を曲げた時点で、塑性加工が行われ、加工硬化される。
特に、各溝W113・W114は、それぞれその径方向内側の端部においても、本実施形態の加工硬化部位W16と略同程度に加工硬化される(図3に示す加工硬化部位W16および図8に示す加工硬化部位W116参照)。
【0076】
このように、被加工物W110を略円環状に曲げる工程は、被加工物W110の両端部が当接するように被加工物W110を略円環状に曲げる嵌合部成形工程として機能する。
また、被加工物W110のアーム溝W113・W113・・・には、それぞれ被加工物W110の両端部が当接するように被加工物W110を略円環状に曲げるような塑性加工が行われる。
【0077】
被加工物W110を略円環状に成形した後は、本実施形態の駆動リング110の製造方法と同様である。すなわち、被加工物W110のブリッジ部W111を内周部W112に対して曲げた後で、各溝W113・W114を成形する(図8に示す符号S114・S115参照)。
【0078】
これによれば、駆動リング110の内周部112全体を、本実施形態の加工硬化部位16のような状態まで加工硬化できる。(図3に示す加工硬化部位W15・W16および図8に示す加工硬化部位W116参照)。
従って、本実施形態の駆動リング10と比較して、各溝113・114を、駆動リング110の径方向内側の端部から径方向外側の端部までさらに加工硬化できる。つまり、駆動リング110の耐摩耗性をさらに向上できる。
【0079】
本実施形態の駆動リング10の製造方法のように略板状の被加工物W10を打ち抜いた場合には、打ち抜いた部分以外の部分が無駄になる。一方、略短冊状の被加工物W110を曲げる場合には、無駄になる部分がない(図3に示す符号S11および図8に示す符号S111参照)。
また、本実施形態の打ち抜きよりも、別実施形態のように被加工物W110を曲げる方が、材料歩留まりがよい。
【0080】
つまり、別実施形態の駆動リング110の製造方法は、無駄なく駆動リング10を製造できるとともに、歩留まりを向上できるため、本実施形態の駆動リング10の製造方法と比較して、より低コストな駆動リング110を製造できる。
【0081】
なお、別実施形態の駆動リング110の製造方法では、最初に被加工物W110を略円環状に成形したが、これに限定されるものでない。
すなわち、駆動リング110の軸方向に沿った断面形状が略L字状となるように略短冊状の被加工物W110を折り曲げた後で、当該被加工物W110の両端部を曲げて略円環状に成形しても構わない。
【0082】
この場合、被加工物W110を折り曲げた際に被加工物W110のブリッジ部W111および内周部W112の径方向外側の端部が加工硬化される。そして、略円環状に曲げた際に被加工物W110の内周部W112がさらに加工硬化される。つまり、被加工物W110全体が加工硬化される。
【0083】
また、被加工物W110の各溝W113・W114の成形を行う工程は、必ずしも最後に行う必要はなく、例えば、最初に行っても構わない。
【0084】
そして、被加工物W110の両端部を曲げることで、各溝W113・W114が加工硬化されるため、被加工物W110の各溝W113・W114の成形を行う工程では、被加工物W110を打ち抜いてもよく、被加工物W110を削っても構わない。
【0085】
つまり、別実施形態において、被加工物W110を加工する順番は、どのような順番であっても構わない。
【0086】
このような別実施形態の駆動リング110の製造方法を用いて製造される駆動リング110を、前述したようなVN機構1に用いた場合には、溶接部118が各VNベーン40・40・・・の調整精度に影響を与える可能性がある。つまり、各VNベーン40・40・・・が本来想定する開度とは異なる開度となる可能性がある。
【0087】
これは、溶接部W118の近傍に駆動リンク溝114を形成した場合、溶接歪の近傍を支点として駆動リング110が回動することに起因する。
【0088】
また、前述のように、溶接部118の近傍に駆動リンク溝114を成形した場合、駆動リング110の耐久信頼性が低下する可能性がある。
これは、溶接部118が駆動リング110の他の部分と比較して、相対的に強度が低くなる点、および駆動リング110の回動において駆動リンク50の近傍(つまり、駆動リンク溝114の近傍)に高い応力が作用する点に起因する。
【0089】
つまり、別実施形態の駆動リング110の製造方法においては、以下のように駆動リンク溝W114を成形することが好ましい。
【0090】
すなわち、被加工物W110の駆動リンク溝W114を成形する前に被加工物W110の溶接部W118を検出する。
【0091】
そして、当該溶接部W118が駆動リンク溝W114より離れた位相に位置するように位置決めした状態で、各溝W113・W114を成形する(図8の駆動リンク溝W114および溶接部W118参照)。
【0092】
仮に、最初に各溝W113・W114を成形する場合、略短冊状の被加工物W110の中央部、つまり、被加工物W110の両端部(溶接部分)から離間する位置に駆動リンク溝W114を成形する。
【0093】
また、駆動リング110を回動させる際に作用する応力は、駆動リンク溝114を中心に約160°の範囲において高くなる。
【0094】
従って、図9に示すように、駆動リンク溝114は、溶接部118の反対側の位相を中心に、約160°の範囲に成形することが好ましい。言い換えれば、溶接部118は、駆動リンク溝114の反対側の位相を中心に、約200°の範囲に成形されることが好ましい。
つまり、駆動リンク溝114の反対側の位相を中心に、図9において時計回り方向および反時計回り方向に約100°の位相までの範囲に溶接部118が位置するように、駆動リンク溝114を成形することが好ましい(図9に示す範囲R参照)。
【0095】
これによれば、駆動リング110が溶接歪の近傍を支点として回動せず、また、溶接部118に対して高い応力が作用しない。従って、前述したような各VNベーン40・40・・・の調整精度の低下および駆動リング110の耐久信頼性の低下を抑制できる。
【0096】
なお、駆動リング10(駆動リング110)は、VN機構1に用いたが、必ずしもこれに限定されるものでない。
【符号の説明】
【0097】
10 駆動リング
11 ブリッジ部(外周部)
12 内周部
13 アーム溝(嵌合部)
14 駆動リンク溝(嵌合部)
W10 被加工物
W11 ブリッジ部(外周部に対応する部分)
W12 内周部(内周部に対応する部分)
W13 アーム溝に対応する部分(嵌合部に対応する部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状に形成される外周部と、前記外周部の軸方向における一端側から、前記外周部の形状に沿って径方向内側に延出する内周部と、前記内周部から前記外周部の一部まで窪んだ形状を有する複数の嵌合部とが形成され、前記各嵌合部にて所定の部材と嵌合し、前記所定の部材を同期させて動作させる駆動リングの製造方法であって、
製造段階の前記駆動リングである被加工物を円環状に成形する円環成形工程と、
前記被加工物の前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分のいずれか一方を、前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分の他方に対して折り曲げる塑性加工を行い、前記駆動リングの外周部および内周部を成形する外周部成形工程と、
前記被加工物の前記嵌合部に対応する部分に塑性加工を行う嵌合部加工工程と、
を行う、
駆動リングの製造方法。
【請求項2】
前記円環成形工程は、
板状の被加工物を前記駆動リングの前記外周部の軸方向に沿った寸法および前記内周部の径方向に沿った寸法に基づいて、円環状に打ち抜くことで行われる、
請求項1に記載の駆動リングの製造方法。
【請求項3】
嵌合部加工工程は、
前記被加工物の両端部が当接するように前記被加工物を円環状に曲げることで行われる、
請求項1に記載の駆動リングの製造方法。
【請求項4】
円環状に形成される外周部と、前記外周部の軸方向における一端側から、前記外周部の形状に沿って径方向内側に延出する内周部と、前記内周部から前記外周部の一部まで窪んだ形状を有する複数の嵌合部とが形成され、前記各嵌合部にて所定の部材と嵌合し、前記所定の部材を同期させて動作させる駆動リングであって、
前記駆動リングは、
製造段階の前記駆動リングである被加工物を円環状に成形することで、円環状に成形され、
前記外周部および前記内周部は、
前記被加工物の前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分のいずれか一方を、前記外周部に対応する部分および前記内周部に対応する部分の他方に対して折り曲げる塑性加工を行うことで成形され、
前記被加工物の前記嵌合部に対応する部分には、
塑性加工が行われる、
駆動リング。
【請求項5】
前記駆動リングは、
板状の被加工物を前記駆動リングの前記外周部の軸方向に沿った寸法および前記内周部の径方向に沿った寸法に基づいて打ち抜くことで、円環状に成形される、
請求項4に記載の駆動リング。
【請求項6】
前記嵌合部に対応する部分に行う塑性加工として、
前記被加工物の両端部が当接するように前記被加工物を円環状に曲げる、
請求項4に記載の駆動リング。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の駆動リングを用いた可変ノズル機構であって、
前記嵌合部に一端部が嵌合され、前記駆動リングの回動によって他端部を中心に回動するベーンアームと、
前記ベーンアームの他端部側に回動可能に支持される軸部が形成され、前記駆動リングの回動によって、前記軸部を中心に回動するVNベーンと、
前記嵌合部に一端部が嵌合され、他端部の回動により、前記駆動リングを回動させる駆動リンクと、
を備え、
前記ベーンアームおよび前記駆動リンクの一端部は、
前記嵌合部の前記外周部側に嵌合される、
駆動リングを用いた可変ノズル機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−140894(P2012−140894A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293893(P2010−293893)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】