説明

駆動力伝達装置

【課題】ハウジング内の軸受に潤滑油を供給してハウジング外に排出することができる駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達装置1は、四輪駆動車の駆動源によって回転する円筒状のハウジング12と、ハウジング12内に針状ころ軸受33を介して相対回転可能に支持され、かつハウジング12にクラッチ8を介して連結されたインナシャフト13とを備え、インナシャフト13は、その外周面がハウジング12の内周面との間にポンプを形成して針状ころ軸受33に潤滑油を供給するためのポンプ形成部36aを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車における入力軸からの駆動力を出力軸に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の駆動力伝達装置として、例えば四輪駆動車に搭載され、1対の回転部材をクラッチによってトルク伝達可能に連結するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【0003】
この駆動力伝達装置は、入力軸と共に回転する第1の回転部材と、この第1の回転部材の軸線上で回転可能な第2の回転部材と、この第2の回転部材と第1の回転部材とをトルク伝達可能に連結する摩擦式の第1のクラッチと、この第1のクラッチに第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線に沿って並列する電磁クラッチと、この電磁クラッチの電磁力を受けて駆動される摩擦式の第2のクラッチと、この第2のクラッチのクラッチ動作によって第1の回転部材からの回転力を第1のクラッチ側への押付力に変換するカム機構とから構成されている。
【0004】
第1の回転部材は、一方に開口する有底円筒状のフロントハウジング、及びこのハウジングの開口部に装着された円環状のリヤハウジングからなり、入力軸に連結されている。そして、第1の回転部材は、車両用のエンジンなど駆動源の駆動力を入力軸から受けて回転するように構成されている。
【0005】
第2の回転部材は、第1の回転部材に回転軸線上で相対回転可能に配置され、かつ出力軸に連結されている。
【0006】
第1のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。そして、第1のクラッチは、メインクラッチとして機能し、インナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが摩擦係合して第1の回転部材と第2の回転部材とをトルク伝達可能に連結するように構成されている。
【0007】
電磁クラッチは、第1の回転部材及び第2の回転部材の軸線上に配置されている。そして、電磁クラッチは、電磁力を発生させて第2のクラッチを駆動するように構成されている。
【0008】
第2のクラッチは、インナクラッチプレート及びアウタクラッチプレートを有し、メインクラッチの電磁クラッチ側に配置されている。そして、第2のクラッチは、電磁クラッチの電磁力を受けて駆動されるパイロットクラッチとして機能し、第1の回転部材の回転力をカム機構に付与するように構成されている。
【0009】
カム機構は、第1の回転部材からの回転力によるカム作用によって第1のクラッチに押付力を付与する押付部を有し、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置されている。
【0010】
以上の構成により、エンジン側からの駆動力が入力軸を介して第1の回転部材に入力されると、第1の回転部材がその軸線回りに回転する。ここで、電磁クラッチに通電すると、電磁クラッチの電磁力によって第2のクラッチが駆動される。
【0011】
次に、第2のクラッチの駆動時に第1の回転部材からの回転力をカム機構が受けると、この回転力がカム機構によって押付力に変換され、この押付力が第1のクラッチに付与される。
【0012】
そして、第1のクラッチのインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとが互いに接近して摩擦係合し、この摩擦係合によって第1の回転部材と第2の回転部材とがトルク伝達可能に連結される。これにより、エンジン側の駆動力が入力軸から駆動力伝達装置を介して出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−14001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、特許文献1に示す駆動力伝達装置によると、四輪駆動車の二輪駆動による走行時に潤滑油の粘性に基づいて発生する所謂引き摺りトルクによる悪影響を低減するためには、ハウジング内の潤滑油をハウジング外に排出することが望ましい。
【0015】
一方、ハウジング内の潤滑油が全て排出されてしまうと、ハウジング内の軸受が潤滑されず、軸受に焼き付きが生じる虞がある。
【0016】
従って、本発明の目的は、ハウジング内の軸受に潤滑油を供給してハウジング外に排出することができる駆動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜(5)の駆動力伝達装置を提供する。
【0018】
(1)車両の駆動源によって回転する円筒状の第1の回転部材と、前記第1の回転部材内に軸受を介して相対回転可能に支持され、かつ前記第1の回転部材にクラッチを介して連結された第2の回転部材とを備え、前記第2の回転部材は、その外周面が前記第1の回転部材の内周面との間にポンプを形成して前記軸受に潤滑油を供給するためのポンプ形成部を有する駆動力伝達装置。
【0019】
(2)上記(1)に記載の駆動力伝達装置において、前記第2の回転部材は、前記ポンプ形成部の外径が油流入側から油流出側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。
【0020】
(3)上記(2)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の回転部材は、各内径を互いに異にする少なくとも2つの孔部を有し、前記第2の回転部材は、前記ポンプ形成部の外周面が前記第1の回転部材の内周面との間に前記少なくとも2つの孔部のうち内径の小さい孔部から内径の大きい孔部に潤滑油を導入するための環状空間を有する。
【0021】
(4)上記(3)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の回転部材は、前記環状空間に連通する油貯溜空間、及び前記油貯溜空間に潤滑油を流入させるための油流入路を有する。
【0022】
(5)上記(3)又は(4)に記載の駆動力伝達装置において、前記第1の回転部材は、前記環状空間に連通し、かつ前記第2の回転部材の外部に潤滑油を流出させるための油流出路を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、引き摺りトルクを低減することができるとともに、第1のクラッチにおけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された車両の概略を説明するために示す平面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す分解斜視図。
【図3】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の全体を説明するために示す断面図。同図において、上半分はディスコネクト状態を、また下半分はコネクト状態をそれぞれ示す。
【図4】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置のポンプ形成部を説明するために示す断面図。
【図5】本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置における油流出路の油路を説明するために示す断面図。
【図6】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置において、第2のカム機構の入力用のカム部材を説明するために示す斜視図と平面図とそのA−A断面図。(a)は斜視図を、(b)は平面図を、また(c)はA−A断面図をそれぞれ示す。
【図7】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置において、第2のカム機構の出力用のカム部材を説明するために示す斜視図と平面図とそのB−B断面図。(a)は斜視図を、(b)は平面図を、また(c)はB−B断面図をそれぞれ示す。
【図8】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置における第2のカム機構の動作を説明するために示す断面図。(a)は非動作状態を、(b)は動作状態を、また動作終了(カムの乗り上げ)状態それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施の形態]
図1は四輪駆動車の概略を示す。図1に示すように、四輪駆動車200は、駆動力伝達系201,エンジン202,トランスミッション203,主駆動輪としての前輪204L,204R及び補助駆動輪としての後輪205L,205Rを備えている。
【0026】
駆動力伝達系201は、四輪駆動車200におけるトランスミッション203側から後輪205L,205R側に至る駆動力伝達経路にフロントディファレンシャル206及びリヤディファレンシャル207と共に配置され、かつ四輪駆動車200の車体(図示せず)に搭載されている。
【0027】
そして、駆動力伝達系201は、駆動力伝達装置1,プロペラシャフト2及び駆動力断続装置3を有し、四輪駆動車200の四輪駆動状態を二輪駆動状態に、また二輪駆動状態を四輪駆動状態にそれぞれ切り替え可能に構成されている。駆動力伝達装置1の詳細については後述する。
【0028】
フロントディファレンシャル206は、前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに連結されたサイドギヤ209L,209R、サイドギヤ209L,209Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ210、及び一対のピニオンギヤ210を支持するギヤ支持部材211、ギヤ支持部材211,一対のピニオンギヤ210及びサイドギヤ209L・209Rを収容するフロントデフケース212を有し、トランスミッション203と駆動力断続装置3との間に配置されている。
【0029】
リヤディファレンシャル207は、後輪側のアクスルシャフト213L,213Rに連結されたサイドギヤ214L,214R、サイドギヤ214L,214Rにギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ215、一対のピニオンギヤ215を支持するギヤ支持部材216、ギヤ支持部材216,一対のピニオンギヤ215及びサイドギヤ214L・214Rを収容するリヤデフケース217を有し、プロペラシャフト2と駆動力伝達装置1との間に配置されている。
【0030】
エンジン202は、トランスミッション203及びフロントディファレンシャル206を介して前輪側のアクスルシャフト208L,208Rに駆動力を出力することにより前輪204L,204Rを駆動する。
【0031】
また、エンジン202は、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2及びリヤディファレンシャル207を介して一方の後輪側のアクスルシャフト213Lに駆動力を出力することにより一方の後輪205Lを、トランスミッション203,駆動力断続装置3,プロペラシャフト2,リヤディファレンシャル207及び駆動力伝達装置1を介して他方の後輪側のアクスルシャフト213Rに駆動力を出力することにより他方の後輪205Rをそれぞれ駆動する。
【0032】
プロペラシャフト2は、駆動力伝達装置1と駆動力断続装置3との間に配置されている。そして、プロペラシャフト2は、エンジン202の駆動力をフロントデフケース212から受けて前輪204L,204R側から後輪205L,205R側に伝達するように構成されている。
【0033】
プロペラシャフト2の前輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン60及びリングギヤ61からなる前輪側の歯車機構6が配置されている。プロペラシャフト2の後輪側端部には、互いに噛合するドライブピニオン70及びリングギヤ71からなる後輪側の歯車機構7が配置されている。
【0034】
駆動力断続装置3は、フロントデフケース212に対して回転不能な第1のスプライン歯部3a、リングギヤ61に対して回転不能な第2のスプライン歯部3b、及び第1のスプライン歯部3a,第2のスプライン歯部3bにスプライン嵌合可能なスリーブ3cを有する例えばドグクラッチからなり、四輪駆動車200の前輪204L,204R側に配置され、かつアクチュエータ(図示せず)を介して車両用のECU(図示せず)に接続されている。そして、駆動力断続装置3は、プロペラシャフト2とフロントデフケース212とを断続可能に連結するように構成されている。
【0035】
(駆動力伝達装置1の全体構成)
図2及び図3は駆動力伝達装置を示す。図4はポンプ形成部を示す。図5はフロントハウジングとリヤハウジングとの嵌合状態を示す。図2及び図3に示すように、駆動力伝達装置1は、第1のクラッチとしてのメインクラッチ(多板クラッチ)8,電磁クラッチ9,第2のクラッチとしてのパイロットクラッチ10,ハウジング12,インナシャフト13,第1のカム機構15及び第2のカム機構16を有し、四輪駆動車200(図1に示す)の後輪205R側に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。
【0036】
そして、駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト2(図1に示す)と後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)とを断続可能に、またプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213L(図1に示す)とをそれぞれ連結するように構成されている。
【0037】
すなわち、駆動力伝達装置1による連結時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207(いずれも図1に示す)を介して、また他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介してそれぞれトルク伝達可能に連結される。一方、駆動力伝達装置1による連結の解除時には、一方の後輪側のアクスルシャフト213Lとプロペラシャフト2とが歯車機構7及びリヤディファレンシャル207を介してトルク伝達可能に連結されたままであるが、他方の後輪側のアクスルシャフト213Rとプロペラシャフト2との連結が遮断される。
【0038】
装置ケース4は、回転軸線O片側(図3の右側)に開口するケース本体40、及びケース本体40の開口部を閉塞するケース蓋体41からなり、四輪駆動車200(図1に示す)の車体に配置されている。
【0039】
ケース本体40には、その外側面に突出し、かつエンジン202(図1に示す)と異なるカム作動用の駆動源5を取り付けるための取付部40aが一体に設けられている。取付部40aには、回転軸線Oと平行な軸線方向に開口する貫通孔400aが設けられている。
【0040】
ケース蓋体41は、ケース本体40にボルト42によって取り付けられ、全体がインナシャフト13(後述)を挿通させるキャップ部材によって形成されている。
【0041】
駆動源5は、減速機構(図示せず)を内蔵するとともに、電動モータ50を有し、ケース本体40の取付部40aにボルト51によって取り付けられている。駆動源5のケース本体40に対する取り付けは位置決めピン52を用いて行われる。減速機構としては、例えば電動モータ50のモータ軸50aに固定されたウォームホイール(図示せず)、及びこのウォームホイールに噛合するウォーム53を有する歯車減速機構が用いられる。駆動源5(ウォーム53)には、第2のカム機構16(後述)にその作動力としての回転力を伝達するための伝達部材54が連結器55を介して取り付けられている。
【0042】
伝達部材54は、所定の曲率半径をもつ曲面部54a有し、第2のカム機構16の上方に配置され、かつ装置ケース4内に収容されている。曲面部54aには、歯車伝達機構56の一部を構成する外歯540aが設けられている。伝達部材54の連結器55への取り付けは止め輪57を用いて行われる。
【0043】
連結器55は、減速機構のウォーム53に連結する円筒部55a、及び伝達部材54に連結する軸部55bを有し、ウォーム53と伝達部材54との間に介在して配置されている。円筒部55aはその外周面に貫通孔400aの内周面との間でシール機構58が介在して、また軸部55bはその外周面に止め輪57がそれぞれ取り付けられている。
【0044】
(メインクラッチ8の構成)
メインクラッチ8は、複数のインナクラッチプレート80及び複数のアウタクラッチプレート81を有する摩擦式のメインクラッチからなり、第1の回転部材としてのハウジング12と第2の回転部材としてのインナシャフト13との間に配置されている。
【0045】
そして、メインクラッチ8は、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う内外のクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してハウジング12とインナシャフト13とを断続可能に連結するように構成されている。
【0046】
インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスは、四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士が摩擦係合しない寸法に設定されている。
【0047】
インナクラッチプレート80は、その内周部にストレートスプライン嵌合部80aを有し、ストレートスプライン嵌合部80aを円筒部13a(インナシャフト13)のストレートスプライン嵌合部132aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0048】
インナクラッチプレート80には、その円周方向に沿って並列し、かつ回転軸線O方向に開口する複数の油孔80bが設けられている。複数のインナクラッチプレート80のうち電磁クラッチ側最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ8の一方側の入力部として機能し、第1のカム機構15のメインカム151(後述)からアウタクラッチプレート81側に押付力(第1のカム推力)Pを受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを摩擦係合させるように構成されている。また、複数のインナクラッチプレート80のうち電磁クラッチ9側の最端部と反対側の最端部のインナクラッチプレートは、メインクラッチ8の他方側の入力部として機能し、第2のカム機構16の出力用のカム部材161(後述)から押付部材162(後述)を介してアウタクラッチプレート81側に押付力(第2のカム推力)Pを受けると、この押付方向への移動によって互いに隣り合うインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮するように構成されている。
【0049】
アウタクラッチプレート81は、その外周部にストレートスプライン嵌合部81aを有し、ストレートスプライン嵌合部81aをリヤハウジング19のストレートスプライン嵌合部19b(後述)に嵌合させてハウジング12に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0050】
(ハウジング12の構成)
ハウジング12は、フロントハウジング18及びリヤハウジング19からなり、他方の後輪側のアクスルシャフト213R(図1に示す)の軸線(回転軸線O)上に配置され、かつサイドギヤ214R(図1に示す)に連結されている。
【0051】
フロントハウジング18は、第1〜第3のハウジングエレメント20〜22からなり、リヤハウジング19の開口内周面に取り付けられ、かつコイルホルダ23に玉軸受24を介して回転可能に支持されている。
【0052】
コイルホルダ23は、その外周面に装置ケース4の内周面との間で介在するシール部材25が取り付けられ、全体がフロントハウジング18を挿通させる鍔付き円環部材によって形成されている。コイルホルダ23の装置ケース4に対する取り付けは、位置決めピン26を用いて行われる。また、コイルホルダ23は、その内周囲にフロントハウジング18(第1のハウジングエレメント20)の外周面との間で介在する環状空間27が形成されている。コイルホルダ23には、装置ケース4内に開口する油路23a、及び油路23aに連通して環状空間27に開口する油路23bが設けられている。油路23aはコイルホルダ23の軸線と平行な軸線をもって、また油路23bは油路23aの軸線と直交する軸線をもってそれぞれ形成されている。油路23bには、コイルホルダ23外側への潤滑油の漏洩を防止するためのボール状の栓体28が取り付けられている。
【0053】
玉軸受24は、その軸線方向の移動が止め輪29,30によって規制され、かつ環状空間27に配置されている。
【0054】
図4に示すように、フロントハウジング18には、リヤハウジング19側に開口し、かつ各内径を互いに異にする3つの孔部18a〜18cが設けられている。孔部18aの内径は最大の寸法(最大内径)に、孔部18bの内径は最小の寸法(最小内径)に、また孔部18cの内径は孔部18aの内径と孔部18bの内径との間の寸法(中間内径)にそれぞれ設定されている。
【0055】
これら孔部18a〜18cのうち最小径の孔部18bは、その軸線方向に均一な内径をもつ油貯溜空間としての第1の空間部180b、第1の空間部180b側から孔部18cに向かって内径を漸次大きくする第2の空間部181b、及び第1の空間部180bから第2の空間部181bに向かって内径を漸次大きくする第3の空間部182bによって形成されている。これにより、第2の空間部181bの最小内径が第3の空間部182bの最大内径と同一の寸法に、また第3の空間部182bの最小内径が第1の空間部180bの内径と同一の寸法にそれぞれ設定される。孔部18bの内周面であって、第2の空間部181bを形成する部位は、その勾配が第3の空間部182bを形成する部位の勾配よりも大きい円周面で形成されている。孔部18bの内周面において、第2の空間部181b及び第3の空間部182bを形成する部位はポンプ形成部として機能する。
【0056】
第1のハウジングエレメント20は、各外径を互いに異にする3つの胴部20a〜20cを有し、フロントハウジング18の内周側に配置され、全体が軟鉄等の磁性材料からなる軸状部材によって形成されている。胴部20aの外径は最大の寸法(最大外径)に、胴部20bの外径は最小の寸法(最小外径)に、また胴部20cは胴部20aの外径と胴部20bの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。最大外径の胴部20a内には孔部18aが、最小外径の胴部20b内には孔部18bが、また中間外径の胴部20c内には孔部18cがそれぞれ配置されている。
【0057】
胴部20aは、その外周囲に第2のハウジングエレメント21の内周面との間で介在する環状空間31が形成されている。胴部20aには、環状空間31及び孔部18aに開口する油路200aが設けられている。
【0058】
胴部20bは、その外周囲にコイルホルダ23の内周面との間で介在するシール機構32が配置されている。胴部20bには、環状空間27及び孔部18bに開口し、かつ油路23a,23bと共に装置ケース4内の潤滑油を第1の空間部180bに流入させるための油流入路Aを構成する油路200bが設けられている。
【0059】
胴部20cは、その内周囲にインナシャフト13の外周面との間で介在する針状ころ軸受33が配置されている。
【0060】
第2のハウジングエレメント21は、フロントハウジング18の外周側に配置され、全体が第1のハウジングエレメント20と同様に軟鉄等の磁性材料からなる円筒部材によって形成されている。第2のハウジングエレメント21の外周面には、その径方向に突出する複数(本実施の形態では4個)の係合凸部21aが設けられている。複数の係合凸部21aは、第2のハウジングエレメント21の円周方向に等間隔をもって配置されている。第2のハウジングエレメント21には、その外周面及び環状空間31に開口し、かつ孔部18a内の潤滑油を装置ケース4内(ハウジング12外)に流出させるための油流出路Bを油路200aと共に構成する油路21bが設けられている。
【0061】
第3のハウジングエレメント22は、第1のハウジングエレメント20と第2のハウジングエレメント21との間に介在して配置され、全体がステンレス鋼等の非磁性材料からなるハウジングエレメント連結用の円環部材によって形成されている。
【0062】
リヤハウジング19は、フロントハウジング18側とその反対側とに開口する収容空間19a、及びこの収容空間19aに露出するストレートスプライン嵌合部19bを有し、装置ケース4内に収容され、全体が無底円筒部材によって形成されている。そして、リヤハウジング19は、フロントハウジング18と共に回転軸線Oの回りに回転するように構成されている。リヤハウジング19には、その外周面にコイルホルダ23側で突出するフランジ19cが設けられている。また、リヤハウジング19には、フロントハウジング18(第2のハウジングエレメント21)の係合凸部21aに係合する複数(本実施の形態では4個)の係合凹部19dが設けられている。
【0063】
図5に示すように、複数の係合凹部19dは、ストレートスプライン嵌合部19bにおける複数のスプライン歯190bのうち互いに隣り合う2つのスプライン歯間に介在する部位でリヤハウジング19におけるコイルホルダ23側の開口周縁及びフランジ19cの一部を切り欠くことにより形成されている。リヤハウジング19の外周面には、フランジ19cと係合凸部21aとの間に介在する止め輪34が取り付けられている。
【0064】
(インナシャフト13の構成)
インナシャフト13は、各外径が互いに異なる3つの円筒部13a〜13c、これら円筒部13a〜13cのうち円筒部13a,13b間に介在する段差面13d、及び円筒部13a,13c間に介在する段差面13eを有し、ハウジング12の回転軸線O上に配置され、全体が軸線方向両側に開口する無底円筒部材によって形成されている。円筒部13aの外径は最大の寸法(最大外径)に、円筒部13bの外径は最小の寸法(最小外径)に、また円筒部13cの外径は円筒部13aの外径と円筒部13bの外径との間の寸法(中間外径)にそれぞれ設定されている。そして、インナシャフト13は、その開口部内に後輪側のアクスルシャフト213L(図1に示す)の先端部を挿入させて収容するように構成されている。後輪側のアクスルシャフト213Lは、インナシャフト13にスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0065】
最大外径の円筒部13aは、最小外径の円筒部13bと中間外径の円筒部13cとの間に介在してインナシャフト13の軸線方向中央部に配置されている。最大外径の円筒部13aの外周面には、孔部18a内のフロントハウジング18側で突出するフランジ130aが一体に設けられている。フランジ130aには、その両端面に開口し、かつ油流入路Aと油流出路Bとの間で潤滑油を流動させる油流動路131aが設けられている。
【0066】
また、最大外径の円筒部13aの外周面には、リヤハウジング19の収容空間19aに露出し、メインクラッチ8におけるインナクラッチプレート80のストレートスプライン嵌合部80aに嵌合するストレートスプライン嵌合部132aが設けられている。
【0067】
最大外径の円筒部13aの内周面には、装置ケース4内における潤滑油の装置ケース4外への流出を防止するためのキャップ状の栓体35が取り付けられている。最大外径の円筒部13aには、その内外周面に栓体35とフランジ130aとの間で開口する油路133aが設けられている。
【0068】
最小外径の円筒部13bは、インナシャフト13の一方側(図3では左側)に配置され、かつフロントハウジング18の孔部18c内に針状ころ軸受33を介して回転可能に支持されている。最小外径の円筒部13bには、そのフロントハウジング18側の開口部を閉塞する有底円筒状のシャフト蓋36が取り付けられている。
【0069】
シャフト蓋36には、フロントハウジング18(第1のハウジングエレメント20)における孔部18bの内周面であって、第2の空間部181bを形成する部位に対向し、かつ第2の空間部181b及び第3の空間部182bを形成する部位との間にポンプを形成する外周面360aを有する截頭円錐形状のポンプ形成部36aが一体に設けられている。ポンプ形成部36aの外周面360aは、第1のハウジングエレメント20の内周面との間に孔部18b(第1の空間部180b)側から孔部18cに潤滑油を導入して針状ころ軸受33等に供給するための環状空間37が形成されている。環状空間37は、その内外径が油流入(導入)側から油流出(導出)側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。
【0070】
ポンプ形成部36aは、油導入側端部361aから回転軸線Oまでの寸法Rが油導出側端部362aから回転軸線Oまでの寸法R(R<R)よりも小さい寸法に設定されている。そして、ポンプ形成部36aの外径は、油導入側端部361aから油導出側端部362aに向かって漸次大きくなる寸法に設定されている。このため、インナシャフト13が回転すると、ポンプ形成部36aにおける外周面360aの周速度が油導入側端部361aから油導出側端部362aに向かって漸次高くなるため、環状空間37の圧力が油導入側から油導出側に向かって漸次低くなり、ポンプ形成部36aの外周面360aと第1のハウジングエレメント20の内周面(第2の空間部181b及び第3の空間部182bを形成する部位)との間に矢印Y方向に吸引力をもつポンプ作用が生じる。これにより、フロントハウジング18の孔部18b内(第1の空間部180b)に流入した潤滑油は、第2の空間部181b及び第3の空間部182b(環状空間37)に導入された後、環状空間37を流動して孔部18c内に導出される。
【0071】
中間外径の円筒部13cは、インナシャフト13の他方側(図3では右側)に配置され、装置ケース4(ケース蓋体41)の内周面に玉軸受38を介して回転可能に支持されている。中間外径の円筒部13cの外周面には、玉軸受38と段差面13eとの間に介在する円筒状の受部材39が取り付けられている。中間外径の円筒部13cの先端部には、その外周面とケース蓋体41の内周面との間に介在するシール機構45が配置されている。玉軸受38は、その軸線方向の移動が止め輪46,47によって規制され、かつ中間外径の円筒部13cの外周面とケース蓋体41の内周面との間に介在して配置されている。
【0072】
(電磁クラッチ9の構成)
電磁クラッチ9は、電磁コイル90及びアーマチャ91を有し、メインクラッチ8にハウジング12の回転軸線O上で並列して配置されている。そして、電磁クラッチ9は、ハウジング12の回転時に電磁力Fの発生によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によって第1のカム機構15を作動させ、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とを互いに摩擦係合させるように構成されている。
【0073】
電磁コイル90は、車両用のECUに接続され、かつコイルホルダ23内に保持されている。そして、電磁コイル90は、通電によってフロントハウジング18及びアーマチャ91等に跨って磁気回路Mを形成し、アーマチャ91にフロントハウジング18側への移動力を付与するための電磁力Fを発生させるように構成されている。
【0074】
アーマチャ91は、その外周面にストレートスプライン嵌合部91aを有し、ストレートスプライン嵌合部91aをストレートスプライン嵌合部19bに嵌合させてリヤハウジング19に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、第1のカム機構15(メインカム151)とパイロットクラッチ10との間に介在して配置され、かつリヤハウジング19の収容空間19aに収容され、全体が鉄等の磁性材料からなる環状板によって形成されている。そして、アーマチャ91は、電磁コイル90の電磁力Fを受け、フロントハウジング18側に回転軸線Oに沿って移動するように構成されている。
【0075】
(パイロットクラッチ10の構成)
パイロットクラッチ10は、電磁クラッチ9への通電によるアーマチャ91の電磁コイル90側への移動によって互いに摩擦係合可能な円環状の摩擦板からなるインナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101を有し、アーマチャ91とフロントハウジング18との間に配置され、かつリヤハウジング19の収容空間19aに収容されている。そして、パイロットクラッチ10は、インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101のうち互いに隣り合うクラッチプレート同士を摩擦係合させ、またその摩擦係合を解除してリヤハウジング19と第1のカム機構15(パイロットカム150)とを断続可能に連結するように構成されている。
【0076】
インナクラッチプレート100及びアウタクラッチプレート101は、回転軸線Oに沿って交互に配置され、全体が環状の摩擦板によって形成されている。
【0077】
インナクラッチプレート100は、その内周部にストレートスプライン嵌合部100aを有し、ストレートスプライン嵌合部100aをストレートスプライン嵌合部150aに嵌合させてパイロットカム150に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0078】
アウタクラッチプレート101は、その外周部にストレートスプライン嵌合部101aを有し、ストレートスプライン嵌合部101aをストレートスプライン嵌合部19bに嵌合させてリヤハウジング19に相対回転不能かつ相対移動可能に連結されている。
【0079】
(第1のカム機構15の構成)
第1のカム機構15は、ハウジング12(リヤハウジング19)からの回転力を受けて回転する入力用のボールカム部材(パイロットカム)150、このパイロットカム150に回転軸線Oに沿って並列する出力用のボールカム部材(メインカム)151、及びこのメインカム151とパイロットカム150との間に介在する複数(本実施の形態では6個)の球状のカムフォロア152を有し、メインクラッチ8とフロントハウジング18との間に配置され、かつリヤハウジング19の収容空間19aに収容されている。そして、第1のカム機構15は、電磁クラッチ9のクラッチ動作によって受けるハウジング12からの回転力をメインクラッチ8のクラッチ力となる押付力(第1のカム推力)Pに変換するように構成されている。
【0080】
パイロットカム150は、その外周部にインナクラッチプレート100のストレートスプライン嵌合部100aに嵌合するストレートスプライン嵌合部150aを有し、インナシャフト13(円筒部13a)のフランジ130aに針状ころ軸受153を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。そして、パイロットカム150は、メインカム151との間に第1のカム推力Pを発生させてメインクラッチ8に出力するように構成されている。
【0081】
パイロットカム150には、円周方向に並列し、かつカムフォロア152側に開口する複数(実施の形態では6個)のカム溝150bが設けられている。複数のカム溝150bは、パイロットカム150の円周方向に等間隔をもって配置されている。そして、複数のカム溝150bは、その中立位置からパイロットカム150の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝によって形成されている。
【0082】
メインカム151は、クラッチプレート押付部151aをメインクラッチ8側に有し、インナシャフト13(最大外径の円筒部13a)に相対移動可能に回転軸線Oに沿って配置され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。そして、メインカム151は、電磁コイル91の通電状態において第1のカム機構15によるカム作用によって、すなわちパイロットカム150の回転によって発生する第1のカム推力Pをカムフォロア152から受けてメインクラッチ8側に移動し、回転軸線Oの一方側(図3の左側)でメインクラッチ8の入力側のインナクラッチプレート80にクラッチプレート押付部151aを押し付けるように構成されている。
【0083】
メインカム151には、円周方向に等間隔をもって並列し、かつカムフォロア152側に開口する複数(実施の形態では6個)のカム溝151bが設けられている。そして、複数のカム溝151bは、その中立位置からメインカム151の円周方向に沿って軸線方向の深さが漸次浅くなる凹溝によって形成されている。また、メインカム151には、回転軸線Oと平行な方向に開口する複数(実施の形態では6個)の油孔151c、及び複数のカム溝151bの開口方向と反対方向に開口する複数(実施の形態では6個)のピン取付孔151dが設けられている。複数の油孔151c及び複数のピン取付孔151dは、メインカム151の円周方向に等間隔をもって交互に配置されている。
【0084】
ピン取付孔151dには、メインカム151と押付部材162(第2のカム機構16における出力用のカム部材161)との間に介在する復帰用スプリング154のばね力を案内するガイドピン155が取り付けられている。これにより、復帰用スプリング154のばね力がメインカム151及び出力用のカム部材161を互いに離間させる方向に作用し、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスが四輪駆動車200(図1に示す)の二輪駆動時に潤滑油の粘性に基づく引き摺りトルクによってクラッチプレート同士を摩擦係合させない寸法に設定される。
【0085】
カムフォロア152は、パイロットカム150のカム溝150bとメインカム151のカム溝151bとの間に介在して配置され、かつリテーナ156によって転動可能に保持されている。
【0086】
(第2のカム機構16の構成)
図2〜図4に示すように、第2のカム機構16は、その作動力となる回転力を駆動源5から受けて回転する入力用のカム部材160、及び入力用のカム部材160に回転軸線O上で並列する出力用のカム部材161を有し、第1のカム機構15にメインクラッチ8を介して回転軸線O上で対向する位置に配置されている。そして、第2のカム機構16は、第1のカム機構15による第1のカム推力Pの変換に先行して作動し、押付部材162をメインクラッチ8に押し付けてインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81との間のクリアランスCを例えばC=0に短縮するための第2のカム推力Pを第1のカム推力Pの方向と反対方向に沿って入力用のカム部材160と出力用のカム部材161との間で発生させるように構成されている。
【0087】
図6(a)〜(c)は入力用のカム部材を示す。入力用のカム部材160は、出力用のカム部材161に対向する側に凹凸面163有し、伝達部材54に歯車伝達機構56を介して連結され、かつ受部材39に針状ころ軸受164を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0088】
凹凸面163は、入力用のカム部材160の円周方向に沿って交互に並列する凹部165及び凸部166を有し、出力用のカム部材161の凹凸面168との間において円周方向の相対移動によって軸線方向に相対移動するためのカム面で形成されている。本実施の形態では、凹凸面163が入力用のカム部材160の回転によって出力用のカム部材161を軸線(回転軸線O)方向に沿ってメインクラッチ8側に移動させるためのカム面で形成されている。
【0089】
凹部165は、入力用のカム部材160の軸線方向一方側から軸線方向他方側(出力用のカム部材161側)に向かって切り欠き幅を漸次大きくする一対の切り欠き側面165a,165b、及び一対の切り欠き側面165a,165b間に介在する切り欠き底面(×面)165cを有する断面台形状の切り欠きによって形成されている。
【0090】
一方の切り欠き側面165aは、回転軸線O回りの一方側で切り欠き底面165cに対し傾斜してカムとして、また他方の切り欠き側面165bは回転軸線O回りの他方側で切り欠き底面165cに直交してストッパとしてそれぞれ機能するように構成されている。
【0091】
凸部166は、互いに隣り合う2つの凹部165のうち一方の凹部においてカムとして機能する切り欠き側面165a、他方の凹部においてストッパとして機能する切り欠き側面165b、及びこれら切り欠き側面165a,165b間に介在する端面(○面)166aを有する断面台形状の突起部によって形成されている。
【0092】
入力用のカム部材160には、外周縁に沿って突出する扇形状の凸片167が一体に設けられている。凸片167には、伝達部材54の外歯540aに噛合する外歯167aが設けられている。
【0093】
図7(a)〜(c)は出力用のカム部材を示す。図3及び図7(a)〜(c)に示すように、出力用のカム部材161は、入力用のカム部材160における凹凸面163に嵌合可能な凹凸面168を有し、入力用のカム部材160と押付部材162との間に介在して軸線方向に移動可能(円周方向には移動不能)に配置され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0094】
凹凸面168は、出力用のカム部材161の円周方向に沿って交互に並列する凹部169及び凸部170を有し、入力用のカム部材160の凹凸面163との間において円周方向の相対移動によって軸線方向に相対移動するためのカム面で形成されている。本実施の形態では、凹凸面168が入力用のカム部材160の回転によって出力用のカム部材161を軸線(回転軸線O)方向に沿ってメインクラッチ8側に移動させるためのカム面で形成されている。
【0095】
凹部169は、出力用のカム部材161の軸線方向一方側から軸線方向他方側(入力用のカム部材160側)に向かって切り欠き幅を大きくする一対の切り欠き側面169a,169b、及び一対の切り欠き側面169a,169b間に介在する切り欠き底面(×面)169cを有する断面台形状の切り欠きによって形成されている。
【0096】
一方の切り欠き側面169aは、入力用のカム部材160における凹凸面163の切り欠き側面165aに対応し、回転軸線O回りの他方側で切り欠き底面169cに対し傾斜してカムとして機能するように構成されてきる。また、他方の切り欠き側面169bは、入力用のカム部材160における凹凸面163の切り欠き側面165bに対応し、回転軸線O回りの一方側で切り欠き底面169cに直交してストッパとして機能するように構成されている。
【0097】
凸部170は、互いに隣り合う2つの凹部169のうち一方の凹部におけるカムとして機能する切り欠き側面169a、他方の凹部におけるストッパとして機能する切り欠き側面169b、及びこれら切り欠き側面169a,169b間に介在する端面(○面)170aを有する断面台形状の突起部によって形成されている。
【0098】
これにより、入力用のカム部材160における凹凸面163と出力用のカム部材161における凹凸面168が切り欠き底面165c,169cを互いに当接させた初期状態において、入力用のカム部材160が回転軸線O回りの一方向に回転すると、入力用のカム部材160が切り欠き側面165aを出力用のカム部材161の切り欠き側面169aに当接させて回転軸線O回りに移動する。このため、カムとしての機能をもつ両切り欠き側面165a,169a間にカム作用が発生し、これに伴い第2のカム推力Pが入力用のカム部材160から出力用のカム部材161に作用し、出力用のカム部材161が入力用のカム部材160から離間する方向に回転軸線Oに沿って移動する。この場合、出力用のカム部材161の移動は、凹凸面168の端面170aに入力用のカム部材160における凹凸面163の端面166aが乗り上げるまで行われる。
【0099】
なお、入力用のカム部材160が回転軸線O回りの他方向に回転すると、ストッパとして機能をもつ両切り欠き側面165b,切り欠き側面169bが互いに当接するため、両切り欠き側面165a,169a間にカム作用が発生せず、出力用のカム部材161が上記のようには軸線方向に移動することがない。
【0100】
押付部材162は、その内周縁にストレートスプライン嵌合部162aを有するとともに、メインクラッチ8側にクラッチプレート押付部162bを有し、ストレートスプライン嵌合部162aをインナシャフト13(円筒部13a)のストレートスプライン嵌合部132aに嵌合させてインナシャフト13に相対回転不能かつ相対移動可能に連結され、かつ出力用のカム部材161に針状ころ軸受171を介して回転可能に支持され、全体がインナシャフト13を挿通させる円環部材によって形成されている。
【0101】
そして、押付部材162は、第2のカム機構16の作動によって発生する第2のカムPを出力用のカム部材161から受けてメインクラッチ8側に移動し、回転軸線Oの他方側(図3の右側)でメインクラッチ8の入力側のインナクラッチプレート80にクラッチプレート押付部162bを押し付けるように構成されている。
【0102】
(駆動力伝達装置1の動作)
次に、本実施の形態に示す駆動力伝達装置の動作につき、図1,図3,図4及び図8(a)〜(c)を用いて説明する。図8(a)〜(c)は第2のカム機構における入力用のカム部材及び出力用のカム部材の動作状態を示す。
【0103】
図1において、四輪駆動車200の二輪駆動時にエンジン202を始動すると、エンジン202の回転駆動力がトランスミッション203を介してフロントディファレンシャル206に伝達され、さらにフロントディファレンシャル206から前輪側のアクスルシャフト208L,208Rを介して前輪204L,204Rに伝達され、前輪204L,204Rが回転駆動される。このとき、駆動力断続装置3は第1のスプライン歯部3aと第2のスプライン歯部3bとの間で動力伝達が不能となっている。
【0104】
この場合、図3(上半分)において、電磁クラッチ9の電磁コイル90が非通電状態にあるため、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mが形成されず、アーマチャ91が電磁コイル90側に移動してハウジング12に連結されることがない。
【0105】
このため、第1のカム機構15においてメインクラッチ8のクラッチ力となる第1のカム推力Pが発生せず、メインクラッチ8のインナクラッチプレート80とアウタクラッチプレート81とが互いに摩擦係合せず、エンジン202の回転駆動力はハウジング12からインナシャフト13に伝達されない。
【0106】
ここで、四輪駆動車200の二輪駆動に伴うポンプ形成部36aによる玉軸受24及び針状ころ軸受33,153に対する潤滑作用について説明する。四輪駆動車200の二輪駆動時には後輪205Lの回転によってインナシャフト13が回転するため、ポンプ形成部36aの外周面360aと第1のハウジングエレメント20の内周面(第2の空間部181b及び第3の空間部182bを形成する部位)との間に矢印Y方向(図4に示す)に吸引力をもつポンプ作用が生じる。二輪駆動状態においては、インナシャフト13がハウジング12の回転方向と反対の方向に回転するため、ポンプ作用による吸引力が四輪駆動状態と比べて大きい。
【0107】
これにより、図4に示すように、装置ケース4内の潤滑油が油流入路A(油路200b,23a,23b)及び環状空間27を流動して孔部18b内における第1の空間部180bに流入する。この際、油路23bと油路200bとの間において玉軸受24が潤滑油で潤滑される。
【0108】
次に、第1の空間部180bに流入した潤滑油は、第2の空間部181b,182b(環状空間37)に導入された後、環状空間37を流動して孔部18c内に導出され、孔部18cから孔部18a及び油流動路131a内に流入する。この際、孔部18c内において針状ころ軸受33が、孔部18a内において針状ころ軸受153がそれぞれ潤滑油で潤滑される。
【0109】
そして、孔部18a及び油流動路131a内に流入した潤滑油は、自重又はインナシャフト13の回転に伴い発生する遠心力によって油流出路B(油路200a,21b及び環状空間31)に流入した後、油流出路Bから装置ケース4内に流出する。
【0110】
一方、二輪駆動状態にある四輪駆動車200を四輪駆動状態に切り替えるには、駆動力伝達装置1によってプロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213L,213Rとをトルク伝達可能に連結し、引き続き駆動力断続装置3によってフロントデフケース212とプロペラシャフト2とをトルク伝達可能に連結する。
【0111】
ここで、プロペラシャフト2と後輪側のアクスルシャフト213L,213Rの連結時には、先ず駆動源5の駆動力を第2のカム機構16に付与し、第2のカム機構16を作動させる。この場合、第2のカム機構16が作動すると、入力用のカム部材160が回転軸線O回りに回転する。
【0112】
このため、図8(a)に示すように、入力用のカム部材160における凹凸面163と出力用のカム部材161における凹凸面168とが切り欠き底面165c,169cを互いに当接させた初期状態から、入力用のカム部材160が切り欠き側面165aを出力用のカム部材161の切り欠き面169aに当接させて回転軸線O(図3に示す)回りに移動する。この際、両切り欠き側面165a,169a間にカム作用が発生し、これに伴い第2のカム推力Pが入力用のカム部材160から出力用のカム部材161に作用する。これにより、図8(b)に示すように、出力用のカム部材161が入力用のカム部材160から離間する矢印X方向に回転軸線Oに沿って移動する。この場合、出力用のカム部材161の移動は、図8(c)に示すように、凹凸面168の端面170aに入力用のカム部材160における凹凸面163の端面166aが乗り上げるまで行われる。
【0113】
そして、出力用のカム部材161が矢印X方向への移動によって押付部材162をメインクラッチ8側に復帰用スプリング154に抗して移動させ、押付部材162がクラッチプレート押付部162bでメインクラッチ8を第1のカム機構15側に押し付けて移動させる。これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレート間のクリアランスCが例えばC=0となる。
【0114】
次に、電磁コイル90が通電されると、電磁コイル90を基点とした磁気回路Mがコイルホルダ23,アーマチャ91及びフロントハウジング18に跨って形成され、アーマチャ91が電磁コイル90への通電に基づいて発生する電磁力F(吸引力)によってフロントハウジング18に接近する方向に移動する。このため、アーマチャ91がフロントハウジング18にパイロットクラッチ10を介して連結され、ハウジング12の回転力がパイロットカム150に伝達され、パイロットカム150が回転する。
【0115】
これに伴い、第1のカム機構15が作動し、第1のカム機構15において発生するカム作用によってメインクラッチ8のクラッチ力となる第1のカム推力Pに変換され、この第1のカム推力Pによってメインクラッチ8のクラッチプレート80,81同士を摩擦係合させる方向(矢印X方向)にメインカム151が復帰用スプリング154のばね力に抗して移動する。
【0116】
そして、メインカム151が矢印X方向への移動によってクラッチプレート押付部151aでメインクラッチ8を第2のカム機構16側に押し付ける。
【0117】
これにより、インナクラッチプレート80及びアウタクラッチプレート81のうち互いに隣り合う2つのクラッチプレートが摩擦係合し、エンジン202の回転駆動力がハウジング12からインナシャフト13に伝達され、さらにインナシャフト13から後輪側のアクスルシャフト213L,213Rを介して後輪205L,205Rに伝達され、後輪205L,205Rが回転駆動される。
【0118】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次に示す効果が得られる。
【0119】
(1)引き摺りトルクを低減することができるとともに、メインクラッチ8におけるクラッチ動作の応答性を高めることができる。
【0120】
(2)軸受(玉軸受24及び針状ころ軸受33,153)にポンプ作用によって潤滑油を供給してハウジング12外に排出することができる。
【0121】
以上、本発明の駆動力伝達装置を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0122】
(1)上記実施の形態では、ポンプ形成部36aがインナシャフト13に設けられ、ハウジング12における孔部18bの内周面一部をポンプ形成部として機能させる場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、インナシャフト及びハウジングのいずれかにポンプ形成部を設けてもよい。すなわち要するに、本発明は、第1の回転部材の内周面と第2の回転部材の外周面との間にポンプを形成して軸受に潤滑油を供給するポンプ形成部を有するものであればよい。
【0123】
(2)上記実施の形態では、ハウジング12が入力軸側に、またインナシャフト13が出力軸側にそれぞれ連結されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、ハウジングを出力軸側に、またインナシャフトを入力軸側にそれぞれ連結しても本実施の形態と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0124】
1…駆動力伝達装置、2…プロペラシャフト、3…駆動力断続装置、3a…第1のスプライン歯部、3b…第2のスプライン歯部、3c…スリーブ、4…装置ケース、40…ケース本体、40a…取付部、400a…貫通孔、41…ケース蓋体、42…ボルト、5…駆動源、50…電動モータ、50a…モータ軸、51…ボルト、52…位置決めピン、53…ウォーム、54…伝達部材、54a…曲面部、540a…外歯、55…連結器、55a…円筒部、55b…軸部、56…歯車伝達機構、57…止め輪、58…シール機構、6…歯車機構、60…ドライブピニオン、61…リングギヤ、7…歯車機構、70…ドライブピニオン、71…リングギヤ、8…メインクラッチ、80…インナクラッチプレート、80a…ストレートスプライン嵌合部、80b…油孔、81…アウタクラッチプレート、81a…ストレートスプライン嵌合部、9…電磁クラッチ、90…電磁コイル、91…アーマチャ、91a…ストレートスプライン嵌合部、10…パイロットクラッチ、100…インナクラッチプレート、100a…ストレートスプライン嵌合部、101…アウタクラッチプレート、101a…ストレートスプライン嵌合部、12…ハウジング、13…インナシャフト、13a〜13c…円筒部、13d,13e…段差面、130a…フランジ、131a…油流動路、132a…ストレートスプライン嵌合部、133a…油路、14…サイドギヤシャフト、15…第1のカム機構、150…パイロットカム、150a…ストレートスプライン嵌合部、150b…カム溝、151…メインカム、151a…クラッチプレート押圧部、151b…カム溝、151c…油孔、151d…ピン取付孔、152…カムフォロア、153…針状ころ軸受、154…復帰用スプリング、155…ガイドピン、156…リテーナ、16…第2のカム機構、160…入力用のカム部材、161…出力用のカム部材、162…押付部材、162a…ストレートスプライン嵌合部,162b…クラッチプレート押圧部、163…凹凸面、164…針状ころ軸受、165…凹部、165a,165b…切り欠き側面、165c…切り欠き底面、166…凸部、166a…端面、167…凸片、167a…外歯、168…凹凸面、169…凹部、169a,169b…切り欠き側面、169c…切り欠き底面、170…凸部、170a…端面、171…針状ころ軸受、18…フロントハウジング、18a〜18c…孔部、180b…第1の空間部、181b…第2の空間部、182b…第3の空間部、19…リヤハウジング、19a…収容空間、19b…ストレートスプライン嵌合部、190b…スプライン歯、19c…フランジ、19d…係合凹部、20…第1のハウジングエレメント、20a〜20c…胴部、200a,200b…油路、21…第2のハウジングエレメント、21a…係合凸部、21b…油路、22…第3のハウジングエレメント、23…コイルホルダ、23a,23b…油路、24…玉軸受、25…シール部材、26…位置決めピン、27…環状空間、28…栓体、29,30…止め輪、31…環状空間、32…シール機構、33…針状ころ軸受、34…止め輪、35…栓体、36…シャフト蓋、36a…ポンプ形成部、360a…外周面、361a…油導入側端部、362a…油導出側端部、37…環状空間、38…玉軸受、39…受部材、45…シール機構、46,47…止め輪、200…四輪駆動車、201…駆動力伝達系、202…エンジン、203…トランスミッション、204L,204R…前輪、205L,205R…後輪、206…フロントディファレンシャル、207…リヤディファレンシャル、208L,208R…前輪側のアクスルシャフト、209L,209R…サイドギヤ、210…ピニオンギヤ、211…ギヤ支持部材、212…フロントデフケース、213L,213R…後輪側のアクスルシャフト、214L,214R…サイドギヤ、215…ピニオンギヤ、216…ギヤ支持部材、217…リヤデフケース、A…油流入路、B…油流出路、P…第1のカム推力、P…第2のカム推力、C…クリアランス、M…磁気回路、O…回転軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源によって回転する円筒状の第1の回転部材と、
前記第1の回転部材内に軸受を介して相対回転可能に支持され、かつ前記第1の回転部材にクラッチを介して連結された第2の回転部材とを備え、
前記第2の回転部材は、その外周面が前記第1の回転部材の内周面との間にポンプを形成して前記軸受に潤滑油を供給するためのポンプ形成部を有する
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記第2の回転部材は、前記ポンプ形成部の外径が油流入側から油流出側に向かって漸次大きくなる寸法に設定されている請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1の回転部材は、各内径を互いに異にする少なくとも2つの孔部を有し、
前記第2の回転部材は、前記ポンプ形成部の外周面が前記第1の回転部材の内周面との間に前記少なくとも2つの孔部のうち内径の小さい孔部から内径の大きい孔部に潤滑油を導入するための環状空間を有する請求項2に記載の駆動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1の回転部材は、前記環状空間に連通する油貯溜空間、及び前記油貯溜空間に潤滑油を流入させるための油流入路を有する請求項3に記載の駆動力伝達装置。
【請求項5】
前記第1の回転部材は、前記環状空間に連通し、かつ前記第2の回転部材の外部に潤滑油を流出させるための油流出路を有する請求項3又は4に記載の駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−53695(P2013−53695A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192918(P2011−192918)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】