説明

駆動力配分装置

【課題】引きずりトルクを大幅に低減することを可能とし、高価な表面処理を施さなくても、長期間にわたって安定した良好な摩擦特性と耐久性とを維持することを可能とし、更にはクラッチ伝達トルク特性のバラツキを防止することを可能とした駆動力配分装置を提供する。
【解決手段】駆動力配分装置1は、カップリングケース20の壁部23aとの間で作用する磁気吸引力によりパイロットクラッチ50へ向けて移動する電磁石70と、電磁石70の移動に応じてパイロットクラッチ50の操作力を調整する押圧部材53とを備えている。押圧部材53は、電磁石70の非通電時に、パイロットクラッチ50の摩耗に応じてカップリングケース20の壁部23aに対する所定の初期位置に押し戻され、押圧部材53の押圧面とカップリングケース20の段差壁部23aの内端面とが一致するように調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁式摩擦クラッチを用いた駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば電磁式摩擦クラッチを備えた四輪駆動車における各種の駆動力配分装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載された従来の駆動力配分装置は、入力部材と出力部材との間のトルク伝達を行うメインクラッチの締結を、電磁石の通電により締結するパイロットクラッチにより調整している。そのパイロットクラッチは、フロントハウジング内に設けられており、パイロットクラッチの一側には、アーマチャが配置されている。パイロットクラッチの他側には、リヤハウジングが配置されており、そのリヤハウジング内には、ヨーク内に嵌着された電磁石が配置されている。
【0003】
この従来の駆動力配分装置によれば、電磁石への通電により、ヨーク、リヤハウジング、アーマチャ、パイロットクラッチ、リヤハウジング及びヨーク間を循環する磁気回路が形成される。電磁石によりアーマチャを吸引してパイロットクラッチを押付けることでパイロットクラッチが締結される。その締結によりスラスト力を発生するカム機構により、メインクラッチに対する押付け力に変換し、その押付け力をメインクラッチへ伝達することで、入力部材から出力部材へ駆動力が伝達される。
【0004】
パイロットクラッチに対する押付け力は、電磁石の電磁コイルにより励起された磁束がパイロットクラッチを貫通してアーマチャを吸引することで発生する。そのため、パイロットクラッチは、磁気を通し易いという特性とクラッチプレートの摩擦特性との両方を兼ね備えた構成を必要とする。これにより、パイロットクラッチは鉄製であり、その鉄製のクラッチプレートの摺動面には、摩擦係合による摩耗を抑制する表面処理が施されている。磁気回路の一部を構成するリヤハウジングのパイロットクラッチの中間部と対応する部位には、非磁性体が埋設されている。
【0005】
パイロットクラッチの表面処理としては、クラッチプレートの摺動面に同心円上に設けられた多数の微細な幅の溝部、あるいは多数の格子状の溝部を形成するとともに、その摺動面の組成を窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理により変化させたり、クラッチプレートの摺動面にダイヤモンド状炭素薄膜を施したりしている。この表面処理により、クラッチプレートの摺動面を強化して摩耗を減らすようにしている。
【0006】
この種の駆動力配分装置の他の一例としては、例えばオイルで潤滑されたとき最適に機能する摩擦クラッチ紙をパイロットクラッチのクラッチプレート摺動面に設けた駆動力配分装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この特許文献2に記載された従来の駆動力配分装置は、入力部材を回転可能に支持するハウジング内に電磁石を固定している。パイロットクラッチは、入力部材の内面に設けられており、入力部材を介して電磁石が対向して配置されている。パイロットクラッチの入力部材と反対側には、電磁石のプランジャに連結されたアーマチュア(作用プレート)が対向して配置されている。
【特許文献1】特開2003−28218号公報
【特許文献2】特開2005−61629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、オイルで潤滑されたときクラッチプレート同士が対向する2面間に介在するオイルの粘性抵抗により引きずりトルクが発生する。大きな引きずりトルクが発生する原因の一つとしては、クラッチプレート摺動面(摩擦面)が広いことにある。すなわち、オイル粘性による引きずりトルクは、クラッチプレート同士が対向する2面の面積に比例する。
【0009】
上記特許文献1に記載された従来の駆動力配分装置は、パイロットクラッチが磁気回路の一部を構成しているため、パイロットクラッチの磁気通路断面積を、磁気を通し易くする所定の広さに設定する必要がある。そのため、クラッチプレートの摺動面に加えて、クラッチプレートの摺動面としては必要としない磁気通路断面を形成しなければならず、パイロットクラッチを大きく形成せざるを得なかった。その結果、引きずりトルクを減少させるのには限界があり、引きずりトルクを小さくすることが困難になるという問題点があった。特に低温時の大きな引きずりトルクを前提としてデファレンシャルやドライブシャフトの強度を設計しなければならず、大型化し、重量が嵩み、製作コストが高くなるという問題点があった。また、低温時にはタイトコーナーブレーキング現象の発生を回避することができないなど、操縦性の悪化を招くという問題点もあった。
【0010】
また、この従来の駆動力配分装置は、パイロットクラッチが鉄同士の摩擦のためスティック・スリップによる振動、騒音が発生しやすく、対策として摺動面に種々の油溝を設けたり、耐摩耗牲を持たせたりするために窒化処理又は焼き入れ焼き戻し処理やダイヤモンド状炭素薄膜を施しているが、加工コストが高くなるという問題点があった。また、これらの加工処理を施したとしても、油溝の摩耗などによりパイロットクラッチの摩耗特性(μ−V特性)が使用中に悪化して、車両の振動・騒音が発生するという問題点もあった。また、この従来の駆動力配分装置は、磁気回路の一部を構成するリヤハウジングに埋設された非磁性体を挟んで、フロントハウジング側のアーマチュアとリヤハウジング側の電磁石とを配置し、アーマチュア及び非磁性体間にパイロットクラッチを配置した構造とされており、この非磁性体との接合構造の製作コストが高騰するという問題点もあった。
【0011】
一方、上記特許文献2に記載された従来の駆動力配分装置にあっては、電磁石のヨークとアーマチュア(プランジャ)の空隙が、特に軸方向の荷重に対して変形が大きいボールベアリングを介して維持されている。そのため、この従来の駆動力配分装置は、電磁式カップリングとハウジングとの位置関係に影響され、電磁石のヨークとアーマチュア(プランジャ)の空隙長が不安定となり、製品ごとにクラッチ伝達トルク特性のバラツキが発生するという問題点を有している。
【0012】
従って、本発明は、上記従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、引きずりトルクを大幅に低減することを可能とし、高価な表面処理を施さなくても、長期間にわたって安定した良好な摩擦特性と耐久性とを維持することを可能とし、更にはクラッチ伝達トルク特性のバラツキを防止することを可能とした駆動力配分装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]本発明は、上記目的を達成するため、入力部材と出力部材との間にあって、これらの部材間のトルク伝達を行う第1の摩擦クラッチと、前記入力部材と前記出力部材との間にあって、前記第1の摩擦クラッチの伝達トルクを調整する第2の摩擦クラッチと、前記第2の摩擦クラッチの伝達トルクを前記第1の摩擦クラッチに対する押付け力に変換するカム機構と、前記入力部材と同一軸線上に設けられ、前記第1の摩擦クラッチ、前記カム機構及び前記第2の摩擦クラッチを内蔵したハウジングと、前記ハウジングの壁部の外側に前記ハウジングと同一軸線上に設けられ、通電により前記ハウジングとの間で作用する磁気吸引力により前記第2の摩擦クラッチに向けて移動する電磁石と、前記ハウジングの前記壁部の内部に移動可能に配され、前記電磁石の移動に応じて前記第2の摩擦クラッチの操作力を調整する押圧部材と、前記第2の摩擦クラッチの摩耗に応じて、前記押圧部材を前記ハウジングの前記壁部の所定の初期位置に押し戻す押し戻し手段とを備えたことを特徴とする駆動力配分装置にある。
[2]上記[1]記載の発明にあって、前記第2の摩擦クラッチは、互いに摩擦係合する複数のクラッチプレートのうち、一方のクラッチプレートの摺動面に紙製のフェーシングを設けたことを特徴としている。
[3]上記[1]記載の発明にあって、前記押し戻し手段は、前記第2の摩擦クラッチのクラッチ押圧方向の最外端に位置するクラッチプレート側の前記ハウジングの内周面、あるいは前記第2の摩擦クラッチのクラッチ押圧方向とは反対側の最外端に位置するクラッチプレート側の前記ハウジングの内周面にねじ込まれる調整ナットと、前記調整ナットを締付け方向に与圧するバネ部材とにより構成され、前記バネ部材は、前記調整ナットの内周面に設けられたことを特徴としている。
[4]上記[3]記載の発明にあって、前記調整ナットの内周面には、係合フックが形成されるとともに、前記係合フックを除く内周面には、ラチェット歯が形成され、前記バネ部材には、前記調整ナットの締付け方向に付勢する巻きバネと、前記調整ナットの緩み方向への回転を阻止するラチェット爪とが形成され、前記巻きバネの先端は、前記係合フックに係合されるとともに、前記ラチェット爪は、前記ラチェット歯に係合されたことを特徴としている。
[5]上記[4]記載の発明にあって、前記巻きバネは、前記バネ部材の外周縁から折り曲げられて前記バネ部材の周面に沿って周回する板状に形成された周回部と、前記周回部の先端を折り曲げて前記係合フックに係合する係合部とからなり、前記ラチェット爪は、前記バネ部材の外周縁から折り曲げられた板バネからなり、前記巻きバネよりも外方に配されたことを特徴としている。
[6]上記[3]〜[5]のいずれかに記載の発明にあって、前記第2の摩擦クラッチのクラッチプレートには、係止切欠部が形成され、前記バネ部材の外周縁には、前記係止切欠部に係合する回り止め片が形成されたことを特徴としている。
[7]上記[4]〜[6]のいずれかに記載の発明にあって、前記バネ部材は、第1及び第2のラチェット爪を有し、前記第1及び第2のラチェット爪を互いに前記ラチェット歯のピッチの略半ピッチずらした位相をもって配したことを特徴としている。
[8]上記[1]記載の発明にあって、前記ハウジングの前記壁部の内側には、前記第2の摩擦クラッチのクラッチ押圧方向とは反対側の最外端に位置するクラッチプレートを前記押圧部材に向けて付勢する予圧バネが設けられたことを特徴としている。
[9]上記[1]記載の発明にあって、前記ハウジングを回転可能に支持する外部ケースを備え、前記電磁石は、前記外部ケースの内周面に支持されたことを特徴としている。
[10]上記[1]記載の発明にあって、前記ハウジングを回転可能に支持する外部ケースを備え、前記電磁石は、前記ハウジングの軸部に対して相対回転可能及び軸方向移動可能に支持され、かつ、前記外部ケースに対しては回転不能に支持されたことを特徴としている。
[11]上記[1]記載の発明にあって、前記電磁石及び前記押圧部材間にスラストニードルベアリングとプレート部材が介在されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、第2の摩擦クラッチに磁気を通過させることなく、電磁石に作用する磁気吸引力を第2の摩擦クラッチに対して直接付加するようになっているので、第2の摩擦クラッチのクラッチプレート摺動面の面積を小さくすることができる。その結果、特にオイルの粘性による引きずりトルクを小さくすることができるとともに、デファレンシャルやドライブシャフトの強度を小さくすることができるようになり、小型軽量であり、安価に製作することができる。
【0015】
本発明は更に、電磁石とハウジングとの間の空隙長を自動調整することができるとともに、第2の摩擦クラッチの摩耗によるトルク変化を防止することができる。また、電磁石とハウジングとの間の空隙長を安定化させることができるようになり、クラッチ伝達トルク特性のバラツキを抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0017】
[第1の実施の形態]
(駆動力配分装置の構成)
図1は、本発明の代表的な実施の形態である駆動力配分装置の内部構造を示す断面図である。同図において、符号1は、四輪駆動車のプロペラシャフト及びリヤデファレンシャル間に配置された駆動力配分装置の全体構成を概略的に示している。この第1の実施の形態に係る典型的な駆動力配分装置1は、入力部材である回転軸部21を有するカップリングケース20を備えている。このカップリングケース20は、回転軸線方向(車体前後方向)に延びる一対のケースを組み合わせた外部ケースとなるリヤデフケース2,2により覆われており、リヤデフケース2の内周面及びカップリングケース20の外周面間により所要の第1の内部空間3が形成されている。リヤデフケース2の内部には、リヤデファレンシャルを回転駆動する出力部材であるドライブピニオンシャフト4がカップリングケース20の回転軸部21と同一軸線上に配置されている。
【0018】
カップリングケース20の回転軸部21は、図1に示すように、エンジンからの駆動力が伝えられるプロペラシャフト側のフランジ5の円筒部内にナット6により締付固定されている。そのフランジ5には、プロペラシャフトと一体に取り付けられたフランジが連結固定されるようになっている。
【0019】
(リヤデフケースの構成)
リヤデフケース2の後端部には、図1に示すように、カップリングケース20の軸受部となる円筒壁部9がカップリング側に向けて延在されている。カップリングケース20内には、第2ハウジング24の開口筒部25を貫通してドライブピニオンシャフト4が収容されている。このドライブピニオンシャフト4の前端部は、円筒状のハブ26の内周面にスプライン連結されており、ベアリング8を介してカップリングケース20に相対回転可能に支持されている。ドライブピニオンシャフト4の後端部は、一対のテーパローラベアリング12,12を介してリヤデフケース2の内周面に回転可能に支承されており、スペーサ及びナットにより一体化されている。ドライブピニオンシャフト4の後端部先端には、リヤデファレンシャルのギヤ機構と噛合されるギヤ17が一体に形成されている。
【0020】
リヤデフケース2の円筒壁部9の内周面とドライブピニオンシャフト4との間には、図1に示すように、オイルシール13が配されている。リヤデフケース2の前端部に形成された開口とプロペラシャフト側のフランジ5の外周面との間には、オイルシール14が配されている。これらのオイルシール13,14により、リヤデフケース2の第1の内部空間3とリヤデファレンシャル側の第2の内部空間15とを区画しており、その内部空間3を密封している。プロペラシャフト側のフランジ5には、ダストカバー16が固定されており、リヤデフケース2の内部空間3にダストなどが浸入するのを防止している。
【0021】
(カップリングケースの構成)
このカップリングケース20は、図1に示すように、回転軸部21よりも大径の円筒部22と、円筒部22よりも大径の第1のハウジング23と、第1のハウジング23の後端開口部を液密に内嵌固定する環状の第2のハウジング24とからなる多段形状を有している。第2ハウジング24の後端面には、円筒状の開口筒部25が形成されている。カップリングケース20の回転軸部21は、ベアリング7を介してリヤデフケース2内に回転可能に支承されるとともに、第2ハウジング24の開口筒部25が、シール付きベアリング11を介してリヤデフケース2の円筒壁部9の内周面に回転可能に支承されている。開口筒部25の開口端縁は、内周側に張り出した環状のツバ部25aを有している。このツバ部25aとドライブピニオンシャフト4との間の環状の隙間により潤滑油の供給孔が形成されている。なお、図示例によると、カップリングケース20と回転軸部21とは、鋳造などにより一体化されているが、例えば溶接により連結固定されていてもよい。
【0022】
第1ハウジング23の外周面とリヤデフケース2の内周面との間には、図1に示すように、電磁石70の円環状の配置空間10が形成されている。第1ハウジング23の配置空間10と対応する部位には、電磁石70に面する段差面を形成する環状の段差壁部23aが設けられており、その段差壁部23aには、環状凹部23bが形成されている。その環状凹部23bの底面には、パイロットクラッチ50の押付け力を調整する押圧部材53を収納する複数の貫通孔23cが周方向に所定の位相差をもって軸方向に貫通して形成されている。第1ハウジング23の内周面には、メインクラッチ40及びパイロットクラッチ50をスプライン連結するスプライン部が軸方向に沿って延設されている。
【0023】
(クラッチ機構の構成)
この駆動力配分装置1は、図1に示すように、カップリングケース20及びドライブピニオンシャフト4間のトルク伝達を制御するクラッチ機構をカップリングケース20内に回転軸部21と同一軸線上に配している。このクラッチ機構は、電磁石70に通電することで、カップリングケース20の段差壁部23aとの間で電磁石70に作用する磁気吸引力を、電磁石70がパイロットクラッチ50に向けて移動する操作力となるように構成されている。
【0024】
このクラッチ機構の基本構成は、図1に示すように、第1の摩擦クラッチであるメインクラッチ40と、メインクラッチ40の伝達トルクを調整する電磁式のパイロットクラッチ50と、パイロットクラッチ50の伝達トルクをメインクラッチ40に対する押付け力に変換するカム機構60と、クラッチ機構を断続操作する電磁石70と、電磁石70に作用する磁気吸引力によりパイロットクラッチ50を押付ける押圧部材53とを備えている。このメインクラッチ40、パイロットクラッチ50及びカム機構60は、回転軸部21及びドライブピニオンシャフト4間に設けられており、メインクラッチ40及びパイロットクラッチ50の締結により回転軸部21からドライブピニオンシャフト4へ駆動力が伝達される。
【0025】
(メインクラッチの構成)
メインクラッチ40は、図1に示すように、カップリングケース20の第1ハウジング23の内周面にスプライン連結された複数の円環状のアウタクラッチプレート41と、ハブ26の外周面にスプライン連結された複数の円環状のインナクラッチプレート42とを有している。インナクラッチプレート42の摩擦係合面を除く部位には、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって複数の円形状の油孔43,…,43が形成されている。アウタクラッチプレート41及びインナクラッチプレート42のいずれか一方の摺動面には、紙製のフェーシングを取り付けることが好適である。メインクラッチ40と第2ハウジング24との間には、クラッチ隙間を規制する円環状のスペーサ44が配されている。メインクラッチ40は、パイロットクラッチ50の締結によりメインクラッチ40側に移動するカム機構60のプレッシャリング61を介して締結される。メインクラッチ40が締結されると、第1ハウジング23及びハブ26が接続されるので、カップリングケース20からドライブピニオンシャフト4へ駆動力が伝達される。
【0026】
(パイロットクラッチの構成)
パイロットクラッチ50は、図1に示すように、2枚の円環状のアウタクラッチプレート51,51と1枚の円環状のインナクラッチプレート52とを有している。アウタクラッチプレート51は、第1ハウジング23の内周面にスプライン連結されている。一方のインナクラッチプレート52は、カム機構60のカムリング62にスプライン連結されている。なお、図示例によると、パイロットクラッチ50のインナクラッチプレート52の枚数を1枚に設定しているが、これに限定されるものではない。この第1の実施の形態では、例えばインナクラッチプレート52を2枚もしくは3枚以上の枚数に設定してもよいことは勿論である。
【0027】
この第1の実施の形態に係るクラッチ機構にあっては、パイロットクラッチ50に磁気を通過させることなく、電磁石70に作用する磁気吸引力をパイロットクラッチ50に対して直接付加するように構成したので、インナクラッチプレート52の摺動面に紙製のフェーシングを使用することができる。アウタクラッチプレート51の摺動面に紙製のフェーシングを取り付けてもよい。パイロットクラッチ50に紙製フェーシングを使用することができるので、従来のクラッチプレートと比べてクラッチプレート摺動面の面積を小さくすることができる。これにより、オイルで潤滑されたときクラッチプレートの対向摺動面間に介在するオイルの粘性抵抗による引きずりトルクの発生を減少させることができる。摩耗特性がよく、シャダー性能及び耐久性に優れたクラッチが得られる。
【0028】
(カム機構の構成)
カム機構60は、図1に示すように、プレッシャリング61と、カムリング62と、プレッシャリング61及びカムリング62間に配されたカムボール63とを有している。カム機構60は、カップリングケース20の第1ハウジング23の段差壁部23aの内周面にスラスト軸受64を介してハブ26の外周面に配されている。プレッシャリング61には、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって油孔65が貫通して形成されている。
【0029】
カム機構60は、図1に示すように、メインクラッチ40の締結力を無段階に制御する。電磁石70の通電によりパイロットクラッチ50が締結されると、パイロットクラッチ50に連結されたカムリング62及びプレッシャリング61間に回転トルクが生じる。カムボール63がカムリング62及びプレッシャリング61を互いに離反する方向に押圧するスラスト力により、プレッシャリング61がメインクラッチ40側へ移動し、メインクラッチ40が締結する。
【0030】
(電磁石の構成)
電磁石70は、図1に示すように、第1ハウジング23の段差壁部23aの外側にあって回転軸部21と同一軸線上に設けられている。電磁石70は、ヨーク71とコイル72とにより環状に形成されている。ヨーク71は、メインクラッチ40側に開放された断面コ字状をなす環状の凹部73を有している。その凹部73内には、同心状に保持された環状のコイル72が液密にシールされ、嵌着固定されている。そのコイル72と面する部位には、ステンレス材等からなる環状の非磁性部材74が埋設されている。電磁石70は、カップリングケース20の段差壁部23aとの間に所定の空隙G長をもってリヤデフケース2の内周面に回転不能にかつ軸方向移動可能に支承されている。電磁石70とカップリングケース20の段差壁部23aとは近接して配されるので、磁束漏れを低減させ、磁力を効率的に使用することが可能となる。
【0031】
電磁石70には、図1に示すように、リヤデフケース2にグロメット75を介して外部へ引き出されたリード線76が電気的に接続されている。このリード線76を介して電磁石70に通電すると、パイロットクラッチ50に磁気を通過させることなく、ヨーク71及びカップリングケース20の段差壁部23a間を循環する磁路Lが形成され、電磁石70がカップリングケース20の段差壁部23aに吸引される荷重(電磁石70に作用する磁気吸引力)をパイロットクラッチ50に対して直接付加する。電磁石70への通電電力を調整することで、パイロットクラッチ50への押付け力を調整することができる。
【0032】
この第1の実施の形態では、電磁石70をリヤデフケース2の内周面に支持する構成を例示したが、これに限定されるものではない。この構成に代えて、例えば電磁石70をカップリングケース20の円筒部22に支持することができる。電磁石70は、円筒部22の外周面にベアリングを介して相対回転可能に支持するとともに、軸方向移動可能に支持することで、リヤデフケース2の内周面に対しては回転不能に支持する構成とすることができる。
【0033】
(押圧部材の構成)
カップリングケース20の段差壁部23aに形成された環状凹部23bの貫通孔23c内には、図1に示すように、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって複数の押圧部材53が軸方向移動可能に配されている。図示例によれば、押圧部材53は、円形のブロック体からなり、押圧部材53の出力側の押圧面とカップリングケース20の段差壁部23aの内端面とが同一面上に設けられている。この押圧部材53の配置位置は、電磁石70への通電を切ったときの押圧部材53の初期位置となる。カップリングケース20の環状凹部23bには、電磁石70の非磁性部材74に面するスラストニードルベアリング54と、押圧部材53に面するリングプレート55とが並設されている。電磁石70に作用する磁気吸引力は、非磁性部材74、スラストニードルベアリング54、リングプレート55及び押圧部材53へと伝えられ、パイロットクラッチ50への押付け力となる。
【0034】
(第1の実施の形態の効果)
上記のように構成された駆動力配分装置1によると、電磁石70に通電することで、回転軸部21の第1ハウジング23との間で電磁石70に作用する磁気吸引力を、電磁石70がパイロットクラッチ50に向けて移動する操作力とした構成を有しているので、次の様々な効果が得られる。
(1)電磁石70がカップリングケース20に吸引される荷重をパイロットクラッチ50に対して直接付与することで、パイロットクラッチ50に紙製フェーシングを使用することができるようになり、クラッチプレート51,52の摺動面の面積を小さくすることが可能となる。それにより、オイルの粘性による引きずりトルクを大幅に低減することが可能となり、燃費を向上させることができる。
(2)クラッチプレート51,52の摺動面の面積を小さくすることができるので、オイルの粘性による低温時の引きずりトルクを大幅に小さくすることができるようになり、デファレンシャルやドライブシャフトの強度増大を避けることで小型軽量化を達成することができるとともに、安価に製作することができる。
(3)パイロットクラッチ50に油溝加工が不要となり、高価な表面処理を必要としないため、加工コストを低減することができるとともに、長期間にわたって安定した良好な摩擦特性と耐久性とを維持することができる。
(4)カップリングケース20に磁気を遮断するための格別な非磁性体接合構造を設ける必要がなくなり、製作コストを低減することができる。
(5)カップリングケース20内に配されるアーマチャを排除して、クラッチ機構の設置構造を簡略化するとともに、カップリングケース20内の設置スペースを有効に利用することができるようになる。
(6)軸方向に動く電磁石70の構成によりカップリングケース20内に配されるアーマチュアを排除することで、部品点数を減らすことが可能となり、パイロットクラッチ50のアクチュエータを構成する部品を軸方向に短縮した設計が可能となる。これにより、設計をコンパクト化することができるようになり、リヤデフケース2内に各種の構成部品をコンパクトに収容することができる。
(7)回転軸部21のカップリングケース20との間で電磁石70に磁気吸引力を作用させることで、電磁石70とカップリングケース20との間の空隙G長が安定化し、クラッチ伝達トルク特性のバラツキを少なくすることができる。
(8)小さな電流で大きなトルクを制御することができるので、コントローラのコストも安価となる。
【0035】
ところで、長期間の使用によりパイロットクラッチ50の各クラッチプレート51,52が摩耗すると、カップリングケース20の段差壁部23aと電磁石70との間の空隙G長が変化し、電磁石70に作用する磁気吸引力が変化する。磁気吸引力が変化すると、同一電流であっても、押圧部材53のパイロットクラッチ50に対する押し付け力も変化し、押圧部材53、パイロットクラッチ50、カム機構60を介してメインクラッチ40に伝達される伝達トルクにバラツキが生じる。従って、上記第1の実施の形態に係る駆動力配分装置1は更に、長期間の使用によりカップリングケース20の段差壁部23aと電磁石70との間の空隙G長に変化が生じても、電磁石70の非通電時に、パイロットクラッチ50の摩耗に応じてカップリングケース20の段差壁部23a内の所定の初期位置に押圧部材53を押し戻す押し戻し手段を備えている。
【0036】
(押し戻し手段の構成)
図2は、駆動力配分装置の内部構造を示す要部断面拡大図であり、図3は、図2のIII−III線矢視断面図、図4は、駆動力配分装置における調整ナットを示す平面拡大図、図5(a)は、駆動力配分装置におけるバネ部材を示す展開拡大図、図5(b)は、図5(a)のバネ部材を折曲成形したバネ部材の平面拡大図であり、図6は、パイロットクラッチのアウタクラッチプレートを示す平面拡大図である。
【0037】
図2及び図3において、押し戻し手段の基本構成は、カップリングケース20の内周面にねじ込まれる調整ナット80と、調整ナット80を締付け方向に与圧するリング板状のバネ部材83とを有している。図示例にあっては、調整ナット80は、パイロットクラッチ50のクラッチ押圧方向の最外端に位置するクラッチプレート側のカップリングケース20の内周面にねじ込まれている。調整ナット80の内周面には、リング板状のバネ部材83が配されている。
【0038】
調整ナット80の内周面には、図3及び図4に示すように、係合フック81が形成されている。その係合フック81の設置部位以外の内周面の全面には、複数のラチェット歯82,…,82が形成されている。この係合フック81及びラチェット歯82は、調整ナット80の締付け方向にのみ回転を許すように調整ナット80の回転方向とは異なる順方向に形成されており、調整ナット80の回転が許容される方向とは反対側に係着面を有している。
【0039】
バネ部材83の外周縁には、図3及び図5に示すように、円周方向に沿って対向する一対の第1及び第2の切欠き83a,83bが形成されている。この第1の切欠き83aには、係合フック81に係合される細長い帯状の巻きバネ84が円環を形成するように折り曲げ成形されており、調整ナット80の締付け方向とは反対側に向けて円周方向に湾曲して延びている。この巻きバネ84は、バネ部材83の外周縁から径方向内側に折り曲げられて周面に沿って周回する板状の周回部84aと、その周回部84aの先端を径方向外側に折り曲げて係合フック81に係合する係合片84bとからなる。
【0040】
バネ部材83の第2の切欠き83bに隣接する外周縁には、図3及び図5に示すように、短冊状の弾性片85が調整ナット80の締付け方向に向けて延設されており、巻きバネ84よりも外方に配されている。この構成により、巻きバネ84及び弾性片85の配置スペースを確保している。バネ部材83の弾性片85の先端は、バネ部材83の径方向外側に折曲形成された弾性端85aを有しており、その弾性端85aを調整ナット80のラチェット歯82に引っ掛けることで、調整ナット80の緩み方向への回転が阻止されている。電磁石70への電流を切ったときに、調整ナット80の緩み方向に荷重が加わったとしても、弾性片85の先端が調整ナット80のラチェット歯82に係止することにより、調整ナット80の緩み方向への回転は規制され、調整ナット80の戻りを防止することができる。
【0041】
バネ部材83の外周縁には、図3及び図5に示すように、円周方向に等間隔をもって一対の第1及び第2の回り止め片86a,86bが形成されている。この回り止め片86a,86bは、バネ部材83の中間部にL字状に屈曲されている。一方、パイロットクラッチ押圧方向の最外端に位置するアウタクラッチプレート51の内周の全面には、図6に示すように、複数の凹状の係止切欠部51aが形成されている。この係止切欠部51aは、アウタクラッチプレート51のスプライン部51bに対応する部位に一つおきに配されており、バネ部材83の回り止め片86a,86bを係合保持する。
【0042】
上記のように構成された押し戻し手段をカップリングケース20の内部に組込むのにあたっては、先ず、カップリングケース20の内部にパイロットクラッチ50を組込む。次に、カップリングケース20の内周面に設けた内ネジに所定のトルクで調整ナット80をねじ込む。バネ部材83の回り止め片86a,86bとパイロットクラッチ50のアウタープレート51の係止切欠部51aとを合わせて、調整ナット80の内周面にバネ部材83を組み込む。このとき、バネ部材83の弾性片85を調整ナット80のラチェット歯82に引っ掛ける。次いで、バネ部材83の巻きバネ84を自由状態から調整ナット80の回転方向とは反対方向の周面に沿って湾曲させ、調整ナット80の係合フック81に引っ掛ける。以上の組込み作業により、押し戻し手段である構成部品をカップリングケース20の内部に組込む作業が完了する。
【0043】
上記のように構成された押し戻し手段は、巻きバネ83で調整ナット80を締付け方向に常に与圧しており、カップリングケース20の段差壁部23aと電磁石70との間の空隙G長を自動的に調整する空隙調整機能を有している。調整ナット80の初期の締付トルク及び巻きバネ83による与圧トルクは、電磁石70の残留磁気による吸引力を若干上回る大きさに設定されている。パイロットクラッチ50が摩耗した場合は、調整ナット80がクラッチ摩耗分を詰めることで、押圧部材53が電磁石70を押し戻すので、押圧部材53の出力側の押圧面とカップリングケース20の段差壁部23aの内端面とが一致する電磁石70の非通電時における初期位置に位置調整することができる。この構成を採用することで、カップリングケース20の段差壁部23aと電磁石70との間の空隙G長が初期の空隙G長よりも小さくなってしまい、カップリングケース20との間で電磁石70に作用する磁気吸引力が増大することを防止することができる。更には、与圧トルクの掛け過ぎでクラッチの引きずりトルクが大きくなり過ぎることを防止することができる。
【0044】
なお、上記第1の実施の形態においては、パイロットクラッチ押圧方向の最外端に位置するアウタクラッチプレート51に隣接したカップリングケース20の内周面に押し戻し手段を配した構成となっていたが、これに限定されるものではない。押し戻し手段は、例えばパイロットクラッチ押圧方向とは反対側の最外端に位置するアウタクラッチプレート51と押圧部材53との間のカップリングケース20の内周面に設けることも可能である。
【0045】
(第1の実施の形態の他の効果)
クラッチ機構に押し戻し手段を備えたことにより、上記第1の実施の形態の効果に加えて、次の効果が得られる。
(1)パイロットクラッチ50の摩耗によるトルク変化を防止することができる。押圧部材53をカップリングケース20の段差壁部23aに対して正確に位置決めすることができるようになり、トルク特性調整のための空隙G長の調整を容易に行うことができる。
(2)シム選択のための部品の点数を削減することができるようになる。
【0046】
(押し戻し手段の変形例)
図7は、本発明の駆動力配分装置における押し戻し手段の他の構成例を概略的に示す要部断面拡大図であり、調整ナットのラチェット歯とバネ部材のラチェット爪との噛み合い部分を示している。なお、同図において、上記第1の実施の形態と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。従って、これらの部材に関する詳細な説明は省略する。
【0047】
この変形例にあっても、上記第1の実施の形態に係る押し戻し手段と基本的な構成において変わるところはない。図7において、上記第1の実施の形態と大きく異なるところは、上記第1の実施の形態では、単一のラチェット爪85をラチェット歯82に1ピッチずつ歯合させることで、調整ピッチをラチェット歯82のピッチと同一のピッチに設定した構成であったものを、この変形例にあっては、2つのラチェット爪85,85のうち、一方のラチェット爪85をラチェット歯82のピッチの略半ピッチずらした位相で設けた点にある。
【0048】
この変形例によるラチェット歯82は、図7に示すように、上記第1の実施の形態のラチェット歯82と同一のピッチに形成されるとともに、同一位相で形成されているが、2つのラチェット爪85,85は、ラチェット歯82の略半ピッチに相当する距離dだけ互いに周方向にずらして配置されている。従って、調整ピッチは、ラチェット爪85のピッチの略半ピッチに設定される。2つのラチェット爪85,85を互いに略半ピッチずらした位相で設けているので、ラチェット歯82が略半ピッチ回動する毎に、2つのラチェット爪85,85が交互に噛み合うこととなる。
【0049】
この変形例によれば、実質的にラチェット歯82のピッチを略半分に細かく設定することができる。ラチェット歯82を大きくすることができるようになり、バネの掛かり代を充分に取れるとともに、ラチェット歯82の成形が容易になる。なお、この変形例にあっても、上記第1の実施の形態の効果と同様の効果を有することは勿論である。
【0050】
[第2の実施の形態]
図8は、本発明の駆動力配分装置における押し戻し手段の他の構成例を示す要部断面拡大図である。なお、同図において、上記第1の実施の形態と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。従って、これらの部材に関する詳細な説明は省略する。
【0051】
この第2の実施の形態にあっては、上記第1の実施の形態に係る押し戻し手段を設けるとともに、クラッチ押圧方向とは反対側の最外端に位置するアウタクラッチプレート51をカップリングケース20の段差壁部23aの内端面に向けて付勢する予圧バネである複数の円環板状のバネ材87を設けている。そのバネ材87は、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって配されている。バネ材87の径方向内側は、カップリングケース20の段差壁部23aの内端面にねじ締めにより固定支持されている。そのバネ材87の径方向外側は、アウタクラッチプレート51の内周縁に切欠された円環状の段差部51cに弾接されている。
【0052】
このバネ材87の弾力により、電磁石70への通電停止後において、電磁石70をクラッチ締結方向に引き戻そうとする残留磁気に逆らって、押圧部材53の出力側の押圧面がカップリングケース20の段差壁部23aの内端面と合致するように調整することができる。バネ材87は、弱い弾力で電磁石70を元の位置に押し戻すように調整することができるので、フリクションの発生を効果的に抑制することが可能になる。なお、この第2の実施の形態にあっても、上記第1の実施の形態の効果と同様の効果を有することは勿論である。
【0053】
以上の説明からも明らかなように、本発明の駆動力配分装置は、前後輪間の駆動力配分に適用することで、前輪のみ、あるいは後輪のみを駆動する2WDモード、車両状態に応じて前後輪間の駆動力を自動制御するオートモード、最大駆動力に保持するロックモードを備えた構成とすることができる。従って、本発明は、上記実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、例えば農業機械、建設土木機械、運搬機械等の作業用車両、バギー車及び自動車などの各種の車両における駆動力配分装置に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の代表的な実施の形態である駆動力配分装置の内部構造を示す断面図である。
【図2】駆動力配分装置の内部構造を示す要部断面拡大図である。
【図3】図2のIII−III線矢視断面図である。
【図4】駆動力配分装置における調整ナットを示す平面拡大図である。
【図5】(a)は、駆動力配分装置におけるバネ部材を示す展開拡大図であり、(b)は、(a)のバネ部材を折曲成形したバネ部材の平面拡大図である。
【図6】パイロットクラッチのアウタクラッチプレートを示す平面図である。
【図7】本発明の駆動力配分装置における押し戻し手段の他の構成例を概略的に示す要部断面拡大図である。
【図8】本発明の駆動力配分装置における押し戻し手段の更に他の構成例を示す要部断面拡大図である。
【符号の説明】
【0056】
1 駆動力配分装置
2 リヤデフケース
3,15 内部空間
4 ドライブピニオンシャフト
5 フランジ
6 ナット
7,8 ベアリング
9 円筒壁部
10 配置空間
11 シール付きベアリング
12 テーパローラベアリング
13,14 オイルシール
16 ダストカバー
17 ギヤ
20 カップリングケース
21 回転軸部
22 円筒部
23,24 ハウジング
23a 段差壁部
23b 環状凹部
23c 貫通孔
25 開口筒部
25a ツバ部
26 ハブ
40 メインクラッチ
41,51 アウタクラッチプレート
42,52 インナクラッチプレート
43,65 油孔
44 スペーサ
50 パイロットクラッチ
51a 係止切欠部
51b スプライン部
51c 段差部
53 押圧部材
54 スラストニードルベアリング
55 リングプレート
60 カム機構
61 プレッシャリング
62 カムリング
63 カムボール
64 スラスト軸受
70 電磁石
71 ヨーク
72 コイル
73 凹部
74 非磁性部材
75 グロメット
76 リード線
80 調整ナット
81 係合フック
82 ラチェット歯
83 バネ部材
83a,83b 切欠き
84 巻きバネ
84a 周回部
84b 係合片
85 弾性片
85a 弾性端
86a,86b 回り止め片
87 バネ材
G 空隙
L 磁路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部材と出力部材との間にあって、これらの部材間のトルク伝達を行う第1の摩擦クラッチと、
前記入力部材と前記出力部材との間にあって、前記第1の摩擦クラッチの伝達トルクを調整する第2の摩擦クラッチと、
前記第2の摩擦クラッチの伝達トルクを前記第1の摩擦クラッチに対する押付け力に変換するカム機構と、
前記入力部材と同一軸線上に設けられ、前記第1の摩擦クラッチ、前記カム機構及び前記第2の摩擦クラッチを内蔵したハウジングと、
前記ハウジングの壁部の外側に前記ハウジングと同一軸線上に設けられ、通電により前記ハウジングとの間で作用する磁気吸引力により前記第2の摩擦クラッチに向けて移動する電磁石と、
前記ハウジングの前記壁部の内部に移動可能に配され、前記電磁石の移動に応じて前記第2の摩擦クラッチの操作力を調整する押圧部材と、
前記第2の摩擦クラッチの摩耗に応じて、前記押圧部材を前記ハウジングの前記壁部の所定の初期位置に押し戻す押し戻し手段と、
を備えたことを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
前記第2の摩擦クラッチは、互いに摩擦係合する複数のクラッチプレートのうち、一方のクラッチプレートの摺動面に紙製のフェーシングを設けたことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項3】
前記押し戻し手段は、前記第2の摩擦クラッチのクラッチ押圧方向の最外端に位置するクラッチプレート側の前記ハウジングの内周面、あるいは前記第2の摩擦クラッチのクラッチ押圧方向とは反対側の最外端に位置するクラッチプレート側の前記ハウジングの内周面にねじ込まれる調整ナットと、前記調整ナットを締付け方向に与圧するバネ部材とにより構成され、
前記バネ部材は、前記調整ナットの内周面に設けられたことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項4】
前記調整ナットの内周面には、係合フックが形成されるとともに、前記係合フックを除く内周面には、ラチェット歯が形成され、
前記バネ部材には、前記調整ナットの締付け方向に付勢する巻きバネと、前記調整ナットの緩み方向への回転を阻止するラチェット爪とが形成され、
前記巻きバネの先端は、前記係合フックに係合されるとともに、前記ラチェット爪は、前記ラチェット歯に係合されたことを特徴とする請求項3記載の駆動力配分装置。
【請求項5】
前記巻きバネは、前記バネ部材の外周縁から折り曲げられて前記バネ部材の周面に沿って周回する板状に形成された周回部と、前記周回部の先端を折り曲げて前記係合フックに係合する係合部とからなり、
前記ラチェット爪は、前記バネ部材の外周縁から折り曲げられた板バネからなり、前記巻きバネよりも外方に配されたことを特徴とする請求項4記載の駆動力配分装置。
【請求項6】
前記第2の摩擦クラッチのクラッチプレートには、係止切欠部が形成され、
前記バネ部材の外周縁には、前記係止切欠部に係合する回り止め片が形成されたことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の駆動力配分装置。
【請求項7】
前記バネ部材は、第1及び第2のラチェット爪を有し、前記第1及び第2のラチェット爪を互いに前記ラチェット歯のピッチの略半ピッチずらした位相をもって配したことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の駆動力配分装置。
【請求項8】
前記ハウジングの前記壁部の内側には、前記第2の摩擦クラッチのクラッチ押圧方向とは反対側の最外端に位置するクラッチプレートを前記押圧部材に向けて付勢する予圧バネが設けられたことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項9】
前記ハウジングを回転可能に支持する外部ケースを備え、
前記電磁石は、前記外部ケースの内周面に支持されたことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項10】
前記ハウジングを回転可能に支持する外部ケースを備え、
前記電磁石は、前記ハウジングの軸部に対して相対回転可能及び軸方向移動可能に支持され、かつ、前記外部ケースに対しては回転不能に支持されたことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項11】
前記電磁石及び前記押圧部材間にスラストニードルベアリングとプレート部材が介在されたことを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−116966(P2010−116966A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289936(P2008−289936)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】