説明

駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造

【課題】ハードディスク装置などの駆動機構部をケーシング内に密封してなる駆動機構密封構造装置における制振性能を向上させることのできる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造を提供する。
【解決手段】本発明にかかる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造は、駆動機構を内部に収納したケーシング本体にガスケットとダンパーを介して蓋材が圧締されてなり、前記ガスケットは前記ケーシング本体と蓋材のそれぞれの内周面に沿って設置され、前記ダンパーは前記駆動機構の上に設置され、それぞれ蓋材により圧縮されている駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造であって、前記ガスケットへの荷重Aと前記ダンパーへの荷重との比A/Bが3.0以下に設定されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置などの駆動機構部を本体と蓋材とからなるケーシング内に密封してなる駆動機構密封構造装置の組み付け構造において、高い制振性を実現することのできる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動機構部を本体と蓋材とからなるケーシング内に密封してなる駆動機構密封構造装置としては、ハードディスク装置が代表的な装置であるが、このハードディスク装置は、近年に到っては、従来からのコンピュータの外部記憶装置としてばかりではなく、テレビやビデオ等の家電製品、また自動車用の電子機器類の中にまで搭載される様になってきており、それらの新たな用途の広がりの中で、使用環境条件も多様化されて来ている。一方、他に台頭の目覚しい記録デバイスとして、DVDやメモリーフラッシュに代表される製品類も、各々のコスト・パフォーマンスでバランスのとれる用途分野から、徐々にその範囲を広げ普及し始めてきている。その為、ハードディスク装置は、記憶容量のアップはもとより、その廉価性をさらに向上することで市場を堅持する必要性に迫られている。そのような必要性から、最近のハードディスク装置においては、サイズ毎の少品種大量生産で画一化された製法が以前にも増して強化されて来ている。
【0003】
従って、近い将来にかけ、ハードディスク装置の置かれる環境は、多様化される用途に対し、画一化された製法での製品対応を余儀なくされる一方で、使用環境に対する従来からの基本性能レベルが一段と高いものを求められる方向に向かうと予想されている。
【0004】
前述のような使用条件の多様化の中で、具体的にレベルアップを求められている諸性能の例には、アウトガス浸入防止、不純物イオンの混入防止、等のクリーン化は勿論のこと、とりわけハードルの高いものに音響特性やそれらに係わる制振特性、また種々のガス耐透過性(耐透湿性、耐シリコンガス透過性)がある。このような特性は、ハードディスク装置のケーシング本体と蓋材間のシール性と制振性を担うガスケットとダンパに依存するところが大きい。
【0005】
従来から、ハードディスク装置のダンパ材やガスケット材は、その主流としてウレタンアクリレート系の反応硬化性材料をディスペンサー装置で先端ノズルからハードディスク装置の蓋材の内側面の周縁部に丸紐形状で吐出され、蓋材上で蒲鉾形状で固着されたものをUV等の光で硬化された材料で対応されてきた(特許文献1)。
【0006】
しかし、ディスペンサー方式は先端ノズルから丸紐形状で吐出される都合で、生産性上、その成形精度(凹凸の高さや幅)は、ディスペンサーの動作速度や定量吐出精度に依存される所が大きく、厚みの現行公差が±20μm以上と大きい。したがって、今後ハードディスク装置のガスケット材やダンパー材に求められている音響特性や制振特性等を中心とした性能アップの実現には、この製法では困難極まる。
【0007】
図1および図2に現行のハードディスク装置を示す。これらの図において、符号1はハードディスク装置を示し、符号2にケーシング本体、符号3は蓋材(トップカバー)を示す。前記ケーシング本体2内には駆動機構部4が収納されている。この駆動機構部4は、記録メディアであるハードディスク5と、このハードディスク5を回転駆動するスピンドル(このスピンドルは不図示のモータにて回転される)6と、前記ハードディスク5への情報記録および情報読み出しを行う磁気ヘッド7と、この磁気ヘッド7を支持するキャリッジアーム8と、このキャリッジ8を精密に回動させて前記磁気ヘッド7の走査を制御するVCMモータ9と、このVCMモータ9を固定するための固定ヨーク10とを有する。
【0008】
前記前記構成の駆動機構部4がケーシング本体2内に収納固定された後、ガスケット材11がハードディスク装置1のケーシング本体2と蓋材3との間に設けられ、ケーシング本体2に収納されている駆動機構部4のVCMモーター9の固定ヨーク10と蓋材3との間にダンパ11が設けられ、蓋材3がケーシング本体2に圧締され、ハードディスク装置1の制振組み付け構造が完成する。
【0009】
かかるハードディスク装置の取り付け構造おいて、前記ディスペンサー方式により形成されたガスケットは、前述のように、厚み寸法の精度をあげることができないため、前記ガスケット11にかかる荷重と、前記ダンパ12にかかる荷重とをより正確に制御することができない。
【0010】
図2に示すように、ケーシング本体2内に収納されている駆動機構部4からの振動は、取り付け構造上、前記ガスケット11とダンパ12とを介して蓋材3に伝達する。蓋材3は駆動機構部4を支える部材ではなく、単に密閉を行うための部材であるため、可能な限り薄く形成されている。そのため、蓋材3がケーシング本体2に圧締されると、蓋材3には、前記ガスケット11への負荷荷重と、前記ダンパ12への負荷荷重とのそれぞれに対応する応力が生じ、その応力のバランスに応じて変形が生じる。この変形のプロフィールによって、前記ガスケット11およびダンパ12から伝達される振動によって蓋材3に共振現象が生じ、それがハードディスク装置1の騒音となる。また、前記ガスケット11が位置する蓋材3の外周縁部においても共振現象が生じ、これもハードディスク装置1の騒音源となる。
【0011】
前述のようなハードディスク装置における騒音発生メカニズムに対して、ガスケット材等の寸法精度のバラツキの影響を極力抑えられる製法として、直接ガスケットを蓋材に射出する方法が提案されている(特許文献2)が、この場合、射出時の原料圧力で、蓋材を局部的に変形させる問題が生じ、ガスケット材等に期待されている性能の向上が発現され得ない。
【0012】
これに対し、蓋材に変形を生じさせないように、樹脂フィルム上にガスケットを射出成形により仮留め状態に形成し、この樹脂フィルム上のガスケットを蓋材に転写接着させる方法が提案されている(特許文献3)。この方法などを用いてガスケットを別途成形すること等によりガスケットの幅や厚みを特定値以上に広くしたり高くしたりし、それによって、ガスケットによる蓋材とケーシング本体との間の固定支持の強さを高めて、共振を抑えることも考えられる。しかし、この方法では、特定の周波数帯で多少効果が出る領域も出ては来るが、幅や厚みが増された分、圧縮率の増加に伴い蓋材をネジで圧締する力も大きくなり、特にネジ周辺部分において蓋材が変形され、これによって、蓋材の共振モードが変化し、音響も幅広く飛散シフトし、結果として目的領域の騒音を抑えることができない。
【0013】
同様にダンパの幅や厚みを単に増しても、ダンパが当たる部分を中心に、蓋材が湾曲変形し、この変形によって、蓋材の共振モードが変化し、音響も幅広く飛散シフトし、目的領域の騒音をやはり抑えることができない。
【0014】
前記ハードディスク装置の制振性の実現は、ケーシング本体やその蓋材の材質、厚みや形状、そして圧締用のネジの剛性、またネジの締め込み位置、数量、締め込みトルクに拠る処が大きい為、個々の要因調整からの対応もとれないこともない。しかし、生産性や軽量化、コスト低減に関して全く逆方向の処置を施す必要が出てきて好ましくない。
【0015】
したがって、従来技術の範疇では、ハードディスク装置に代表されるような装置では、前記好ましい方向での制振特性の向上が困難であるというのが、現状である。
【0016】
【特許文献1】国際公開第1996/010594号パンフレット
【特許文献2】特開2002−340194号公報
【特許文献3】特開2006−22900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたもので、その課題は、ハードディスク装置などの駆動機構部をケーシング内に密封してなる駆動機構密封構造装置における制振性能を向上させることのできる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意実験、検討を重ねたところ、以下のような知見を得るに到った。
すなわち、ケーシングの材質厚、特にケーシングの蓋材の材質厚は、シール性、制振性というファクターばかりでなく、小型化、軽量化、経済性などの他のファクターにより決定されるものであるため、装置の制振性を向上させるためには、ガスケットおよびダンパーに関して改良を行う必要がある。そこで、ガスケットおよびダンパーと装置の制振性との関係について探究した。その結果、蓋材圧締時のガスケットへの荷重とダンパーへの荷重とのバランス(荷重比)が、制振性に大きく関与していることが判明した。様々な条件にて前記荷重バランスと制振性とについて実験した結果、蓋材をケーシング本体に圧締した時のガスケットへの荷重をA(kgf)、ダンパへの荷重をB(kgf)で表すと、A/Bが3.0以下において期待される制振性が得られることが確認された。
【0019】
また、前記荷重比3.0以下の範囲内において、ガスケットおよびダンパの硬度が低いことが好ましい。この好適硬度範囲は、ガスケットとダンパのどちらか一方の硬度の好適範囲を特定すれば、他方の好適硬度も自ずと特定できるので、ガスケットに注目した場合で示せば、30%圧縮硬さを基準で2.0〜15.0kg/cm2であることも確認された。
【0020】
さらに、前記荷重比3.0以下の範囲における好適値の選択は、圧締後の蓋材の変形の程度が所定の範囲内に収まるように行うことが好ましいことも確認された。
【0021】
この蓋材の変形の程度の測定および数値化は、次にようにして決定される。すなわち、ケーシング本体に組み付ける前の弾性ガスケット付きトップカバー(蓋材)に対して、次に、一旦、ケーシング本体に組み付け、圧締した後、取り外した弾性ガスケット付きトップカバーに対して、それぞれの変形の程度を測定した。測定は、まず、それぞれのトップカバーを定盤の上に仰向けにして置き、トップカバーの周縁の定盤からの高さを全周に亘って約5mmピッチで測定する。そして、これら組み付け前後の各トップカバーの前記高さ寸法の周方向に沿う分布ヒストグラムを求める。この周方向の高さ分布には組み付け前後で変化が生じ、その変化量の分布のプロフィールによりカバー変形の程度が判明する。このカバー変形の程度は、前記高さ寸法の平均値では知ることができないので、工程能力指数(Cp:Process Capability Index)という統計的手法(例えば、Montgomery, D., "Introduction to Statistical Quality Control," John Wiley & Sons 1991. pp. 369-374を参照)により求める。
【0022】
組み付け前のトップカバーは、良品であり、その周縁の定盤からの高さ寸法の平均値−10μmを規格下限値、前記平均値+10μmを規格上限値とする。この規格上下限値(平均値±10μm)の±10μmという数値は、トップカバーにおける経験値である。かかる規格上限値をUSL、規格下限値をLSLと表し、前記高さ寸法の周方向の分布の標準偏差をσで表すと、上記工程能力指数(Cp)は、下記式にて求めることができる。

Cp=(USL−LSL)/6σ=20/6σ

この工程能力指数(Cp)の式に従って、前記組み付け前のトップカバーのCp値を求めると、1以上となる。したがって、一旦組み付けた後に取り外したトップカバーの工程能力指数(Cp)が、1以上であれば、組み付け、圧締による変形が非常に少なく、実用上、良好であると判断できる。
したがって、このCp(工程能力指数)が1以上である蓋材の変形内で、ガスケットおよびダンパのそれぞれの荷重バランスが調整されることが重要となる。
【0023】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明にかかる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造は、駆動機構部を内部に収納したケーシング本体にガスケットとダンパーを介して蓋材が圧締されてなり、前記ガスケットは前記ケーシング本体と蓋材のそれぞれの内周面に沿って設置され、前記ダンパーは前記駆動機構の上に設置され、それぞれ蓋材により圧縮されている駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造であって、前記ガスケットへの荷重Aと前記ダンパーへの荷重との比A/Bが3.0以下に設定されていることを特徴とする。
【0024】
前記構成において、前記ガスケットの硬度が、30%圧縮硬さを基準で2.0〜15.0kg/cm2であることが好ましい。
【0025】
また、前記構成において、ケーシング本体に組み付け前の蓋材の周縁の定盤からの高さ寸法の平均値−10μm(規格下限値)をLSL、前記平均値+10μm(規格上限値)USLと表し、前記蓋材の高さ寸法の周方向の分布の標準偏差をσで表した場合に下記式(1):
Cp=(USL−LSL)/6σ=20/6σ (1)
で示される工程能力指数(Cp)が、前記ケーシング本体に組み付けられた前記蓋材を取り外して測定した場合において、1以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
前記構成の本発明にかかる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造によれば、ハードディスク装置などの駆動機構部を本体と蓋材とからなるケーシング内に密封してなる駆動機構密封構造装置の組み付け構造において、新たな部材を必要とせず、容易に、高い制振性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明にかかる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造は、駆動機構を内部に収納したケーシング本体にガスケットとダンパーを介して蓋材が圧締されてなり、前記ガスケットは前記ケーシング本体と蓋材のそれぞれの内周面に沿って設置され、前記ダンパーは前記駆動機構の上に設置され、それぞれ蓋材により圧縮されている駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造であって、前記ガスケットへの荷重Aと前記ダンパーへの荷重との比A/Bが3.0以下に設定されていることを特徴とする。
【0028】
かかる特徴の本発明の駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造について、装置がハードディスク装置である場合を具体例として説明する。
【0029】
(ガスケット)
まず、本発明において用いられるガスケットの材質について説明する。
本発明に用いられるガスケットは、ハードディスク装置においては、ケーシング本体と蓋材の間に設けられ、これらケーシング本体および蓋材のそれぞれと接する界面を通じて、またはガスケット自体を透過して、不純物質や湿分、またシリコーンガス等、ハードディスクの機能を損なわせる因子を侵入させず、またガスケット自身から前記不純因子を発生させない材質と特性が必要とされる。そのため、ガスケットは圧縮可能な柔らかさが必要であり、その柔らかさとしては、A硬度で65以下であることが好ましい。また、その圧縮応力によりケーシング本体と蓋材の間のそれぞれの面に圧着して、前記不純因子の発生および透過を許さないゴム材料や熱可塑性エラストマー材料からなるものが好ましい。さらに、これらのゴム材料や熱可塑性エラストマー材料は、室温付近から±50℃の範囲で、Tanδ値が、1〜10000Hzの間で、0.1以上であることが好ましい。
【0030】
前記材料特性をもった高分子材料の具体例としては、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシ系で、UV照射や熱で架橋反応される硬化性ゴム材料や、ブチルゴム(IIR)、ポリイソブチレン、プロピレン・エチレン共重合体ゴム、プロピレン・1−ブテン共重合体ゴムの非架橋または架橋物やそれらの混合物、またこれらが熱可塑性の結晶性高分子材料などとブレンドされ、完全架橋または部分架橋された熱可塑性エラストマー等が上げられる。
【0031】
(ダンパ)
次に、本発明に用いられるダンパの材質について説明する。
本発明に用いられるダンパ材は、ハードディスク装置においては、駆動機構部であるVCMモーターを固定しているヨークと、この面と向き合う蓋材面との間に圧縮状態にて取り付けられている。この状態でダンパは、モーターを固定するとともに、その振動を抑えることのできる特性が必要とされる。そのため、ダンパの材料としては、前記ガスケットと同様に、圧縮可能な柔らかさと、ヨークを固定できる適当な剛性と、モーターの振動を吸収して熱に変換できる特定のミクロ分子凝集構造を持ったゴム材料や熱可塑性エラストマー材料が好適である。
【0032】
また、本発明に用いられるガスケットとダンパは、前述した材質に該当するものであれば、それぞれ違った材質の組み合わせでもよい。つまり、本発明では、それぞれに加えられる圧縮荷重とそれによって決定される荷重比が重要であるからである。
【0033】
次に、ガスケットとダンパの圧縮荷重比(バランス)は、ガスケットとダンパの所定の圧縮率における飽和荷重の比であり、それぞれの飽和荷重は、ガスケットやダンパの材質、および幅や厚み(高さ)のサイズが決められれば、決定できる。したがって、これらの飽和荷重の組み合わせから最終的なバランス値である、ガスケットに対するダンパの圧縮荷重比が決められる。
【0034】
前記ガスケットとダンパのそれぞれの圧縮荷重の値は、実際に特定する上では、便宜上ガスケット付き蓋材やダンパ付き蓋材をそれぞれ別々に、定磐の上に置き、実際のネジで締め付けられる部位と同一の場所をそれぞれ同時に所定の高さまで(所定の高さの任意に決められた圧縮率で)圧縮荷重をかけ、ガスケット全体、あるいはダンパ全体にかかっている30分後の荷重値を用いる。また、ネジによる締め付けは、トルクドライバーにより、最大6Nのトルクを掛けて行う。
【0035】
この圧縮荷重比は、ガスケットの圧縮荷重値(A)をダンパの圧縮荷重値(B)で除された値(A/B)で、この値が3以下にされるように調整すれば、ハードディスク装置においてVCMモーターを発生源とする振動に対する十分なる制振性が得られ、騒音も大幅に低減される。
【0036】
また、ガスケットの圧縮荷重値(A)をダンパの圧縮荷重値(B)で除した比(A/B)が3以下とする調整方法は、ダンパの圧縮荷重値を大きくとれば、自ずと比は3以下になるが、ダンパの圧縮飽和荷重値を大きくとり過ぎると、ダンパ応力による蓋材の変形が大きく、逆に騒音が大きくなる。
【0037】
ダンパに荷重を掛けることによる蓋材の変形は、蓋材の厚みや形状で、剛性を上げることができ、即ち変形の問題は解消できるが、蓋材を厚みや形状を工夫して剛性を上げることは、コスト高になることから、思わしくない。
【0038】
従がって、蓋材の厚みは変更しないことを前提条件にし、蓋材がダンパの荷重によって変形されない圧縮荷重範囲であることが望ましい。
【0039】
前述のように、この蓋材の変形の程度の測定および数値化は、次にようにして決定される。すなわち、ケーシング本体に組み付ける前の弾性ガスケット付きトップカバーに対して、次に、一旦、ケーシング本体に組み付け、圧締した後、取り外した弾性ガスケット付きトップカバーに対して、それぞれの変形の程度を測定した。測定は、まず、それぞれのトップカバーを定盤の上に仰向けにして置き、トップカバーの周縁の定盤からの高さを全周に亘って約5mmピッチで測定する。そして、これら組み付け前後の各トップカバーの前記高さ寸法の周方向に沿う分布ヒストグラムを求める。この周方向の高さ分布には組み付け前後で変化が生じ、その変化量の分布のプロフィールによりカバー変形の程度が判明する。このカバー変形の程度は、前記高さ寸法の平均値では知ることができないので、工程能力指数(Cp:Process Capability Index)という統計的手法(例えば、Montgomery, D., "Introduction to Statistical Quality Control," John Wiley & Sons 1991. pp. 369-374を参照)により求める。
【0040】
組み付け前のトップカバーは、良品であり、その周縁の定盤からの高さ寸法の平均値−10μmを規格下限値、前記平均値+10μmを規格上限値とする。この規格上下限値(平均値±10μm)の±10μmという数値は、トップカバーにおける経験値である。かかる規格上限値をUSL、規格下限値をLSLと表し、前記高さ寸法の周方向の分布の標準偏差をσで表すと、上記工程能力指数(Cp)は、下記式にて求めることができる。

Cp=(USL−LSL)/6σ=20/6σ

この工程能力指数(Cp)の式に従って、前記組み付け前のトップカバーのCp値を求めると、1以上となる。したがって、一旦組み付けた後に取り外したトップカバーの工程能力指数(Cp)が、1以上であれば、組み付け、圧締による変形が非常に少なく、実用上、良好であると判断できる。
したがって、このCp(工程能力指数)が1以上である蓋材の変形内で、ガスケットおよびダンパのそれぞれの荷重バランスが調整されることが重要となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明するが、以下に示す実施例は本発明を好適に説明する例示であり、なんら本発明を限定するものではない。
【0042】
(実施例1)
市販の3.5インチハードディスク装置を対象として、ガスケットおよびダンパをオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いて成形し、ケーシングの蓋材の内側の外周部分にガスケットを固定し、ケーシング本体内のVCMモータのヨーク上にダンパを固定し、前記蓋材をケーシング本体に前記ガスケットとダンパの圧縮率30〜35%になるように圧締し、ハードディスク装置を組み立てた。この時のガスケットとダンパの圧縮荷重は下記(表1)に示す値に設定した。また、この時の圧縮荷重値による蓋材の変形程度を示す前述の工程能力指数(Cp)は、組み付け後に取り外された蓋材について、定盤上に置いた蓋材の周縁の定盤からの高さ寸法の蓋材周縁の周方向の分布の標準偏差を当てはめて求められた数値である。
【0043】
得られたサンプルに対し、以下の2種の評価実験を行った。
(評価実験1:音響A特性)
前記組み立てたハードディスク装置に対し、騒音計(小野測器製LA5570)にて暗騒音15dBの半無響室内で、前記モータのスピンドル直上から10cmの距離にマイクホンを設定し、20℃におけるランダムシーク発生音につき、騒音レベル(LA: A-Weighted Sound Pressure Level)のOver All値(dB)を測定した。40dB未満を○、40dB以上を×とした。
【0044】
(評価実験2:制振性)
前記組み立てたハードディスク装置に対して、20[℃]におけるランダムシーク動作時のスピンドル直上位置の速度振幅を、LDV(小野測器社製、商品名「LD1720」)で測定し、1〜4[KHz]のパワースペクトルにつき、音響A特性での40[dB]相当を基準とし、この基準パワースペクトルに対しそれぞれの面積差を求め、振動スペクトル積算値[dB]として、相対評価した。基準スペクトルよりも積算値がプラスで出てきた場合×(不良)とし、マイナスで出てきた場合を○(良)とした。
【0045】
上記評価実験1、2よる評価結果を、下記(表1)に併記した。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様に、ガスケットとダンパのそれぞれの圧縮荷重値と、蓋材の工程能力指数(Cp)とが下記(表1)に示す値となるようにして、ハードディスク装置を組み立てた。
実施例1と同様に、得られたサンプル装置に対し、前記2種の評価実験を行った。その結果を下記(表1)併記した。
【0047】
(実施例3)
実施例1と同様に、ガスケットとダンパのそれぞれの圧縮荷重値と、蓋材の工程能力指数(Cp)とが下記(表1)に示す値となるようにして、ハードディスク装置を組み立てた。
実施例1と同様に、得られたサンプル装置に対し、前記2種の評価実験を行った。その結果を下記(表1)併記した。
【0048】
【表1】

【0049】
(比較例1)
実施例1と同様に、ガスケットとダンパのそれぞれの圧縮荷重値と、蓋材の工程能力指数(Cp)とが下記(表2)に示す値となるようにして、ハードディスク装置を組み立てた。
実施例1と同様に、得られたサンプル装置に対し、前記2種の評価実験を行った。その結果を下記(表2)併記した。
【0050】
(比較例2)
実施例1と同様に、ガスケットとダンパのそれぞれの圧縮荷重値と、蓋材の工程能力指数(Cp)とが下記(表2)に示す値となるようにして、ハードディスク装置を組み立てた。
実施例1と同様に、得られたサンプル装置に対し、前記2種の評価実験を行った。その結果を下記(表2)併記した。
【0051】
(比較例3)
実施例1と同様に、ガスケットとダンパのそれぞれの圧縮荷重値と、蓋材の工程能力指数(Cp)とが下記(表2)に示す値となるようにして、ハードディスク装置を組み立てた。
実施例1と同様に、得られたサンプル装置に対し、前記2種の評価実験を行った。その結果を下記(表2)併記した。
【0052】
(比較例4)
実施例1と同様に、ガスケットとダンパのそれぞれの圧縮荷重値と、蓋材の工程能力指数(Cp)とが下記(表2)に示す値となるようにして、ハードディスク装置を組み立てた。
実施例1と同様に、得られたサンプル装置に対し、前記2種の評価実験を行った。その結果を下記(表2)併記した。
【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、前記構成の本発明にかかる駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造によれば、ハードディスク装置などの駆動機構部を本体と蓋材とからなるケーシング内に密封してなる駆動機構密封構造装置の組み付け構造において、新たな部材を必要とせず、容易に、高い制振性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】駆動機構密封構造装置の代表例であるハードディスク装置の制振構造を説明するための図であり、ハードディスク装置の蓋材を取り外した状態の斜視図である。
【図2】図1のハードディスク装置における騒音発生のメカニズムを説明するための図であり、このハードディスク装置の断面構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 ハードディスク装置
2 ケーシング本体
3 蓋材(トップカバー)
4 駆動機構部
5 ハードディスク(記録メディア)
6 スピンドル
7 磁気ヘッド
8 キャリッジアーム
9 VCMモータ
10 固定ヨーク
11 ガスケット
12 ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動機構を内部に収納したケーシング本体にガスケットとダンパーを介して蓋材が圧締されてなり、前記ガスケットは前記ケーシング本体と蓋材のそれぞれの内周面に沿って設置され、前記ダンパーは前記駆動機構の上に設置され、それぞれ蓋材により圧縮されている駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造であって、前記ガスケットへの荷重Aと前記ダンパーへの荷重との比A/Bが3.0以下に設定されていることを特徴とする駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造。
【請求項2】
前記ガスケットの硬度が、30%圧縮硬さ基準で2.0〜15.0kg/cm2であることを特徴とする請求項1に記載の駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造。
【請求項3】
前記ケーシング本体に組み付け前の蓋材の周縁の定盤からの高さ寸法の平均値−10μm(規格下限値)をLSL、前記平均値+10μm(規格上限値)USLと表し、前記蓋材の周縁の定盤からの高さ寸法の周方向の分布の標準偏差をσで表した場合に下記式(1):
Cp=(USL−LSL)/6σ (1)
で示される工程能力指数(Cp)が、前記ケーシング本体に組み付けられた前記蓋材を取り外して測定した場合において、1以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動機構密封構造装置の制振組み付け構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−243279(P2008−243279A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81424(P2007−81424)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】