説明

騒音低減用カバー

【課題】 鉄道車両の屋根に設置される集電装置から発生する騒音を低減する。
【解決手段】 集電装置の前後に、上面が車体前後方向の断面で屋根面と平行な平面部をなし、集電装置と反対側の端部の厚みが次第に減少するように形成された平面部材5を配置し、この平面部材5の車体幅方向側面に張り出して車体前後方向に連続し、その下面が、車体前後方向の端部では前記平面部材の上面に近づき、前後方向の中央部では車体屋根面に接近するように、下方に凸な湾曲面をなしている側方部材6を設け、前記平面部材5と前記側方部材6の下方にあってそれらを車体屋根1に支持し、水平面に投影したときの形状が、内部に前記集電装置2の碍子8を内包する楕円形状の壁面を備えた脚部材7を設け、前記平面部材5の前記脚部材7の外側になる部分の下面は、前記脚部材7の外面及び前記側方部材6の下面に滑らかに接続される曲面を成すように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する鉄道車両の屋根上に設置された集電装置から発生する空力騒音を低減させるため、集電装置の周囲に設置されるカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
電動機で駆動される鉄道車両には、車両外から電気エネルギを取り入れるための集電装置が、通常は車両の屋根上に設置されている。この集電装置は、車両屋根面の上方に露出して配置され、車両の走行に伴う走行風に曝される。走行中の車両の集電装置から発生する騒音としては、スパーク音、架線との摺動音および走行風に起因する空力騒音等がある。これらの騒音の大きさは速度への依存性が高く、特に空力騒音は走行速度の6乗〜9乗に比例して増加することが知られている。
【0003】
このような集電装置からの空力騒音を低減するものとして、例えば特許文献1に記載のように、車体屋根上に設置された集電装置を取り囲む防風カバーが知られている。この防風カバーは、集電装置の前後に配置され集電装置へ向かって緩やかな上り勾配を有するスロープ部と集電装置の側方位置に設けられた側壁部とから構成され、この側壁部における集電装置の絶縁離隔領域と干渉する部位に切り欠きが形成されている。さらに、側壁の切り欠きの外側且つ集電装置の絶縁離隔領域の外側に、遮音壁を設けた構造が知られている。ただし、防風カバーの高さは、使用状態での集電装置の舟体よりも低く、舟体自体に当たる走行風を遮蔽するようにはなっていない。
【0004】
上述の特許文献1記載の防風カバーによれば、走行風、つまり空気流はスロープ部を通過する際、このスロープ部が上り勾配を持つため、空気流の流路断面積がその分絞られ、流速が走行速度に対して、およそ5%程度増速してしまう。この結果、集電装置、特に舟体に走行流より速い流れが当たることになり、騒音が増大するという欠点がある。また、側壁部に切り欠きがあることによって、集電装置を収容するキャビティ内部で発生した騒音が防風カバーで遮蔽しきれず、外部に漏れることになる。このため、実用上は、切り欠きの外側に遮音壁を形成することとなり、構成が複雑になるといった欠点がある。また、前記遮音壁を設けることによって、防風カバーの側面と遮音壁の間の空間にも走行速度かそれ以上の速度を持つ空気流が流れることになる。その結果、集電装置のホーン部にその空気流が当たることとなり、ホーン部から発生する騒音が大きくなる。
【0005】
一方、特許文献2に記載のように、防風カバーの側壁を、その高さ寸法が、前後から中央部に向かって漸減するように構成するとともに、中央部における高さ寸法を、集電装置の折り畳み時に絶縁離隔を確保し得る寸法に設定するように構成されたものが知られている。この公報記載のものでは、集電装置前方の防風カバーは、車両中心線で高く、左右に行くにつれて低くなる曲面で構成されている。しかし、この防風カバーにおいても、スロープにより空気流の流路断面積が絞られることに変わりはなかった。
【特許文献1】特開平8−98306号公報
【特許文献2】特開平10−341501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1や特許文献2に記載の従来技術では、集電装置を挟んで車体前後方向の両側に、集電装置に向かって上り勾配を持つスロープ部が設置されているため、車両走行時には集電装置付近では空気流が加速され、走行風より速い流れが集電装置上部に当たることになる。このため、集電装置上部から発生する空力騒音が大きいといった問題がある。また、前記特許文献1に記載の従来技術では、防風カバーは集電装置を収容するキャビティを形成するが、キャビティの風下側の壁から騒音が発生するといった問題があった。
【0007】
ここで、本発明者らは、現在用いられている集電装置では、集電装置の碍子、舟体およびホーン部が主な騒音源となっているという知見を得た。上述の従来技術では、カバーによって碍子からの騒音は低減できるが、その他の部分から発生する騒音を遮蔽することはできない。それらの騒音を遮蔽するためには、車両限界を超える高い遮音壁を設ける必要があり、実際的ではない。この点から、カバーの外形形状自体を工夫する余地があると考えた。
【0008】
その一方で、カバー自体も、空気流を案内して後方に逃がすときに空力抵抗や空力音発生の原因にもなっていることに着目した。この要因としては、例えばカバーの上面に沿って案内される空気流が集電装置側のエッジ部で剥離し、渦流となって集電装置の碍子部分へ回り込み、騒音を発生させてしまうことが考えられる。また、集電装置の周囲をカバーするという構造上、集電装置の(走行方向から見て)前後には何らかの壁部が存在することとなり、これらが共鳴音の発生原因となっているとも考えられる。したがって、これらの点に関しても工夫の余地がある。
【0009】
本発明の目的は、集電性能に影響を与えることなく集電装置から発生する空力騒音を抑えることのできる集電装置の騒音低減用カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、車体屋根に設置された集電装置に対して車体移動方向の前方側に配置され、車体前後方向の断面で車体屋根面と略平行且つ当該車体屋根面から所定距離上方に配置された上面部を有する平面部材と、前記平面部材の下方にあって当該平面部材を前記車体屋根に支持すると共に、内部に前記集電装置の碍子を内包可能な脚部材とを備え、前記平面部材の車体幅方向側面に張り出して車体前後方向に連続して設置され、その上面が、前記集電装置の存在する位置にて最も低く、前記車体移動方向の前方側にいくにつれて次第に高くなり、当該車体移動方向の前方端では前記平面部材の上面と同じ高さとなる傾斜面部として形成された側方部材を備えており、当該側方部材は、その下面が、車体移動方向の前方端では前記平面部材の上面部に近づき、前記集電装置に存在する位置では車体屋根面に接近するような湾曲面に形成され、前記脚部材は、内部に前記集電装置の碍子を内包可能であって、水平面へ投影したときの形状が、車体移動方向前方側で次第に狭まり、前記集電装置の存在する位置では車体幅方向に膨らんだ形状であり、前記平面部材の上面部と下面部との距離である厚みが前記車体移動方向前端側から前記集電装置の存在する方向へ次第に増加するよう形成され、且つ前記平面部材の下面部は、前記脚部材の外面に滑らかに接続されていることにより達成される。
【0011】
また上記目的は、前記平面部材は、前記上面部と前記側方部材の傾斜面部の上下方向の段差を接続する側面部を有することにより達成される。
また上記目的は、前記上面部の前記集電装置が存在する側の端部に、当該端部から車体屋根面に達する内壁部を有しており、前記内壁部の車体幅方向端部は、前記側方部材の上側では前記側面部に対して空気流の剥離の少ない滑らかな曲面で接続されていることにより達成される。
【0012】
また上記目的は、前記内壁部と前記側面部を接続する曲面は、前記側面部の車体中心線側且つ前記内壁部を挟んで前記集電装置とは反対側に曲率中心を持つ曲面であることにより達成される。 また上記目的は、車体屋根の一部を切り欠き、当該車体屋根面より低い位置に下端を位置させて設置された碍子を含んでなる集電装置に対して車体移動方向の前方側に配置され、前記車体屋根の切り欠き部に、車体屋根面と同じ高さになるよう配置された上面部を有する平面部材を備え、前記平面部材の車体幅方向側面に張り出して車体前後方向に連続して設置され、その上面が、前記集電装置の存在する位置にて最も低く、前記車体移動方向の前方側にいくにつれて次第に高くなり、当該車体移動方向の前方端では前記平面部材の上面と同じ高さとなる傾斜面部として形成された側方部材を備えており、当該側方部材は、前記傾斜面部の車体幅方向端部上面に、上端位置が前記車体屋根と同じ高さになる側壁が車体前後方向に沿って形成された側壁を備え、前記平面部材及び側方部材による水平面への投影形状は、前記車体屋根の切り欠き部による水平面への投影形状と合致していることにより達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明が適用された実施例について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施例に何ら限定されることなく、本発明の技術的範囲に属する限り、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
[第1実施例]
第1実施例の騒音低減用カバー(以下、単にカバーと称す。)1について図1〜7を参照して説明する。
【0014】
図1は カバー1の概略斜視図、図2はカバー1の車体前後方向の面で切断した断面図、図3はカバー1の平面図、図4はカバー1の車体幅方向の面で切断した断面図、図5はカバー1の側面図、図6及び図7はカバー1の一部分の断面図である。
【0015】
本実施例のカバー1は、鉄道車両の車体屋根10上に設置された集電装置2を間に挟んで、車体前後方向に互いに対称に配置された平面部材5と、平面部材5を車体屋根10に支持する脚部材7と、平面部材と脚部材7の車体幅方向の両側面に張り出して設けられた側方部材6とを備えている。本実施例では、鉄道車両が双方向に走行することを前提としているため、カバー1は、その全体形状が、集電装置2を中心として車体前後方向に対称となるよう構成されている。
【0016】
脚部材7は、図1に示すカバー1の平面図である図3に示されているように、車体屋根面に投影された形状が、内部に集電装置2の碍子8を包含するようにして、長軸を車体前後方向にした楕円形状の閉じた壁をなしている。
【0017】
一方、平面部材5は、車体進行方向Aに対し集電装置2の前後に設置され、図2に示すように、車体屋根10の上方に脚部材7を介して支持されている。また、平面部材5は、上面部5a、内壁部5b、側面部5c及び下面部5dを備えている。これら各部の構成を順番に説明する。
【0018】
まず上面部5aは、その前後端が脚部材7の前後端よりもさらに前後に突出し、水平もしくは俯仰10度以下の傾斜角で傾斜した平面もしくはこれらの組み合わせで構成されている。そしてその形状は、カバー1の上面をなすほぼ四角形とされている。
【0019】
また、内壁部5bは、上面部5aの車体前後方向の一方の端部(集電装置2に近い側の端部)と車体屋根10の間に車体幅方向に延びるように形成され、集電装置2を収容するキャビティを形成している。側面部5cは、上面部5aと側方部材6の間の段差を埋めるものである。さらに、下面部5dは、上面部5aの車体前後方向の他方の端部(集電装置2からは遠い方の端部)と脚部材7の端部を傾斜面で接続している。
【0020】
なお、脚部材7と外壁5dの接続部は、滑らかな曲面で形成するのが望ましい。上面部5aと下面部5dは、図5(a)に示すように、車体前後方向に対し片持ち梁状に突出する形状に形成されている。但し、この下面部5dについては、例えば図5(b)に示すように、傾斜部を長くとることも可能である。
【0021】
また、上面部5aの車体屋根面からの高さ(H)は、図2に示すように、集電装置2の碍子8の上端と略同じ高さとしてあり、上面部5aの幅は、集電装置2の舟体3の車体幅方向の長さの1.5〜2.0倍程度とするのが望ましい。なお、本実施例では上面部5aを平面で形成したが、例えば母線が車体前後方向に平行な「かまぼこ形」の曲面で形成してもよい。
【0022】
平面部材5の先端部(上面部5aと下面部5dが接続している部分)は、車体中心線に対して直交する直線をなしている。そして、下面部5dは、上面部5aと接続している部分から離れるにつれて(つまり集電装置2に近づくにつれて)上面部5aからの距離が大きくなるようにされている。つまり、集電装置2に近づくにつれて平面部材5の厚みが次第に大きくなるようにされている。
【0023】
このような構成によって、図2の左から右に向かって(図中矢印Aで示す方向)車体屋根10に沿った空気流が流れる場合、その空気流は、平面部材5の先端で上下に分けられ、上側の空気流はそのまま平面部材5の上面(上面部5a)に沿って流れ、下側の空気流は平面部材5の下面に沿って流れるようになる。
【0024】
これまでの平面部材5に関する説明で、その外形形状自体は明らかになったが、本実施例の場合には、平面部材5が部分的にメッシュ構造とされている。具体的には、上面部5aの一部と、内壁部5b及び側面部5cの全部がメッシュ構造とされている。上面部5aについては、図1及び図2に示すように、集電装置2が存在する側の端部付近がメッシュ構造とされており、反対側の端部付近は板状に形成されている。さらに詳しくは、全てメッシュ構造である内壁部5bと連接する部分及び、やはり全てメッシュ構造である側面部5cと連接する部分については、上面部5aもメッシュ構造とされている。これによって、上面部5aを通過した空気流は内壁部5b及び側面部5cから後方に排出可能とされている。
【0025】
なお、メッシュ構造にした場合には、板状構造の場合に比べて強度が低下するので、例えば上面部5aと内壁部5bが接続する部分、上面部5aと側面部5cが接続する部分、及び内壁部5bと側面部5cが接続する部分については、強度向上のために棒状の部材を配置してもよい。このようにすれば、枠に相当する部分の強度が向上する。
【0026】
ここでさらに、図2及び図3に示すように、平面部材5の上面部5aのメッシュ構造部分の下方に、上面部5aのメッシュ構造を通過して後方に排出される空気流を整える整流板20が配置されている。この整流板20は略四角形の平板状であり、その一辺が内壁部5bの下端に配置され、対向する一辺が上面部5aのメッシュ構造の(集電装置2から遠い側の)先端に配置されている。つまり、図3の断面図で言えば、側方から見た場合に、整流板20と、上面部5aのメッシュ構造部分と、内壁部5bとで直角三角形を構成し、整流板20が最大辺となるような配置である。また、整流板20を上面部5aへ投影した形状は、上面部5aのメッシュ構造と略同一となる。
【0027】
また、内壁部5bの車体幅方向端部は、側方部材6の上面よりも下方では、前記脚部材7に滑らかな曲面で接続され、側方部材6の上面より上方では、側面部5cに空気流の剥離の少ない滑らかな曲面で接続されている。側面部5cは、車体幅方向中央位置における内壁部5bの前後方向位置よりもやや集電装置2側にまで延長して形成されており、内壁部5bと側面部5c及び内壁部5bと脚部材7との接合部付近の曲面は、キャビティ内側(すなわち集電装置2側)に曲率中心をもつ曲面をなすような形状としてある。なお、この接合部付近の曲面形状は、その曲率中心が、車体屋根からの高さに応じて変化するようにしてもよいし、曲率中心がある特定の鉛直線上に存在するようにしてもよい。
【0028】
また、側面部5cの、内壁部5bよりも集電装置2側に位置する部分は、図2に示すように、上面部5aの高さから側方部材6の上面高さまで円弧を組み合わせた形状でその高さが変化するような形状にされている。次に、側方部材6は、図1、図4などに示すように、側壁6aと、車体前後方向に延びる傾斜面部6bとを備えている。この傾斜面部6bは、その幅方向側面の一方を平面部材5の上面部5a及び脚部材7に結合、支持されている。また、この傾斜面部6bは、集電装置2の車体幅方向両側に設置され、車体幅方向外側に張り出している。そして側壁6aは、この傾斜面部6bの幅方向外側端部において上方へ立設されている。
【0029】
傾斜面部6bは、図4及び図5(a)に示すように、その前後端では、その幅方向側面が平面部材5の上面部5aの幅方向側面に接続されており、その上面部5aに接続されている部分では(傾斜面部6bの)上面の高さは(平面部材5)の上面部5aの高さHと同じにされている。しかし傾斜面部6bは、集電装置2の側方においては、その上面が車体屋根面に平行になるように形成され、上述の(上面部5aと同じ高さである)前後端部分とその平行部分との間は、スロープ状に形成されている。なお、以下の説明において、この集電装置2側方の平行部分とその前後に形成されるスロープ部分を含めて「スロープ部S」と称す。
【0030】
このスロープ部Sは、車体屋根面を基準として、平面部材5の上面部5aの高さHから、集電装置2の舟体3が下降した際に舟体3の両端に設けられたホーン部4先端に対する絶縁離隔、すなわち電気的絶縁距離R(図4中の破線は半径Rの円を示す)を確保する高さLまで、緩やかに変化するスロープを形成する。このスロープの形成に伴い、平面部材5の上面部5aの上面と傾斜面部6のスロープ部Sとの間に上下方向の段差が生じるので、この段差を塞ぐように、前記(平面部材5の)側面部5cが車体前後方向に配置されている。なお、このスロープ部Sの勾配は例えば5〜15度程度に設定されることが望ましい。
【0031】
また、側方部材6の側壁6aは、図4に示すように、垂直または斜め上方へ突き出す形状とし、車体幅方向への位置に関しては、その外側位置は車体側面よりも内側であればよい。しかし、その内側位置は、集電装置2の舟体3が下降した際のホーン部4先端に対する絶縁離隔、すなわち電気的絶縁距離Rを確保できる位置にする必要がある。
【0032】
側方部材6と脚部材7との関係を説明すると、脚部材7の高さは、傾斜面部6b下面の高さに等しくなるように形成し、脚部材7の最大幅は、例えば側壁6aの幅が3200mmのとき、およそ1600mmとすることが考えられる。また、側壁6a上端の高さは、図5に示すように、平面部材5の上面部5aと同じ高さHとするのが望ましい。但し、側壁6aは、図に二点鎖線で示すように、その一部または全体の高さを例えば150mm程度高くしてもよい。
【0033】
なお、傾斜面部6bの下面は、図5に実線で示すように、上面部5aの先端から次第に低くなり、中央部分で車体屋根10と平行な部分を経て再び次第に高くなるように形成されている。また、傾斜面部6bの下面の幅方向内側端部は外壁5dの外側端の形状に合わせて形成されており、傾斜面部6bの下面の幅方向内側端部と脚部材7の外面の接続部は、滑らかな曲面で形成されるのが望ましい。すなわち、平面部材5の下面の前記脚部材7の外側になる部分及び傾斜面部6bの下面は、一部に平面を含むが全体として滑らかな曲面を構成している。そして平面部材5の下面と脚部材7外周面との接続部も、滑らかな曲面としてある。
【0034】
なお、傾斜面部6bの厚みは一定でなくても良い。傾斜面部6bの下面と上面(スロープ部S)の形状に対して要求される観点が異なるからである。例えばスロープ部Sの高さと傾斜は、集電装置2の舟体3が下降した際のホーン部4先端の絶縁離隔条件とスロープ部S上面での空気流を滑らかに通過させるための条件で決まる。それに対して傾斜面部6bの下面の形状は、傾斜面部6bの下面と車体屋根10の間の空気流を滑らかに通過させるための条件で決まる。そのため、傾斜面部6bの厚みは、図5あるいは図6に示すように、幅方向にも、車体前後方向にも変化する可能性がある。
【0035】
また、本実施例のカバー1は、強度、耐久性が必要となると共に、車体屋根10上に設置されるため軽量であることか望ましい。したがって、材質としては、例えばアルミ合金、チタンなどの軽合金、FRP等の樹脂性材料等が挙げられる。そしてカバー1に使用する場合には、これらの単一の部材、もしくは複数の部材の組み合わせを用いればよい。
【0036】
以上説明した本実施例のカバー1によれば、次のような効果が得られる。
(1)図1、図2に示すように、車体屋根上面に沿って集電装置2に向かって流れてくる空気流Aは、平面部材5の先端で、上面部5a上を流れる空気流Bと車体屋根10方向へ流れる空気流Cとに分けられる。上面部5aは車体屋根面と平行であるため流路断面積が小さくなることがなく、上側を流れる空気流Bは流速が増加しない。
【0037】
そして、平面部材5の上面部5aに沿って流れてきた空気流の一部は、上面部5aのメッシュ構造部分を通過して内壁部5bのメッシュ構造部分から後方に排出される。このため、仮に上面部が平板状であった場合には、集電装置2側の端部において空気流Bが剥離して渦流を発生させてしまい、その渦流が集電装置2に当たることで騒音を発生させる原因となっていたが、本実施例のカバー1によれば、このような渦流が生じる部分にメッシュ構造を通過した空気流が至るため、上述した空気流の渦流の発生を抑制できる。そのため、空気流が集電装置2に当たった場合の騒音を低減できると共に、集電性能に悪影響を及ぼす揚力変動も抑制できる。さらに、本実施例では、上面部5aの下方に整流板20を配置したため、メッシュ構造を通過して集電装置2側へ至る空気流の整流作用が発揮される。そのため、上述の空気流の剥離や渦流の発生抑止効果がより向上する。
【0038】
また、本実施例のカバー1は、鉄道車両が双方向に走行することを前提としているため、集電装置2を中心として車体前後方向に対称であり、つまり、集電装置2に対して走行方向後方側にも平面部材5が配置されることとなる。この場合、走行方向前方側に存在する平面部材5のメッシュ構造を通過して後方に排出された空気流が、集電装置2を過ぎて、上述した走行方向後方側に存在する平面部材5に至る。しかし、この空気流は、走行方向前方側に存在する平面部材5の場合とは逆の経路、すなわち、内壁部5bを通過して整流板20に沿って上方へ導かれ、上面部5aのメッシュ構造を通過してさらに後方へ排出されていく。したがって、カバー1の全体として見た場合、乱れの少ない空気の流れが実現され、騒音低減に寄与する。
【0039】
さらに、この内壁部5bが通気性のない板状の場合には共鳴音の発生による騒音という問題があったが、本実施例では、上述のように内壁部5bがメッシュ構造であるため、共鳴音低減にも寄与する。
(2)また、上面部5aが全て板状体であれば、上側の空気流Bは流路断面積が小さくなることがなく流速が増加しないが、実際には上面部5aのメッシュ構造によって流路面積が拡大することとなるため、空気流の流速低減効果も得られる。さらに、上面部5aのメッシュ構造及び内壁部5bを通過した空気流が集電装置2に当たる場合を考えると、メッシュ構造を通過することで相対的に空気流は低速化する。このように、外形形状に対する工夫のみならず平面部材5の上面部5a、内壁部5bそして側面部5cをメッシュ構造にすることによって、集電性能に影響を与えることなく集電装置2から発生する空力騒音を抑制できる。
(3)さらに、側方部材6の側壁6aの内側、傾斜面部6bのスロープ部Sでは、空気流は剥離を起こすことなく傾斜面部6b上面に沿って流れる。この部分では流路面積が大きくなり、この部分での空気流の流速を下げることができる。このため、集電装置2のホーン部4には、車体屋根上面に沿って集電装置2に向かって流れてくる空気流Aよりも遅い空気流が当たることになる。この結果、集電装置2の舟体3及びホーン部4から発生する騒音を下げることができる。さらに、側壁6aの一部(中央部分)または全部を高くすることによって、集電装置2の舟体3が走行時に発生させるスパーク音や摺動音等を遮蔽することができ、騒音の更なる低減効果が得られる。
(4)また、下側の空気流、すなわち車体屋根10方向へ向かう空気流Cは、まず平面部材5の下面部5dに沿って流れ、脚部材7の先端に達したら、脚部材7の両側に分かれて車体屋根面と傾斜面部6bの間の空間を流れる。ここではそれまでよりも流路断面積が小さくなっているから空気流はそれまでよりも速度を上げて流れるが、脚部材7の外面及び傾斜面部6bの下面は滑らかな曲面で構成され、突起物や空気流を乱すものがないので、空気流Cによる騒音の発生は少ない。
(5)それ以外にも次のような効果がある。
(ア)脚部材7の幅、およびカバーの高さを小さくすることができるため、カバーの投影面積を小さくすることができる。
(イ)側方部材6の外側形状が、車体の進行方向Aの対して垂直なカバーの5断面積の変化を最小となるような形状をとるため、急激な圧力変動を防止することができる。
[第2実施例]
次に、第2実施例のカバー21について、図7を参照して説明する。第1実施例のカバー1と同じ構成部分については同じ符号を付して説明は省略する。第1実施例のカバー1との相違点は、平面部材5の内壁部5bと側面部5cとの接合部を含む端部を、キャビティとは逆の方向、つまり、側面部5cより車体中心線側で且つ内壁部5bを挟んで集電装置2と反対側に曲率中心を持つ曲面とした点である。この際、曲面の曲率半径は例えば200mm〜400mm程度が好ましい。なお、傾斜面部6b下方における脚部材7と内壁部5bの接合部は、前記第1実施例の場合と同様に、曲率中心か集電装置2側にある曲面とするのが望ましい。
【0040】
このような構成によれば、前記第1実施例の場合と同様な効果か得られるとともに、空気流Dが円弧曲面にそってキャビティ内部に導入されるため、傾斜面部6b上を流れる空気流の流速をさらに減少させることができる。この結果、ホーン部4に当たる空気流の流速が小さくなり、この部分から発生する空力騒音をさらに減少させることができる。
【0041】
従来技術では、キャビティ部において、風上側キヤビティ壁上端ではく離した流れが、風下側キャビディ壁に衝突し上方に巻き上げられ、騒音か発生するといった問題がある。これに対して、本実施例によれば、風上側内壁部5b上端で剥離した流れは、風下側内壁部5bに衝突する際、その一部が曲面に沿って幅方向外側に流れる。この結果、キャビティ部風下側から発生する騒音を低減できる。
【0042】
また、キャビティ部の主な騒音源である風下側の内壁部5bの面積を小さくすることができるため、発生する騒音を低減することができるという効果も得られる。さらに、キャビティ部廻りの形状を前記第1実施例の場合に比べて単純な形状とすることができ、製作を容易にすることができる。
[第3実施例]
次に、第3実施例のカバー31について、図8を参照して説明する。第1実施例のカバー1と同じ構成部分については同じ符号を付して説明は省略する。
【0043】
第1実施例のカバー1との相違点は、集電装置2、すなわち舟体3を取りつけるための碍子8が、車体屋根10の上面よりも低い位置に、車体屋根10に対して沈み込んだ状態に取りつけられていることによる相違点である。すなわち、平面部材5の上面部5aが、車体屋根10と同じ高さに設置されていることと、車体屋根10が、カバー31を水平面へ投影したときの外周輪郭形状に切りぬかれ、カバー全体が切り抜かれた部分に嵌め込まれて、上面部5aの前後端部、傾斜面部6bの前後端部、及び側壁6aの上端部が、前記切り抜かれた車体屋根10の端部と同じ高さで滑らかに接続されていることである。なお、図8の黒矢印は車体の走行方向、白抜矢印Bはそのときの空気流(走行風)の方向を示す。
【0044】
本実施例では、上記のように構成されているために、傾斜面部6bの下に流れ込む空気流はなく、車体屋根10上を流れてきた空気流(走行風)は、そのまま車体屋根10よりも上に出ている舟体3やホーン部4に当る。しかし、第1実施例の場合と同様に、平面部材5の上面部5aに沿って流れてきた空気流の一部が上面部5aのメッシュ構造部分を通過して内壁部5bのメッシュ構造部分から後方に排出されるため、空気流の剥離や渦流の発生を抑制できる。また、第1実施例の場合と同様に、傾斜面部6bの存在によって空気流の流路断面積は車体屋根10部分よりも集電装置2が存在する部分において大きくなっており、この結果、舟体3やホーン部4に当る空気流は減速される。
【0045】
このように、本実施例においても、第1実施例と同様、空気流が集電装置2に当たった場合の騒音を低減できると共に、集電性能に悪影響を及ぼす揚力変動も抑制できる。なお、本実施例では、上面部5aの車体幅方向の断面形状は車体屋根の断面形状と同じに形成されているが、車体屋根の曲面の曲がりの程度が大きくない場合は、上面部5aを平面で構成し、車体中心線での高さが車体屋根10と一致するように配置してもよい。
[その他]
(1)上記実施例では、平面部材5において、上面部5aの一部と、内壁部5b及び側面部5cの全部をメッシュ構造としたが、これ以外にも種々の変更が可能である。
【0046】
例えば、図9(a)に示すように、内壁部5bについては全部ではなく上半分だけをメッシュ構造にしてもよい。この場合の整流板20については、図2に示す場合よりも内壁部5a側の端部が上がることとなる。なお、図9(a)においては、側方部材6の傾斜面部6bのスロープ形状に合わせた形状に整流板20を形成している。また、図9(b)に示すように、図9(a)に示す内壁部5bのメッシュ構造部分を小さくした状態から、さらに上面部5aのメッシュ構造部分を小さくしてもよい。この場合には、上面部5aのメッシュ構造部分が小さくしたことに対応させて、側面部5cのメッシュ構造部分も小さくしてある。当然ながら、整流板20の大きさ及び位置もそれらメッシュ構造部分の配置変更に応じて変更されている。また、このようにメッシュ構造部分を第1実施例の場合に比べて小さくするのではなく、逆に、上面部5aを全てメッシュ構造にしてもよい。なお、これら平面部材5の上面部5a、内壁部5b及び側面部5cにおいてどの程度(つまり全部なのか、一部だけなのか)メッシュ構造にするかについては、騒音低減に関する寄与度合いがケースバイケースである。したがって、例えば実験などで確認して適切な構成を採用するとよい。
【0047】
一方、内壁部5bについては、吸音材などを用いてもよい。この場合は、共鳴音低減の面ではより有効である。さらには、平面部材5の上面部5aについても吸音材を用いることもできる。つまり、本発明における上面部5aに要求される「メッシュ機能」は、上述したように、空気流の一部をその構造面に沿って流すと共に、一部をその構造面を通過させて流すことのできる機能であるため、これは吸音材を用いても得ることはできる。但し、通気性のより重視するのであれば、上記実施例のようなメッシュ構造が好ましい。一方、内壁部5bについても、共鳴音低減の面をより重視するのであれば吸音材を用いることが好ましいが、上面部5aを通過した空気流を集電装置2側へ排出させる機能を重視するのであれば、上記実施例のようなメッシュ構造が好ましい。このように、各部分についてどのような効果を重視してどのような構造を採用するかについては、全体的な騒音低減という観点からの調整が必要であるため、適宜、実験などで確認することが好ましいといえる。
(2)上記実施例では、平面部材5の側面部5cについてもメッシュ構造としたが平板構造としてもよい。この場合はメッシュ効果は得られないが、整流効果は相対的に優れている。したがって、いずれの効果を優先した方が騒音低減に関して有効かは、ケースバイケースであるので、例えば実験などで確認して、適切な方を採用すればよい。
(3)上記実施例では、鉄道車両が双方向に走行することを前提としているため、集電装置2を中心として車体前後方向に対称形状のカバー1として実現した。しかし、一方向にしか走行しない場合には、集電装置2の走行方向前方側のみに上述の平面部材5を備えてもよい。
また双方向に走行する場合であっても、必ずしも集電装置2の前後において全く同じ構成を備える必要はない。但し、双方向に同様の走行、例えば同じような走行速度で走行することを前提とした場合には、上記実施例のような対称形状が好ましい。
(4)上記第1,第2実施例では、内壁部5bと脚部材7の側壁部分内周面で集電装置2を収容するキャビティを構成したが、脚部材7の側壁部分の内側に新たな壁面を形成し、傾斜面部6bの内側端をこの新たな壁面まで広げて、内壁部5bと前記新たな壁面でキャビティを構成するようにし
(5)上記実施例ではカバーする対象が集電装置2であったが、車体屋根10に設置される集電装置2以外の突起物であって、騒音低減効果を付与したいカバー対象があれば、同様に採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1実施例のカバーを示す斜視図である。
【図2】第1実施例のカバーの車体前後方向の面で切断した断面図である。
【図3】第1実施例のカバーの平面図である。
【図4】第1実施例のカバーの車体幅方向の面で切断した断面図である。
【図5】第1実施例のカバーの側面図である。
【図6】第1実施例のカバーの一部分の詳細を示す断面図である。
【図7】第2実施例のカバーを示す平面図である。
【図8】第3実施例のカバーを示す斜視図である。
【図9】平面部材についての別実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1,21,31…騒音低減用カバー(カバー)、2…集電装置、3…舟体、4…ホーン部、5…平面部材、5a…上面部、5b…内壁部、5c…側面部、5d…下面部、6…側方部材、6a…側壁、6b…傾斜面部、7…脚部材、8…碍子、9…側壁6aの高さを追加した部分、10…車体屋根、20…整流板、B,C,D…空気流、R…絶縁離隔、S…スロープ部、H…平面部材高さ、L…傾斜面部最低高さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体屋根に設置された集電装置に対して車体移動方向の前方側に配置され、車体前後方向の断面で車体屋根面と略平行且つ当該車体屋根面から所定距離上方に配置された上面部を有する平面部材と、
前記平面部材の下方にあって当該平面部材を前記車体屋根に支持すると共に、内部に前記集電装置の碍子を内包可能な脚部材とを備え、
前記平面部材の車体幅方向側面に張り出して車体前後方向に連続して設置され、その上面が、前記集電装置の存在する位置にて最も低く、前記車体移動方向の前方側にいくにつれて次第に高くなり、当該車体移動方向の前方端では前記平面部材の上面と同じ高さとなる傾斜面部として形成された側方部材を備えており、当該側方部材は、その下面が、車体移動方向の前方端では前記平面部材の上面部に近づき、前記集電装置に存在する位置では車体屋根面に接近するような湾曲面に形成され、
前記脚部材は、水平面へ投影したときの形状が、車体移動方向前方側で次第に狭まり、前記集電装置の存在する位置では車体幅方向に膨らんだ形状であり、
前記平面部材の上面部と下面部との距離である厚みが前記車体移動方向前端側から前記集電装置の存在する方向へ次第に増加するよう形成され、且つ前記平面部材の下面部は、前記脚部材の外面に滑らかに接続されていることを特徴とする騒音低減用カバー。
【請求項2】
請求項1記載の騒音低減用カバーにおいて、
前記平面部材は、前記上面部と前記側方部材の傾斜面部の上下方向の段差を接続する側面部を有することを特徴とする騒音低減用カバー。
【請求項3】
請求項1記載の騒音低減用カバーにおいて、
前記上面部の前記集電装置が存在する側の端部に、当該端部から車体屋根面に達する内壁部を有しており、前記内壁部の車体幅方向端部は、前記側方部材の上側では前記側面部に対して空気流の剥離の少ない滑らかな曲面で接続されていることを特徴とする騒音低減用カバー。
【請求項4】
請求項1記載の騒音低減用カバーにおいて、
前記内壁部と前記側面部を接続する曲面は、前記側面部の車体中心線側且つ前記内壁部を挟んで前記集電装置とは反対側に曲率中心を持つ曲面であることを特徴とする騒音低減用カバー。
【請求項5】
車体屋根の一部を切り欠き、当該車体屋根面より低い位置に下端を位置させて設置された碍子を含んでなる集電装置に対して車体移動方向の前方側に配置され、前記車体屋根の切り欠き部に、車体屋根面と同じ高さになるよう配置された上面部を有する平面部材を備え、
前記平面部材の車体幅方向側面に張り出して車体前後方向に連続して設置され、その上面が、前記集電装置の存在する位置にて最も低く、前記車体移動方向の前方側にいくにつれて次第に高くなり、当該車体移動方向の前方端では前記平面部材の上面と同じ高さとなる傾斜面部として形成された側方部材を備えており、
当該側方部材は、前記傾斜面部の車体幅方向端部上面に、上端位置が前記車体屋根と同じ高さになる側壁が車体前後方向に沿って形成された側壁を備え、
前記平面部材及び側方部材による水平面への投影形状は、前記車体屋根の切り欠き部による水平面への投影形状と合致していることを特徴とする騒音低減用カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−48598(P2008−48598A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224466(P2007−224466)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【分割の表示】特願2001−119607(P2001−119607)の分割
【原出願日】平成13年4月18日(2001.4.18)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】