説明

高い固形分を有する低粘度の放射線硬化可能なウレタン結合剤分散体

【課題】90重量%まで、またはそれ以上の固形分を有する低粘度の水性のUV硬化被覆組成物を提供すること。
【解決手段】水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物A)であって、
A1)高エネルギー放射線によって重合し得る基を含有する、乳化剤非含有疎水性結合剤と、
A2)a)不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物と、
b)106〜2000の数平均分子量、少なくとも二つのヒドロキシル末端基および少なくとも二つのオキシアルキレン単位を有する、ポリアルキレンオキシド化合物(該オキシアルキレン単位の少なくとも50%はオキシエチレン単位である)と、
c)ビニル、アリル、メタクリルおよびアクリル基からなる群から選択される構成要素を含んでなる重合可能な不飽和基を含有する、ヒドロキシ官能性化合物と
の反応生成物を含有する、親水性不飽和ポリエステル樹脂と
の混合物を含んでなる、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い固形分と低い加工粘度を兼ね備える放射線硬化可能なウレタン結合剤分散体およびこれらの結合剤組成物を含有する水性分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン水性分散体の製造は既知であり、広く特許文献および標準技術文献に記載されている。基材への塗布および水の蒸発に続いて、分散体を、通常、比較的高温で、および/または特別な硬化剤を用いて架橋する。しかしながら、これは、用途の可能性を制限する。これらの制限は、放射線架橋可能なウレタン分散体を使用することを通じて回避することができる。
【0003】
溶媒非含有の放射線硬化可能な結合剤水性分散体を製造するための一つの方法は、放射線硬化可能な結合剤と放射線硬化可能な乳化剤を併用することである。乳化剤の親水性変性は、イオン中心を含有する部分(特にスルホネート塩基またはカルボキシレート塩基)、または親水性非イオン性部分(例えばポリオキシエチレン部分)の組み込みを通じて達成される。さらなる生成物は、例えば、欧州特許EP-A 0 584 734(特許文献1)に記載されている。その実施例においては、62%までの固形分を有する分散体が製造されている。
【0004】
水に分散可能な放射線硬化可能なポリウレタンアクリレートに基づく水性分散体、それらの製造および用途は、欧州特許EP-A 0 753 531(特許文献2)に開示されている。その方法を用いて、顕著な特性プロフィールを有し、最大60重量%までの固形分を有する分散体を製造することができる。結合剤の合成成分を選択することによって、要求に合わせて特性を調整することができる。
【0005】
しかしながら、実際に取り扱うための既知の全ての方法において、特に処方物の粘度に関して、固形分についての制限が存在する;分散体は、通常、約50重量%〜65重量%の最大固形分を有する。一層高い固形分を有する分散体を有することが望ましい。なぜなら、より高い固形分によって、製造、保存、輸送および塗布の費用ならびに塗布に続く水の除去に必要な時間を低減することができるからである。使用者の立場から特に所望されるものは、水非含有および共溶媒非含有処方物(供給形態として100%)である。これは、現地で所望の粘度を確立するのに必要な量の水と混合し、次いで、加工することができる。
【特許文献1】欧州特許EP-A 0 584 734
【特許文献2】欧州特許EP-A 0 753 531
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、90重量%まで、またはそれ以上の固形分を有する低粘度の水性のUV硬化被覆組成物、および、現地においてそれ相応に水で希釈可能である結合剤を提供することにある。また、高度に濃縮された分散体は、十分な保存寿命および加工寿命を確保するために、高い保存安定性を示すであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本目的は、二つの不飽和結合剤の特別な組合せによって達成することができる。本発明の結合剤の組合せは、非常に高い反応性を有し、硬化後、良好な粘着性、低い黄変、良好な機械的および化学的耐性、ならびに良好な耐スクラッチ性、特にバター、油およびパラフィンに対する改善された耐性を有する、ヘーズ非含有フィルムをもたらす。
【0008】
本発明は、水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物A)であって、
A1)高エネルギー放射線によって重合し得る基を含有する、少なくとも一つの乳化剤非含有疎水性結合剤と、
A2)a)少なくとも一つの不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物と、
b)106〜2000の数平均分子量、少なくとも二つのヒドロキシル末端基および少なくとも二つのオキシアルキレン単位を有する、少なくとも一つのポリアルキレンオキシド化合物(該オキシアルキレン単位の少なくとも50%はオキシエチレン単位である)と、
c)ビニル、アリル、メタクリルおよびアクリル基からなる群から選択される構成要素を含んでなる重合可能な不飽和基を一分子当たり少なくとも一つ含有する、少なくとも一つのヒドロキシ官能性化合物と
の反応生成物を含有する、少なくとも一つの親水性不飽和ポリエステル樹脂と
の混合物を含んでなる、組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、結合剤組成物A)を含有する水性分散体、該結合剤組成物を含有する水性分散体の製造方法、該結合剤組成物を水道水で希釈するための方法、水性分散体から被覆物を製造するための方法、および被覆、接着またはシーラント組成物を製造するための結合剤組成物の使用に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の結合剤組成物は、非常に高い反応性を有し、硬化後、良好な粘着性、低い黄変、良好な機械的および化学的耐性、ならびに良好な耐スクラッチ性、特にバター、油およびパラフィンに対する改善された耐性を有する、ヘーズ非含有フィルムをもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
成分A1)と一緒に、既知の反応性希釈剤、例えばジプロピレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、イソボルニルアクリレートまたはトリメチロールプロパントリアクリレートを使用することもできる。
【0012】
成分A1)およびA2)は、90:10〜50:50、好適には90:10〜60:40およびより好適には85:15〜75:25の重量比で使用する。
【0013】
本発明の水性分散体(100重量部)は、少なくとも10重量部、好適には少なくとも40重量部およびより好適には少なくとも60重量部の放射線硬化可能な結合剤組成物A)を含有する。必要に応じて、該水性分散体100重量部に対して、200重量部までの既知の添加剤B)(例えばブロック剤、増粘剤、開始剤、顔料、充填剤または艶消剤)、および30重量部までの少なくとも一つの水混和性極性溶媒C)を添加することができる。
【0014】
乳化剤非含有疎水性不飽和結合剤A1)は、好適には少なくとも一つのウレタンアクリレートを含有する。本発明における「疎水性」は、乳化剤を添加しない場合、成分A1)は、20重量%より高い濃度で水に安定して分散することができないことを意味する。
【0015】
ウレタンアクリレートA1)は、
d)一分子当たり少なくとも二つの組み込まれたオキシエチレン基を有する、少なくとも一つの二官能性ヒドロキシ化合物を、
e)d)のヒドロキシル基に基づいて、その当量よりも低い量のアクリル酸および/またはメタクリル酸でエステル化し、次いで、
残りのヒドロキシル基を、
f)脂肪族(脂環族)的に結合したイソシアネート基を有する、少なくとも一つのポリイソシアネートと反応させる
ことによって製造される。
【0016】
ウレタンアクリレートA1)は、d)一分子当たり少なくとも二つの組み込まれたオキシエチレン基を有するヒドロキシ化合物を使用して製造される。これらの化合物は、既知であり、ジヒドロキシ化合物(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールまたはブタン-1,4-ジオールなどのグリコール)またはポリヒドロキシ化合物(例えばトリメチロールプロパンまたはグリセロール)を、ヒドロキシ化合物1モル当たり少なくとも2モルのエチレンオキシドと反応させることによって得ることができる。
【0017】
1モルのトリメチロールプロパンと2〜15モルのエチレンオキシドの付加生成物は、好適にはd)として使用される。また、これらの化合物の混合物も使用できる。特に好適なものは、トリメチロールプロパンと3〜6モルのエチレンオキシドの付加生成物である。
【0018】
ヒドロキシ化合物d)は、不飽和モノカルボン酸e)、好適にはアクリル酸またはメタクリル酸、より好適にはアクリル酸でエステル化される。この反応において、ヒドロキシ化合物d)中の50%〜95%、好適には70%〜90%およびより好適には80%〜90%のヒドロキシル基のみがエステル化される。
【0019】
次いで、残りの遊離ヒドロキシル基は、脂肪族(脂環族)的に結合したイソシアネート基を有する、少なくとも一つのポリイソシアネートf)と反応し、その結果、二以上の部分アクリレート化ヒドロキシ化合物が、ウレタン基を介して互いに結合する。
【0020】
適当なジ-およびポリイソシアネートf)としては、脂肪族的または脂環族的に結合したイソシアネート基を有するポリイソシアネートが挙げられる。また、これらのポリイソシアネートの混合物も使用できる。適当なポリイソシアネートの例としては、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、2,2,4-および/または2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、異性体ビス(4,4’-イソシアナトシクロヘキシル)メタンまたは任意の所望の異性体含量のそれらの混合物、イソシアナトメチル-1,8-オクタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、ウレタン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、ウレトジオンまたはイミノオキサジアジンジオン基を有するこれらのモノマーポリイソシアネートの誘導体、ならびにそれらの混合物が挙げられる。好適なものは、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、異性体ビス(4,4’-イソシアナトシクロヘキシル)メタンおよびそれらの混合物である。
【0021】
遊離ヒドロキシル基に対するイソシアネート基の当量比は、好適には1:0.9〜1:1.1、より好適には1:0.95〜1:1.05である。
【0022】
イソシアネート成分とヒドロキシ化合物の間の反応は、好適には少量の既知のウレタン触媒によって触媒される。適当な触媒としては、第三級アミン、スズ化合物、亜鉛化合物またはビスマス化合物、特にトリエチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、スズジオクトエートまたはジブチルスズジラウレートが挙げられる。触媒の量は、反応の要求に適合させることができる。適当な量は、反応混合物の重量に基づいて、0.01重量%〜2重量%、好適には0.05重量%〜1重量%およびより好適には0.07重量%〜0.6重量%である。
【0023】
得られたウレタンアクリレートA1)を比較的長期間貯蔵する場合、未成熟重合を防止するための安定化剤、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどと混合することが好適である。
【0024】
乳化作用を有する不飽和ポリエステルA2)を製造するため、不飽和ジカルボン酸a)またはそれらの無水物あるいはそれらの低分子量アルコールとのジエステル(好適には無水マレイン酸)を、少なくとも50%、好適には70%、より好適には90%のオキシエチレン単位(存在するオキシアルキレン単位の総数に基づく)を含有し、106〜2000、好適には200〜1000およびより好適には200〜500の数平均分子量(M)を有するポリヒドロキシ化合物b)と反応させる。好適な化合物b)は、200〜1000、好適には200〜500の数平均分子量を有する、中〜長鎖ポリエチレングリコールである。
【0025】
必要に応じて、化合物b)は、10重量部までのプロピレングリコールを含有する。
【0026】
ポリヒドロキシ化合物b)に対する不飽和ジカルボン酸(無水物)a)の当量比は、形成されたポリマー鎖がカルボキシル末端基を有するように選択される。
【0027】
これらの遊離カルボキシル基は、一分子当たり少なくとも一つの重合可能な不飽和基を有するモノヒドロキシ官能性化合物c)、例えばトリメチロールプロパンジアリルエーテル、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、グリセリルモノアクリレートモノメタクリレートまたはそれらのカプロラクトンとの反応生成物などでエステル化される。好適なものは、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアクリレートおよびヒドロキシエチルアクリレートである;特に好適なものはトリメチロールプロパンジアリルエーテルである。
【0028】
また、本発明は、所望の粘度が得られるまで水で結合剤組成物を希釈することによる、本発明の結合剤組成物を含有する水性分散体の製造方法に関する。
【0029】
また、本発明は、まず、30重量部の水(例えば水道水)を、ゆっくりと攪拌しながら70重量部の結合剤組成物A)(すなわち、A1)とA2)の混合物)に添加することにより、水中の本発明の結合剤組成物の70%分散体を製造し、次いで、溶解機を用いて高スピード(ペリフェラルスターラー;ディスクスピード:約20m/秒)で2分間該混合物を乳化することを特徴とする、本発明の結合剤組成物を水で希釈するための方法に関する。スピードを低下させ、水性構成成分を添加する。次いで、この濃縮分散体を、残りの水(例えば水道水)を添加することによって、所望の固形分に希釈することができる。
【0030】
直接さらに加工する場合、現場において、水を、単純に攪拌しながら添加することができる。
【0031】
固形分が70%を超えるようにすべき場合、本発明の結合剤組成物を、所望の混合比で直接製造し、そして上記手順で混合する。
【0032】
非水性添加剤は、A1)とA2)の混合物中に、それらを乳化する前に、分散させなければならない。
【0033】
樹脂中か、あるいは予め溶解機を使用してストックエマルジョン(約75%)を製造した後のいずれかにおいて、着色の度合い/充填レベルに応じて、着色ラッカーを分散すべきである。樹脂中に分散させる場合、該練り顔料を乳化前に35℃に冷却する必要がある。
【0034】
UV硬化は、乳化前に樹脂に添加される液体開始剤を必要とする。放射線硬化の前に、水を完全に蒸発させることが必要である。
【0035】
また、本発明は、本発明の結合剤組成物を含有する水性分散体を基材に塗布し、水を除去し、次いで、被覆組成物を硬化することによる、被覆物の製造方法に関する。
【0036】
本発明の被覆組成物は、既知の技術、例えば、噴霧、ローリング、ナイフコーティング、キャスティング、吹き付け、刷毛塗りまたは浸し塗りによって、種々の異なる基材に塗布することができる。基材は、木材、金属、プラスチック、紙、革、繊維製品、フェルト、ガラスまたは鉱物から選択される。好適な基材は、木材およびプラスチックである。
【0037】
塗布されたフィルムの厚み(硬化前)は、典型的には、0.5μmと1000μmの間、好適には5μmと500μmの間およびより好適には15μmと200μmの間である。
【0038】
硬化は、熱的にまたは高エネルギー放射線への暴露によって行うことができる。硬化は、好適には、高エネルギー放射線、すなわち、UV放射線または日光、例えば、波長200〜700nmを有する光に暴露することによって、または高エネルギー電子を用いる照射(電子ビーム、150〜300keV)によって行う。使用される光またはUV光の放射線供給源としては、高圧または中圧水銀ランプが挙げられる。水銀蒸気は、他の元素(例えばガリウムまたは鉄)を用いるドーピングによって変性され得る。また、レーザー、パルスランプ(UV閃光ランプの称号のもと既知である)、ハロゲンランプまたはエキシマ・エミッタも適当である。該供給源には、該供給源スペクトルの一部の放射を妨げるフィルターを取り付けることができる。職業衛生学上の理由から、UV-CまたはUV-CおよびUV-Bに属する放射線は、フィルターで除去することができる。該供給源は、固定式で据え付けることができ、そして、放射線照射されるべき材料を、機械装置を用いて、該放射線供給源のそばを通るように搬送する。あるいは、該供給源は、可動式とすることができ、そして、放射線照射されるべき材料を、硬化過程において静止させたままにすることができる。UV硬化の場合、架橋に通常十分である放射線用量は、80〜5000mJ/cmである。
【0039】
また、放射は、酸素の不存在下(例えば、不活性ガス雰囲気下)または酸素低減雰囲気下で行うことができる。適当な不活性ガスは、好適には窒素、二酸化炭素、希ガスまたは燃焼用ガスである。さらに、放射は、放射線を通過させる媒体で覆われた被覆物に対して行うことができる。このような媒体の例としては、ポリマーフィルム、ガラスまたは液体(例えば水)が挙げられる。
【0040】
放射線用量および硬化条件に応じて、使用される任意の開始剤の性質および濃度は、既知の方法で変化させることができる。
【0041】
固定式で据え付けられた高圧水銀ランプを使用して硬化を行うことが好適である。次に、光開始剤を、被覆組成物の固形分に基づいて、0.1重量%〜10重量%、より好適には0.2重量%〜3.0重量%の濃度で用いる。これらの被覆物の硬化のために、200〜600nmの波長範囲で測定した場合の200〜3000mJ/cmの用量を使用することが好適である。
【0042】
成分B)としてフリーラジカル重合に用いられ得る開始剤としては、放射線で活性化可能な開始剤および/または熱で活性化可能な開始剤が挙げられる。これに関して、UVまたは可視光によって活性化される光開始剤が好適である。光開始剤は、既知であり、単分子(タイプI)および二分子(タイプII)開始剤が挙げられる。適当な(タイプI)系は、芳香族ケトン化合物、例えば、第三級アミンと組み合わせたベンゾフェノン、アルキルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーズケトン)、アンスロンおよびハロゲン化ベンゾフェノンまたはそれらの混合物である。適当な(タイプII)開始剤としては、ベンゾインおよびその誘導体、ベンジルケタール、アシルホスフィンオキシド(例えば2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドおよびビスアシルホスフィンオキシド)、フェニルグリオキシルエステル、カンファーキノン、α-アミノアルキルフェノン、α,α-ジアルコキシアセトフェノンおよびα-ヒドロキシアルキルフェノンが挙げられる。好適な光開始剤は、水性被覆組成物に容易に組み込まれ得るものである。このような生成物の例としては、Irgacure(登録商標) 500、Irgacure(登録商標) 819 DW(Ciba、ランペルトハイム、独国)およびEsacure(登録商標) KIP(Lamberti、Aldizzate、イタリア国)が挙げられる。また、これらの化合物の混合物も使用できる。
【0043】
熱開始剤としては、ペルオキシ化合物、例えばジアシルペルオキシド(例えばベンゾイルペルオキシド)、アルキルヒドロペルオキシド(例えばジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド)、アルキルペルエステル(例えばtert-ブチルペルベンゾエート)、ジアルキルペルオキシド(例えばジ-tert-ブチルペルオキシド)、ペルオキシジカーボネート(例えばジセチルペルオキシドジカーボネート)、無機ペルオキシド(例えばアンモニウムペルオキソジスルフェートまたはカリウムペルオキソジスルフェート)が挙げられる。また、適当なものは、アゾ化合物、例えば2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、1-[(シアノ-1-メチルエチル)アゾ]-ホルムアミド、2,2’’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロ-ヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]-プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[2-(1-ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、およびベンズピナコールである。好適な化合物は、水溶性であるか、または水性エマルジョンの形態で存在するものである。これらのフリーラジカル開始剤は、既知の方法において、促進剤と併用することができる。
【0044】
添加剤B)の例としては、バリア剤、例えばワックス、好適には35℃と100℃の間、好適には40℃〜80℃の融点を有するパラフィンが挙げられる。それらは、好適には水性分散体の形態で、結合剤分散体に添加される。それらは、空気/水性分散体界面に蓄積するので、大気中の酸素による重合の阻害を防止する。
【0045】
他の適当な添加剤B)は、既知であり、安定化剤、光安定化剤(例えばUV吸収剤および立体障害アミン(HALS、ヒンダードアミン光安定化剤))、抗酸化剤、充填剤、沈降防止剤、消泡剤および/または湿潤剤、流動調整剤、可塑剤、触媒、溶媒、増粘剤、顔料、染料および/または艶消剤が挙げられる。
【0046】
水混和性の極性溶媒は、成分C)として使用する。適当な水で希釈可能な溶媒としては、低分子量アルコール、例えばエタノールおよびイソプロパノールまたは低分子量ケトン、例えばアセトンまたはブタノン(メチルエチルケトン)が挙げられる。
【0047】
水性分散体の重量に基づいて、10%以下、好適には5%以下およびより好適には2%未満の量のこれらの溶媒の添加を通じて、分散体の粘度は、高い固形分の領域で低い値に変化する。これは、位相反転点は、より低い固形分に変化すること、すなわち、所定の高い固形分について、粘度が、実質的に低減することを意味する。
【0048】
本発明の結合剤組成物を含有する水性結合剤分散体は、ヒドロキシ官能性でもあり得る他の結合剤(例えばポリウレタン分散体またはポリアクリレート分散体)と容易に組み合わせることができる。
【0049】
また、本発明は、被覆、接着またはシーラント組成物の製造のための本発明の結合剤組成物の使用に関する。好適には、例えば、家具の被覆または木材ブロック床の被覆における、木材を被覆するためのそれらの使用である。
【0050】
本発明の結合剤組成物は、揮発性画分を実質的に含有しない。それらは、例えば、溶媒非含有およびアミン非含有の、明瞭および着色された、光沢および艶消しの、水ベースのラッカーおよびワニスのための、UV硬化反応成分として好適に使用することができる。それらから製造された被覆物は、輝かしく、耐スクラッチ性であり、水、アルコール、溶媒および家庭用薬品に対して耐性である。
【実施例】
【0051】
以下の実施例および比較例は、本発明を例示することを目的とし、本発明の範囲を制限することを目的としたものではない。全ての「部」および「%」で示される量は、他に示さない限り、重量基準である。
【0052】
(実施例1) ウレタンアクリレートA1)の製造
2.6モルのアクリル酸でエステル化された、1モルのトリメチロールプロパンと3.9モルのエチレンオキシドの付加生成物(4905.04重量部)を、5.40重量部のDesmorapid(登録商標) Z(Bayer AG(独国)からのジブチルスズジラウレート)および5.40重量部の2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(阻害剤として)と混合し、そしてこの混合物を60℃に加熱した(その間、それに空気を通じた)。次いで、494.96重量部のイソホロンジイソシアネートを滴下し、内部温度を、外部冷却することによって60℃に維持した。NCO含量が≦0.1重量%に達するまで攪拌を続けた。
【0053】
(実施例2) 不飽和ポリエステルA2)の製造
用いた分量:
ポリエチレングリコール400:397.26g
トリメチロールプロパンジアリルエーテル:91.86g
無水マレイン酸:105.20g
トルハイドロキノンペースト:バッチサイズに基づいて0.03%
(トルハイドロキノンまたは2-メチルハイドロキノンまたは2,5-ジヒドロキシトルエン)
【0054】
実験手順:
1Lの三口フラスコ中、発熱反応由来の熱を利用して、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸およびトルハイドロキノンペーストを150℃に約1時間加熱し、150℃で3時間保持した。この間、窒素を1時間当たり1フラスコ体積の速度でフラスコに通じた。その後、該混合物を130℃に冷却した。この間、窒素を1時間当たり2フラスコ体積の速度で該混合物に通じた。窒素の通過を続けながら、トリメチロールプロパンジアリルエーテルを添加した。次いで、該混合物を、4時間に亘って段階的に180℃に加熱(150、160、170、180℃)し、そして180℃にて、30〜35秒の粘度(スチレン中75%)になるまで、この温度を維持した。
【0055】
該混合物を160℃に冷却し、そして40〜45秒の粘度(スチレン中75%)になるまで、この温度を維持した(目標値:43秒;酸価25〜15)。
最後に、該生成物を≦80℃に冷却し、そして分配した。
【0056】
(実施例3) 実施例1からのウレタンアクリレートA1)と実施例2からの不飽和ポリエステルA2)の混合物からの70%の希釈可能な水性分散体の製造
実施例2からの乳化剤(20重量部)と実施例1からのウレタンアクリレート(80重量部)の混合物(70重量部)を、容器中に導入し、ゆっくりと攪拌しながら30重量部の水道水を添加した。次いで、該混合物を、溶解機を用いて高スピード(ペリフェラルスターラー;ディスクスピード:20m/秒)で約2分間乳化した。スピードを低下させ、処方の残りの水性構成成分を添加する。用いる処方に応じて、該ブレンドは、限られた保存安定性を有し得る。この期間の経過中、さらなる水を添加することによって、所望の固形分に希釈することができる。
【0057】
固形分を70%より高くする場合、該混合物を直接所望の混合比に作り上げることができ、そして混合を上記手順によって行うことができる。
【0058】
(実施例4) 水を用いる希釈挙動
実施例3に記載の方法を使用してウレタンアクリレートと乳化剤樹脂の80:20の混合物の水性分散体に、異なる量の水を添加した場合、得られた分散体は、固形分の増加によって粘度が増加することを特徴とした(約80重量%固体/20重量%水(25℃)にて最大値約10,000mPas(位相反転点)を有する)。この点の後は、粘度は、90重量%固体にて<1000mPasの範囲に到達するまで再度低下した。
【0059】
【表1】

【0060】
2重量%のエタノールまたは2重量%のアセトンを添加することによって、粘度レベルにおける位相反転点を低下させること、およびそれをより低い固形分/より高い含水量に変化させることができた。その結果、約80重量%から90重量%を超える固形分の範囲内でさえも、加工に特に適した低粘度範囲が生じた。
【0061】
さらに、溶媒の添加がなくても、粘度は、約70重量%までの固体濃度について、加工に適した範囲内であった。処方物の粘度に応じて、塗布方法(例えば、ローリング、噴霧またはキャスティング)を使用することができる。
【0062】
(実施例5) 完全脱イオン水および水道水への実施例1のウレタンアクリレートの溶解性
100重量部の実施例1からのウレタンアクリレートを、100重量部の水中、分液漏斗中で激しく振った。相分離後、両方の相をそれらの含水量(カールフィッシャー滴定)について分析した。得られた結果は、以下のようであった:
【0063】
【表2】

【0064】
水相の水のレベル(>100%)は、カールフィッシャー滴定(これは、比較的高い水のレベルにて上昇した)の不正確性からもたらされた。
【0065】
該実験は、実施例1のウレタンアクリレートは、実質的に水に不溶性であったことを示す。該ウレタンアクリレート自身は、少量の水を有することができるが、この相は、均質ではなかった(曇り)。
【0066】
(実施例6) 使用例;明瞭な艶消ローラー被覆物の製造
ウレタンアクリレートおよび乳化剤(その100重量部)を含有する実施例3から得られた樹脂混合物を、攪拌しながら2重量部の各艶消剤(Deuteron(登録商標) MK、Schoener、Achim-UphusenおよびGasil(登録商標) EBN、Omya、独国)および3重量部のEsacure(登録商標) KIP 100F(Fratelli Lamberti、イタリア国)と混合した。これに続いて、乳化し、さらに、実施例3に記載されたように、43重量部および11重量部の水道水を使用して希釈した。該65%被覆組成物の粘度は、約2200mPa・s/23℃になった。終夜保存(熟成)した後、このラッカーを、予め含浸させたフィルムに約15g/mにて塗布し、60℃で約1分間フラッシュオフし、ベルトスピード7m/分/80Wランプで(あるいは不活性ガス下、多くの因子によってより迅速に)硬化した。結果物は、耐スクラッチ性、安定性、絹の光沢の被覆物であった。
【0067】
本発明を上記で例示の目的をもって詳細に説明したが、このような詳説が単にその目的のためであって、本発明は、特許請求の範囲によって限定され得る場合を除いて、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当業者によって変形がなされ得ると理解されるべきである。
【0068】
本発明の好適な実施態様を以下に示す。
〔1〕水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物A)であって、
A1)高エネルギー放射線によって重合し得る基を含有する、少なくとも一つの乳化剤非含有疎水性結合剤と、
A2)a)少なくとも一つの不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物と、
b)106〜2000の数平均分子量、少なくとも二つのヒドロキシル末端基および少なくとも二つのオキシアルキレン単位を有する、少なくとも一つのポリアルキレンオキシド化合物(該オキシアルキレン単位の少なくとも50%はオキシエチレン単位である)と、
c)ビニル、アリル、メタクリルおよびアクリル基からなる群から選択される構成要素を含んでなる重合可能な不飽和基を一分子当たり少なくとも一つ含有する、少なくとも一つのヒドロキシ官能性化合物と
の反応生成物を含有する、
少なくとも一つの親水性不飽和ポリエステル樹脂と
の混合物を含んでなる、組成物。
〔2〕成分A1)は、ウレタンアクリレートを含んでなる、上記第〔1〕項に記載の水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物。
〔3〕ウレタンアクリレートA1)は、
d)一分子当たり少なくとも二つの組み込まれたオキシエチレン基を有する、少なくとも一つの二官能性ヒドロキシ化合物と、
e)アクリル酸および/またはメタクリル酸と、
f)脂肪族(脂環族)的に結合したイソシアネート基を有する、少なくとも一つのポリイソシアネートと
の反応生成物である、上記第〔1〕項に記載の水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物。
〔4〕ウレタンアクリレートA1)および/またはポリエステル樹脂A2)は、未成熟重合を防止するための阻害剤を含有する、上記第〔1〕項に記載の水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物。
〔5〕阻害剤は、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールを含んでなる、上記第〔4〕項に記載の水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物。
〔6〕上記第〔1〕項に記載の結合剤組成物A)を含有する、水性分散体。
〔7〕所望の粘度を得るまで、上記第〔1〕項に記載の結合剤組成物を水で希釈することを含む、水性分散体の製造方法。
〔8〕ゆっくりと攪拌しながら、水道水30重量部を、上記第〔1〕項に記載の結合剤組成物70重量部に添加し、次いで、該混合物を乳化することを含む、水性分散体の製造方法。
〔9〕上記第〔6〕項に記載の水性分散体を、基材に塗布し、水を除去し、次いで、被覆物を硬化することを含む、被覆物の製造方法。
〔10〕基材は、木材である、上記第〔9〕項に記載の方法。
〔11〕高エネルギー放射線に暴露することによって被覆物を硬化することを含む、上記第〔9〕項に記載の方法。
〔12〕上記第〔1〕項に記載の結合剤組成物を含有する、被覆、接着またはシーラント組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物A)であって、
A1)高エネルギー放射線によって重合し得る基を含有する、少なくとも一つの乳化剤非含有疎水性結合剤と、
A2)a)少なくとも一つの不飽和ジカルボン酸および/またはその無水物と、
b)106〜2000の数平均分子量、少なくとも二つのヒドロキシル末端基および少なくとも二つのオキシアルキレン単位を有する、少なくとも一つのポリアルキレンオキシド化合物(該オキシアルキレン単位の少なくとも50%はオキシエチレン単位である)と、
c)ビニル、アリル、メタクリルおよびアクリル基からなる群から選択される構成要素を含んでなる重合可能な不飽和基を一分子当たり少なくとも一つ含有する、少なくとも一つのヒドロキシ官能性化合物と
の反応生成物を含有する、少なくとも一つの親水性不飽和ポリエステル樹脂と
の混合物を含んでなる、組成物。
【請求項2】
成分A1)は、
d)一分子当たり少なくとも二つの組み込まれたオキシエチレン基を有する、少なくとも一つの二官能性ヒドロキシ化合物と、
e)アクリル酸および/またはメタクリル酸と、
f)脂肪族(脂環族)的に結合したイソシアネート基を有する、少なくとも一つのポリイソシアネートと
の反応生成物である、請求項1に記載の水非含有および共溶媒非含有結合剤組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の結合剤組成物A)を含有する、水性分散体。
【請求項4】
所望の粘度を得るまで、請求項1に記載の結合剤組成物を水で希釈することを含む、水性分散体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の結合剤組成物を含有する、被覆、接着またはシーラント組成物。

【公開番号】特開2006−131911(P2006−131911A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319671(P2005−319671)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】