説明

高エネルギー電子ビーム発生装置及びX線装置

【課題】本発明は、1個の電子源でマイクロ波増幅管と加速管の双方に電子ビームを供給できる高エネルギー電子ビーム発生装置及びX線装置を提供することを課題とする。
【解決手段】電子源、入力空洞及び出力空洞からなるマイクロ波増幅管と、マイクロ波増幅管の電子ビームの一部を加速管に供給するビーム制限用スリットと、単一あるいは複数の加速空洞からなる加速管を直列に配置するとともに、マイクロ波増幅管のマイクロ波出力を加速管に供給するマイクロ波導波管を備えたことを特徴とする高エネルギー電子ビーム発生装置及びX線装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高エネルギー電子ビームを使用する滅菌、排煙処理、工業生産、治療などや、高エネルギー電子ビームをターゲットに照射してX線を発生させ、そのX線を用いる医療診断、放射線治療、非破壊検査、工業製品の生産、農産物の殺菌・害虫駆除・発芽防止処理などに用いる小型の高エネルギー電子ビーム発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の高エネルギー電子ビームを発生する電子加速器は、図5に示すように電子源(陰極)と加速管で構成される加速器本体と、マグネトロン管などの電力の大きなマイクロ波を発生する発信管あるいはクライストロン管(速度変調管)などのマイクロ波増幅管が個々のコンポーネントとして構成され、これを組み合わせることにより電子加速器を構成していた。
【0003】
そのため、従来の高エネルギー電子ビームを発生する加速器は、加速器本体のほかに、マグネトロン管やクライストロン管などのマイクロ波発生管にも電子源があり、加速器本体及びマイクロ波管で使用するそれぞれの電子源を駆動するための電子銃ヒーター回路、高電圧発生回路、真空排気機構などが各々のコンポーネント毎に必要なため、装置が複雑になり、小型化や低価格化が難しいという問題があった。
【特許文献1】特許第3010169号公報
【特許文献2】特開2002−279909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、1個の電子源でマイクロ波増幅管と加速管の双方に電子ビームを供給できる高エネルギー電子ビーム発生装置及びX線装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、次のような手段を提供する。
(1)電子源、入力空洞及び出力空洞からなるマイクロ波増幅管と、マイクロ波増幅管の電子ビームの一部を加速管に供給するビーム制限用スリットと、単一あるいは複数の加速空洞からなる加速管を直列に配置するとともに、マイクロ波増幅管のマイクロ波出力を加速管に供給するマイクロ波導波管を備えたことを特徴とする高エネルギー電子ビーム発生装置。
(2)マイクロ波増幅管の出力空洞と加速管の第一空洞の距離Lが次の範囲にあることを特徴とする(1)に記載の高エネルギー電子ビーム発生装置。
vT<L<10vT
ただしvは電子源を出る電子ビームの速度、Tは加速周波数の周期である
(3)上記マイクロ波増幅管のマイクロ波出力部及び加速管のマイクロ波入力部に真空窓を設け、該真空窓を介してマイクロ波導波管を接続することを特徴とする(1)乃至(2)のいずれかに記載の高エネルギー電子ビーム発生装置。
(4)上記加速管に直列に第二の加速管を配置し、第二のマイクロ波増幅管の出力を第二の加速管に供給することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の高エネルギー電子ビーム発生装置。
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の高エネルギー電子ビーム発生装置を用いたX線発生装置又はX線利用装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、マイクロ波増幅管の電子源の電子ビームの一部を加速管に導入して加速することにより1個の電子源でマイクロ波増幅管と加速管の双方に電子ビームを供給できる。従来の高エネルギー電子ビームを発生する加速器ではマイクロ波増幅管と加速管のコンポーネント毎に電子銃ヒーター回路、高電圧発生回路、真空排気機構などの部品が必要だったが、本発明ではそれぞれの部品は1個で済む。さらに、マイクロ波増幅管の出力空洞で加速され集群した状態で加速管に電子ビームを入れることができるため、従来の加速器で必要だった集群器(バンチャー)が不要になる。そのため、システムが大幅に簡略化でき、小型化、低価格化が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、高エネルギー電子ビームを発生する装置において、電子源、入力空洞、出力空洞からなる速度変調(クライストロン)方式のマイクロ波増幅管と、ビーム制限用スリット、単一あるいは複数の加速空洞からなる加速管を直列に配置し、マイクロ波増幅管の出力をマイクロ波導波管を通して加速管に供給し、マイクロ波増幅管の電子ビームの一部をビーム制限用スリットを通して加速管に入射して加速することにより高エネルギーの電子ビームを発生することを基本原理とする。
【0008】
図1は本発明を実施するための一形態であり、電子源、入力空洞、出力空洞からなるマイクロ波増幅管とビーム制限スリット、加速管、導波管からなり、マイクロ波増幅管、ビーム制限スリット、加速管は直列に接続し、出力空洞の出力を導波管を通して加速管に入力している。
【0009】
電子源から放出される電子ビームは、電子源に負の高電圧を印加することにより、加速され、マイクロ波増幅管の入力空洞に入射する。
マイクロ波増幅管では、電子ビームの発散を防ぐため、電子ビームの進行方向に磁場をかける。この磁場は、従来のクライストロン管と同様に収束コイルや永久磁石を用いて発生する。また、複数の永久磁石を使った周期的磁場による収束でもよい。
【0010】
入力空洞に共振する周波数のマイクロ波を入力すると、入力空洞に交流電界が生じ、電子ビームの速度・エネルギーがモジュレーションを受ける。これが出力空洞に入ると、ビームに粗密が生じ、出力空洞に電界が誘起される。この効率をあげるために、入力空洞と出力空洞の間に中間空洞を入れてもよい。
【0011】
マイクロ波増幅管の出力空洞を出た電子ビームは、出力空洞と加速管の間のスリットに入る。スリットでは、ビームの中心部の直進性の高い一部の電子のみ通過できるようにする。その他の電子はスリットで遮断されるが、遮断された電子ビームは、熱となることから、発生熱量が多い場合は、スリットに水冷あるいは空冷あるいは伝導冷却などの冷却機構をつける。
【0012】
入力空洞で速度変調を受けた電子ビームは、出力空洞に交流電界を誘起する。多くの電子はこの出力空洞に電界を誘起するためにエネルギーが使われ減速するが、一部の電子は出力空洞に生じた交流電界で加速されるものがある。減速された電子は、方向が変わってスリットで遮断される割合が多いが、ビームの中心部を通って加速された電子は、減速された電子ほど方向は変わらずスリットで遮断される割合は少ない。
【0013】
このスリットを通過した電子の中で、ある時間tに到達した電子が出力空洞で受ける加速エネルギーよりも僅かな時間δtだけ遅れて到達した電子が出力空洞で受け取るエネルギーのほうが高い場合、ある距離L走行すると、時間的に一致し、電子ビームが集群(バンチング)される条件がある。
【0014】
マイクロ波増幅管の出力空洞で加速された電子ビームが加速管の第一空洞に集群するように電子源の印加電圧や入力空洞に入力するマイクロ波のレベルを調整し、集群した電子を加速管の加速位相に載せて加速する。このマイクロ波増幅管の出力空洞と加速管の第一加速空洞の距離Lは、適正な長さがあり、電子源を出る電子ビームの速度をv、加速周波数の周期をTとすると、vT<L<10vTの範囲であることが望ましい。この範囲より短い場合は集群が不完全となるかあるいは集群してもエネルギー幅が広いという問題がある。一方、この範囲より長い場合、集群した電子を効率良く加速するには出力空洞に誘起される電界を弱くしなければならずマイクロ波増幅管の出力を上げることができない。
【0015】
図2は、マイクロ波増幅管の出力空洞でモジュレーションを受けた時の加速管の第一空洞で集群する電子の時間(位相)分布シミュレーションの結果である。図2から分かるように、1周期に2個(条件によっては2個以上)の集群ピークがある。
一方のピークは、増幅管の出力空洞で加速位相に入った電子のピークであり、もう一方のピークは減速位相に入った電子のピークである。
なお上記のシミュレーションは、周波数11.4GHz、電子銃の印加電圧50kV、L=30mmの条件で行った。
本装置ではマイクロ波増幅管の出力空洞の加速位相に入って加速管の第一空洞で集群した電子を加速管の加速位相に合わせることにより、電子ビームを加速する。
【0016】
図3は、図1を拡張したもので、図1に加えて、マイクロ波増幅管の出力部及び加速管の入力部に真空窓を設け、マイクロ波の制御を容易にしたものである。さらに、マイクロ波増幅管とスリットあるいはスリットと加速管の間に接続フランジを設けて分離させることもできる。これにより、それぞれのパーツを別々に製造し、使用目的に応じて組み替えることが可能になる。
【0017】
図4は、図3を拡張したものであり、加速管とマイクロ波増幅管を複数用い、第一の増幅管は図3と同様に直後に加速管を接続するが、第二の増幅管は、出力空洞の出力を第二の加速管に接続するものであり、このように複数の増幅管と加速管を用いて、増幅管の入力空洞に供給するマイクロ波を制御することにより、加速エネルギー及び加速電力を変えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の装置は、従来よりも加速器システムを簡略化できることから、小型・軽量・低価格の高エネルギー電子発生装置とすることができる。このような高エネルギー電子ビーム発生装置は、従来の高エネルギー電子ビーム発生装置が使われている様々な分野に利用できる。特に高エネルギー電子ビーム発生装置を用いてX線発生装置あるいはX線利用装置を構成することにより、非破壊検査など可搬型の高エネルギーX線源を必要とする分野で有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の高エネルギー電子ビームを発生する装置の模式図
【図2】マイクロ波増幅管の出力空洞でモジュレーションを受けた時の加速管の第一空洞における電子の時間(位相)分布
【図3】本発明の他の高エネルギー電子ビームを発生する装置の模式図
【図4】本発明の他の高エネルギー電子ビームを発生する装置の模式図
【図5】従来の高エネルギー電子ビームを発生する装置の模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源、入力空洞及び出力空洞からなるマイクロ波増幅管と、マイクロ波増幅管の電子ビームの一部を加速管に供給するビーム制限用スリットと、単一あるいは複数の加速空洞からなる加速管を直列に配置するとともに、マイクロ波増幅管のマイクロ波出力を加速管に供給するマイクロ波導波管を備えたことを特徴とする高エネルギー電子ビーム発生装置。
【請求項2】
マイクロ波増幅管の出力空洞と加速管の第一空洞の距離Lが次の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の高エネルギー電子ビーム発生装置。
vT<L<10vT
ただしvは電子源を出る電子ビームの速度、Tは加速周波数の周期である。
【請求項3】
上記マイクロ波増幅管のマイクロ波出力部及び加速管のマイクロ波入力部に真空窓を設け、該真空窓を介してマイクロ波導波管を接続することを特徴とする請求項1乃至2のいずれか1項に記載の高エネルギー電子ビーム発生装置。
【請求項4】
上記加速管に直列に第二の加速管を配置し、第二のマイクロ波増幅管の出力を第二の加速管に供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高エネルギー電子ビーム発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の高エネルギー電子ビーム発生装置を用いたX線発生装置又はX線利用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−187705(P2009−187705A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24046(P2008−24046)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】