説明

高含水性汚泥の凝集方法

【課題】下水、し尿処理場や建設現場などで発生する高含水性汚泥は性状変化が甚だしく、効率良く凝集することが困難であった。本発明は前記高含水率汚泥にアニオン性エマルジョンポリマを添加することにより、汚泥の性状(発生源の違い、有機物の有無、他の性状の汚泥の混入等)に拘わらず、汚泥を凝集し、そのまま脱水可能なフロックを形成することができる、安定かつ効率的な凝集方法を提供する。
【解決手段】下水、し尿処理場や建設現場などで発生する高含水率汚泥に、アニオン性エマルジョンポリマを過剰量添加し、2分以内攪拌した後、次いで無機凝集剤を添加し、高含水性汚泥を良好に凝集処理する方法。アニオン性エマルジョンポリマが汚泥に添加された後、2分以内に無機凝集剤を添加することにより、ポリマが完全溶解する前に無機凝集剤によってポリマの残留荷電が中和されて微細ゲルを形成することにより、強度と脱水性に優れた凝集汚泥が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水、し尿処理場や、建設現場などで発生する高含水性汚泥のアニオン性エマルジョンポリマを用いた凝集方法に係り、特に、アニオン性エマルジョンポリマの添加量と溶解状態を制御し、ついで無機凝集剤を添加することにより、高含水性汚泥を容易に、安定かつ効率的に凝集処理を行う凝集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、し尿処理場や、建設現場などでは、固形物濃度が15重量%以下の高含水性汚泥(以下、単に「汚泥」と言うことがある。)が毎日大量に発生している。これらの汚泥は、通常凝集処理され、さらに減容化するために脱水処理される。
【0003】
特許第3723625号には、高含水浚渫汚泥に、ノニオン系又はアニオン系高分子凝集剤と、無機凝集剤又はカチオン系凝集剤を加えてフロックを作り、しかるのちに自然脱水又は機械脱水で水を抜く処理法において、はじめにノニオン系又はアニオン系の高分子凝集剤を加え、次に無機凝集剤の代わりにセメント等の固化材を加え、さらに必要に応じ無機凝集剤又はカチオン系凝集剤を加え、固化材粒子を包含するフロックを形成させる方法が記載されている。
【0004】
又、特開平7−1000号には、軟弱土を廃棄、運搬可能な強度・形態とするために、軟弱土にアニオン性の親水性ポリマを添加混合後、水溶性多価金属を添加、混合し、その後脱水処理して強度が改良された土を得る方法が記載されている。
【0005】
さらに特開平6−134500号には、汚泥類に高分子物質類を添加して溶解することにより、汚泥類中の懸濁物質をフロック状態にし、次いで無機凝集剤を添加して固液分離が容易な凝集物を得る汚泥類の処理方法が記載されている。
【特許文献1】特許第3723625号公報
【特許文献2】特開平7−1000号公報
【特許文献3】特開平6−134500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、固化剤が使用されるため、脱水対象となる処理汚泥の量が多大となって処分費用がかさばる問題がある。また、上記特許文献2の方法では、軟弱土から土を得る方法であって、対象となる軟弱土の含水率は75重量%程度のものであり、それよりも遥かに含水率が多い85重量%以上の高含水率汚泥の処理方法についてはまったく記載がない。
【0007】
さらに上記特許文献3の方法では、使用するポリマとして、ノニオン性、アニオン性、カチオン性の水溶性高分子物質を含む逆性エマルジョン型ポリマの開示があるものの、これらは対象汚泥に添加されて完全に溶解させてから無機凝集剤を添加する方法である。
【0008】
このような方法においては、対象汚泥の発生源や性状、経時変化による汚泥の性状変化等により、凝集できない事態がしばしば生じる。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点を克服し、汚泥の性状(発生源の違い、有機物の有無、他の性状の汚泥の混入等)に拘わらず、汚泥を凝集し、そのまま脱水可能なフロックを形成することができる凝集方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の凝集方法は、固形物濃度15重量%以下の高含水性汚泥に対して、アニオン性エマルジョンポリマを過剰量添加し、ポリマが完全溶解しない内に、次いで無機凝集剤を添加して凝集することを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の凝集方法は、請求項1において、固形物濃度15重量%以下の高含水性汚泥が建設現場で発生する泥水であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の凝集方法は、請求項1又は2において、アニオン性エマルジョンポリマの添加量が、高含水性汚泥に対して2重量%以上であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の凝集方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、アニオン性エマルジョンポリマの添加後、2分以内に無機凝集剤を添加することを特徴とするものである。
【0014】
請求項5の凝集方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、アニオン性エマルジョンポリマが、アニオン性基を5モル%以上含有することを特徴とするものである。
【0015】
請求項6の凝集方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、無機凝集剤がアルミニウム塩であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、アニオン性エマルジョンポリマの新たな使用方法に基づく新たに発見した作用効果を発揮させることにより、高含水汚泥の性状(発生源の違い、有機物の有無、他の性状の汚泥の混入等)に拘わらず、前記汚泥を容易に、安定かつ効率的に凝集し、そのまま脱水可能なフロックを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、高含水性汚泥とは、固形物濃度15重量%以下のものを指す。このような高含水性汚泥は、例えば、下水、し尿処理場や、ボーリング工事、地中連続壁工事、推進工事、浚渫工事等の建設現場で発生する。
【0018】
本発明は、汚泥成分として、無機成分、有機成分のいずれでも処理可能であるが、特に固形物濃度10重量%以下の建設現場で発生する汚泥に好適に実施することができる。
【0019】
本発明で使用されるアニオン性ポリマは水溶性のもので、エマルジョン状態で使用される。これらの状態においては、水溶性アニオン性ポリマは、溶解・分散せず、微細固体のまま油中に存在する。本発明では、ポリマをこの状態で汚泥に添加することが重要である。
【0020】
具体的な水溶性アニオン性ポリマとしては、ポリマ中にアニオン性基が5モル%以上含有されているものが好ましい。
【0021】
このようなアニオン性基としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸等のカルボン酸や、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリールスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシー2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等のスルホン酸等が例示される。
【0022】
具体的なポリマとしては、アクリルアミドやメタクリルアミド等のノニオン性モノマと上記のアニオン性モノマの1種又は2種以上を5モル%、好ましくは10モル%以上含む共重合体が例示される。又、上記モノマを100モル%含むホモポリマでも良いし、アニオン性基を2以上含む共重合体でも良い。
【0023】
アニオン性基の含有率が5モル%未満となると、本発明の所期の効果が得られなくなる。
本発明のアニオン性ポリマの固有粘度は10dl/g以上であることが好ましい。固有粘度が10dl/g未満となると、凝集力が弱くなり、所期の効果が得られなくなる。なお、固有粘度は1N硝酸ソーダ水溶液(pH=3)を溶媒とし、30℃において測定する。
【0024】
本発明では、上記のアニオン性のエマルジョンポリマを高含水率汚泥に添加するが、その添加量は理論上必要とされる量よりも過剰量を添加する。具体的には、高含水性汚泥に対して2重量%以上とする。この量は、通常の懸濁物の凝集処理では、0.1重量%以下であることからすれば、大過剰量である。
【0025】
このようなアニオン性のエマルジョンポリマを高含水率汚泥に過剰量添加した後、攪拌し、ポリマと汚泥を接触させる。この過程で、エマルジョン中の微細ポリマが徐々に汚泥の水分と接触し、溶解して縮んだ分子が広がり始め、フロック化する。
【0026】
本発明では、従来法と異なり、ポリマが完全に溶解するまで待たずに、この段階で無機凝集剤を添加する。ポリマを添加して次いで無機凝集剤を添加するまでの時間は2分以内、好ましくは1分〜2分とする。
【0027】
無機凝集剤を添加し、攪拌することによって、ポリマの一部は汚泥を凝集してフロック化し、残部はまだ溶解しきっていない状態のポリマと無機凝集剤とが反応して凝集部分をより強固にするとともに、残部の未反応ポリマの荷電を中和するとともに、微細なゲルを形成する。その結果、フロックが強化され、かつ親水性が低下して、フロックからの脱水が促進される。この反応時間は1〜10分程度とする。
【0028】
本発明に使用される無機凝集剤としては、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、アルミン酸ソーダ、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸鉄、消石灰、塩化カルシウム、ホウ酸ソーダ、珪酸ソーダ等の水溶性金属塩が挙げられるが、特に価数の高いアルミニウム塩が効率的であり好適に使用される。
【0029】
この反応の結果、凝集フロックが得られるが、このフロックはこのまま加圧ろ過等で脱水してもフロックが崩壊しないほど強度が高い。
【0030】
なお、従来のように、ポリマが溶解しきったポリマ水溶液を使用すると、ポリマはすでに水中で十分に溶解・分散し、互いに絡み合った状態となっているため、ここに無機凝集剤を加えても、本発明のような微細なゲルは形成されず、全体が透明がかった難脱水性のゲルが形成されてしまう。粉末ポリマを直接汚泥に添加した場合は、汚泥とポリマの接触時間が十分でないため、部分的にゲル化し、同様に脱水できないゲルが形成される。
【0031】
こうして得られた凝集汚泥は、必要により、アニオン性やカチオン性又は両性高分子脱水剤を添加した後、フィルタープレス型や遠心分離型、スクリュープレス型等の機械式脱水機で脱水処理し、得られたケーキは最終処分すれば良い。
【実施例】
【0032】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0033】
実施例1
採取場所が異なる表1記載の高含水率汚泥を用いて試験した。又、使用したポリマ及び無機凝集剤を表2に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

これらの汚泥に表1のNo.3のエマルジョンポリマを所定量添加し、1分半攪拌した後、無機凝集剤を所定量添加して5分間攪拌した。その結果得られた凝集汚泥を手で絞って、以下のように判定した。
【0036】
まったく水が絞れず、フロックが崩壊する状態・・・弱い
水は絞れるものの、フロックが崩壊する状態 ・・・若干弱い
フロックが崩壊せず、水がしぼれる状態 ・・・脱水好適
又、凝集汚泥を4m3/hrでスクリュープレス型脱水機に供給して0.5回転/分の回転速度で脱水した。
【0037】
脱水性を以下の基準で判定した。
【0038】
固形分がろ液に漏出 ・・・×
脱水ケーキは形成されるが、脱水不十分・・・△
良好な脱水 ・・・○
汚泥、ポリマ、無機凝集剤の種類と添加量、及び結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

表3より、各種高含水率汚泥を発生源に拘わらず、良好に脱水できることがわかった。
【0040】
実施例2
表1の建設汚泥2)(泥水シールド工事の結果排出された廃泥水)を対象に本発明方法を実施した。
【0041】
この汚泥に、表2に示した各種ポリマを20,000mg/lと無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウムを25,000mg/l添加した以外は、実施例1と同様の処理を行なった。得られた凝集汚泥は、ベルトプレス型脱水機を用いて圧力4kg/cm2で脱水して、ケーキの含水率を測定した。結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

表4から、同じポリマを使用しても、粉末や溶液状ポリマでは、脱水自体が不能な凝集汚泥しか得られなかったが、本発明方法では、脱水に適した凝集が達成され、低含水率のケーキが得られていることがわかる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形物濃度15重量%以下の高含水性汚泥に対して、アニオン性エマルジョンポリマを過剰量添加し、前記ポリマが完全溶解しない内に、次いで無機凝集剤を添加して凝集することを特徴とする高含水性汚泥の凝集方法。
【請求項2】
請求項1において、固形物濃度15重量%以下の高含水性汚泥が建設現場で発生する泥水であることを特徴とする凝集方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、アニオン性エマルジョンポリマの添加量が、高含水性汚泥に対して2重量%以上であることを特徴とする凝集方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、アニオン性エマルジョンポリマの添加後、2分以内に無機凝集剤を添加することを特徴とする凝集方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、アニオン性エマルジョンポリマが、アニオン性基を5モル%以上含有することを特徴とする凝集方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、無機凝集剤がアルミニウム塩であることを特徴とする凝集方法。



【公開番号】特開2008−80278(P2008−80278A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264674(P2006−264674)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】