高周波二倍波発振器
【課題】本発明は、位相雑音の劣化原因によらず位相雑音を低減できる高周波二倍波発振器を提供することを目的とする。
【解決手段】トランジスタと、該トランジスタのベース側に接続された第一電気信号線路と、該第一電気信号線路に接続され他の端は接地された第一シャントキャパシタと、該トランジスタのコレクタ側に接続された第二電気信号線路と、該第二電気信号線路に接続され他の端は接地された第二シャントキャパシタと、該第一電気信号線路と該第二電気信号線路を接続する大容量キャパシタとを備える。該第一電気信号線路の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから基本波信号の波長の1/16の長さを減算した長さと、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さに基本波信号の波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値である。
【解決手段】トランジスタと、該トランジスタのベース側に接続された第一電気信号線路と、該第一電気信号線路に接続され他の端は接地された第一シャントキャパシタと、該トランジスタのコレクタ側に接続された第二電気信号線路と、該第二電気信号線路に接続され他の端は接地された第二シャントキャパシタと、該第一電気信号線路と該第二電気信号線路を接続する大容量キャパシタとを備える。該第一電気信号線路の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから基本波信号の波長の1/16の長さを減算した長さと、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さに基本波信号の波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主にマイクロ波、ミリ波で動作する高周波二倍波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダーや携帯電話等の高周波無線装置の普及により、出力周波数1GHz超の発振器の高性能化の要求が高まっている。ここで、発振器とは回路内部で高周波電気信号の発振を起こし、高周波電気信号を外部へ発信する回路である。発振器は高周波電気信号を増幅させるためのトランジスタ等の能動素子を内蔵する。
【0003】
発振する周波数と外部へ出力される信号の周波数が同一である発振器は基本波発振器と呼ばれる。そして、外部へ出力される信号の周波数が発振する周波数の2倍である発振器は二倍波発振器と呼ばれる。二倍波発振器は基本波発振器と比較して、後述の仮想短絡点のために発振器外部の負荷変動の影響を受けにくい利点がある。これにより、トランジスタの最大発振周波数が低くても高性能な発振器の作成が可能となる。発振が生じる周波数は基本波周波数と呼ばれ、基本波周波数の電気信号は基本波信号と呼ばれる。また基本波周波数の2倍の周波数は2倍波周波数と呼ばれ、周波数が2倍波周波数の電気信号は2倍波信号と呼ばれる。
【0004】
図14を参照して典型的な直列正帰還型二倍波発振器について説明する。図14は典型的な直列正帰還型二倍波発振器100の回路図である。バイアス端子113およびバイアス端子114は、トランジスタ108にベース電圧およびコレクタ電圧を印加するための端子である。バイアス端子113は伝送線路115を介してトランジスタ108のベース端子に接続され、さらに先端開放スタブと接続され、基本波信号の影響を受けないように設計される。また、バイアス端子114は伝送線路117を介してトランジスタ108のコレクタ端子に接続され、2倍波信号の影響を受けないように設計される。キャパシタ111はコレクタ電圧およびコレクタ電流の直流成分が外部に漏洩することを防ぐ。
【0005】
さらに、トランジスタ108より出力端子112側に存在する電気信号線路に対して先端開放スタブ109が接続される。先端開放スタブ109の線路長は基本波信号の波長の四分の一である。この先端開放スタブ109の接続箇所には基本波信号によって電位が変動しない領域、すなわち仮想短絡点110が生じる。この仮想短絡点110より出力端子側12へは基本波信号は伝播しない。一方、2倍波信号は先端開放スタブ109および仮想短絡点110の影響を受けることがない。そのため、2倍波信号は出力端子112へと伝播し発振器100の外部へと発信される。
【0006】
上記の通り図14の場合は、仮想短絡点110は先端開放スタブ109を用いて生じさせている。この他にも複数の発振器を結合させる事で仮想短絡点を生じさせた2倍波発振器、すなわちpush-push発振器も頻繁に用いられる。スタブによる電力損失が小さく且つ基本波周波数が充分高い場合には先端開放スタブが使用されることが多い。それ以外の場合ではpush-push型発振器を使用することが多い。
【0007】
なお、特許文献1、2には発振器についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−501574号公報
【特許文献2】特開2009−147899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発振器において重要視される特性として、出力周波数と位相雑音がある。まず、出力周波数について説明する。
【0010】
出力周波数は出力信号の周波数のことである。そして、二倍波発振器の出力周波数は前述の2倍波周波数に相当する。発振器が組み込まれる高周波無線装置が扱う周波数の信号は、発振器が直接出力する事が望ましい。ここで、周波数逓倍器を使用する事で無線装置が扱う周波数よりも低い周波数の信号を出力する発振器も使用可能となる。しかしながら、無線装置の構成はより複雑となるため低コスト化の観点からは不利である。無線装置の高周波化が進む今日、発振器の出力周波数の向上が要望されている。
【0011】
一方、位相雑音は出力周波数の安定性を示す指標である。発振器をレーダーや通信装置として用いた際、発振器の位相雑音は測距精度および通信エラーレートに影響を及ぼす。そのため位相雑音はより低い値となる事が望ましい。ここで、位相雑音の低減を図るためにQ値の増加が試みられる場合がある。Q値とは共振器のエネルギーの蓄積量を示す指標である。発振器の場合、基本波周波数の変わりにくさを示す指標となる。しかしながらQ値を増加させると、発振器に出力周波数可変機能を追加しても周波数が変わり難くなる。すなわち周波数可変幅が狭帯域になるという問題点がある。そのためQ値増加以外の位相雑音の抑制方法が提案されるようになった。
【0012】
位相雑音が悪化する原因として発振器内部の各箇所における電位の変動がある。この電位の変動には2つの要因がある。第一の要因は発振器内部に残留した2倍波信号であり、第二の要因はトランジスタが発生する1/f雑音信号である。発振器内部に残留した2倍波信号を考慮して提案された発振器については[2007信学技報, vol. 107, no.355, pp.29-32, November 2007. "高調波負荷を最適化したKa帯2倍波発振器,"](参考文献1と称する)に開示がある。この発振器は、トランジスタのベース側又はゲート側に接続された回路の2倍波周波数における負荷を短絡とする。これにより、2倍波信号を発振器外部へと放出する効果が高まり位相雑音が低減する。トランジスタが発生する1/f雑音信号を考慮して提案された発振器については[“A novel RFIC for UHF oscillators”, IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symp. Digest, pp. 53-56, 2000] (参考文献2と称する)に開示がある。この発振器は1/f雑音信号フィードバック回路を備える。このフィードバック回路は、トランジスタのベース又はゲートで発生する1/f雑音信号と180度位相が異なる電気信号を、トランジスタのベース又はゲートに与える。これによって1/f雑音信号は打ち消され、位相雑音が低減する。
【0013】
参考文献1に記載の発振器では、発振器内部に残留した2倍波信号を発振器外部へ放出できる。しかしながら、1/f雑音信号に対しては何の効果も無い。よって、1/f雑音信号が支配的に位相雑音の原因となっている発振器に対しては、位相雑音の低減が不十分となる問題があった。
【0014】
参考文献2に記載の発振器では、以下の3点の問題がある。一点目は、位相雑音抑制効果が小さいことである。なぜならばフィードバック回路が有するトランジスタもまた1/f雑音信号源であるためである。二点目は、すでに作成した発振器にフィードバック回路を付加すると発振周波数が変わる、又は発振が生じなくなる。よって発振器の再設計が必要となる点である。三点目は、発振器内部に残留した2倍波信号に対しては何の効果も無い。従って2倍波信号が支配的に位相雑音の原因となっている発振器に対しては、位相雑音低減効果は小さい。以上より参考文献2に記載の発振器であっても位相雑音の低減が不十分となる問題があった。
【0015】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、位相雑音の劣化原因によらず低位相雑音特性を示す高周波二倍波発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の発明にかかるパワーデバイス制御回路は、トランジスタと、一端が該トランジスタのベース側またはゲート側に接続された第一電気信号線路と、一端が該第一電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第一シャントキャパシタと、一端が該トランジスタのコレクタ側またはドレイン側に接続された第二電気信号線路と、一端が該第二電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第二シャントキャパシタと、該第一電気信号線路の他端と該第二電気信号線路の他端を接続する大容量キャパシタとを備える。そして、該第一電気信号線路の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから基本波信号の波長の1/16の長さを減算した長さと、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さに基本波信号の波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、位相雑音の劣化原因によらず位相雑音を低減可能な高周波二倍波発振器を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図2】図1における直流信号の影響範囲を説明する図である。
【図3】図1における基本波信号の影響範囲を説明する図である。
【図4】図1における二倍波信号の影響範囲を説明する図である。
【図5】図1における低周波1/f雑音信号の影響範囲を説明する図である。
【図6】本発明により発振器内部に残留する2倍波信号が低減されることを説明する図である。
【図7】本発明により低周波1/f雑音信号が低減されることを説明する図である。
【図8】二倍波発振器の1/f雑音信号の周波数依存を説明する図である。
【図9】実施形態2の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図10】実施形態3の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図11】実施形態4の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図12】実施形態5の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図13】実施形態6の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図14】従来の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1
本実施形態は図1ないし図8を参照して説明する。なお、同一材料または同一、対応する構成要素には同一の符号を付して複数回の説明を省略する場合がある。他の実施形態でも同様である。
【0020】
図1は本実施形態の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。直列正帰還構成の高周波二倍波発振器10は発振部12とフィードバック回路14を備える。以後、発振部12とフィードバック回路14の構成について説明する。
【0021】
発振部12はトランジスタ16を備える。トランジスタ16はインジウム砒素ガリウムを材料としたバイポーラトランジスタである。トランジスタ16のベース端子には伝送線路17を介してバイアス端子18および先端開放スタブ19が接続される。トランジスタ16のコレクタ端子には伝送線路21を介してバイアス端子20が接続される。トランジスタ16のコレクタ端子には伝送線路21とキャパシタ26を介して出力端子28が設けられる。そして、伝送線路21とキャパシタの間には先端開放スタブ24が接続される。先端開放スタブ24が接続される点は基本波信号がそれ以上伝播しない仮想短絡点22となる。トランジスタ16のエミッタ端子は伝送線路23を介して接地される。
【0022】
フィードバック回路14は、一端がトランジスタ16のベース端子に接続された第一電気信号線路30を備える。さらに、一端が第一電気信号線路30の他端と接続され、他端は接地された第一シャントキャパシタ34を備える。フィードバック回路14は、仮想短絡点22とキャパシタ26の間に接続されることで、伝送線路21を介して一端がトランジスタ16のコレクタ端子に接続された第二電気信号線路32を備える。さらに、一端が第二電気信号線路32の他端に接続され、他端は接地された第二シャントキャパシタ36を備える。そして、第一電気信号線路30の他端と第二電気信号線路32の他端は大容量キャパシタ38により接続されている。
【0023】
第一電気信号線路30の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さである。大容量キャパシタ38の電気容量は、第一シャントキャパシタ34と第二シャントキャパシタ36のうち電気容量の高いほうの電気容量の5倍以上の値である。先端開放スタブ24の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さである。また、伝送線路17、21、23および先端開放スタブ19の長さは基本波信号に対する発振条件を満たすように決められる。本実施形態の高周波二倍波発振器は上述の構成を備える。
【0024】
以後、フィードバック回路14が発振部12に与える効果を説明する。この説明は直流信号すなわちゼロHz信号、基本波信号、2倍波信号、低周波1/f雑音信号について個別に行う。
【0025】
直流信号について説明する。図2は直流信号について説明する回路図である。図2において直流信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。そして、線路長を変える、直列抵抗を挿入する等のあらゆる操作に対しても、直流特性が変わらない領域は点線で示している。先端が開放となっている線路や先端にキャパシタが直列接続されている線路は直流信号に影響を与えない。よって直流信号が影響を受ける箇所は図2中の実線で示した箇所となる。すなわち、フィードバック回路14の追加によって直流特性は変化しない。
【0026】
基本波信号について説明する。図3は基本波信号について説明する回路図である。図3において基本波信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。そして、回路変更を行っても基本波信号が変化しない領域を点線で示している。仮想短絡点22より出力端子28側へは基本波信号は伝播しない。そのため仮想短絡点22より出力端子28側の領域で回路変更を行っても基本波信号は変化しない。また先端が第一シャントキャパシタ34によって短絡されている第一電気信号線路30は基本波周波数において開放負荷を有する。そのため、第一電気信号線路30が接続されても基本波信号は変化しない。すなわち、フィードバック回路14の追加によって基本波特性は変化しない。以上の様にフィードバック回路14を発振部12に接続しても、発振部12の直流特性および基本波特性は変化しないため発振周波数の変化は生じない。
【0027】
2倍波信号について説明する。図4は2倍波信号について説明する回路図である。図4において2倍波信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。先端が第一シャントキャパシタ34によって短絡となっている第一電気信号線路30は2倍波周波数において短絡負荷を有する。そして、第一電気信号線路30はトランジスタ16のベース端子に接続されている。よって、トランジスタ16のベース側に接続された回路全体の2倍波周波数における負荷は短絡負荷となる。この結果、2倍波信号の発振部12外部への放出が促進され、2倍波信号によるトランジスタ16のベース電圧のふらつきが抑制され位相雑音が低減する。
【0028】
低周波1/f雑音信号について説明する。図5は低周波1/f雑音信号について説明する回路図である。図5において低周波1/f雑音信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。0.001GHz以下の低周波1/f雑音信号は、大容量キャパシタ38は通過しうるが小容量値の第一シャントキャパシタ34、第二シャントキャパシタ36は通過できない。従ってトランジスタ16で発生した低周波1/f雑音信号が影響を与える領域は図5中の実線の領域となる。トランジスタ16のベースで低周波1/f雑音信号が生じると、トランジスタ16通過時に位相が180度変化する。そして、第二電気信号線路32、大容量キャパシタ38、第一電気信号線路30を通過して元の箇所に戻る。よって、低周波1/f雑音信号が打ち消される。このため位相雑音が低減できる。
【0029】
以上の様に、本実施形態の高周波二倍波発振器10は、基本波周波数および2倍波周波数に対しては短絡負荷であるが0.001GHz以下の1/f雑音信号の周波数に対しては開放負荷となる第一シャントキャパシタ34および第二シャントキャパシタ36を備える。また、低周波1/f雑音信号を打ち消す大容量キャパシタ38を備える。つまり、位相雑音の原因となる2倍波信号と低周波1/f雑音信号に対して、フィードバック回路14はそれぞれ異なる処理を施して位相雑音を低減する。
【0030】
本実施形態の高周波二倍波発振器10による位相雑音抑制効果を2種類の二倍波発振器について検証した。二倍波発振器Aは、図14に示した二倍波発振器と同じ構成であり、2倍波信号が発振器内部に残留するために位相雑音特性が劣る発振器である。また、トランジスタにおいて1/f雑音が発生している。図6上段には二倍波発振器Aの2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。そして図6の下段には二倍波発振器Aにフィードバック回路14を付加した高周波二倍波発振器の2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。図6からフィードバック回路14を付加すると、発振が停止することなくほぼ同等の発振周波数を保ちながら、位相雑音が抑制されることが分かる。なお、フィードバック回路14の付加の前後で二倍波発振器Aに対し一切の変更を行っていない。
【0031】
別の二倍波発振器Bは、図14に示した二倍波発振器において、伝送線路115と先端開放スタブ116の接続点に、基本波信号の波長の1/4の長さを持つ先端開放スタブ(図示せず)をさらに接続するとともに、1/f雑音がより大きなトランジスタに置き換えたものである。この二倍波発振器は、2倍波信号が強く外部へ放出されるとともに2倍波信号の残留が抑制されるため2倍波信号に起因する位相雑音は少ないが、トランジスタの1/f雑音が高いために位相雑音特性が劣る発振器である。なお、図8に示すとおり、二倍波発振器A、Bの1/f雑音はいずれも周波数が低いほど増大するものである。図7上段には二倍波発振器Bの2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。そして図7の下段には二倍波発振器Bにフィードバック回路14を付加した高周波二倍波発振器の2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。図7からフィードバック回路14を付加すると、発振が停止することなくほぼ同等の発振周波数を保ちながら、位相雑音が抑制されることが分かる。フィードバック回路14の付加の前後で二倍波発振器Bに対し一切の変更を行っていない。なお、上記のシミュレーションはいずれも、第一シャントキャパシタ34、第二シャントキャパシタ36の容量はともに2pF、大容量キャパシタ38の容量は100pFとして計算した。
【0032】
ここで、フィードバック回路14は受動素子のみから構成されている。そのため、フィードバック回路14付加後も、図8の場合と比較して、低周波1/f雑音信号は増加しない。つまり、トランジスタ等の1/f雑音源を追加することなく1/f雑音信号をフィードバックさせ、1/f雑音に起因する位相雑音を抑制することが可能である。さらに、長さを基本波信号の波長の1/4とした第一電気信号線路によって2倍波信号によるトランジスタのベース電圧のふらつきを防止し、2倍波信号に起因する位相雑音も抑制できる。また新たなバイアス電源、バイアス端子等も必要としない。このように、本実施形態の構成によれば、簡素な構成で位相雑音の劣化原因に依らず高周波二倍波発振器の位相雑音を低減することができる。
【0033】
本実施形態の第一電気信号線路30は、線路長が基本波信号の波長の1/4の奇数倍であることが望ましい。しかしながら厳密に上記の線路長である必要は無い。つまり、上記の線路長から、基本波信号の波長の1/16の誤差を有しても位相雑音の抑制効果が期待できる。換言すれば、第一電気信号線路30の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから同波長の1/16の長さを減算した長さと、同波長の1/4の値を奇数倍した長さから同波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値でよい。
【0034】
本実施形態の第二電気信号線路32の線路長および接続箇所は、2倍波信号が最大に外部へ出力されるような出力側負荷となるように調整される事が望ましい。仮想短絡点22とキャパシタ26の間に接続された整合回路(図示せず)を用いて出力負荷の整合がなされている場合、第二電気信号線路32の線路長を2倍波信号の波長の四分の一の奇数倍とすることで、第二電気信号線路32は2倍波信号に対して開放負荷となり、仮想短絡点22とキャパシタ26の間の線路に対する影響がなくなることで整合条件を乱したり出力負荷を変化させたりすることなくフィードバック回路14を付加することが可能である。このとき、2倍波信号は出力端子から効率よく取り出すことができる。上記整合回路を用いない場合においても、第二電気信号線路32の線路長を2倍波信号の波長の四分の一の奇数倍とすることで仮想短絡点22とキャパシタ26の間の線路に対する影響をなくすことができるし、また2倍波信号の周波数で出力負荷に対して整合がとれるようなインピーダンスを持つように第二電気信号線路32の線路長を調整することもできる。
【0035】
本実施形態の大容量キャパシタ38の容量値は高ければ高いほど望ましい。少なくとも第一シャントキャパシタ34、第二シャントキャパシタ36の容量値の高い方の値の五倍以上の容量値を有すれば、位相雑音抑制効果が期待できる。位相雑音と深く関係する0.001GHz以下の1/f雑音を有効にフィードバックするためには、大容量キャパシタ38の容量値は少なくとも10pFあればよく、また20pF以上であればより高い位相雑音抑制効果が期待できる。望ましくは50pF以上、さらには100pF以上の容量値であれば、非常に高い位相雑音抑制効果が得られる。
【0036】
本実施形態ではトランジスタ16は、インジウム砒化ガリウムを材料としたバイポーラトランジスタを用いた。しかしながら、フィードバック回路14の適用に際してトランジスタ16の材料に制限は無い。例えばシリコン、砒化ガリウム、窒化ガリウム等が使用可能である。またトランジスタ16の構造にも制限は無く、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、高電子移動度トランジスタ等が使用可能であり、真空管であっても良い。電界効果トランジスタおよび高電子移動度トランジスタにおいてはゲート端子、ドレイン端子、ソース端子がそれぞれバイポーラトランジスタのベース端子、コレクタ端子、エミッタ端子に相当する。
【0037】
本実施形態では、直列正帰還構成の二倍波発振器を用いたが、二倍波発振器としてpush−push型発振器を用いることもできる。また、2倍波信号を取り出すための仮想短絡点を有するその他の二倍波発振器を使用することも可能である。
【0038】
実施の形態2
本実施形態は図9を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は大容量キャパシタ38に直列接続された抵抗50を更に備えたことを特徴とする。トランジスタ16、第二電気信号線路32、大容量キャパシタ38、第一電気信号線路30によって構成されるループ経路が原因で所望しない周波数の発振を起こすことが考えられる。そのような場合に、大容量キャパシタ38に直列に抵抗50を挿入する事で不要発振の発生を抑制できる。ここで、抵抗50の抵抗値が高すぎると1/f雑音フィードバック機能も抑圧されてしまうことに留意するべきである。よって、このことを考慮して抵抗50は適切な抵抗値とする必要がある。さらに、抵抗50を可変抵抗とする事で所望の位相雑音特性になるよう調整する事が可能となる。
【0039】
実施の形態3
本実施形態は図10を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は大容量キャパシタ38に直列接続されたインダクタンス52を更に備えたことを特徴とする。実施形態2で説明した抵抗50の代わりにインダクタンス52を直列接続する事で、1/f雑音信号のフィードバック機能は比較的抑圧されない。よって不要発振信号のループを抑制する事が可能となる。
【0040】
実施の形態4
本実施形態は図11を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は大容量キャパシタとして、可変容量キャパシタ54を備えることを特徴とする。可変容量キャパシタ54の容量値を調整することで、不要発振を生じさせること無く適切な1/f雑音信号のフィードバックが達成できる。
【0041】
実施の形態5
本実施形態は図12を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は第一シャントキャパシタ56と第二シャントキャパシタ58が可変容量キャパシタであることを特徴とする。フィードバック回路が正常に発振部12の位相雑音を抑制するためには、第一シャントキャパシタおよび第二シャントキャパシタが低周波1/f雑音信号に対しては開放負荷を有し、基本波周波数および2倍波周波数に対しては短絡負荷を有することが必要である。そこで、第一シャントキャパシタ56および第二シャントキャパシタ58を可変容量とすることで、適切な容量値に調整する事が可能となる。なお実施の形態4の可変容量キャパシタ54および、第一シャントキャパシタ56および第二シャントキャパシタ58は、例えば、バラクタダイオードを用いて実現する事が可能である。
【0042】
実施の形態6
本実施形態は図13を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は、大容量キャパシタ38と第一シャントキャパシタ34との間に接続されたバイアス端子60を備える。また、大容量キャパシタ38と第二シャントキャパシタ36との間に接続されたバイアス端子62を備える。これにより第一電気信号線路30および第二電気信号線路32をバイアス回路の一部として利用することが可能である。なお、これら実施形態2乃至6の変更例は、複数組み合わせて実施する事も可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 高周波二倍波発振器、 12 発振部、 14 フィードバック回路、 16 トランジスタ、 22 仮想短絡点、 30 第一電気信号線路、 32 第二電気信号線路、 34 第一シャントキャパシタ、 36 第二シャントキャパシタ、 38 大容量キャパシタ
【技術分野】
【0001】
本発明は主にマイクロ波、ミリ波で動作する高周波二倍波発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダーや携帯電話等の高周波無線装置の普及により、出力周波数1GHz超の発振器の高性能化の要求が高まっている。ここで、発振器とは回路内部で高周波電気信号の発振を起こし、高周波電気信号を外部へ発信する回路である。発振器は高周波電気信号を増幅させるためのトランジスタ等の能動素子を内蔵する。
【0003】
発振する周波数と外部へ出力される信号の周波数が同一である発振器は基本波発振器と呼ばれる。そして、外部へ出力される信号の周波数が発振する周波数の2倍である発振器は二倍波発振器と呼ばれる。二倍波発振器は基本波発振器と比較して、後述の仮想短絡点のために発振器外部の負荷変動の影響を受けにくい利点がある。これにより、トランジスタの最大発振周波数が低くても高性能な発振器の作成が可能となる。発振が生じる周波数は基本波周波数と呼ばれ、基本波周波数の電気信号は基本波信号と呼ばれる。また基本波周波数の2倍の周波数は2倍波周波数と呼ばれ、周波数が2倍波周波数の電気信号は2倍波信号と呼ばれる。
【0004】
図14を参照して典型的な直列正帰還型二倍波発振器について説明する。図14は典型的な直列正帰還型二倍波発振器100の回路図である。バイアス端子113およびバイアス端子114は、トランジスタ108にベース電圧およびコレクタ電圧を印加するための端子である。バイアス端子113は伝送線路115を介してトランジスタ108のベース端子に接続され、さらに先端開放スタブと接続され、基本波信号の影響を受けないように設計される。また、バイアス端子114は伝送線路117を介してトランジスタ108のコレクタ端子に接続され、2倍波信号の影響を受けないように設計される。キャパシタ111はコレクタ電圧およびコレクタ電流の直流成分が外部に漏洩することを防ぐ。
【0005】
さらに、トランジスタ108より出力端子112側に存在する電気信号線路に対して先端開放スタブ109が接続される。先端開放スタブ109の線路長は基本波信号の波長の四分の一である。この先端開放スタブ109の接続箇所には基本波信号によって電位が変動しない領域、すなわち仮想短絡点110が生じる。この仮想短絡点110より出力端子側12へは基本波信号は伝播しない。一方、2倍波信号は先端開放スタブ109および仮想短絡点110の影響を受けることがない。そのため、2倍波信号は出力端子112へと伝播し発振器100の外部へと発信される。
【0006】
上記の通り図14の場合は、仮想短絡点110は先端開放スタブ109を用いて生じさせている。この他にも複数の発振器を結合させる事で仮想短絡点を生じさせた2倍波発振器、すなわちpush-push発振器も頻繁に用いられる。スタブによる電力損失が小さく且つ基本波周波数が充分高い場合には先端開放スタブが使用されることが多い。それ以外の場合ではpush-push型発振器を使用することが多い。
【0007】
なお、特許文献1、2には発振器についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−501574号公報
【特許文献2】特開2009−147899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発振器において重要視される特性として、出力周波数と位相雑音がある。まず、出力周波数について説明する。
【0010】
出力周波数は出力信号の周波数のことである。そして、二倍波発振器の出力周波数は前述の2倍波周波数に相当する。発振器が組み込まれる高周波無線装置が扱う周波数の信号は、発振器が直接出力する事が望ましい。ここで、周波数逓倍器を使用する事で無線装置が扱う周波数よりも低い周波数の信号を出力する発振器も使用可能となる。しかしながら、無線装置の構成はより複雑となるため低コスト化の観点からは不利である。無線装置の高周波化が進む今日、発振器の出力周波数の向上が要望されている。
【0011】
一方、位相雑音は出力周波数の安定性を示す指標である。発振器をレーダーや通信装置として用いた際、発振器の位相雑音は測距精度および通信エラーレートに影響を及ぼす。そのため位相雑音はより低い値となる事が望ましい。ここで、位相雑音の低減を図るためにQ値の増加が試みられる場合がある。Q値とは共振器のエネルギーの蓄積量を示す指標である。発振器の場合、基本波周波数の変わりにくさを示す指標となる。しかしながらQ値を増加させると、発振器に出力周波数可変機能を追加しても周波数が変わり難くなる。すなわち周波数可変幅が狭帯域になるという問題点がある。そのためQ値増加以外の位相雑音の抑制方法が提案されるようになった。
【0012】
位相雑音が悪化する原因として発振器内部の各箇所における電位の変動がある。この電位の変動には2つの要因がある。第一の要因は発振器内部に残留した2倍波信号であり、第二の要因はトランジスタが発生する1/f雑音信号である。発振器内部に残留した2倍波信号を考慮して提案された発振器については[2007信学技報, vol. 107, no.355, pp.29-32, November 2007. "高調波負荷を最適化したKa帯2倍波発振器,"](参考文献1と称する)に開示がある。この発振器は、トランジスタのベース側又はゲート側に接続された回路の2倍波周波数における負荷を短絡とする。これにより、2倍波信号を発振器外部へと放出する効果が高まり位相雑音が低減する。トランジスタが発生する1/f雑音信号を考慮して提案された発振器については[“A novel RFIC for UHF oscillators”, IEEE Radio Frequency Integrated Circuits Symp. Digest, pp. 53-56, 2000] (参考文献2と称する)に開示がある。この発振器は1/f雑音信号フィードバック回路を備える。このフィードバック回路は、トランジスタのベース又はゲートで発生する1/f雑音信号と180度位相が異なる電気信号を、トランジスタのベース又はゲートに与える。これによって1/f雑音信号は打ち消され、位相雑音が低減する。
【0013】
参考文献1に記載の発振器では、発振器内部に残留した2倍波信号を発振器外部へ放出できる。しかしながら、1/f雑音信号に対しては何の効果も無い。よって、1/f雑音信号が支配的に位相雑音の原因となっている発振器に対しては、位相雑音の低減が不十分となる問題があった。
【0014】
参考文献2に記載の発振器では、以下の3点の問題がある。一点目は、位相雑音抑制効果が小さいことである。なぜならばフィードバック回路が有するトランジスタもまた1/f雑音信号源であるためである。二点目は、すでに作成した発振器にフィードバック回路を付加すると発振周波数が変わる、又は発振が生じなくなる。よって発振器の再設計が必要となる点である。三点目は、発振器内部に残留した2倍波信号に対しては何の効果も無い。従って2倍波信号が支配的に位相雑音の原因となっている発振器に対しては、位相雑音低減効果は小さい。以上より参考文献2に記載の発振器であっても位相雑音の低減が不十分となる問題があった。
【0015】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、位相雑音の劣化原因によらず低位相雑音特性を示す高周波二倍波発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の発明にかかるパワーデバイス制御回路は、トランジスタと、一端が該トランジスタのベース側またはゲート側に接続された第一電気信号線路と、一端が該第一電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第一シャントキャパシタと、一端が該トランジスタのコレクタ側またはドレイン側に接続された第二電気信号線路と、一端が該第二電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第二シャントキャパシタと、該第一電気信号線路の他端と該第二電気信号線路の他端を接続する大容量キャパシタとを備える。そして、該第一電気信号線路の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから基本波信号の波長の1/16の長さを減算した長さと、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さに基本波信号の波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、位相雑音の劣化原因によらず位相雑音を低減可能な高周波二倍波発振器を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図2】図1における直流信号の影響範囲を説明する図である。
【図3】図1における基本波信号の影響範囲を説明する図である。
【図4】図1における二倍波信号の影響範囲を説明する図である。
【図5】図1における低周波1/f雑音信号の影響範囲を説明する図である。
【図6】本発明により発振器内部に残留する2倍波信号が低減されることを説明する図である。
【図7】本発明により低周波1/f雑音信号が低減されることを説明する図である。
【図8】二倍波発振器の1/f雑音信号の周波数依存を説明する図である。
【図9】実施形態2の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図10】実施形態3の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図11】実施形態4の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図12】実施形態5の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図13】実施形態6の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【図14】従来の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1
本実施形態は図1ないし図8を参照して説明する。なお、同一材料または同一、対応する構成要素には同一の符号を付して複数回の説明を省略する場合がある。他の実施形態でも同様である。
【0020】
図1は本実施形態の高周波二倍波発振器の構成を説明する回路図である。直列正帰還構成の高周波二倍波発振器10は発振部12とフィードバック回路14を備える。以後、発振部12とフィードバック回路14の構成について説明する。
【0021】
発振部12はトランジスタ16を備える。トランジスタ16はインジウム砒素ガリウムを材料としたバイポーラトランジスタである。トランジスタ16のベース端子には伝送線路17を介してバイアス端子18および先端開放スタブ19が接続される。トランジスタ16のコレクタ端子には伝送線路21を介してバイアス端子20が接続される。トランジスタ16のコレクタ端子には伝送線路21とキャパシタ26を介して出力端子28が設けられる。そして、伝送線路21とキャパシタの間には先端開放スタブ24が接続される。先端開放スタブ24が接続される点は基本波信号がそれ以上伝播しない仮想短絡点22となる。トランジスタ16のエミッタ端子は伝送線路23を介して接地される。
【0022】
フィードバック回路14は、一端がトランジスタ16のベース端子に接続された第一電気信号線路30を備える。さらに、一端が第一電気信号線路30の他端と接続され、他端は接地された第一シャントキャパシタ34を備える。フィードバック回路14は、仮想短絡点22とキャパシタ26の間に接続されることで、伝送線路21を介して一端がトランジスタ16のコレクタ端子に接続された第二電気信号線路32を備える。さらに、一端が第二電気信号線路32の他端に接続され、他端は接地された第二シャントキャパシタ36を備える。そして、第一電気信号線路30の他端と第二電気信号線路32の他端は大容量キャパシタ38により接続されている。
【0023】
第一電気信号線路30の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さである。大容量キャパシタ38の電気容量は、第一シャントキャパシタ34と第二シャントキャパシタ36のうち電気容量の高いほうの電気容量の5倍以上の値である。先端開放スタブ24の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さである。また、伝送線路17、21、23および先端開放スタブ19の長さは基本波信号に対する発振条件を満たすように決められる。本実施形態の高周波二倍波発振器は上述の構成を備える。
【0024】
以後、フィードバック回路14が発振部12に与える効果を説明する。この説明は直流信号すなわちゼロHz信号、基本波信号、2倍波信号、低周波1/f雑音信号について個別に行う。
【0025】
直流信号について説明する。図2は直流信号について説明する回路図である。図2において直流信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。そして、線路長を変える、直列抵抗を挿入する等のあらゆる操作に対しても、直流特性が変わらない領域は点線で示している。先端が開放となっている線路や先端にキャパシタが直列接続されている線路は直流信号に影響を与えない。よって直流信号が影響を受ける箇所は図2中の実線で示した箇所となる。すなわち、フィードバック回路14の追加によって直流特性は変化しない。
【0026】
基本波信号について説明する。図3は基本波信号について説明する回路図である。図3において基本波信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。そして、回路変更を行っても基本波信号が変化しない領域を点線で示している。仮想短絡点22より出力端子28側へは基本波信号は伝播しない。そのため仮想短絡点22より出力端子28側の領域で回路変更を行っても基本波信号は変化しない。また先端が第一シャントキャパシタ34によって短絡されている第一電気信号線路30は基本波周波数において開放負荷を有する。そのため、第一電気信号線路30が接続されても基本波信号は変化しない。すなわち、フィードバック回路14の追加によって基本波特性は変化しない。以上の様にフィードバック回路14を発振部12に接続しても、発振部12の直流特性および基本波特性は変化しないため発振周波数の変化は生じない。
【0027】
2倍波信号について説明する。図4は2倍波信号について説明する回路図である。図4において2倍波信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。先端が第一シャントキャパシタ34によって短絡となっている第一電気信号線路30は2倍波周波数において短絡負荷を有する。そして、第一電気信号線路30はトランジスタ16のベース端子に接続されている。よって、トランジスタ16のベース側に接続された回路全体の2倍波周波数における負荷は短絡負荷となる。この結果、2倍波信号の発振部12外部への放出が促進され、2倍波信号によるトランジスタ16のベース電圧のふらつきが抑制され位相雑音が低減する。
【0028】
低周波1/f雑音信号について説明する。図5は低周波1/f雑音信号について説明する回路図である。図5において低周波1/f雑音信号が影響を及ぼす範囲は実線で示した。0.001GHz以下の低周波1/f雑音信号は、大容量キャパシタ38は通過しうるが小容量値の第一シャントキャパシタ34、第二シャントキャパシタ36は通過できない。従ってトランジスタ16で発生した低周波1/f雑音信号が影響を与える領域は図5中の実線の領域となる。トランジスタ16のベースで低周波1/f雑音信号が生じると、トランジスタ16通過時に位相が180度変化する。そして、第二電気信号線路32、大容量キャパシタ38、第一電気信号線路30を通過して元の箇所に戻る。よって、低周波1/f雑音信号が打ち消される。このため位相雑音が低減できる。
【0029】
以上の様に、本実施形態の高周波二倍波発振器10は、基本波周波数および2倍波周波数に対しては短絡負荷であるが0.001GHz以下の1/f雑音信号の周波数に対しては開放負荷となる第一シャントキャパシタ34および第二シャントキャパシタ36を備える。また、低周波1/f雑音信号を打ち消す大容量キャパシタ38を備える。つまり、位相雑音の原因となる2倍波信号と低周波1/f雑音信号に対して、フィードバック回路14はそれぞれ異なる処理を施して位相雑音を低減する。
【0030】
本実施形態の高周波二倍波発振器10による位相雑音抑制効果を2種類の二倍波発振器について検証した。二倍波発振器Aは、図14に示した二倍波発振器と同じ構成であり、2倍波信号が発振器内部に残留するために位相雑音特性が劣る発振器である。また、トランジスタにおいて1/f雑音が発生している。図6上段には二倍波発振器Aの2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。そして図6の下段には二倍波発振器Aにフィードバック回路14を付加した高周波二倍波発振器の2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。図6からフィードバック回路14を付加すると、発振が停止することなくほぼ同等の発振周波数を保ちながら、位相雑音が抑制されることが分かる。なお、フィードバック回路14の付加の前後で二倍波発振器Aに対し一切の変更を行っていない。
【0031】
別の二倍波発振器Bは、図14に示した二倍波発振器において、伝送線路115と先端開放スタブ116の接続点に、基本波信号の波長の1/4の長さを持つ先端開放スタブ(図示せず)をさらに接続するとともに、1/f雑音がより大きなトランジスタに置き換えたものである。この二倍波発振器は、2倍波信号が強く外部へ放出されるとともに2倍波信号の残留が抑制されるため2倍波信号に起因する位相雑音は少ないが、トランジスタの1/f雑音が高いために位相雑音特性が劣る発振器である。なお、図8に示すとおり、二倍波発振器A、Bの1/f雑音はいずれも周波数が低いほど増大するものである。図7上段には二倍波発振器Bの2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。そして図7の下段には二倍波発振器Bにフィードバック回路14を付加した高周波二倍波発振器の2倍波出力電力、出力周波数、1MHzオフセット位相雑音のシミュレーション結果を示す。図7からフィードバック回路14を付加すると、発振が停止することなくほぼ同等の発振周波数を保ちながら、位相雑音が抑制されることが分かる。フィードバック回路14の付加の前後で二倍波発振器Bに対し一切の変更を行っていない。なお、上記のシミュレーションはいずれも、第一シャントキャパシタ34、第二シャントキャパシタ36の容量はともに2pF、大容量キャパシタ38の容量は100pFとして計算した。
【0032】
ここで、フィードバック回路14は受動素子のみから構成されている。そのため、フィードバック回路14付加後も、図8の場合と比較して、低周波1/f雑音信号は増加しない。つまり、トランジスタ等の1/f雑音源を追加することなく1/f雑音信号をフィードバックさせ、1/f雑音に起因する位相雑音を抑制することが可能である。さらに、長さを基本波信号の波長の1/4とした第一電気信号線路によって2倍波信号によるトランジスタのベース電圧のふらつきを防止し、2倍波信号に起因する位相雑音も抑制できる。また新たなバイアス電源、バイアス端子等も必要としない。このように、本実施形態の構成によれば、簡素な構成で位相雑音の劣化原因に依らず高周波二倍波発振器の位相雑音を低減することができる。
【0033】
本実施形態の第一電気信号線路30は、線路長が基本波信号の波長の1/4の奇数倍であることが望ましい。しかしながら厳密に上記の線路長である必要は無い。つまり、上記の線路長から、基本波信号の波長の1/16の誤差を有しても位相雑音の抑制効果が期待できる。換言すれば、第一電気信号線路30の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから同波長の1/16の長さを減算した長さと、同波長の1/4の値を奇数倍した長さから同波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値でよい。
【0034】
本実施形態の第二電気信号線路32の線路長および接続箇所は、2倍波信号が最大に外部へ出力されるような出力側負荷となるように調整される事が望ましい。仮想短絡点22とキャパシタ26の間に接続された整合回路(図示せず)を用いて出力負荷の整合がなされている場合、第二電気信号線路32の線路長を2倍波信号の波長の四分の一の奇数倍とすることで、第二電気信号線路32は2倍波信号に対して開放負荷となり、仮想短絡点22とキャパシタ26の間の線路に対する影響がなくなることで整合条件を乱したり出力負荷を変化させたりすることなくフィードバック回路14を付加することが可能である。このとき、2倍波信号は出力端子から効率よく取り出すことができる。上記整合回路を用いない場合においても、第二電気信号線路32の線路長を2倍波信号の波長の四分の一の奇数倍とすることで仮想短絡点22とキャパシタ26の間の線路に対する影響をなくすことができるし、また2倍波信号の周波数で出力負荷に対して整合がとれるようなインピーダンスを持つように第二電気信号線路32の線路長を調整することもできる。
【0035】
本実施形態の大容量キャパシタ38の容量値は高ければ高いほど望ましい。少なくとも第一シャントキャパシタ34、第二シャントキャパシタ36の容量値の高い方の値の五倍以上の容量値を有すれば、位相雑音抑制効果が期待できる。位相雑音と深く関係する0.001GHz以下の1/f雑音を有効にフィードバックするためには、大容量キャパシタ38の容量値は少なくとも10pFあればよく、また20pF以上であればより高い位相雑音抑制効果が期待できる。望ましくは50pF以上、さらには100pF以上の容量値であれば、非常に高い位相雑音抑制効果が得られる。
【0036】
本実施形態ではトランジスタ16は、インジウム砒化ガリウムを材料としたバイポーラトランジスタを用いた。しかしながら、フィードバック回路14の適用に際してトランジスタ16の材料に制限は無い。例えばシリコン、砒化ガリウム、窒化ガリウム等が使用可能である。またトランジスタ16の構造にも制限は無く、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、高電子移動度トランジスタ等が使用可能であり、真空管であっても良い。電界効果トランジスタおよび高電子移動度トランジスタにおいてはゲート端子、ドレイン端子、ソース端子がそれぞれバイポーラトランジスタのベース端子、コレクタ端子、エミッタ端子に相当する。
【0037】
本実施形態では、直列正帰還構成の二倍波発振器を用いたが、二倍波発振器としてpush−push型発振器を用いることもできる。また、2倍波信号を取り出すための仮想短絡点を有するその他の二倍波発振器を使用することも可能である。
【0038】
実施の形態2
本実施形態は図9を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は大容量キャパシタ38に直列接続された抵抗50を更に備えたことを特徴とする。トランジスタ16、第二電気信号線路32、大容量キャパシタ38、第一電気信号線路30によって構成されるループ経路が原因で所望しない周波数の発振を起こすことが考えられる。そのような場合に、大容量キャパシタ38に直列に抵抗50を挿入する事で不要発振の発生を抑制できる。ここで、抵抗50の抵抗値が高すぎると1/f雑音フィードバック機能も抑圧されてしまうことに留意するべきである。よって、このことを考慮して抵抗50は適切な抵抗値とする必要がある。さらに、抵抗50を可変抵抗とする事で所望の位相雑音特性になるよう調整する事が可能となる。
【0039】
実施の形態3
本実施形態は図10を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は大容量キャパシタ38に直列接続されたインダクタンス52を更に備えたことを特徴とする。実施形態2で説明した抵抗50の代わりにインダクタンス52を直列接続する事で、1/f雑音信号のフィードバック機能は比較的抑圧されない。よって不要発振信号のループを抑制する事が可能となる。
【0040】
実施の形態4
本実施形態は図11を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は大容量キャパシタとして、可変容量キャパシタ54を備えることを特徴とする。可変容量キャパシタ54の容量値を調整することで、不要発振を生じさせること無く適切な1/f雑音信号のフィードバックが達成できる。
【0041】
実施の形態5
本実施形態は図12を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は第一シャントキャパシタ56と第二シャントキャパシタ58が可変容量キャパシタであることを特徴とする。フィードバック回路が正常に発振部12の位相雑音を抑制するためには、第一シャントキャパシタおよび第二シャントキャパシタが低周波1/f雑音信号に対しては開放負荷を有し、基本波周波数および2倍波周波数に対しては短絡負荷を有することが必要である。そこで、第一シャントキャパシタ56および第二シャントキャパシタ58を可変容量とすることで、適切な容量値に調整する事が可能となる。なお実施の形態4の可変容量キャパシタ54および、第一シャントキャパシタ56および第二シャントキャパシタ58は、例えば、バラクタダイオードを用いて実現する事が可能である。
【0042】
実施の形態6
本実施形態は図13を参照して説明する。本実施形態の高周波二倍波発振器は、大容量キャパシタ38と第一シャントキャパシタ34との間に接続されたバイアス端子60を備える。また、大容量キャパシタ38と第二シャントキャパシタ36との間に接続されたバイアス端子62を備える。これにより第一電気信号線路30および第二電気信号線路32をバイアス回路の一部として利用することが可能である。なお、これら実施形態2乃至6の変更例は、複数組み合わせて実施する事も可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 高周波二倍波発振器、 12 発振部、 14 フィードバック回路、 16 トランジスタ、 22 仮想短絡点、 30 第一電気信号線路、 32 第二電気信号線路、 34 第一シャントキャパシタ、 36 第二シャントキャパシタ、 38 大容量キャパシタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタと、
一端が前記トランジスタのベース側またはゲート側に接続された第一電気信号線路と、
一端が前記第一電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第一シャントキャパシタと、
一端が前記トランジスタのコレクタ側またはドレイン側に接続された第二電気信号線路と、
一端が前記第二電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第二シャントキャパシタと、
前記第一電気信号線路の他端と前記第二電気信号線路の他端を接続する大容量キャパシタとを備え、
前記第一電気信号線路の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから基本波信号の波長の1/16の長さを減算した長さと、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さに基本波信号の波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値であることを特徴とする高周波二倍波発振器。
【請求項2】
前記大容量キャパシタの電気容量は、前記第一シャントキャパシタと前記第二シャントキャパシタのうち電気容量の高いほうの電気容量の5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項3】
前記大容量キャパシタに直列接続された固定抵抗又は可変抵抗を更に備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項4】
前記大容量キャパシタに直列接続されたインダクタンスを更に備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項5】
前記大容量キャパシタは可変容量キャパシタであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項6】
前記第一シャントキャパシタと前記第二シャントキャパシタは可変容量キャパシタであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項7】
前記大容量キャパシタと前記第一シャントキャパシタとの間、および、前記大容量キャパシタと前記第二シャントキャパシタとの間に接続されたバイアス端子またはバイアス回路を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項1】
トランジスタと、
一端が前記トランジスタのベース側またはゲート側に接続された第一電気信号線路と、
一端が前記第一電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第一シャントキャパシタと、
一端が前記トランジスタのコレクタ側またはドレイン側に接続された第二電気信号線路と、
一端が前記第二電気信号線路の他端に接続され、他端は接地された第二シャントキャパシタと、
前記第一電気信号線路の他端と前記第二電気信号線路の他端を接続する大容量キャパシタとを備え、
前記第一電気信号線路の線路長は、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さから基本波信号の波長の1/16の長さを減算した長さと、基本波信号の波長の1/4の値を奇数倍した長さに基本波信号の波長の1/16の長さを加算した長さとの間の値であることを特徴とする高周波二倍波発振器。
【請求項2】
前記大容量キャパシタの電気容量は、前記第一シャントキャパシタと前記第二シャントキャパシタのうち電気容量の高いほうの電気容量の5倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項3】
前記大容量キャパシタに直列接続された固定抵抗又は可変抵抗を更に備えたことを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項4】
前記大容量キャパシタに直列接続されたインダクタンスを更に備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項5】
前記大容量キャパシタは可変容量キャパシタであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項6】
前記第一シャントキャパシタと前記第二シャントキャパシタは可変容量キャパシタであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【請求項7】
前記大容量キャパシタと前記第一シャントキャパシタとの間、および、前記大容量キャパシタと前記第二シャントキャパシタとの間に接続されたバイアス端子またはバイアス回路を更に備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の高周波二倍波発振器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−147003(P2011−147003A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7092(P2010−7092)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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