説明

高周波増幅装置

【課題】帯域外成分と主信号成分とを合成するパルス変調高周波増幅システムを提供する。
【解決手段】入力のパルス変調信号を増幅するスイッチングアンプ1と、スイッチングアンプ1の出力信号から主信号成分のみを通過させるバンドパスフィルタ2と、バンドパスフィルタ2から反射された帯域外成分を抽出するサーキュレータ3と、サーキュレータ3で抽出した帯域外成分と主信号との差分周波数で発振する発振器4と、サーキュレータ3で抽出した帯域外成分と発振器の出力とを掛け合わせて周波数変換するミキサ5と、ミキサ5の出力から主信号成分を通過させるバンドパスフィルタ6と、バンドパスフィルタ2とバンドパスフィルタ6の出力信号を合成する合成器7とから構成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばパルス変調高周波増幅器に利用される高周波増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信用送信アンプ装置の高周波増幅部の高効率化を実現する一つの手段として、高周波増幅部に飽和増幅器を使用することが可能となるパルス変調を用いた高調波増幅システムが提案されている。
【0003】
近年では、パルス変調信号を用いた高周波増幅システムは、例えば、バンドパスΔΣ変調信号を入力信号として構成したものが研究されている。この変調信号の基本となるΔΣ変調は、1960年代初めに氏によって開発された(非特許文献1)。
【0004】
また、バンドパスΔΣ変調を用いた高周波増幅システムは、例えばAntoine Frappeらにより提案された構成がよく知られている(非特許文献2)。
【0005】
一方、このような入力信号を用いた高周波増幅システムは、高周波デバイスの動作効率を理想状態で100%とすることが期待できるものの、当業者の間では既知のように、原理的にデジタルパルス信号生成時に、主信号以外の不要な帯域外成分が多数発生するので、高周波デバイスの総合出力電力から主信号成分のみを抽出した実質的な動作効率は、理想状態から大幅に下回るといった課題がある。
【0006】
このような課題に対して、図1に示すように、高周波増幅器120の出力部に、帯域外の反射波を抽出するサーキュレータ140を有し、抽出した帯域外の反射波を整流部130で直流に変換して、高周波増幅器で電力を再利用するように構成したものが提案されている(特許文献1)。
【0007】
このものによれば、入力信号をパルス信号とした高周波増幅器から出力される帯域外成分を抽出して直流に変換し、その直流に変換した電力を例えば高周波増幅部の駆動電力として再利用できるので、高周波増幅システム全体の動作効率を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−278097号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H.Inose、Y.Yasuda、J.Murakami、“A Telemetering System by Code Modulation −Δ・ΣModulation−” IRE Trans. on SET、 vol.8、No.3、pp.205−209 Sep.1962.
【非特許文献2】Samulak.A、Fischer.G、Weigel.R、“Optimized delta sigma modulation for Class−S power amplifier based on GaN switching transistors” IEEE Radio and Wireless Symposium、Jan.2009、Pages 546−549.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載されたものでは、帯域外の反射波を直流に変換し、直流に変換された電力を例えば高周波増幅部で再利用することで装置の効率を改善させるが、パルス変調信号を用いた高周波増幅システムでは、帯域外成分の電力は主信号成分の電力と比較して無視できないほど大きく、そのため、帯域外成分を含む総合出力電力の中から抽出できる主信号成分の電力は、高周波デバイスのもつ最大出力能力を明らかに下回るので、主信号成分が所望の出力電力を得るためには、最大出力能力が所望の出力電力より高いデバイスを使用する必要があり、すなわちコストアップにつながるという問題があった。
【0011】
本発明は、このような従来の問題に鑑みてなされたものであり、出力される主信号の送信電力の向上と、装置の動作効率を改善することができるパルス変調高周波増幅装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のパルス変調高周波増幅装置は、入力した信号を増幅するスイッチングアンプと、前記スイッチングアンプの出力信号から主信号成分のみを通過させる第1の通過帯域制限手段と、前記第1の通過帯域制限手段から反射された帯域外成分を抽出する第1の信号抽出手段と、前記第1の信号抽出手段で抽出した前記帯域外成分と前記主信号成分との差分周波数で発振する発振器と、前記第1の信号抽出手段で抽出した前記帯域外成分と発振器の出力成分とを掛け合わせて周波数変換するミキサと、前記ミキサの出力から主信号成分を通過させる第2の通過帯域制限手段と、前記第1の通過帯域制限手段と第2の通過帯域制限手段の出力信号を合成する合成器とを備えたことを特徴とする。
【0013】
この構成により、本発明パルス変調高周波増幅装置は、出力される主信号の送信電力の向上と、装置の動作効率を改善することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のパルス変調高周波増幅装置によれば、スイッチングアンプから出力される帯域外成分をサーキュレータが抽出し、抽出された帯域外成分をミキサにより主信号成分の周波数に周波数変換し、周波数変換された成分と主信号成分とを合成器で電力合成されるので、出力される主信号の送信電力の向上と、装置の動作効率を改善することができる。
【0015】
また、本発明のパルス変調高周波増幅装置によれば、帯域外成分を主信号に変換して再利用するため、高周波増幅部による帯域外成分の発生を減らすための高調波抑圧を意識した複雑な調整を不要とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来技術における高周波増幅装置の概略構成図
【図2】本発明の実施の形態1におけるパルス変調高周波増幅装置の概略構成図
【図3】本発明の実施の形態2におけるパルス変調高周波増幅装置の概略構成図
【図4】実施の形態1におけるバンドパスΔΣ変調信号のパルス波形を示す図
【図5】実施の形態1におけるバンドパスΔΣ変調信号のスペクトラム波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1について説明する。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態におけるパルス変調高周波増幅装置の概略構成図、図4は、バンドパスΔΣ変調器から出力された信号のパルス波形、図5は、バンドパスΔΣ変調器から出力された信号のスペクトラム波形である。
【0019】
本発明の実施の形態におけるパルス変調高周波増幅装置は、図2に示すように、入力のパルス変調信号を増幅するスイッチングアンプ1と、スイッチングアンプ1の出力信号から主信号成分のみを通過させるバンドパスフィルタ2と、バンドパスフィルタ2から反射された帯域外成分を抽出するサーキュレータ3と、前記サーキュレータ3で抽出した帯域外成分と主信号との差分周波数で発振する発振器4と、前記サーキュレータ3で抽出した帯域外成分と発振器の出力とを掛け合わせて周波数変換するミキサ5と、前記ミキサの出力から主信号成分を通過させるバンドパスフィルタ6と、バンドパスフィルタ2とバンドパスフィルタ6の出力信号を合成する合成器7とから構成されている。
【0020】
次に、本発明の実施の形態について、パルス信号をバンドパスΔΣ変調器で生成する構成を一例としてあげ、その動作を説明する。
【0021】
図4に示すように、バンドパスΔΣ変調器の出力信号はパルス信号となる。このパルス信号を周波数軸で表現すると、図5に示すようにサンプリング周波数fに依存したエイリアス信号を含んだスペクトラムとなる。例えば、バンドパスΔΣ変調をサンプリング周波数fで行った主信号の周波数f(式1)のエイリアス成分は(式2)で示す周波数fに発生し、n=1の成分が最大となり、その電力は主信号の1/10程度となる。ここで、nは1から始まる整数である。ただし、この電力レベルの相対値は、ΔΣ変調器の回路構成により異なる。
【0022】

【0023】

【0024】
ここで、(式3)で示す発振周波数fをもつ発振器4の出力信号と、帯域外に発生した周波数fの信号とをミキサ5で掛け合わせることにより、エイリアス信号成分の周波数を主信号と同じ周波数fへ周波数変換することができる。
【0025】

【0026】
本発明の実施の形態では、図2に示すように、スイッチングアンプ1から出力される周波数fに含まれる帯域外のエイリアス信号成分は、サーキュレータ3により抽出され、ミキサ5により周波数fを中心とする信号に周波数変換された後、合成器7により主信号成分と合成する。
【0027】
このように、本実施の形態によれば、不要な信号成分として電力の損失となる帯域外のエイリアス信号成分を、主信号成分と合成して装置から出力するため、出力される主信号の送信電力の向上と、装置の動作効率を改善することができる。
【0028】
主信号の出力電力が60W、装置の動作効率が75%のバンドパスΔΣ変調高周波増幅装置を例に挙げ、本実施の形態の効果を説明する。従来のバンドパスΔΣ変調高周波増幅装置の構成では、3/4fの電力は、主信号周波数の1/4fの電力の約1/10となり、トータル電力として6Wを無駄に消費する。本実施の形態によれば、この3/4fの電力を主信号周波数の1/4fに変換し、主信号と合成して出力することができるため、ミキサ5の周波数変換効率を90%とすれば、合成できる電力は5.4Wとなり、装置の出力電力は最大で65.4Wであるので、装置の動作効率は81.8%に改善する。よって、本実施の形態の方法によれば、装置の出力電力を9%、動作効率の75%に対して6.8pt(ポイント)改善することができる。
【0029】
なお、ここで示した改善量は動作説明のための一例であり、装置の構成により異なる。
【0030】
また、本実施の形態によれば、帯域外成分を主信号に変換して再利用するため、高周波増幅部による帯域外成分の発生を減らすための高調波抑圧を意識した複雑な調整を不要とすることができる。
【0031】
なお、本実施の形態では、パルス変調信号を一例としてバンドパスΔΣ変調信号としているが、パルス変調信号はPWM変調信号や、その他のデジタル信号としてもよく、バンドパスΔΣ変調信号と同等の効果が得られる。
【0032】
なお、本実施の形態では、帯域外成分を抽出する回路の一例としてサーキュレータを記載したが、当然のことながら、主信号成分と帯域外成分とに分離するデュプレクサや、その他の同様の機能を有する回路としても良く、サーキュレータと同等の効果が得られる。
【0033】
なお、本実施の形態では、サーキュレータの出力にバンドパスフィルタを挿入したが、その他のフィルタやアイソレータなどの通過信号を帯域制限する回路を挿入してもよく、バンドパスフィルタを挿入する場合と同等の効果が得られる。
【0034】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2について説明する。
【0035】
図3に、本発明の実施の形態2における概略構成図を示す。
【0036】
本発明の実施の形態におけるパルス変調高周波増幅装置は、図3に示すように、前記実施の形態1のパルス変調高周波増幅装置が、ミキサ5の出力とバンドパスフィルタ6との間に、前記バンドパスフィルタ6の反射波を抽出するサーキュレータ8と、前記サーキュレータ8で抽出した反射波を直流電力に変換するRF−DC変換器9とから構成されている。図中のKは、ミキサ5から出力される主信号帯域以外の成分を示す。
【0037】
このような構成とすることで、実施の形態1の効果に加え、ミキサ5から出力される主信号帯域以外の成分Kを直流電力として回収し、再利用することができる。実施の形態1で示したΔΣ高周波増幅装置を例にとるとミキサ5で発生する帯域外の電力は0.6Wであり、本実施の形態のように、RF−DC変換部を利用すれば、実施の形態1の装置効率の81.8%に対して、さらに最大で1.5pt(ポイント)の装置効率の改善効果が見込まれる。
【0038】
なお、ここで示した改善量は動作説明のための一例であり、装置の構成により異なる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、主信号成分と同じ信号が高調波として繰り返し発生するあらゆる高周波増幅装置に有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 スイッチングアンプ
2 バンドパスフィルタ(第1の通過帯域制限手段)
3 サーキュレータ(第1の信号抽出手段)
4 発振器
5 ミキサ
6 バンドパスフィルタ(第2の通過帯域制限手段)
7 合成器
8 サーキュレータ(第2の信号抽出手段)
9 RF−DC変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した信号を増幅するスイッチングアンプと、前記スイッチングアンプの出力信号から主信号成分のみを通過させる第1の通過帯域制限手段と、前記第1の通過帯域制限手段から反射された帯域外成分を抽出する第1の信号抽出手段と、前記第1の信号抽出手段で抽出した前記帯域外成分と前記主信号成分との差分周波数で発振する発振器と、前記第1の信号抽出手段で抽出した前記帯域外成分と発振器の出力成分とを掛け合わせて周波数変換するミキサと、前記ミキサの出力から主信号成分を通過させる第2の通過帯域制限手段と、前記第1の通過帯域制限手段と前記第2の通過帯域制限手段の出力信号を合成する合成器とを備えた高周波増幅装置。
【請求項2】
前記ミキサの出力端子と前記第2の通過帯域制限手段との間に、前記第2の通過帯域制限手段の反射波を抽出する第2の信号抽出手段を設け、前記第2の信号抽出手段で抽出した反射波を直流電力に変換するRF−DC変換部をさらに備えていることを特徴とする請求項1記載の高周波増幅装置。
【請求項3】
前記入力した信号は、パルス変調信号、PWM変調信号またはデジタル信号のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の高周波増幅装置。
【請求項4】
前記第1の通過帯域制限手段は、フィルタまたはアイソレーションであることを特徴とする請求項1記載の高周波増幅装置。
【請求項5】
前記第2の通過帯域制限手段は、フィルタまたはアイソレーションであることを特徴とする請求項1または2記載の高周波増幅装置。
【請求項6】
前記第1の信号抽出手段は、サーキュレータまたはデュプレクサであることを特徴とする請求項1記載の高周波増幅装置。
【請求項7】
前記第2の信号抽出手段は、サーキュレータまたはデュプレクサであることを特徴とする請求項2記載の高周波増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−231365(P2012−231365A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99180(P2011−99180)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】