説明

高周波焼入れ工程監視回路

【課題】本発明は高周波焼入れ装置を監視する装置を提供する。
【解決手段】本発明の装置は、インダクションコイル16、制御回路12、監視回路14、焼入れ装置18からなる。インダクションコイルはワークピース22を加熱する。制御回路はインダクションコイルと接続されており、インダクションコイルに電気エネルギーを供給する。焼入れ装置はインダクションコイルで加熱された後のワークピースを焼入れする。監視回路はインダクションコイルと焼入れ回路に接続されており、加熱パラメータと焼入れパラメータを監視し、加熱パラメータと焼入れパラメータに基づきワークピースの状態を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工業工程を監視する回路に関する。より具体的には、本発明は高周波焼入れ工程を監視する回路に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波焼入れ装置は、例えば軸受の構成部材である転動体といった金属部品を熱処理するために用いられる。熱処理は部品に目標の位相特性と硬度を与えるために利用される。また熱処理により内部応力を軽減することができる。高周波焼入れ処理では、インダクションコイルの磁場によって部品中に渦電流が発生し、渦電流の誘導損失が抵抗熱を発生させることによって部品が加熱される。一般的に、各部品は加熱炉の場合のように一度に加熱されるのではなく、個別に加熱される。インダクションコイルと加熱対象の部品は、磁場によって一体化されているので、加熱時に加熱対象の部品に少しでも変化が生じると、コイルのシグネチャーに反映される。したがって、コイルのシグネチャーは加熱処理工程に関する重要な情報を発する。加熱対象の部品の加熱後、加熱対象の部品(ワークピース)は焼入れされる。焼入れはワークピースを液浴に沈めることによって行われる。ワークピースを加熱し、焼入れすることによって、結果としてワークピースの硬度が決まる。
【0003】
製造業者の多くは、電源を制御すれば、誘導加熱の各サイクルにおいて同量のエネルギーと同量の電力を供給することができると単純に考えている。しかし、実際には多くの場合、ワークピースに実際に伝えられるエネルギー、ひいてはワークピースの品質は、接触抵抗の変化、誘導損失、コイル部分の位置、電磁特性の変化、およびその他の要因によって容易に影響を受ける。また、気温の変化やワークピースの焼入れ時間も、誘導加熱工程とワークピースの品質に大きな影響を与える。
【0004】
上述の説明から明らかなように、高周波焼入れ工程を監視する装置を改良する必要があり、本発明はそれを提供する。
【0005】
上述の必要を満たし、上述の従来技術の欠点及びその他の限界を克服するために、本発明は高周波焼入れ工程を監視する装置を提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の装置は、インダクションコイル、制御回路、監視回路、焼入れ装置を備えている。インダクションコイルはワークピースを加熱する。制御回路はインダクションコイルと接続されており、インダクションコイルに電気エネルギーを供給する。焼入れ装置はインダクションコイルで加熱されたワークピースを焼入れする。監視回路はインダクションコイルと焼入れ装置に接続されており、加熱パラメータと焼入れパラメータを監視し、加熱パラメータと焼入れパラメータに基づきワークピースの状態を判断する。ワークピースの状態は焼入れ工程の質に対応しており、したがってワークピースの硬度に対応している。
【0007】
監視回路は、測定した加熱パラメータ及び焼入れパラメータを評価基準と比較して、ワークピースの状態を判断する。加熱パラメータと焼入れパラメータには、焼入れ温度、インダクションコイルに供給されるエネルギー量、インダクションコイルに供給される電力量、供給電流の履歴、誘導電圧の履歴、加熱時間、焼入れ液の流動開始時点、焼入れ液の流動終了時点、焼入れ液の流速、焼入れ圧が含まれるが、これらだけに限られるものではない。ワークピースの評価基準としては、焼入れ温度、電力、エネルギー、供給電流の履歴、誘導電圧の履歴、加熱時間、焼入れ液の流動開始時点・流動終了時点、焼入れ圧の上限と下限が含まれるが、これらだけに限られるものではない。
【0008】
また、監視回路にはワークピースの複数の評価基準が記憶されている。監視装置はワークピースの識別子を受け取り、前記識別子に基づき、複数の評価基準の1つによってワークピースの状態を判断する。
【0009】
また、監視している加熱パラメータ及び焼入れパラメータに基づき、制御回路がプロセスパラメータを調節する。
【0010】
本発明の他の目的と特徴と長所は、当業者であれば、添付の図面を参照しながら、後述の本発明の好適な実施例の説明とクレームを読めば容易に明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に本発明の装置全体を、参照番号10で示す。この装置10は主要な構成要素として、制御回路12と監視回路14とインダクションコイル16と焼入れ装置18を含む。
【0012】
誘導加熱のための電気エネルギーを供給するために、制御回路12は電気的にインダクションコイル16に接続されている。ワークピース22はインダクションコイル16の磁場によって加熱される。制御回路12は、エネルギー量と電力量と誘導電圧の履歴と供給電流の履歴と加熱時間を調整して、誘導加熱工程を制御する。監視回路14はインダクションコイル16に接続されており、電圧と電流を誘導加熱工程の間、時間ごとに監視する。また監視回路14は、電力、エネルギー量、誘電加熱工程の加熱時間を監視する。これらのパラメータは誘導電圧の履歴と供給電流の履歴とから得られる。制御回路12は焼入れ装置18にも接続されており、焼入れ液の流動の開始・終了、焼入れ液の温度、焼入れ液の流量、焼入れ圧などの焼入れに関するパラメータを制御する。また、監視回路14は焼入れ装置18と制御回路12の両方に接続されており、焼入れ工程におけるパラメータを監視する。監視回路14は制御回路12に接続されているため、制御回路12は監視しているパラメータが評価基準を超えた際にフィードバック信号を発し、加熱と焼入れの工程を調整するか、オペレータに警告を発することができる。
【0013】
ワークピース22を加熱後、焼入れ装置18は容器20の中に液体を注ぎ込み、ワークピース22を液の中に沈める。前記液体は液体戻り流路24を介して焼入れ装置18に戻される。焼入れ装置18には、ポンプ25と、流速センサ26、圧力センサ28、温度センサ30が設けられている。ポンプ25は液体をワークピース22に供給する。流速センサ26は容器20に流入する液体の流速を測定する。圧力センサ28は容器20に流入する液体の圧力を測定する。温度センサ30は前記液体がワークピース22を焼入れした後、液体戻り流路24を流れている液体の温度を測定する。監視回路14は流速センサ26、圧力センサ28、温度センサ30に接続されており、熱処理時の焼入れ工程における焼入れパラメータを監視する。
【0014】
図2に高周波焼入れ装置を制御・監視する工程50を示す。工程50は制御回路12がワークピース識別子を受け取るブロック52から始まる。ブロック54では、制御回路12がワークピース識別子に基づいてワークピースの評価基準をロードする。制御回路12はブロック55で、インダクションコイル16に電力を供給することで加熱を開始する。監視回路14はブロック56で、電力、エネルギー、誘導電圧の履歴と供給電流の履歴、加熱時間などの加熱パラメータを監視する。監視しているパラメータがワークピースの評価基準によって定義された許容範囲を超えた場合、ブロック72で警告が発せられる。ワークピース22の加熱後、制御回路12は焼入れ装置18に信号を送り、ブロック57で焼入れが始まる。
【0015】
ワークピース22に対して複数回、焼入れと加熱が行われる。急冷焼き入れと加熱を同時に行うこともある。加熱時には加熱パラメータがブロック58で引き続き監視される。同様に焼入れ時には、焼入れ液の流動の開始・終了、焼入れ温度、焼入れ液の流量、焼入れ圧などの焼入れパラメータがブロック59で継続して監視される。加熱パラメータと同様に、監視しているパラメータがワークピースの評価基準によって定義された許容範囲を超えた場合、ブロック72で警告が発せられる。
【0016】
焼入れ液の流動の開始は、冷却のために液体がワークピース22に供給された時点である。一般的に、ワークピース22を加熱状態から急冷状態に迅速に移行させることによりワークピース22を十分に硬化させるために、焼入れ液の流動の開始は加熱の終了直後とする。焼入れ液の流動の終了とは、ワークピース22への焼入れ液の供給を停止した時点のことである。焼入れ温度は、ワークピース22の焼入れ後の焼入れ液の温度である。焼入れ液の流量は、任意の時点でワークピース22に供給される焼入れ液の流速を指す。一般的に流速はガロン毎分で表す。焼入れ圧はワークピース22に供給される焼入れ液の圧力を指す。ブロック60において加熱が完了すると、本発明の装置では、ワークピース22が冷却されるまで焼入れを続ける。したがって焼入れパラメータはブロック64において監視され続ける。この場合も、監視しているパラメータがワークピースの評価基準によって定義された許容範囲を超えた場合、ブロック72で警告が発せられる。ブロック66では制御回路12は焼入れ装置18に信号を送り、ワークピース22の焼入れを終了する。
【0017】
ブロック68で監視回路14は焼入れ液の温度を比較評価する。焼入れ液の温度が評価基準の範囲外にある場合、つまり下限温度を下回っているか、上限温度を上回っている場合は、矢印70からブロック72に進んで、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。焼入れ液の温度が焼入れ液の温度の評価基準の範囲内に収まっている場合は、矢印74からブロック76に進む。
【0018】
ブロック76で監視回路14は加熱コイルに供給される電力量を比較評価する。電力量が加熱力の評価基準の範囲外にある場合、つまり上限を上回っているか、下限を下回っている場合、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。電力量が加熱力の評価基準の範囲内に収まっている場合は、矢印80からブロック82に進む。
【0019】
ブロック82で監視回路14はインダクションコイルに供給される加熱エネルギーの量を比較評価する。加熱エネルギーの量が評価基準の範囲内であれば、つまり上限と下限の間にあれば、矢印86からブロック88に進む。加熱エネルギーの量が評価基準から外れると、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0020】
ブロック88で監視回路14はインダクションコイルに供給される電流の履歴を比較評価する。供給電流の履歴が評価基準の範囲内であれば、つまり上限と下限の間にあれば、矢印92からブロック94に進む。供給電流の履歴が評価基準から外れると、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0021】
ブロック94で監視回路14はインダクションコイルを流れる電流の誘導電圧の履歴を比較評価する。誘導電圧の履歴が評価基準の範囲内であれば、つまり上限と下限の間にあれば、矢印98からブロック100に進む。誘導電圧の履歴が評価基準から外れると、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0022】
ブロック100で監視回路14はインダクションコイルの加熱時間を比較評価する。加熱時間が評価基準の範囲内であれば、つまり上限と下限の間にあれば、矢印104からブロック106に進む。加熱時間が評価基準から外れると、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0023】
ブロック106で監視回路14は焼入れ液の流動の開始時点を比較評価する。焼入れ液の流動開始時点が評価基準の範囲内であれば、つまり上限と下限の間にあれば、矢印110からブロック112に進む。焼入れ液の流動開始時点が評価基準の範囲外であれば、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0024】
ブロック112で監視回路14は焼入れ液の流動終了時点が比較評価される。焼入れ液の流動終了時点が評価基準の範囲内であれば、流動終了時点が評価基準の上限と下限の間にあれば、矢印116からブロック118に進む。焼入れ液の流動終了時点が評価基準の範囲外であれば、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0025】
ブロック118で監視回路14は焼入れ液の流速を比較評価する。焼入れ液の流速が評価基準の範囲内にあれば、つまり上限と下限の間にあれば、矢印122からブロック124に進む。焼入れ液の流速が評価基準の範囲外にあれば、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0026】
ブロック124では監視回路14は焼入れ液の圧力を比較評価する。焼入れ液の圧力が評価基準の範囲内にあれば、つまり上限と下限の間にあれば、ブロック128に進み、本工程は終了する。焼入れ液の圧力が評価基準の範囲外にあれば、矢印70からブロック72に進み、警告が発せられ、本工程はブロック128で終了する。
【0027】
工程50は監視過程の1つが基準を外れれば、警告が発せられ終了する課程を示している。しかし、各監視過程が個別に警報を発し、1つの監視過程が基準を外れても、次の監視過程に進むようにすることもできる。
【0028】
当業者であれば、上述の説明は本発明の原理の実施例の説明であることが容易に理解できるだろう。したがって、ここでの説明は本発明の範囲や応用に制限を加えるためのものではなく、以下の請求項に定義した本発明の本質から外れることなく、本発明に改良や変形・変更を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は本発明の高周波焼入れ装置の概略図である。
【図2】図2は高周波焼入れ装置を制御し監視する本発明の方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
10 高周波焼入れ装置
12 制御回路
14 監視回路
16 インダクションコイル
18 焼入れ装置
22 ワークピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースを加熱するためのインダクションコイルと、
前記インダクションコイルに電気エネルギーを供給するための監視回路と、
ワークピースを焼入れするための焼入れ装置と、
加熱と焼入れのパラメータを監視し、前記パラメータによってワークピースの状態を判断する監視回路とからなる誘導加熱の工程を監視するための監視装置。
【請求項2】
監視回路が、ワークピースの加熱と焼入れパラメータを評価基準と比較してワークピースの状態を判断するようになっている、請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
監視回路が、監視している加熱パラメータと焼入れパラメータに基づいて工程のパラメータを調整するようになっている、請求項1に記載の監視装置。
【請求項4】
焼入れパラメータに焼入れ温度が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項5】
焼入れ温度をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項4に記載の監視装置。
【請求項6】
加熱パラメータにインダクションコイルに供給される電力が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項7】
供給される電力量をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項6に記載の監視装置。
【請求項8】
加熱パラメータにインダクションコイルに供給されるエネルギー量が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項9】
加えられたエネルギー量をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項8に記載の監視装置。
【請求項10】
加熱パラメータに供給電流の履歴が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項11】
供給電流の履歴をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項10に記載の監視装置。
【請求項12】
加熱パラメータに誘導電圧の履歴が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項13】
誘導電圧の履歴をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項12に記載の監視装置。
【請求項14】
加熱パラメータに加熱時間が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項15】
加熱時間をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項14に記載の監視装置。
【請求項16】
焼入れパラメータに焼入れ液の流動開始時点が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項17】
焼入れ液の流動開始時点をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項16に記載の監視装置。
【請求項18】
焼入れパラメータに焼入れ液の流動終了時点が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項19】
焼入れ液の流動終了時点をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項18に記載の監視装置。
【請求項20】
焼入れパラメータに焼入れ液の流速が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項21】
焼入れ液の流速をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項20に記載の監視装置。
【請求項22】
焼入れパラメータに焼入れ液の圧力が含まれる、請求項1に記載の監視装置。
【請求項23】
焼入れ液の圧力をその上限値および下限値と比較することによりワークピースの状態を判断する、請求項22に記載の監視装置。
【請求項24】
ワークピースの複数の評価基準が監視回路に記憶されている、請求項1に記載の監視装置。
【請求項25】
ワークピースの識別子を監視回路が受け取るようになっている、請求項24に記載の監視装置。
【請求項26】
監視回路がワークピースの状態を前記識別子に基づき、複数の評価基準の1つによって判断する、請求項25に記載の監視装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−144126(P2006−144126A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322232(P2005−322232)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】