説明

高周波焼入装置

【課題】 ワークの焼入時に、焼入部位を固定位置として回転支持できる高周波焼入装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 高周波焼入装置1は、加熱コイル2(加熱導体部)、駆動部3、テールストック部4、回転位置設定手段5(駆動位置X方向制御部6、駆動位置Y方向制御部7、テールストック位置X方向制御部8、テールストック位置Y方向制御部9)を持つ。ワーク30は、焼入部位31〜33を有する。高周波焼入装置1は、焼入部位31〜33の中心31a〜33aをワークの回転中心に設定し、加熱コイル2を焼入部位31〜33のいずれかに対向配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属素材のワークを高周波焼入れする際に使用される高周波焼入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品は、強度(耐摩耗性や耐疲労性)を確保するために焼入れが行われる。例えば、特許文献1には、クランクシャフト等のワークを焼入れすることができる高周波焼入装置の発明が開示されている。焼入対象となるワークと近接する加熱コイルに高周波電流を供給し、ワーク上に高周波の誘導電流を生じさせ、この誘導電流による発熱を利用してワークを焼入れするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−1956号公報
【0004】
特許文献1の発明を実施すると、クランクシャフトのピンの軸心を中心にクランクシャフトを回転させることが可能になり、加熱コイルをクランクシャフトのピン(焼入部位)に追従させる機構が不要になる。
【0005】
すなわち特許文献1の発明では、一対のロボットアームのハンド部でクランクシャフトの両端部を把持し、各ロボットアームのハンド部を手首ごと回転(自転)させながら、各ロボットアームのハンド部が円軌道を描くように動作(公転)させることにより、クランクシャフトのピン(焼入部位)の軸心を中心とした回転を可能としている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の高周波焼入装置は、各ロボットアームのハンド部を公転移動させる構成が複雑で、装置が大掛かりとなっている。
【0007】
そこで本発明は、このような問題点に鑑み、ワークの高周波焼入時に、焼入部位を中心にワークを回転させることができる高周波焼入装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、複数の焼入部位を有し、各焼入部位の中心線が複数の平行な直線上のいずれかに配置されたワークを高周波焼入れする高周波焼入装置であって、前記高周波焼入装置は焼入部位に対向配置する加熱導体部を備えており、前記直線のうちのいずれかの直線に回転中心を設定する回転位置設定手段を設け、前記回転位置設定手段により回転中心に設定したいずれかの直線上に中心線を有する焼入部位に、加熱導体部を対向配置する加熱導体部制御手段を設けたことを特徴とする高周波焼入装置である。
【0009】
請求項1の発明の高周波焼入装置は、焼入部位の中心線をワークの回転中心として設定ができ、当該焼入部位に加熱導体部が対向配置される。よって、焼入時に加熱導体部の固定が可能となる。すなわち、請求項1の発明を実施すると、焼入部位に加熱導体部を追従移動させる機構が不要となる。さらに、ワークの焼入部位と加熱導体部とを所定間隔に離間させるスペーサが不要となり、スペーサとの接触によってワークに傷が生じることを防止できる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記回転位置設定手段は、ワークの回転中心を前記複数の直線上のいずれにも設定できることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0011】
請求項2の発明の高周波焼入装置は、ワークの回転中心を複数の直線上のいずれにも設定できる。よって、いずれの焼入部位も回転中心に設定できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の発明において、前記回転位置設定手段の回転中心設定動作に連動して、加熱導体部が焼入部位に対向配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波焼入装置である。
【0013】
請求項3の発明の高周波焼入装置を実施すると、いずれの焼入部位に対しても加熱導体部を対向配置することができる。よって、加熱導体部を焼入部位に追従させる(公転移動させる)機構が不要となる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかの発明において、前記回転位置設定手段が、サーボモータを備えていることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0015】
請求項4の発明の高周波焼入装置は、前記回転位置設定手段にサーボモータを備えた装置であることから、ワークの回転中心を複数の焼入部位の中心線が配置されるいずれかの直線上に変更する際に、高速且つ高精度に変更することができる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかの発明において、ワークがクランクシャフトであり、前記焼入部位がクランクシャフトのピン部及び/又はジャーナル部であることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0017】
請求項5の発明の高周波焼入装置では、クランクシャフトのピン部やジャーナル部を容易に焼入れすることができる。
【0018】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、前記焼入部位のうち、中心線が同一直線上にあるピン部もしくは中心線が同一直線上にあるジャーナル部を複数の加熱導体部で同時に焼入れが可能であることを特徴とする高周波焼入装置である。
【0019】
請求項6の発明の高周波焼入装置は、中心線が同一直線上にあるピン部もしくは中心線が同一直線上にあるジャーナル部を複数の加熱導体部で同時に焼入れが可能である。よって、焼入れに要する時間の短縮化を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明を実施すると、ワークの焼入部位を回転中心に設定でき、加熱導体部を焼入部位に対向配置し、ワークを回転させるだけで焼入部位を高周波焼入れすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の高周波焼入装置の正面図である。
【図2】本発明の高周波焼入装置の平面図である。
【図3】クランクシャフト(ワーク)に取付けた治工具の側面図である。
【図4】クランクシャフト(ワーク)のピン部を回転中心として回転させた時の治工具の側面図である。
【図5】クランクシャフトのピン部の高周波加熱時の部分断面図である。
【図6】本発明の高周波焼入装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明の具体的な実施形態について説明する。なお、説明は、実施形態の理解を容易にするためのものであり、これによって、本願発明が制限して理解されるべきではない。
【実施例】
【0023】
図1、2に示すように、高周波焼入装置1は、加熱コイル2(加熱導体部)、駆動部3、テールストック部4、回転位置設定手段5(駆動位置X方向制御部6、駆動位置Y方向制御部7、テールストック位置X方向制御部8、テールストック位置Y方向制御部9)、治工具10、治工具11等から構成されている。
【0024】
なお、図6のブロック図に示すように、高周波焼入装置1は上記構成以外に回転中心制御部40、加熱コイル制御部41、加熱コイル駆動部42、加熱コイル電源供給部43を備えている。そのうちの加熱コイル電源供給部43は、図示しない交流電源とインバータとを備える高周波の交流電流の供給源であり、図示しない一次誘導コイルを介して加熱コイル2に高周波の誘導電流(交流)を供給する。
【0025】
図1に示すように、クランクシャフト30は、ピンA部31(焼入部位)、ジャーナル部32(焼入部位)、ピンB部33(焼入部位)、軸端34、軸端35、カウンタウェイト36から構成されている。
【0026】
図2に示すように、回転位置設定手段5は、駆動位置X方向制御部6、駆動位置Y方向制御部7、テールストック位置X方向制御部8、テールストック位置Y方向制御部9から構成され、各々サーボモータ20とボールネジ駆動部21とを備えている。
【0027】
次に、本実施形態の高周波焼入装置における、回転位置設定手段5の動作について説明する。
図2に示すように、回転中心制御部40からの指令信号を回転位置設定手段5に送る。指令信号を受けた回転位置設定手段5、すなわち駆動位置X方向制御部6、駆動位置Y方向制御部7は、クランクシャフト30を回転駆動する駆動部3のX、Y方向の位置制御を行う。
【0028】
同じく指令信号を受けたテールストック位置X方向制御部8、クランクシャフト30の端部を回転可能に支持するテールストック位置Y方向制御部9は、テールストック部4のX、Y方向の位置制御を行う。ちなみに、駆動部3、テールストック部4はクランクシャフト30を挟んで対向配置され、治工具10、11を介してクランクシャフト30の両端を支持する。なお、図1は正面図であり、図2は平面図なので、図2に示す治工具10、11は、図1に示す状態から90度回転した状態となっている。
以上の構成により、駆動部3、テールストック部4の位置を調整し、クランクシャフト30の回転中心の位置を決める。
【0029】
詳細に説明すると、図3に示すように、クランクシャフト30に取付けた治工具10を側面から見ると、ピンA部31、ジャーナル部32、ピンB部33のそれぞれの中心線が紙面と直行して互いに平行になっている。
いずれかの焼入部位(ピンA部31、ジャーナル部32、ピンB部33)を焼入れする際、回転中心制御部40からの指令信号によって、駆動位置X方向制御部6、駆動位置Y方向制御部7、テールストック位置X方向制御部8、テールストック位置Y方向制御部9を焼入部位に対応する目標値に設定することにより、駆動部3、テールストック部4が焼入部位の中心に配置され、クランクシャフト30の回転中心が、ピンA部31、ジャーナル部32、ピンB部33のいずれかの焼入部位の中心位置に設定される。
【0030】
なお、駆動部3およびテールストック部4でクランクシャフト30を直接支持することができないため、治工具10、11を介してクランクシャフト30を支持している。このため、クランクシャフト30は治工具10、11と一体で回転する。
例えば、ピンB部33の中心33aを回転中心に設定し、クランクシャフト30を90度ずつ回転させると、クランクシャフト30と一体となった治工具10は図4に二点鎖線で示すような動作をする
この時、焼入部位であるピンB部33の中心33aが回転中心に設定されているため、破線で示すピンB部33はその位置で自転する。
【0031】
次に、加熱コイル2の動作について説明する。
焼入部位が選定されると、加熱コイル制御部41は焼入部位に応じた数の加熱コイル2を駆動し、該焼入部位に各々加熱コイル2を対向配置させる。
例えば、ピンB部33を焼入れする場合、図1に示すように焼入部位の数は2箇所である。回転中心制御部40からの指令信号でピンB部33を回転中心とした場合、前記指令信号に連動して加熱コイル制御部41から加熱コイル駆動部42に指令信号が送られる。この指令信号に基づき、2個の加熱コイル2をピンB部33のそれぞれ対向する位置に配置する。すなわち、焼入部位と加熱コイル2とは誘導加熱可能な所定距離だけ離間して対向している。
【0032】
回転中心制御部40がピンB部33に回転中心を設定すると、加熱コイル駆動部42は図5に示すように、加熱コイル2をピンB部33に対向配置する。
同様に、ピンA部31又はジャーナル部32を焼入れする際には、回転中心制御部40がピンA部31又はジャーナル部32にクランクシャフト30の回転中心を設定し、さらに加熱コイル駆動部42は、加熱コイル2をピンA部31又はジャーナル部32に対向配置する。
【0033】
そして、回転中心制御部40からの指令信号でピンB部33の中心を回転中心としてクランクシャフト30を回転させ、加熱コイル制御部41から加熱コイル電源供給部43に指令信号が出され、加熱コイル2に高周波電流を供給し、ピンB部33上に高周波の誘導電流を生じさせ、この誘導電流による発熱を利用してピンB部33を焼入れする。この時、ピンB部33は、その位置で自転しているため、ピンB部33の外周全面が一様に焼入れされる。
【0034】
なお、図6に示すように、回転中心制御部40、加熱コイル制御部41、加熱コイル駆動部42、加熱コイル電源供給部43は、タッチパネル表示器50、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)51からの指令で動作させてもよい。
ワークの形状や焼入部位の位置、数等の情報は、あらかじめタッチパネル表示器に入力しておき、ワークの焼入れを容易に行うことができる。
【0035】
以上より、本発明を実施すると、ワークの焼入部位を回転中心に設定でき、加熱コイル(加熱導体部)を焼入部位に対向配置し、ワークを回転させるだけで焼入部位を高周波焼入れすることが可能となる。
このことにより、従来技術では構成が複雑で大掛かりとなっていた高周波焼入装置を簡素化できる。
【0036】
また、本発明を実施すると、ワークの焼入部位と加熱導体部とを所定間隔に離間させるスペーサが不要となり、スペーサとの接触によってワークに傷が生じることを防止できる。
さらに、本発明の高周波焼入装置において、回転位置設定手段にサーボモータを備えると、ワークの回転中心を複数の焼入部位の中心線が配置されるいずれかの直線上に変更する際に、高速且つ高精度に変更することができる。
【0037】
また、中心線が同一線上にあるピン部もしくは中心線が同一線上にあるジャーナル部を複数の加熱導体部で同時に焼入れが可能となり、生産時間の短縮化を図ることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 高周波焼入装置
2 加熱コイル(加熱導体部)
3 駆動部
4 テールストック部
5 回転位置設定手段
6 駆動位置X方向制御部
7 駆動位置Y方向制御部
8 テールストック位置X方向制御部
9 テールストック位置Y方向制御部
10 治工具
11 治工具
30 クランクシャフト(ワーク)
31 ピンA部(焼入部位)
31aピンA部の中心
32 ジャーナル部(焼入部位)
32aジャーナル部の中心
33 ピンB部(焼入部位)
33aピンB部の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の焼入部位を有し、各焼入部位の中心線が複数の平行な直線上のいずれかに配置されたワークを高周波焼入れする高周波焼入装置であって、前記高周波焼入装置は焼入部位に対向配置する加熱導体部を備えており、前記直線のうちのいずれかの直線に回転中心を設定する回転位置設定手段を設け、前記回転位置設定手段により回転中心に設定したいずれかの直線上に中心線を有する焼入部位に、加熱導体部を対向配置する加熱導体部制御手段を設けたことを特徴とする高周波焼入装置。
【請求項2】
前記回転位置設定手段は、ワークの回転中心を前記複数の直線上のいずれにも設定できることを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入装置。
【請求項3】
前記回転位置設定手段の回転中心設定動作に連動して、加熱導体部が焼入部位に対向配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波焼入装置。
【請求項4】
前記回転位置設定手段が、ワークの回転中心の位置を設定するサーボモータを備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の高周波焼入装置。
【請求項5】
ワークがクランクシャフトであり、前記焼入部位がクランクシャフトのピン部及び/又はジャーナル部であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちのいずれかに記載の高周波焼入装置。
【請求項6】
前記焼入部位のうち、中心線が同一直線上にあるピン部もしくは中心線が同一直線上にあるジャーナル部を複数の加熱導体部で同時に焼入れが可能であることを特徴とする請求項5に記載の高周波焼入装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−229539(P2010−229539A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81330(P2009−81330)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(390026088)富士電子工業株式会社 (48)
【Fターム(参考)】