説明

高品質放射制御コーティング、放射制御ガラスおよび製造方法

【課題】
【解決手段】本発明は、放射制御コーティングを提供する。このコーティングは、その上を酸素遮断膜で覆われた透明導電膜を含む。幾つかの実施の形態においては、透明導電膜は、酸化インジウムスズを含有し、酸素遮断膜は、窒化ケイ素を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2010年1月16日出願の米国仮特許出願第61/295,694号明細書の優先権を主張するものであり、その全開示事項は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0002】
[技術分野]
本発明は、ガラスおよび他の基板用の薄膜コーティングに関する。特に、本発明は、ガラスアセンブリの外側面に使用される放射制御コーティングに関する。また、かかるコーティングおよびガラスアセンブリの製造方法および装置も提供する。
【背景技術】
【0003】
熱分解透明導電性酸化物(TCO)コーティングは、当技術分野において周知となっている。一般に、これらのコーティングは、フッ素化酸化スズ層を含む。これらのコーティングは、フロートガラス生産ラインにおいてガラスリボンがまだ熱いうちに、前駆体ガスおよび/または他の前駆体物質を供給することにより「オンライン」で塗布される。ガラス上に形成されたコーティングは、かなりの耐久性を有し非常に硬質になりやすいという長所がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、かかるコーティングのヘイズは、比較的高くなる傾向がある。例えば、かかるコーティングのかなり代表的なものであると思われる、ある市販の熱分解TCOコーティングのヘイズは、約0.74〜0.96である。更に、熱分解コーティングは、比較的粗くなる傾向がある。例えば、前記市販の熱分解コーティングの粗さRaは、約24.9nmである。また、フッ素を用いる熱分解処理は避けることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特定の実施の形態は、対向した第1および第2の主表面を有する第1のガラス板を提供する。本実施の形態において、第1のガラス板は、第2のガラス板を含む複層断熱ガラスユニットの一部である。前記断熱ガラスユニットは、少なくとも1つのガラス板間の空間を有する。前記第2のガラス板は、酸素遮断膜が上側に設けられた透明導電膜を含む放射制御コーティングを備えた外側面を有する。好ましくは、前記放射制御コーティングは、前記被覆ガラス板の単板での可視透過率が75%を超えると共に、前記コーティングのヘイズが0.3未満且つ粗さRaが3nm未満である。
【0006】
いくつかの実施の形態において、本発明は、窒化ケイ素を含有する酸素遮断膜が上側に設けられた酸化インジウムスズを含有する透明導電膜を含む放射制御コーティングがその上に設けられた主表面を有する熱処理被覆ガラス板を提供する。本実施の形態において、酸化インジウムスズを含有する前記透明導電膜の厚さは、約500オングストローム〜約3,000オングストローム、窒化ケイ素を含有する前記酸素遮断膜の厚さは、約200オングストローム〜約900オングストローム、前記放射制御コーティングは、ヘイズが0.3未満且つ粗さRaが3nm未満であり、前記被覆ガラス板の単板での可視透過率は80%を超える。
【0007】
いくつかの実施の形態では、室外ガラス板および室内ガラス板を含む複層断熱ガラスユニットを提供し、前記断熱ガラスユニットは、少なくとも1つのガラス板間の空間を有する。本実施の形態において、前記断熱ガラスユニットは、銀を含む少なくとも1枚の膜を有し、前記ガラス板間の空間に曝された低放射率コーティングを備えた内側面を有する。本実施の形態における室内ガラス板は、窒化物物質を含む酸素遮断膜が上側に設けられた透明導電膜を含む放射制御コーティングを備えた室内側外側面を有する。好ましくは、前記放射制御コーティングは、ヘイズが0.3未満且つ粗さRaが3nm未満である。
【0008】
特定の実施の形態において、本発明は、対向した第1および第2の主表面を有する第1のガラス板を提供するものであって、前記第1のガラス板は、第2のガラス板を含む複層断熱ガラスユニットの一部であり、前記断熱ガラスユニットは、少なくとも1つのガラス板間の空間を有し、前記第2のガラス板は、窒化物または酸窒化物を含むスパッタ酸素遮断膜が上側に設けられたスパッタ透明導電膜を含む放射制御コーティングを備えた外側面を有し、前記放射制御コーティングは、ヘイズが0.5未満且つ粗さRaが約10nm未満であり、前記被覆ガラス板の単板での可視透過率が75%を超える。これら実施の形態のいくつかにおいては、前記透明導電膜がスズを含み(および酸化インジウムスズを含む場合もある)、前記酸素遮断膜がケイ素を含み(および窒化ケイ素または酸窒化ケイ素を含む場合もある)、前記放射制御コーティングは、シート抵抗が13Ω/スクエア未満、ヘイズが0.1未満、粗さRaが約2nm未満であり、そして単板での可視透過率が81%を超える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、特定の実施の形態に係る放射制御コーティングを備えた主表面を有する基板の概略断面図である。
【図2】図2は、特定の実施の形態に係る放射制御コーティングを備えた主表面を有する基板の概略断面図である。
【図3】図3は、特定の実施の形態に係る放射制御コーティングの上側に親水性および/または光触媒性のコーティングを備えた主表面を有する基板の概略断面図である。
【図4】図4は、室外側ガラス板および室内側ガラス板を含み、室内側ガラス板が、特定の実施の形態に係る放射制御コーティングを備えた第4の表面を有する、複層(multiple-pane)断熱ガラスユニットの一部切り欠き概略側断面図である。
【図5】図5は、室外側ガラス板および室内側ガラス板を含み、室内側ガラス板が、特定の実施の形態に係る放射制御コーティングの上側に親水性および/または光触媒性のコーティングを備えた第4の表面を有する、複層断熱ガラスユニットの一部切り欠き概略側断面図である。
【図6】図6は、室外側ガラス板および室内側ガラス板を含み、室外側ガラス板が、親水性および/または光触媒性のコーティングを備えた第1の表面を有し、室内側ガラス板が、特定の実施の形態に係る放射制御コーティングを備えた第4の表面を有する、複層断熱ガラスユニットの一部切り欠き概略側断面図である。
【図7】図7は、室外側ガラス板および室内側ガラス板を含み、室外側ガラス板が低放射率コーティングを備えた第2の表面を有し、室内側ガラス板が特定の実施の形態に係る放射制御コーティングを備えた第4の表面を有する、複層断熱ガラスユニットの一部切り欠き概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明は、図面を参照しながら読まれたく、異なる図面における同様の要素は、同様の参照番号を付してある。図面は、必ずしも正確な縮尺ではなく、選択した実施の形態を示すものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者であれば、ここに示す実施例には、本発明の範囲内にある多くの有用なオプションがあることが分かるであろう。
【0011】
本発明の実施の形態の多くは、被覆基板を含む。種々様々なタイプの基板が、本発明における使用に適している。いくつかの実施の形態において、基板は、概ね対向した第1および第2の主表面を有するシート状の基板である。例えば、基板は、透明物質からなるシート(つまり、透明シート)であり得る。しかしながら、基板は、シートである必要はなく、また透明である必要もない。
【0012】
多くの用途において、基板は、ガラスまたは透明なプラスチックなどの透明(または少なくとも半透明)物質を含む。例えば、基板は、特定の実施の形態において、ガラス板である(例えば、窓ガラス板)。ソーダ石灰ガラスなど、種々様々な公知のタイプのガラスを使用することができる。場合によって、「白ガラス」、低鉄ガラスなどの使用が望ましい場合もある。特定の実施の形態において、前記基板は、窓、ドア、天窓またはその他のガラス(glazing)の一部である。太陽光を制御するために、着色されたソーラーガラス上に本発明に係るコーティングを塗布することができる。よって、本明細書に開示しているどの実施の形態のコーティングも、随意、シート状の着色ガラス上に設けられ得る。これにより、選択性を高めることができる。
【0013】
本発明においては、様々なサイズの基板の使用が可能である。一般に、大面積基板が使用される。特定の実施の形態では、主要寸法(例えば、長さまたは幅)が少なくとも約0.5メートル、好ましくは、少なくとも約1メートル、あるいは、より好ましくは、少なくとも約1.5メートル(例えば、約2メートル〜約4メートル)、場合によっては、少なくとも約3メートルの基板を含む。いくつかの実施の形態において、基板は、長さおよび/または幅が約3メートル〜約10メートルの大型ガラス板、例えば、幅約3.5メートルおよび長さ約6.5メートルのガラス板である。長さおよび/または幅が約10メートルを超える基板も有り得る。
【0014】
本発明においては、様々な厚さの基板の使用が可能である。いくつかの実施の形態において、基板(随意、ガラス板でもよい)は、厚さが約1〜8mmである。特定の実施の形態は、厚さが約2.3mm〜約4.8mm、あるいは、より好ましくは、約2.5mm〜約4.8mmである基板を含む。1つの特定の実施の形態においては、厚さが約3mmのシート状のガラス(例えば、ソーダ石灰ガラス)が使用される。
【0015】
好ましくは、基板10’は、対向した主表面16および18を有する。多くの場合、表面16は、断熱ガラスユニットにおけるガラス板間の空間に面する内側面となり、表面18は、建物の内部に面する外側面になる。図1および図2に示すように、基板10’は、放射制御コーティング7を備えている。図1において、コーティング7は、表面18から外側に向かって順に、透明導電膜20および酸素遮断膜100を有する。図2において、コーティング7は、表面18から外側に向かって、基膜15、透明導電膜20および酸素遮断膜100を有する。膜15、20および100は、個別の層、徐々に厚さを変化させた膜、またはその両方を組み合わせた少なくとも1層の個別の層と少なくとも1つの徐々に厚さを変化させた膜とを有する形態であってもよい。基膜15は、単層として示されているが、単層ではなく複数の層であってもよい。いくつかの実施の形態においては、コーティング7の全ての膜が、スパッタ膜である。
【0016】
好ましくは、コーティング7は、0.5未満または0.3未満(例えば、0.2未満、0.1未満、または更に0.09未満)のヘイズレベル、約10nm未満、約5nm未満、または約3nm未満(例えば、約2nm未満)の粗さRa、および75%を超える(通常、80%を超える)単板での可視透過率を、被覆基板に付与し得る物質から形成され且つ付与し得る方法(本明細書に詳述するような)により作製される。
【0017】
ヘイズは、周知の方法、例えば、BYKヘイズ‐ガードプラス装置を用いて測定することができる。ASTM D 1003−00:「透明なプラスチックのヘイズ及び光透過率に対する標準試験方法」を参照し、その開示事項は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0018】
25オーム/スクエア未満、20オーム/スクエア未満、17オーム/スクエア未満、15オーム/スクエア未満、または、場合によっては更に13オーム/スクエア未満の加熱後シート抵抗(Rsheet)と組み合わせ、70%を超える(例えば、熱処理前後)、73%を超える(例えば、熱処理前後)、81%を超える(例えば、熱処理後)、82%を超える(例えば、熱処理後)、または、場合によっては更に85%を超える(例えば、熱処理後)単板での可視透過率と共に、ヘイズが約0.08および表面粗さが約1.9nmであるサンプルを以下に記載する。
【0019】
任意の基膜15は、設けられる場合、シリカ、アルミナ、若しくはそれらの混合物を含むか、本質的にシリカ、アルミナ、若しくはそれらの混合物から成るか、またはシリカ、アルミナ、若しくはそれらの混合物から成り得る。場合によっては、酸窒化ケイ素(任意に、アルミニウムをいくらか含む)を使用してもよい。窒化ケイ素(任意に、アルミニウムをいくらか含む)も使用してもよい。また、これらの物質を組み合わせて用いてもよい。ナトリウムイオン拡散障壁として有用であることが知られている他の膜も使用してもよい。好ましい実施の形態において、透明導電膜20は、酸化インジウムスズを含むか、本質的に酸化インジウムスズから成るか、または酸化インジウムスズから成る。別の実施の形態においては、酸化亜鉛アルミニウム、SnO:Sb、スパッタSnO:F、または別の公知のTCOが使用される。よって、特定の実施の形態において、TCOは、スズ(例えば、アンチモン、フッ素または別のドーパントと共に酸化スズを含む)を含むスパッタ膜である。場合によって、前記TCO膜は、カーボンナノチューブを含む。また、好ましい実施の形態において、酸素遮断膜は、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、またはそれらの混合物といった窒化物を含むか、本質的に前記窒化物から成るか、または前記窒化物から成る。所望であれば、酸窒化物膜(例えば、酸窒化ケイ素、任意に、アルミニウムをいくらか含む)も使用してもよい。好ましい実施の形態において、放射制御コーティング7は、シリカを含む(または本質的にシリカから成る)基膜15、酸化インジウムスズを含む(または本質的に酸化インジウムスズから成る)透明導電膜20および窒化ケイ素を含む(または本質的に窒化ケイ素から成る)酸素遮断膜100を有する。前記シリカおよび窒化ケイ素は、アルミニウムを含み得る。
【0020】
任意の基膜15は、好ましくは、厚さが約50オングストローム以上、例えば、約70〜300オングストロームである。特定の実施の形態において、前記コーティングは、場合によっては、厚さ約75オングストローム、または約150オングストロームの、シリカ基膜(任意に、アルミニウムをいくらか含む)、アルミナ基膜、窒化ケイ素基膜(任意に、アルミニウムをいくらか含む)、または酸窒化ケイ素基膜(任意に、アルミニウムをいくらか含む)を含む。
【0021】
しかしながら、別の実施の形態において、透明導電膜20は、直接、基板表面18上にある(すなわち、基板表面18と直接接触している)。勿論、これらの実施の形態においては、基膜15はない。図1を参照されたい。出願人は、驚いたことに、透明導電膜20が、直接、基板表面18上にある実施の形態において、良好な特性が得られることを見出した。
【0022】
透明導電膜20の厚さは、約500Å〜3,000Åであってもよい。特定の実施の形態において、この膜20の厚さは、1,500Å未満、例えば、約1,000Å〜約1,500Åであり、例えば、約1,050〜1,400Åである。
【0023】
酸素遮断膜100の厚さは、約200Å〜約900Åであってもよい。特定の実施の形態において、この膜100の厚さは、約300Å〜約800Åであり、例えば、約560Åまたは約460Åである。
【0024】
透明導電膜20の厚さが約1,050〜1,400Åであり、酸素遮断膜100の厚さが約400〜750Åである場合に特に良好な結果が見られた。しかしながら、この厚さの組み合わせは、全ての実施の形態において必要とされるわけではない。むしろ、この厚さの組み合わせは、単に1グループの実施の形態において使用されるにすぎない。しかし、この厚さの組み合わせは、本明細書に記載の任意の実施の形態において(つまり、本明細書に記載の他の特性の組み合わせを有する任意の実施の形態において)任意に用いられ得る。
【0025】
特定の実施の形態において、放射制御コーティング7は、厚さが約500Å〜約3,000Åである酸化インジウムスズを含む透明導電膜20(または別のスズ含有膜)と、厚さが約200Å〜約900Åである窒化ケイ素(または酸窒化ケイ素)を含む酸素遮断膜100とを有する(または本質的にそれらから成る)。例えば、透明導電膜20は、厚さ約1,100Å〜約1,500Åの酸化インジウムスズを任意に含んでいてもよく、酸素遮断膜100は、厚さ約400Å〜約750Åの窒化ケイ素を任意に含んでいてもよい(または本質的に窒化ケイ素から成っていてもよい)。この窒化ケイ素または酸窒化ケイ素はアルミニウムを含んでいてもよい。
【0026】
下記の表1は、放射制御コーティング7として好都合に使用され得る4つの典型的な積層膜を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
場合によっては、図3に示すように、光触媒性および/または親水性のコーティング70を、放射制御コーティング7の上に設ける。適切なコーティングは、米国特許第7,294,404号、第7,713,632号、第7,604,865号、第7,862,910号、第7,820,309号および第7,820,296号明細書、並びに米国特許出願公開第11/129,820号および第11/293,032号明細書に記載されており、それぞれの重要な内容は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0029】
特定の実施の形態において、放射制御コーティング7は、IGユニットの室内ガラス板の#4の表面、#6の表面または別の外側面上にある。この表面上に放射制御コーティングを設けることにより、この室内ガラス板の温度を低下させる場合もある。そのような場合、光触媒性および/または親水性のコーティング70を放射制御コーティング7上に設けることにより、室内側の表面に生じ得る結露は、より一層シート状になりやすく蒸発しやすくなり得る。本明細書に記載のどの実施の形態も、任意に光触媒性および/または親水性のコーティング70を放射制御コーティング7上に備え得る。
【0030】
よって、特定の実施の形態は、基板から外側に向かって(必ずしも連続している必要はないが)順に下記膜を有する被覆基板(例えば、ガラス板)を提供する:酸化スズを含む導電性スパッタ膜/窒化ケイ素(若しくは別の窒化物、または酸窒化物)を含むスパッタ膜/チタニアを含むスパッタ膜。ここで、チタニアを含む膜は、例えば、TiO2膜または酸化チタンおよび酸化タングステンの双方を含む膜であり得る。チタニアを含む膜が設けられている場合、その物理的な厚さは、100Å未満、75Å未満または更に50Å未満であり得る。1つの実施の形態においては、25〜40ÅのTiO2が使用される。別の実施の形態においては、厚さ50〜80Å、例えば、約70Åといった、TiO:WO膜(任意に約2.5%のWを有する)が使用される。これらの実施の形態において、前記チタニアを含む膜は、直接、(例えば、チタニアを含む膜と酸素遮断膜とが直接接触しているように)放射制御コーティング7の上にあってもよく、および/または、前記チタニアを含む膜は、最も外側の(すなわち、曝された)膜であってもよい。
【0031】
「第1」(すなわち、「#1」)の表面は、屋外環境に曝されている。従って、太陽からの放射が最初に当たるのは、#1の表面である。室外ガラス板の外側面は、いわゆる第1の表面である。#1の表面から建物の内部に向かって、次の表面が、「第2」(すなわち、「#2」)の表面である。よって、室外ガラス板の内側面が、いわゆる第2の表面である。更に建物の内部に向かって、次の表面は、「第3」(すなわち、「#3」)の表面であり、その次が「第4」(すなわち、「#4」)の表面である。この約束ごとは、4つより多くのガラス板主表面を有するIGユニットにも継続して使用されている。
【0032】
たとえば、1つの特定のグループの実施の形態では、三重ガラス(つまり、3枚のガラス板を有する断熱ガラスユニット)を提供し、本発明に係るコーティングは、このガラスの#6の表面に設けられる。ここでも、#1および/または#2の表面は、本明細書に記載の任意のコーティングを有し得る。
【0033】
特定の実施の形態において、基板10’は、成膜前、成膜中またはその両方において加熱される。更に、または、代わりに、被覆基板10’を被覆後に熱処理することができる。所望であれば、成膜後の熱処理は、酸素遮断膜100の存在により空気中で行うこともできる。被覆基板10’が熱処理されると、膜の欠陥が修復され、透明導電膜20の化学的性質に制御不能な変化を生じさせることなく、透明導電膜20の結晶構造が改善され得る。本明細書において説明する好ましい酸素遮断膜100は、熱処理中の化学的性質の制御不能な変化および酸素の透明導電膜20との接触を防ぐことができることが分かっている。上述した好ましい膜材料および厚さは、特にこの点に関して有利である。
【0034】
特定の実施の形態において、コーティング7がガラス板上にあり、この被覆ガラス板は、被覆ガラスが、熱処理後であっても通常のガラス切断技術により容易に切断できるように選択されたプロセスを通して熱処理される。これは、例えば、熱処理後であっても切断可能な状態のままであるようにガラスの応力(ストレス)を維持するよう、変換の際(for conversion)低温を採用することを含み得る。
【0035】
図4〜図7を参照し、基板10’は、任意に、断熱ガラスユニット110の一部である透明ガラス板で有り得る。一般に、断熱ガラスユニット110は、室外側ガラス板10および少なくとも1つのガラス板間の空間800によって分離された室内側ガラス板10’を有する。スペーサー900(任意に、サッシの一部であってもよい)は、一般に、ガラス板10および10’を分離するために設けられる。スペーサー900は、接着剤またはシール剤700を用いて各ガラス板の内側面に固定し得る。場合によっては、端部シーラント600も設けられる。図示した実施の形態において、室外側ガラス板10は、外側面12(#1の表面)と内側面14(#2の表面)とを有する。室内側ガラス板10’は、内側面16(#3の表面)と、場合によっては、外側面18(#4の表面)を有する。いくつかの実施の形態において、前記断熱ガラスユニットは、少なくとも3枚のガラス板を含む。このユニットは、任意に、室外側ガラス板10の外側面12が屋外環境77に曝され、室内側ガラス板10’の外側面18が室内側屋内環境に曝されるように、フレーム(例えば、窓枠)に取り付けてもよい。前記ユニットの各内側面は、このユニットのガラス板間の空間800に曝されている。いくつかの実施の形態においては、前記ユニットは、真空IGユニットである。
【0036】
IGユニット110は、本開示事項に記載の任意の実施の形態に係る放射制御コーティング7を含む。図4の実施の形態において、ガラス板10’の外側面18は、放射制御コーティング7を備えている。ここで、放射制御コーティング7は、家屋または他の建物の内部の環境(例えば、温度の制御された居住空間)に曝される。
【0037】
IGユニット110は更に、1つ以上の親水性および/または光触媒性のコーティング70を備えていてもよい。図5の実施の形態(図3に関して上述した)において、IGユニットは、表面18上の放射制御コーティング7の上側に親水性および/または光触媒性のコーティング70を有し、コーティング70が家屋または他の建物の内部の環境(例えば、温度の制御された居住空間)に曝されるようになっている。図6の実施の形態において、親水性および/または光触媒性のコーティング70は、ガラス板10の外側面12上に設けられているため、コーティング70は(雨と定期的に接触するように)屋外環境77に曝される。他の実施の形態においては、表面12上に、#1の表面上の結露を減少させるためコーティング70の下側に別の放射制御コーティングがある。所望であれば、前記IGユニットは、2つの親水性および/または光触媒性のコーティング、例えば、ガラス板10の外側面12上に1つのそのようなコーティング70と、ガラス板10’の外側面18上の放射制御コーティング7の上側に別のそのようなコーティング70を含み得る。
【0038】
いくつかの実施の形態においては、IGユニット上に2つの親水性および/または光触媒性のコーティングがある。例えば、かかるコーティングは、室外ガラス板の外側面上と室内ガラス板の外側面上とに有ってもよい。この種のいくつかの実施の形態において、これらの2つのコーティングは異なるものである。例えば、室外ガラス板の外側面上のコーティングは、任意に光触媒性コーティングであってもよく、一方、室内ガラス板の外側面上のコーティングは、任意に、シリカのような非光触媒性親水性コーティングであってもよい。他の実施の形態においては、室外ガラス板の外側面および室内ガラス板の外側面はいずれも、光触媒性コーティングを有するが、それらは(例えば、厚さまたは組成の点において)異なるものである。例えば、室内ガラス板の外側面上の光触媒性コーティングは、室内照明による活性化に適したものであり得るが、室外ガラス板の外側面上の光触媒性コーティングは、活性化に直射日光を必要とする場合もある。従って、室内光触媒性コーティングは、室外光触媒性コーティングより高レベルの光活性を有する場合もある(例えば、厚さがより厚い、またはより高光活性の組成を有する場合もある)。
【0039】
IGユニット110は、1つ以上の低放射率コーティング80を含み得る。図7の実施の形態において、IGユニットは、ガラス板10の内側面14上に低放射率コーティング80を有する。また、所望であれば、低放射率コーティング80は、ガラス板10’の内側面16上にあってもよい。いくつかの実施の形態においては、コーティング80は、3つ以上の赤外線反射層(例えば、銀含有層)を有する。3つ以上の赤外線反射層を備えた低放射率コーティングは、米国特許第7,572,511号、第7,572,510号、第7,572,509号、第7,342,716号および7,339,728号明細書並びに米国特許出願公開第11/546,152号および第11/545,211号明細書に記載されており、それぞれの重要な内容は引用することにより本明細書の一部とされる。他の場合には、前記低放射率コーティングは、「銀一層(single silver)」または「銀二層(double silver)」低放射率コーティングであってもよく、これらは当業者には周知のものである。
【0040】
従って、本発明に係るコーティング7は、以下のIGユニットの1つ以上の表面に塗布され得る:#1の表面、#4の表面(二重ガラスの場合)および#6の表面(三重ガラスの場合)。#1の表面上に塗布された場合、ガラス板は暖かく保たれ結露が少ない。#4または#6の表面上に塗布された場合、前記室内ガラス板は、冷たさを保ちエネルギー節約になるが、結露する場合がある。このような場合、起こり得るあらゆる結露の迅速な蒸発を促進するよう、親水性および/または光触媒性のコーティングを、コーティング7上に設けてもよい。本発明に係るコーティング7は、単板のガラスまたは合わせガラスに有用でもあり得る。
【0041】
本発明に係る放射制御コーティング7は、多くの有用な特性を備えている。以下、これらの特性のいくつかについて説明する。いくつかの場合において、1つの表面18上に本発明に係るコーティング7を備えた単体(すなわち、単板の)ガラス板10’(「当該ガラス板」)に関する特性をここでは説明する。別の場合において、これらの特性は、#4の表面18上の放射制御コーティング7と#2の表面上の銀三層(triple silver)低放射率コーティングとを有する二重ガラス板IGユニット110に関して説明する。銀三層低放射率コーティングは、カーディナル・シージー・カンパニー(Cardinal CG Company)の製品366として商業上知られている。これらの場合、説明されている特性は、IGユニットに関するものであり、いずれのガラス板も2.2mmの透明なソーダ石灰フロートガラスであり、ガラス板間の1/2インチの空間にアルゴン90%と空気10%の断熱混合ガスが充填されている(「当該IGユニット」)。当然ながら、これらの詳細は、決して本発明を限定するものではない。これと異なる明確な記述がない限り、本明細書における記述は、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)の規格条件下で周知のWINDOW5.2aのコンピュータープログラムを用いて(例えば、ガラスデータ中心を算出して)行われた測定について説明する。
【0042】
既に説明したように、放射制御コーティング7は、透明導電膜、例えば、酸化インジウムスズといった透明導電性酸化物を含む。この膜は、導電性であり、コーティングのシート抵抗を低くする。例えば、当該コーティング7のシート抵抗は、25Ω/スクエア未満または20Ω/スクエア未満である。好ましくは、このコーティング7のシート抵抗は、18Ω/スクエア未満(例えば、15Ω/スクエア未満、14Ω/スクエア未満、または更に13Ω/スクエア未満)である。前記コーティングのシート抵抗は、4点プローブを用いて標準的な方法で測定可能である。シート抵抗の算出に有用である、当技術分野において公知となっている他の方法も使用可能である。
【0043】
コーティング7も低放射率を有する。例えば、コーティング7の放射率は、0.5未満または0.3未満である。好ましくは、このコーティング7の放射率は、0.25未満、0.22未満、0.2未満、また更には0.18未満であり、例えば、約0.15である。これに対し、透明ガラスから成る非被覆ガラス板の典型的な放射率は、約0.84である。
【0044】
「放射率」という用語は、当該技術分野において周知となっている。本明細書において、この用語は、周知の意味に則して使用し、同一温度で、黒体が発する放射に対し、ある表面が発する放射の比のことを言う。放射率は、吸収と反射の双方の指標である。通常、式「E=1−反射率」で表される。本発明に係る放射率の値は、「分光測定を用いた鏡面反射体の放射率に関する標準試験方法(Standard Test Method For Emittance Of Specular Surfaces Using Spectrometric Measurements)」NFRC301−93の規定に従って測定可能であり、その全教示事項は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0045】
低シート抵抗および低放射率に加え、当該IGユニットのU値も非常に低い。周知のごとく、IGユニットのU値は、そのユニットの断熱性の測定値である。U値が小さいほどユニットの断熱性は良好である。当該IGユニットのU値は、0.35未満(つまり、ガラス中央のU値)、0.3未満、0.25未満、0.22未満であり、例えば、約0.2である。
【0046】
U値という用語は、当該技術分野において周知となっている。本明細書において、この用語は、周知の意味に則して使用し、前記IGユニットの高温側と低温側との間の各単位温度差に対する1単位時間に1単位面積を通過する熱量を示す。U値は、NFRC100−91(1991)において冬季U値(Uwinter)に関して規定された標準に従って測定可能であり、その全教示事項は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0047】
時として、低U値コーティングにおいて、トレードオフがなされ、低U値を得るために選択された膜は、可視透過率が所望のレベルより低くなり、および/または、可視反射率が理想的なレベルより高くなるといった影響を及ぼす。結果として、これらのコーティングを備えた窓は、許容できない程低い可視透過率、やや鏡様の外観および/または最適とは言えない色特性を有する場合もある。
【0048】
上述の有用な特性との組み合わせで、本発明に係るコーティング7は良好な光学特性を有する。上述のように、時として低U値コーティングにおいてトレードオフがなされ、低U値を得るために選択された膜は、可視透過率を理想より低いレベルに抑制するといった影響を及ぼす。
【0049】
これに対して、本発明に係るコーティング7では、これらの特性の良好な組み合わせが得られる。例えば、当該IGユニット110(および単板のまたはIGユニット110の一部としての当該ガラス板10’)の可視透過率Tvは、0.4を超える(すなわち、40%を超える)。好ましくは、当該IGユニット110(および単板のまたは断熱された当該ガラス板10’)の可視透過率Tvは、本出願者が市販するLoE179コーティングのような銀一層コーティングにより銀三層を置き換えた場合、0.5を超える(例えば、0.6を超える)かまたは0.7を超える。所望のレベルの可視透過率を選択および変化させ様々な用途に適用することが可能であり、特定の好ましい実施の形態(例えば、コーティング7が、本明細書において表で示す例示的な積層膜の1層である)は、単板での可視透過率が80%を超える、82%を超えるまたは83%を超える(または更に、場合によっては85%を超える)被覆ガラス板10’を提供する。
【0050】
「可視透過率」という用語は、当該技術分野において周知となっており、本明細書においてその周知の意味に則して使用する。可視透過率は、可視反射率と同様に、NFRC300「 ガラス材料の太陽および赤外線光学特性並びにシステムの退色度を測定するための標準試験方法(Standard Test Method for Determining the Solar and Infrared Optical Properties of Glazing Materials and Fading Resistance of Systems)」(ナショナル・フェネストレーション・レーティング・カウンシル・インコーポレーティッド(National Fenestration Rating Council Incorporated)、2001年12月採用、2002年1月発行)に従って求めることができる。これらおよびその他説明する光学特性を算出する際には、周知のWINDOW5.2aコンピュータープログラムが使用可能である。
【0051】
本発明に係るコーティング7では、優れた断熱性と共に所望の反射色特性が得られる。特定の実施の形態において(例えば、前記コーティングが、下記表に示すかまたは説明する例示的な積層膜の1つである)、当該コーティング7で被覆された単板のガラス板は、色座標aが−2〜−10(例えば、−4〜−8、例えば、−6.16)であり、色座標bが−1〜−14(例えば、−5〜−12、例えば、−8.83)であることを特徴とする膜側の反射色を呈す。更に、当該コーティング7で被覆された単板のガラス板は、色座標aが−2〜−10(例えば、−4〜−8、例えば、−6.23)であり、色座標bが−1〜−14(例えば、−5〜−12、例えば、−8.95)であることを特徴とするガラス側の反射色を呈し得る。単なる一例として、コーティング7が1350Åの酸化インジウムスズ/460Åの窒化ケイ素である場合、単板の膜側の反射色は、色座標aが約−6.16、色座標bが約−8.83であり、単板のガラス側の反射色は、色座標aが約−6.23、色座標bが約−8.95である。
【0052】
当該ガラス板も、心地のよい透過色を呈する。好ましくは、前記の被覆ガラス板は、色座標aが−4〜8であり、色座標bが約−4〜約10であることを特徴とする単板の透過色を呈する。特定の好ましい実施の形態において(例えば、前記コーティングが、下記表に示すかまたは説明する好ましい積層膜である)、当該ガラス板は、色座標aが−1〜5(例えば、1.66)、色座標bが約0〜約7(例えば、3.46)であることを特徴とする透過色を呈する。
【0053】
色特性に関する当該記述は、周知の色座標「a」および「b」を用いて説明する。特に、これらの色座標は、周知のハンターLab表色系(Hunter Lab Color System)(ハンター法/ユニット、光源D65、10度視野(Hunter methods/units、Ill. D65、10 degree observer))を従来通り使用したものである。当該色特性は、ASTM Method E308の規定に従って測定可能であり、その関連教示事項は引用することにより本明細書の一部とされる。
【0054】
特定の実施の形態において、前述の色特性は、上述したシート抵抗、放射率、U値および可視透過性との組み合わせで付与される。例えば、下記表は、特定の実施の形態に係る好ましい特性の組み合わせを示す(表に示されたこれらの特性は、熱処理後のものである)。
【0055】
【表2】

【0056】
本発明はまた、本発明に係る放射制御コーティング7の製造方法もいくつか提供する。好ましい実施の形態において、膜は、スパッタリングにより成膜する。スパッタリングは、当技術分野において周知となっている。
【0057】
好ましくは、前記放射制御コーティングは、表面粗さが特に小さい。例えば、コーティング7は、好ましくは、表面粗さRaが10nm未満、5nm未満、3nm未満、2.5nm未満、2.2nm未満、または更には2.0nm未満であり、例えば、約1.9nmである。成膜法および条件は、好ましくは、前記コーティングがかかる粗さを有するように選択する。あるいは、前記コーティングは、成膜後、研磨することによりその表面粗さを低減させてもよい。しかしながら、好ましくは、前記コーティングは、いかなる研磨なども必要とすることなく、好ましい表面粗さを呈す(例えば、成膜したそのままの状態で)。
【0058】
表面粗さは、平均表面レベルからの偏差により定義される。表面粗さRaは、算術平均表面粗さである。これは、平均表面レベルからの絶対偏差の相加平均である。コーティングの算術平均表面粗さは、通常、
【数1】

【0059】
で表される。表面粗さRaは、従来の方法、例えば、Raを提供する従来のソフトを備えた原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定可能である。
【0060】
いくつかの実施の形態においては、透明導電膜および酸素制御膜に加え、コーティング7は、被覆物品の色を制御する1つ以上の層を備えている。放射率が許容可能であり高価なターゲット材を用いて得られる場合には、更なる光学膜厚は、より安価な材料により得ることもできる。更に、幾つかの実施の形態は、硬質の保護膜または「乾式」潤滑のための層を使用することなどにより、耐久性を向上させるためのトップコートを提供する。
【0061】
本発明は、例えば、被覆ガラス板など、被覆基板の製造方法を含む。当該方法に従って、表面18を有する基板12が提供される。所望であれば、この表面18は、適切な洗浄または化学的処理により作製し得る。本発明に係るコーティング7は、例えば、一連の個別の層として、徐々に厚さを変化させた膜として、または、少なくとも1層の個別の層と少なくとも1つの徐々に厚さを変化させた膜とを含む組み合わせとして基板12の表面18上に成膜する。このコーティングは、所望の低ヘイズおよび粗さレベルで、所望の膜材料を成膜するのに適した任意の薄膜成膜技術を用いて成膜することができる。従って、本発明は、方法の実施の形態も含み、任意の1つ以上の適した薄膜成膜技術を用いて、本明細書に開示した任意の実施の形態の膜領域が、基板(例えば、一枚のガラスまたはプラスチック)上に順次成膜される。1つの好ましい方法では、直流マグネトロンスパッタリングを使用し、これは、産業界において一般に使用されている。チェーピンの(Chapin’s)米国特許第4,166,018号明細書を参照し、その開示事項は、引用することにより本明細書の一部とされる。好ましい実施の形態において、本発明に係るコーティングは、一対の陰極からACまたはパルスDCによりスパッタリングする。HiPIMSおよび他の現代のスパッタリング方法も同様に使用できる。
【0062】
簡単に言うと、マグネトロンスパッタリングは、コーティングを形成する様々な膜領域が順次塗布される一連の低圧ゾーン(または「チャンバー」若しくは「ベイ」)を通過し基板を運搬することを含む。酸化膜を成膜するため、ターゲットは、酸化物自体(例えば、酸化インジウムスズ)から形成されていてもよく、スパッタリングは不活性または酸化性雰囲気中で行ってもよい。あるいはまた、前記酸化膜は、反応性雰囲気において、1つ以上の金属ターゲット(例えば、金属インジウムスズのスパッタリング材)をスパッタリングすることにより塗布することができる。酸化インジウムスズを成膜するため、例えば、セラミック酸化インジウムスズターゲットを、不活性または酸化性雰囲気中でスパッタリングすることができる。窒化ケイ素は、窒素ガス含有反応性雰囲気中で1つ以上のケイ素ターゲット(伝導性を向上させるためアルミニウム等でドープしてもよい)をスパッタリングすることにより成膜することができる。成膜した膜の厚さは、基板の速度を変化させることにより、ターゲットに対するパワーを変化させることにより、または、反応性ガスの分圧に対するパワーの比を変化させることにより制御することができる。
【0063】
以下は、本発明に係るコーティング7をガラス基板上に被覆するいくつかの代表的な方法である。
【0064】
一方法においては、非被覆ガラス基板が、約36インチ/分の速度で活性化ターゲットを通過し運搬されるにつれて、一対の回転可能なセラミック酸化インジウムスズのターゲットをスパッタリングする。この実施例において、前記二つの金属の相対的な重量は:インジウム90%、スズ10%であった。ここで、使用したパワーは16kWであり、スパッタリング雰囲気は、5ミリトルであり、アルゴン900sccm/分および酸素10sccm/分の気体流を有していた。得られた酸化インジウムスズ膜の厚さは、約1,100Åであった。このITO膜のすぐ上に窒化ケイ素膜を塗布した。ここでは、約36インチ/分でガラス板を運搬し、920sccm/分の窒素の気体流を有する5ミリトルの雰囲気中、31.2kWのパワーでスパッタリングした一対の回転シリコンアルミニウムターゲット(83重量%のSi、17重量%のAl)を通過させることにより、窒化ケイ素を厚さ約560Åで塗布した。その後、被覆基板は、空気中、最高温度約690℃で15分間熱処理した。以下の特性に関して熱処理前後に測定した。
【0065】
【表3】

【0066】
別の方法において、非被覆ガラス基板が、約75インチ/分の速度で3組のかかる活性化ターゲットを順に通過し運搬されるにつれて、回転可能なセラミック酸化インジウムスズのターゲットをスパッタリングする。この実施例において、前記二つの金属の相対的な重量は:インジウム90%、スズ10%であった。ここで、第1の一対の回転ターゲットに使用したパワーは25.8kWであり、第2の一対の回転ターゲットに使用したパワーは25.5kWであり、第3の一対の回転ターゲットに使用したパワーは26.6kWであった。スパッタリング雰囲気は、5ミリトルであり、アルゴン900sccm/分および酸素10sccm/分の気体流を有していた。得られた酸化インジウムスズ膜の厚さは、約1,250Åであった。このITO膜のすぐ上に窒化ケイ素膜を塗布した。ここでは、約75インチ/分でガラス板を運搬し、1,520sccm/分の窒素の気体流を有する5ミリトルの雰囲気中、それぞれ、41.7kW、42.8kWおよび41.2kWのパワーでスパッタリングした3組の回転シリコンアルミニウムターゲット(83重量%のSi、17重量%のAl)を順に通過させることにより、窒化ケイ素を厚さ約560Åで塗布した。その後、被覆基板は、空気中、最高温度約690℃で15分間熱処理した。以下の特性に関して熱処理前後に測定した。
【0067】
【表4】

【0068】
更に別の方法において、非被覆ガラス基板が、約75インチ/分の速度で3組のかかる活性化ターゲットを順に通過し運搬されるにつれて、回転可能なセラミック酸化インジウムスズのターゲットをスパッタリングする。この実施例において、前記二つの金属の相対的な重量は:インジウム90%、スズ10%であった。ここで、第1の一対の回転ターゲットに使用したパワーは5.3kWであり、第2の一対の回転ターゲットに使用したパワーは25.6kWであり、第3の一対の回転ターゲットに使用したパワーは27.8kWであった。スパッタリング雰囲気は、5ミリトルであり、アルゴン937sccm/分および酸素18sccm/分の気体流を有していた。得られた酸化インジウムスズ膜の厚さは、約1,250Åであった。このITO膜のすぐ上に窒化ケイ素膜を塗布した。ここでは、約75インチ/分でガラス板を運搬し、1,190sccm/分の窒素の気体流を有する5ミリトルの雰囲気中、それぞれ、41.4kW、42.4kWおよび42.4kWのパワーでスパッタリングした3組の回転シリコンアルミニウムターゲット(83重量%のSi、17重量%のAl)を順に通過させることにより、窒化ケイ素を厚さ約560Åで塗布した。その後、被覆基板は、空気中、最高温度約690℃で15分間熱処理した。以下の特性に関して熱処理前後に測定した。
【0069】
【表5】

【0070】
更に別の方法において、非被覆ガラス基板が、約60インチ/分の速度で活性化ターゲットを通過し運搬されるにつれて、一対の回転可能な金属インジウムスズのターゲットをスパッタリングする。この実施例において、前記二つの金属の相対的な重量は:インジウム90%、スズ10%であった。ここで、一対の回転ターゲットに使用したパワーは16kWであった。スパッタリング雰囲気は、5ミリトルであり、アルゴン601sccm/分および酸素100sccm/分の気体流を有していた。得られた酸化インジウムスズ膜の厚さは、約1,240Åであった。このITO膜のすぐ上に窒化ケイ素膜を塗布した。ここでは、約60インチ/分でガラス板を運搬し、900sccm/分の窒素の気体流を有する5ミリトルの雰囲気中、31.2kWでスパッタリングした一対の回転シリコンアルミニウムターゲット(83重量%のSi、17重量%のAl)を順に通過させることにより、窒化ケイ素を厚さ約560Åで塗布した。その後、被覆基板は、空気中、最高温度約690℃で15分間熱処理した。以下の特性に関して熱処理前後に測定した。
【0071】
【表6】

【0072】
更なる方法において、非被覆ガラス基板が、約60インチ/分の速度で活性化ターゲットを通過し運搬されるにつれて、一対の回転可能な金属インジウムスズターゲットをスパッタリングする。この実施例において、前記二つの金属の相対的な重量は:インジウム90%、スズ10%であった。ここで、一対の回転ターゲットに使用したパワーは16kWであった。スパッタリング雰囲気は、5ミリトルであり、アルゴン601sccm/分および酸素100sccm/分の気体流を有していた。得られた酸化インジウムスズ膜の厚さは、約1,240Åであった。このITO膜のすぐ上に窒化ケイ素膜を塗布した。ここでは、約60インチ/分でガラス板を運搬し、450sccm/分のアルゴンおよび451sccm/分の窒素の気体流を有する5ミリトルの雰囲気中、38.6kWでスパッタリングした一対の回転シリコンアルミニウムターゲット(83重量%のSi、17重量%のAl)を順に通過させることにより、窒化ケイ素を厚さ約600Åで塗布した。その後、被覆基板は、空気中、最高温度約690℃で15分間熱処理した。以下の特性に関して熱処理前後に測定した。
【0073】
【表7】

【0074】
上記のサンプルに関し、被覆ガラスの表面粗さは約1.9nmであり、ヘイズは約0.08である。
【0075】
上記実施例は、被覆基板が、熱処理(任意に、熱処理されたガラスを、通常のガラス切断により容易に切断できる応力の状態に保つ温度で)による+5%以上、好ましくは、+7%以上、そして、場合によっては、+8%以上の可視透過率の変化(ΔTvis)を示す実施の形態を示すものである。更に、または、或いは、これらの実施の形態は、20オーム/スクエア以上、場合によっては30オーム/スクエア以上、場合によっては40オーム/スクエア以上、また、場合によっては更に50オーム/スクエア以上のシート抵抗の低下を示し得る。上述した実施例におけるように、これは、加熱後の80%を超える単板での可視透過率、20オーム/スクエア未満である加熱後のシート抵抗、またはその両方との組み合わせで可能である。
【0076】
前述の実施例で採用した熱処理では、強化生産ラインから得られる結果と一致するように設定されるが小さいサンプルの使用を可能にする実験炉を必要とする。実験炉の仕様は以下の通りである:
炉の全長=2160mm
搬入搬出端部は各600mm
ゾーン数=6(各ゾーンの長さは、360mm)
ベルト速度=300mm/分
温度
ゾーン1=540℃
ゾーン2=690℃
ゾーン3=655℃
ゾーン4=610℃
ゾーン5=570℃
ゾーン6=520℃
【0077】
これらの詳細は、決して本発明を限定するものではないことは言うまでもない。例えば、前記被覆基板は、また、従来の強化生産ライン上で熱処理することも可能である。強化処理の際、約680〜705℃に維持された(好ましくは、690〜700℃に制御された)炉内にガラスを配置する。ガラスは、一般に、製品の温度がより確実に均一であるように継続的に移動させながら100〜120秒間炉内で保持する。これは、ガラスの温度を約640℃まで上昇させることを目的としている。その後、ガラスを炉から取り出し、オペレーターがガラスに触れられる程度まで十分に冷えるように約50秒間空気流中に置く。更に、既に説明した通り、基板はまた、成膜前、成膜中またはその両方において加熱し得る。
【0078】
本発明のいくつかの好ましい実施の形態を説明したが、本発明の精神および添付クレームの範囲を逸脱することなく、それらに様々な変更、修正および改良を施しても良いことは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2のガラス板を含む複層断熱ガラスユニットの一部であり、対向した第1および第2の主表面を有する第1のガラス板であって、前記断熱ガラスユニットは、少なくとも1つのガラス板間の空間を有し、前記第2のガラス板は、酸素遮断膜が上側に設けられた透明導電膜を含む放射制御コーティングを備えた外側面を有し、前記放射制御コーティングは、ヘイズが0.3未満且つ粗さRaが3nm未満であり、前記被覆ガラス板の単板での可視透過率が75%を超える、第1のガラス板。
【請求項2】
前記酸素遮断膜が窒化物膜を含む、請求項1に記載のガラス板。
【請求項3】
前記透明導電膜が酸化インジウムスズを含み、前記表面粗さRaが2nm未満である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項4】
前記放射制御コーティングが熱処理コーティングであり、前記ヘイズが0.2未満である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項5】
前記単板での可視透過率が80%を超える、請求項1に記載のガラス板。
【請求項6】
前記酸素遮断膜が窒化ケイ素を含む、請求項1に記載のガラス板。
【請求項7】
前記透明導電膜の厚さが約500オングストローム〜3,000オングストロームである、請求項1に記載のガラス板。
【請求項8】
前記透明導電膜の厚さが1,500オングストローム未満である、請求項1に記載のガラス板。
【請求項9】
前記酸素遮断膜の厚さが約300オングストローム〜約800オングストロームである、請求項1に記載のガラス板。
【請求項10】
前記第1のガラス板が、銀を含む少なくとも1枚の膜を有する低放射率コーティングを備えた内側面を有し、前記低放射率コーティングが、前記断熱ガラスユニットのガラス板間の空間に曝されている、請求項1に記載のガラス板。
【請求項11】
前記断熱ガラスユニットのU値が0.2未満である、請求項10に記載のガラス板。
【請求項12】
前記第1のガラス板が、窒化物物質を含む酸素遮断膜が上側に設けられた透明導電膜を含む放射制御コーティングを備えた外側面を有する、請求項1に記載のガラス板。
【請求項13】
前記酸素遮断膜が酸窒化物を含む、請求項1に記載のガラス板。
【請求項14】
前記透明導電膜が、スパッタSnO:F、SnO:Sb、またはSnO:F若しくはSnO:Sbを含有する混合物を含む、請求項1に記載のガラス板。
【請求項15】
前記透明導電膜と前記透明導電膜の下にある前記第2のガラス板の外側面との間に、シリカ、アルミナ、酸窒化ケイ素または窒化ケイ素を含む基膜がある、請求項1に記載のガラス板。
【請求項16】
窒化ケイ素を含有する酸素遮断膜が上側に設けられた酸化インジウムスズを含有する透明導電膜を含む放射制御コーティングがその上に設けられた主表面を有する熱処理被覆ガラス板であって、酸化インジウムスズを含有する前記透明導電膜の厚さは、約500オングストローム〜約3,000オングストローム、窒化ケイ素を含有する前記酸素遮断膜の厚さは、約200オングストローム〜約900オングストローム、前記放射制御コーティングは、ヘイズが0.3未満且つ粗さRaが3nm未満であり、前記被覆ガラス板の単板での可視透過率は80%を超える、熱処理被覆ガラス板。
【請求項17】
酸化インジウムスズを含有する前記透明導電膜の厚さは、1,100オングストローム〜1,500オングストロームであり、窒化ケイ素を含有する前記酸素遮断膜の厚さが、400オングストローム〜750オングストロームである、請求項16に記載の熱処理被覆ガラス板。
【請求項18】
前記被覆ガラス板は、熱処理後であっても通常のガラス切断技術により容易に切断できるように熱処理される、請求項16に記載の熱処理被覆ガラス板。
【請求項19】
室外ガラス板および室内ガラス板を含む複層断熱ガラスユニットであって、前記断熱ガラスユニットは、少なくとも1つのガラス板間の空間を有し、前記断熱ガラスユニットは、低放射率コーティングを備えた内側面を有し、前記低放射率コーティングは、銀を含む少なくとも1枚の膜を有し、かつ、前記ガラス板間の空間に曝され、前記室内ガラス板は、窒化物物質を含む酸素遮断膜が上側に設けられた透明導電膜を含む放射制御コーティングを備えた室内側外側面を有し、前記放射制御コーティングは、ヘイズが0.3未満且つ粗さRaが3nm未満である、複層断熱ガラスユニット。
【請求項20】
前記透明導電膜が酸化インジウムスズを含有し、前記表面粗さRaが2nm未満である、請求項19に記載の断熱ガラスユニット。
【請求項21】
前記酸素遮断膜が窒化ケイ素を含有する、請求項19に記載の断熱ガラスユニット。
【請求項22】
酸化インジウムスズを含有する前記透明導電膜の厚さが、1,100オングストローム〜1,500オングストロームであり、窒化ケイ素を含有する前記酸素遮断膜の厚さが、400オングストローム〜750オングストロームである、請求項21に記載の断熱ガラスユニット。
【請求項23】
前記断熱ガラスユニットが、前記室外ガラス板の外側面が雨との周期的な接触に曝され、前記室内ガラス板の前記室内側外側面が家屋または他の建物内部の環境に曝される位置に前記断熱ガラスアセンブリを固定するフレーム部材を含む窓アセンブリの一部である、請求項19に記載の断熱ガラスユニット。
【請求項24】
第2のガラス板を含む複層断熱ガラスユニットの一部である、対向した第1および第2の主表面を有する第1のガラス板であって、前記断熱ガラスユニットは、少なくとも1つのガラス板間の空間を有し、前記第2のガラス板は、窒化物または酸窒化物を含むスパッタ酸素遮断膜が上側に設けられたスパッタ透明導電膜を含む放射制御コーティングを備えた外側面を有し、前記放射制御コーティングは、ヘイズが0.5未満且つ粗さRaが約10nm未満であり、前記被覆ガラス板の単板での可視透過率が75%を超える、第1のガラス板。
【請求項25】
前記透明導電膜がスズを含み、前記酸素遮断膜がケイ素を含み、前記放射制御コーティングのシート抵抗が13Ω/スクエア未満であり、前記ヘイズが0.1未満、前記粗さRaが約2nm未満、および前記単板での可視透過率が約81%を超える、請求項24に記載のガラス板。
【請求項26】
前記透明導電膜と前記透明導電膜の下にある前記第2のガラス板の外側面との間に、シリカ、アルミナ、酸窒化ケイ素または窒化ケイ素を含む基膜がある、請求項24に記載のガラス板。
【請求項27】
前記断熱ガラスユニットのU値が0.3未満であり、前記放射制御コーティングは、シート抵抗が20Ω/スクエア未満、放射率が0.25未満、および前記の被覆された第2のガラス板の単板での可視透過率が75%を超える、請求項24に記載のガラス板。
【請求項28】
前記断熱ガラスユニットのU値が0.22未満であり、前記放射制御コーティングは、シート抵抗が14Ω/スクエア未満であり、放射率が0.18未満であり、前記の被覆された第2のガラス板の単板での可視透過率が80%を超える、請求項24に記載のガラス板。
【請求項29】
前記の被覆された第2のガラス板が、色座標aが−2〜−10であり、色座標bが−1〜−14であることを特徴とする単板での膜側の反射色を有する、請求項27に記載のガラス板。
【請求項30】
前記の被覆された第2のガラス板は、色座標aが−4〜8であり、色座標bが約−4〜約10であることを特徴とする単板での透過色との組み合わせで、単板での可視透過率が80%を超える、請求項27に記載のガラス板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−517206(P2013−517206A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549116(P2012−549116)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【国際出願番号】PCT/US2011/021314
【国際公開番号】WO2011/088330
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】