説明

高圧ガスタンク

【課題】より簡単に成形されるインサートリングを備える高圧ガスタンクを提供することである。
【解決手段】高圧ガスタンクは、筒状のタンク本体部の内壁に沿って設けられ、樹脂で構成されるライナー部14と、ライナー部14の内径側に組み付けられる口金部20と、ライナー部14と口金部20との間の境界面25をシールするOリング24と、プレス成形したインサートリング26であって、ライナー部14に一体化成形されるインサートリング26を備え、インサートリング26は、境界面25のうちシール部材が当接する領域であるシール領域25aとインサートリング26との間のライナー部14の径方向の樹脂の厚みが、インサートリング26が設けられていないライナー部14の径方向の樹脂の厚みよりも小さくなるように折り曲げられた形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンクに係り、特に、樹脂で構成されるライナー部を備える高圧ガスタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
水素をはじめとするガスを充填する高圧ガスタンクなどにおいては、ガス気密性が高いことが望まれる。そして、この種の高圧ガスタンクにおいて、特に、タンク本体部の内壁に沿って設けられるライナー部と、このライナー部の開口部側に隣接して設けられる口金部との間をしっかりとシールすることが望まれる。
【0003】
本発明に関連する技術として、例えば、特許文献1には、Oリングの組付構造として、樹脂を射出成形してなる筒状の被組付部と、この被組付部の内周側に組み付けられる組付対象部材の組付部との間をシールする構成が開示されている。そして、被組付部の射出成形時にその内周面に周方向に沿って形成された溝部にOリングが配設されてなることが開示されている。ここでは、Oリングを径方向内方に締め付けるインサートリングが一体に設けられていることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、タンクとして、互いに隣設された一対の隣設部材と、弾性を有し、一対の隣設部材の隣設部位をシールするためのシール部材と、一対の隣設部材の隣設部位において一対の隣設部材の少なくとも一方に設けられ、当該一対の隣設部材の少なくとも一方より硬度が高くされた高硬度部とを備えた構成が開示されている。ここでは、隣接部内には、高硬度部としての円筒状のバックアップリングがインサート成形により設けられており、バックアップリングは金属製とされて、ライナーより硬度が高くされていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−303966号公報
【特許文献2】特開2005−048919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の構成によれば、Oリングを径方向内方に締め付けるインサートリングが一体に設けられているため、高いシール性を確保することができる。しかし、特許文献1には、インサートリングの成形方法や形状について具体的に記載されていない。
【0007】
上記特許文献2の構成によれば、バックアップリングを用いて高いシール性を確保することができる。しかし、特許文献2には、バックアップリングは金属製であることが記載されているだけで、バックアップリングの成形方法や形状について具体的に記載されていない。
【0008】
本発明の目的は、より簡単に成形することが可能なインサートリングを備える高圧ガスタンクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る高圧ガスタンクは、開口を有する筒状のタンク本体部の内壁に沿って設けられ、樹脂で構成されるライナー部と、タンク本体部の開口側において、ライナー部の内径側に組み付けられる口金部と、ライナー部と口金部との間の境界面をシールするシール部材と、プレス成形したインサートリングであって、ライナー部に一体化成形されるインサートリングと、を備え、インサートリングは、境界面のうちシール部材が当接する領域であるシール領域とインサートリングとの間のライナー部の径方向の樹脂の厚みが、インサートリングが設けられていないライナー部の径方向の樹脂の厚みよりも小さくなるように折り曲げられた形状を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る高圧ガスタンクにおいて、インサートリングは、ライナー部の外径側から内径側に位置するシール領域に向かって折り曲げられて突出した突出部を有することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る高圧ガスタンクにおいて、インサートリングは、外径側筒部と、内径側筒部と、外径側筒部の一方側端部と内径側筒部の一方側端部とを連結して折り曲げられた形状とする連結部と、を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成の高圧ガスタンクによれば、高シール性を確保するインサートリングがプレス成形により構成されている。これにより、インサートリングをより簡単に成形することができる。
【0013】
また、上記構成の高圧ガスタンクによれば、インサートリングは、境界面のうちシール部材が当接する領域であるシール領域とインサートリングとの間のライナー部の径方向の樹脂の厚みが、インサートリングが設けられていないライナー部の径方向の樹脂の厚みよりも小さくなるように折り曲げられた形状を有している。これにより、シール部材によってシールされる際に加わる力によってライナー部が変形する絶対量を少なくすることができる。したがって、ライナー部と口金部との間をしっかりとシールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態において、高圧ガスタンクの開口部付近の断面図である。
【図2】図1における点線A部分の拡大図である。
【図3】本発明の実施の形態の変形例において、図1における点線A部分に相当する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。また、以下では高圧ガスタンクに充填されるガスは水素ガスであるとして説明するが、水素ガスに限定されず、その他の高圧のガスであってもよい。
【0016】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0017】
図1は、高圧ガスタンク10の開口部28付近の断面図である。図2は、図1における点線A部分の拡大図である。高圧ガスタンク10は、タンク本体部12と、ライナー部14と、緩衝材18と、口金部20と、バルブ22と、Oリング24と、インサートリング26とを含んで構成される。高圧ガスタンク10は、水素ガスをある程度の高圧状態で充填するためのタンクである。
【0018】
タンク本体部12は、先端部分に開口部28を有する筒形状を有し、ある程度の強度を有する材料、例えば、FRP(繊維強化プラスチック)により構成される。
【0019】
ライナー部14は、タンク本体部12の内壁に沿って設けられ、樹脂(例えばPA(ポリアミド))により構成される。そして、ライナー部14とタンク本体部12は、ほぼ一体として形成されており、開口部28側では口金部20を組み付けるため、図1に示されるように二又に分かれた状態としている。
【0020】
緩衝材18は、タンク本体部12の外径側のうち、開口部28側に取り付けられる緩衝部材である。
【0021】
口金部20は、ライナー部14の内径側に組み付けられる部材である。そして、口金部20は、ライナー部14の隣接部材として、適当な強度を有する材料(例えばステンレス)により構成される。また、口金部20には、ライナー部14との境界部分において、Oリング24を配置するための溝部20aが形成されている。
【0022】
バルブ22は、口金部20に螺合して締結される。また、バルブ22には、排出孔(図示しない)が形成されており、排出孔は、高圧ガスタンク10内と高圧ガスタンク10外とを連通すると共に、開閉可能にされている。そして、バルブ22の排出孔は、通常は閉鎖されており、排出孔が開放されることで、高圧ガスタンク10内の水素ガスが排出孔を介して高圧ガスタンク10外へと排出される。
【0023】
Oリング24は、口金部20に設けられた溝部20aに配置され、ゴム(例えば、ニトリルゴム)により構成される弾性部材である。また、Oリング24が口金部20の溝部20aの底面とライナー部14の内径側面との間で弾性変形された状態で挟持されることで、ライナー部14と口金部20との間がシールされている。これにより、高圧ガスタンク10内に充填されている水素ガスがライナー部14と口金部20との間から漏洩することが防止される。
【0024】
インサートリング26は、適当な強度を有する材料(例えば、ライナー部14の樹脂よりも硬度の高いステンレス)をプレス成形し、その外形が略筒状を有する部材である。そして、図2に示されるように、インサートリング26の断面形状は、ライナー部14と口金部20との境界面25のうち、Oリング24が当接するシール領域25aに向かって(つまり、ライナー部14の外径側からシール領域25aに向かって)突出する突出部26aを有する略凸形状(換言すれば、突出部26aと窪み部20bとが形成されるような折り曲げ形状)である。そして、図2に示されるように、インサートリング26の突出部26aとシール領域25aとの間のライナー部14の径方向の樹脂の厚みTaは、インサートリング26が設けられていないライナー部14の径方向の樹脂の厚みTbよりも小さい。なお、インサートリング26は、ライナー部14と一体化されるようにライナー部14にインサート成形されるため、窪み部20bにも樹脂が充填される。
【0025】
上記構成の高圧ガスタンク10の作用について図1,2を用いて説明する。高圧ガスタンク10において、Oリング24が口金部20の溝部20aに配置されているため、口金部20の溝部20aの底面とライナー部14の内径側面との間で弾性変形された状態で挟持されることで、ライナー部14と口金部20との間がシールされる。
【0026】
ここで、インサートリング26の突出部26aとシール領域25aとの間のライナー部14の径方向の樹脂の厚みTaは、インサートリング26が設けられていないライナー部14の径方向の樹脂の厚みTbよりも小さく、さらに、シール領域25aよりも外径側にはライナー部14の樹脂より硬度の高いインサートリング26が設けられている。これにより、Oリング24によるライナー部14の変形の絶対量を小さくすることができるため、Oリング24を十分に圧縮させることができ、ライナー部14と口金部20との間をしっかりとシールすることができる。そして、図2に示されるように、インサートリング26の窪み部20bには樹脂が充填されているため、インサートリング26が矢印B方向に抜け落ちてしまうことを防止することができる。
【0027】
このように、高圧ガスタンク10によれば、インサートリング26がプレス成形されているため、より簡単に成形することができる。これにより、低コスト、軽量化の実現を可能とする。また、上記のようにインサートリング26は突出部26aを有し、硬度の高い材料で構成されているため、Oリング24によるシール性を向上させることができる。
【0028】
次に、高圧ガスタンク10の変形例について説明する。高圧ガスタンク10の変形例と高圧ガスタンク10との相違は、インサートリング27だけであるため、インサートリング27を中心に説明する。
【0029】
図3は、高圧ガスタンク10の変形例において図1の点線Aに相当する拡大図である。インサートリング27は、適当な強度を有する材料(例えば、ライナー部14の樹脂よりも硬度の高いステンレス)をプレス成形し、その外形が略筒状を有する部材である。インサートリング27は、外径側筒部27aと、内径側筒部27bと、連結部27cとを含んで構成される。
【0030】
外径側筒部27aは、ライナー部14のうち外径側に位置する筒状の部材である。内径側筒部27bは、外径側筒部27aよりも径が小さく、内径側に配置される部材である。連結部27cは、外径側筒部27aの一方側端部と内径側筒部27bの一方側端部とを連結する部材である。このように、外径側筒部27aと内径側筒部27bと連結部27cとを含んで構成されたインサートリング27の断面形状は、略コの字形状に折り曲げられ、インサートリング27の内径側筒部27bとシール領域25aとの間のライナー部14の径方向の樹脂の厚みTaは、インサートリング27が設けられていないライナー部14の径方向の樹脂の厚みTbよりも小さい。なお、インサートリング27は、ライナー部14と一体化されるようにライナー部14にインサート成形されるため、窪み部20cにも樹脂が充填される。
【0031】
上記構成の高圧ガスタンク10の変形例の作用について図3を用いて説明する。高圧ガスタンク10の変形例においても、Oリング24が口金部20の溝部20aに配置されているため、口金部20の溝部20aの底面とライナー部14の内径側面との間で弾性変形された状態で挟持されることで、ライナー部14と口金部20との間がシールされる。
【0032】
ここで、インサートリング27の内径側筒部27bとシール領域25aとの間のライナー部14の径方向の樹脂の厚みTaは、インサートリング27が設けられていないライナー部14の径方向の樹脂の厚みTbよりも小さく、さらに、シール領域25aの外径側にはライナー部14の樹脂より硬度の高いインサートリング27が設けられている。このため、Oリング24によるライナー部14の変形の絶対量を小さくすることができるため、Oリング24を十分に圧縮させることができ、ライナー部14と口金部20との間をしっかりとシールすることができる。そして、図3に示されるように、インサートリング27の窪み部20cには樹脂が充填されているため、インサートリング27が矢印B方向に抜け落ちてしまうことを防止することができる。
【0033】
このように、高圧ガスタンク10の変形例においても高圧ガスタンク10と同様に、インサートリング27がプレス成形されているため、より簡単に成形することができる。これにより、低コスト、軽量化の実現を可能とする。また、上記のようにインサートリング27は内径側に位置する内径側筒部27bを有し、硬度の高い材料で構成されているため、Oリング24によるシール性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0034】
10 高圧ガスタンク、12 タンク本体部、14 ライナー部、18 緩衝材、20口金部、20a 溝部、20b,20c 窪み部、22 バルブ、24 Oリング、25 境界面、25a シール領域、26,27 インサートリング、26a 突出部、27a 外径側筒部、27b 内径側筒部、27c 連結部、28 開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する筒状のタンク本体部の内壁に沿って設けられ、樹脂で構成されるライナー部と、
タンク本体部の開口側において、ライナー部の内径側に組み付けられる口金部と、
ライナー部と口金部との間の境界面をシールするシール部材と、
プレス成形したインサートリングであって、ライナー部に一体化成形されるインサートリングと、
を備え、
インサートリングは、
境界面のうちシール部材が当接する領域であるシール領域とインサートリングとの間のライナー部の径方向の樹脂の厚みが、インサートリングが設けられていないライナー部の径方向の樹脂の厚みよりも小さくなるように折り曲げられた形状を有することを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガスタンクにおいて、
インサートリングは、
ライナー部の外径側から内径側に位置するシール領域に向かって折り曲げられて突出した突出部を有することを特徴とする高圧ガスタンク。
【請求項3】
請求項1に記載の高圧ガスタンクにおいて、
インサートリングは、
外径側筒部と、
内径側筒部と、
外径側筒部の一方側端部と内径側筒部の一方側端部とを連結して折り曲げられた形状とする連結部と、
を有することを特徴とする高圧ガスタンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−2006(P2011−2006A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144834(P2009−144834)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】