説明

高圧ガス用密封装置

【課題】軸方向移動可能に棒状部材をシールできる高圧ガス用密封装置提供を課題とする。
【解決手段】筒状空間を区画する本体部14と筒状空間内で軸方向移動可能な棒状部材12と筒状空間内面143aと棒状部材12外面との間に介設されたシールリング183と軸方向から斜めに切断された有端リング状の部材であるバックアップリング184aとバックアップリング184aと略同位置にて切断され且つ弾性率が大きい材料から形成された補強リング185とを有する。バックアップリングよりも弾性率が大きい補強リングをシールリングに接する側とは反対側に接合することにより、バックアップリングの切断部が軸方向にずれる虞が小さくなり、切断部がシールリングを損傷する虞も小さくできる。なお、バックアップリングと補強リングとは別々に形成された部材を接着・融着などして接合したものの他、形成段階から完全に一体化され接合されたものであっても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス用密封装置に関し、詳しくは、水素ガスなどの高圧ガスを貯蔵するガスタンクにおける弁装置などのように、高圧ガスにより発生した大きな圧力差に曝される部分を密封する高圧ガス用密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタンクの開口部を閉塞する栓体には、ガスタンクの内部と外部とを連通する1以上の流路をもち、その流路内におけるガスの流通を制御する弁装置が設けられている。弁装置の一例として、開閉操作をマニュアル操作により行うマニュアル弁がある(特許文献1など)。
【0003】
特許文献1に開示のマニュアル弁は、特許文献1の図3に示すように、その栓体ハウジング(16)の外側面(16a)に開口する第1凹部(21)内に配設される。マニュアル弁(14)は、有底筒状をなすハウジング(35)と、ハウジング(35)内にその軸線方向に沿って摺動可能に収容された弁体(36)と、その弁体(36)を操作するための操作螺子(37)とを備えており、ハウジング(35)は、その底部(35a)が逆止弁(9)の蓋体(26)に当接するように第1凹部(21)内に配設されている。そして、ハウジング(35)の底部(35a)には、逆止弁(9)の貫通孔(32)に連通される貫通孔(38)が形成され、底部(35a)近傍の側壁(35b)には第1流路(18)に連通される貫通孔(39)が形成されている。そして、弁体(36)の外周には、シール部材としてOリング(36c)が嵌装されている。弁体(36)の先端部(36a)は円錐状に形成されており弁座(40)に対して着離する。
【0004】
図6に示す従来技術のマニュアル弁は、有底円筒状の筒状空間99を区画する弁ハウジング91と、その筒状空間99の底部に流路開口部911a(弁ハウジング連通孔911の一端側)が開口する弁座991に着離可能なシール部材93と、そのシール部材93を一端部に嵌め込んで保持するステム92とから形成されており、シール部材93が弁座911に着離することにより、弁の開閉を行うものである。ステム92は第1プラグ94内を軸方向に移動可能になっている。ステム92及び第1プラグ94の間の密封はシールリング983により確保されている。ここでステム92及び第1プラグ94の間に介装されるシールリング983は高圧ガスにより力が加わっている。具体的にはシールリング983には高圧側(図面左方)から低圧側(図面右方)に向けて力が加わることになる。ここで、燃料電池自動車などの水素源として水素ガスを蓄える場合、非常に高い圧力での貯蔵が想定されている。そのような高圧がシールリングに加わるとシールリングがステムと第1プラグとの隙間に過度に押し込まれてしまい、損傷を受ける虞がある。そこで、シールリング983に隣接して軸方向低圧側にバックアップリング984が設けられている。バックアップリング984はステム92及び第1プラグ94の間の隙間を塞ぐことでシールリング983がその隙間に過度に押し込まれることを防止する作用を発揮する。バックアップリングについては特許文献2、3などにも開示されている。
【0005】
ステム92及び第1プラグ94の隙間をできるだけ完全に塞ぐためにバックアップリング984は切断されている。具体的にはバックアップリング984は軸方向から斜めに切断された有端リング状の部材である。ステム92及び第1プラグ94の間であってシールリング983及びバックアップリング984が介設されている近傍の隙間は軸方向低圧側に向かうにつれて狭くなるように形成されており、バックアップリング984は低圧側に移動することで、外周面が第1プラグ94の内周面に密着すると共に周方向の長さが短くなってステム92の外周面に更に密着することになり、シールリング983が過度に押し込まれることを効果的に防止している。図6に示すマニュアル弁では確実性を向上する目的でバックアップリング984を2つ(バックアップリング984a及び984b)用いている。
【特許文献1】特開2006−144841号公報(図3など)
【特許文献2】特開2000−46195号公報
【特許文献3】特開平11−72162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図6に示すマニュアル弁においてはステム92が軸方向に移動できるため、以下の問題が発生する虞がある。特に、ねじなどを用いてステム92を軸方向に移動させる場合にはステム92にすりこぎ運動が発生し、バックアップリング984の切断部分が軸方向にはみ出してしまうことが考えられる。この場合に、シールリング983はバックアップリング984に高圧で密着しているため、斜めに切断されて先端が尖ったバックアップリング984の切断部がシールリング983を傷つける虞がある。シールリング983に傷が生じると、その傷が生じた部分がステム92及び第1プラグ94の間に巻き込まれ、シールリング983の更なる損傷の発生が危惧される。
【0007】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、軸方向に移動可能な棒状部材を高圧ガスからシールできる高圧ガス用密封装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する請求項1に係る高圧ガス用密封装置の特徴は、筒状空間を区画する本体部と、
前記筒状空間内に嵌通され、軸方向に移動可能な棒状部材と、
前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に介設された弾性体から形成されるシールリングと、
軸方向から斜めに切断された有端リング状の部材であって前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に前記シールリングに対して低圧側に隣接して介設されるバックアップリングと、を有し、
前記バックアップリングの前記シールリングと反対側に接合され、前記バックアップリングと略同位置にて切断された有端リング状の部材であって、前記バックアップリングよりも弾性率が大きい材料から形成された補強リングを有することにある。
【0009】
上記課題を解決する請求項2に係る高圧ガス用密封装置の特徴は、請求項1において、前記バックアップリングの切断部の前記シールリングに接する側の角が丸められていることにある。
【0010】
上記課題を解決する請求項3に係る高圧ガス用密封装置の特徴は、請求項1又は2において、前記バックアップリングは樹脂製であり、前記補強リングは金属製であることにある。
【0011】
上記課題を解決する請求項4に係る高圧ガス用密封装置の特徴は、筒状空間を区画する本体部と、
前記筒状空間内に嵌通され、軸方向に移動可能な棒状部材と、
前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に介設された弾性体から形成されるシールリングと、
軸方向から斜めに切断された有端リング状の部材であって前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に前記シールリングに対して低圧側に隣接して介設されるバックアップリングと、を有し、
前記バックアップリングの切断部の前記シールリングに接する側の角が丸められていることにある。
【0012】
上記課題を解決する請求項5に係る高圧ガス用密封装置の特徴は、請求項1〜4の何れか1項において、前記筒状空間の内面及び前記棒状部材の外周面のうちの少なくとも一方は、前記バックアップリングが接する部分近傍における前記筒状空間の内面及び前記棒状部材の外周面の間隔が軸方向低圧側に向けて狭くなるテーパー部をもち、
前記バックアップリングの内周面及び外周面は前記テーパー部の形状に対応する形状をもつことにある。
【0013】
上記課題を解決する請求項6に係る高圧ガス用密封装置の特徴は、請求項1〜5の何れか1項において、前記バックアップリングに対して軸方向低圧側に第2バックアップリングを有することにある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明においては、シールリングにバックアップリングを隣接させるときに、バックアップリングよりも弾性率が大きい補強リングをシールリングに接する側とは反対側に接合することにより、バックアップリングの切断部が軸方向にずれる虞が小さくなり、切断部がシールリングを損傷する虞も小さくできる。なお、バックアップリングと補強リングとは別々に形成された部材を接着・熱融着などして接合したものの他、形成段階から完全に一体化され接合されたものであっても良い。
【0015】
請求項2に係る発明においては、切断部のシールリングに接する側の角が丸められていることにより、万が一、切断部が軸方向にずれてシールリングに当たったとしても、シールリングを損傷させる虞を小さくできる。
【0016】
請求項3に係る発明においては、シールリングに直接接するバックアップリングには比較的柔らかく接触してもシールリングに損傷を与えにくい樹脂を採用し、補強リングには変形し難い金属を採用することにより、シールリングを保護する作用を最大限に発揮させることが可能になる。
【0017】
請求項4に係る発明においては、請求項2に係る発明と同様に、切断部のシールリングに接する側の角が丸められていることにより、万が一、切断部が軸方向にずれてシールリングに当たったとしても、シールリングを損傷させる虞を小さくできる。
【0018】
請求項5に係る発明においては、筒状空間の内面及び棒状部材の外周面の少なくとも一方にテーパー部をもたせ、バックアップリングを対応する形状にすることによりシールリングが軸方向低圧側に移動したときにバックアップリングが棒状部材の外周部を締め付けて、より高いシール性を発揮することができる。
【0019】
請求項6に係る発明においては、第2バックアップリングをもつことにより、バックアップリングが軸方向低圧側に移動するときに切断部が軸方向にずれる虞を更に小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の高圧ガス用密封装置を水素用ガスタンクにおいて水素ガスを充填する充填路の開閉を行うマニュアル弁(INマニュアル弁)に具現化した一実施形態を図面に従って説明する。特に、30MPa以上(更には35MPa以上、70MPa以上)の高圧ガスを用いる装置に採用することが望ましい。
【0021】
(構成)
本実施形態のマニュアル弁が適用される水素用ガスタンクは、図1及び2に示すように、高圧水素タンク2と、栓体3とを有する。高圧水素タンク2には内外を連通する開口部2aが形成されている。栓体3は、開口部2a内に挿入された栓体本体部30をもつ。栓体本体部30はOリング37により気密が保たれる。栓体本体部30内には、高圧水素タンク2内に水素を供給する充填路4と高圧水素タンク2内から水素を外部に供給する供給路5と高圧水素タンク2の内外を電気的に接続する配線路6とが形成されている。
【0022】
充填路4には、高圧水素タンク2の外部から内部に向けた水素ガスの流れに沿って、外部の水素ガス供給源(図略)に接続されるINポート42、本発明の弁装置が好適に適用できるINマニュアル弁10、逆止弁38が配置され、最終的に高圧水素タンク2内に開口する開口部41をもつ。
【0023】
供給路5には、高圧水素タンク2の内部から外部に向けた水素の流れに沿って、電磁弁36、OUTマニュアル弁32、外部の水素ガス供給対象(図略)に接続されるOUTポート51が配置されている。逆止弁38と開口部41との間の充填路4と、外部との間に、溶接弁32と圧抜き用のマニュアル弁33とが並列に接続されている。
【0024】
配線路6は栓体本体部30の先端に設けられた温度センサ39が生成する温度信号や電磁弁36を制御する制御信号を伝達するための電気的な配線を収納する通路であり、それらの配線を通した状態で高圧水素タンク2の内外の気密が保たれる構造をもつ。
【0025】
INマニュアル弁10は、図2に示すように、栓体本体部30に設けられた開口部301内に配設される。開口部301は外部に開口する部分から順に3段階の内径をもつ円筒状の第1〜第3空間301a、b及びcから構成され、外部に最も近い第1円筒状空間301aの内周面にはねじ溝が形成されている。外部から最も遠い第3円筒状空間301cの先端部は充填路4に接続されている。円筒状空間301a及び301cの間の第2円筒状空間301bの側面にはINポート42が接続されている開口部421が形成されている。
【0026】
INマニュアル弁10は、図3に示すように、弁ハウジング11と、その弁ハウジング11内において軸方向に移動可能なステム12と、ステム12の先端部に嵌め込まれているシール部材13と、ステム12及び筒状空間の間の保持・気密を確保する第1プラグ14、第1シールリング181、第1バックアップリング182、第2シールリング183、及び第2バックアップリング184と、シール部材12が嵌め込まれている側と反対方向にステム12を付勢するスプリング16と、マニュアル操作によりステム12をシール部材12が嵌め込まれている方向に押圧する操作ねじ17及び第2プラグ15とを有する。
【0027】
弁ハウジング11は、一端側に開口する有底円筒状の筒状空間19と、その筒状空間19の底部191(弁座)に開口する流路開口部111aをもつ弁ハウジング連通孔111と筒状空間19及び第2円筒状空間301bの間を接続し且つ筒状空間19の側面に開口し第2円筒状空間301bに開口する開口部421と接続する連通孔112とを区画する部材である。底部191における流路開口部111aの周辺部が本INマニュアル弁10の弁座として作用する。弁ハウジング11は第2円筒状空間301b内に一端側を外側に向けて配設される。第2円筒状空間301bは、弁ハウジング11に対して第3円筒状空間301c側に逆止弁38が配設されている。流路開口部111aは逆止弁38を介して充填路4に接続される。詳細は省略するが、弁ハウジング11は逆止弁38のハウジングのうちの1つと一体化されている。
【0028】
ステム12は一端部の先端が拡径された先太部122をもち、その先太部122が弁ハウジング11の一端側から筒状空間19内に挿入される。先太部122の外径は筒状空間19の内径よりも僅かに小さく、水素ガスがその隙間を通過可能になっている。ステム12の軸方向における先太部122の長さは筒状空間19の長さより短い。ステム12は軸方向の中央部123における外径が一定であり、後述する第1プラグ14内にて軸方向に摺動可能になっている。ステム12の軸方向における摺動は、先太部122の先端が筒状空間19の底部191に当接する状態から先太部122が第1プラグ14に至ってそれ以上移動できなくなるまでの間で可能である。ステム12の他端部にはスプリング16の一端部をステム12の一端部側から他端部側に向けて受けスプリング16から付勢されるフランジ部124が嵌め込まれている。ステム12の一端部における先端にはシール部材12が嵌め込み可能な空間である円筒状の収納凹部121が形成されている。図3に示すように、収納凹部121の底部近傍からからステム12の拡径方向(軸方向に対し垂直な方向)に向けてステム連通孔121aが形成されている。ステム連通孔121aが形成されることで、シール部材13とステム12の収納凹部121との間にガスが溜まることが無くなる。
【0029】
シール部材13はステム12や弁ハウジング11の筒状空間19内面よりも容易に変形可能な素材(樹脂など)から形成されている。シール部材13は径の異なる2つの円筒状部材を同軸に重ね合わせた形状をもち、ステム12の先端側に大径部分がくるようにステム12の先端に嵌め込まれている。
【0030】
第1プラグ14は弁ハウジング11の一端側に当接し、第2円筒状空間301bの内径とほぼ同じ外形をもつ第1プラグ先端部141と第1円筒状空間301aの内径とほぼ同じ外形をもち、外周面に第1円筒状空間301aの内面に設けられたねじ溝と螺合可能なねじ溝が形成されている第1プラグ基部142とをもち、第1プラグ基部142を第1円筒状空間301a内にねじ込むことで固定される。第1プラグ14の長さは、第1〜第3円筒状空間301a〜c内にねじ込んだ後も第1円筒状空間301a内には軸方向に空間があり、後述する第2プラグ15が挿設可能な長さである。第1プラグ先端部141は軸方向の中央部における外面側に弁ハウジング11に向けて徐々に縮径する外周テーパ面141aが形成されている。外周テーパ面141aの軸方向両端には第2円筒状空間301bの内径と概ね同じに保たれている。第1プラグ14の内部には軸方向に貫通する円筒状の内部空間143及び144をもつ。弁ハウジング11側から、内部空間143及び144の順に直列に形成される。内部空間143は、ステム12の中央部123の外径と内径が概ね同じであり、軸方向の中央部における内面側に弁ハウジング11に向けて徐々に拡径する内周テーパ面143aが形成されている。内周テーパ面143aの軸方向両端にはステム12の中央部123の外径と概ね同じに保たれている。内部空間144の内径はステム12の中央部123の外径よりも大きく且つフランジ部124の外径と概ね同じである。
【0031】
シールリング181は第1プラグ14の第1プラグ先端部141の外周に設けられた外周テーパ面141a内の弁ハウジング11側に配設され、第1プラグ14及び第2円筒状空間301bの内周面の間をシールする。バックアップリング182a及びbはシールリング181よりも変形し難い材料から形成される。シールリング181の弁ハウジング11に対して反対側にバックアップリング182が設けられている。バックアップリング182は外周テーパ面141a及び第2円筒状空間301bの内面との間にシールリング181が過度に挟み込まれて損傷を受けることを防止する。シールリング181に対して弁ハウジング11側が高圧となるため、シールリング181は外周テーパ面141a内を第1プラグ基部142側に移動するが外周テーパ面141aは第1プラグ基部142側に行くに従い、拡径するため、バックアップリング182a及びbは縮径されて第1プラグ先端部14の外周に密着することになり、シールリング181が入り込む隙間が無くなる。
【0032】
シールリング183は第1プラグ14の第1プラグ先端部141の内周に設けられた内周テーパ面143a内の弁ハウジング11側に配設され、第1プラグ14及びステム12の中央部123の外周面の間をシールする。バックアップリング184はシールリング184よりも変形し難い材料から形成される。シールリング183の弁ハウジング11に対して反対側にバックアップリング184が設けられている。バックアップリング184は内周テーパ面143a及びステム12の中央部123の外面との間にシールリング183が過度に挟み込まれて損傷を受けることを防止する。シールリング183に対して弁ハウジング11側が高圧となるため、シールリング183は内周テーパ面143a内を第1プラグ基部142側に移動するが内周テーパ面143aは第1プラグ基部142側に行くに従い、縮径するため、バックアップリング184a及びbは縮径されてステム12の外周面に密着することになり、シールリング183が入り込む隙間が無くなる。
【0033】
ここで、バックアップリング184a及びbのうち、シールリング183に隣接するバックアップリング184aについて更に詳しく説明する。図4に示すように、バックアップリング184aは外径がシールリング183方向から反対方向に向けて(図4(a)における上方向)縮径されている。この縮径の度合いはバックアップリング184aの外周面が周設する第1プラグ14の内面に設けられた内周テーパ面143aの縮径の度合いに対応する。バックアップリング184aは軸方向から斜めに切断させた切断部184a2をもつ。この切断部184a2は互いに軸方向にずれながらシールリング184の周方向に相対移動することにより両者の間に隙間を生じることなく径の大きさを調節できる。バックアップリング184aは、シールリング183に接する面184a1の反対に補強リング185をもつ。補強リング185はバックアップリング184aに一体的に接合されている。補強リング185は、バックアップリング184aが切断されている周方向の位置に合わせて周方向の一部が切断されている。補強リング185はバックアップリング184aを構成する材料(例えば樹脂材料)よりも弾性率が高く変形し難い材料(例えば、ステンレス鋼などの金属材料)から形成される。バックアップリング184bもバックアップリング184aと同様に周方向の一部が軸方向から斜めに切断されている。
【0034】
スプリング16はステム12の中央部123の外径よりも内径が大きく、第1プラグ14の内部空間144の内径(そしてフランジ部124の外径)よりも外径が小さい。スプリング16は中央部123及び内部空間144の間に配設され、一端が内部空間144から内部空間143に至る段差部分1431に当接し、他端がフランジ部124の中央部123側の側面124aに当接しており、フランジ部124を常に弁ハウジング11側から反対方向に付勢している。従って、スプリング16はシール部材13を流路開口部111aから離間する方向に付勢する部材である。
【0035】
第2プラグ15は、第1円筒状空間301aの内面に設けたねじ溝と螺合可能なねじ溝が外面に形成された円筒状の部材である。第2プラグ15には内部に操作ねじ17が螺合可能な内部空間151が形成されている。
【0036】
操作ねじ17は第2プラグ15の内部空間151に螺合されている。操作ねじ17の六角穴171にレンチを挿入して回転させることにより、螺合する程度が変化して、その先端部172の位置が軸方向に移動する。その先端部172によりステム12のフランジ部124を押動させ、ステム12を任意の位置に保持することができる。
【0037】
(作用効果)
本実施形態のINマニュアル弁10は以上の構成を有することから以下の作用効果を発揮する。
【0038】
まず、INマニュアル弁10を閉じる場合について説明する。六角穴171にレンチを差し込み操作ねじ17を回転させることにより操作ねじ17をステム12側に移動させる。すると、操作ねじ17の先端部172がステム12のフランジ部124を押圧し、ステム12を弁ハウジング11側に移動させる。ステム12の移動に伴い、ステム12の収納凹部121に嵌め込まれているシール部材13の一端面13aが流路開口部111aに当接する。このとき、シール部材13の一端面13aが筒状空間19の底部191に密着することで、弁ハウジング連通孔111及び筒状空間19の間のシールが確保される。
【0039】
この状態からINマニュアル弁10を開ける場合を説明する。六角穴171にレンチを差し込み回転させることにより、操作ねじ17がステム12側とは反対方向に移動する。ステム12はそのフランジ部124の側面124aにスプリング16により付勢力が加えられているため、操作ねじ17が離れていくと、その移動量に応じて、ステム12も軸方向に移動する。そのときに、ステム12の先端の収納凹部121内に嵌め込まれたシール部材13も一緒に移動する。その結果、シール部材13の一端面13aは筒状空間19の底部191から離れ、弁ハウジング連通孔111の流路開口部111aと筒状空間19とは直接、連絡することになり、両者の圧力差に従い、水素ガスが流れていく。
【0040】
このように、ステム12を軸方向に移動させる際に、ステム12と第1プラグ14との間のシール性を保ったままにすることが要求される。ステム12を軸方向に移動させると、その移動によりシールリング183、バックアップリング184a及びbには軸方向の力が加わることになる。その場合に、バックアップリング184aにはバックアップリング184aを構成する材料よりも弾性率が高い材料から構成される補強リング185が一体的に接合されているため、従来技術のようにバックアップリングを単独で用いる場合と比べて変形の度合いが小さくなる。そのため、バックアップリング184aの切断部184a2が軸方向にずれてシールリング183を損傷させる虞を小さくできる。
【0041】
また、バックアップリング184aの更に軸方向低圧側にもう1つのバックアップリング184bを配設することにより、バックアップリング184aの切断部184a2が軸方向にずれることが防止できる。
【0042】
(変形態様)
図4に示すバックアップリング184aに代えて、図5に示すバックアップリング184cを採用することができる。バックアップリング184cは切断部184c2のシールリング183に接する側の角184c3が丸められており、更にシールリング183を損傷させる虞を小さくできる。このバックアップリング184cを採用するにあたり、補強リング185を接合しない形態も採用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態における水素用ガスタンクの部分断面模式図である(図2におけるI−I断面)。
【図2】実施形態における水素用ガスタンクの栓体の正面透視模式図である。
【図3】実施形態におけるINマニュアル弁の断面図である。
【図4】実施形態におけるバックアップリングの正面図(a)及び上面図(b:(a)におけるA視図)である。
【図5】変形態様におけるバックアップリングの正面図(a)及び上面図(b:(a)におけるA視図)である。
【図6】従来技術のINマニュアル弁の断面図である。
【符号の説明】
【0044】
10…INマニュアル弁
11…弁ハウジング 111…弁ハウジング連通孔 111a…流路開口部 112…連通孔 19…筒状空間 191…筒状空間の底部(弁座)
12…ステム 121…収納凹部 121a…ステム連通孔 121b…収納凹部の底面 121c及び121d…シール部材及び収納凹部の隙間の空間 122…先太部 123…中央部 124…フランジ部 124a…フランジ部の側面
13…シール部材 13a…一端面
14…第1プラグ(本体部に相当) 141…第1プラグ先端部 142…第1プラグ基部 143…内部空間(筒状空間に相当)
15…第2プラグ 151…内部空間
16…スプリング
17…操作ねじ 171…六角穴
181、183…シールリング 182a及びb、184a、b及びc…バックアップリング 184a1、184c1…バックアップリングの一面側 184a2、184c2…切断部 185…補強リング
2…高圧水素タンク 2a…開口部
3…栓体 30…栓体本体部 301…開口部 301a〜c…第1〜第3円筒状空間
4…充填路 5…供給路 6…配線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状空間を区画する本体部と、
前記筒状空間内に嵌通され、軸方向に移動可能な棒状部材と、
前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に介設された弾性体から形成されるシールリングと、
軸方向から斜めに切断された有端リング状の部材であって前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に前記シールリングに対して低圧側に隣接して介設されるバックアップリングと、を有し、
前記バックアップリングの前記シールリングと反対側に接合され、前記バックアップリングと略同位置にて切断された有端リング状の部材であって、前記バックアップリングよりも弾性率が大きい材料から形成された補強リングを有することを特徴とする高圧ガス用密封装置。
【請求項2】
前記バックアップリングの切断部の前記シールリングに接する側の角が丸められている請求項1に記載の高圧ガス用密封装置。
【請求項3】
前記バックアップリングは樹脂製であり、前記補強リングは金属製である請求項1又は2に記載の高圧ガス用密封装置。
【請求項4】
筒状空間を区画する本体部と、
前記筒状空間内に嵌通され、軸方向に移動可能な棒状部材と、
前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に介設された弾性体から形成されるシールリングと、
軸方向から斜めに切断された有端リング状の部材であって前記筒状空間の内面と棒状部材の外面との間に前記シールリングに対して低圧側に隣接して介設されるバックアップリングと、を有し、
前記バックアップリングの切断部の前記シールリングに接する側の角が丸められていることを特徴とする高圧ガス用密封装置。
【請求項5】
前記筒状空間の内面及び前記棒状部材の外周面のうちの少なくとも一方は、前記バックアップリングが接する部分近傍における前記筒状空間の内面及び前記棒状部材の外周面の間隔が軸方向低圧側に向けて狭くなるテーパー部をもち、
前記バックアップリングの内周面及び外周面は前記テーパー部の形状に対応する形状をもつ請求項1〜4の何れか1項に記載の高圧ガス用密封装置。
【請求項6】
前記バックアップリングに対して軸方向低圧側に第2バックアップリングを有する請求項1〜5の何れか1項に記載の高圧ガス用密封装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−38247(P2010−38247A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201921(P2008−201921)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】