説明

高圧水噴射装置

【課題】 噴射口を変更せずに高圧水の形状を変形することができる高圧水噴射装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係るウォータージェットハンドガン10は、高圧水を噴射するノズルヘッド12と、ノズルヘッド12から噴射される高圧水の軌道線L上に配置され、噴射された高圧水の形状を変える変形部材スクレーパ26の連結部30とを備えている。従って、このウォータージェットハンドガン10においては、スクレーパ26の連結部30によって、ノズルヘッド12から噴射された高圧水の形状が変わるため、ノズルヘッド12の噴射口12aの数や断面形状を変更することなく、高圧水の形状を変えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水を利用して付着物を除去する高圧水噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この技術の分野における高圧水噴射装置は、例えば、下記特許文献1に開示されている。この公報に記載の高圧水噴射装置は、高圧水を噴射する噴射口を複数有するノズルヘッドにより、噴射口が1つであるノズルヘッドを用いた場合とは異なる形状の高水圧形状を実現しており、高圧水の噴きつけ幅の拡張を図っている。このように噴きつけ幅を拡張することで、効率よく付着物の除去をおこなうことができるようになる。
【特許文献1】特開平9−173916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発明者らは、鋭意研究の末、ノズルヘッドの噴射口の数や断面形状を変更することなく、高圧水の形状を変形することができる技術を新たに見出した。
【0004】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、噴射口を変更せずに高圧水の形状を変形することができる高圧水噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る高圧水噴射装置は、高圧水を噴射する噴射部と、噴射部から噴射される高圧水の軌道線上に配置され、噴射された前記高圧水の形状を変える変形部材とを備えることを特徴とする。
【0006】
この高圧水噴射装置においては、変形部材によって、噴射部から噴射された高圧水の形状が変形されるため、噴射部の噴射口の数や断面形状を変更することなく、高圧水の形状を変えることができる。
【0007】
また、変形部材のうち、少なくとも高圧水が進行する側の先端部がヘラ状になっている態様であってもよい。この場合、付着物を、変形部材のヘラ状の部分において剥ぎ落とすことができ、付着物の除去効率が高まる。
【0008】
また、変形部材を、高圧水の軌道線上の位置と軌道線上から逸れた位置とに、変位させる変位手段をさらに備える態様であってもよい。この場合、変形部材を利用するときと利用しないときとの切り替えを容易におこなうことができる。
【0009】
また、高圧水を噴射する対象物と変形部材とが所定の位置関係になったことを検出するセンサ部をさらに備え、センサ部の検出結果に基づいて、噴射部から高圧水の噴射が可能となる態様であってもよい。この場合、付着物の除去をしていないときに、噴射部から誤って高圧水が噴射される事態が有意に回避される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、噴射口を変更せずに高圧水の形状を変形することができる高圧水噴射装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するにあたり最良と思われる形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の要素については同一の符号を付し、説明が重複する場合にはその説明を省略する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る高圧水噴射装置であるウォータージェットハンドガン10を示した概略構成図である。このウォータージェットハンドガン10は、高圧水を噴出して壁面に付着するペンキ等の付着物を除去するためのものであり、高圧水を噴射するノズルヘッド12と、ノズルヘッド12に水を送る送水管14と、作業者が送水管14を保持するためのグリップ16,18とを有している。
【0013】
ノズルヘッド12には、その断面中心位置に断面円形の噴射口12aが1つ設けられており、その噴射口12aから高圧水を直線状に噴出する。送水管14は、その先端部14aがノズルヘッド12に連結され、その後端部14bが給水ホース20に連結された長尺パイプ状部材である。そして、送水管14は、給水ホース20から供給される水をノズルヘッド12まで送る。
【0014】
ウォータージェットハンドガン10のグリップ16,18のうち、後端側の一方のグリップ18には、噴射レバー22が設けられており、この噴射レバー22の操作によって、送水管14内を流れる水の流通を開始したり停止したりすることができる。
【0015】
また、ノズルヘッド12にはヘッドカバー24が設けられている。このヘッドカバー24は、ノズルヘッド12の噴射口12aからわずかに後退した位置に取り付けられており、ノズルヘッド12の略全体の周囲を覆う筒状部材である。そして、このヘッドカバー24の外周面に、金属製のスクレーパ26が取り付けられている。
【0016】
スクレーパ26(変形部材)は、図2に示すように、上述のヘッドカバー24を挟み込む一対のアーム部28A,28Bと、アーム部28A,28Bの先端28a側(すなわち、ヘッドカバー24から離れた側)においてアーム部28A,28Bを連結する連結部30とで構成されている。
【0017】
ここで、スクレーパ26のヘッドカバー24への取り付けは、アーム部28A,28Bの後端部28bの穴29A,29Bに、ヘッドカバー24の軸25を挿通させることによっておこなっている。そのため、スクレーパ26は、アーム部28A,28Bの対面方向に延びる軸線A及びヘッドカバー24の軸25に関し回動できるようになっている。ここで、ヘッドカバー24の軸25の位置(すなわち、アーム部28A,28Bのヘッドカバー24への取り付け位置)は、ノズルヘッド12の噴射口12aに対応する位置(図1におけるヘッドカバー24の上下中心位置)となっている。従って、スクレーパ26は、図1に示すように、ノズルヘッド12から噴射される高圧水の直線状の軌道線L(図1の一点鎖線)に沿って、アーム部28A,28Bが延在する第1の位置と、軌道線Lに交差する方向にアーム部28A,28Bが延在する第2の位置(図1の二点鎖線)とに変位可能となっている。
【0018】
さらに、スクレーパ26のアーム部28A,28Bは、バネ27を介して、ヘッドカバー24に連結されている。このバネ27は、一端が、アーム部28A,28Bの中央付近に設けられたバネ用穴31A,31Bに取り付けられており、他端が、ヘッドカバー24の外周部に取り付けられている。このバネ27は、スクレーパ26が、上記第1の位置及び第2の位置において付勢力が最小となるように、その取り付け位置や長さが調整されている。そのため、このバネ27と軸25とにより、スクレーパ26を第1の位置と第2の位置とに変位させる変位手段が構成されている。そして、この変位手段により、スクレーパ26を利用するときと利用しないときとの切り替えを容易におこなうことができるようになっている。なお、スクレーパ26の位置をしっかりと固定するために、別途、公知のロック機構を適用することもできる。
【0019】
スクレーパ26の連結部30は、その先端側に向かうに従って幅が拡がる略扇形状のへら状部分であり、その面方向は、アーム部28A,28Bの延在方向から所定角度αだけ傾斜している。アーム部28A,28Bを高圧水の軌道線Lに沿うように第1の位置にセットされたときに、この連結部30には高圧水が打ち付けられる。そして、連結部30の面のうち、高圧水が打ち付けられる傾斜した側の表面30aには立体成型された隆起部32が形成されている。
【0020】
この隆起部32は、表面30aの領域のうち、連結部30の後端側の領域であって、高圧水が打ち付けられる打付領域Sを含む領域に設けられている。上述したように、噴射口12aの断面は円形であるため、高水圧も円形断面のライン状に噴射され、打付領域Sは略楕円形状となる。また、連結部30に打ち付けられた高圧水の噴流が均一に拡散されて先端部(刃先)30bのほうに流れるようにするため、打付領域Sが、先端部側に向かって下降するように傾斜する部分の隆起部32に位置するように設計されている。なお、上記角度αが30度であって、打付領域Sが平面である場合には、高圧水の拡がり角はおよそ60度となる。
【0021】
そのため、噴射口12aから高圧水が噴射されると、高圧水はその軌道線L上に配置されたスクレーパ26の連結部30に衝突し、連結部30の表面30a上を流れる。このとき、高圧水の噴流は、図2の梨地部分に示すように、表面30aを流れる際にその幅が次第に拡張されると共に、先端部30bの縁ではその縁に沿う方向に関して水量及び水圧が略均一となる。すなわち、高圧水は、スクレーパ26によって、その形状が断面円形のライン状から幅広のプレート状に変えられる。
【0022】
以上で詳細に説明したとおり、上述したウォータージェットハンドガン10においては、ノズルヘッド12の形状を変更することなく高圧水の形状が変わる。すなわち、噴射口12aから噴射されるライン状(線状)の高圧水は、スクレーパ26により、プレート状(面状)の高水圧に変えられる。そして、スクレーパ26によって、高圧水の壁面への噴きつけ幅の拡張が実現されている。それにより、ウォータージェットハンドガン10においては、効率よく付着物の除去をおこなうことができるようになっている。このような高圧水の噴流の幅拡張は、連結部30の打付領域Sに隆起部32を設けることによってさらに効果的に実現される。なお、ウォータージェットハンドガン10では、変位手段を採用することにより、スクレーパ26を利用するときと利用しないときとで容易に切り替えをおこなうことができ、スクレーパ26を利用するときには高水圧の噴射範囲が有意に広げられて作業効率の大幅な向上が図られ、スクレーパ26を利用しないときにはエネルギー密度の高いライン状の高水圧を用いて強固に固着した付着物や厚い付着物の除去や切断を実現する。
【0023】
また、ウォータージェットハンドガン10は、図3に示すように、スクレーパ26を用いて、壁面Wに付着した付着物Fを剥ぎ落とすことができるため、高圧水の噴射との併用により、より効率よく付着物Fを除去することができるようになっている。つまり、付着物Fの除去を高圧水の噴射のみでおこなう場合、高圧水のターゲット位置の移動速度を精度良く制御しなければ、付着物Fが縞状に残ってしまう。ところが、スクレーパ26を併用することで、このような縞状の取り残しも容易に除去することができ、使用する水の量を抑えることもできる。
【0024】
さらに、高圧水は、連結部30に形成された隆起部32の傾斜面部分に打ち付けられるため、平面部分に打ち付けられる場合に比べて、衝突によるエネルギー損失が小さくなるといった技術的効果も得られる。その上、高圧水がスクレーパ26に衝突した際にはスクレーパ26が振動するため、スクレーパ26が振動しない場合に比べて、より効率よく付着物Fの除去をおこなうことができる。
【0025】
加えて、スクレーパ26の連結部30の裏面30cには、ブラシ33が設けられており、
このブラシ33を壁面Wに擦りつけることで、付着物Fの小さな取り残しも確実に除去することができる。
【0026】
ここで、上述したウォータージェットハンドガン10には、図4に示すように、ヘッドカバー24内に螺旋バネ34が設けられており、ヘッドカバー24がノズルヘッド12に対して相対的に前後移動できるようになっている。この螺旋バネ34は、ノズルヘッド12に巻回されており、且つ、ヘッドカバー24を先端側に付勢している(図4(a)参照)。そのため、スクレーパ26が前側から押されると、図4(b)に示すように、螺旋バネ34が圧縮されると共に、ヘッドカバー24がノズルヘッド12に対して後退する。
【0027】
送水管14には、ヘッドカバー24が後退した位置に、センサスイッチ(センサ部)36が取り付けられており、ヘッドカバー24の後退によってこのセンサスイッチ36が押下される。そのため、スクレーパ26が押圧されて、センサスイッチ36が押下されることによりスクレーパ26の接触を検知することができる。すなわち、壁面Wの付着物Fの除去に際し、高圧水を噴射する壁等の対象物にスクレーパ26が押し当てられたこと、すなわち対象物とスクレーパとが所定の位置関係(所定の離間距離)になったことを、センサスイッチ36によって検知することができる。
【0028】
センサスイッチ36は、高圧水噴射制御と連動しており、例えば、図示しない制御回路若しくは制御機構により、センサスイッチ36がONになっているとき以外は噴射レバー22を引いても高圧水が噴射されないよう、インタロックが組まれている。
【0029】
すなわち、作業者は、付着物Fの除去に際し、スクレーパ26を壁面Wに押し当てない限り、センサスイッチ36をONにすることができず、高圧水の噴射をおこなうことができない。従って、付着物Fの除去をしていないときに、ノズルヘッド12から誤って高圧水が噴射される事態が有意に回避され、高圧水の誤噴射による様々な事故を未然に防止することができる。なお、センサ部は、接触タイプのセンサ(例えば、導電ゴムや圧電素子等を利用したもの)に限らず、対象物とスクレーパとが所定の位置関係(例えば、離間距離や相対位置)になったことを検出できるものであれば、非接触タイプのセンサ(例えば、光、音、磁気、静電容量等を利用したもの)であってもよい。
【0030】
また、上述したスクレーパ26とセンサスイッチ36との機構によれば、付着物Fを除去する際、噴射口12aと壁面Wとの距離が常に一定に保たれる。そのため、スクレーパ26及びセンサスイッチ36の配置関係を調節することによって、噴射口12aと壁面Wとが最適な離間距離で付着物Fの除去をおこなうことができる。この最適距離は、例えば20cmであり、この数値は、噴射口12aから噴射される高圧水の圧力等に応じて変化する。
【0031】
なお、スクレーパ26の形状は、上述した形状に限定されず、例えば、図5や図6に示すような形状であってもよい。
【0032】
図5に示すスクレーパ26Aには、図2に示したスクレーパ26同様、立体成型された隆起部32Aがその表面30aに設けられている。このスクレーパ26Aが用いられる態様においては、高圧水の打付領域Sが連結部30Aの略中央に位置するように設定されている。そして、隆起部32Aは、その頂部に打付領域Sが位置するように、連結部30Aの表面領域の略中央部に形成されている。
【0033】
このようなスクレーパ26Aにおいても、噴射口12aから噴射された高圧水の噴流の幅は、図5の梨地部分に示すように、連結部30Aの隆起部32Aに衝突した際及び表面30aを流れる際に拡張される。それにより、ノズルヘッド12の噴射口12aから噴射されるライン状の高圧水は、スクレーパ26Aにより、プレート状の高水圧に変えられる。また、スクレーパ26Aにおいては、打付領域Sが、スクレーパ26の打付領域Sに比べて先端部30b側が位置しているため、高圧水が連結部表面30aを流れる際の摩擦損失が有意に低減されている。従って、スクレーパ26Aは、スクレーパ26に比べて、高いエネルギー効率で付着物の除去をおこなうことができる。なお、上述したスクレーパ26及びスクレーパ26Aは、付着物Fが比較的柔らかく、付着物を均一に剥ぎ取りたい場合に適している。
【0034】
図6に示すスクレーパ26Bには、後端部から先端部に向かう複数の溝40が、その表面30aに設けられている。これらの溝40は、打付領域Sから先端部に向かって延びており、その間隔が先端部側に向かうにつれて次第に拡がるように設計されている。このようなスクレーパ26Bにおいても、噴射口12aから噴射された高圧水の噴流の幅は、図6の梨地部分に示すように、表面30aを流れる際に拡張される。このスクレーパ26Bは、付着物Fが堅くて大きな切断力を必要とする場合に適している。
【0035】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、高圧水噴射装置は、ウォータージェットハンドガンに限らず、高圧水を噴射することができるその他の装置であってもよい。ノズルヘッドの噴射口については、例えば、複数設けられていてもよく、その断面形状は楕円断面や多角形断面であってもよい。また、高圧水の噴射軌道は、直線状に限定されず、例えば放物線状の噴射軌道であってもよい。さらに、変形部材は、その全体がヘラ状になっている必要はなく、少なくとも高圧水が進行する側の先端部がヘラ状になっていればよい。
【0036】
また、隆起部32,32Aは、連結部30,30Aに必ずしも一体成形されている必要はなく、適宜別体にして着脱可能にするようにしてもよい。この場合、隆起部部分が高圧水の衝撃力により摩耗したとき等に、隆起部部分だけを交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係るウォータージェットハンドガンを示した概略構成図である。
【図2】図1のスクレーパを示した斜視図である。
【図3】図1のウォータージェットハンドガンを用いて付着物を除去する様子を示した模式図である。
【図4】図1のヘッドカバー24の内部構造を示した断面図であり、(a)はスクレーパが押圧されていない状態、(b)はスクレーパが押圧されている状態を示した図である。
【図5】図2に示したスクレーパとは異なる形状のスクレーパを示した図である。
【図6】図2に示したスクレーパとは異なる形状のスクレーパを示した図である。
【符号の説明】
【0038】
10…ウォータージェットハンドガン、12…ノズルヘッド、24…ヘッドカバー、25…軸、26,26A,26B…スクレーパ、27…バネ、30…連結部、32,32A…隆起部、36…センサスイッチ、F…付着物、W…壁面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水を噴射する噴射部と、
前記噴射部から噴射される高圧水の軌道線上に配置され、噴射された前記高圧水の形状を変える変形部材とを備える、高圧水噴射装置。
【請求項2】
前記変形部材のうち、少なくとも前記高圧水が進行する側の先端部がヘラ状になっている、請求項1に記載の高圧水噴射装置。
【請求項3】
前記変形部材を、前記高圧水の前記軌道線上の位置と前記軌道線上から逸れた位置とに、変位させる変位手段をさらに備える、請求項1又は2に記載の高圧水噴射装置。
【請求項4】
前記高圧水を噴射する対象物と前記変形部材とが所定の位置関係になったことを検出するセンサ部をさらに備え、前記センサ部の検出結果に基づいて、前記噴射部から前記高圧水の噴射が可能となる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高圧水噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−49270(P2008−49270A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228115(P2006−228115)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】