説明

高密封シール装置を備えた直動案内ユニット

【課題】 この直動案内ユニットは,多量の異物が発生するように厳しい作業環境でも,スライダと軌道レールとの間を完全に密封し,異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのを防止する。
【解決手段】この直動案内ユニットは,スライダ1に高密封シール装置3を設けており,高密封シール装置3は,外装部22と端面部23を備えたホルダケース21,ホルダケース21の収容部35に配設された板状のシールプレート20,及び外装部22の端部の開口部に配設された封止プレート9から構成されている。シールプレート20は,両側面の表層33のスキン層43と表層33間の中間層34のスポンジ層42とから構成され,スポンジ層42の多孔部には潤滑剤が強制的に含浸されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散するような厳しい作業環境で使用して,該異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのを防止する高密封シール装置を備えた直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,直動案内ユニットについて,工作機械等の各種の装置について,ワークの加工エリア,設置エリアを拡大し,装置自体のコンパクト化を図るため,設備装置のコストダウン等の観点から,作業環境から軌道レールが剥き出しになって使用される状態が増加しており,従来の防塵装置であるテレスコカバーやジャバラを設けない仕様になっている。
【0003】
従来,本出願人が開発した直動転がり案内ユニットについて,シール装置を設けたものが知られている。該直動転がり案内ユニットは,スライダの端部にシール装置を取り付け,該シール装置が断面略コ字形状のシール用カセット,該シール用カセット内に装着された2枚のシール,該シールの間に狭持した給油用間座,及びシールの外側端面に配置されるスクレーパプレートから構成されていた。また,2枚のシールは,上面部と一対の側面部から成る略コ字の形状で,鉄板製の芯金にゴムを焼き付けたものになっており,ゴム製のリップ部を有していた。また,シールの締めしろは,0.5mmになっており,防塵効果を増すために通常よりも大きく設定されていた(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,リニア軸受ガイド構造について,ダスト排除によるシール機能を持つものが知られている。該リニア軸受ガイド構造は,従来のゴム材によるリップシール及び補強板の外面側に潤滑剤を含油した発泡ウレタンゴム材で形成された自己潤滑性のガイド本体を配設したものであり,ガイド本体の油切れを防止し,摺動抵抗に対する耐久性を維持できるものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,案内装置の防塵構造として,軌道軸に対するスライド部材の摺動抵抗の少ない往復運動ができるというものが知られている。該案内装置の防塵構造は,防塵部材が連続気泡の発泡ポリウレタンで形成され,潤滑剤を含浸して潤滑供給部を構成する3枚の弾性部材と,金属板材で形成されて弾性部材の間に介装され,凹溝部を形成するスペーサ部材とからなる潤滑剤ポケット形成部材と,軌道レールとの間に僅かな隙間を維持して摺動台に取り付けられるスクレーパ部材とで構成されている。連続気泡の発泡ポリウレタンは,引張強さ30〜50kg/cm3 ,伸び率300〜500%,及び反発弾性30〜60%程度の物性を有する材料になっており,潤滑剤を重量割合で30〜50重量%に含浸したものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,直動案内軸受装置として,スライダ内部への異物の侵入を防止して早期摩耗や破損を防止せんとするものが知られている。該直動案内軸受装置は,スライダの軸方向の端部に取り付けられた,複数枚の潤滑剤供給部材,プロテクタ,薄肉の樹脂シール材,鋼板にゴムを焼付接着したサイドシール材,及びグリースを含有するフェルトシール材から構成されている(例えば,特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平9−42284号公報
【特許文献2】特開平11−351252号公報
【特許文献3】特開2000−227115号公報
【特許文献4】特開2005−337407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,上記のような直動転がり案内ユニットのシール装置では,ゴム製のシールになっているために,摺動抵抗が大きくなってしまうこと,シールの耐久性を維持するため潤滑剤を欠かすことができず,潤滑剤の管理が難しいこと等で課題を残していた。
【0008】
また,上記のようなリニア軸受ガイド構造では,リップシールに潤滑剤を常に供給してよいものであるが,シール性が不足し,問題を有していた。
【0009】
また,上記のような案内装置の防塵構造では,弾性部材がクーラント液等を吸収することになるので,弾性部材に次第にゴミ,液状物等の異物が溜まるようになって,弾性部材が異物を除去しきれない状態になっていた。
【0010】
また,上記のような直動案内軸受装置では,多数のシール材を重ねたものであり,シール材のスペースが軸方向に大きなものになっていた。
【0011】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,高密封シール装置を構成するシールプレートとして一般的にパッキン材や衝撃吸収材と使用されているメカニカルフロスウレタンフォーム製のシート材を利用し,特に,メカニカルフロスウレタンフォームのうちでハードタイプのシート材を所定の形状にカットして3層構造のシールプレートを作製し,該シールプレートを3枚重ねにしてホルダケースに入れて,軌道レールを摺動移動するスライダの端部に配設し易い構造の高密度シール装置を形成したことを特徴とする直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は,長手方向に沿って軌道溝が形成された軌道レール,前記軌道レールに複数の転動体を介して摺動自在なスライダ,及び前記スライダの端面に取り付けられた高密封シール装置を備えている直動案内ユニットにおいて,
前記高密封シール装置は,少なくとも1枚の板状のシールプレートを備えており,前記シールプレートは,両側面の表層を形成するゴム状のスキン層,及び前記表層間の中間層を形成するスポンジ層から成る3層構造で構成されていることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0013】
また,この直動案内ユニットは,前記シールプレートにおける前記スポンジ層の多孔部には潤滑剤が強制的に含浸されているものである。
【0014】
また,前記シールプレートを構成する前記スポンジ層は,原液中に空気をミキシングさせて機械的に発泡させた低発泡倍率に形成されているメカニカルフロスウレタンフォームから構成されている。
【0015】
また,前記高密封シール装置は,外装部と該外装部の一端側で一体である端面部とから形成されたホルダケース,前記ホルダケース内に配設された前記シールプレート,及び前記外装部の他端側の開口部を封鎖するため配設された封止プレートから構成されているものである。
【0016】
また,この直動案内ユニットは,前記軌道レールの前記軌道溝へと延びる前記ホルダケースの前記端面部の凸部には,前記シールプレートを前記ホルダケースの収容部に位置決めするための位置決めピンが設けられ,前記軌道レールの前記軌道溝に接する位置まで延びる前記シールプレートに設けた凸部には,前記端面部に設けた前記位置決めピンが挿通するピン孔が形成され,前記シールプレートの前記凸部が前記軌道レールの前記軌道溝に対する密封性を確保するものである。
【0017】
また,この直動案内ユニットは,前記高密封シール装置の下面を含む前記スライダの下面の全面にわたって下面シールで覆われ,前記軌道レールと前記スライダ及び前記高密封シール装置との隙間が密封されているものである。
【0018】
また,この直動案内ユニットにおいて,前記スライダは,前記転動体が転動する軌道溝を備えたケーシング,前記ケーシングの端面に取り付けられて前記転動体を方向転換させる方向転換路を備えたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられて前記転動体を潤滑する潤滑プレート,及び前記潤滑プレートの端面に配置されたエンドシールを備えており,前記高密封シール装置は,前記エンドシールの端面に間座を介して配置されている。
【発明の効果】
【0019】
この直動案内ユニットは,上記のように構成されており,スライダに高密封シール装置を設け,スライダと軌道レールとの間を完全に密封しているので,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散して軌道レールに付着するような厳しい作業環境でも,該異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのを防止して軌道レールから排除することができる。また,高密封シール装置を構成するシールプレートは,その表層の緻密層に形成されたスキン層が中間層のスポンジ層を両側から被覆した構造を有し,シールプレートはそれぞれ独立してスポンジ層に含浸された潤滑油がスポンジ層に保持されているので,シールプレートが軌道レールの上面や軌道面に接して摺動するが,シールプレートのスポンジ層には軌道レールに付着した冷却液や加工液を吸収することがなく,シールプレートが軌道レールに付着している粉塵,切粉,切屑等の異物を除去して摺動すると共に,シールプレート自体が自己潤滑され,シールプレートが軌道レールに対して常にスムーズに摺動でき,それによって,スライダに高密封シール装置を取り付けても,軌道レール上をスライダが摺動するのを妨げることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの実施例を説明する。この発明による直動案内ユニットは,特に,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体や異物が飛散する切削機械,研削機械,木工機械等の工作機械に使用して最適であり,スライダ2の摺動方向の前後端に装着された高密封シール装置3の構成に特徴を有している。
【0021】
この発明による直動案内ユニットは,図1〜図3に示すように,長手方向の両側面14に軌道溝12を備えた軌道レール1,及び軌道レール1に凹部が跨架して摺動自在なスライダ2から構成されている。この実施例では,軌道レール1の軌道溝12に軌道面13を形成し,転動体としてローラを用いるタイプに構成されている。この直動案内ユニットは,軌道レール1に設けた軌道溝12には転動体であるローラ(図示せず)が転走する軌道面13が形成され,スライダ2には軌道レール1の軌道面13に対応する軌道面(図示せず)が形成された軌道溝(図示せず)が設けられ,軌道レール1の軌道面13とスライダ2の軌道面との間の負荷軌道路を,ローラが介在して転動することによって,スライダ2が軌道レール1を長ストロークにスムーズに摺動できるように構成されている。
【0022】
スライダ2は,図1〜図3に示すように,概して,転動体が転動する軌道溝を備えたケーシング4,ケーシング4の端面46に取り付けられて転動体を方向転換させる方向転換路を備えたエンドキャップ5,エンドキャップ5の端面47に取り付けられて転動体を潤滑する潤滑プレート6,及び潤滑プレート6の端面に配置されたエンドシール7を備えている。ケーシング4の側面50には,転動体を保持する保持板(図示せず)を取り付けるため,保持ねじ18が挿通している。ケーシング4の上面45には,他の相手部材に取り付けるための取付け用ねじ穴17が形成されている。また,エンドキャップ5には,転動体に潤滑剤を供給するためのグリースニップル(図示せず)を取り付けるための取付け用ねじ穴16が形成されている。この実施例は,標準装備ではエンドキャップ5の端面47にエンドシール7が配設されているが,劣悪な環境下で使用されることを考慮すると,潤滑性を高めるために,エンキャップ5とエンドシール7との間に潤滑剤を供給するための潤滑プレート6が配設されている。潤滑プレート6は,特に,軌道面13への潤滑剤を供給するために,少なくとも軌道面13に摺接している。更に,この直動案内ユニットは,エンドシール7の外端面にスペーサである間座8を介して高密封シール装置3を配設された構造に構成されている。間座8は,エンドシール7のリップ部48を覆うように収容できるコ字状の金属体で形成されている。また,高密封シール装置3の外端面には,スクレーパ10が取り付けられている。スクレーパ10は,大きなゴミ等の異物のスライダ2内への侵入を防止するものであり,金属製の薄板に形成されている。
【0023】
また,この直動案内ユニットは,軌道レール1とスライダ2及び高密封シール装置3との間の密封性を高めるために,高密封シール装置3の下面40を含めてスライダ2の下面40の全体にわたってスライダ2を軌道レール1に対してシールするため,下面シール11が配設されている。下面シール11は,軌道レール1の側面14に摺接するリップ部55を有し,軌道レール1とスライダ2及び高密封シール装置3との間を良好に密封している。この実施例では,下面シール11は,間座8に固定ねじ19によって固定されている。高密封シール装置3は,直動案内ユニットのスライダ2の端部に配設され,粉塵やクーラント液が飛散して舞う劣悪な環境下に使用されても,長期間にわたり粉塵,切粉,切屑,クーラント液,加工液等の異物がスライダ2内に侵入することを防止できる機能を有している。また,高密封シール装置3は,複数のシールプレート20を配列することによって,一層の密封性能を完全なものにすることができる。また,この実施例では,高密封シール装置3の外端面には,スクレーパ10が配設され,スクレーパ10は,軌道レール1に跨架するための凹部51と軌道レール1の軌道溝12へと延びる凸部52とを備えている。
【0024】
この直動案内ユニットは,特に,高密封シール装置3の構成に特徴を有しており,高密封シール装置3は,スライダ2の端面に固定ねじ15で固定され,軌道レール1に跨架してスライダ2と一緒に摺動するものであり,少なくとも1枚のシールプレート20がホルダケース21内に配設されており,シールプレート20の形状及びその構造,即ち,高密封シール装置3を間座8の前端面に配置したことと,高密封シール装置3の構成そのものに特徴を有している。高密封シール装置3は,後述するが,概して,外装部22と端面部23から形成されたホルダケース21,ホルダケース21内に配設された複数(図では3枚)の板状の密封シール20,及び外装部22の端部開口部を封鎖するため配設された封止プレート9から構成されている。
【0025】
この直動案内ユニットでは,高密封シール装置3は,特に,メカニカルフロスウレタンフォーム,この実施例では,メカニカルフロスウレタンフォームでなるZULEN(登録商標)うちでハードタイプのシート材を所定の形状にカットして3層構造のシールプレート20を形成し,高密封シール装置3として少なくとも1枚のシールプレート20をホルダケース21の収容部35に収納してことを特徴する。この実施例では,高密度シール装置3は,シールプレート20を3枚重ねてホルダケース21に入れて構成されている。ホルダケース21は,図7及び図8にも示すように,シールプレート20の上面,下面,及び両側面を覆ってシールプレート20を配設する収容部35を形成した外装部22,及び外装部22の一方の端部である外端面を塞いだ態様で軌道レール1の外形,即ち上面54と側面14に接触することなく,隙間を有してなる端面部23から形成されている。外装部22は,その内面がシールプレート20に密接してシールプレート20の軌道レール1とのしめしろを確保できるように構成されている。また,ホルダケース21には,スライダ2の端部に取り付けるために,孔周りを肉厚にしたボス部53に固定ねじ15が貫通する4つの取付け用孔24が設けられている。また,シールプレート20には,固定ねじ15が挿通する領域に切欠き部32が形成されている。
【0026】
ホルダケース21について,軌道レール1の軌道溝12へと延び出している両側の凸部26に,シールプレート20を軌道溝12の上面54と側面14に密接状態に位置決めするため,位置決めピン25が設けられている。また,シールプレート20には,ホルダケース21の位置決めピン25の位置に対応する部分にピン孔27が形成されている。即ち,シールプレート20と軌道レール1との密封度合い即ちしめしろは,シールプレート20の凸部28を軌道レール1の軌道溝12に密接状態に接触させるためであり,シールプレート20の凸部28間の距離は軌道レール1の軌道溝12の距離より小さく形成されている。ホルダケース21の他方の端部は,シールプレート20を収容部35に配設するため開放状態であるので,3枚のシールプレート20を収容部35に配設した状態で,封止プレート9によって蓋をするように構成されている。シールプレート20は,封止プレート9によってスライダ2の端部である間座8の端部に変形しないように平らな状態で配置されている。高密封シール装置3は,軌道レール1に跨架してスライダ2と共に摺動移動するために,ホルダケース21の端面部23に凹部37,シールプレート20に凹部38,及び封止プレート9に凹部39が形成されている。
【0027】
シールプレート20は,この実施例では,メカニカルフロスウレタンフォームであるZULEN(登録商標)で作製されており,その中で密度0.45g/cm3 ,アスカC硬度67,伸び率160%,引張強度31.8kg/cm2 ,引裂強度8.3kg/cm,反発弾性30%,圧縮残留歪5.9%の物性を有するものが選択されており,厚み(板厚)が2.0mmの形状を有している。シールプレート20としては,種々の材料を試験した結果,上記の物性を持つメカニカルフロスウレタンフォームで形成したところ良好であるとの試験結果が得られた。メカニカルフロスウレタンフォームは,一般的に,衝撃吸収材,パッキン等のシール材として使用されているものである。シールプレート20としては,ZULENには種々の構造を持ったものがあるが,そのうちのハードタイプが性状として適していることが分かった。シールプレート20は,従来のウレタンフォームと異なり,図6,図9,及び図10に示すように,表面即ち表層33が目潰し状態になっている緻密質のスキン層43を有するものであり,所々に開口44が存在したゴム膜の形状になっており,内部の中間層34は,泡があるスポンジ層42に形成されている。スキン層43のゴム膜は,数μm程度の薄膜の状態になっている。スポンジ層42は,図9に示すように,大半が独立気泡状態のセル36に形成されており,セル36同士が接触した部分で連通し,また,セル36同士が気泡連通部41で連通してオープンポアを形成した構造を有している。
【0028】
この実施例では,シールプレート20は,常態では潤滑油や液体に浸漬してもそれらが全く含浸しない状態の構造に構成されており,シールプレート20に潤滑油を含浸させるには,素材を圧縮して潰しておき,それを潤滑油に浸漬した状態で圧縮状態を解き,元に復元させることによって,潤滑油をスポンジ層42のセル36に吸引する状態即ち強制的に吸引して潤滑油をスポンジ層42に含浸させて初めてシールプレート20が形成されている。その時,潤滑油の含浸量は,10〜15%程度になっていた。スキン層43は,図10に示すように,泡の一部が破れたものがあり,ところどころ開口44の部分が見られる。シールプレート20の表層33は,泡は見られず目潰しされた状態になっており,極薄なゴム膜状のスキン層43に形成されている。即ち,シールプレート20のシート材を作る時に,メカニカルフロスウレタンフォームの素材と型表面との接触面において,スキン層43が形成されたものと思料される。高密封シール装置3を構成するシールプレート20は,メカニカルフロスウレタンフォームのシート材を図5に示す形状に打ち抜いて形成したものであり,図6に示すように,外周から内周の全周は,切断面においてスキン層43及びスキン層43間のスポンジ層42が見える状態になって形成されている。
【0029】
この直動案内ユニットにおいて,潤滑剤を含浸したシールプレート20は,次のような特徴を有している。エンドシール7は,図1及び図3に示しているが,従来のゴムシールであり,芯金49にリップ部48のゴムを焼き付けたものになっており,スライダ2の端部に取り付け易い構造を有している。これに対して,この直動案内ユニットにおけるシールプレート20は,弾性があって柔軟であるので,ホルダケース21に収容してシールプレート20の形状を維持して密封性を良好にした構造にホルダケース21で保持する必要がある。この実施例では,シールプレート20の次の特徴を有しているものである。
【0030】
第1に,シールプレート20は,高密封シールを達成するために,従来のリップ部48を有するゴムシールであるエンドシール7と比較すると,軌道レール1ヘのシールのしめしろを大きくした場合,例えば,0. 5mm程度のしめしろに設計した場合に,従来のエンドシール7は,リップ部48で軌道レール1の潤滑剤を次第に拭き取ってしまい潤滑剤が切れてしまう状態になり,その結果,リップ部48の先端の摺接部の摩耗が大きくなって,軌道レール1に対するエンドシール7の摺動抵抗が大きくなってしまう。その結果,エンドシール7の軌道レール1に対する密封性能がなくなってしまっていた。シールプレート20は,エンドシール7に対比すると,潤滑剤を含浸したものであり,しめしろが大きくなっても中間層34であるスポンジ層42により締め圧が緩和され,更に,潤滑剤を含浸したことによる自己潤滑性により軌道レール1の潤滑剤が切れてしまうことが無いものになっており,しかも,表層33であるスキン層43が緻密にゴム膜状になっているので,軌道レール1に付着している小さなゴミ等の異物,クーラント,加工液,潤滑油等の液体を排除できるものになっている。また,シールプレート20のスキン層43は,耐摩耗性があり,耐久性があるものになっている。
第2に,シールプレート20は,従来のフェルト,ウレタンフォーム等と異なり,高密度で,細かく均一な大半が独立したセル36を持っており,潤滑剤を十分に含浸した状態であるので,それ以上のクーラント等の液状物を吸収することができず,従って,吸収したものが中で固化すること等が無いので,いつまでもシール機能を発揮すると共に潤滑機能を発揮することが可能になっている。即ち,シールプレート20は,従来のフェルト,ウレタンフォーム等の含油量に比較して,10〜15体積%程度と小さいものになっており,従来の含油ゴムシールの含油量(5%程度)よりも大きくなっているので,自己潤滑性に富んでいると考えている。
第3に,シールプレート20は,表層33がスキン層43になって極薄なゴム膜状になっているので,複雑な外形形状に対しても,硬化すること無く柔軟に追従し,ヘたりが無いものになっている。
第4に,シールプレート20は,耐油性,耐薬品性,及び耐摩耗性に優れた性質を持っている。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明による高密封シール装置を備えた直動案内ユニットは,例えば,切削機械,研削機械,木工機械等の工作機械等の各種装置が作動されて,粉塵,切粉,切屑等の異物が多量に発生したり,加工液,冷却液等の液体が飛散するような厳しい作業環境で使用し,該異物が軌道レール上を摺動するスライダの端部から侵入するのを防止するのに適用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明による高密封シール装置を備えた直動案内ユニットの一実施例を示す正面図である。
【図2】図1の直動案内ユニットを示す側面図である。
【図3】図1の直動案内ユニットにおけるスライダの片側端部を分解して示す説明図である。
【図4】図1の直動案内ユニットにおける高密封シール装置を示す分解斜視図である。
【図5】図4の高密封シール装置におけるシールプレートを示す正面図である。
【図6】図5のシールプレートを示し,(A)はシールプレートの側面図であり,(B)は(A)の符号C部分の拡大側面図である。
【図7】図4の高密封シール装置におけるホルダケースを示す背面図である。
【図8】図7のD−D断面におけるホルダケースを示す断面図である。
【図9】図6の(B)に示すシールプレートにおける中間層を,顕微鏡による写真を示す拡大側面図である。
【図10】図5のシールプレートにおける表層を,顕微鏡による写真を示す拡大正面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 軌道レール
2 スライダ
3 高密封シール装置
4 ケーシング
5 エンドキャップ
6 潤滑プレート
7 エンドシール
8 間座
9 封止プレート
11 下面シール
12 軌道溝
20 シールプレート
21 ホルダケース
22 外装部
23 端面部
25 位置決めピン
26,28 凸部
27 ピン孔
33 表層
34 中間層
36 セル
40 下面
42 スポンジ層
43 スキン層
46,47 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って軌道溝が形成された軌道レール,前記軌道レールに複数の転動体を介して摺動自在なスライダ,及び前記スライダの端面に取り付けられた高密封シール装置を備えている直動案内ユニットにおいて,
前記高密封シール装置は,少なくとも1枚の板状のシールプレートを備えており,前記シールプレートは,両側面の表層を形成するゴム状のスキン層,及び前記表層間の中間層を形成するスポンジ層から成る3層構造で構成されていることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記シールプレートにおける前記スポンジ層の多孔部には潤滑剤が強制的に含浸されていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記シールプレートを構成する前記スポンジ層は,原液中に空気をミキシングさせて機械的に発泡させた低発泡倍率に形成されているメカニカルフロスウレタンフォームから構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記高密封シール装置は,外装部と該外装部の一端側で一体である端面部とから形成されたホルダケース,前記ホルダケース内に配設された前記シールプレート,及び前記外装部の他端側の開口部を封鎖するため配設された封止プレートから構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記軌道レールの前記軌道溝へと延びる前記ホルダケースの前記端面部の凸部には,前記シールプレートを前記ホルダケースの収容部に位置決めするための位置決めピンが設けられ,前記軌道レールの前記軌道溝に接する位置まで延びる前記シールプレートに設けた凸部には,前記端面部に設けた前記位置決めピンが挿通するピン孔が形成され,前記シールプレートの前記凸部が前記軌道レールの前記軌道溝に対する密封性を確保することを特徴とする請求項4に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記高密封シール装置の下面を含む前記スライダの下面の全面にわたって下面シールで覆われ,前記軌道レールと前記スライダ及び前記高密封シール装置との隙間が密封されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記スライダは,前記転動体が転動する軌道溝を備えたケーシング,前記ケーシングの端面に取り付けられて前記転動体を方向転換させる方向転換路を備えたエンドキャップ,前記エンドキャップの端面に取り付けられて前記転動体を潤滑する潤滑プレート,及び前記潤滑プレートの端面に配置されたエンドシールを備えており,前記高密封シール装置は,前記エンドシールの端面に間座を介して配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−255498(P2007−255498A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78719(P2006−78719)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】