説明

高密度固化成形体の製造方法

【課題】 2種の混合粉末を原料とした固化成形体において、連続相と分散相を制御することにより、機械的、熱的、電気的、磁気的特性および相対密度を改善した高密度固化成形体の製造方法を提供する
【解決手段】 2種の混合粉末を原料とし、ミクロ組織が連続相と分散相からなる相対密度98%以上の固化成形体の製造方法において、平均粒径の小さい方の原料粉末(以下、原料粉末A)と平均粒径の大きい方の原料粉末(以下、原料粉末B)は、それぞれ金属、半金属、半導体の内の異なる1種の元素からなり、原料粉末Aの混合率が40容量%以下であり、かつ、原料粉末Aと原料粉末Bの平均粒径の比が、式(1)を満たすように、原料粉末A、Bを調整し、小径の粉末が大径の粉末の間隙に流れ込むように混合してなる混合粉末を熱間にて固化成形してなることを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。
(原料粉末Aの平均粒径)/(原料粉末Bの平均粒径)≦(原料粉末Aの混合率)/50 … (1) ただし、原料粉末Aの混合率は容量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種の混合粉末を原料とした固化成形体において、連続相と分散相を制御することにより、機械的、熱的、電気的、磁気的特性および相対密度を改善した高密度固化成形体の製造方法に関するものであり、例えば、スパッタリングターゲット材、半導体放熱板、サーメット工具などの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種ディスクの記録膜、下地膜、反射膜の形成や電極膜の形成、さらには耐摩耗性、摺動性を付与する表面処理などの様々な組成のターゲット材を使用したPVD法が適用されている。近年、これら皮膜の特性改善を目的とした組成開発が盛んに行なわれており、様々な組成のターゲット材が検討、実用化されている。このような様々な組成のターゲット材の中でも、融点が著しく高いもの、液相分離するもの、活性元素を含む溶解時に坩堝と反応するもの、微細均一な組織を必要とするものなど、通常の溶解法での製造が困難なものに関して、混合粉末を適当な方法で固化成形することで複合材料とする粉末冶金法が適用されている。
【0003】
また、上記のように混合粉末を固化成形した複合材料としては、ターゲット材以外にも、超硬合金(WC−Co系)に代表される高硬度と高靱性を有する焼結部材や半導体用放熱基板材(Cu−Mo、Cu−W系等)など多岐にわたる。このような混合粉末を固化成形した複合材料の機械的、熱的、電気的、磁気的特性は組成や相対密度により左右されるが、それら以外にもミクロ組織の影響が非常に大きく、特に2種以上の相を有する複合材料においては、特定の相を連続相(結合相)、分散相(孤立相)とすることにより、これらの特性を制御することが可能である。
【0004】
例えば、焼結工具部材では高硬度なセラミックス粒子を分散相とし高靱性な金属相を連続相とすることで、高硬度と高靱性を両立できる。また、低熱膨張と高熱伝導性が要求される半導体用放熱基板材では、低熱膨張のセラミックスあるいは金属粒子を分散相とし高熱伝導性を有するCu、Alなどを連続相にすることにより低熱膨張と高熱伝導性を両立できる。
【0005】
さらには、Fe、Co、Niなどの軟磁性を有する金属をベースとしたターゲット材を用いてマグネトロンスパッタなどを行なう際に、ターゲット材の透磁率が高いため印加磁場の大半がターゲット内を通り、電子を捕捉する磁場がターゲット外に良好に漏れずスパッタ効果が下がる問題があるが、この場合にも、非磁性相あるいは低透磁率相を連続相とし、Fe、Co、Niなどの強磁性相を分散相にし分断することで複合材料(ターゲット材)全体の透磁率を下げ、良好なスパッタ効率を確保することもできる。上記例のように連続相と分散相を制御することは複合材料の諸特性制御にとって極めて重要な技術である。
【0006】
しかしながら、一般的に混合粉末の固化成形体において、連続相と分散相を意図的に制御することは困難であり、体積率の高い相が自動的に連続相になってしまうことが多い。あるいは、混合した異種粉末間で固相反応し、新たな反応相が形成され、高密度化(相対密度98%以上)する組合せの混合粉末においては、反応相の形態も様々であり、連続相と分散相の制御はさらに困難である。また、高密度化を実現するため液相焼結を適用している例もあるが、液相焼結の場合、連続相、分散相の粗大化による諸特性の劣化を制御するための検討が別途必要となり課題となる。
【0007】
上述した課題に対して、例えば、特開平2−8301号公報(特許文献1)に開示されているように、金属粉末を融点より低い温度で加圧、固化成形し、高密度成形体を得る粉末キャンニング加工による金属材の製造方法が提案されている。また、特開2001−254173号公報(特許文献2)に開示されているように、SiO2 とZnSの混合粉末の固化成形体において連続相と分散相を制御して高出力スパッタ条件で優れた耐割損性を発揮する光記録媒体保護層形成用スパッタリングターゲット焼結材が提案されている。
【0008】
また、特開平5−263163号公報(特許文献3)に開示されているように、バインダーとなるFe、Niの液相温度以上に加熱することで、Fe、Niを結合相として高密度化したW−Ni−Fe焼結合金の製造方法が提案されている。さらには、特開2004−277855号公報(特許文献4)に開示されているように、高密度化のために、Cuの融点(1083℃)お嬢に加熱し液相焼結した高放熱性合金、放熱板、半導体素子用パッケージ、およびこれらの製造方法が提案されている。
【特許文献1】特開平2−8301号公報
【特許文献2】特開2001−254173号公報
【特許文献3】特開平5−263163号公報
【特許文献4】特開2004−277855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1に提案されている方法には、連続相と分散相の制御についての記載はない。また、特許文献2に提案されている方法であるSiO2 とZnSの両原料粉末とも比較的焼結性の低いセラミックス粒子を使用していることから高密度化が困難である。また、特許文献3に提案されている方法では、粗大化抑制のために保持時間や冷却速度などの工夫を必要としている。さらに、特許文献4に提案されている方法では、高密度化のためにCuの融点(1083℃)以上に加熱して液相焼結しなければならないと言う問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意研究を重ねた結果、本発明では、2種の混合原料粉末を液相温度未満で固化成形した相対密度98%以上の高密度固化成形体において、所定の原料粉末粒径比と原料粉末Aの混合率を満たすことで、連続相と分散相が制御された複合成形体の製造方法を提供するものである。
【0011】
その発明の要旨とするところは、
(1)2種の混合粉末を原料とし、ミクロ組織が連続相と分散相からなる相対密度98%以上の固化成形体の製造方法において、平均粒径の小さい方の原料粉末(以下、原料粉末A)と平均粒径の大きい方の原料粉末(以下、原料粉末B)は、それぞれ金属、半金属、半導体の内の異なる1種の元素からなり、原料粉末Aの混合率が40容量%以下であり、かつ、原料粉末Aと原料粉末Bの平均粒径の比が、式(1)を満たすように、原料粉末A、Bを調整し、小径の粉末が大径の粉末の間隙に流れ込むように混合してなる混合粉末を熱間にて固化成形してなることを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。
(原料粉末Aの平均粒径)/(原料粉末Bの平均粒径)≦(原料粉末Aの混合率)/50 … (1)
ただし、原料粉末Aの混合率は容量%
【0012】
また、原料粉末Aが非金属もしくは非金属の化合物以外からなる前記(1)に記載の連続相と分散相が制御された高密度固化成形体の製造方法である。なお、原料粉末が非金属、もしくは非金属の化合物以外からなるとは、金属、半金属、半導体や、それらの化合物、あるいはそれらの(亜/過)共晶、(亜/過)共析組織が主な対象となることを意味する。
【0013】
(2)前記(1)に記載の原料粉末Aが、Si,Cu,Co,Ti,Ni,Fe,Alのいずれか1種からなることを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。
(3)前記(1)に記載の原料粉末Bが、Cr,W,Cu,Co,Moのいずれか1種からなることを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載する混合粉末の固化成形をHIP処理にて行うことを特徴とする高密度固化成形体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0014】
以上のべたように、本発明は2種の混合粉末を原料とした固化成形体において、混合率の少ない方の粉末成分濃度が高い相でも、意図的に連続相とすることを可能にすることによって、機械的、熱的、電気的、磁気的特性および焼結性に優れた高密度固化成形体を得ることが出来る極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
先ず、本発明の前提条件とする、2種の混合粉末を原料とし、ミクロ組織が連続相と分散相からなる相対密度98%以上の固化成形体であること、相対密度98%未満では、異常放電などの原因となりターゲット材としてはスパッタ不良を起こしたり、あるいはサーメット工具としては機械的特性の劣化などにつながる。
【0016】
上述した相対密度98%以上の固化成形体において、本発明の第1の要件は、粒径比と混合率について、式(1)を満たす原料粉末を選択することで、連続相と分散相を制御していることである。式(1)を満たす条件の混合粉末を原料粉末として使用することで、混合率が40容量%以下と低い相でも連続相にすることができる。この式(1)から分かる通り、より低い体積率の相を連続相とした複合材料を得るためには、原料粉末Bより平均粒径の小さい原料粉末Aを用いることが必要であり、本発明は鋭意検討の結果、両原料粉末の混合率と平均粒径比の相関により連続相と分散相を制御する方法を明らかにしたものである。
【0017】
上記相関の作用については、以下の2点が推測される。
(1)粒径の異なる粉末を固化成形する際、より高い表面エネルギーを有する小径の粉末が表面エネルギーを低下させるために大径の粉末の表面を覆うように原子拡散し結合することで、小径粉末が連続相になるのではないかと推測される。この概念を図1に示す。図1は、小径粉末と大径粉末が焼結し小径粉末が連続相になると推測される概念図である。この図に示すように、表面エネルギーの高い小径粉末2が大径粉末1の表面を覆うように拡散し結合することにより連続相3を形成する状態が分かる。さらに、(2)固化成形する際、小径の粉末が大径の粉末の隙間に流れ込むことにより連続相となるのではないかと推測される。より好ましくは、原料粉末Aの混合率が25容量%以下の固化成形において有効である。
【0018】
本発明の第2の要件は、液相温度未満での固化成形であること。液相温度以上で固化成形すると、ミクロ組織の粗大化が顕著となり諸特性が劣化する。また、より好ましくは、有機バインダーなどを使用せず、熱間静水圧プレス(HIP)、アップセットにより固化成形する方が高密度化が容易である。次に、本発明の要件は、原料粉末Aが非金属もしくは非金属の化合物以外であること。原料粉末Aとして、上記粉末を使用することで、固相焼結でも良好な固化成形が可能である。
【0019】
さらに、連続相の融点が分散相の融点より300℃以上低いことである。高融点相と低融点相よりなる複合材料を液相温度未満で固化成形する場合、高融点相では原子拡散が活発でないため高密度化が困難である。しかしながら、本発明により意図的に低融点相を連続相とすることで、低温でも高密度に固化成形が可能であり、特に、両相の融点差が300℃以上であるときの固化成形に有効である。両相については、単相、複合相(共晶、亜共晶、過共晶、共析、亜共析、過共析など)、また金属相や非金属相などが考えられる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に数種類の平均粒径に分級したCr粉末とSi粉末を混合した原料粉末を、HIP(1390℃、5分)した成形体の連続相と分散相の構成相の結果、および表2に数種類の平均粒径に分級したW粉末とCu粉末を混合した原料粉末を、アップセット(950℃)した成形体の連続相と分散相の構成相の結果をそれぞれ示す。これにより原料粉末の平均粒径比と混合率により連続相、分散相を制御できることを示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1および表2に示す連続相および分散相の構成相については、研磨試料のEDX分析により同定した。また、相対密度については、研磨試料の光学顕微鏡写真を画像解析し、残存ポアの面積率より相対密度を算出した。ただし、光学顕微鏡写真は100倍で、合計1mm×1mmの視野について画像解析した。さらに、抗折力はアップセット材より1.7×1.7×20の試料を切り出し、支点間距離10mmの3点曲げ試験により測定した。その結果、500MPa以上のものを○、500MPa未満のものを×とした。
【0024】
表1に示すように、No.1、4〜5、7〜9は本発明例であり、No.2〜3、6は比較例である。本発明例であるNo.1、4〜5、7〜9は、いずれも(Si粉末の平均粒径)/(Cr粉末の平均粒径)≦(Si粉末の混合率)/50を満たしており、その結果、成形体の連続相の構成相は混合粉末の混合率が40容量%以下と低いにも関わらず、Si化合物(Cr3 Si)となっていることが分かる。一方、比較例であるNo.2〜3、6については、いずれも(Si粉末の平均粒径)/(Cr粉末の平均粒径)>(Si粉末の混合率)/50であり、その結果、混合率の高いCr固溶体が連続相になっていることが分かる。
【0025】
また、表2に示すように、No.10、13、16〜17は本発明例であり、No.11〜12、14〜15、18は比較例である。本発明例であるNo.10、13、16〜17は、いずれも(Cu粉末の平均粒径)/(W粉末の平均粒径)≦(Cu粉末の混合率)/50を満たしており、その結果、成形体の連続相の構成相は混合粉末の混合率が40容量%以下と低いにも関わらず、Cu固溶体となっていることが分かる。
【0026】
一方、比較例であるNo.11〜12、14〜15、18については、いずれも(Cu粉末の平均粒径)/(W粉末の平均粒径)>(Cu粉末の混合率)/50であり、その結果、混合率の高いW固溶体が連続相になっていることが分かる。また、式(1)を満たしていないため、変形能、反応性、焼結性に劣るW固溶体が連続相になっている比較例であるNo.11〜12、14〜15、18は相対密度が低いのに対し、式(1)を満たし、変形能、反応性、焼結性の良好なCu固溶体を連続相にした本発明例No.10、13、16〜17は、いずれも高密度価が達成されており、抗折力も高いことが分かる。
【0027】
上記実施例はCr粉末とSi粉末、およびW粉末とCu粉末を混合した原料粉末について述べたが、この実施例以外にも、Co(平均粒径5μm):10容量%、W(平均粒径30μm):90容量%の混合粉末を用いた1390℃HIP成形にて、Coを主とした化合物を連続相にした成形体を得た。さらに、Cr(平均粒径182μm):75容量%、Ti(平均粒径51μm):25容量%の混合粉末を用いた1150℃アップセット成形にて、Ti固溶体を連続相にした成形体を得た。したがって、特に、上述した実施例に限定するものでない。
【0028】
さらに、Ni(平均粒径5μm)とCu(平均粒径125μm)の混合粉末、Fe(平均粒径2μm)とCo(平均粒径13μm)の混合粉末、Al(平均粒径9μm)とMo(平均粒径25μm)の混合粉末、Fe50mass%Ni(平均粒径25μm)とCu(平均粒径125μm)の混合粉末において、いずれの場合も微粉原料の容量%の40%以下とした組合せにおいて、微粉原料を主とした連続相を有する成形体を得た。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】小径粉末と大径粉末が焼結し小径粉末が連続相になると推測される概念図である。
【符号の説明】
【0030】
1 大径粉末
2 小径粉末
3 連続相


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の混合粉末を原料とし、ミクロ組織が連続相と分散相からなる相対密度98%以上の固化成形体の製造方法において、平均粒径の小さい方の原料粉末(以下、原料粉末A)と平均粒径の大きい方の原料粉末(以下、原料粉末B)は、それぞれ金属、半金属、半導体の内の異なる1種の元素からなり、原料粉末Aの混合率が40容量%以下であり、かつ、原料粉末Aと原料粉末Bの平均粒径の比が、式(1)を満たすように、原料粉末A、Bを調整し、小径の粉末が大径の粉末の間隙に流れ込むように混合してなる混合粉末を熱間にて固化成形してなることを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。
(原料粉末Aの平均粒径)/(原料粉末Bの平均粒径)≦(原料粉末Aの混合率)/50 … (1)
ただし、原料粉末Aの混合率は容量%
【請求項2】
請求項1に記載の原料粉末Aが、Si,Cu,Co,Ti,Ni,Fe,Alのいずれか1種からなることを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の原料粉末Bが、Cr,W,Cu,Co,Moのいずれか1種からなることを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載する混合粉末の固化成形をHIP処理にて行うことを特徴とする高密度固化成形体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−261107(P2010−261107A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151005(P2010−151005)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【分割の表示】特願2005−79046(P2005−79046)の分割
【原出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】