説明

高強度、高伸び率金合金ボンディングワイヤ

【課題】金合金線からなるボンディングワイヤにおいて、所要の伸びと破断強度の組み合わせを得る。
【解決手段】高純度金(Au)に銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)の内の少なくとも一種以上を0.5〜30質量%含有することによって、ワイヤ伸線加工の熱処理温度において、450〜650℃の範囲で、伸び率変化の平坦な領域が出現する。この温度範囲において、ワイヤの破断強度は低下するが、なお高純度金線の標準とされる伸び率4%の熱処理温度に対応する強度以上の強度を維持する。
従って、この平坦領域で熱処理することにより、温度変化によらず一定以上の強度の合金ワイヤが得られ、また温度域を適宜に選択することによってこれらの伸び率に対して強度の異なる性質のワイヤが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に用いられるICチップ電極と外部リード等の基板の接続に好適な金合金ボンディングワイヤ、特に、車載用や高速デバイス用等の高温となる環境下で使用される金合金ボンディングワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置のICチップ電極と外部リードを接続する金線として、高純度金に他の金属元素を微量含有させた純度99.99質量%以上の金線が信頼性に優れているとして多用されている。このような純金線は、一端が超音波併用熱圧着ボンディング法によってICチップ電極上の純AlパッドやAl合金パッドと接続され、他端が基板上の外部リード等に接続され、その後、樹脂封止して半導体装置とされる。このようなAl合金パッドは、通常、真空蒸着などによって形成され、Al−Cu合金、Al−Si合金、Al−Si−Cu合金等が一般的である。
【0003】
ところが、樹脂封止された半導体装置が高温の過酷な使用環境で高度の信頼性が要求される車載用ICや、動作温度が高くなる高周波ICなどで使用されると、カーケンダイルボイドと呼ばれる空隙やクラック、或いは、封止樹脂中に含まれるハロゲン成分による腐食などが発生し、AlパッドやAl合金パッドと純金線との接合界面における抵抗値の上昇や接合強度の低下を招く。このため、これまでよりも高い接合信頼性(ある環境下でのボールボンディングによる接合界面における抵抗値と接合強度の持続性)を確保することが求められ、Au−1質量%Pd合金のボンディングワイヤが使用されている。
このAu−Pd合金のワイヤは、高温環境下でのAl合金パッドと純金線との接合界面においてAuがAlパッド中へ拡散するのをPdによって抑制できるため、接合界面のハロゲン成分による腐食を受けやすいといわれる金属間化合物Au4Alの形成が比較的妨げられ、Al合金パッドやAl合金パッドと金合金線との接合部の劣化を抑えることができ、接合強度の低下を招くことがないという利点を有する。このAu−1質量%Pd合金ワイヤは、純度99.99質量%以上の純金線に比べて機械的特性が優れているものの、電気的特性であるボンディングワイヤの比抵抗値が高い。例えば、純度99.99質量%の純金線の比抵抗値が2.3μΩ・cmであるのに対し、Auー1質量%Pd合金は3.0μΩ・cmである。このため、高密度実装を行おうとすると、ワイヤの発熱によって素子が誤動作をしたり、断線をしたりするほか、信号の応答速度も遅延するおそれが生じる。ボンディングワイヤの径を25μmから15μmへと細くしてゆくと、ますますこの傾向が強まる。しかも、Au−1質量%Pd合金の場合、詳細なメカニズムは不明であるが、Pdが存在すると、接合界面で予想外にAlの酸化を促進させることがある。例えば、Au−1質量%Pd合金からなるボンディングワイヤを樹脂封止せずに大気中で高温放置試験をすると、微量添加元素を含有した純度99.99質量%以上のAuボンディングワイヤよりもAlの酸化物Al23が多く生成し、弱くなってしまうことがある。
【0004】
また、Auと全率固溶するAgを合金化してボンディングワイヤとして使用するという着想は、特開昭52−51867合公報や特開昭64−87734号公報などで古くから知られている。そこで、純度99.99質量%以上のAuに対して機械的強度を増強する微量添加元素として知られているCaやLaを、Ag微量添加したAu合金に応用することが考えられて試された。これは、純度99.99質量%程度の純金線の比抵抗値とほぼ同等の比抵抗値を得る目的で、Auを全率固溶するAgを0.06〜0.95質量%しつつ、Ca、Y及び希土類元素の内の1種以上を0.001〜0.005質量%微量添加する半導体ボンディングワイヤである(後述する特許文献1)。このボンディングワイヤは、Agを0.05〜0.95質量%並びにCa,Y及び希土類元素の内の1種以上を0.0001〜0.005質量%含み、残部がAu及び不可避不純物とするAu合金である。このボンディングワイヤは、高強度であり、過度な比抵抗値の上昇が抑えられ、かつループ変形が起きない、半導体素子用金合金ワイヤを提供することを目的とする(同公報段落0010)。
【0005】
ところが、これまでの金合金のボンディングワイヤは、ほとんど純度99.99質量%以上の金(Au)ボンディングワイヤにおける機械的性質の測定方法を踏襲し、それによる伸び率が4〜8%の範囲で破断強度を求めていた。
ボンディングワイヤの伸びと応力との関係は、引っ張り試験により評価されるが、測定時にボンディングワイヤが破断するまでの最大応力値を引っ張り強さ(破断強度)、そのときの伸びを破断伸びといい、機械的性質として破断伸びを大きくすると引っ張り強さは小さくなり、一般に両者は相反する傾向を示す。
この引っ張り強度を大きくすると伸び率が低下して破断しやすくなり、また伸び率を大きくとるとボンディングワイヤの引っ張り強度、剛性が低下して、リーニングやワイヤフローを生じるようになる。このため、これらの機械的性質のバランスを兼ねて通常、伸び率4%程度の値が採用される(特許文献2参照)。
しかしながら、これらの領域は、これらの機械的性質を付与する熱処理温度との関係が、熱処理温度の上昇につれて下降する破断強度曲線と逆に上昇する伸び率を示す曲線とが交差する関係にある。
この傾向は、純度99.99質量%以上の高純度金(Au)ボンディングワイヤの場合は、本来伸び率が高く、かつ、破断伸び4%の近傍での伸び率を表す曲線および破断強度を表す曲線の傾斜が緩やかであるため、破断伸び4%の近傍になる熱処理条件に幅があっても大きな変化とはならなかった。
ところが、添加元素の含有量が多く、金の純度が低い金合金の場合には、一般に高強度であって、破断強度が高くかつ伸び率が小さい。これらのバランスをとるため熱処理によって伸び率を向上させると共に破断強度を適正範囲に低下させるが、熱処理温度を上げて、伸び率を向上させると伸び率4%近傍から急激に伸び率が上昇し、これに対する破断強度は逆に急激に低下するようになり、両者の値のバランスを取ることが極めて困難となる。
これらの関係を概念的に図3(A)、(B)の模式図に示す。図において高純度金ワイヤは、伸び率4%近傍となる熱処理温度近傍で伸び率及び破断強度の変化を表す曲線の傾斜が緩やかであり、熱処理温度変化に対して許容度が大きく、また図の熱処理温度域の幅に対して伸び率の変化の幅が小さい(同様に破断強度の変化幅も小さい)ため、伸び率を基準として破断強度を調整することも容易である。
他方、強化元素を含有して強度を向上した合金ワイヤは、熱処理温度の変化に対しての伸び率、及び破断強度共に大きく変化し、いずれの曲線も傾斜が大きくなるため、(B)に図示するように同様の熱処理温度変化の幅に対して、伸び率変化の幅(破断強度変化の幅も)が著しく拡大し、熱処理温度のわずかな変化に対してこれらの値が大きく変わるようになる。
したがって、伸び率4%近傍をいわば指標とする従来の熱処理に倣って、これらの金合金ワイヤの伸び率と強度・剛性のバランスを得るため、伸び率をこれらの強度に合わせて5〜10数%に設定しようとすると、その熱処理温度領域では温度変化に伴う伸び率変化及びワイヤ強度変化を表す曲線が急傾斜で交差し、熱処理条件の設定、維持が困難であり、また得られるワイヤの性質が一定しない。
このため、性質の一定したボンディングワイヤが得られず、リーニングやループ高さのバラツキが生じる原因となる。
一方、ボンディングワイヤが細くなり、ボンディングピッチが狭く高密度になり、かつ、一つの半導体素子中で多段や長短の差を設けて配線するようになってくると、金合金のボンディングワイヤではセカンド接合性のバラツキやリーニングによるループ高さのバラツキが顕在化し、ボンディングワイヤの接合性の良否に大きく影響するようになってき始めた。
ここで、リーニングとは、ボンディングワイヤをパッド側にボールボンディングしてボール直上部でワイヤを直立させ、リード側に向けて緩やかに傾斜をつけるループ形成において、ワイヤ直立部が倒れて隣接するワイヤと接触するおそれがある不具合のことである。特に、高密度実装においては、ボンディングワイヤが細く、かつ、ワイヤ間の間隔も狭くなるので、リーニングが発生しやすく、半導体装置の組立収率を下げる大きな要因となっている。
【特許文献1】特開2003−7757号公報
【特許文献2】特開2009−33127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。本発明は、ボンディングワイヤ用金合金において、熱処理温度が多少ばらついても、また、ボンディングワイヤの金合金の組成が多少異なっていても、リーニングによるループ高さのバラツキが少なく、一定の機械的性質を有するボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、熱処理温度の上昇と共に伸び率が平坦になる領域を有する、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、又は白金(Pt)の内の少なくとも1種以上を0,5〜30質量%及び残部が金(Au)からなる金合金のボンディングワイヤにおいて、この平坦な熱処理温度領域を利用してボンディングワイヤの熱処理を行えば、リーニングによるループ高さのバラツキが少ないボンディングワイヤが得られることを見出した。
また、上記合金は、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、希土類元素(Y、La、Ce、Eu、Gd、Nd、及びSm)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、すず(Sn)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)又はホウ素(B)の内の少なくとも1種以上を合計で10〜150質量ppm含んでいても、このワイヤ断面の組織構造がほとんど変化しないことが解った。
【0008】
(a)第一の本発明は、熱処理温度の上昇と共に伸び率が平坦になる領域を有する、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、又は白金(Pt)の内の少なくとも1種以上を0.5〜30質量%及び残部が金(Au)からなるボンディングワイヤであって、その伸び率が平坦な領域である450〜650℃の熱処理されたことを特徴とする半導体素子用ボンディングワイヤである。
(b)また、第二の本発明は、熱処理温度の上昇と共に伸び率が平坦になる領域を有する、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)又は白金(Pt)の内のすくなくとも1種以上を合計で0.5〜30質量%及び残部が金(Au)からなるボンディングワイヤであって、その伸び率が平坦な領域である450〜650℃の熱処理された後に水冷されたことを特徴とする半導体素子用ボンディングワイヤである。
【0009】
本発明の金合金は、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)の内の少なくとも1種以上を0.5〜30質量%及び残部が金(Au)からなる。
銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)は、金合金に含有させる元素としては代表的なものである。
このうち、銅(Cu)または銀(Ag)は、周知のように、少量の場合でもAuの中に完全に固溶してAu−Cu合金またはAu-Ag合金を形成する。Au-Cu合金またはAu-Ag合金は、平坦な領域の熱処理の温度範囲がパラジウム(Pd)または白金(Pt)の金合金よりも広い。これは、Cu原子またはAg原子がAuの格子中に満遍なく散在し、均質なAu-Cu合金またはAu-Ag合金を形成していることによるものと考えられる。
他方、パラジウム(Pd)は、0.5〜2質量%の範囲および残部が金(Au)からなる範囲が実用的観点から好ましい。また、白金(Pt)は、同様の理由から、0.5〜5質量%の範囲および残部が金(Au)からなる範囲が好ましい。また、銀(Ag)は、同様の理由から、5〜20質量%の範囲および残部が金(Au)からなる範囲が好ましい。
本発明の金合金において、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)の内の少なくとも1種以上を0.5〜30質量%含有すれば、この金合金は熱処理温度の上昇とともに伸び率が平坦になる領域を有する。伸び率が平坦になる領域や伸び率は、含有金属の種類と量および熱処理温度によっていくぶん異なる。Au-Cu合金にとってより好ましい範囲は、0.5〜5質量%の範囲である。Au-Ag合金にとってより好ましい範囲は、5〜20質量%の範囲である。いずれも平坦な領域の熱処理の温度範囲がより大きくなるからである。
他方、純度99.99質量%以上の金合金は、このような平坦な領域がなく、熱処理温度の上昇と共に伸び率が上昇を続け、一定の張力をかけながら熱処理すると、最終的には切れてしまう。なお、上記金合金も熱処理温度が高くなりすぎると、純度99.99質量%以上の金合金と同様、熱処理温度の上昇と共に伸び率が上昇を続け、最終的には切れてしまう。
純度99.99質量%以上の金合金(5N)及びAg、Cu、Pd、Ptを添加した金合金のこれらの性質について、表1の組成の金及び金合金の熱処理温度と伸び、及び熱処理温度と破断強度との関係を図1及び2に示す。
【表1】

表中、BL/MPa:破断荷重、EL%:伸び率%
【0010】
図1に示すように、5N高純度金のボンディングワイヤは、伸び率4%近傍の熱処理温度350〜400℃付近で伸び率変化は比較的フラットな傾向にあり、一方、図2の破断荷重と熱処理温度との関係では、同じ範囲の熱処理温度では同様に比較的緩やかに変化する傾向を見せる。
これに対して、Au-16%Ag 、Au-18%Ag、Au-1%Cu、Au-1.5%Pdの各合金についてそれぞれ、熱処理温度と伸び率、及び破断荷重の関係をグラフにみると、従来、伸び率5〜10数%となる熱処理を行った温度範囲では、伸び率変化は極めて鋭く急上昇しており、これに対する破断荷重は逆方向に急激に降下することがわかる。このため、この温度領域で、伸び率と強度とを望む範囲に制御することは極めて困難である。
ところが、これらの合金について熱処理温度をさらに高めると、伸び率の変化が合金組成によって異なるが、450℃近傍から8〜13%でほぼ平坦となり、600℃以上、あるいは650℃に達してもその傾向を維持する。
また、これに対して、破断荷重を示す図2のグラフによれば、5N純金線の場合と同様に破断荷重が低下するが、元来高強度であるため、450℃〜650℃の熱処理温度において、5N純金線の4%伸び率における破断荷重以上の値を維持することがわかる。
以上の知見は高純度金に対してこれらの添加元素を加えて厳密に検証した結果得られたものであるが、これらの性質を利用することによって、幅広い熱処理温度域、すなわち安定した熱処理条件下で、上記の伸び率に応じた強度の金合金ワイヤが得られ、また、熱処理温度を制御して強度の異なる合金ワイヤが得られ、しかも、これらの性質のバラツキが小さく、安定した条件で得られる。
これらの性質は、合金線に添加したAg、Cu、Pd、Ptのそれぞれについて、Ag:5〜20質量%、Cu:0.5〜30質量% Pd:0.5〜2質量%、Pt:0.5〜5質量%の範囲において発揮される。伸び率と強度とのバランスは、これらの金合金ワイヤに応じて上記の特性を利用して定めればよく、ボンディングワイヤに求められる多様な性質に応じたボンディングワイヤを得ることができる。
以下に、本発明の金合金ボンディングワイヤの熱処理条件を示す。
【0011】
(熱処理温度)
本発明の金合金の熱処理温度に対する伸び率変化が平坦になる領域の開始温度は、一般的に450〜650℃の温度範囲である。好ましくは、本発明の熱処理は、伸び率が平坦になる領域の温度(以下、「ST」という。)から、ST+200℃までの温度で、より好ましくはSTからST+100℃までの温度範囲がよい。結晶粒の大きさがより均質になるからである。
【0012】
(一定の張力)
本発明の金合金の伸び率変化が平坦になる領域での熱処理は、最終の伸線ダイスとスプールに巻き取られるまでの間で行われるので、ボンディングワイヤには一定の張力が加わっている。
【0013】
(熱処理後の水冷)
熱処理後に急冷することによって、ボンディングワイヤの部分的な結晶粒の粗大化が防止でき、数万mのボンディングワイヤであっても、全体にわたってより均質な結晶粒が得られる。水冷は、ボンディングワイヤの巻取り直前に水冷することが好ましい。ボンディングワイヤはスプールに一定の張力の下で巻き取られていくので、ボンディングワイヤに剛性がもたらされる。このため、ボンディングワイヤの線径が8〜16μmと細くなればなるほど、熱処理の急冷効果が発揮される。
【発明の効果】
【0014】
上述のように、本発明のボンディングワイヤ用金合金線は、ボンディングワイヤの結晶組織構造についてこれまでの粒径よりも大きな粒径の結晶粒が規則正しく整列した構造となっており、また、ボンディングワイヤの機械的性質についてはこれまでの同系合金ワイヤよりも軟質になっている。そのため、本発明の金合金からなるボンディングワイヤは、これまでのボンディングワイヤよりもリーニングやループ高さのバラツキがなく、しかも、超音波接合による第二ボンドの接合強度のバラツキが少なくなるという効果がある。また、本発明の金合金は、第一ボンドにおけるAlパッドまたはAl合金パッドとの接合性も良好なことから、ボンディングワイヤの接合信頼性も確保することができ、高温や常温といった使用環境を問わず、半導体装置に対する接合信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】高純度金ワイヤ及び本発明金合金ワイヤの熱処理温度に対する伸び率変化。
【図2】高純度合金ワイヤ及び本発明金合金ワイヤの熱処理温度に対する破断強度(破断荷重)の変化。
【図3】高純度金合金ワイヤと強化元素含有高強度合金ワイヤの熱処理温度と伸び率及び破断強度の関係を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の最良の形態は、連続してダイス引きされた本発明の金合金ワイヤが、最終の伸線ダイスからスプールに巻き取られるまでの間にST〜ST+100℃の熱処理温度でなされた場合に達成される。ボンディングワイヤは細いので、大気中でも急冷されるが、水冷することにより品質が安定する。特に、Au−20質量%Ag合金、Au-0.5〜5質量%Cu合金およびAu-0.8〜1.2質量%Pd合金の場合には、上記の条件下でリーニングやループ高さ(半導体チップからのワイヤ高さを言う。以下同じ。)のバラツキや第二ボンドの接合強度のバラツキについて安定した接合信頼性が得られる。
【0017】
表1に示される本発明の金合金ワイヤについて、ボンディングワイヤとしての特性を確認するため、それらの範囲の成分組成を有する実施例金合金を溶解鋳造し、伸線加工することにより20μmの線径を有する本発明に係るボンディングワイヤ用金合金線(以下、本発明ワイヤという。)No.1〜27と本発明の組成範囲に入らない比較例のボンディングワイヤ用金合金線(以下、比較例ワイヤという。)No.28〜36を製造した。
これらの本発明ワイヤNo.1〜27および比較ワイヤNo.28〜36をKulicke&Soffa(キューリッケ・アンド・ソファ)社製のワイヤボンダー(商品名:sMaxum plus)にセットし、半導体ICチップに搭載されたAl−0.5質量%Cu合金からなる50μm角Al合金パッドに、加熱温度:200℃、ループ長さ:5mm、ループ高さ:220μm、圧着ボール径:54μm、圧着ボール高さ:8μm,の条件でボンディングを行って、ループ高さのバラツキおよび第二ボンドの接合強度のバラツキについて評価を行った。各々の合金組成に対し、1000本ボンディングしたときのリーニングとループ高さのバラツキを測定した。それらの評価結果を表2および表3の評価項目欄に示す。
(評価方法)
ここで、リーニングは、第一ボンドから第二ボンドまでのループを描いたとき、ループ高さ方向(Z方向)におけるチップからの高さの最高点をXY平面に投射して第一ボンドと第二ボンドを結んだXY平面上の直線からの最短距離のずれを自動三次元測定器によって測定し、これをリーニング線(傾き量)として表した。また、ループ高さは、第一ボンドから第二ボンドまでループを描いた際に自動三次元測定器のカメラを追随させ、ループの高さ方向(Z方向)における最高点を測定した。そして、リーニングおよびループ高さのそれぞれのバラツキを算出し、標準偏差によって定量的評価を行った。なお、第二ボンドの接合強度は、第二ボンドの接合部より200μm第一ボンド側で万能ボンドテスターにてプル強度試験を行った。
【表2】

【表3】

(*)比較例36の平坦な領域の開始温度(ST)は、550℃であり、実施温度530℃はSTよりも低い。
【0018】
表2、3の評価項目欄中、リーニングはワイヤ傾き量の偏差値を示し、◎印は5μm未満、○印は5μm以上8μm未満、△印は8μm以上10μm未満、×印は10μm以上をそれぞれ示す。
また、表の評価項目欄中、ループ高さはバラツキの標準偏差の値を示し、◎印は15μm未満、○印は15μm以上20μm未満、△印は、20μm以上30μm未満、×印は、30μm以上をそれぞれ示す。
また、表の表評価項目欄中、第二ボンドの接合強度は、標準偏差の値を示し、◎印は0.8未満、○印は0.8以上1.0未満、△印は、1.0以上1.5未満、×印は、1.5以上をそれぞれ示す。
【0019】
表2及び3から示される結果から明らかなように、本発明の金合金ワイヤはその発明範囲の含有元素組成に対して伸び率変化が平坦化する領域において、熱処理することを特徴としており、その結果得られた本発明ワイヤは軟質であるため機械的性質が良く、リーニング、ループ高さのバラツキおよび第二ボンドの接合強度が良好であるのに対し、これらの組成をはずれ、これらの特性を有していない比較例ワイヤであるNo.28〜36はこれらの評価の少なくともいずれか一つは不良となることが分かる。
すなわち、本発明ワイヤは、これらの熱処理温度範囲において伸び率がほぼ一定に保たれるため、この条件を利用することによって、温度変化によらず一定以上の強度の合金ワイヤが得られ、また温度域を適宜に選択することによってこれらの伸び率に対して強度の異なる性質のワイヤが得られる。さらに、これらの条件の組み合わせから、リーニング及びループ高さに関する性質のバラツキが少なくほぼ一定の性質のものが得られる。
これに対して、比較例のものは熱処理温度変化に対する伸び、及び強度の変化が大きいため、一定の性質のものが得られず、また、機械的性質、強度を向上するために添加元素を多く加えても、いずれもリーニング及びループ高さにおいて不良となり、伸び率と強度とのバランスが保たれていない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のボンディングワイヤは、熱処理温度に対する伸び率の変化の平坦な領域が存在することを利用して、所望の破断強度のワイヤを得ることができ、また、熱処理温度のこれ伸び率変化の平坦な領域で熱処理することにより、これらの性質の安定したワイヤを得ることができるため、ボンディングワイヤに求められる種々の性質のワイヤを安定して製造することが可能であり、これらの生産性向上にも寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)の内の少なくとも一種以上を0.5〜30質量%および残部が金(Au)からなるボンディングワイヤであって、熱処理温度の上昇に伴って上昇する伸び率が平坦になる450〜650℃の領域で熱処理されたことを特徴とする半導体素子用ボンディングワイヤ。
【請求項2】
銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)の内の少なくとも一種以上を合計で0.5〜30質量%および残部が金(Au)からなるボンディングワイヤであって、熱処理温度の上昇に伴って上昇する伸び率が平坦になる450〜650℃の領域で熱処理されたことを特徴とする半導体素子用ボンディングワイヤ。
【請求項3】
銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)の内の少なくとも一種以上を0.5〜30質量%および残部が金(Au)からなるボンディングワイヤであって、熱処理温度の上昇に伴って上昇する伸び率が平坦になる450〜650℃の領域で熱処理された後に水冷されたことを特徴とする請求項1または2記載の半導体素子用ボンディングワイヤ。
【請求項4】
上記金合金が銅(Cu)を0.5〜5質量%および残部が金(Au)からなる金合金であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体素子用ボンディングワイヤ。
【請求項5】
上記金合金が銀(Ag)を5〜20質量%および残部が金(Au)からなる金合金であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体素子用ボンディングワイヤ。
【請求項6】
上記金合金がパラジウム(Pd)を0.5〜2質量%および残部が金(Au)からなる金合金であることを特徴とする請求項1または2記載の半導体素子用ボンディングワイヤ。
【請求項7】
上記熱処理は伸び率が平坦になる領域の開始温度(以下「ST」という。)からST+200℃までの温度範囲で行なわれたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体素子用ボンディングワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−129602(P2011−129602A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284716(P2009−284716)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000217332)田中電子工業株式会社 (51)
【Fターム(参考)】