説明

高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板

【課題】固溶強化元素Mnの多量添加で引張強度390MPa以上とし、優れた絞り成形性と耐パウダリング性に優れた、自動車外板パネル用合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】 合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、C:0.0005〜0.025%、Si:0.15%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.06%以下、S:0.02%以下、N:0.006%以下、sol.Al:0.005%未満、Ti:0.005〜0.05%およびNb:0.05〜0.20%O:0.0020〜0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する鋼板から構成する。化学組成は、前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0001〜0.0020%を含有してもよく、Cr:1%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、W:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下の群から選ばれる1種または2種以上を含有してもよく、O:0.0020〜0.0100%を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドパネル等の自動車外板パネルの素材に好適な高強度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。特に、本発明は、優れた絞り成形性と耐パウダリング性とを兼ね備えた高強度の合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性の向上や軽量化のニーズを受けて、車体骨格部材についてのみならず、サイドパネル、フード、ドア、フェンダー等の自動車外板パネルに用いられる薄鋼板についても、高強度化が進められている。これらの薄鋼板には、表面品質のみならず、優れたプレス成形性、特に、優れた絞り成形性が求められている。「表面品質」とは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の外観におけるめっきムラの無い美麗さおよびプレス成形後のめっき品質のことであり、最近は、「表面品質」として、特にパウダリング性の向上が求められている。一方、「絞り成形性」は、サイドパネルのような絞り加工が含まれる部品へのプレス成形性のし易さであり、JIS Z 2254に記載の塑性歪み比であるランクフォード値(r値)と極めて良好な相関があり、従来から、この値を絞り成形性の指標として採用し、かつ、材料設計の指標として広く使用されてきた。このr値が高いほど絞り成形性が良好であることが知られている。
【0003】
優れた絞り成形性を実現するために、高いr値を得る方法として、C含有量を30ppm程度以下とした極低炭素鋼にTiやNbなどの炭窒化物生成元素を添加することが有効であることが知られている。かかる鋼は、一般的にIF鋼として軟鋼を主体に広く用いられてきた。さらに、高いr値を備えるとともに高い強度を備える鋼板として、IF鋼をベースとしてMn、Pなどの固溶強化元素を多量に添加した鋼板が開発されている。
【0004】
一方、特許文献1には、固溶強化元素であるMnを削減する目的でNbCやTiCで析出強化する技術が開示されている。また、特許文献2では、C:0.0040〜0.01%を含有する鋼板にNbを適正に添加することにより、NbCの微細析出物を生成させて組織の細粒化を図り、機械特性を向上させる鋼板が開示されている。
【0005】
しかし、これら技術でも引張強度390MPa以上の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得る場合には、析出強化のみではそのような高強度化を達成できなかった。
特許文献3には、冷間圧延鋼板でr値の面内異方性を改善させるために、Al含有量を低減し、MgおよびTiを添加し、鋼中に含有する0.1μm以下のMgとTiの非常に微細な酸化物を密に分散させるようそのサイズ、量を制御した鋼板が開示されている。しかしながら、これは、強度の低い軟鋼をベースとしているため、390MPa以上の引張強度を得ることはできない。またMgの作用によって酸化物を微細化する技術であって、反応性の極めて高いMgを溶製時の溶鋼中に添加してその酸化物を均一に分散させることは非常に困難であり操業面で問題がある。
【0006】
特許文献4には、Al含有量を低減し、Tiを含有させた極低炭素鋼の薄鋼板、およびその製造方法が開示されている。しかし、390MPa以上の引張強度を得ることはできない。また、この製造方法は、微細でかつ、部分的に固い晶出相がなく、介在物全体が変形・破砕しやすい組成に介在物をコントロールしている。その結果、介在物欠陥が減少し、さらに鋼中のsol.Al含有量が低減されるので、再結晶温度が低く、高いプレス成形性を有する鋼板を得ることができるとされている。しかし、介在物性欠陥に起因する表面性状または成形性への影響には触れられている、特に絞り成形性の最も重要な指標であるr値の改善に関する記述はない。
【特許文献1】特開平10−46289号公報
【特許文献2】特開2000−303145号公報
【特許文献3】特開平11−323476号公報
【特許文献4】特開平10−226843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述したように、優れた絞り成形性と、優れた表面品質とを有する高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られていない現状に鑑みてなされたものである。
本発明は、サイドパネル等の自動車外板パネルとして使用するのに好適な高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【0008】
より具体的には、本発明は、固溶強化元素であるMnの多量添加に伴う機械特性、特にr値の劣化の抑制を可能にすることにより、高強度と優れた絞り成形性とを同時に有するとともに耐パウダリング性に優れためっき品質の良好な自動車外板パネルとして使用できる、引張強度390MPa以上の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の目的達成のために、IF鋼に高強度化のためのMnおよびPを加えた鋼種に着目した。しかし、これらの上記元素の添加は、本発明が目的とする優れた絞り成形性、かつ外板パネル用として優れた表面品質が求められる合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、顕著な悪影響を及ぼす。すなわち、Mnは、絞り成形性、特にr値の顕著な劣化を招く元素であるため、多量に添加することにより高強度化は図られるが、本発明が目的とする優れた絞り成形性を確保することができない。一方、Pは、上記の絞り成形性、特にr値の劣化を抑制しつつ高強度化を図ることができる元素であるので、多量に添加することにより本発明が目的とする優れた絞り成形性および高強度を同時に確保することが可能となる。しかし、Pは、溶融亜鉛めっきの合金化処理性を顕著に低下させる元素であるため、多量に添加すると合金化処理の制御が困難となり、狙いとする合金化度が得られず耐パウダリング性が劣化してしまい、本発明が目的とする外板パネルに要求される優れた表面品質を確保することができない。
【0010】
一方、本発明が目的とする高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板において、表面品質と強度とは必須の要求性能であるから、表面品質を確保するためにP含有量の上限を制限したうえでMnの多量添加により強度を確保することが考えられる。しかし、これでは、高強度化した上で良好な絞り成形性と、外板パネル用としての良好な表面品質とを両立した合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることが困難であった。
【0011】
そこで、本発明者らは、固溶強化元素であるMnを多量添加し、かつP含有量の上限を制限した場合について、絞り成形性、特にr値の劣化を抑制でき、さらには従来より良好な絞り成形性、特に自動車外板パネル用に適した、r値に優れかつ表面品質にも優れた、引張強度390MPa以上の合金化溶融亜鉛めっき鋼板を実現できる鋼組成を検討した。
【0012】
以下、本発明の基礎となる試験結果を説明する。実験室レベルで440MPa級の引張強度を有する成分系(具体的には、C:0.008%およびNb:0.07%を含有する成分系)で、Al脱酸とTi脱酸にてMnとP含有量を変化させた鋼を溶製し(化学組成はsol.Al量のみ変化)、同じく実験室規模での熱間圧延、冷間圧延、焼鈍をそれぞれ行い、絞り特性(平均r値)を評価した。なお、MnとPの含有量は、引張強度を440MPa級の同程度として比較するため、40Mn+800Pが一定値(およそ100〜120狙い)となるバランスで添加した。
【0013】
その結果、図1に示すように、合金化処理性を改善するために、P量を低減し、Mn量を増大していくと、Al脱酸を行ったsol.Alが0.032%の成分系では、平均r値の顕著な劣化が確認された。一方、Alを低減しTi脱酸を実施した鋼においては、従来のアルミキルド鋼に比し、多量のMn添加を行っても非常に高いr値が得られるという新たな知見が得られた。
【0014】
さらに、図2に示すように、sol.Al:0.0007%の場合について、Nb含有量0.05%以上で平均r値の著しい改善効果が見られることが分かった。なお、図2の場合、供試材の化学組成は、C:0.008%、Mn:1.9%およびP:0.05%を含有する成分系であった。
【0015】
かかる知見を詳細に調査した結果、Mn:1.0−2.5%、P≦0.06%とした鋼において、sol.Al:0.005%未満、Ti:0.005−0.05%、Nb:0.05−0.20%とすることで、合金化溶融亜鉛めっき鋼板としたときにも表面品質に優れ、かつ引張強度390MPa級であっても、r値に優れた鋼板が得られることを知り、本発明を完成した。
【0016】
ここに、本発明にかかる上述の鋼組成により、高いr値が得られ、かつ高強度とすることができる機構について上述の知見を基に検討した結果は次の通りである。
まず、従来から一般的に行われている、Alを添加して脱酸するアルミキルド鋼においては、添加されたAlに由来してクラスター状の大きなAl系介在物が生成する。また、Ti脱酸を適用した場合であっても、Ti添加量が不足する場合にはNbの酸化も生じてしまい、比較的長く伸びた延伸状のNbO(MnOなども複合)が生成する。これら酸化物が再結晶焼鈍時の結晶粒成長を抑制しr値を低下させる。また、NbがOと結合して消費されてしまうことにより、r値向上に寄与するNbCの生成量が少なくなることも生じてr値を低下させる。
【0017】
これに対して、低Al濃度の状態で適正なTi添加を行ってTi脱酸を行うと、Al系介在物の生成が抑制されて、球状のTiOx系介在物が優先的に生成し、かつNbOの生成が抑制される。その結果、クラスター状の大きなAl系介在物や延伸状の析出物の形態を有するNbOの生成が抑制され、従来のアルミキルド鋼に比し有効にr値が向上することが推定された。ここで、「TiOx」とは、TiO、TiおよびTiの総称であって、TiOxの表記はそれぞれの酸化物の総和を意味する。その生成量の計測は、簡易的には、エネルギー分散型X線マイクロアナライザ(EPMA)等でTi濃度を求め、TiOに換算することによって求めることができる。TiOxには、通常、不可避的不純物として、Mn、Al、Ca、Si、S等が含有される。
【0018】
さらに、図2に示すように、平均r値におよぼすNb含有量の影響を詳細に検討した結果、上述したような多量のMn添加を行った条件下で高い平均r値を確保するには、Ti脱酸によるsol.Al量の低減のみならず、同時にNb≧0.05%とすることが必要であることが判明した。この理由は明らかではないが、NbOの生成が抑制された結果、r値の向上に有効に寄与するNbCが効率的に生成されたことによると推定される。また、Nb(C、N)による熱間圧延鋼板の細粒化の効果によってもr値が向上するとも推定される。
【0019】
以上の知見に基づいて完成された本願発明は次のとおりである。
(1)鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記鋼板が、質量%で、C:0.0005〜0.025%、Si:0.15%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.06%以下、S:0.02%以下、N:0.006%以下、sol.Al:0.005%未満、Ti:0.005〜0.05%およびNb:0.05〜0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(2)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0001〜0.0020%を含有することを特徴とする上記(1)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、W:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下の群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
(4)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、O:0.0020〜0.0100%を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、サイドパネル、ドア、フェンダーなどの自動車外板パネルの素材として好適な、r値の高いプレス成形性に優れ、かつ、めっき表面品質に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができ、本発明は、産業上、極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明にかかる合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、その鋼板の化学組成、製造方法、について説明するが、本明細書において鋼の化学組成を示す「%」は、「質量%」である。
【0022】
(1)化学組成
C:0.0005〜0.025%
Cは、Nb、Ti等の炭化物形成元素と結合し、TiC、NbCまたはその複合析出物である(Nb、Ti)(C、N)などの微細炭窒化物を形成する。C含有量を適正化することは、炭窒化物を適当な体積率で析出させつつ成形性を高めるために必須である。
【0023】
C含有量が0.0005%未満では溶鋼を脱炭するコストが非常に嵩む上、耐二次加工脆性が劣化する場合がある。さらには、十分な引張強度が得られない場合がある。一方、C含有量が0.025%を超えると耐力が上昇し伸びが低下して、成形性、特にr値が低下する。したがって、C含有量を0.0005〜0.025%とする。さらなる成形性、特にr値確保の観点からは、C含有量を0.01%以下とすることが好ましい。
【0024】
Si:0.15%以下
Siは、不純物として含有される元素であるが、安価な固溶強化元素でもあるので、強度向上を目的として含有させることができる。しかしながら、本発明が対象とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、Si含有量が0.15%を超えるとめっき品質に悪影響を及ぼす。また、Siは脱酸作用を有し、sol.Al含有量が低い場合にはその影響が大きくなるので、Si含有量が0.15%を超えると、この脱酸作用によってTiOxの生成が阻害される。したがって、Si含有量を0.15%以下とする。好ましくは0.10%以下である。なお、Siを積極的に含有させる場合には、その含有量を0.02%以上とするのが好ましい。
【0025】
Mn:1.0〜2.5%
Mnは、固溶強化により鋼板を高強度化する作用を有する。Mn含有量が1.0%未満では、目的とする390MPa以上の高強度化が図れない場合がある。一方、Mn含有量が2.5%超では耐力が上昇し伸びが劣化し、加工時にしわや割れが生じやすくなる。このためMn含有量を1.0〜2.5%とする。成形性をさらに良好にするためには、Mn含有量を2.0%以下とすることが好ましい。
【0026】
P:0.06%以下
Pは、不純物として含有される元素であるが、r値の低下を抑えながら固溶強化によって鋼板を高強度化することができる有用な元素でもあるので、強度向上を目的として含有させることができる。しかしながら、本発明が対象とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、P含有量が0.06%を超えると、合金化処理性が低下してめっき密着性が低下し、耐パウダリング性が劣化したり、めっき表面にP偏析に起因するすじ模様が現れたりすることがある。このため、P含有量を0.06%以下とする。好ましくは0.05%以下である。P含有量の下限については、目的とする高強度化が図れない場合があるため0.015%以上とすることが好ましい。0.030%以上とすることがさらに好ましい。
【0027】
S:0.02%以下
Sは、不純物として鋼板中に存在するが、その含有量が多いとスケール疵が生じやすくなり表面外観を著しく劣化させる場合がある。このため、その含有量を0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下、さらに好ましくは0.008%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定する必要はないが、製鋼の能力面やコスト面から過度の脱硫を避けるため0.002%以上とすることが好ましい。
【0028】
N:0.006%以下
Nは、不純物として鋼板中に存在するが、過剰に含有すると耐力が上昇して面歪みが生じやすくなったりFe中に固溶してストレッチャーストレインなどの表面欠陥を発生させる原因となったりする。このため、N含有量を0.006%以下とする。好ましくは0.003%以下である。
【0029】
sol.Al:0.005%未満
通常、Alは脱酸のため添加されるが、本発明においてはTiによる脱酸を主として行うため、その含有量は多く必要としない。むしろsol.Al含有量が過剰であると、本発明にとって重要なTiOx介在物の量が減少し、r値の低下を招くAl系介在物やNbO系介在物が増えてしまう。このため、sol.Al含有量は0.005%未満とする。成形性の観点からは、0.003%以下とするとTiOx酸化物が効果的に生成するので、さらに好ましい。sol.Al含有量は低ければ低い方がr値は向上するので、下限は特に規定する必要はないが、不純物として不可避的に微量が含有されることから、経済的効率の観点からsol.Al含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
【0030】
Ti:0.005〜0.05%
Tiは、鋼を脱酸するとともに、高r値を有する鋼板を得るために必要なTiOx介在物を適正量生成させる機能を有する重要な元素である。また、一部はTiNとして析出させることにより、Nによるストレッチャーストレインの発生や耐力の上昇を抑制して加工時の面歪みを生じ難くする。そのため、Ti含有量を0.005%以上とする。
【0031】
一方、0.05%を超えてTiを含有させると、Ti(C,N)の析出量が増加して伸びを劣化させて加工時に面歪みや割れが生じやすくなる。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板ではめっき表面にすじ模様を呈しやすくなり、外板用としては不適である。このためTi含有量を0.05%以下とする。なお、Tiは比較的高価な添加元素であるから、添加量を抑えて製造コストを抑制しつつ加工性の向上と溶融亜鉛めっきの表面不良抑制とを実現する観点からは、Ti含有量を0.025%以下とすることが好ましい。
【0032】
Nb:0.05〜0.20%
Nbは、Tiと同様にCと結合してNbCの析出物を生成して機械的特性を向上させる。特に熱延板の細粒化効果が高く、Nbによるr値向上効果は大きい。このため、Nb含有量を0.05%以上とする。好ましくは、0.06%以上である。一方、Nb含有量が0.20%超であると、Cに比してNbが過剰となるために、耐力が上昇し伸びが低下して加工時にしわが生じやすくなる。また圧延時の荷重が高くなり、サイドパネル等の自動車外板パネル用として必要な広幅材の製造が困難となる。したがって、Nb含有量は0.20%以下とする。好ましくは、0.10%以下である。
【0033】
O:0.0020〜0.0100%
Ti脱酸により、TiOx介在物を適正量生成させるため、介在物も含めたトータルのO含有量は0.0020%以上とすることが好ましい。O含有量を0.0020%以上とすることによりr値を向上させる効果をより確実に得られる。さらに好ましいO含有量は0.0030%以上である。一方、O含有量が0.0100%超であると介在物に起因したヘゲ疵が発生しやすくなるため、O含有量を0.0100%以下とする。好ましくは0.0060%以下である。
【0034】
B:0.0001〜0.0020%
Bは二次加工脆化を防止する作用を有するので含有させることが好ましい。B含有量が0.0001%未満ではこの効果が小さく、0.0020%を超えるとr値が顕著に低下する。このため、含有させる場合のB含有量は0.0001〜0.0020%とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.0003〜0.0010%である。
【0035】
Cr:1%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、W:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下から選ばれる1種または2種以上
これらの元素は強度確保のためFeの一部に代えて含有させても良い。各元素の含有量がそれぞれ1%を超えると強度向上の効果が飽和して経済的に非効率となるため各元素の含有量を1%以下とする。好ましくは各元素とも0.5%以下である。なお、強度確保のために含有させる場合には各々の元素の含有量を0.01%以上とすることが好ましい。以上の成分系とすることで得られる鋼板中に形成される介在物としては、r値を向上させるTiOx介在物が50%以上、延伸状介在物となり成形性を劣化させるNbO介在物とSiO介在物とがそれぞれ1%未満であることが好ましい。
【0036】
2.製造方法
本発明に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための好適な製造方法を以下に説明する。
【0037】
(1)製鋼工程
製鋼でのプロセス面での方法について説明する。本発明に係る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するには、Alを低減してTiを主体とした脱酸処理を行うことがポイントとなる。
【0038】
まず、連続鋳造を行う前の溶鋼を脱酸する前に、減圧下で脱炭処理する。量産プロセスの製造法の好ましい一例は、通常の酸素吹き転炉を用いて溶鋼を吹錬した後、炉外精錬プロセスにて減圧下で脱炭処理することである。このような処理を行うことで、溶鋼が減圧下で効果的に脱炭処理される。
【0039】
上記の脱炭処理に引き続いて、得られた未脱酸溶鋼にTiまたはTi合金(以下、単に「Ti」と記す)を添加し、溶鋼中の溶存酸素によってTiOxを形成する。なお、脱酸によって消費されるTi量を抑制すべく、Ti添加に先立ってMnもしくはMn合金(以下、単に「Mn」と記す)、SiもしくはSi合金(以下、単に「Si」と記す)および/または少量のAlもしくはAl合金(以下、単に「Al」と記す)を添加して溶鋼をある程度脱酸しておいてもよい。Al含有量を抑制する観点からは、Al添加は行わず、Mn、Siを未脱酸溶鋼中に添加するのが好ましい。
【0040】
以上の溶製手法により、sol.Al量を所定量に制御することが容易に可能となる。
なお、上記溶鋼はO含有量が例えば0.0020%以上と高いため、製品における介在物欠陥が懸念される。そのため、連続鋳造工程においては、鋳型内にて電磁攪拌等の外部付加的な流動を溶鋼に生じさせることが好ましい。溶鋼を流動させることにより、凝固途中でのスラブ表層に介在物が捕捉するのを抑制でき、表層での介在物欠陥のない製品を製造できるためである。
【0041】
(2)熱間圧延工程
熱間圧延開始温度:1100〜1270℃
上記1の(1)にて説明した鋼組成を備える鋼塊または鋼片を1100〜1270℃とした後に熱間圧延を施す。ここで、前記鋼塊または鋼片は、1100℃未満の温度にあるものを再加熱して1100〜1270℃として熱間圧延に供してもよいし、連続鋳造スラブを用いる場合には連続鋳造後1100℃未満に低下させることなく1100〜1270℃とした後に熱間圧延に供してもよいし、鋼片を用いる場合には分塊圧延後の鋼片を1100℃未満に低下させることなく1100〜1270℃とした後に熱間圧延に供してもよい。
【0042】
熱間圧延に供する鋼塊または鋼片が1100℃未満の場合には変形抵抗が高く熱間圧延が困難となる場合があり、1270℃を超える場合には過剰なスケールが生成し冷間圧延後まで残留してスケール疵として表面性状を劣化させる場合がある。
【0043】
熱間圧延完了温度:Ar点〜1000℃
熱間圧延完了温度をAr点未満とすると、表層がフェライト化して熱間圧延組織が粗大化しやすくなる。このため鋼板のr値が低下して加工時に割れが生じたりする場合がある。一方、熱間圧延完了温度が1000℃を超えると、スケールにより表面性状が劣化しやすくなる。したがって、熱間圧延完了温度をAr点〜1000℃とする。さらに好ましくは、Ar点〜950℃である。なお、熱間圧延完了温度を上記の温度範囲で行うために、圧延完了する前のシートバーを、加熱装置により加熱しても良い。この際に、鋼帯の後端が先端よりも高温となるように加熱し、鋼帯全長にわたる温度変動を小さくし、コイル内の特性の均一性を向上させることが望ましい。
【0044】
巻取温度:400〜700℃
巻取温度が400℃未満では、巻取り後における炭窒化物、特にNbCの生成が不十分となり、NbCの効果を十分に享受することができない場合がある。この場合には、r値が低下して加工時に割れが生じやすくなってしまう。一方、巻取温度が700℃超の場合には、スケールが過剰に生成して表面性状を劣化させたり強度低下を招いたりする可能性が特に高まる。さらに好ましい巻取温度は450〜650℃である。
【0045】
(3)酸洗工程、冷間圧延工程、焼鈍工程、めっき工程
熱間圧延により得られる熱間圧延鋼板は、通常、酸洗により脱スケールされ、冷間圧延が施された後に再結晶焼鈍および溶融亜鉛めっきが施され、合金化処理が施される。
【0046】
酸洗は常法で構わないが、冷間圧延は圧下率を50%以上とするとともに再結晶焼鈍を行い、再結晶集合組織を発達させて絞り性に好ましいr値が高くなるようにする。なお、再結晶焼鈍は再結晶温度以上Ac点未満で均熱する。均熱温度がAc点を超えると変態によって絞り性に好ましい再結晶集合組織が破壊されてr値が低下する。
【0047】
溶融亜鉛めっき、合金化処理については、慣用のものであれば特に制限はなく、それ以外の方法であっても、鋼の化学組成が変更されない限り、いずれのものであっても本発明として所期の効果が発揮できれものであればよい。
【0048】
ここに、本発明は別の面からは、そのようなめっき用に適する冷延鋼板ということもできる。
【実施例】
【0049】
本発明の構成、効果について実施例に基づいてさらに説明する。
本例では、各種の試験条件にて溶製した溶鋼を用いて連続鋳造を行い、次いで、熱間圧延そして冷間圧延を行って得た薄板製品に合金化溶融亜鉛めっき処理を行って、得られた合金化溶融亜鉛めっき鋼板についてその結果を評価した。
【0050】
表1に示す化学成分を含有する供試材No.1〜21の鋼板を試作した。
【0051】
【表1−1】

【0052】
【表1−2】

【0053】
試験溶解装置および連続鋳造試験機を用いて、2.5tonの鋳片を製造した。脱酸処理は、Ti以外の元素を添加量制御で調整し、その後所望の濃度およびTiOx系介在物が分散するように、金属Tiを添加して行った。
【0054】
上記の方法で溶製した溶鋼を1ストランドタイプの垂直型試験連続鋳造機に供給し、厚さ100mm、幅1000mmの鋳片に鋳造した。
切り出したスラブを再加熱し、試験熱間圧延機により粗圧延後で板厚30mm、仕上圧延後で板厚3.2mmとし、その後冷却した。各鋼板の熱間圧延開始温度および完了温度、ならびに巻取温度は表1に示したとおりである。
【0055】
冷却後、さらに0.65mmまで冷間圧延し、試験溶融めっき装置にて焼鈍(温度は表1参照。)を施した後、片面当り45g/mの溶融亜鉛めっきを施し、470〜550℃で合金化処理を行い、冷却後、0.9%の伸率の調質圧延を施した。
【0056】
得られた試験材について、機械特性および表面品質(耐パウダリング性)を調査した。
機械特性は、焼鈍後の薄鋼板からJIS5号試験片を採取し、圧延方向に対する角度が90°方向におけるYS、TS、EL、YPE、0°、45°、90°方向のr値から求めた平均r値((r+r90+2×r45)/4)を測定した。r値の目標は1.6以上とした。
【0057】
表面品質(耐パウダリング性)の調査は、絞り比1.8の条件の円筒絞りを行ったサンプルにセロテープ(登録商標)を貼り付け、剥がした際のめっき剥離量を測定し、評価した。パウダンリング量の目標は15mg以下とした。
【0058】
このように表面品質は、めっき表面の外観を目視で評価し、すじ状模様、スケール疵、不めっき、およびパウダリング量が多いなどのめっき不良が認められない場合に良好(OK)と判定した。
【0059】
本例における鋼の成分、製造条件および機械的特性を調査した結果を表1に示す。
本発明の成分範囲の鋼板であるNo.1〜10は、機械特性、特に、平均r値が1.6を有し、さらに表面性状(耐パウダリング性)にも優れ、自動車外板パネル用に好適な高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板が得られた。
【0060】
これに対し、No.11、12は、本発明例のNo.4とほとんど同じ成分でsol.Al量を変化させた結果であるが、sol.Al≧0.005%のため、r値が低下している。
【0061】
No.13〜17は、成分外れから、強度不足、r値不足、降伏点伸びの発生により、機械特性は不良となった。
No.18は機械特性のみならずTi量が多く、すじ模様が発生した。No.19はP量が多く、合金化処理性が悪くパウダリング量が多かった。No.20はSi量が多く、不めっきが発生した。No.21はS量が多く、スケール疵が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】sol.Al量およびMn含有量が平均r値に与える影響を評価した結果を示すグラフである。
【図2】Nb量が平均r値に与える影響を評価した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記鋼板が、質量%で、C:0.0005〜0.025%、Si:0.15%以下、Mn:1.0〜2.5%、P:0.06%以下、S:0.02%以下、N:0.006%以下、sol.Al:0.005%未満、Ti:0.005〜0.05%およびNb:0.05〜0.20%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有することを特徴とする合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.0001〜0.0020%を含有することを特徴とする請求項1記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、W:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下の群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、O:0.0020〜0.0100%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−174021(P2009−174021A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15126(P2008−15126)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】