説明

高架橋桁下用の電波音波吸収パネル

【課題】高架橋桁下において不要電波と騒音の問題を解消する、電波吸収性能と、音波吸収性能とを兼ね備えた高架橋桁下用の電波音波吸収パネルを提供する。
【解決手段】高架橋桁下に取付可能な手段を有する背面部と側壁部とから成るパネルケースと、同パネルケースの前面に設けられたポリカーボネート表面保護板、及び前記表面保護板の背後に設けられた電波吸収層、並びに前記電波吸収層の背後に設けられた吸音層とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高架橋桁下において不要電波と騒音の問題を解消する、電波吸収性能と、音波吸収性能とを兼ね備えた高架橋桁下用の電波音波吸収パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般道と併設される高速道路等の高架橋道路の桁下には騒音問題を解消する吸音板(又は吸音構造体)が設置されている。例えば、特許文献1には、枠体の前面に配置された多孔板と、枠体の中にプラスチックフィルムに覆われ且つ多孔板との間に空気層を設けた繊維質吸音材が配置されて成る吸音構造体が開示されている。
【0003】
ところが最近、上記騒音問題に加えて高速道路や有料道路などにおいて新たな問題が深刻化している。高度道路交通システム(ITS)に代表されるインフラの情報化に伴いノンストップ自動料金収受システム(以下、ETCと云う)等の電波の使用による無線通信技術を応用したシステムの導入が急ピッチで進められている。これに伴い、通行車の車体又はETCシステム周辺の路上構造物が多重反射することにより、特にETC用の通信装置や車内通信装置の誤動作を招く問題が多数起きている。このため騒音問題を解消しつつ、ETCで用いられる周波数5.8GHzにおける不要電波を吸収させることが大いに求められている。前記2つの問題を解消する技術が以下のように開示されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、電波音波が入射する側から電波吸収層、吸音層の順で配置された積層構造として不要電波と騒音を吸収する電波音波吸収パネルが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−305781号公報
【特許文献2】特開2003−321811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の発明は、高架橋桁下における騒音を低減させる点は認められる。しかし、ETC等の不要電波を吸収する電波吸収性は一切兼ね備えておらず、加速する高度道路交通システム等に求められる機能を満たすことはできない。
【0007】
特許文献2の発明は、電波吸収性能と音波吸音性能の両方を兼ね備える電波音波吸収パネルである点は注目に値する。しかし、この発明はそもそも道路の側壁に設けることを主たる目的としており、高架橋桁下用の電波音波吸収パネルではないし、代用もできない。
【0008】
なぜなら、前記道路(高速道路)の側壁に設けられる吸音板には、JISA1409に規定する残響室法による吸音率が、400Hzにおいて0.7%以上で、1000Hzで0.8以上を満たすことが首都高速道路公団の設置基準により定められている。対して、高架橋桁下に設けられる吸音板には、平均斜入射吸音率0.9以上という更に厳しい基準が定められている。上記特許文献2は明細書内段落番号[0042]の実験結果から道路の側壁における吸音率を満たしてはいるが、高架橋桁下に必要とされる高い吸音率の基準はクリアしてないからである。
【0009】
要するに、5.8GHzの不要電波を吸収させるに必要な、20dB以上の減衰率を保持しつつ、平均斜入射吸音率0.9以上を満たす設計は、製造者にとって非常に難しく、全てをクリアする構造は未だ見いだされていないのが現状である。
【0010】
本発明の目的は、高架橋桁下用の電波音波吸収パネルを提供することであり、更に電波吸収性能と音波吸収性能の双方の基準を十分に満たす電波音波吸収パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る高架橋桁下用の電波音波吸収パネルは、
高架橋桁下に取り付けられる高架橋桁下用の電波音波吸収パネルであって、
高架橋桁下に取付可能な手段を有する背面部と側壁部とから成るパネルケースと、同パネルケースの前面に設けられた多数の開口部を有するポリカーボネート表面保護板、及び前記表面保護板の背後に設けられた電波吸収層、並びに前記電波吸収層の背後に設けられた吸音層とから成ることを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネルにおいて、
ポリカーボネート表面保護板の板厚は1.5mm〜2.0mmであり、開口率は35%〜45%であることを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネルにおいて、
電波吸収層は厚さは20mm〜30mmの高分子繊維の集合体であり、繊維密度が前面側から背面側に向かって連続的又は断続的に高くなるように形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1又は3に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネルにおいて、
電波吸収層はその表面にカーボンが塗布されており、平均空隙率は60%〜90%であることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネルにおいて、
吸音層は厚さは90mm以下の密度が異なるポリエステル繊維であり、繊維密度が前面側から背面側に向かって順に高くなるように積層されていることを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1又は5に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネルにおいて、
吸音層は、平均密度40kg/mで、厚み30mm〜35mmの吸音材を前面側に、平均密度50kg/mで、厚み40mm〜45mmの吸音材を背後側に配置して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜6に記載した発明に係る高架橋桁下用の電波音波吸収パネルは、以下の効果を奏する。
(1)高架橋桁下に取付可能な手段を有するパネルケース2と、同パネルケース2の前面からポリカーボネート表面保護板3、及び電波吸収層5、並びに吸音層6が設けられる構成をとしたので、高架橋桁下において不要電波と騒音の問題を解消する、電波吸収性能と音波吸収性能とを同時に兼ね備える高架橋桁下用の電波音波吸収パネル1を実現できる。
(2)開口率35%〜45%で1.5mm〜2.0mmのポリカーボネート表面保護板3と、平均空隙率60%〜90%、厚さ20mm〜30mmで高分子繊維密度を背面側に向かって継続的に高くなるように形成した電波吸収層5、厚さ90mm以下のポリエステル繊維で繊維密度を背面側に向かって継続的に高くなるように形成した吸収層6とを組み合わせたので、入射角が狭い場合であってもETC等に使用される5.8GHzに対して減衰量(反射損失)20dBを確実に発揮すると共に、平均斜入射吸音率0.9以上という高い吸音率も同時に発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の高架橋桁下用の電波音波吸収パネル1は、高架橋桁下に取り付けられる構成である。
高架橋桁下の取付可能な手段を有する背面部2aと側壁部2bとから成るパネルケース2と、同パネルケース2の前面に設けられた多数の開口部を有するポリカーボネート表面保護板3、及び前記表面保護板3の背後に設けられた電波吸収層5、並びに前記電波吸収層5の背後に設けられた吸音層6とから成る。
【実施例1】
【0019】
以下、本発明に係る高架橋桁下用の電波音波吸収パネルの実施例を、図面に基づいて説明する。
図1に本発明の電波音波吸収パネル1の背面側から見た斜視図を示した。
電波音波吸収パネル1は、箱形のパネルケース2を備えており、同パネルケース2は背面部2aとその周縁部から伸びる側壁部2bとから成る。前記背面部2aには高架橋桁下に取付可能な手段を有している。即ち、長手方向に並行してボルトB接合可能(図2A参照)な2列の取付レール2cが設けられ、前記取付レール2c、2c間に複数の落下防止ワイヤー通し金具2dが設けられて高架橋桁下に取付可能に構成されている。
【0020】
図2Aの断面図に示すように、前記パネルケース2の対向する位置、つまり開口前面に蓋をするが如くに多数の開口部を有するポリカーボネート表面保護板3が設けられている。図2Bの拡大断面図が示すように、ポリカーボネート表面保護板3の左右端はL字形状に折れて、前記パネルケース2の側壁部2bの上面へ載置され、ブラインドリベット4等により前記側壁部2bと接合される。
【0021】
前記ポリカーボネート表面保護板3の背後には電波吸収層5が設けられ、前記電波吸収層5の背後には吸音層6が更に積層されている(請求項1記載の発明)。
【0022】
前記ポリカーボネート表面保護板3は、板厚を1.5mm〜2.0mmとし、開口率は35%〜45%の孔明き板とすることが好ましい(請求項2記載の発明)。
前記板厚と開口率の設計値を得るために、板厚1.0mm〜3.0mmで、開口率30%〜60%のポリカーボネート表面保護板3を用意し、入射角0°〜50°における反射減衰率を測定した。その結果を図3A、図3Bに示す。
【0023】
図3Aの入射角0°の場合を見ると、板厚1.5mmと2.0mmのポリカーボネート表面保護板3がどの開口率においても20dB以上を確保していることが分かる。
図3Bの入射角50°の場合を見ると、20dB以上を確保する板厚はやはり1.5mmと2.0mmであるが、開口率50以下でなければならないことも分かる。
ところで、高い電波吸収性能を発揮させるために要求されるポリカーボネート表面保護板3の開口率は小さいほど良い。しかし、平均斜入射吸音率0.9以上を発揮させるためには開口率35%以上が必要である。
したがって、前記ポリカーボネート表面保護板3は板厚1.5mm〜2.0mmとし、開口率は35%〜45%に設計される。
【0024】
前記電波吸収層5は、厚さは20mm〜30mmの高分子繊維の集合体であり、繊維密度が前面側から背面側に向かって連続的又は断続的に高くなるように形成されている(請求項3記載の発明)。
一般に、電波が空間を伝搬する場合、急激に導電度が変化する点に遭遇すると電波はその点で反射されやすくなる。電波吸収層5も導電体であるため電波を反射する作用も有すると考えられる。よって繊維密度が一定であると電波を反射してしまう度合いが大きくなってしまう。したがって、繊維密度を前面側から反面側に向かって連続的又は断続的に変化させることにより広帯域の電波を吸収することができる。つまり、電波入射面である前面側の繊維密度を粗として、空気との伝導度を小さくし、電波の入射面における反射を少なくして電波を電波吸収層5の内部へ取り込みやすくしている。また、電波吸収層5はその表面にカーボンが塗布されており、平均空隙率は60%〜90%とすることが好ましい(請求項4記載の発明)。
【0025】
次に、前記吸音層6は、厚さが90mm以下の密度の異なるポリエステル繊維とされている。前記厚さは、従来から高架橋桁下に取付けるパネルとして適しているとされる厚み150mm以下、質量35kg/mを考慮して90mm以下が望ましいとされる。
【0026】
前記吸音層6の繊維密度は前面側から背面側に向かって順に高くなるように積層されている(請求項5記載の発明)。具体的には、それぞれ異なる密度のポリエステル繊維で成る吸音材を前後2層に積層する。前面側の吸音材は平均密度40kg/mで厚み30mm〜35mmとされ、背後側の吸音材は平均密度50kg/mで厚み40mm〜45mmとすると高い吸音率が得られる。
【0027】
上記二つの吸音材を組み合わせて合計厚75mmとした吸音層6を使用し、平均斜入射吸音率が最も発揮できるポリカーボネート表面保護板3の板厚と開口率を導き出すべく実験を行った。因みに電波吸収層5は段落番号[0024]の設計値の通りである。その結果を、図4に示す。
【0028】
図示の通り、板厚2.0mmの方が斜入射吸音率が高いことが分かる。次に開口率について注目する。前記開口率は図3A、図3Bで35%〜45%の範囲内である。その中でも開口率が少なく前記平均斜入射吸音率が高いのは40%であることが分かる。したがって、板厚2.0mm、開口率40%のポリカーボネート表面保護板3を使用すると最適な吸音性能を発揮する。
【0029】
上記吸音性能を十分に発揮するに最適な板厚、開口率、繊維密度としたポリカーボネート表面保護板3と電波吸収層5と吸音層6を組み合わせた電波音波吸収パネル1の入射角に対する電波吸収性能(反射減衰率)を確かめた。実験は、前記最適な電波音波吸収パネル1を10枚用意し、入射角に10°〜55°に対する反射減衰率を測定した。
その結果を図5に示す。図5Aは1枚目から5枚目の結果である。図5Bは6枚目から10枚目の結果である。
すべての電波音波吸収パネル1…において、狭い入射角においても20dB以上の良好な反射減衰率を確保していることが一目瞭然である。
【0030】
斯くすると、本発明の電波音波吸収パネル1は、入射角が狭い場合であってもETC等に使用される5.8GHzに対して減衰量(反射損失)20dBを確実に発揮すると共に、平均斜入射吸音率0.9以上という高い吸音率も同時に発揮して高架橋桁下に要求される高い電波吸収性能及び吸音性能の基準を十分に満たすことができるのである。
【0031】
以上に実施形態を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために付言する。例えば本発明は、高架橋桁下以外の道路付帯設備においても使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る高架橋桁下用の電波音波吸収パネルを背面側から見た斜視図である。
【図2】Aは図1のA−A断面図である。BはAの部分拡大断面図である。
【図3】A、Bはポリカーボネート表面保護板の板厚と開口率に対する反射減衰量との関係を表したグラフである。
【図4】75mmの吸音層を用いてポリカーボネート表面保護板の板厚と開口率を変化させた時の平均斜入射吸音率を示したグラフである。
【図5】A、Bは本発明に係る最適な組合せの電波音波吸収パネルの入射角に対する反射減衰率を示したグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1 電波音波吸収パネル
2 パネルケース
2a 背面部
2b 側壁部
3 ポリカーボネート表面保護板
5 電波吸収層
6 吸音層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高架橋桁下に取り付けられる高架橋桁下用の電波音波吸収パネルであって、
高架橋桁下に取付可能な手段を有する背面部と側壁部とから成るパネルケースと、同パネルケースの前面に設けられた多数の開口部を有するポリカーボネート表面保護板、及び前記表面保護板の背後に設けられた電波吸収層、並びに前記電波吸収層の背後に設けられた吸音層とから成ることを特徴とする、高架橋桁下用の電波音波吸収パネル。
【請求項2】
ポリカーボネート表面保護板の板厚は1.5mm〜2.0mmであり、開口率は35%〜45%であることを特徴とする、請求項1に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネル。
【請求項3】
電波吸収層は厚さは20mm〜30mmの高分子繊維の集合体であり、繊維密度が前面側から背面側に向かって連続的又は断続的に高くなるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネル。
【請求項4】
電波吸収層はその表面にカーボンが塗布されており、平均空隙率は60%〜90%であることを特徴とする、請求項1又は3に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネル。
【請求項5】
吸音層は厚さが90mm以下の密度が異なるポリエステル繊維であり、繊維密度が前面側から背面側に向かって順に高くなるように積層されていることを特徴とする、請求項1に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネル。
【請求項6】
吸音層は、平均密度40kg/mで、厚み30mm〜35mmの吸音材を前面側に、平均密度50kg/mで、厚み40mm〜45mmの吸音材を背後側に配置して成ることを特徴とする、請求項1又は5に記載した高架橋桁下用の電波音波吸収パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−241775(P2006−241775A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56991(P2005−56991)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000006839)日鐵建材工業株式会社 (371)
【Fターム(参考)】