説明

高沸点芳香族炭化水素溶剤

【課題】 ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン及びナフタレンを実質的に含まず、人体に対して安全性が高く、しかも溶解性に優れている芳香族系溶剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 1,2,4−トリメチルベンゼンと1,2,3−トリメチルベンゼンの合計が10〜30容量%で、炭素数10の芳香族分(AC10)を60容量%以上、かつ1,3,5−トリメチルベンゼンが1容量%未満で、ナフタレンが0.1容量%未満であり、ベンゼン、トルエン、及びキシレンが0.01容量%未満である高沸点芳香族炭化水素溶剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人体に悪影響を及ぼすナフタレンを含まず、安全性が高い芳香族系溶剤、より詳しくは、1,2,4−トリメチルベンゼンと1,2,3−トリメチルベンゼン及び炭素数10の芳香族を含み、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン及びナフタレンを実質的に含まない高沸点芳香族炭化水素溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高沸点芳香族炭化水素溶剤は、洗浄剤、粘・接着剤、塗料、インク、電気絶縁油、感圧複写材料の染料溶解用溶剤、エポキシ樹脂もしくはウレタン樹脂用希釈剤、有害生物防除剤用溶剤、反応溶媒、ゴム等の溶剤などに広く用いられている。
しかし、芳香族溶剤のうちベンゼン、トルエン、キシレンは特に人体に悪影響を及ぼすことから、労働省の特定化学物質等障害予防規制で、ベンゼン1容量%を超えるもの、労働省の有機溶剤中毒予防規制では、トルエンとキシレンの合計量が5重量%を超えるものについては、使用制限や化合物存在の表示義務がある。
また、1,3,5−トリメチルベンゼンは、人の健康や生態系に有害なおそれのある化合物としてPRTR(Pollutant Release and Transfer Register:化学物質排出移動量届出制度)の第一種指定化学物質に指定されている。
さらに、ナフタレンは、IARC(国際ガン研究機関)により、その発がん性ランクが分類2Bの発がん性の可能性があるとされ、人体の危険性に対する規制がより厳しくなった。このような安全性の観点から、人体に悪影響を及ぼす成分を含まず、優れた溶解力を有する溶剤が望まれる。
【0003】
また、芳香族溶剤に替わるものとして、毒性の少ないパラフィン系溶剤やナフテン系溶剤の使用等が考えられるが、パラフィン系溶剤は低温流動性が悪いばかりでなく、各種樹脂の溶解力が低く、用途が限られていた。一方、ナフテン系溶剤についてみると、芳香族炭化水素を核水添し、残存芳香族を1容量%以下とするアルキルシクロヘキサン系溶剤の製造方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、このアルキルシクロヘキサン系溶剤は引火点も低く、安全面で問題があるばかりか、溶解性も高くなく、洗浄剤として使用した場合においても、その性能面で満足するものではなく、また、インキに処方した場合でも、その溶解性、安定性の面等においても必ずしも満足するものではなかった。
【特許文献1】特開2003−313562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点を解決したもので、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン及びナフタレンを実質的に含まず、人体に対して安全性が高く、しかも溶解性に優れている芳香族系溶剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、1,2,4−トリメチルベンゼンと1,2,3−トリメチルベンゼンの合計が10〜30容量%で、炭素数10の芳香族分(AC10)を60容量%以上、かつ1,3,5−トリメチルベンゼンが1容量%未満で、ナフタレンが0.1容量%未満であり、ベンゼン、トルエン、及びキシレンが0.01容量%未満である高沸点芳香族炭化水素溶剤である。上記本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、芳香族成分を99容量%以上含有し、沸点が160〜200℃、引火点が60.5℃より大きく、かつ混合アニリン点が16℃以下であることが好ましい。
【0006】
また、本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、洗浄剤として、また、粘・接着剤、塗料、インク、電気絶縁油、感圧複写材料の染料、有害生物防除剤、反応溶媒、合成樹脂、ゴムからなる群から選択される物質のための溶剤として使用することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の芳香族系溶剤は、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン及びナフタレンを実質的に含まないので、人体に対して安全性が高く、また、引火点が高いため、取扱い上の安全性が高く、しかも溶解性に優れている等の格別の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、1,2,4−トリメチルベンゼンと1,2,3−トリメチルベンゼンの合計が10〜30容量%であるが、さらに好ましくは20〜26容量%にしたものである。1,2,4−トリメチルベンゼンと1,2,3−トリメチルベンゼンの合計が10容量%より低いと、引火の危険性は低くなるが、塗料やインキ用等の溶剤として用いた場合に、溶解性、乾燥性等の性能が悪くなる。また逆に30容量%を超えて含有すると、引火性の危険が高まると同時に、溶剤の蒸発が速まり、この場合も問題が残る。本発明の溶剤は、これらの問題を解決したものである。これら、1,2,4−トリメチルベンゼン及び1,2,3−トリメチルベンゼンは、タール軽油の高沸点留分を精留することにより、または、ベンゼン、キシレン類のメチル化または不均化により得ることができる。
【0009】
また、本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、炭素数10の芳香族分(AC10)を60容量%以上含有するが、さらに好ましくは65〜75容量%にしたものである。60容量%未満になると、溶剤として重要な性能である溶解性、乾燥性のいずれかが不満足となり、この場合も問題が残る。このAC10は、ナフサの接触改質反応によって得られる改質留分を、精密蒸留により、沸点180〜200℃の留分を分取することにより得ることができる。
上記AC10の例としては、ジエチルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、メチルイソプロピルベンゼン、テトラメチルベンゼン、ブチルベンゼン、メチルインダン等の炭素数10のアルキルベンゼンを挙げることができる。
【0010】
また、その他の成分として、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン以外の炭素数9の芳香族分、炭素数11以上の芳香族分が含まれても構わない。上記その他の炭素数9の芳香族分としては、o−エチルメチルベンゼン、m−エチルメチルベンゼン、p−エチルメチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、インダン等が挙げられる。また、炭素数11の芳香族分(AC11)の例としては、アミルベンゼン、ブチルメチルベンゼン、エチルプロピルベンゼン、ジエチルメチルベンゼン、ジメチルインダン、エチルインダン、メチルナフタレン等が挙げられる。また、炭素数12の芳香族分(AC12)の例としては、ジプロピルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジメチルナフタレン等を挙げることができる。炭素数11以上の芳香族分は、蒸発性の観点から10容量%以下、好ましくは5容量%以下である。
本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、1,3,5−トリメチルベンゼンが1容量%未満で、ナフタレンが0.1容量%未満であり、ベンゼン、トルエン、及びキシレンが0.01容量%未満であり、実質的にこれらの化合物を含まないものである。
【0011】
本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、芳香族成分を99容量%以上含有し、沸点が160〜200℃であるが、さらに好ましくは175〜195℃にしたものである。また、引火点は60.5℃より大きいものであるが、引火点が60.5℃以下であると、洗浄剤としての使用時や、インク等の調合時に、加温した場合、引火性の蒸気が多く発生し、引火危険性が増加するため、好ましくない。引火点が60.5℃以下であると国連の「危険物輸送に関する勧告 モデル規則」の引火性液体に該当し、また、61℃以下であると「危険物船舶運送及び貯蔵規則」の引火性液体物質にも該当するため、61℃を超えることがより好ましい。
芳香族成分としては、上記1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2,3−トリメチルベンゼン、炭素数10の芳香族分、及びその他に含有される成分中の芳香族成分が含まれる。
混合アニリン点は16℃以下であるが、混合アニリン点が16℃を超えると、樹脂の溶解度が低下し、溶解することができなくなるために好ましくない。
【0012】
また、硫黄分としては、環境への負荷低減の意味からできるだけ低いほど好ましく、10質量ppm以下、好ましくは5質量ppm以下、特には1質量ppm以下である。
【0013】
このようにして得られる本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、洗浄剤として、また、粘・接着剤、塗料、インク、電気絶縁油、感圧複写材料の染料、有害生物防除剤、反応溶媒、エポキシ樹脂もしくはウレタン樹脂等の合成樹脂、ゴムからなる群から選択される物質のための溶剤として使用することができる。
【実施例】
【0014】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例により何ら制限されるものではない。
実施例1
1,2,4−トリメチルベンゼン(6.8容量%)、1,2,3−トリメチルベンゼン(16.5容量%)、AC10(72.3容量%)等からなる高沸点芳香族炭化水素溶剤を調整した。なお、AC10は、ナフサの接触改質反応によって得られる改質留分を、精密蒸留により、沸点180〜200℃の留分に分取したものである。溶剤の組成及び性状を表1に示す。なお、組成及び物性測定は、以下に示す試験法にて行った。
密度:JIS K 2249
引火点:JIS K 2265
混合アニリン点:JIS K 2256
硫黄分:JIS K 2541−6
窒素分:JIS K 2609
沸点範囲(蒸留性状):JIS K 2254
組成:ガスクロマトグラフ(FID検出器付)
蒸発速度比:断面積20cmの100ccのビーカーに溶剤を50cc採取する。
これを80℃の恒温槽(防爆型)に入れ、蒸発量を測定した。単位時間、単位面積
当たりの溶剤の蒸発速度を算出し、参考例2を基準とした蒸発速度比を算出した。
【0015】
実施例2
1,2,4−トリメチルベンゼン5.0容量%、1,2,3−トリメチルベンゼン5.0容量%、ノルマルプロピルベンゼン30.0容量%、ノルマルブチルベンゼン60.0容量%からなる高沸点芳香族炭化水素溶剤を調整した。溶剤の組成及び性状を表1に示す。
【0016】
参考例1及び2
一般工業用溶剤として市販されている石油留分から成る高沸点芳香族炭化水素溶剤の組成と性状を参考例として表1に示す。
参考例1:カクタスソルベントP100(ジャパンエナジー社製)
参考例2:カクタスソルベントP150(ジャパンエナジー社製)
【0017】
比較例1
攪拌機を備えた200mLオートクレーブに、原料として炭素数9のトリメチルベンゼン100g及び、ニッケル触媒10gを入れて、系内を水素で置換後、攪拌しながら水素圧4MPa、反応温度160℃で7時間、水素化反応を行った。反応後、室温まで冷却し、触媒を濾過して炭素数9のナフテン溶剤を得た。ナフテン溶剤の組成と性状を表1に示す。
【0018】
比較例2
工業用溶剤として市販されている石油留分から成る炭素数12のノルマルパラフィン(カクタスノルマルパラフィンN−12、ジャパンエナジー社製)の組成と性状を表1に示す。
【0019】
評価方法
〔洗浄力試験1〕
ストレートアスファルト系ピッチ(九重電気(株)製、K級3号)を溶解した30%濃度のトルエン溶液に金属板(銅板50×50mm、厚さ0.7mm)を浸漬し、その後、金属板をトルエン溶液より取り出し、70℃、20分乾燥して、均一にピッチ0.05gを付着させたものを洗浄対象物として使用した。この洗浄対象物を200cmの洗浄液が充填された液温25℃の洗浄槽において、攪拌子で攪拌する(400rpm)ことにより5分間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、乾燥して洗浄液を蒸散除去した。洗浄前後の付着物の重量差より洗浄率を計算し、洗浄率100〜90%を○、90〜80%を△、80%以下を×として評価し、表1に示した。この結果から、本発明の溶剤は高いピッチ洗浄性を示すことがわかる。
【0020】
〔洗浄力試験2〕
天然樹脂、石油アスファルト、天然ワックスを成分とするワックス(日化精工製アルコワックス542M)0.2gをガラス板(20×70mm、厚さ1.5mm)上に置き、70℃にて30分間溶融、その後室温まで放冷したものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を200cmの洗浄液が充填された洗浄槽において液温25℃、攪拌子で攪拌する(400rpm)ことにより15分間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、乾燥して洗浄液を蒸散除去した。洗浄前後の付着物の重量差より洗浄率を計算し、洗浄率100〜90%を○、90〜80%を△、80%以下を×として評価し、表1に示した。この結果から、本発明の溶剤は高いワックス洗浄性を示すことがわかる。
【0021】
〔洗浄力試験3〕
鉱物油(ジャパンエナジー社製JOMO HSトランスN)を積層メッシュ(富士フィルター工業製フジプレート、SUS316、メッシュ20μm)に浸漬し、その後、70℃にて30分間加熱し、その後室温まで放冷したものものを洗浄対象物として用いた。この洗浄対象物を200cmの洗浄液が充填された洗浄槽において液温20℃で超音波照射下に30秒間洗浄を行った。洗浄槽から取りだした洗浄対象物を、乾燥して洗浄液を蒸散除去した。洗浄前後の付着物の重量差より洗浄率を計算し、100〜90%を○、90〜85%を△、85%以下を×として評価し、表1に示した。この結果から、本発明の溶剤は高い鉱物油洗浄性を示すことがわかる。
【0022】
〔溶解性試験1〕
合成ゴム樹脂系接着剤原体1に対し、10倍容量の、実施例で得られた溶剤を加え、超音波槽に15分間放置した後の樹脂等の溶解性について評価した。また、比較例1で得た溶剤を用いて、同様の試験を実施した。
評価は、無色透明○、白濁△、一部不溶×とした。結果を表1に示す。この結果から、本発明の溶剤は合成ゴム系樹脂に対して高い溶解性を示すことがわかる。
【0023】
〔溶解性試験2〕
アルキド樹脂、顔料、ニトロセルロース及び有機溶剤(47%)からなる塗料(ハケ塗り用ラッカー、ニッペホームプロダクツ社製)から、溶剤分の80%を減圧下で除去した塗料原料を調製した。この塗料原料に、実施例で得られた溶剤を質量比で、塗料原料/溶剤=3/2となるように混合し、混合直後の状態及び混合6時間後の状態を評価した。
実施例1、2ともに、混合直後の状態及び混合6時間後の状態は、均一な分散状態であった。これは、原料の塗料の状態と同等の分散状態であった。また、比較例1、2では塗料成分が分散せず、顔料、樹脂等は沈降した。
この結果から、本発明の溶剤は塗料、インキ等の希釈剤として優れていることがわかる。
【0024】
〔蒸発速度測定試験〕
実施例で得られた溶剤を断面積20cmの100ccのビーカーに50cc採取し、これを80℃の恒温槽(防爆型)に入れて単位時間、単位面積当たりの溶剤の蒸発量を測定した。蒸発速度を算出し、参考例2を基準とした蒸発速度比を算出した。結果を表1に示した。
この結果から、本発明の溶剤は市販品である参考例2とほぼ同等の蒸発速度であり、乾燥性の点からも好ましいことがわかる。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の高沸点芳香族炭化水素溶剤は、洗浄剤として、また、粘・接着剤、塗料、インク、電気絶縁油、感圧複写材料の染料、有害生物防除剤、反応溶媒、エポキシ樹脂もしくはウレタン樹脂等の合成樹脂、ゴムからなる群から選択される物質のための溶剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2,4−トリメチルベンゼンと1,2,3−トリメチルベンゼンの合計が10〜30容量%で、炭素数10の芳香族分を60容量%以上、かつ1,3,5−トリメチルベンゼンが1容量%未満で、ナフタレンが0.1容量%未満であり、ベンゼン、トルエン、及びキシレンが0.01容量%未満であることを特徴とする高沸点芳香族炭化水素溶剤。
【請求項2】
芳香族成分を99容量%以上含有し、沸点が160〜200℃、引火点が60.5℃より大きく、かつ混合アニリン点が16℃以下である請求項1に記載の高沸点芳香族炭化水素溶剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の高沸点芳香族炭化水素溶剤からなる洗浄剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の高沸点芳香族炭化水素溶剤を用いた、粘・接着剤、塗料、インク、電気絶縁油、感圧複写材料の染料、有害生物防除剤、反応溶媒、合成樹脂、ゴムからなる群から選択される物質のための溶剤。

【公開番号】特開2006−299173(P2006−299173A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125990(P2005−125990)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】