説明

高温機器の締結構造評価装置、高温機器の締結構造評価方法およびプログラム

【課題】締結構造体の応力変化やクリープ損傷を容易に十分な精度で評価することができ、高温機器の締結構造を評価することができる高温機器の締結構造評価装置、高温機器の締結構造評価方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】高温機器の締結構造評価装置10は、締結構造体の選定情報を収得する選定情報収得手段21と、演算条件を収得する演算条件収得手段22と、演算条件およびクリープ強度データに基づいてクリープひずみ速度を算出するクリープひずみ速度算出手段23と、クリープひずみ速度に基づいて応力緩和量を算出する応力緩和量算出手段24と、演算条件、クリープ強度データおよび応力に基づいてクリープ損傷量を算出するクリープ損傷量算出手段25と、応力緩和量およびクリープ損傷量に基づいて締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する締結構造判定手段26とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、火力発電プラント、原子力発電プラントなどで使用される高温機器の締結構造を評価する高温機器の締結構造評価装置、高温機器の締結構造評価方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
高温機器である蒸気タービンでは、高速で流動する蒸気によって回転力を得ているため、高温の蒸気が流入する機器には運転に伴って多くの損傷が生じる。一般的な蒸気タービンでは、高温高圧になった蒸気は、高圧タービンや中圧タービンの各段落で温度、圧力を低下させながらタービン動翼を介してタービンロータに回転力を与えている。すなわち、蒸気タービンの原動力は、蒸気によって得ており、タービン動翼を介してタービンロータに伝達される。近年の発電プラント等では、高効率化や大容量化の要求に伴って、使用する蒸気の温度や圧力は益々高くなり、流量は益々増大する。
【0003】
このため、これら高温高圧の蒸気に晒されている機器においては、高温下で構成部品に加わる応力によっても材料自体の劣化とともに様々な損傷を引き起こし、局部的にき裂を生じ、発生したき裂が原因となり機器全体の破壊を引き起こすことがあった。
【0004】
図12は、代表的な高温機器である蒸気弁600の断面を示す図である。配管610より流入した蒸気611は、弁座612、弁棒613を経て加減弁に流出する。蒸気611が流動する際、弁箱614は、絶えず高温高圧の蒸気に晒されている。弁箱614自体は一体構造であるが、蒸気弁として使用する場合には、蒸気611を密封することができ、さらに分解組立が可能なように、座金616を介して上蓋615が締結ボルト617により接合されている。このため、この締結ボルト617には、蒸気タービンの稼動中では、高温下で絶えず締付力の他に蒸気圧力による荷重が負荷されている。このように高温で長時間使用されると、材料はクリープ変形するが、締結ボルト617は、一定変位状態を維持するため、ボルト締付力の低下、すなわちボルト応力の緩和という形でクリープ変形が生じる。この応力緩和が大きい場合には、上蓋615を十分な力で弁箱614に固定できないため、蒸気漏れなどを引き起こすことがあった。
【0005】
このため、これまで様々な方法で、ボルトの応力緩和を低減する方法が提案されいる。図13は、締結部フランジの変形を防止するために断熱部材を適用した従来の締結構造体の断面を示す図である。図13に示すように、断熱部材片630をボルト接合部付近の車室631内面に固着させてボルト632が接合するフランジに流入する熱量を低減させ、ボルト632の温度上昇を抑え、ボルト632の応力緩和や損傷低減を狙った技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。蒸気タービン起動時には非定常温度変化により、車室内面が急加熱されフランジに大きな熱応力が発生する。その結果、フランジ内面の材料が降伏変形し、その後の定常状態へ戻る段階で塑性変形領域が開口することがある。開口部付近のボルトは高温に保持されるため、ボルト締付力の緩和が進み、蒸気漏れが発生する。特許文献1に記載された発明では、ハニカム633を板状に結合して構成した複数の断熱部材片630をタービンの車室631の内面に固着することにより、フランジに流入する熱量を抑えて、車室631の内外面の温度差を小さくし、発生する熱応力を低減させている。
【0006】
図14は、接触面圧を低下させるために用いられた角形状座金を適用した従来の締結構造体の斜視図である。また、図15は、図14に示した従来の締結構造体の断面を示す図である。図14および図15に示すように、蒸気タービン車室フランジ部の締付用のボルト640において、角形状座金641とフランジ642との接触面積を大きくして、急速起動時のボルト締付力の上昇によるフランジ642の塑性変形を防ぐ技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。蒸気タービンの急速起動時には、ボルトより先にフランジが加熱されるために、フランジがボルトより大きく熱膨張し、その結果、ボルトの締付力が急増する。これにより、通常の円板状の座金のみを用いた場合には、座面に大きな接触面圧が発生し、フランジが塑性変形により変形する。その状態で、定常温度状態となると、塑性変形の分だけ締付力が不足するため、最終的には蒸気漏れなどの問題を生じる。特許文献2に記載された発明では、フランジ642に接触する座金の受圧面積を増やした角形状座金641を用いることでフランジ642の塑性変形を防いでいる。
【0007】
上記したように、従来においては、締結力低下による蒸気漏れや被締結物の変形を防止することを図った技術は示されているが、締結ボルトの応力変化やクリープ損傷を評価する技術は示されていない。ここで、締結ボルトは、高温で長時間に亘りほぼ一定の負荷がかけられているため、高温劣化やクリープ損傷が蓄積することになり、実際の部品ではクリープ損傷によるき裂の発生やボルト破断に至ることがある。
【0008】
ここで、図16は、蒸気弁600の上蓋615を接合する締結ボルト617に係る損傷例を示す断面図である。締結ボルト617は、高温長時間での使用により応力の最も厳しい第1ネジのネジ底620からき裂621が発生し、締結ボルト617を貫通する形で進展し、ボルト破断に至っている。材料は一定の負荷の下、高温で長時間使用されると、クリープ変形を生じるが、締結ボルトは一定変位状態に維持されて使用されているため、ボルト締付力の低下、すなわちボルト応力の緩和という形で、クリープ変形が反映される。すなわち、通常、運転中は一定として評価される運転時の応力も、締結ボルトの場合には、応力緩和に伴い締結物との関係において絶えず変化する応力履歴となる。
【特許文献1】特開平10−205306号公報
【特許文献2】特開平10−19029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記したように、従来においては、締結力低下による蒸気漏れや被締結物の変形を防止することを図った技術は示されているが、締結ボルトの応力変化やクリープ損傷を評価する技術は示されていない。そのため、高温機器の締結において、締結ボルトが破損したり、締付力が過度に低下するなどの問題を生じていた。また、従来の技術では、締結ボルトの応力変化を簡単に精度良く評価する方法は示されておらず、締結ボルトの締め過ぎによるボルト破断や、応力緩和の過度の進行による蒸気漏れなどの問題も生じていた。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、締結構造体の応力変化やクリープ損傷を容易に十分な精度で評価することができとともに、高温機器の締結構造を評価することができる高温機器の締結構造評価装置、高温機器の締結構造評価方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の高温機器の締結構造評価装置は、高温機器を締結する締結構造体の選定情報を収得する選定情報収得手段と、前記選定情報収得手段によって収得された締結構造体に対応する演算条件を収得する演算条件収得手段と、クリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データを格納するクリープ強度データベースと、前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、および前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データに基づいて、クリープひずみ速度を算出するクリープひずみ速度算出手段と、前記クリープひずみ速度算出手段によって算出されたクリープひずみ速度に基づいて、応力緩和量を算出する応力緩和量算出手段と、前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データおよび応力に基づいて、クリープ損傷量を算出するクリープ損傷量算出手段と、前記応力緩和量算出手段によって算出された応力緩和量、および前記クリープ損傷量算出手段によって算出されたクリープ損傷量に基づいて、前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する締結構造判定手段とを具備することを特徴とする。
【0012】
本発明の高温機器の締結構造評価方法は、高温機器の締結構造を評価する高温機器の締結構造評価装置における締結構造評価方法であって、高温機器を締結する締結構造体の選定情報を選定情報収得手段が収得する選定情報収得ステップと、前記選定情報収得手段が収得した締結構造体に対応する演算条件を演算条件収得手段が収得する演算条件収得ステップと、前記演算条件収得手段が収得した演算条件、およびクリープ強度データベースから入力したクリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データに基づいて、クリープひずみ速度算出手段がクリープひずみ速度を算出するクリープひずみ速度算出ステップと、前記クリープひずみ速度算出手段が算出したクリープひずみ速度に基づいて、応力緩和量算出手段が応力緩和量を算出する応力緩和量算出ステップと、前記演算条件収得手段が収得した演算条件、前記クリープ強度データベースから入力したクリープ損傷量を算出するためのクリープ強度データおよび応力に基づいて、クリープ損傷量算出手段がクリープ損傷量を算出するクリープ損傷量算出ステップと、前記応力緩和量算出手段が算出した応力緩和量、および前記クリープ損傷量算出手段が算出したクリープ損傷量に基づいて、締結構造判定手段が前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する締結構造判定ステップとを具備することを特徴とする高温機器の締結構造評価方法。
【0013】
本発明のプログラムは、高温機器の締結構造を評価する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記コンピュータを、高温機器を締結する締結構造体の選定情報を収得する選定情報収得手段と、前記選定情報収得手段によって収得された締結構造体に対応する演算条件を収得する演算条件収得手段と、クリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データを格納するクリープ強度データベースと、前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、および前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データに基づいて、クリープひずみ速度を算出するクリープひずみ速度算出手段と、前記クリープひずみ速度算出手段によって算出されたクリープひずみ速度に基づいて、応力緩和量を算出する応力緩和量算出手段と、前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データおよび応力に基づいて、クリープ損傷量を算出するクリープ損傷量算出手段と、前記応力緩和量算出手段によって算出された応力緩和量、および前記クリープ損傷量算出手段によって算出されたクリープ損傷量に基づいて、前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する締結構造判定手段として機能させることを特徴とする。
【0014】
上記した高温機器の締結構造評価装置、高温機器の締結構造評価方法およびプログラムによれば、締結構造体における応力変化やクリープ損傷量等を算出するとともに、締結構造体における応力緩和量を算出し、この応力緩和量に基づいて、締結構造の評価を行なう。これによって、高温機器の締結構造を高い信頼性を有して評価することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高温機器の締結構造評価装置、高温機器の締結構造評価方法およびプログラムによれば、締結構造体の応力変化やクリープ損傷量を容易に十分な精度で評価することができとともに、応力緩和量に基づいて高温機器の締結構造を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態の高温機器の締結構造評価装置10の主要な構成を示す機能ブロック図であり、図2は、高温機器の締結構造評価装置10の動作を示したフローチャートである。なお、高温機器の締結構造評価装置10(以下、締結構造評価装置10という)は、例えば火力発電プラント、原子力発電プラントなどに備えられ、各プラントを構成する高温機器の締結構造の評価をするものである。
【0018】
締結構造評価装置10は、本発明に係る締結構造評価方法を実行する機能を実現すべく書き換え可能メモリなどのプログラムデータベース20に格納されたプログラムを制御手段30により実行するコンピュータ等によって構成される。この制御手段30は、内部での種々の演算処理を実行するCPU等の演算手段、システム情報等が記憶されたROM等の不揮発性メモリや更新可能に情報を記憶するRAM等の半導体メモリで構成された記憶手段、および内部での種々の動作や外部との情報授受を司る制御手段等を有する。また、制御手段30は、出入力インターフェース40からの入力やインストールされたプログラムの内容等に応じて様々な情報処理を実行するものとなっており、後述の動作における各種演算の処理を実行したり、各構成部を制御する中核を担う。
【0019】
また、締結構造評価装置10は、コンピュータ等が一般に備えられるキーボードやポインティング・デバイス等で構成される、使用者等による文字入力や選択入力等を受け付けて制御手段30等へ供給する出入力インターフェース40を備えている。さらに、締結構造評価装置10は、液晶ディスプレイやCRTディスプレイ等で構成される、制御手段30による制御の下で所定の情報表示をする表示手段60を備えている。また、締結構造評価装置10は、ハードディスク等の記憶手段で構成される、プログラムデータベース20やクリープ強度データベース50等を備えている。そして、上記した各構成部は、システムバス70で接続されている。
【0020】
次に、プログラムデータベース20に格納された各種機能手段について説明する。
【0021】
プログラムデータベース20には、選定情報収得手段21、演算条件収得手段22、クリープひずみ速度算出手段23、応力緩和量算出手段24、クリープ損傷量算出手段25、締結構造判定手段26、設定変更情報収得手段27の機能手段が格納されている。
【0022】
選定情報収得手段21は、出入力インターフェース40等によって入力された、例えば高温機器を締結する締結構造体の選定情報等の情報を収得する。締結構造体の選定情報として、例えば、プラント名称、高温機器部品名、締結部品名等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、締結構造体の一例として、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体などが挙げられる。この場合には、ボルトおよび座金の双方について、以下に述べる、クリープひずみ速度算出手段23によるクリープひずみ速度の算出、応力緩和量算出手段24による応力緩和量の算出、クリープ損傷量算出手段25によるクリープ損傷量の算出などが実行される。
【0023】
演算条件収得手段22は、出入力インターフェース40等によって入力された、選定情報収得手段によって収得された締結構造体に対応する演算条件を収得する。演算条件として、例えば、対象部品に対する初期応力σ、使用温度T、運転時間tf等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、運転時間tfは、所定の微少時間に分割され、微少時間前の応力を初期応力として該微少時間後の応力を算出して、以下の各算出手段における処理に用いられる。なお、対象部品等によってこれらの演算条件が所定の条件に定められる場合には、これらの演算条件は、例えば、対象部品等に対応させてデータベース等に予め格納されてもよい。
【0024】
クリープひずみ速度算出手段23は、演算条件収得手段22によって収得された演算条件、およびクリープ強度データベース50に格納されたクリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データに基づいて、クリープひずみ速度を算出する。ここで、例えば、上記した、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体を締結構造体とする場合、微少時間後におけるクリープひずみ速度を算出するときに用いられる応力値は、微少時間前における、ボルトおよび座金の双方について算出された応力緩和量のうち大きな方の値が初期応力として用いられる。なお、クリープ強度データベース50には、例えば、各材料名に対応させて、各使用温度におけるクリープ曲線データ、クリープ破断特性データ、ヤング率等の種々のデータが格納されている。
【0025】
応力緩和量算出手段24は、クリープひずみ速度算出手段23によって算出されたクリープひずみ速度に基づいて、応力緩和量を算出する。
【0026】
クリープ損傷量算出手段25は、演算条件収得手段22によって収得された演算条件、クリープ強度データベース50に格納されたクリープ強度データおよび算出された微少時間後における応力に基づいて、クリープ損傷量を算出する。
【0027】
締結構造判定手段26は、応力緩和量算出手段24によって算出された応力緩和量、およびクリープ損傷量算出手段25によって算出されたクリープ損傷量に基づいて、締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する。この締結構造が適正か否かの評価は、例えば、予め設定された最小設定応力や許容クリープ損傷量の値に基づいて実行される。例えば、上記した、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体を締結構造体とする場合、締結構造が適正か否かの評価をする際に用いられる応力緩和量やクリープ損傷量は、ボルトに係る値が用いられることが好ましい。これは、座金に比べてボルトが破損する方が経済性に影響を与えるからである。
【0028】
設定変更情報収得手段27は、締結構造判定手段26によって締結構造が不適であると判定した場合に締結構造体の締結構造の設定変更情報を収得する。この設定変更情報として、例えば、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体を締結構造体とする場合、締結構造評価が実行された座金やボルトの材料と異なる材料に係る情報、締結構造評価が実行された座金やボルトのサイズ、特に座金表面の面積やボルト直径等が異なる座金やボルトに係る情報等が挙げられる。これらの設定変更情報は、出入力インターフェース40等によって入力されてもよいし、また、締結構造が不適であると判定された場合に、次の仕様について評価を実行するために予め設定された情報を入力してもよい。この予め設定された情報は、例えば、所定のデータベース等に格納される。
【0029】
なお、上記した締結構造評価装置10における各種機能手段21〜27は、上記したように、メモリやHDD(Hard Disk Drive)などの適宜なプログラムデータベース20等の記憶装置に格納したプログラムとして実現してもよいし、ハードウェアとして実現してもよい。プログラムとして実現する場合には、本発明の締結構造評価装置10の制御手段30がプログラム実行に合わせてプログラムデータベース20より該当するプログラムを制御手段30のメモリ等に読み出して、これを実行することとなる。
【0030】
次に、締結構造評価装置10の動作について説明する。
【0031】
ここで、図3は、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体からなる締結構造体の断面を示す図である。なお、ここでは、出入力インターフェース40から入力された締結構造体に係る情報が、図3に示すような座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体からなる締結構造体に係る情報である場合について説明する。
【0032】
ここで、図3に示すように、締結される構造物201と、この構造物201とボルト202との間に設けられる座金203とで構成される被締結物は、ボルト202と同様に高温下で荷重を受けているため、初期応力状態からクリープ変形して応力が緩和する。その応力緩和量は、ボルト202と同様に求められ、この被締結物の応力緩和量がボルト202の応力緩和量より小さい場合には、被締結物のクリープ変形がボルト202の応力緩和に影響を与えることは小さいと判断される。そのため、ボルト202の応力緩和が支配的に作用する。一方、被締結物のクリープ変形が大きくなり、応力緩和量がボルト202の応力緩和量より大きくなる場合には、被締結物の応力緩和が支配的に作用するため、被締結物の応力緩和挙動に基づいて応力変化を計算する必要がある。そのため、ここでは、後述するクリープひずみ速度の算出、応力緩和量の算出、クリープ損傷量の算出は、ボルトおよび座金の双方について実行される。
【0033】
まず、締結構造評価装置10は、出入力インターフェース40から締結構造体に係る情報が入力されたか否かを判定する(ステップS101)。
【0034】
ステップS101の判定で、締結構造体に係る情報が入力されていないと判定した場合(ステップS101のNo)には、締結構造評価装置10は、処理をステップS101に戻す。
【0035】
一方、ステップS101の判定で、締結構造体に係る情報が入力されたと判定した場合(ステップS101のYes)には、締結構造評価装置10は、制御手段30によって選定情報収得手段21を機能させ、締結構造体に係る情報を収得する(ステップS102)。なお、締結構造評価装置10は、締結構造体に係る情報を制御手段30のRAM等に記憶する。上記したように、ここでは、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体からなる締結構造体に係る情報が収得される。この場合における締結構造体の選定情報には、例えば、プラント名称、高温機器部品名、締結部品名等が含まれる。
【0036】
続いて、締結構造評価装置10は、制御手段30によって演算条件収得手段22を機能させ、収得した締結構造体に対応する演算条件を、例えば、予め設定されたデータベース等から収得する(ステップS103)。なお、演算条件は、出入力インターフェース40から入力された情報であってもよい。また、締結構造評価装置10は、演算条件に係る情報を制御手段30のRAM等に記憶する。
【0037】
続いて、締結構造評価装置10の制御手段30は、記憶した演算条件に含まれる運転時間tfを、所定の微少時間Δtに分割する。ここで、微少時間Δtは、均一に分割される必要はなく、緩和応力が過度に大きくならない程度に設定されることが好ましい。また、微少時間Δtは、応力が大きいほど小さく設定することが好ましい。また、応力緩和量が小さな低応力の場合には、微少時間Δtを比較的大きくしても緩和応力に大きな誤差を生じることはない。すなわち、微少時間Δtは、緩和応力がほぼ一定となるように設定されることが好ましい。また、締結構造評価装置10は、制御手段30によってクリープひずみ速度算出手段23を機能させ、演算条件収得手段22によって収得された演算条件、およびクリープ強度データベース50に格納されたクリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データに基づいて、微少時間Δt後に生ずるクリープひずみε、または微少時間Δt間におけるクリープひずみ速度εを算出する(ステップS104)。ここで、クリープひずみεやクリープひずみ速度εは、高温機器部品を構成する材料毎等に対応してクリープ強度データベース50に格納された、各温度および各応力におけるクリープ曲線データから算出される。なお、クリープひずみ速度εに微少時間Δtを乗じたものが微少時間Δt後に生ずるクリープひずみεとなる。また、クリープひずみ速度を算出するときに用いられる応力値は、初期応力として、微少時間前における、ボルトおよび座金の双方について算出された応力緩和量のうち大きな方の値が用いられる。
【0038】
続いて、締結構造評価装置10は、制御手段30によって応力緩和量算出手段24を機能させ、クリープひずみ速度算出手段23によって算出されたクリープひずみ速度に基づいて、被締結物の変形量を考慮して、微少時間Δtにおける応力緩和量Δσを算出する(ステップS105)。ここで、被締結物の変形とは、Δt時間における被締結物のクリープ変形であり、被締結物に発生する応力が小さい場合には、ボルトのクリープ変形以上の変形が生じないため、被締結物の変形は無視できる。一方、被締結物の応力が大きい場合や、被締結物が低強度材で構成される場合には、ボルト202がクリープ変形する以上の変形量となるため、ボルト202の応力は、被締結物の変形に合わせて大きく低下することとなる。
【0039】
ステップS105で算出される微少時間Δtにおける応力緩和量Δσは、クリープひずみεが全て弾性変形により応力低下するとして、微少時間Δtにおけるクリープひずみεとヤング率Eとの積により算出される。すなわち、微少時間Δtにおける応力緩和量Δσは、クリープひずみ速度算出手段23によって算出された微少時間Δt後に生ずるクリープひずみεにヤング率Eを乗じることで算出される。
【0040】
また、他の応力緩和量Δσの算出方法について、図4を参照して説明する。図4は、クリープ破断特性と最小クリープひずみ速度からの応力緩和算出法を説明するための概略図である。
【0041】
まず、締結構造体を構成する材料のクリープ破断特性から初期応力σにおける、使用温度Tでのクリープ破断時間trを得る。クリープ破断時間は温度により変化するが、温度とクリープ破断時間を統合したラーソンミラーパラメータ(P=T(C+logtr))等のパラメータを用いることによりマスターカーブでの評価が可能となる。なお、Cは、材料によって決まる定数である。続いて、クリープ破断時間trとクリープ変形における最小クリープひずみ速度εminとには、両対数線図上でほぼ傾きが−1となる関係(Monkman-Grant則)が周知であり、この関係に基づいて、初期応力σにおける最小クリープひずみ速度εminを得ることができる。微少時間Δtにおける応力緩和量Δσは、クリープひずみがすべて弾性応力に置き換えられるとして、最小クリープひずみ速度εmin、微少時間Δtおよびヤング率Eの積として与えられる。
【0042】
ここで、最小クリープひずみ速度は、材料が一定応力でクリープ変形するときの最も小さい変形速度であるため、これを用いて得られた応力緩和量は最も小さいものとして評価される。しかし、締結構造体は、起動停止などを繰り返して使用されるため、運転中のほぼ中間的な状態を評価する場合には、上記の最小クリープ速度を用いた応力緩和量Δσの算出方法によって大きな誤差を生じることはない。
【0043】
さらに、他の応力緩和量Δσの算出方法について、図5を参照して説明する。図5は、時間とクリープひずみ速度の関係を説明するための概略図である。
【0044】
この微少時間Δtにおける応力緩和量Δσは、各応力で得られるクリープひずみ速度データを用いて算出される。図5の各曲線に示されるように、クリープ変形の初期において大きくクリープ変形するためクリープひずみ速度は大きいが、短時間で低下し、安定した定常状態のクリープひずみ速度となる。また、クリープひずみ速度は、破断直前において増大する。曲線は下に凸の形状を示し、最小値が最小クリープ速度となる。ボルトや被締結物の応力緩和は、基本的にはこれらの曲線上をそれぞれの応力、時間の条件を満足しながら移動しているものと考えられる。そのため、初期状態から逐次、微少時間に区切って応力状態を解析することができる。例えば、初期状態で応力がσ1である場合には、時間0におけるひずみ速度をε1とすると応力緩和量Δσ1は、「Δσ1=E・ε1・Δt」となり、微少時間Δt後の応力σ2は、「σ2=σ1−Δσ1」となる。さらに次の微少時間Δt後の応力緩和量Δσ2は、「Δσ2=E・ε2・Δt」となり、この緩和後の応力σ3は、「σ3=σ2−Δσ2」となる。これらの計算を繰り返し実施することにより、運転時間に相当する応力変化を把握することができる。
【0045】
この応力緩和量Δσの算出方法は、例えば、運転があまり繰り返されることのない単一の運転を行なう高温機器の締結構造を評価する場合に特に有効であり、高い精度の結果を得ることができる。
【0046】
続いて、締結構造評価装置10は、制御手段30によってクリープ損傷量算出手段25を機能させ、演算条件収得手段22によって収得された演算条件、クリープ強度データベース50に格納されたクリープ強度データおよび算出された微少時間後における応力に基づいて、クリープ損傷量を算出する(ステップS106)。
【0047】
ステップS106で算出される微少時間Δtにおけるクリープ損傷量Δφcは、初期応力「σ」と緩和後の応力「σ−Δσ」との平均応力「σ− Δσ/2」におけるクリープ破断時間trを求め、このクリープ破断時間trで微少時間Δtを除して(Δφc=Δt/tr)算出される。初期状態からΔt時間後の計算時間t=Δtにおいて、応力は「σ− Δσ」、クリープ損傷量は、初期損傷量に加えて「Δφc=Δt/tr」となる。なお、計算時間が「t=0」におけるクリープ損傷量は「0」である。次の微少時間Δtにおいても同様な計算を行うが、その初期値は応力については「σ」を「σ− Δσ」として、クリープ損傷量については「0」を「Δt/tr」として、計算時間tについては「0」を「Δt」として計算を実行する。
【0048】
続いて、締結構造評価装置10は、制御手段30によって計算時間tが設定された運転時間tfよりも小さいか否かを判定する(ステップS107)。
【0049】
ステップS107の判定で、計算時間tが設定された運転時間tfよりも小さいと判定した場合(ステップS107のYes)には、ステップS104からの処理を、処理が実行されていない微少時間Δtについて再度実行する。すなわち、計算時間tが始めに設定した運転時間tfに達するまでステップS104〜ステップS106の処理が繰り返し実行される。
【0050】
一方、ステップS107の判定で、計算時間tが設定された運転時間tfであると判定した場合(ステップS107のNo)には、締結構造評価装置10は、制御手段30によって締結構造判定手段26を機能させ、応力緩和量算出手段24によって算出された応力緩和量、およびクリープ損傷量算出手段25によって算出されたクリープ損傷量に基づいて、締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する(ステップS108)。締結構造体の締結構造が適正か否かの評価は、計算時間tが運転時間tfとなったときの応力値である最終応力値が予め設定された最小設定応力値以上で、かつクリープ損傷量が予め設定された許容設定損傷量以下であるか否かで判定する。ここで、締結構造体の締結構造が適正か否かの評価には、ボルトに係る応力緩和量やクリープ損傷量の値が用いられる。また、運転時間tfは、連続して使用される時間であるため、一旦休止して構造物の分解や組立を行う場合には、平均的な運転時間において生じた損傷が繰り返し生じるものとして、繰り返される回数を掛けてクリープ損傷量を算出することが好ましい。
【0051】
ステップS108の判定で、計算時間tが運転時間tfとなったときの応力値である最終応力値が予め設定された最小設定応力値以上で、かつ最終的に蓄積される損傷量であるクリープ損傷量が予め設定された許容設定損傷量以下であると判定された場合(ステップS108のYes)には、評価された締結構造体の締結構造が適正となり、締結構造が決定される(ステップS109)。この際、締結構造評価装置10の表示手段60には、例えば、評価された締結構造体の締結構造が適正であることに係る情報等が表示される。
【0052】
一方、計算時間tが運転時間tfとなったときの応力値である最終応力値が予め設定された最小設定応力値より小さい、および/またはクリープ損傷量が予め設定された許容設定損傷量よりも大きいと判定された場合(ステップS108のNo)には、締結構造評価装置10は、制御手段30によって設定変更情報収得手段27を機能させ、締結構造体の締結構造の設定変更情報を収得する(ステップS110)。
【0053】
この締結構造の設定変更情報は、出入力インターフェース40等によって入力された情報、または予めデータベース等に記憶された情報に基づくもので、締結構造評価が実行された座金やボルトの材料と異なる材料に係る情報、締結構造評価が実行された座金やボルトのサイズ、特に、座金表面の面積やボルトの直径等が異なる座金やボルトに係る情報等である。例えば、出入力インターフェース40等によって、座金の材料を変更する情報が入力された場合には、座金の材料に係る情報を、入力された情報に書き換え、上記したステップS104からの締結構造評価を計算時間tが運転時間tfとなるまで再度実行する。このように、評価された締結構造体の締結構造が適正でないと判定された場合には、締結構造の設定を変更して、締結構造体の締結構造を再度評価する。
【0054】
次に、種々の締結構造体の締結構造による応力特性や、座金とボルトの面積比と最終応力およびクリープ損傷量との関係について例を挙げて、図6〜図10を参照して説明する。なお、座金とボルトの面積比とは、座金の表面の面積とボルトのネジ部の断面積との比(座金の表面の面積/ボルトのネジ部の断面積)をいう。
【0055】
図6は、低強度材料からなる座金を用いた場合の応力変化を説明するための概略図である。図7は、高強度材料からなる座金を用いた場合の応力変化を説明するための概略図である。図8は、座金とボルトの面積比と最終応力およびクリープ損傷量との関係を説明するための概略図である。図9は、座金とボルトの面積比と最終応力の関係における材料依存性を説明するための概略図である。図10は、座金とボルトの面積比とクリープ損傷の関係における材料依存性を説明するための概略図である。
【0056】
図6に示すように、座金とボルトの面積比を比較的大きくし(座金/ボルトの面積比が1〜4程度)、低強度材料からなる座金を用いた場合には、初期状態では座金とボルトの面積比が大きく負荷応力の小さいため、クリープ変形は小さいく、ボルトの応力はそれ自体の応力緩和特性に沿って変化する。一方、応力が低下し、ボルトと座金のクリープ変形量がほぼ同じ状態となった後は、クリープ強度がボルト材より低い分、座金のクリープ変形が大きくなり、座金の応力緩和特性が支配的となって急激な応力低下が生じる。この場合、座金を備えない状態に比べて、運転後にはクリープ損傷は小さくなるが、ボルト締付力のかなり大きな低下が予測される。
【0057】
図7に示すように、座金とボルトの面積比を小さくし(座金/ボルトの面積比が0.7〜1程度)、ボルト材よりも高強度の座金を用いた場合には、初期状態では座金とボルトの面積比が小さいため、座金には過大な応力が発生してボルト以上のクリープ変形が発生し、座金のクリープ変形が支配的となって応力が緩和する。そのため、座金を備えない状態に比べて、初期状態において急激に応力が低下する。一方、一定の応力低下を生じた後は、座金が高強度材料で構成されるため、座金のクリープ変形は小さくなり、全体の応力低下は抑えられる。最終的な応力は、座金を備えない状態とほとんど変わらない状態となる。また、ボルトにおいては、初期状態における高応力の状態が比較的短いため、全体のクリープ損傷は、座金を備えない状態に比べてはるかに小さくなる。
【0058】
このように、ボルトの応力緩和量は、被締結物との関係において大きく変化するため、被締結物である座金や構造物の材料、形状を適切に選定して適用することが重要となる。蒸気タービンでは、ボルト材として、例えば12CrMoWV鋼を、座金材として、ボルト材より強度の高い、例えば12CrNiMoVNbN鋼を用いることにより上記締結構造が得られる。
【0059】
また、被締結物である座金に生ずる応力は、座金とボルトの面積比によって大きく変化するため、座金とボルトの面積比を基に最終応力やクリープ損傷量の傾向を求め、最適な状態を求めることができる。図8に示すように、座金とボルトの面積比が一定値(限界面積比)以上では、最終応力およびクリープ損傷量ともに一定値となるが、この限界面積比より小さい面積比では、最終応力およびクリープ損傷量は、面積比の減少とともに低下する。この限界面積比の値は、材料の組み合わせや計算上の運転時間などによって変化するが、この限界面積比以上となる大きさの座金を用いた場合には、座金に発生する応力は小さいため、ボルトの応力緩和挙動に影響がないことを示している。すなわち、この限界面積比は、計算上の限界面積比となる。この限界面積比よりも小さい面積比で座金を用いた場合には、座金のクリープ変形がボルトの応力緩和挙動に影響を与えるため、最終応力、クリープ損傷量とも低下する傾向にある。
【0060】
さらに、最終応力とクリープ損傷量の変化する傾向は、座金とボルトの材料の強度によって変化する。図9に示すように、座金がボルトよりも低強度材で構成された場合、最終応力は、限界面積比よりも小さな面積比の範囲で急激に低下する。一方、座金がボルトよりも高強度材で構成された場合、最終応力は、限界面積比よりも小さな面積比の範囲で僅かに低下する程度である。また、図10に示すように、クリープ損傷量は、座金がボルトよりも高強度材で構成された場合の方が、座金がボルトよりも低強度材で構成された場合よりも、限界面積比よりも小さな面積比の範囲で急激に低下する。以上のように、高強度材を座金として用いた場合の方が低強度材を座金として用いた場合よりも、最終応力やクリープ損傷量を考慮すると適合性が高い。
【0061】
また、これらの結果を実際の締結構造に適用することにより、最終の締結力はほとんど変わらないが、クリープ損傷量を格段に低下させることができる締結構造を得ることができる。これらの締結構造は実際の構造として長時間、安全に使用に耐えることができる構造物となる。
【0062】
なお、限界面積比自体を比較すると、低強度材が1より大きいのに対して、高強度材では1より小さくなるため、高強度材を用いる場合には、座金の接触面積の僅かな設定の誤差が大きな応力や損傷の誤差となる可能性がある。そのため、高強度材を座金に使用する場合には、低強度材を座金に使用する場合よりも、より慎重な設定等が必要となる。
【0063】
上記した一実施の形態の高温機器の締結構造評価装置10によれば、高温締結機器のうち対象となるボルト等の部品を選定して、初期応力σ、温度T、運転時間tfを設定し、この初期状態からの応力変化とクリープ損傷量の累積を微少時間毎に求めることができる。従来の応力緩和の評価では、実験で得られたデータをそのまま適用していたため、被締結物のクリープ変形を考慮することなく過度に安全側の評価となっていた。しかし、本発明では、ボルトの応力緩和量と被締結物の応力緩和量を比較することにより、どちらの変形が支配的であるかを判断しながら応力変化を推定している。そのため、様々な締結構造に適用が可能であり、また得られた結果も高い信頼性が得られる。
【0064】
ここで、上記した最小クリープ速度を用いて評価を行う場合、過度に応力緩和を小さく見積もる危険性があるが、実際の機器の運用状態を再現した試験における実験データは、ほぼ推定値と一致した傾向となった。これは実際の機器では、起動停止を繰り返すため、各運転時間での初期状態でも構造機器の各材料は、ほぼ定常クリープ状態、すなわち最小クリープ速度で得られる状態で使用されるためであると考えられる。このため、本発明の最小クリープ速度を用いた評価方法は、比較的容易な方法でありながら、長時間における応力変化を精度良く推定することができる。
【0065】
また、本発明では、運転時間を微少時間に分割し、初期状態から逐次、応力緩和量とクリープ損傷量を算出しているため、ボルトや被締結物の応力状態を考慮しながら応力変化を評価することができる。したがって、単純に実験で得られた応力緩和データを適用する場合よりも、本発明に係る締結構造評価で得られた結果は高い精度となる。
【0066】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0067】
例えば、締結構造体の締結構造における応力を評価する際に、有限要素法(FEM)解析を用いてもよい。このFEM解析では、ボルトや座金等の被締結物の形状データを入力することにより、自動的にメッシュモデルを作成して、解析を実行することができる。ここで、図11は、クリープひずみの時間依存性を示す各応力でのデータを説明するための概略図である。なお、FEM解析は、クリープ解析が可能な非線形解析であるため、図11に示すようなクリープひずみの時間依存性を示す各応力でのデータを必要とする。
【0068】
また、得られた応力とクリープ損傷量が許容できるかを、図2に示したステップS107と同様の処理によって判定することにより、締結構造の安全性を確認することができる。また、ステップS107の判定で締結構造が許容されない場合には、ステップS110と同様の処理により、締結構造の設定を変更して再度FEM解析し、その変更された締結構造が許容できるか否かを判定して、最終的に締結構造を決定することができる。
【0069】
また、FEM解析を利用した締結構造評価は、クリープ変形データとして単純なクリープ変形におけるデータを用いているため、比較的長時間の運転を繰り返すことなく運転される締結構造体を評価する際に有効である。また、図1および図2に示した方法で締結構造体を評価した後に、確認のためFEM解析を利用して締結構造評価を行なうこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施の形態の高温機器の締結構造評価装置の主要な構成を示す機能ブロック図。
【図2】本発明の一実施の形態の高温機器の締結構造評価装置の動作を示したフローチャート。
【図3】座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体からなる締結構造体の断面を示す図。
【図4】クリープ破断特性と最小クリープひずみ速度からの応力緩和算出法を説明するための概略図。
【図5】時間とクリープひずみ速度の関係を説明するための概略図。
【図6】低強度材料からなる座金を用いた場合の応力変化を説明するための概略図。
【図7】高強度材料からなるの座金を用いた場合の応力変化を説明するための概略図。
【図8】座金とボルトの面積比と最終応力およびクリープ損傷量との関係を説明するための概略図。
【図9】座金とボルトの面積比と最終応力の関係における材料依存性を説明するための概略図。
【図10】座金とボルトの面積比とクリープ損傷の関係における材料依存性を説明するための概略図。
【図11】クリープひずみの時間依存性を示す各応力でのデータを説明するための概略図。
【図12】代表的な高温機器である蒸気弁の断面を示す図。
【図13】締結部フランジの変形を防止するために断熱部材を適用した従来の締結構造体の断面を示す図。
【図14】接触面圧を低下させるために用いられた角形状座金を適用した従来の締結構造体の斜視図。
【図15】図14に示した従来の締結構造体の断面を示す図。
【図16】蒸気弁の上蓋を接合する締結ボルトに係る損傷例を示す断面図。
【符号の説明】
【0071】
10…高温機器の締結構造評価装置、20…プログラムデータベース、21…選定情報収得手段、22…演算条件収得手段、23…クリープひずみ速度算出手段、24…応力緩和量算出手段、25…クリープ損傷量算出手段、26…締結構造判定手段、27…設定変更情報収得手段、30…制御手段、40…出入力インターフェース、50…クリープ強度データベース、60…表示手段、70…システムバス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温機器を締結する締結構造体の選定情報を収得する選定情報収得手段と、
前記選定情報収得手段によって収得された締結構造体に対応する演算条件を収得する演算条件収得手段と、
クリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データを格納するクリープ強度データベースと、
前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、および前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データに基づいて、クリープひずみ速度を算出するクリープひずみ速度算出手段と、
前記クリープひずみ速度算出手段によって算出されたクリープひずみ速度に基づいて、応力緩和量を算出する応力緩和量算出手段と、
前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データおよび応力に基づいて、クリープ損傷量を算出するクリープ損傷量算出手段と、
前記応力緩和量算出手段によって算出された応力緩和量、および前記クリープ損傷量算出手段によって算出されたクリープ損傷量に基づいて、前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する締結構造判定手段と
を具備することを特徴とする高温機器の締結構造評価装置。
【請求項2】
前記締結構造体が、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体であり、前記ボルトおよび前記座金の双方について、前記クリープひずみ速度算出手段によるクリープひずみ速度の算出、前記応力緩和量算出手段による応力緩和量の算出、クリープ損傷量算出手段によるクリープ損傷量の算出を実行することを特徴とする請求項1記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項3】
前記演算条件収得手段によって収得される演算条件には、少なくとも前記締結構造体の初期応力、使用温度および前記高温機器の運転時間の情報が含まれ、前記運転時間を所定の微少時間に分割し、微少時間前の応力を初期応力として該微少時間後の応力を算出することを特徴とする請求項1または2記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項4】
前記初期応力が、前記応力緩和量算出手段によって算出された、前記ボルトおよび前記座金の応力緩和量のうち大きな方の値に基づいて設定されることを特徴とする請求項3記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項5】
前記クリープひずみ速度算出手段が、前記クリープ強度データベースに格納された各温度における応力とクリープ破断時間との関係から、入力された使用温度と応力に基づいてクリープ破断時間を算出し、前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ破断時間とクリープ速度との関係から、前記算出されたクリープ破断時間に基づいてクリープひずみ速度を算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項6】
前記クリープひずみ速度算出手段が、前記クリープ強度データベースに格納された、クリープ試験結果から得られた各応力に対するクリープひずみ速度と時間との関係から、所定時間後のクリープひずみ速度を算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項7】
前記クリープ損傷量算出手段が、前記クリープ強度データベースに格納された各温度における応力とクリープ破断時間との関係から、前記微少時間前後における応力の平均応力に基づいてクリープ破断時間を算出し、前記微少時間を前記算出されたクリープ破断時間で除してクリープ損傷量を算出することを特徴とする請求項3記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項8】
前記締結構造判定手段が、前記応力緩和量算出手段によって算出された応力緩和量に基づいて算出される前記運転時間後の前記ボルトにおける応力、およびクリープ損傷量算出手段によって算出された前記運転時間後の前記ボルトにおけるクリープ損傷量に基づいて、前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価することを特徴とする請求項3記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項9】
前記締結構造判定手段によって締結構造が不適であると判定した場合に前記締結構造体の締結構造の設定変更情報を収得する設定変更情報収得手段をさらに具備したことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載の高温機器の締結構造評価装置。
【請求項10】
高温機器の締結構造を評価する高温機器の締結構造評価装置における締結構造評価方法であって、
高温機器を締結する締結構造体の選定情報を選定情報収得手段が収得する選定情報収得ステップと、
前記選定情報収得手段が収得した締結構造体に対応する演算条件を演算条件収得手段が収得する演算条件収得ステップと、
前記演算条件収得手段が収得した演算条件、およびクリープ強度データベースから入力したクリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データに基づいて、クリープひずみ速度算出手段がクリープひずみ速度を算出するクリープひずみ速度算出ステップと、
前記クリープひずみ速度算出手段が算出したクリープひずみ速度に基づいて、応力緩和量算出手段が応力緩和量を算出する応力緩和量算出ステップと、
前記演算条件収得手段が収得した演算条件、前記クリープ強度データベースから入力したクリープ損傷量を算出するためのクリープ強度データおよび応力に基づいて、クリープ損傷量算出手段がクリープ損傷量を算出するクリープ損傷量算出ステップと、
前記応力緩和量算出手段が算出した応力緩和量、および前記クリープ損傷量算出手段が算出したクリープ損傷量に基づいて、締結構造判定手段が前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する締結構造判定ステップと
を具備することを特徴とする高温機器の締結構造評価方法。
【請求項11】
前記締結構造体が、座金を介してボルトによって締結されるネジ締結体であり、前記ボルトおよび前記座金の双方について、前記クリープひずみ速度算出ステップにおけるクリープひずみ速度の算出、前記応力緩和量算出ステップにおける応力緩和量の算出、クリープ損傷量算出ステップにおけるクリープ損傷量の算出を実行することを特徴とする請求項10記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項12】
前記演算条件収得ステップで前記演算条件収得手段が収得する演算条件には、少なくとも前記締結構造体の初期応力、使用温度および前記高温機器の運転時間の情報が含まれ、前記運転時間を所定の微少時間に分割し、微少時間前の応力を初期応力として該微少時間後の応力を算出することを特徴とする請求項10または11記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項13】
前記初期応力が、前記応力緩和量算出ステップで算出された、前記ボルトおよび前記座金の応力緩和量のうち大きな方の値に基づいて設定されることを特徴とする請求項12記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項14】
前記クリープひずみ速度算出ステップにおいて、前記クリープひずみ速度算出手段が、前記クリープ強度データベースに格納された各温度における応力とクリープ破断時間との関係を参照し、入力された使用温度と応力に基づいてクリープ破断時間を算出し、前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ破断時間とクリープ速度との関係を参照し、前記算出されたクリープ破断時間に基づいてクリープひずみ速度を算出することを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項15】
前記クリープひずみ速度算出ステップにおいて、前記クリープひずみ速度算出手段が、前記クリープ強度データベースに格納された、クリープ試験結果から得られた各応力に対するクリープひずみ速度と時間との関係を参照し、所定時間後のクリープひずみ速度を算出することを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項16】
前記クリープ損傷量算出ステップにおいて、前記クリープ損傷量算出手段が、前記クリープ強度データベースに格納された各温度における応力とクリープ破断時間との関係を参照し、前記微少時間前後における応力の平均応力に基づいてクリープ破断時間を算出し、前記微少時間を前記算出されたクリープ破断時間で除してクリープ損傷量を算出することを特徴とする請求項12記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項17】
前記締結構造判定ステップにおいて、前記締結構造判定手段が、前記応力緩和量算出ステップで算出された応力緩和量に基づいて算出される前記運転時間後の前記ボルトにおける応力、およびクリープ損傷量算出ステップで算出された前記運転時間後の前記ボルトにおけるクリープ損傷量に基づいて、前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価することを特徴とする請求項12記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項18】
前記締結構造判定ステップで締結構造が不適であると判定した場合に前記締結構造体の締結構造の設定変更情報を設定変更情報収得手段が収得する設定変更情報収得ステップをさらに具備したことを特徴とする請求項10乃至17のいずれか1項記載の高温機器の締結構造評価方法。
【請求項19】
高温機器の締結構造を評価する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
高温機器を締結する締結構造体の選定情報を収得する選定情報収得手段と、
前記選定情報収得手段によって収得された締結構造体に対応する演算条件を収得する演算条件収得手段と、
クリープひずみ速度を算出するためのクリープ強度データを格納するクリープ強度データベースと、
前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、および前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データに基づいて、クリープひずみ速度を算出するクリープひずみ速度算出手段と、
前記クリープひずみ速度算出手段によって算出されたクリープひずみ速度に基づいて、応力緩和量を算出する応力緩和量算出手段と、
前記演算条件収得手段によって収得された演算条件、前記クリープ強度データベースに格納されたクリープ強度データおよび応力に基づいて、クリープ損傷量を算出するクリープ損傷量算出手段と、
前記応力緩和量算出手段によって算出された応力緩和量、および前記クリープ損傷量算出手段によって算出されたクリープ損傷量に基づいて、前記締結構造体の締結構造が適正か否かを評価する締結構造判定手段として機能させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−232738(P2008−232738A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70945(P2007−70945)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】