説明

高温部品の欠陥補修方法、高温部品及び補修材装填装置

【課題】補修による変形を生じさせることなく、且つ補修部分を補修不要箇所または材料と同等の高温強度に確保できること。
【解決手段】高温状態で運転されるガスタービンの静翼11に生じた欠陥としてのき裂21を補修する高温部品の欠陥補修方法において、欠陥21内にろう付け補修材20を装填する装填工程(図2(C))と、ろう付け補修材20を用いた拡散熱処理によってき裂21をろう付け加工するろう付け工程(図2(D))とを有し、前記装填工程では、欠陥21内にろう付け補修材20を装填する際に静翼11を振動させ、欠陥21内にろう付け補修材20を装填するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンの静翼のような高温部品に生じたき裂などの欠陥を補修する高温部品の欠陥補修方法、欠陥が補修された高温部品、及び前記欠陥補修方法において使用される補修材装填装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタ−ビン発電プラントは、ガスタ−ビンと同軸に設けられた圧縮機の駆動によって圧縮された圧縮空気を燃焼器ライナに案内し、この燃焼器ライナの燃焼室内で燃料とともに燃焼させ、燃焼により発生した高温の燃焼ガスを、トランジションピ−ス及び静翼を経て動翼へ導き、この動翼を回転駆動させてガスタ−ビンに仕事をさせるようになっている。
【0003】
この種のガスタ−ビンの高温部品である燃焼器ライナ、トランジションピ−ス、静翼及び動翼には、Ni基、Co基、またはNi−Fe基の耐熱超合金が用いられるが、ガスタ−ビンの運転とともに種々の損傷が発生する。まず、これらの高温部品は、高温の燃焼ガス雰囲気に晒されるため材質劣化が生じるとともに、動翼については、高速回転により生ずる遠心応力の作用でクリ−プ損傷が蓄積する。また、ガスタ−ビンの高温部品は、起動時には比較的低温環境域から高温環境域に、停止時には逆に高温環境域から低温環境域にそれぞれ推移する段階で熱疲労が生じ、疲労損傷が蓄積する。これらの損傷(材質劣化、クリ−プ損傷、疲労損傷)は重畳して蓄積する。
【0004】
ところで、ガスタ−ビンの高温部品の保守管理は、機器の設計段階で決まるクリ−プあるいは疲労寿命と、実機の運転、立地上の環境により設定される設計寿命とを基に、同一機種あるいは同一運転形態をとるガスタ−ビンを分類し、分類された各グル−プの先行機の実績を用いて設計寿命を補正し、後続機の保守管理を行っている。近年では、特許文献1に記載のように、ガスタ−ビンの高温部品の劣化、損傷診断を効率的に精度良く予測する保守管理方法が実施されつつある。いずれの保守管理方法においても、ガスタ−ビンの高温部品は、必要に応じて定検毎に補修が繰り返えされ、管理寿命に到達した後に一律に廃却となり、非常に高価な新品と交換される。
【0005】
ガスタ−ビン静翼の定検毎の補修においては、使用によりき裂が発生した場合、き裂周辺を除去し、溶接補修することで再使用が可能となる。また、溶接補修の他に、ろう付けによってき裂を補修する方法もある。このような溶接補修またはろう付け補修の例を、下記の特許文献2〜5に示す。
【0006】
特許文献2には、発電用ガスタービン静翼の精密鋳造時に生じた欠陥あるいは使用中に生じたき裂の補修方法として、クリープ特性、耐熱疲労特性及び耐腐食性に優れたCo基合金の材料を用いた溶接方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には、高温金属(合金)部品に発生した、高温腐食生成物で充満したき裂の補修方法として、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム水溶液に高温金属部品を浸漬して、高温腐食生成物を除去した後に、Niろう材又はCoろう材によりき裂を補修する方法が提案されている。
【0008】
更に、特許文献4には、き裂が生じたジェットエンジンの静翼を水素雰囲気中に曝露し、酸化物を還元し、アクリルレジンとろう材を補修材としてき裂に塗布し、高温、真空中でろう付けしてき裂を補修する方法が提案されている。
【0009】
特許文献5には、ガスタービン静翼でき裂が発生している表面部位の酸化層を、き裂が一部残存する形で削り、この削り部内に補修材を充填し、不活性ガスによる加圧下での熱処理により、ろう材を溶融させてき裂を補修する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−293049号公報
【特許文献2】特開平11−117705号公報
【特許文献3】特開平6−234066号公報
【特許文献4】特開平6−344129号公報
【特許文献5】特開2006−46147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上述の特許文献において、特許文献2に記載のき裂の溶接補修では、溶接後に溶接変形が生じて、ガスタービン静翼を再使用できない場合がある。また、特許文献3〜5に記載のろう付け補修においては、ろう付け補修後に、補修部内にある程度のボイドが生じて、補修部の高温強度が低下する恐れがある。
【0011】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、補修による変形を生じさせることなく、且つ補修部分を補修不要箇所または材料と同等の高温強度に確保できる高温部品の欠陥補修方法、及びこの方法により欠陥が補修された高温部品を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、高温部品の欠陥内へのろう付け補修材の装填と高温部品の振動とを同時に実施できる補修材装填装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る高温部品の欠陥補修方法は、高温状態で運転されるエネルギー機関の高温部品に生じた欠陥を補修する高温部品の欠陥補修方法において、前記欠陥内にろう付け補修材を装填する装填工程と、前記ろう付け補修材を用いた拡散熱処理によって前記欠陥をろう付け加工するろう付け工程とを有し、前記装填工程では、前記欠陥内に前記ろう付け補修材を装填する際に前記高温部品を振動させ、前記欠陥内に前記ろう付け補修材を装填することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明に係る高温部品は、高温状態で運転されるエネルギー機関の高温部品であって、上述の高温部品の欠陥補修方法により欠陥が補修されて構成されたことを特徴とするものである。
【0015】
更に、本発明に係る補修材装填装置は、高温部品の欠陥内へろう付け補修材を装填する補修材装填装置であって、前記ろう付け補修材を収容し、先端側に注入口が設けられた収容部を備え、前記注入口の反対側に設けられた押圧部材により、前記収容部内のろう付け補修材を押圧して、前記注入口から前記欠陥内へ装填する装填機構部と、振動子を備え、駆動源の回転動作により前記振動子を進退動作させて、前記高温部品に振動を付与する振動機構部と、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る高温部品の欠陥補修方法及び高温部品によれば、高温部品に生じた欠陥内にろう付け補修材を装填する際に高温部品を振動させて、欠陥内にろう付け補修材を装填するので、次に実施するろう付け工程において、溶融したろう付け補修材中にボイドが発生することを防止でき、この結果、補修部分を補修不要箇所または材料と同等の高温強度に確保できる。また、ろう付け補修材を用い、ろう付け加工により欠陥を補修するので、高温部品に補修による変形を生じさせることがない。
【0017】
また、本発明に係る補修材装填装置によれば、高温部品の欠陥内にろう付け補修材を装填する装填機構部と、振動子の進退動作により前記高温部品に振動を付与する振動機構部とを有することから、高温部品の欠陥内にろう付け補修材を装填しながら、この高温部品を振動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0019】
[A]第1の実施の形態(図1〜図9)
図1は、本発明に係る高温部品の欠陥補修方法における第1の実施の形態であるガスタービン静翼の欠陥補修方法が適用されるガスタービンの一部を示す部分断面図である。図2(A)〜(E)は、図1の静翼におけるき裂の補修手順を示す工程図である。
【0020】
図1に示すガスタービン10は、高温状態で運転されるエネルギー機関の一例であり、図示しない圧縮機からの圧縮空気と燃料とが図示しないに燃料器ライナの燃焼室内で混合され燃焼して燃焼ガスとなり、この燃焼ガスがトランジションピース(不図示)及び静翼11に案内されて動翼12へ導入され、この動翼12が植設されたタービンロータ13を回転させる。このタービンロータ13の回転により、発電機などが回転駆動される。
【0021】
タービンロータ13は、複数のロータディスク14が軸方向に結合されて構成され、各ロータディスク14の周囲に動翼12が複数枚植設される。また、静翼11は、タービンケーシング15にシュラウドセグメント16やリテイニングリング17、サポートリング18を介して支持される。これらの静翼11は、各ロータディスク14の動翼12の前方に配置されて、動翼12と共にタービン段落を構成する。このタービン段落は、燃焼ガスの流れ方向(矢印A)の上流側から下流側へ向かって第1段落、第2段落、第3段落と称される。
【0022】
上述のガスタービン10における静翼11は高温部品である。また、この静翼11はNi基、Co基、またはNi−Fe基などの耐熱超合金により構成されるが、高温の燃焼ガス雰囲気に晒されるなどの原因で損傷を受けやすく、き裂21(図2)等の欠陥が生じやすい。しかし、この静翼11は、高価な耐熱超合金にて構成されているため、損傷が致命的である場合を除いて、き裂21等の欠陥を補修して再使用に供される。
【0023】
本実施の形態においては、静翼11に発生したき裂21に対し、図2に示す補修手順を実施して補修する。この補修手順は、き裂21の表面に生じた酸化層22を洗浄により除去する洗浄工程(図2(A)及び(B))と、洗浄されたき裂21内にろう付け補修材20を装填する装填工程(図2(C))と、ろう付け補修材20を用いた拡散熱処理によってき裂21をろう付け加工するろう付け工程(図2(D))と、静翼11の表面を仕上げ加工する表面仕上げ工程(図2(E))とを順次実施するものである。
【0024】
この補修手順の前提となる補修手順の実験例について、図3〜図5を用いて説明する。この実験例では、静翼11と同じ材料で、実験室的にき裂21を模擬した試験材23を用いて実験を行った。ここで用いた試験材23の材料は、表1に示す組成のCo基超合金である。また、き裂21を模擬するために、ワイヤカット加工によってスリット24を作製している。
【表1】

【0025】
本実験例においては、酸化層22を除去する洗浄工程と表面仕上げ工程は実施せず、まず、スリット24を含めた試験材23全体の脱脂洗浄を、例えばアセトン等を用いて実施する。
【0026】
次に、装填工程を実施し、図3に示すように、試験材23のスリット24内にろう付け補修材20を装填し、このろう付け補修材20を試験材23の表面に盛り上げる。ここで、ろう付け補修材20は、図2(C)にも示すように、Ni基溶融合金粉末28と、Co基非溶融合金粉末29とを配合したものである。Ni基溶融合金粉末28は、Ni−Cr−Co−Si−B系であり、ろう付け加工により溶融する。また、Co基非溶融合金粉末はCo−Ni−Cr系であり、ろう付け加工によって溶融せず、補修部の強度確保のために配合される。
【0027】
この装填工程においては、次に、振動装置25のベース26上に試験材23を載置し、ベース26に設けられたクランプ27を用いて試験材23をベース26に固定保持する。そして、振動装置25を稼働させて試験材23に振動を付与し加振する。試験材23のスリット24に装填されたろう付け補修材20は、Ni基溶融合金粉末28及びCo基非溶融合金粉末29が共に粉末であることから、振動が付与された後にはこれらの粉末28と29間の隙間が無くなりまたは少なくなって、盛り上げられたろう付け補修材20の高さが低くなる。そのため、振動付与(加振)後に、ろう付け補修材20が再度装填される。このようにして、この装填工程において、試験材23のスリット24内にろう付け補修材20が隙間なく装填される。
【0028】
その後、ろう付け補修材20を用いてスリット24をろう付け加工するろう付け工程を実施する。このろう付け工程では、スリット24内にろう付け補修材20が装填され、且つこのろう付け補修材20が表面に盛り付けられた試験材23を真空熱処理炉に投入し、1200℃の条件で拡散熱処理を実施する。つまり、ろう付け補修材20を溶融させ、この溶融状態のろう付け補修材20をスリット24内で、試験材23の材料に拡散反応により固着させる。この拡散熱処理によって試験材23のスリット24がろう付け加工されて補修され、補修部31(図4(A))が形成される。
【0029】
上述の実験終了後、試験材23のスリット24が補修された補修部31について、断面観察を行った。その結果、図4(B)に示すように、この補修部31では、Ni基溶融合金粉末28が溶融したNi基溶融合金32とCo基非溶融合金粉末29とが後述のボイド34(図5(B))の存在なく緊密に充填されていることが確認された。
【0030】
これに対し、装填工程において、スリット24内にろう付け補修材20が装填されたが、振動装置25による振動が付与されず、その後ろう付け工程が実施された試験材23の補修部33(図5(A))では、Ni基溶融合金粉末28が溶融したNi基溶融合金32とCo基非溶融合金粉末29との間にボイド34が認められた。
【0031】
従って、装填工程において、試験材23のスリット24内にろう付け補修材20が装填された後、この試験材23が加振された場合には、スリット24の補修部31におけるろう付け補修材20中にボイド34が存在せず、スリット24内にろう付け補修材20が緊密に充填されるため、この補修部31の高温強度は、補修が不要な箇所または材料と同等の値を示すものと推定される。
【0032】
さて、図2に補修手順を示す本実施の形態において補修の対象となる静翼11は、実プラントで設計寿命半ばの静翼であり、ガスタービン10の第1段落を構成する静翼である。この静翼11も、表1に示す材料と同等のCo基超合金から構成されている。この静翼11におけるき裂21の補修は、前述の洗浄工程(図2(A)及び(B))、装填工程(図2(C))、ろう付け工程(図2(D))、及び表面仕上げ工程(図2(E))を順次実施するものであるが、このうちの装填工程とろう付け工程は前述の実験例と同様である。
【0033】
まず、洗浄工程(図2(A)及び(B))は、静翼11を水素雰囲気中で熱処理することで、静翼11におけるき裂21の表面に生じた酸化層22を除去する。この水素雰囲気中での熱処理を水素洗浄と称する。
【0034】
次に、実験例と同様にして装填工程(図2(C))を実施し、静翼11のき裂21内にろう付け補修材20を装填し、この装填の際に静翼11を振動させて、き裂21内にろう付け補修材20を隙間なく装填する。
【0035】
具体的には、図2(C)に示すように、まず、静翼11の欠陥21内にろう付け補修材20を装填し、このろう付け補修材20を静翼11の表面に盛り上げる。次に、図6に示すように、ろう付け補修材20が装填された静翼11を、振動装置25よりも大型の振動装置35のベース36に載置し、このベース36に設けられたクランプ37を用いて静翼11をベース36に固定保持する。この状態で振動装置35を稼働させ、静翼11に振動を付与して加振する。静翼11の加振により、ろう付け補修材20を構成するNi基溶融合金粉末28とCo基非溶融合金粉末29との間に隙間が無くなりまたは少なくなって、静翼11の表面に盛り付けられたろう付け補修材20の高さが低くなる。このため、静翼11の加振後にろう付け補修材20を再度装填して、ろう付け補修材20を所定の高さとする。
【0036】
次のろう付け工程(図2(E))でも、実験例と同様に、き裂21内にろう付け補修材20が装填され、且つ表面にろう付け補修材20が盛り付けられた静翼11を、真空熱処理炉に投入し、1200℃の条件で拡散熱処理を実施してき裂21をろう付け加工し、補修部38を形成する。このろう付け加工後に表面仕上げ工程(図2(E)を実施して、静翼11の表面を仕上げ加工し、補修済みの静翼11を得る。
【0037】
補修済みの静翼11の補修部38について断面観察を行った結果、図2(E)及び図7に示すように、Ni基溶融合金粉末28が溶融したNi基溶融合金32とCo基非溶融合金粉末29とが、ボイド34(図8)の存在なく、き裂21内に緊密に充填されていることが確認された。これに対し、装填工程においてき裂21内にろう付け補修材20が装填されたが、振動装置35による加振がなされず、その後ろう付け加工が実施されて表面仕上げされた静翼11の補修部39(図8)では、Ni基溶融合金粉末28が溶融したNi基溶融合金32とCo基非溶融合金粉末29との間にボイド34が認められた。
【0038】
次に、装填工程で加振を施してき裂21を補修した静翼11の補修部38を含めた試験片(加振試験片)について、クリープ破断時間を検出して補修部38の高温強度を確認した。このときには、装填工程で加振を施さずにき裂21を補修した静翼11の補修部39を含めた試験片(非加振試験片)と、補修が不必要な静翼11の材料からなる試験片(補修不要試験片)についても、同様にクリープ破断時間を検出した。
【0039】
図9に示すように、非加振試験片はクリープ破断時間が短く、高温強度が低いことが確認された。一方、加振試験片は、補修不要試験片と同等のクリープ破断時間であり、高温強度が高いことが確認された。
【0040】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(3)を奏する。
【0041】
(1)静翼11に生じたき裂21内にろう付け補修材20を装填する際に静翼11を振動させて、き裂21内にろう付け補修材20を隙間なく装填するので、次に実施するろう付け工程において、溶融したろう付け補修材20中にボイド34の発生を防止できる。この結果、静翼11の補修部38を補修不要箇所または補修不要材料と同等の高温強度に確保できる。
【0042】
(2)ろう付け補修材20を用い、ろう付け加工により静翼11の欠陥21を補修するので、静翼11に補修による変形を生じさせることがなく、この補修済みの静翼11を再使用することが可能となる。
【0043】
(3)静翼11の欠陥21の表面に生じた酸化層22が水素洗浄により除去されるので、酸化層22を切削加工して除去する場合に比べ、コスト低減できる。
【0044】
[B]第2の実施の形態(図10、図11)
図10は、本発明に係る高温部品の欠陥補修方法における第2の実施の形態であるガスタービン静翼の欠陥補修方法の装填工程を、そのとき使用する補修材充填装置と共に示す断面模式図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0045】
本実施の形態が前記第1の実施の形態と異なる点は、装填工程において、静翼11のき裂21内にろう付け補修材20を装填開始してから終了するまでの間、静翼11を振動させて、き裂21内にろう付け補修材20を隙間なく装填させた点であり、この装填工程において、図10の補修材装填装置40が使用される。
【0046】
この補修材装填装置40は、前記実施の形態と同様な洗浄工程終了後に、静翼11のき裂21内へろう付け補修材20を装填するものであるが、装填機構部41の他に振動機構部42を有する。
【0047】
装填機構部41は、ケーシング43に設けられてろう付け補修材20を収容し、先端側に注入口45が形成された収容部44と、ケーシング43内において注入口45と反対側に摺動自在に配設された押圧部材としてのピストン46と、を有してなる。ピストン46は、収容部44の一壁面を構成し、例えば圧縮空気により収容部44内のろう付け補修材20を押圧することで、このろう付け補修材20を注入口45から静翼11のき裂21内へ注入し装填する。
【0048】
振動機構部42は、図11にも示すように、振動子47と、ケーシング43内に設置された駆動源としての駆動モータ48と、この駆動モータ48のモータ軸に回転一体に取り付けられたカム49と、振動子47に植設されたピン50とケーシング43との間で振動子47の基端をカム49に圧接するスプリング51と、を有して構成される。駆動モータ48のモータ軸の回転動作により、カム49を介して振動子47がケーシング43に対して進退運動し、この振動子47の先端が静翼11に振動を付与して、この静翼11を加振する。
【0049】
上述のように構成された補修材装填装置40を用いることで、装填機構部41により静翼11のき裂21内にろう付け補修材20を装填させながら、同時に、振動機構部42によって静翼11を振動させることができるので、静翼11のき裂21内へのろう付け補修材20の装填の開始から終了まで、静翼11を振動させることが可能となる。
【0050】
上述のような装填工程を実施した後、前記実施形態と同様にしてろう付け工程及び表面仕上げ工程を実施し、き裂21が補修されて補修部が形成された補修済みの静翼11を得る。この補修済みの静翼11の補修部においても、き裂21内に、溶融したろう付け補修材20が緊密に充填されてボイド34が存在せず、上記補修部を含む静翼11の試験片のクリープ破断時間は、補修不要な静翼11の材料と同程度の値となった。
【0051】
従って、本実施の形態においても、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏するほか、次の効果(4)及び(5)を奏する。
【0052】
(4)補修材装填装置40によれば、静翼11の欠陥21内にろう付け補修材20を装填する装填機構部41と、振動子47の進退動作により静翼11に振動を付与する振動機構部42とを有することから、静翼11のき裂21内にろう付け補修材20を装填しながら、この静翼11を振動させることができる。
【0053】
(5)装填工程において補修材装填装置40を用い、静翼11のき裂21内へのろう付け補修材20の装填開始から終了まで静翼11を振動させることから、大型の振動装置35を用いる必要がなく、しかも装填工程を短時間で実施できる。
【0054】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
例えば、上記両実施の形態では、装填工程における静翼11のき裂21へのろう付け補修材20の装填と静翼11への加振とが大気中で実施されるものを述べたが、これらの装填と加振の少なくとも一方、好ましくは両者を真空中(例えば真空熱処理炉内)で実施してもよい。この場合には、き裂21内に装填されるろう付け補修材20中に空気の混入が防止されるので、次のろう付け工程で、き裂21内に充填される溶融したろう付け補修材20中にボイド34の存在を積極的に排除でき、補修部の高温強度をより一層向上させることができる。
【0056】
また、上記両実施の形態では、ろう付け工程後に表面仕上げ工程を実施するものを述べたが、これらの両工程間に、き裂21がろう付け加工された静翼11を熱間等方圧加圧処理する加圧工程を実施してもよい。この場合には、ろう付け加工後のき裂21内の溶融したろう付け補修材20中にボイド34が例え存在する場合にも、上記加圧処理によりボイド34を消滅させることができるので、補修部の高温強度をより一層向上させることができる。
【0057】
更に、本発明はガスタービン10の静翼11に限らず、同じく高温部品である動翼12、燃焼器ライナ、トランジションピースなどに対しても適用できる。また、本発明は、蒸気タービンやジェットエンジンなどのように、高温状態で運転されるエネルギー機関に対しても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る高温部品の欠陥補修方法における第1の実施の形態であるガスタービン静翼の欠陥補修方法が適用されるガスタービンの一部を示す部分断面図。
【図2】(A)〜(E)は、図1の静翼におけるき裂の補修手順を示す工程図。
【図3】図2の補修手順の前提となる実験例において、装填工程における試験材への加振状況を示す模式図。
【図4】(A)は、装填工程において試験材を加振した場合におけるき裂補修後の試験材を示す断面模式図、(B)は図4(A)のIVB部拡大断面図。
【図5】(A)は、装填工程において試験材を加振しなかった場合におけるき裂補修後の試験材を示す断面模式図、(B)は、図5(A)のVB部拡大断面図。
【図6】図2(C)の装填工程における静翼への加振状況を示す模式図。
【図7】装填工程において静翼を加振した場合におけるき裂補修後の静翼の補修部を示す断面模式図。
【図8】装填工程において静翼を加振しなかった場合におけるき裂補修後の静翼の補修部を示す断面模式図。
【図9】き裂補修部に対して実施したクリープ破断試験の結果を示すグラフ。
【図10】本発明に係る高温部品の欠陥補修方法における第2の実施の形態であるガスタービン静翼の欠陥補修方法の装填工程を、そのとき使用する補修材充填装置と共に示す断面模式図。
【図11】図10の補修材装填装置の一部を拡大して示す模式図。
【符号の説明】
【0059】
10 ガスタービン(エネルギー機関)
11 静翼(高温部品)
20 ろう付け補修材
21 き裂(欠陥)
22 酸化層
28 Ni基溶融合金粉末
29 Co基非溶融合金粉末
32 Ni基溶融合金
34 ボイド
35 振動装置
38 補修部
40 補修材装填装置
41 装填機構部
42 振動機構部
44 収容部
45 注入口
46 ピストン(押圧部材)
47 振動子
48 駆動モータ(駆動源)
49 カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温状態で運転されるエネルギー機関の高温部品に生じた欠陥を補修する高温部品の欠陥補修方法において、
前記欠陥内にろう付け補修材を装填する装填工程と、
前記ろう付け補修材を用いた拡散熱処理によって前記欠陥をろう付け加工するろう付け工程とを有し、
前記装填工程では、前記欠陥内に前記ろう付け補修材を装填する際に前記高温部品を振動させ、前記欠陥内に前記ろう付け補修材を装填することを特徴とする高温部品の欠陥補修方法。
【請求項2】
前記装填工程では、高温部品の欠陥内にろう付け補修材を装填した後に、前記高温部品を振動させて、前記欠陥内に前記ろう付け補修材を装填することを特徴とする請求項1に記載の高温部品の欠陥補修方法。
【請求項3】
前記装填工程では、高温部品の欠陥内にろう付け補修材を装填開始してから終了するまでの間、前記高温部品を振動させて、前記欠陥内に前記ろう付け補修材を装填することを特徴とする請求項1に記載の高温部品の欠陥補修方法。
【請求項4】
前記ろう付け補修材は、ろう付け加工により溶融する溶融合金粉末と、ろう付け加工により溶融せず強度確保のための非溶融合金粉末とが配合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の高温部品の欠陥補修方法。
【請求項5】
前記装填工程では、ろう付け補修材の装填と高温部品の振動との少なくとも一方を真空中で実行することを特徴とする請求項1に記載の高温部品の欠陥補修方法。
【請求項6】
前記ろう付け工程後に、欠陥がろう付け加工された高温部品を熱間等方圧加圧処理する加圧工程を実施することを特徴とする請求項1に記載の高温部品の欠陥補修方法。
【請求項7】
前記装填工程前に、高温部品の欠陥の表面に生じた酸化層を、水素雰囲気中で熱処理する水素洗浄処理によって除去する洗浄工程を実施することを特徴とする請求項1に記載の高温部品の欠陥補修方法。
【請求項8】
前記高温部品の欠陥が、ガスタービンの静翼または動翼に発生したき裂であることを特徴とする請求項1に記載の高温部品の欠陥補修方法。
【請求項9】
高温状態で運転されるエネルギー機関の高温部品であって、
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の欠陥補修方法により欠陥が補修されて構成されたことを特徴とする高温部品。
【請求項10】
高温部品の欠陥内へろう付け補修材を装填する補修材装填装置であって、
前記ろう付け補修材を収容し、先端側に注入口が設けられた収容部を備え、前記注入口の反対側に設けられた押圧部材により、前記収容部内のろう付け補修材を押圧して、前記注入口から前記欠陥内へ装填する装填機構部と、
振動子を備え、駆動源の回転動作により前記振動子を進退動作させて、前記高温部品に振動を付与する振動機構部と、を有することを特徴とする補修材装填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−255111(P2009−255111A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105390(P2008−105390)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】