説明

高粘度流体吐出装置および高粘度流体吐出方法

【課題】待機中における高粘度流体の液だれを防止する。
【解決手段】所要の内容積を有する吐出口11の手前に吐出口11から拡がる拡大部を備えたノズル10と、先端部がノズル10の拡大部に接離して吐出口11を開閉可能なプランジャ30と、プランジャ30を吐出口11の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材50と、を備える。待機中は駆動部材50がプランジャ30を作動させ先端部を拡大部に圧接させて吐出口11を閉鎖状態に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高粘度流体吐出装置および高粘度流体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、微少量の液体(液滴)を点状にコントロールしながら飛ばすことで対象面に文字や画像を表現するインクジェット方式の印字装置や画像形成装置等が広く利用されている。これらの印字装置や画像形成装置等におけるインクジェット方式の実現メカニズムは、現在では一般的な技術として普及している。
【0003】
また、このような印字装置や画像形成装置等におけるインクジェット方式の普及にともない、そのような分野に用いる一般的なインクの粘度に比べて遙かに高い粘度を有する高粘度流体についても、インクジェット方式を用いて対象領域に正確に描画することが研究されつつある。
【0004】
なお、この種の高粘度流体を対象とする先行技術文献としては、例えば、特許文献1に示すような液滴射出装置がある。
【0005】
この液滴射出装置は、射出孔の直前に液溜室が形成され、圧電素子に電圧を印加しその変位を駆動源としてプランジャーが液溜室に向けて微伸縮動する。そして、プランジャーの伸張時に液溜室が圧縮され導電インクが加圧されるので射出孔より射出され、プランジャーの収縮時に液溜室内が負圧となるのでインクタンクより導電インクが液溜室へ補給され、この動作の反復により導電インクを液滴として射出するものである。
【特許文献1】特開2006−198608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の液滴射出装置には、つぎのような問題がある。
【0007】
すなわち、射出孔(吐出口)の直前に液溜室が形成されているため、プランジャーの収縮時はもちろん伸張時にも射出孔(吐出口)が閉じられることはない。つまり、射出孔(吐出口)は常時開放している。
【0008】
インクジェット方式の射出装置(吐出装置)において、取り扱う流体の粘度が低い場合は、その低粘度流体用のタンクから射出孔(吐出口)まで例えば高低差を付けるなど所要の流路を形成しておくだけで、低粘度流体は円滑に射出孔(吐出口)まで供給(補給)される。
【0009】
これに対し、取り扱う流体の粘度が高い場合は、所要の流路を形成しておくだけでは、高粘度流体はタンクから射出孔(吐出口)まで供給(補給)されない。そのため、例えばタンクに空気圧を適用するなど、高粘度流体を圧送するための加圧手段を講じる必要があり、高粘度流体を加圧供給(加圧補給)することが必要である。
【0010】
ところが、高粘度流体をタンクから射出孔(吐出口)まで加圧供給(加圧補給)することになると、射出(吐出)のための待機中、すなわち、射出(吐出)も供給(補給)もしない待機中にも、高粘度流体にはタンクから射出孔(吐出口)に向けて圧力が掛かり続ける。
【0011】
これにより、常時開放している射出孔(吐出口)からは、待機中に高粘度流体が溢れ出すことになり、いわゆる液だれの発生することが避けられない。このような液だれは少量でも問題となることに加えて、例えば待機時間が長くなれば、収拾がつかない事態を招くことが明らかである。
【0012】
この発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、待機中における高粘度流体の液だれを防止することのできる高粘度流体吐出装置および高粘度流体吐出方法を提供することを目的とする。
【0013】
またこの発明は、待機中における高粘度流体の液だれを防止するとともに、高粘度流体の良好な吐出を実現することのできる高粘度流体吐出装置および高粘度流体吐出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の請求項1に係る高粘度流体吐出装置は、所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能なプランジャと、前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持することを特徴とする。
【0015】
この発明の請求項2に係る高粘度流体吐出装置は、所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持し、前記吐出口から高粘度流体を吐出させる吐出動作の直前に、前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に高粘度流体を補給させることを特徴とする。
【0016】
この発明の請求項3に係る高粘度流体吐出装置は、所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持し、前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に補給された高粘度流体を、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に接近させることで吐出させる吐出動作の直後に、再び前記駆動部材がオフし前記プランジャを前記吐出口の開放方向に移動させることを特徴とする。
【0017】
この発明の請求項4に係る高粘度流体吐出装置は、所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持し、前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に補給された高粘度流体を、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に接近させることで吐出させる吐出動作の直後に、当該吐出動作により前方へ吐出される高粘度流体が前記プランジャの先端部から円滑に離間するように、前記駆動部材がオフし前記プランジャを前記吐出口の開放方向に移動させ、その後前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記待機の状態に復帰させることを特徴とする。
【0018】
この発明の請求項5に係る高粘度流体吐出装置は、請求項1〜4のいずれか1項記載の高粘度流体吐出装置において、前記駆動部材は圧電素子を積層した圧電部材で構成され、前記待機中は前記圧電部材に待機電圧を適用しておくことを特徴とする。
【0019】
この発明の請求項6に係る高粘度流体吐出装置は、請求項2〜4のいずれか1項記載の高粘度流体吐出装置において、前記駆動部材は圧電素子を積層した圧電部材で構成され、前記待機中は前記圧電部材に待機電圧を適用しておき、前記吐出動作は前記待機電圧より低電圧の吐出パルスを適用することを特徴とする。
【0020】
この発明の請求項7に係る高粘度流体吐出装置は、請求項1〜6のいずれか1項記載の高粘度流体吐出装置において、前記吐出口の内容積は、実質的に1回分の吐出量に相当する高粘度流体を一時的に保持可能な容積を有することを特徴とする。
【0021】
この発明の請求項8に係る高粘度流体吐出方法は、所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備えた高粘度流体吐出装置を用いて高粘度流体を吐出させる方法であって、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持しておく待機工程と、前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に高粘度流体を補給させる補給工程と、前記吐出口に補給された高粘度流体を、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に接近させることで吐出させる吐出工程と、前記吐出直後に、再び前記駆動部材がオフし前記プランジャを前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動させる制振工程と、を含み、前記制振工程後に前記待機工程に復帰させることを特徴とする。
【0022】
この発明の請求項9に係る高粘度流体吐出方法は、請求項8記載の高粘度流体吐出方法において、前記駆動部材は圧電素子を積層した圧電部材で構成され、前記圧電部材に、前記待機工程中は待機電圧を適用しておき、前記補給工程中は電圧をオフし、前記吐出工程では前記待機電圧より低電圧の吐出パルスを適用し、前記制振工程中は電圧をオフし、再び前記待機電圧を適用することを特徴とする。
【0023】
この発明の請求項10に係る高粘度流体吐出方法は、請求項8または請求項9記載の高粘度流体吐出方法において、前記補給工程は、実質的に1回分の吐出量に相当する高粘度流体が前記流路から前記吐出口内に補給されるのに要する時間だけ継続されることを特徴とする。
【0024】
この発明の請求項11に係る高粘度流体吐出方法は、請求項8〜10のいずれか1項記載の高粘度流体吐出方法において、前記制振工程は、前記吐出工程において前方へ吐出される高粘度流体が前記プランジャの先端部から円滑に離間するのに要する時間だけ継続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
この発明は以上のように、所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能なプランジャと、前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持するように構成したので、待機中における高粘度流体の液だれを防止することができる。
【0026】
また、この発明は、所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備えた高粘度流体吐出装置を用いて高粘度流体を吐出させる方法であって、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持しておく待機工程と、前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に高粘度流体を補給させる補給工程と、前記吐出口に補給された高粘度流体を、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に接近させることで吐出させる吐出工程と、前記吐出直後に、再び前記駆動部材がオフし前記プランジャを前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動させる制振工程と、を含み、前記制振工程後に前記待機工程に復帰させるように構成したので、待機中における高粘度流体の液だれを防止することができるのに加えて、高粘度流体の良好な吐出を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0028】
図1は、この発明による高粘度流体吐出装置の一実施形態を示す概略的構成図であり、この高粘度流体吐出装置1は、ノズル10と、ノズル10を軸線の延長上に配置された筒状体20と、筒状体20の内部にその軸線に沿って配置されたプランジャ30と、プランジャ30をノズル10から離れる方向に付勢する付勢部材40と、プランジャ30をノズル10に近づく方向に作動させる駆動部材50と、高粘度流体のタンク60とを備えたものである。
【0029】
図2は、図1に示す高粘度流体吐出装置1の要部の拡大断面図であり、図3は、ノズル10とプランジャ30とを示す展開図である。
【0030】
図1では、筒状体20は、図示しないフレームに固定され、ノズル10も、筒状体20の軸線延長上所定距離の位置で、図示しないフレームに別途固定されている。一方、図2では、図示しないフレームに固定された筒状体20の長さが図1に比べて長く形成され、ノズル10は、筒状体20の下端に直接取り付けられている。この場合、筒状体20の下端にノズル10を例えばネジ止めすることができる。
【0031】
図1に示すように、ノズル10を筒状体20とは別にフレームに固定するか、または、図2に示すように、ノズル10を筒状体20の下端に直接固定するかは、設計上任意に選択可能であり、この実施形態ではいずれか一方を任意に選択できるものとして扱う。
【0032】
図1〜図3に示すように、ノズル10は、所要の内容積を有する吐出口11の手前(上方)に、吐出口11から拡がる拡大部12を備え、拡大部12のさらに手前(上方)に、筒状部14を備えている。
【0033】
吐出口11は、例えば、1回分の吐出量に相当する高粘度流体を一時的に保持可能な容積を有するもので、所定の直径と所定の長さを有する円筒状に形成されている。しかし、吐出口11の形状は円筒状に限定されず、必要に応じて、円形以外の適宜の断面形状に形成することが可能である。
【0034】
また、拡大部12は、吐出口11の内周面から筒状部14の内周面に向けて拡がる傾斜面13を有するもので、例えば、中心部が吐出口11に連通して開口した円錐状に形成されている。しかし、拡大部12の形状は円錐状に限定されず、必要に応じて、円形以外の適宜の断面形状に形成することが可能である。
【0035】
また、筒状部14は、プランジャ30の先端部から所定長さ部分を収容するもので、例えば、それに必要な所定の直径と所定の長さを有する円筒状に形成されている。しかし、筒状部14の形状は円筒状に限定されず、必要に応じて、円形以外の適宜の断面形状に形成することが可能である。
【0036】
筒状体20は、筒状の内周面を有するもので、例えば、円筒状に形成されている。しかし、筒状体20の形状は円筒状に限定されず、必要に応じて、円形以外の適宜の断面形状に形成することが可能である。また、プランジャ30を進退(上下動)可能に支持できるものであれば、必ずしも筒状に限定されず、適宜形状の支持部材として形成することも可能である。
【0037】
プランジャ30は、筒状体20の内部に収容される円柱状のものであり、先端部(下端部)には、ノズル10の拡大部12に形成された傾斜面13に対応する傾斜面31を有している。
【0038】
すなわち、プランジャ30の先端部は、例えば、円錐状の傾斜面13に対応した円錐状の傾斜面31に形成されている。しかし、プランジャ30の先端部の形状は円錐状に限定されず、対応するノズル10の拡大部12の形状に応じて、円形以外の適宜の断面形状に形成することが可能である。
【0039】
また、プランジャ30は、上端部に、半径方向に拡大した頭部32を備えている。
【0040】
付勢部材40は、プランジャ30を吐出口11の開放方向(図2の矢印U方向)に付勢するものであり、例えば、プランジャ30の頭部32下面と筒状体20の上端面との間でプランジャ30の周囲に配置されたコイルスプリングで構成されている。
【0041】
すなわち、付勢部材(コイルスプリング)40は、筒状体20の上端面に支持されてプランジャ30の頭部32に作用し、プランジャ30の先端部傾斜面31を、ノズル10の拡大部傾斜面13から離間させる方向に付勢する。
【0042】
後述する駆動部材50が電圧を適用(印加)されないオフ状態にあるとき、付勢部材(コイルスプリング)40は、プランジャ30の先端部傾斜面31をノズル10の拡大部傾斜面13から所定高さ(例えば30μm程度)上方に位置させる。
【0043】
駆動部材50は、プランジャ30を吐出口11の閉鎖方向(図2の矢印D方向)に作動させるものであり、例えば、圧電素子を多数積層した圧電部材で構成されている。そして、駆動部材(圧電部材)50は、電圧が適用(印加)されないオフ状態において、下端部がプランジャ30の頭部32上面に接する位置で、上端部が図示しないフレームに位置決め固定されている。
【0044】
すなわち、駆動部材(圧電部材)50が電圧を適用(印加)されないオフ状態にあるとき、上端部がフレームに位置決め固定された駆動部材(圧電部材)50の下端部は、プランジャ30の頭部32上面に接する位置にあり、このときプランジャ30の先端部傾斜面31は、ノズル10の拡大部傾斜面13から所定高さ(例えば30μm程度)上方位置にある。
【0045】
この状態から電圧が適用(印加)されると、駆動部材(圧電部材)50は、プランジャ30の頭部32を下向きに押圧して吐出口11の閉鎖方向に作動させる。このときのプランジャ30の作動ストロークは、適用(印加)される電圧に応じて可変される。
【0046】
そして、駆動部材(圧電部材)50にあらかじめ決められた所定の待機電圧が適用(印加)されたときのプランジャ30の作動ストロークは、電圧が適用(印加)されないオフ状態にあるときのノズル10の拡大部傾斜面13からプランジャ30の先端部傾斜面31までの高さに相当する長さ(例えば30μm程度)に設定されている。待機電圧は、例えば100V(ボルト)に設定される。
【0047】
そのため、駆動部材(圧電部材)50に所定の待機電圧(例えば100V)が適用(印加)されたとき、プランジャ30は下向きに作動して、その先端部傾斜面31がノズル10の拡大部傾斜面13に圧接(密着)する状態となる。
【0048】
タンク60は、高粘度流体61を収容しておくものであり、上端部付近には圧縮空気の導入管路62を備え、導入管路62から圧縮空気が導入されて内部の高粘度流体61を加圧するようになっている。
【0049】
また、タンク60の下端部には、高粘度流体61の流路63の一端が連結され、流路63の他端は、ノズル10の筒状部14または筒状体20の下端部に連結されている。そして、タンク60から流路63を通ってノズル10の筒状部14に供給(圧送)された高粘度流体61は、ノズル10の筒状部14内面とプランジャ30の周面との間に形成される流路64を通って、ノズル10の拡大部12に向けて供給(圧送)されるようになっている。
【0050】
そのため、図2に示すように、筒状体20の下端部付近にはシールリング21が配置され、タンク60から流路63を通ってノズル10の筒状部14に供給(圧送)された高粘度流体61が、筒状体20の内面とプランジャ30の周面との間隙を通って筒状体20内に入り込まないように、シールリング21によってシールされている。
【0051】
したがって、駆動部材(圧電部材)50が所定の待機電圧(例えば100V)を適用(印加)されたオン状態にあるときは、プランジャ30の先端部傾斜面31が、ノズル10の拡大部傾斜面13に密着した状態にある。そのため、ノズル10の吐出口11と、筒状部14の流路64とは、途中の拡大部12が閉じているため連通が遮断された状態、すなわち、閉鎖状態にある。
【0052】
吐出口11がこの閉鎖状態にあるときは、タンク60から流路63を通ってノズル10の筒状部14に供給(圧送)される高粘度流体61は、筒状部14の流路64から吐出口11に溢れ出すことができず、吐出口11は高粘度流体61が実質的に存在しない状態に維持される。
【0053】
一方、駆動部材(圧電部材)50が電圧を適用(印加)されないオフ状態にあるときは、プランジャ30は、付勢部材(コイルスプリング)40の付勢力の作用により、その先端部傾斜面31が、ノズル10の拡大部傾斜面13から離間した状態にある。そのため、ノズル10の吐出口11と、筒状部14の流路64とは、途中の拡大部12が開いているため連通が確保された状態、すなわち、開放状態にある。
【0054】
吐出口11がこの開放状態にあるときは、タンク60から流路63を通ってノズル10の筒状部14に供給(圧送)される高粘度流体61は、筒状部14の流路64から支障無く吐出口11に流出して、吐出口11は高粘度流体が補給される状態に維持される。
【0055】
そして、駆動部材(圧電部材)50は、以下に説明するような波形(駆動波形)にしたがって電圧(駆動電圧)がオン、オフされる。
【0056】
以下、上記実施形態の作用について説明する。
【0057】
まず、待機中は、駆動部材(圧電部材)50に所定の待機電圧を適用しておく(図4(a)参照)。待機電圧としては、例えば、100V(ボルト)の電圧が用いられる。
【0058】
これにより、待機中は、駆動部材(圧電部材)50がプランジャ30を作動させ、その先端部傾斜面31をノズル10の拡大部傾斜面13に圧接させて吐出口11を閉鎖状態に維持する(図5(a)参照)。
【0059】
つぎに、駆動部材(圧電部材)50の電圧をGNDレベルまで下げ(図4(b1)参照)、0V(ボルト)に保つ(図4(b2)参照)。
【0060】
これにより、駆動部材(圧電部材)50がオフし、プランジャ30が付勢部材40の付勢力により吐出口11の開放方向に移動することで、筒状部14の流路64から吐出口11に高粘度流体61を補給させる(図5(b)参照)。
【0061】
つぎに、駆動部材(圧電部材)50に所定の吐出電圧を適用する(図4(c)参照)。吐出電圧としては、例えば、待機電圧より低電圧の吐出パルスが用いられる。吐出電圧を仮に待機電圧と同レベルにした場合、プランジャ30の先端部傾斜面31がノズル10の拡大部傾斜面13に激しく当接するため、ノズル10がダメージを受けて寿命が縮まる虞があるからである。
【0062】
これにより、駆動部材(圧電部材)50がプランジャ30を作動させ、その先端部傾斜面31をノズル10の拡大部傾斜面13に接近(急速接近)させることで、直前に吐出口11に補給された高粘度流体61を吐出口11から吐出させる(図5(c)参照)。すなわち、プランジャ30の先端部傾斜面31が高粘度流体61を叩くようにして押し出すことによって吐出させる。
【0063】
吐出パルスの立ち下がりと同時に、駆動部材(圧電部材)50の電圧はGNDレベルまで急峻に下がる。そして、その状態(0V)に保つ(図4(d)参照)。
【0064】
これにより、吐出口11から前方へ吐出される高粘度流体61の後方部分がプランジャ30の先端部(先端部傾斜面31)から円滑に離間するように、駆動部材(圧電部材)50がオフし、プランジャ30を付勢部材40の付勢力により吐出口11の開放方向に移動させる(図6(d)参照)。
【0065】
そして、高粘度流体61の後端が吐出口11から離れて飛翔したら(図6(e)参照)、駆動部材(圧電部材)50に電圧を適用して所定の待機電圧まで上昇させる(図4(e)参照)。すると、駆動部材(圧電部材)50の電圧は待機電圧となる(図4(f)参照)。
【0066】
これにより、駆動部材(圧電部材)50がプランジャ30を作動させ、その先端部傾斜面31をノズル10の拡大部傾斜面13に圧接させて待機状態に復帰させる(図6(f)参照)。
【0067】
次に、この発明による高粘度流体吐出方法の一実施形態について説明する。
【0068】
この高粘度流体吐出方法は、上記実施形態の高粘度流体吐出装置1を用いて高粘度流体を吐出させる方法であり、以下の各工程を含むものである。
【0069】
(1)駆動部材(圧電部材)50がプランジャ30を作動させ、その先端部傾斜面31をノズル10の拡大部傾斜面13に圧接させて吐出口11を閉鎖状態に維持しておく待機工程(図5(a)参照)。
【0070】
この待機工程中は、駆動部材(圧電部材)50に待機電圧を適用しておく(図4(a)参照)。
【0071】
(2)駆動部材(圧電部材)50がオフし、プランジャ30が付勢部材40の付勢力により吐出口11の開放方向に移動することで、筒状部14の流路64から吐出口11に高粘度流体61を補給させる補給工程(図5(b)参照)。
【0072】
この補給工程中は、駆動部材(圧電部材)50の電圧をオフする(図4(b1)参照)。この補給工程は、実質的に1回分の吐出量に相当する高粘度流体61が、筒状部14の流路64から吐出口11内に補給されるのに要する時間だけ継続される(図4(b2)参照)。
【0073】
(3)駆動部材(圧電部材)50がプランジャ30を作動させ、その先端部傾斜面31をノズル10の拡大部傾斜面13に接近(急速接近)させることで、直前に吐出口11に補給された高粘度流体61を吐出口11から吐出させる吐出工程(図5(c)参照)。
【0074】
この吐出工程中は、駆動部材(圧電部材)50に、待機電圧より低電圧の吐出パルスを適用する(図4(c)参照)。
【0075】
(4)吐出直後に、吐出口11から前方へ吐出される高粘度流体61の後方部分がプランジャ30の先端部(先端部傾斜面31)から円滑に離間するように、駆動部材(圧電部材)50がオフし、プランジャ30を付勢部材40の付勢力により吐出口11の開放方向に移動させる制振工程(図6(d)参照)。
【0076】
この制振工程中は、駆動部材(圧電部材)50の電圧をオフする(図4(d)参照)。この制振工程は、吐出工程において前方へ吐出される高粘度流体61が、プランジャ30の先端部(先端部傾斜面31)から円滑に離間するのに要する時間だけ継続される(図4(d)参照)。
【0077】
この制振工程によって、高粘度流体61の後端が、プランジャ30の先端部(先端部傾斜面31)から離れ、さらに吐出口11から離れて飛翔する(図6(e)参照)。
【0078】
(5)そして、制振工程後(飛翔後)に待機工程に復帰させる(図6(f)参照)。すなわち、駆動部材(圧電部材)50に再び待機電圧を適用する(図4(f)参照)。
【0079】
なお、上記実施形態では、吐出パルスを矩形波状のパルスとして構成したが、これに限定されず、例えば、三角波状のパルスや、台形波状のパルスとして構成することが可能である。
【0080】
一般に、高粘度流体を良好かつ適正に飛ばすには、図6(e)に示す飛翔状態(飛翔工程)における高粘度流体61の形状、とりわけ後方部分の「揺れ」が少ないことが非常に重要である。そのため、吐出開始時のプランジャ30の動作に比べて、吐出終了時のプランジャ30の動作がより重要になる。それには、吐出パルスの立ち上がりは三角形の斜辺のように傾斜していても構わないが、吐出パルスの立ち下がりは急峻に立ち下がることが重要である。
【0081】
上記のような高粘度流体吐出装置、高粘度流体吐出方法によれば、待機中に高粘度流体61が吐出口11から溢れ出る「液だれ」を防止することができる。
【0082】
また、吐出直前に高粘度流体61を必要量だけ吐出口11に補給するため、高粘度流体91を無駄にする虞を排除することができる。
【0083】
また、吐出直後に制振時間(制振工程)を設けることで、プランジャ30の「引き」の動作(プランジャ30を付勢部材40の付勢力により吐出口11の開放方向に移動させる動作)を確実に行い、良好な吐出状態を実現することができる。
【0084】
さらに、吐出パルスの形状によって、吐出される高粘度流体61の飛翔速度をある程度制御することができる。
【0085】
上記のように、高粘度流体の形状、とりわけ後方部分の「揺れ」が少ない形状を実現できるこの発明の高粘度流体吐出装置、高粘度流体吐出方法によれば、例えば、ハンダペーストのような高粘度流体を良好かつ適正に飛翔させて、対象物の所定部位に正確な丸として描画することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】この発明による高粘度流体吐出装置の一実施形態を示す概略的構成図である。
【図2】図1に示す高粘度流体吐出装置の要部の拡大断面図である。
【図3】ノズルとプランジャとを示す展開図である。
【図4】駆動部材(圧電部材)に適用する電圧の遷移を示すグラフである。
【図5】図4のグラフの(a)待機状態(待機工程)、(b)補給状態(補給工程)、(c)吐出状態(吐出工程)に相当するノズルとプランジャの関係を示す説明図である。
【図6】図4のグラフの(d)制振状態(制振工程)、(e)飛翔状態(飛翔工程)、(f)復帰状態(復帰工程)に相当するノズルとプランジャの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 高粘度流体吐出装置
10 ノズル
11 吐出口
12 拡大部
13 傾斜面(拡大部傾斜面)
14 筒状部
20 筒状体(支持部材)
21 シールリング
30 プランジャ
31 傾斜面(先端部傾斜面)
32 頭部
40 付勢部材(コイルスプリング)
50 駆動部材(圧電部材)
60 タンク
61 高粘度流体
62 導入管路
63 流路
64 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、
先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能なプランジャと、
前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、
待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持することを特徴とする高粘度流体吐出装置。
【請求項2】
所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、
先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、
前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、
待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持し、
前記吐出口から高粘度流体を吐出させる吐出動作の直前に、前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に高粘度流体を補給させることを特徴とする高粘度流体吐出装置。
【請求項3】
所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、
先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、
前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、
待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持し、
前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に補給された高粘度流体を、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に接近させることで吐出させる吐出動作の直後に、再び前記駆動部材がオフし前記プランジャを前記吐出口の開放方向に移動させることを特徴とする高粘度流体吐出装置。
【請求項4】
所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、
先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、
前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備え、
待機中は前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持し、
前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に補給された高粘度流体を、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に接近させることで吐出させる吐出動作の直後に、当該吐出動作により前方へ吐出される高粘度流体が前記プランジャの先端部から円滑に離間するように、前記駆動部材がオフし前記プランジャを前記吐出口の開放方向に移動させ、その後前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記待機の状態に復帰させることを特徴とする高粘度流体吐出装置。
【請求項5】
前記駆動部材は圧電素子を積層した圧電部材で構成され、前記待機中は前記圧電部材に待機電圧を適用しておくことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高粘度流体吐出装置。
【請求項6】
前記駆動部材は圧電素子を積層した圧電部材で構成され、前記待機中は前記圧電部材に待機電圧を適用しておき、前記吐出動作は前記待機電圧より低電圧の吐出パルスを適用することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項記載の高粘度流体吐出装置。
【請求項7】
前記吐出口の内容積は、実質的に1回分の吐出量に相当する高粘度流体を一時的に保持可能な容積を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の高粘度流体吐出装置。
【請求項8】
所要の内容積を有する吐出口の手前に当該吐出口から拡がる拡大部を備えたノズルと、
先端部がノズルの前記拡大部に接離して前記吐出口を開閉可能で、当該開・閉に応じて、タンクから供給される高粘度流体の流路と前記吐出口とを連通・遮断させるプランジャと、
前記プランジャを前記吐出口の開放方向に付勢する付勢力に抗して閉鎖方向に作動させる駆動部材と、を備えた高粘度流体吐出装置を用いて高粘度流体を吐出させる方法であって、
前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に圧接させて前記吐出口を閉鎖状態に維持しておく待機工程と、
前記駆動部材がオフし前記プランジャが前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動することで前記流路から前記吐出口に高粘度流体を補給させる補給工程と、
前記吐出口に補給された高粘度流体を、前記駆動部材が前記プランジャを作動させ前記先端部を前記拡大部に接近させることで吐出させる吐出工程と、
前記吐出直後に、再び前記駆動部材がオフし前記プランジャを前記付勢力により前記吐出口の開放方向に移動させる制振工程と、を含み、
前記制振工程後に前記待機工程に復帰させることを特徴とする高粘度流体吐出方法。
【請求項9】
前記駆動部材は圧電素子を積層した圧電部材で構成され、前記圧電部材に、前記待機工程中は待機電圧を適用しておき、前記補給工程中は電圧をオフし、前記吐出工程では前記待機電圧より低電圧の吐出パルスを適用し、前記制振工程中は電圧をオフし、再び前記待機電圧を適用することを特徴とする請求項8記載の高粘度流体吐出方法。
【請求項10】
前記補給工程は、実質的に1回分の吐出量に相当する高粘度流体が前記流路から前記吐出口内に補給されるのに要する時間だけ継続されることを特徴とする請求項8または請求項9記載の高粘度流体吐出方法。
【請求項11】
前記制振工程は、前記吐出工程において前方へ吐出される高粘度流体が前記プランジャの先端部から円滑に離間するのに要する時間だけ継続されることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載の高粘度流体吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−154123(P2009−154123A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337507(P2007−337507)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】