説明

高純度な光学活性ラクタムアルコール誘導体

【課題】工業的に有用な光学活性ラクタムアルコール誘導体に関して、純度の分析方法の確立並びに規格化を行い、高光学純度の光学活性アルコール類を安定して製造する方法を提供する。
【解決手段】HPLC分析における純度が98%以上の下記一般式で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体を調製し、不斉還元反応に用いる。


(式中、R、Rは水素原子、メチル基、エチル基、アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、アルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子を示し、m又はnは0から5の整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の光学活性ラクタムアルコール誘導体よりは高純度で新規な光学活性ラクタムアルコール誘導体に関するものであり、この光学活性ラクタムアルコール誘導体を使用して得られる不斉還元触媒、及び、その触媒を用いて非対称ケトン類の不斉還元反応による光学活性アルコール類の製造方法に関するものであり、当該光学活性アルコール類は、医農薬の製造中間体として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、ラクタムアルコール誘導体を製造する方法としては、ラセミ体のピログルタミン酸を原料に、メチルエステル体に誘導し、ついでテトラヒドロフラン(以下、THFと略記する)を溶媒に有機金属試薬と23℃の温度下で反応させてラセミ体のラクタムアルコール誘導体を調製する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
一方、光学活性なラクタムアルコール誘導体の製造方法としては、光学活性なピログルタミン酸エチルエステルのTHF溶液と有機金属試薬のエーテル溶液を、溶剤存在下で反応させる方法が知られている(例えば、非特許文献2、特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】E.J.Corey,et.,al.,J.Am.Chem.Soc., 1987,109,7925−7926
【非特許文献2】H.Fujihara and K.Tomioka,J.Chem.Soc.,Perkin.Trans.I,1999,2377−2381
【特許文献1】特開2004−339207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ラセミ体のピログルタミン酸からラクタムアルコール誘導体を製造する方法では、ラセミ体のラクタムアルコール誘導体を製造後に光学活性体へ誘導する必要があり、非常に煩雑な操作が必要であるため、工業的な製造方法としては適当ではない。
【0006】
また、光学活性なピログルタミン酸エチルエステルから光学活性なラクタムアルコール誘導体を製造する方法においては、得られるラクタムアルコール誘導体の収率が低く、更にはクルード品の純度が低いため、例え精製を繰り返したとしても十分に高純度なラクタムアルコール誘導体が得られないという問題があった。
【0007】
そして、低純度なラクタムアルコール誘導体を用いて非対称ケトン類の不斉還元反応を行うと、得られる光学活性アルコール類の光学純度は著しく低下するという問題があり、高光学純度の光学活性アルコール類を安定して得るための高純度な光学活性ラクタムアルコール誘導体及びその製造方法が強く望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、光学活性ラクタムアルコール誘導体の高純度化に関して、先ず、その製造方法を鋭意検討した。その結果、光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル溶液を有機金属試薬溶液に滴下し、更に60℃以上の温度で熟成反応を行い、得られた反応生成物を精製することにより、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記する。)による分析で純度が98%以上の光学活性ラクタムアルコール誘導体が初めて得られること、及びこの高純度光学活性ラクタムアルコール誘導体とボラン類からなる不斉還元触媒を用いてケトン類を還元すると、高純度の光学活性アルコール類が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示される光学活性ラクタムアルコール誘導体、その製造方法、及びそれを用いた不斉還元触媒、並びに不斉還元触媒を用いた光学活性アルコール類の製造方法である。
【0010】
[1]HPLC分析における純度が98%以上であることを特徴とする下記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体。
【0011】
【化1】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくはアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子を示し、m又はnは各々独立して0から5の整数を示す。)
【0012】
【化2】

(式中、R、Rは上記と同じ定義である。)
[2]上記一般式(1)又は一般式(2)において、R、Rが各々独立して、水素原子、メチル基、メトキシ基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、又はフッ素原子を示し、m又はnが1又は2の整数を示すことを特徴とする上記[1]に光学活性ラクタムアルコール誘導体。
【0013】
[3]上記一般式(1)又は一般式(2)において、R及びRが、水素原子を示すことを特徴とする上記[1]に記載の光学活性ラクタムアルコール誘導体。
【0014】
[4]光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル溶液を有機金属試薬溶液に滴下し、更に60℃以上の温度で熟成反応を行い、得られた反応生成物を精製することを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の98%以上の純度を有する光学活性ラクタムアルコール誘導体の製造方法。
【0015】
[5]光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル溶液及び有機金属試薬溶液における溶媒が、各々独立して、沸点が60℃以上のエーテル系溶媒であることを特徴とする上記[4]に記載の製造方法。
【0016】
[6]上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の光学活性ラクタムアルコール誘導体とボラン類からなる不斉還元触媒。
【0017】
[7]上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の光学活性ラクタムアルコール誘導体とボラン類とを反応させて得られる不斉還元触媒。
【0018】
[8]上記[6]又は[7]に記載の不斉還元触媒を用いてケトン類を還元することを特徴とする光学活性アルコール類の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光学活性ラクタムアルコール誘導体によれば、それより調製される不斉還元触媒を用いて、非対称ケトン類の不斉還元反応を行った場合に、高光学純度の光学活性アルコール類を安定して得ることが可能となるため、本発明は工業上極めて有用である。
【0020】
また、本発明の製造方法によれば、有機金属試薬と光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステルの反応を60℃以上の熟成温度で実施することで、得られる光学活性ラクタムアルコール誘導体の収率を著しく向上することができるだけでなく、精製後に得られる光学活性ラクタムアルコール誘導体の純度をHPLC分析で98%以上とすることができるため、本発明は工業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の光学活性ラクタムアルコール誘導体は、上記一般式(1)又は一般式(2)で示される化合物であり、後述するHPLC分析における純度が98%以上であることをその特徴とする。
【0022】
本発明の上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体としては、特に限定するものではないが、具体的には、(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−エチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−エチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジエチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−i−プロピルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−i−プロピルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−i−プロピルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジメトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−エトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−エトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジエトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−i−プロポキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−i−プロポキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジ−i−プロポキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジフルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシ(4−ビフェニル)メチル]−2−ピロリジノン、(S)−5−[ヒドロキシビス(3,5−ジフェニルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン等が例示され、これらの鏡像体である(R)体も含む。
【0023】
本発明の上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体は、光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル溶液を有機金属試薬溶液に滴下し、更に60℃以上の温度で熟成反応を行い、得られた反応生成物を精製することにより製造される。
【0024】
本発明の製造方法において使用される光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル体は、通常、目的とする光学活性ラクタムアルコール誘導体と同様の光学絶対配置を有するものが選ばれる。このようなピログルタミン酸のアルキルエステル体としては、特に限定するものではないが、具体的には、(S)−ピログルタミン酸メチルエステル、(S)−ピログルタミン酸エチルエステル、(S)−ピログルタミン酸n−プロピルエステル等が例示され、これらの鏡像体である(R)体も含まれる。尚、これら光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル体は、市販の試薬をそのまま用いて良いし、光学活性なピログルタミン酸とアルキルアルコールの反応により製造したものを、そのまま、本反応に使用しても良い。
【0025】
本発明の製造方法において使用される有機金属試薬は、目的とする上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体に誘導できる有機金属試薬であり、通常、ハロゲン化芳香属化合物とマグネシウム金属を反応させて得られる有機金属試薬溶液液が用いられる。このようなハロゲン化芳香属化合物としては、特に限定するものではないが、具体的には、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、3−クロロトルエン、4−クロロトルエン、3−ブロモトルエン、4−ブロモトルエン、1−クロロ−3−エチルベンゼン、1−クロロ−4−エチルベンゼン、1−ブロモ−3−エチルベンゼン、1−ブロモ−4−エチルベンゼン、1−クロロ−3−i−プロピルベンゼン、1−クロロ−4−i−プロピルベンゼン、1−ブロモ−3−i−プロピルベンゼン、1−ブロモ−4−i−プロピルベンゼン、1−クロロ−3,5−ジメチルベンゼン、1−ブロモ−3,5−ジメチルベンゼン、1−クロロ−3,5−ジエチルベンゼン、1−ブロモ−3,5−ジエチルベンゼン、1−クロロ−3,5−ジ−i−プロピルベンゼン、1−ブロモ−3,5−ジi−プロピルベンゼン、1−クロロ−3−メトキシベンゼン、1−クロロ−3−メトキシベンゼン、1−ブロモ−4−メトキシベンゼン、1−ブロモ−4−メトキシベンゼン、1−クロロ−3−フルオロベンゼン、1−クロロ−3−フルオロベンゼン、1−ブロモ−4−フルオロベンゼン、1−ブロモ−4−フルオロベンゼン、1−クロロ−3,5−ジフルオロベンゼン、1−ブロモ−3,5−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3,5−ジフルオロベンゼン、1−ブロモ−3,5−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3−トリフルオロメチルベンゼン、1−ブロモ−4−トリフルオロメチルベンゼン、1−クロロ−4−フェニルベンゼン、1−ブロモ−4−フェニルベンゼン、1−クロロ−3,5−ジフェニルベンゼン、1−ブロモ−3,5−ジフェニルベンゼン等が例示される。
【0026】
本発明の製造方法において使用される有機金属試薬溶液の製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、エーテル系溶媒に分散させたマグネシウム金属溶液に、同じくエーテル系溶媒に溶解させたハロゲン化芳香属化合物溶液を−20℃〜80℃の温度で30分間〜24時間かけて滴下し、ついで同温度で1時間〜24時間かけて熟成反応を行うことで製造される。尚、マグネシウム金属の活性化のため、活性化剤として少量のヨウ素等を添加してもかまわない。
【0027】
上記の有機金属試薬溶液の製造方法において使用されるエーテル系溶媒としては、沸点が60℃以上のもので有ればよく、特に限定するものではないが、例えば、イソブチルエーテル、ブチルエーテルジイソアミルエーテル、n−ヘキシルエーテル、THF、2−メチルフラン等、好ましくはTHFが挙げられる。また、ハロゲン化芳香属化合物の使用量としては、特に限定するものではないが、マグネシウム金属に対して通常1モル比以上使用すれば良い。また、得られる有機金属試薬の濃度は、特に限定するものではないが、0.01〜70重量%の範囲で実施することが好ましい。尚、目的とする光学活性ラクタムアルコール誘導体に誘導できる有機金属試薬が市販されていれば、沸点が60℃以上のエーテル系溶媒で希釈した後、そのまま本反応に使用しても良い。
【0028】
本発明の製造方法においては、本発明の上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体は、上記した沸点が60℃以上のエーテル系溶媒、好ましくは有機金属試薬溶液の製造方法で使用したものと同じエーテル系溶媒に溶解した光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル体と、有機金属試薬溶液を反応させる。
【0029】
有機金属試薬の使用量としては、特に限定するものではないが、光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル体1モルに対して、3〜10モル比の範囲で使用することが好ましい。また、反応条件としては、特に限定するものではないが、上記の有機金属試薬溶液に、1〜50重量%の範囲で溶解させた光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル体溶液を、−20〜30℃の温度下、1分間〜24時間かけて滴下し、次いで60℃以上の還流温度下で1時間〜48時間熟成反応を行う。尚、本発明の製造方法においては、熟成温度を60℃以上にすることが肝要であり、熟成温度が60℃よりも低い場合には、熟成反応を長時間行っても収率が低くなり、また得られる光学活性ラクタムアルコール誘導体の純度も低くなるため、好ましくない。
【0030】
本発明の上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体の純度は、アセトニトリルを溶離液に、オクタデシル基で表面処理されたシリカゲルカラムを備えた逆相系HPLC装置を用いて定量分析することにより測定される。
【0031】
本発明の上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体の純度は、上記したHPLC分析値で98%以上にすることが重要である。HPLC分析における純度が98%未満の光学活性ラクタムアルコール誘導体を用いて非対称ケトン類の不斉還元反応を行った場合、得られる光学活性アルコール類の光学純度が著しく低下するため、反応後、反応液の溶媒を除去後、反応生成物にもよるが、濃縮物をシリカゲルカラムによる精製、又は低級アルコールによる再結晶等を行って精製する。尚、一回の精製で光学活性ラクタムアルコール誘導体の純度が98%以上とならなかった場合は、精製を繰り返して98%以上の純度にすることが必要である。
【0032】
次に、本発明の不斉還元触媒について説明する。
【0033】
本発明の不斉還元触媒は、上記した本発明の光学活性ラクタムアルコール誘導体を用いて調製され、通常、ボラン類との反応により製造される。この不斉還元触媒の製造方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明の光学活性ラクタムアルコール誘導体をTHF等に代表されるエーテル系の溶液とし、これにボラン類を添加し反応させることにより製造することができる。
【0034】
本発明の不斉還元触媒に適用可能なボラン類としては、特に限定するものではないが、具体的には、ジボラン、ボラン−アンモニア錯体、ボラン−tert−ブチルアミン錯体、ボラン−N,N−ジメチルアニリン錯体、ボラン−ジフェニルフォスフィン錯体、ボラン−ピリジン錯体、ボラン−THF錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体等が例示され、これら単独、又はこれらボラン類を反応に不活性な溶剤に希釈し溶液としたものを用いることができる。尚、本発明に適用可能なボラン類が市販されていれば、そのまま本反応に使用しても良い。
【0035】
本発明の不斉還元触媒の調製において使用されるボラン類の使用量としては、特に限定するものではないが、反応に用いる上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体1モルに対して1.60モル以上使用すれば良い。ボラン類の添加方法としては、次反応の非対称ケトン類の不斉還元反応に必要な量を一括で添加しても良いし、また分割して添加しても良い。
【0036】
本発明の不斉還元触媒の調製において用いられる、上記した本発明の光学活性ラクタムアルコール誘導体の濃度としては、特に限定するものではないが、0.01〜50重量%の範囲にすることが望ましい。また、製造時の反応温度としては、特に限定するものではないが、−20〜50℃の温度にすれば、1分〜2時間の反応で容易に調製される。この不斉還元触媒は、製造後、直ちに次反応の非対称ケトン類の不斉還元反応に用いても良いし、保存し、必要に応じて分割して用いても良い。
【0037】
続いて、本発明の不斉還元触媒を用いて非対称ケトン類を不斉還元反応し光学活性アルコール類を製造する方法について説明する。
【0038】
本発明の不斉還元反応において使用される非対称ケトン類としては、特に限定されるものではないが、具体的には、メチルイソブチルケトン、メチル−tert−ブチルケトン、エチルイソブチルケトン、エチル−tert−ブチルケトン、n−プロピルイソブチルケトン、n−プロピル−tert−ブチルケトン、シクロヘキシルメチルケトン、3−フェニルブタン−2−オン、アセトフェノン、フェニルエチルケトン、(4−クロロフェニル)メチルケトン、フェニル(クロロメチル)ケトン、1−インダノン、α−テトラロン等が例示される。
【0039】
本発明の不斉還元反応において使用される不斉還元触媒の使用量としては、特に限定されるもではないが、反応に使用する非対称ケトン類に対し、上記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体換算で0.1〜100モル%の範囲で使用可能である。
【0040】
また、本発明の不斉還元反応に使用するボラン類の使用量としては、反応に使用する非対称ケトン類1モルに対して、理論的には0.33モルの使用で充分であるが、安定に反応を行うために、通常、0.5〜10モルの範囲で用いることが好ましく、更に1〜5モルの範囲で用いることが好ましい。不斉還元反応に用いるボラン類は、本発明の不斉還元触媒を調製する際に、予め必要量を過剰に添加しておいても良いし、製造した不斉還元触媒に更に必要量のボラン類を添加して反応しても良い。
【0041】
本発明の不斉還元反応が実施される反応温度としては、特に限定するものではないが、通常、−30〜50℃の温度範囲で実施可能であり、反応時間としては、反応に用いる非対称ケトン類の種類により異なるため、特に限定するものではないが、通常、5分間〜48時間で反応は完結する。反応後の後処理としては、特に限定するものではないが、通常、塩酸水溶液を添加後、有機溶剤で抽出し、乾燥し、シリカゲルカラム等で精製することで目的とする光学活性アルコール類を高光学純度で得ることができる。
【実施例】
【0042】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
尚、光学活性ラクタムアルコール誘導体の純度は、アセトニトリルを溶離液に、オクタデシル基で表面処理されたシリカゲルカラム(東ソー社製TSKgelカラム)を備えたHPLC装置を用いて定量分析することにより測定し、光学活性アルコール類の光学純度はダイセル化学社製キラルセルOD−Hカラムを備えたHPLC装置で分析を行った。
【0044】
実施例1
高純度(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノンの製造
滴下ロート及び撹拌子を備えた100mlの四つ口フラスコに、マグネシウム金属1.86g(76mmol)を入れ、窒素置換した後、これに少量のヨウ素及びTHF10mlを入れ、室温下、1時間撹拌を行った。次いでブロモベンゼン11.99g(76mmol)をTHF8mlに溶解させた溶液を、滴下ロートより、室温下、1時間かけて滴下し、更に、同温度で1時間熟成反応を行った。
【0045】
続いて、この溶液に、エチル(S)−2−ピロリドン−5−カルボキシレート3.00g(19mmol)をTHF10mlに溶解させた溶液を、滴下ロートより、室温下、1時間かけて滴下し、更に、68℃の温度下で2時間熟成反応を行った。
【0046】
反応終了後、10℃まで冷却した後、水24ml、酢酸8mlを加え、分液を行って有機相を分離し、この有機相を硫酸マグネシウム上で乾燥後、シリカゲルカラムで原点成分の除去を行い、次いで濃縮を行ってクルード品5.08gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は92.0%であり、収率は92.0%であった。
【0047】
続いて、このクルード品を、エタノール43mlで再結晶を1回行い、白色粉末の(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノン4.08g(15mmol、収率=80.0%)を得た。この得られた(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、99.5%であった。
【0048】
実施例2 高純度(S)−5−[ヒドロキシビス(3−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
実施例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから4−ブロモトルエンに替えた以外、実施例1と同じ操作でクルード品3.65gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は85.2%であり、収率は55.2%であった。
【0049】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を2回行って黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン1.16g(2mmol、収率=20.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、98.4%であった。
【0050】
実施例3 高純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
実施例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−メトキシベンゼンに替えた以外、実施例1と同じ操作でクルード品3.76gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は75.2%であり、収率は45.5%であった。
【0051】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を2回行って微赤色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン0.73g(2mmol、収率=11.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、98.5%であった。
【0052】
実施例4 高純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
実施例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−フルオロベンゼンに替えた以外、実施例1と同じ操作でクルード品4.69gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は80.5%であり、収率は65.5%であった。
【0053】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を2回行って微黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノン1.31g(4mmol、収率=22.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、98.8%であった。
【0054】
実施例5 高純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
実施例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−トリフルオロメチルベンゼンに替えた以外、実施例1と同じ操作でクルード品4.62gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は75.5%であり、収率は45.5%であった。
【0055】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を3回行って微黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン0.82g(2mmol、収率=10.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、98.3%であった。
【0056】
実施例6 高純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−i−プロピルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
実施例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−i−プロピルベゼンに替えた以外、実施例1と同じ操作でクルード品4.94gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は75.0%であり、収率は55.5%であった。
【0057】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を3回行って微黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−i−プロピルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン1.42g(mmol、収率=21.0%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、98.5%であった。
【0058】
実施例7 高光学純度1−フェニルエタノールの製造
撹拌子を備えた25mlナス型フラスコに、実施例1で得た純度が99.5%の(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノン0.056g(0.2mmol)及び乾燥THF4mlを入れ、25℃温度下、撹拌溶解させた。
【0059】
次いで、この溶液に1Mのボラン−THF錯体溶液2ml(2mmol)を入れ、窒素雰囲気下、25℃で10分間撹拌し、不斉還元触媒及び過剰のボラン−THF錯体からなる溶液を調製した。
【0060】
更に、この溶液に、アセトフェノン0.25g(2mmol)を乾燥THF2mlで溶解させた溶液を添加し、25℃温度下、反応を行った。尚、(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノンは、アセトフェノンに対して10mol%、ボラン−THF錯体はアセトフェノンに対して1.0モル比に相当する。
【0061】
反応を開始して、10分後に、シリカゲル薄層クロマトグラフィーでアセトフェノンの消失を確認し、2N−HCl水溶液5mlを加え、酢酸エチル10mlで3回抽出、硫酸マグネシウム上で乾燥、シリカゲルカラムで原点成分を除去した後、濃縮を行って目的物である1−フェニルエタノール0.23g(1.9mmol,収率=95.0%)を得た。HPLCの分析の結果、生成物は(R)体であり、光学純度は98.3%eeであった。
【0062】
実施例8〜実施例12 高光学純度アルコール類の製造
実施例6と同じ操作で、表1中に示した実施例2〜実施例6で得たラクタムアルコール誘導体を用いて不斉還元触媒及び過剰のボラン−THF錯体溶液からなる溶液を調製し、アセトフェノンを表1中に示した非対称ケトンに替え、表1中に示した反応条件下で反応を行った。これらの結果を実施例7の結果と併せて表1中に示す。
【0063】
【表1】

比較例1 低純度(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノンの製造
滴下ロート及び撹拌子を備えた100mlの四つ口フラスコに、マグネシウム金属1.86g(76mmol)を入れ、窒素置換した後、これに少量のヨウ素及びTHF10mlを入れ、室温下、1時間撹拌を行った。次いでブロモベンゼン11.99g(76mmol)をTHF8mlに溶解させた溶液を、滴下ロートより、室温下、1時間かけて滴下し、更に、同温度で1時間熟成反応を行った。
【0064】
続いて、この溶液に、エチル(S)−2−ピロリドン−5−カルボキシレート3.00g(19mmol)をTHF10mlに溶解させた溶液を、滴下ロートより、室温下、1時間かけて滴下し、更に、41℃の温度下で2時間熟成反応を行った。
反応終了後、10℃まで冷却した後、水24ml、酢酸8mlを加え、分液を行って有機相を分離し、この有機相を硫酸マグネシウム上で乾燥後、シリカゲルカラムで原点成分の除去を行い、次いで濃縮を行ってクルード品4.71gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は75.5%であり、収率は70.0%であった。
【0065】
このクルード品について、エタノール43mlで再結晶を1回行い、微黄色粉末の(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノン2.77g(10mmol、収率=52.6%)を得た。この得られた(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、96.4%であった。尚、純度向上のため、再結晶を繰り返したが、純度に変わりはなかった。
【0066】
比較例2 低純度(S)−5−[ヒドロキシビス(3−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
比較例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから4−ブロモトルエンに替えた以外、比較例1と同じ操作でクルード品2.59gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は45.5%であり、収率は21.0%であった。
【0067】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を2回行って黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン0.64g(2mmol、収率=10.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、93.0%であった。尚、純度向上のため、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を繰り返したが、純度に変わりはなかった。
【0068】
比較例3 低純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
比較例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−メトキシベンゼンに替えた以外、比較例1と同じ操作でクルード品2.72gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は35.0%であり、収率は15.5%であった。
【0069】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を2回行って微赤色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノン0.69g(2mmol、収率=10.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−メトキシフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、94.5%であった。尚、純度向上のため、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を繰り返したが、純度に変わりはなかった。
【0070】
比較例4 低純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
比較例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−フルオロベンゼンに替えた以外、比較例1と同じ操作でクルード品2.81gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は42.0%であり、収率は20.5%であった。
【0071】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を2回行って微黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノン0.94g(3mmol、収率=15.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−フルオロフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、95.2%であった。尚、純度向上のため、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を繰り返したが、純度に変わりはなかった。
【0072】
比較例5 低純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル] −2−ピロリジノンの製造
比較例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−トリフルオロメチルベンゼンに替えた以外、比較例1と同じ操作でクルード品3.94gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は35.4%であり、収率は18.2%であった。
【0073】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を3回行って微黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン0.88g(2mmol、収率=10.5%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、92.0%であった。尚、純度向上のため、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を繰り返したが、純度に変わりはなかった。
【0074】
比較例6 低純度(S)−5−[ヒドロキシビス(4−i−プロピルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンの製造
比較例1と同様な反応装置を用い、ブロモベンゼンから1−ブロモ−4−i−プロピルベゼンに替えた以外、比較例1と同じ操作でクルード品3.29gを得た。このクルード品について、HPLCによる純度分析を行った結果、純度は65.0%であり、収率は32.0%であった。
【0075】
このクルード品について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/酢酸エチル=2/1vol./vol.)による精製を3回行って微黄色粉体の(S)−5−[ヒドロキシビス(4−i−プロピルフェニル)メチル]−2−ピロリジノン1.45g(4mmol、収率=21.0%)を得た。この得られた(S)−5−[ヒドロキシビス(4−トリフルオロメチルフェニル)メチル]−2−ピロリジノンについて、HPLCによる純度分析を行った結果、97.0%であった。尚、純度向上のため、更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製を繰り返したが、純度に変わりはなかった。
【0076】
比較例7 低光学純度1−フェニルエタノールの製造
撹拌子を備えた25mlナス型フラスコに、比較例1で得た純度=96.4%の(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノン0.058g(0.2mmol)及び乾燥THF4mlを入れ、25℃温度下、撹拌溶解させた。
【0077】
次いで、この溶液に1Mのボラン−THF錯体溶液2ml(2mmol)を入れ、窒素雰囲気下、25℃で10分間撹拌し、不斉還元触媒及び過剰のボラン−THF錯体からなる溶液を調製した。
【0078】
更に、この溶液に、アセトフェノン0.25g(2mmol)を乾燥THF2mlで溶解させた溶液を添加し、25℃温度下、反応を行った。尚、(S)−5−(ヒドロキシジフェニルメチル)−2−ピロリジノンは、アセトフェノンに対して10mol%、ボラン−THF錯体はアセトフェノンに対して1.0モル比に相当する。
【0079】
反応を開始して、10分後に、シリカゲル薄層クロマトグラフィーでアセトフェノンの消失を確認し、2N−HCl水溶液5mlを加え、酢酸エチル10mlで3回抽出、硫酸マグネシウム上で乾燥、シリカゲルカラムで原点成分を除去した後、濃縮を行って目的物である1−フェニルエタノール0.23g(1.9mmol,収率=95.0%)を得た。HPLCの分析の結果、生成物は(R)体であり、光学純度は96.4%eeであった。
【0080】
比較例8〜比較例12 低光学純度アルコール類の製造
比較例7と同じ操作で、表2中に示した比較例2〜比較例6で得たラクタムアルコール誘導体を用いて不斉還元触媒及び過剰のボラン−THF錯体溶液からなる溶液を調製し、アセトフェノンを表2中に示した非対称ケトンに替え、表2中に示した反応条件下で反応を行った。これらの結果を比較例7の結果と併せて表2中に示す。
【0081】
【表2】

表1、表2から明らかなとおり、実施例の高純度光学活性ラクタムアルコール誘導体から調製される不斉還元触媒を用いて非対称ケトン類の不斉還元反応を行った場合には、比較例の結果に比べ、高光学純度の光学活性アルコール類が安定して得られている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPLC分析における純度が98%以上であることを特徴とする下記一般式(1)又は一般式(2)で示される光学活性ラクタムアルコール誘導体。
【化1】

(式中、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、炭素数3〜10の直鎖状、分岐状若しくはアルコキシ基、フェニル基、置換フェニル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子を示し、m又はnは各々独立して0から5の整数を示す。)
【化2】

(式中、R、Rは上記と同じ定義である。)
【請求項2】
一般式(1)又は一般式(2)において、R、Rが各々独立して、水素原子、メチル基、メトキシ基、tert−ブチル基、トリフルオロメチル基、又はフッ素原子を示し、m又はnが1又は2の整数を示すことを特徴とする請求項1に光学活性ラクタムアルコール誘導体。
【請求項3】
一般式(1)又は一般式(2)において、R及びRが、水素原子を示すことを特徴とする請求項1に記載の光学活性ラクタムアルコール誘導体。
【請求項4】
光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル溶液を有機金属試薬溶液に滴下し、更に60℃以上の温度で熟成反応を行い、得られた反応生成物を精製することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の98%以上の純度を有する光学活性ラクタムアルコール誘導体の製造方法。
【請求項5】
光学活性なピログルタミン酸のアルキルエステル溶液及び有機金属試薬溶液における溶媒が、各々独立して、沸点が60℃以上のエーテル系溶媒であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学活性ラクタムアルコール誘導体とボラン類からなる不斉還元触媒。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光学活性ラクタムアルコール誘導体とボラン類とを反応させて得られる不斉還元触媒。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の不斉還元触媒を用いてケトン類を還元することを特徴とする光学活性アルコール類の製造方法。

【公開番号】特開2007−238480(P2007−238480A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60856(P2006−60856)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】