説明

高耐熱性熱硬化性樹脂組成物およびそれを用いた電気機器

【課題】本発明は、低温短時間硬化でも高い耐熱性を示す樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたコイルや回転機等の電気機器を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)ビシクロまたはトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは3級アルコールからなる(メタ)アクリレート及び、(B)重合性炭素-炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレートあるいはスチレン誘導体と、(C)重合開始剤を含む熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた電気機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温短時間硬化においても耐熱性に優れた熱硬化性樹脂組成物に係り、特に、モータ等の電気機器の電気絶縁,固着に好適な熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いた電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モータなどの回転機の電気機器コイルは、電気絶縁,動作時の放熱,電気振動によって発生する唸り音の吸収,構成材料の固着等を目的として、熱硬化性樹脂組成物で処理されている。このような機能を発揮することができる熱硬化性樹脂材料として、不飽和ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂などが主に用いられている。なかでも不飽和ポリエステル樹脂は、硬化性,空乾性,固着性,電気絶縁性,経済性などのバランスに優れ、広く用いられている。
近年の電気機器は省エネルギー化および低コスト化に対応するため、より優れた生産性が求められている。従って、回転機コイルの樹脂による固着など、電気機器における樹脂を用いた処理工程においては、低温・短時間硬化が求められており、低温・短時間処理に対応できる電気機器用熱硬化性樹脂組成物が要求されるようになってきた。
【0003】
しかしながら、過酸化物など従来の重合開始剤を用いて低温・短時間で硬化した不飽和ポリエステル樹脂は、反応が不十分などの理由により硬化樹脂の空乾性および硬化物の物性が低下することが知られている。
【0004】
上記課題を解決するために、特許文献1では、(I)ジシクロペンタジエニルモノマレエート、不飽和二塩基酸、飽和二塩基酸及びアルコール成分を反応させて得られる酸価40以下の不飽和ポリエステルと、(II)ジアミノジフェニルメタン、不飽和多塩基酸、飽和多塩基酸及びアルコール成分を反応させて得られる酸価40以下の不飽和ポリエステルと、(III)架橋性モノマー及び(IV)有機過酸化物を含有してなる樹脂組成物を示している。また、特許文献2では、(I)不飽和ポリエステル樹脂と、(II)反応性単量体及び(III)半減期が10時間となる温度が55〜70℃である低温分解型有機過酸化物及び半減期が10時間となる温度が85〜100℃である中温分解型有機過酸化物の2成分の有機過酸化物からなる硬化剤からなる樹脂組成物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−162906号公報
【特許文献2】特開2005−294572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低温短時間硬化でも高い耐熱性を示す樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたコイルや回転機等の電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成しようと鋭意研究を重ねた結果、(A)ビシクロ及びトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは、3級アルコールからなる(メタ)アクリレートと、(B)重合性炭素−炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレートおよび/またはスチレン誘導体及び(C)重合開始剤を含む樹脂組成物が好ましいことを見出した。
【0008】
本発明において、低温短時間硬化というのは硬化温度100℃未満、硬化時間1時間未満を意味する。また、高い耐熱性とは、ガラス転移点が100℃以上のことを言う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温短時間硬化でも高い耐熱性を示す樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いたコイルや回転機等の電気機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて絶縁処理された電気機器用コイルを模式的に示す図。
【図2A】回転電機固定子を模式的に示す側面断面図。
【図2B】図2Aの回転電機固定子のI−I線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
[(A)成分]
(A)ビシクロ及びトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは、3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、2−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−ノルボルニル(メタ)アクリレート、9−ビシクロノニル(メタ)クリレート、2−ビシクロノニル(メタ)アクリレート、3−ビシクロノニル(メタ)アクリレート、イソピノカンフェニル(メタ)アクリレート、2−ビシクロオクタニル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、1−ビシクロノニル(メタ)アクリレート、1−ビシクロオクタニル(メタ)アクリレート、1−メチル−1−シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−メチル−1−シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−メチル−1−シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−メチル−1−シクロオクチル(メタ)アクリレート、1−メチル−1−シクロノニル(メタ)アクリレート、1−エチル−1−シクロペンチル(メタ)アクリレート、1−エチル−1−シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−エチル−1−シクロオクチル(メタ)アクリレート、1−プロピル−1−シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−ブチル−シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−ヘキシル−シクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−ドデシル−シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、t−ペンチル(メタ)アクリレート、t−ヘキシル(メタ)アクリレート、t−オクチル(メタ)アクリレート、t−ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0013】
これらのなかでも、反応性と耐熱性を両立できる点、および近年のVOC規制(揮発性有機化合物規制)への対応が容易な点から、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートやイソボロニル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0014】
[(B)成分]
(B)重合性炭素−炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレートおよび/またはスチレン誘導体としては、具体的には、プロピレンジ(メタ)アクリレート、ブチレンジ(メタ)アクリレート、4,4’−ジシクロヘキシル−1,1’−ジ(メタ)アクリレート、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのジ(メタ)アクリレート誘導体、1,5−ナフチルジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビニルエステル、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン、両末端スチレン変性低分子量ポリフェニレンエーテル等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0015】
また、ビニルエステルについては特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸とをエステル化触媒を用いて反応させることによって得ることができるものであればよい。
【0016】
ビニルエステルの原料として用いられるエポキシ化合物としては、分子中に、少なくとも2個のエポキシ基を有する化合物で、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビスフェノールA等のビスフェノール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂,4,4′−ビフェノール,水添ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0017】
ビニルエステルの原料として用いられる不飽和一塩基酸としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アクリル酸,メタアクリル酸,クロトン酸等が挙げられる。これら不飽和一塩基酸は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0018】
これらのなかでも、jER828などのビスフェノールA型エポキシ樹脂と、メタクリル酸からなるビニルエステルが、接着力や耐熱性等の特性を満たす点で、好ましい。
【0019】
(A)ビシクロ及びトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは、3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレートと(B)重合性炭素−炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレートおよび/またはスチレン誘導体の重量比率(A)/(B)は、70/30〜35/65であることが好ましく、より好ましくは、60/40〜40/60である。(A)成分の重量比率が、この範囲外では、硬化反応が円滑に進行せず、空乾性に劣るため好ましくない。
【0020】
[(C)成分]
(C)重合開始剤としては、有機過酸化物及びアルキルボランからなる群より選ばれる少なくとも一種であればよい。
【0021】
有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル,過酸化ラウロイル,過酸化安息香酸 t−ブチル、過酸化安息香酸 t−アミル,t−アミル パーオキシネオデカノエート,t−ブチル パーオキシネオデカノエート,t−アミル パーオキシイソブチレート,ジt−ブチルパーオキシド,ジクミルパーオキシド,クメンヒドロパーオキシド,1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン,2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン,t−ブチルハイドロパーオキシド、ジ(s−ブチル)パーオキシカーボネート、メチルエチルケトンパーオキシドなどが挙げられるが、特に制限されるものではなく、これらを1種単独もしくは2種以上を混合してもよい。
【0022】
アルキルボランとしては、下式(1)で示されるホウ素化合物が挙げられる。
【0023】
【化1】

(式(1)中、Z1,Z2,Z3は、互いに独立にR1またはOR1(但し、Z1,Z2,Z3のうち少なくとも1つはR1)であり、R1は、水素,アルキル基,シクロアルキル基,アラルキル基またはアリール基である。)
これら、重合開始剤は一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。この、(C)重合開始剤の配合量は、(A)および(B)の各成分の全重量に対し、0.2wt%以上5.0wt%以下であることが望ましい。0.2wt%より少ない場合、硬化が完結せず、望ましい特性が得られない。一方、5.0wt%より多い場合、保存安定性が悪化し好ましくない。
【0024】
[その他の任意成分]
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、その他任意成分として、不飽和ポリエステル樹脂を添加しても良い。不飽和ポリエステル樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、二塩基酸と多価アルコール類とを縮合反応させることによって得ることができる。不飽和ポリエステル樹脂は、樹脂組成物に対する空乾性の付与及び硬化物に対する柔軟性の付与のために添加される。
【0025】
不飽和ポリエステル樹脂の原料として用いられる二塩基酸としては、例えば、マレイン酸,無水マレイン酸,フマル酸,イタコン酸,無水イタコン酸等のα,β−不飽和二塩基酸;フタル酸,無水フタル酸,ハロゲン化無水フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,テトラヒドロフタル酸,テトラヒドロ無水フタル酸,ヘキサヒドロフタル酸,ヘキサヒドロイソフタル酸,ヘキサヒドロテレフタル酸,シクロペンタジエン−無水マレイン酸付加物,コハク酸,マロン酸,グルタル酸,アジピン酸,セバシン酸,1,10−デカンジカルボン酸,2,6−ナフタレンジカルボン酸,2,7−ナフタレンジカルボン酸,2,3−ナフタレンジカルボン酸,2,3−ナフタレンジカルボン酸無水物,4,4′−ビフェニルジカルボン酸、および、これらのジアルキルエステル等の飽和二塩基酸等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら二塩基酸は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
不飽和ポリエステル樹脂の原料として用いられる多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール等のエチレングリコール類、プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール等のプロピレングリコール類、2−メチル−1,3−プロパンジオール,1,3−ブタンジオール,ビスフェノールAとプロピレンオキシドまたはエチレンオキシドとの付加物、グリセリン,トリメチロールプロパン,1,3−プロパンジオール,1,2−シクロヘキサングリコール,1,3−シクロヘキサングリコール,1,4−シクロヘキサングリコール,パラキシレングリコール,ビシクロヘキシル−4,4′−ジオール,2,6−デカリングリコール,トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、エタノールアミン等のアミノアルコール類を用いてもよい。
【0027】
これら多価アルコール類は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合してもよい。また、必要によりエポキシ樹脂,ジイソシアナート,ジシクロペンタジエン等による変性を行ってもよい。エポキシ樹脂による変性は、硬化物の耐薬品性の向上、ジイソシアネートによる変性は、樹脂組成物の接着力の向上、ジシクロペンタジエンによる変性は樹脂組成物の空乾性の向上を目的にする。
【0028】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、その他任意成分として、硬化を促進させるため、硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、ナフテン酸又はオクチル酸の金属塩(コバルト,亜鉛,ジルコニウム,マンガン,カルシウム等の金属塩)があげられ、これらは一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合してもよい。また、接着性向上助剤として、カップリング剤、例えばビニルトリメトキシシラン、スチリルエトキシシラン等や、イソシアネート類、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどの末端にビニル基と一つのイソシアネート基を有するイソシアネートやイソシアネート基に熱潜在性を付与した2−(1’[2,4ジメチルピラゾニル]カルボキシアミノ)エチルメタクリレートを添加してもよい。これらは一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合してもよい。さらに、必要に応じて、重合禁止剤を配合することができる。重合禁止剤としては、ハイドロキノン,パラターシャリーブチルカテコール,ピロガロール等のキノン類が挙げられ、これらは一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合してもよい。
【0029】
更に、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ等の無機微粒子を添加しても良い。これらは一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合してもよい。
【0030】
[本組成物の製造方法]
本発明の熱硬化性樹脂組成物の製造方法としては、まず、(A)ビシクロ及びトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは、3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレート(B)重合性炭素−炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレートおよび/またはスチレン誘導体、その他任意成分とを、室温(25℃)または加温して、均一に攪拌,混合する。加温する場合には、温度範囲としては、40〜80℃が好ましく、(A)及び(B)の粘度や融点に依存する。また、攪拌,混合する際には、必要に応じて、攪拌機を使用してもよい。
【0031】
このようにして、(A)成分及び(B)成分の混合物を作製した後、室温(25℃)で(C)成分を添加し、均一に混合する。
【0032】
本組成物の硬化方法としては、本組成物を80〜140℃で、0.5〜3時間硬化させることが好ましい。硬化温度は、用途に応じて、適宜調整する。
【0033】
本組成物を例えばモーターコイル等に用いる場合には、この組成物を浸漬法,滴下含浸法等を用いて、モーターコイル等の電気機器に含浸させる。含浸方法については常法によるもので、特に制限は無い。
【0034】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、例えば、モータ等の電気機器用コイルの電気絶縁および固着に用いることができる。
【0035】
以下に、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて絶縁処理された電気機器用コイルについて、図を用いて説明する。図1は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて絶縁処理された電気機器用コイルを模式的に示す図である。図2A、図2Bは、電気機器の一例として回転電機の構成を模式的に示す図である。
【0036】
図1に示すように、鉄などの金属からなる磁心1にエナメル線2を巻回しコイルを作製する。巻回しコイルに、浸漬法,滴下含浸法等を用いて本組成物を塗布する。その後、所定の温度,時間で本組成物を加熱硬化して硬化物3を形成し、本組成物を用いて絶縁処理された電気機器用コイル4を得る。
【0037】
図2A,図2Bに示すように、回転電機6は、ハウジング5に固定された円筒形状の固定子磁心7と、この固定子磁心7の内部で同軸に回転する回転子磁心8と、固定子磁心7あるいは回転子磁心8の何れか一方又は双方に軸方向に形成された複数のスロット9を用いて被覆導線が巻回された複数のコイルからなっている。固定子コイル10に、浸漬法,滴下含浸法等を用いて本組成物を塗布する。その後、所定の温度,時間で加熱硬化し本組成物で絶縁処理された固定子を得る。
【0038】
この固定子と回転子とを定法によって組み立て、本組成物を用いて絶縁処理された固定子コイル10を用いた回転電機6が得られる。
【0039】
次に、本発明を実施例によって説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0041】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、長さ20mm×幅5mm×厚さ0.5mmに切断した後、(株)島津製作所製 動的粘弾性測定装置Tritec2000を用いて、引張モードにおける貯蔵弾性率(E’)、力学的損失正接(tanδ)等の動的粘弾性特性を測定した。
【0042】
測定周波数10Hz、振幅変位1μm、スパン間距離10mmとし、30℃から250℃まで空気中で昇温速度2℃/minで測定した。更に、長さ10mm×幅5mm×厚さ5mmに切断した後、アルバック理工(株)製 熱機械試験機TM9300を用いて、圧縮モードにおける熱伸びを測定し、伸び率の変化からガラス転移温度(Tg)を求めた。荷重は3gとし,30℃から250℃まで空気中で昇温速度2℃/minで測定した。
【実施例2】
【0043】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート60重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)40重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0044】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例3】
【0045】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート40重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)60重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0046】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例4】
【0047】
室温において、イソボロニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例5】
【0048】
室温において、イソボロニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、エチレングリコールジメタクリレート(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0049】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例6】
【0050】
室温において、t−ブチルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0051】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例7】
【0052】
室温において、t−ヘキシルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0053】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例8】
【0054】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、ジエチレングリコールジメタクリレート(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0055】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例9】
【0056】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0057】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例10】
【0058】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてジ(s−ブチル)パーオキシカーボネートの50%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス225M50)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0059】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例11】
【0060】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてジエチルメトキシボラン(Aldrich社製)1重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0061】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【実施例12】
【0062】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)1重量部及びジエチルメトキシボラン(Aldrich社製)0.5重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0063】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
【0064】
これら実施例1から12の結果を表1〜3に纏めて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

(比較例1)
【0068】
室温において、ベンジルメタクリレート50重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
(比較例2)
【0069】
室温において、エチレングリコールジシクロペンテニルエーテルメタクリレート50重量部(Aldrich社製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)50重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
【0070】
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱した。得られた硬化物は、実施例1と同様に加工した後、同様にTgを測定した。
(比較例3)
【0071】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート25重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)75重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱したが、硬化物は、得られなかった。
(比較例4)
【0072】
室温において、ジシクロペンタニルメタクリレート75重量部(東京化成(株)製)と、ビニルエステル(Aldrich社製)25重量部を混合し、不飽和ポリエステルワニスとした。不飽和ポリエステルワニス100重量部に対し、室温にてt−ブチル パーオキシネオデカノエートの70%炭化水素溶液((株)アルケマ吉富製ルペロックス10M70)2重量部を加え、コイル含浸用ワニスとした。
ワニスを、直径40mmのアルミ容器に移したのち、80℃に予熱した温風循環式恒温槽にて、30分間加熱したが、硬化物は、得られなかった。
【0073】
これら比較例1から4の結果を表4に求めて示す。
【0074】
【表4】

【0075】
これらの結果より、(A)ビシクロ及びトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは、3級アルコールからなる(メタ)アクリレートと、(B)重合性炭素−炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレートおよび/またはスチレン誘導体を硬化して得られる硬化物が、低温短時間硬化でも高い耐熱性を示すことが示された。
【実施例13】
【0076】
エナメル線コイルは、直径1mmの日立マグネットワイヤ製エナメル線EIW−AおよびAIWを用い、JISC2103付属書3に記載の内径5mm、長さ7.5cmのヘリカル状コイルとしたものを用いた。
【0077】
作製したコイルを実施例1に示したワニスに5分間含浸したのち、80℃で30分硬化、その後、先とは上下を逆とし、実施例1に示したワニスに5分間含浸したのち、80℃で30分硬化した。得られたコイルは、(株)島津製作所製 オートグラフDSS−500を用い、23℃、120℃、155℃の各温度にて曲げ破壊試験をした。曲げ試験は,支点間距離を44mm、クロスヘッド速度0.5mm/分とし、試験片の中央部に荷重を加え、破壊した時の荷重を持って接着力とした。試験は5個の試験片を用い、その平均値を求めた。
【実施例14】
【0078】
エナメル線コイルは、直径1mmの日立マグネットワイヤ製エナメル線EIW−AおよびAIWを用い、JISC2103付属書3内径5mm、長さ7.5cmのヘリカル状コイルとしたものを用いた。
【0079】
作製したコイルを実施例9に示したワニスに5分間含浸したのち、80℃で30分硬化、その後、先とは上下を逆とし、実施例9に示したワニスに5分間含浸したのち、80℃で30分硬化した。得られたコイルは、実施例13と同様に接着力を評価した。
(比較例5)
【0080】
エナメル線コイルは、直径1mmの日立マグネットワイヤ製エナメル線EIW−AおよびAIWを用い、JISC2103付属書3内径5mm、長さ7.5cmのヘリカル状コイルとしたものを用いた。
【0081】
作製したコイルを比較例1に示したワニスに5分間含浸したのち、80℃で30分硬化、その後、先とは上下を逆とし、比較例1に示したワニスに5分間含浸したのち、80℃で30分硬化した。得られたコイルは、実施例13と同様に接着力を評価し、その結果を表5に示した。
【0082】
【表5】

【0083】
本結果より、実施例に示した樹脂は、高温時の接着特性に優れ、低温短時間硬化でも高い耐熱性を有していることが明らかである。
【実施例15】
【0084】
巻芯に直径1mmのエナメル線を巻くことにより作製されたコイルを含む固定子を、実施例1に示す熱硬化性樹脂組成物に含浸した後、80℃で30分間硬化を行うことによりコイルが固着処理された固定子を得た。この固定子は、比較例1に示す熱硬化性樹脂組成物に含浸した後、130℃で2.0時間硬化を行い絶縁処理された固定子を用いたモータと同じ絶縁特性を示した。
【符号の説明】
【0085】
1…皮膜導線、2…磁心、3…硬化樹脂、4…固定子コイル、5…ハウジング、6…固定子磁心、7…スロット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビシクロまたはトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレート及び、(B)重合性炭素-炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレート及び/またはスチレン誘導体と、(C)重合開始剤を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ビシクロまたはトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレート及び、(B)重合性炭素-炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレート及び/又はスチレン誘導体の比率が重量で、70/30〜35/65であることを特徴とする請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)重合開始剤が、過酸化物及び/またはアルキルボランであることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
JISC2103に記載の不揮発分が90%以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)ビシクロまたはトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレート及び、(B)重合性炭素-炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレート及び/またはスチレン誘導体と、(C)重合開始剤を含み、100℃未満の硬化温度で1時間未満に時間内に硬化して、ガラス転移点が100℃以上である硬化物を生成することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
Tgが100℃以上で、(A)ビシクロまたはトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレート及び、(B)重合性炭素-炭素二重結合を2個以上有する化合物を含む請求項1乃至5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項7】
Tgが100℃以上で、(A)ビシクロまたはトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレート及び、(B)重合性炭素-炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレートあるいはスチレン誘導体を含む請求項1乃至6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項8】
Tgが100℃以上で、(A)ビシクロまたはトリシクロ構造を有する2級アルコールまたは3級アルコールのエステルである(メタ)アクリレート及び、(B)重合性炭素-炭素二重結合を2個以上有する(メタ)アクリレート及び/またはスチレン誘導体の比率が重量で、70/30〜35/65であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項9】
JISC2103記載のヘリカルコイル接着力試験において、測定温度155℃における接着力が測定温度23℃における接着力の1/3以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物。
【請求項10】
磁心と、前記磁心に巻き回された導線とを有し請求項1乃至5のいずれか1項に記載の樹脂組成物で絶縁処理されてなることを特徴とする電気機器用コイル。
【請求項11】
請求項10に記載の電気機器用コイルを用いた電気機器。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2012−241076(P2012−241076A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111058(P2011−111058)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(502129933)株式会社日立産機システム (1,140)
【Fターム(参考)】