説明

高靭性透光性アルミナ焼結体及びその製造方法並びに用途

【課題】従来のアルミナ焼結体では曲げ強度、靭性及び透光性を全て兼ね備えたものが得られず、強度と審美性の両方を要求される歯科材料に適する透光性アルミナ焼結体が得られていなかった。
【解決手段】破壊靭性が4.5MPa・m0.5以上、曲げ強度350MPa以上、なおかつ波長600nmの可視光に対する全光線透過率(試料厚さ1mm)が60%以上である透光性アルミナ焼結体を提供する。焼結結晶粒子が平均アスペクト比1.5以上、平均長軸長さ15μm以下の細長板状及び/又は柱状粒子の焼結体であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靭性が高く、脆さが克服され、かつ透光性にも優れることにより歯列矯正ブラケットや義歯ミルブランク等の歯科材料に適するアルミナ焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
透光性アルミナ及びその製造方法については、従来水素或いは真空雰囲気中での高温焼結法とHIP等を用いた加圧焼結法等が知られている。
【0003】
前者はアルミナ粉末にMgO等の粒成長抑制剤を添加し、水素含有雰囲気或いは真空雰囲気中1600℃以上の高温で焼結する方法他多数の報告がある。(例えば特許文献1参照)。この方法では、粒径20〜50μm程度の大きい結晶粒子からなる、曲げ強度300〜400MPaの透光性アルミナが製造される。
【0004】
一方、後者の方法は高純度アルミナ粉末を常圧焼結し、それをHIP処理で高密度化し、透光性を付与する方法である(特許文献2〜8参照)。この方法では1500℃以下の焼結温度が適用されるため、0.5〜5μm程度の微小な結晶粒子からなる焼結体を製造でき、500MPa以上の高い曲げ強度を有する透光性アルミナが得られる。さらに焼結粒径を2μm以下まで小さくすることにより、従来の高温焼結法で製造される透光性アルミナの約2倍の曲げ強度(約800MPa)となることが報告されている。(特許文献2、4、5及び8参照)しかし、これらの透光性アルミナは曲げ強度は高いが、破壊靭性が低く、脆く、欠けやすいという問題があった。例えば特許文献3には3〜4MPa・m0.5という低い破壊靱性値が報告されている。
【0005】
高い破壊靭性をもつアルミナ焼結体として、結晶粒子形状に異方性のある、細長い粒子からなる焼結体で破壊靭性5〜9MPa・m0.5程度の高靭性な焼結体が報告されている(非特許文献1)。しかし、この焼結体は高靭性であるが透光性がなかった。その理由は従来の異方性結晶粒子の焼結体では500〜数千ppmの異種元素添加物の存在が必要であり、それによって焼結性が損なわれるためと考えられる。例えば特許文献5にはHIP加圧焼結法による高純度の透光性アルミナに添加剤を加えて細長い異方性結晶粒子とした場合に不透明となった事例が報告されており、異方性結晶粒子では透光性とならないことが示されている。
【0006】
これまでのHIP加圧焼結法による透光性アルミナは等方性の結晶粒子からなるものしか報告例がなく、それはこれまでの報告における焼結体の組織写真からも明らかである。(特許文献3〜8参照)
このように、従来の非加圧の高温焼結法では低強度・低靭性の透光性アルミナしか得られず、HIP加圧焼結法では高強度ではあるが、低靭性の透光性アルミナしか得られておらず、強度・靭性及び透光性を兼ね備えたアルミナ焼結体は得られていなかった。
【0007】
【特許文献1】米国特許第3026210号
【特許文献2】特開昭63−236757号公報
【特許文献3】特開平3−168140号公報
【特許文献4】特開平3−261648号公報
【特許文献5】特開2001−322866
【特許文献6】米国特許第6878456号
【特許文献7】米国特許第6648638号
【特許文献8】特開2006−87915号
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・セラミックスソサイアティ・オブ・ジャパン(J.Ceram.Soc.Jpn.)106[12]1172−77頁(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は高靭性、高強度及び透光性を兼備したアルミナ焼結体に関するものである。透光性アルミナ焼結体はナトリウムランプ、メタルハライドランプ等のランプ管だけでなく歯列矯正ブラケット、義歯用ミルブランク、歯の修復用クラウン・ブリッジ等の歯科材料として広く利用できる透光性アルミナ焼結体に関するものである。特に歯列矯正ブラケット、義歯ミルブランク等の歯科材料の用途では審美的観点から要求される透光性に加えて、作用応力による破壊・欠け等を防止できる強い抵抗力として曲げ強度、破壊靭性が必要であるが、これまでこれらの特性を全て兼ね備えたアルミナ焼結体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等はアルミナ焼結体の透光性と強度(曲げ強度、破壊靭性)の向上について鋭意検討を重ねた結果、特定の添加物を特定の濃度範囲で含有するアルミナ焼結体では、透光性と曲げ強度、破壊靭性の全てを兼ね備えた透光性アルミナ焼結体となることを見出した。特に、構成する結晶粒子が異方性のある粒子形状において、透光性を損ねることなく破壊靭性に優れることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
以下、本発明の透光性アルミナ焼結体について説明する。
【0011】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、破壊靭性が4.5MPa・m0.5以上、曲げ強度350MPa以上、なおかつ波長600nmの可視光に対する全光線透過率(試料厚さ1mm)で60%以上の透光性アルミナ焼結体である。
【0012】
破壊靭性は4.5MPa・m0.5以上であり、特に5.0MPa・m0.5以上、さら6.0MPa・m0.5以上であることが好ましい。曲げ強度は400MPa以上、特に500MPa以上、さらには600MPa以上であることが好ましい。ここでの破壊靭性、曲げ強度の評価方法はJISに規定される方法による。
【0013】
本発明の焼結体は試料厚み1mmにおいて、600nmの可視光に対して60%以上の高い全光線透過率を有し、特に65%以上、さらには70%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、酸化アルミニウム99.95%以上、それ以外の添加物として酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン、酸化ゲルマニウム、1A族アルカリ金属酸化物、MgO以外の2A族アルカリ土類金属酸化物のうち少なくとも1種以上を総量で20〜400ppm含有するものが好ましい。
【0015】
これらの添加物はアルミナ焼結体中でガラス相を形成し、特に好ましいものとして、酸化ナトリウムと酸化ケイ素の組み合わせを挙げることができる。一方、2A族アルカリ土類金属酸化物のうち、MgOは粒成長抑制剤であるため除外される。またCaOは他の元素の共存状態によっては用いれない場合がある。
【0016】
これらの添加物の含有量が20ppm以下では効果が無く、又400ppm以上では焼結緻密化が阻害され、透光性が本発明の範囲から外れ易い。従って含有量の許容範囲は20〜400ppm、より好ましい範囲は30〜150ppmである。また粒成長抑制剤として働くMgOは全く含まない、或いは不純物レベルで含まれる場合にも20ppm未満とすることが好ましい。
【0017】
上述した添加物は低い焼結温度においては、アルミナ粒子の粒成長を抑制する働きをもち、高い焼結温度においては粒子の異方成長を促進して焼結結晶粒子を細長い形状とする働きを有するため、焼結体を高靭性化する効果を有する。
【0018】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、焼結結晶粒子が平均アスペクト比1.5以上、平均長軸長さ15μm以下の細長板状及び/又は柱状粒子であることが好ましい。平均アスペクト比が1.5未満では4.5MPa・m0.5以上の破壊靱性を達成することが難しくなる。1.5以上になると明らかに異方性の細長形状として認知できるようになる。例えば特許文献5には等方性粒子からなる透光性アルミナのアスペクト比として1.3〜1.4までが例示されている。
【0019】
本発明のアルミナ焼結体の焼結結晶粒子の平均アスペクト比と破壊靱性の関係を図2に、本発明のアルミナ焼結体の粒子形状の例を図3、4、及び6に示す。平均アスペクト比が大きくなるほど破壊靭性は高くなり10MPa・m0.5以上とすることもできるが、その場合には曲げ強度が低下する傾向がある。靭性・強度の兼備という観点から、平均アスペクト比1.6〜2.2が好ましく、この範囲において破壊靭性5.0MPa・m0.5以上、かつ曲げ強度400MPa以上の高靭性・高強度が得られる。
【0020】
本発明の焼結結晶粒子の平均長軸長さは15μm以下が好ましい。15μmを超えた場合でも高い破壊靱性は達成できるが、曲げ強度が低下し易い。靭性・強度の両立の観点からは、平均長軸長さとしては1μmを超え、特に1.2〜6.0μm、さらに1.7〜3.2μmが好ましい。
【0021】
従来、アスペクト比の大きい、細長い粒子からなる焼結体は特許文献5に記載されるように不透明で透光性を示さないとされていた。又、高温焼結法の透光性アルミナにおいても、細長い異常成長粒子の発生をMgO等の粒成長抑制剤の添加によって抑え、等方的形状の粒子にしなければ透光性にならないと考えられていた。(特許文献1)しかし、従来の焼結体では異方成長粒子が生じた際には焼結緻密化が進みにくく、焼結体中にポアが残り、透光性が得られていなかった。本発明の焼結体は、特定の添加物の種類と添加量の範囲では焼結温度に応じて粒成長抑制効果と異方成長促進効果が得られ、焼結緻密化への悪影響がない状態で焼結結晶のアスペクト比を制御することが出来、破壊靱性、曲げ強度及び透光性の全てに優れる焼結体となる。
【0022】
次に透光性アルミナ焼結体の製造法について説明する。
【0023】
本発明の透光性アルミナ焼結体は、純度99.99%以上のアルミナ粉末と、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン、酸化ゲルマニウム、1A族アルカリ金属酸化物、MgO以外の2A族アルカリ土類金属酸化物の群のうち少なくとも1種以上を総量で20〜400ppmを成形後、無加圧下で焼結して一次焼結体を得た後、さらに熱間静水圧プレス処理することによって製造することができる。
【0024】
アルミナ粉末は本発明の純度を満足するものであれば特に限定はないが、例えば99.99%以上の純度を有している市販粉末(例えば、大明化学工業製品、或いは住友化学工業製品)が使用できる。
【0025】
添加物である酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン、酸化ゲルマニウム、1A族アルカリ金属酸化物、MgO以外の2A族アルカリ土類金属酸化物の群のうち少なくとも1種以上の酸化物は、例えばアルミナ粉末に混合・粉砕装置を用いて分散混合させればよい。またこれらの添加物は必ずしも酸化物として添加する必要はなく、焼成によって酸化物になる前駆体を添加してもよい。成形用有機結合剤に含まれる成(前駆体)を利用することもできる。例えばSiOの場合、シリカ粉末或いはシリコンアルコキシド、シリコーン等の有機ケイ素化合物等が、又NaOの場合、NaCO等のナトリウム塩、ステアリン酸ナトリウム等の有機錯体、或いはケイ酸ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
一次焼結体は通常、大気、酸素、真空等の雰囲気中で粉末成形体を焼結することで作製される。最も簡便な雰囲気は大気である。焼結温度は相対密度が95%以上になるまで上げる必要がある。これは、その後のHIP処理における高圧ガスの焼結体内部への浸透を避けるためである。
【0027】
一次焼結体の焼結結晶粒子の大きさとしてはできるだけ小さいことが好ましく、5μm程度未満であることが好ましい。一次焼結体の焼結結晶粒径が5μm以上では、得られるアルミナ焼結体の透光性が低下し易い。
【0028】
一次焼結体をHIP処理したとき、透光性になるかどうかは一次焼結体の結晶粒子の大きさで決定される。結晶粒径が小さいほど、HIPの高温高圧下において粒子の塑性流動が活発となり、残留気孔の消滅が促進される。本発明では、高純度アルミナに上述の添加物を添加することにより、一次焼結体の粒径が小さく制御され、HIP処理による透光性化を促進できる。
【0029】
例えば、市販高純度アルミナ粉末(大明化学製品)を用い1400℃で焼結した場合、無添加では粒径2.9μm、NaSiOを100ppm添加すると1.0μmとなる。この粒成長抑制効果のメカニズムは必ずしも定かではないが、粒界に添加物を含む異相が形成され粒成長の障壁となっていることが考えられる。
【0030】
一次焼結体の粒径をできるだけ小さくするために、焼結温度はできるだけ低く設定することが好ましく、相対密度として95〜98%にできる温度に設定することが好ましい。焼結温度としては1250〜1400℃、特に1250〜1350℃が好ましい。
【0031】
HIP処理は焼結体中の残留気孔を消滅させ、透光性を付与する目的でなされる。処理温度は1200℃以上、処理圧力50MPa以上で達成できるが、本発明では1350〜1550℃が好ましい。1350℃以下では異方成長が不十分でアスペクト比の小さい粒子となり難く、又1550℃以上では異方成長が進みすぎ長軸長さ15μmを超える粗大粒子が増加し、曲げ強度が低下し易い。
【0032】
HIP処理では焼結体粒子の異方成長を促進し、例えば、100ppmのNaO・SiO添加した1450℃常圧焼結体の平均アスペクト比は1.4であるが、同温度でHIP処理した場合2.1となり、HIP処理により異方成長が促進される。
【0033】
HIPでの圧力媒体としては通常用いられるアルゴンガスを用いることができる。その他のガス、例えば窒素、酸素なども適用可能である。圧力は50MPa以上であり、通常適用される100〜200MPaであれば十分の効果が得られる。
【0034】
本発明の焼結体は強靭性と透光性を兼ね備えており、歯科材料、特に歯列矯正ブラケット又は義歯用ミルブランクに用いる材料として適する。
【0035】
従来、ブラケットとして用いられている透光性アルミナは高温焼結法で製造されたものであり、20μm以上の結晶粒子からなるため、曲げ強度300〜400MPaまではあっても、破壊靱性が3〜4MPa・m0.5程度でしかなかった。
【0036】
歯科材料には従来のHIP加圧焼結法で製造された透光性アルミナも利用され始めているが、このアルミナは2μm以下の結晶粒子からなり、曲げ強度600〜800MPaの場合にも、破壊靭性は3.5MPa・m0.5以下でしかなかった。
【0037】
本発明の焼結体は透光性が高い上、曲げ強度は350MPa以上、さらには600MPa以上である上に、破壊靭性4.5MPa・m0.5以上をも両立した焼結体である。
【0038】
ブラケットには矯正用ワイヤーから受ける捻り応力に耐える抵抗力、いわゆるトルク強度が要求され、高いほどブラケットのデザイン設計の自由度が増し、患者に違和感を与えない小さいデザインやセルフライゲーションのような複雑なデザインが可能になる。この様なトルク強度は材料の曲げ強度よりむしろ破壊靭性によって決まるものであり、本発明の焼結体からなるブラケットは高いトルク強度を示し、従来にない新規なブラケットデザインが可能である。
【0039】
クラウン、ブリッジ等の修復義歯材料には噛み合わせ応力による破壊に対する抵抗と自然歯に近い審美性を出すための透光性が要求される。アルミナ焼結体はこの用途に利用されているが、従来のアルミナの破壊靭性は3〜4MPa・m0.5程度であり、又透光性も乏しいものである。本発明の焼結体は格段に高い破壊靭性と透光性を兼備しているので、義歯材料、特に高い破壊抵抗が必要な複数連結ブリッジ等の材料として用いることができる。近年、クラウン、ブリッジ等は焼結体をCAD−CAMシステムで加工して製造され、この焼結体をミルブランクと称している。本発明の焼結体は加工におけるチッピング、欠けの発生を極度に抑制でき、優れたミルブランクとなる。
【発明の効果】
【0040】
本発明のアルミナ焼結体は透光性が高い上に高靭性・高強度であるため、歯列矯正ブラケット、義歯用ミルブランク等の歯科材料として用いる場合に、透光性に基づく高い審美性、及び高靭性・高強度に基づく加工性、信頼性の高いものである。
【0041】
従来の用途の信頼性を向上させるのみならず、新たな用途、例えばセラミックス製セルフライゲーションブラケット、3連以上の複数連結ブリッジ等をも可能にする。さらにその他の用途、例えば高圧ナトリウムランプ管、メタルハライドランプ管等にも使用できる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
本発明の焼結体の評価方法を以下に説明する。
(1)平均アスペクト比、平均長軸長さ
焼結体を鏡面研磨しサーマルエッチング後に、走査型電子顕微鏡写真を撮影し、この写真の画像解析装置により算出した。各粒子の最大長さを長径とし、長径方向と平行であって粒子と接する2本の直線間の最短距離を求め、これを短径とした。この長径を短径で除した値をアスペクト比とし、測定した全粒子のアスペクト比の平均を平均アスペクト比とした。また、各粒子の長軸長さの平均を平均長軸長さとした。なお、測定粒子は100個以上とした。
(2)破壊靭性
破壊靭性試験はJISR1607「ファインセラミックスの破壊靱性試験方法」に基づきSEPB法により測定した。
(3)曲げ強度
曲げ試験はJISR1601「ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法」に基づき3点曲げ試験により測定し、10本の平均値を採用した。
(4)全光線透過率
全光線透過率はJISK7105「プラスティックスの光学特性試験方法」およびJISK7361−1「プラスティック・透明材料の全光線透過率の試験方法に基づき、ダブルビーム方式の分光光度計(日本分光株式会社製、V−650型)で測定した。測定試料は焼結体厚みを1mmに加工し表面粗さRa=0.02μm以下に両面鏡面研磨したものを用いた。光源(重水素ランプおよびハロゲンランプ)より発生した光を試料に透過および散乱させ積分球を用いて全光線透過量を測定した。測定波長領域は200〜800nmの領域で測定し、本件での全光線透過率は、可視光線領域の600nmの波長での透過率とした。
(5)トルク測定評価
トルク試験機、並びに台座に接着したブラケットサンプルを用いて測定した。ブラケットのスロットに0.018×0.025インチCo−Cr合金製ワイヤーを装着し、ワイヤーを固定した状態でブラケットを台座とともに回転させ、破断させるトルク強度測定を行った。トルク強度は5回測定した平均値を採用した。
【0044】
実施例1〜12
高純度アルミナ粉末(大明化学工業製 純度99.99%以上)にメタケイ酸ナトリウム(ALDRICH社製NaO・SiO)を50、100、200ppmとなるよう添加、ボールミル混合したものを原料粉末とした。表1に高純度アルミナ粉末の不純物分析値を示す。高純度アルミナ粉末自身では添加物に相当する成分の総量は20ppm以下であり、表1に記載されていないものは検出限界以下(<1ppm)であった。
【0045】
次に一軸プレス装置と金型を用い、圧力50MPaを加えて40mm×50mm、厚さ5mmの板状成形体とし、ゴム型に入れ冷間静水圧プレス装置で圧力200MPaを加え成型した。成型体を大気中1300℃で2時間焼結し一次焼結体とし、次に一次焼結体をHIP装置によりアルゴンガス中、温度1300〜1550℃、圧力150MPaで1時間処理した。
【0046】
焼結体のアスぺクト比、平均長軸長さ、破壊靱性、強度、全光線透過率(試料厚み1mm、波長600nm)の結果を表2に示す。また焼結体中の添加物の組成分析値を表3に示す。添加物の酸化物が存在することにより、極めて高い破壊靭性値を有する高透光性焼結体が得られた。焼結体組織の代表例を図3、4に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

比較例1〜3
高純度アルミナ粉末(大明化学工業製 純度99.99%以上)及びMgOを500ppm添加したアルミナ粉末について実施例1記載の試料作製方法によって作製した焼結体についてアスペクト比、平均長軸長さ、SEPB法による破壊靱性、3点曲げ強度、全光線透過率を測定した。結果を表4に示す。また焼結体中の添加物についての組成分析を表5に示す。焼結体組織の代表例を図5に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

実施例13〜18
高純度アルミナ粉末(大明化学製 純度99.9%、比表面積14.6m/g)、NaOおよびSiO等を含有する2種類のワックス系熱可塑性樹脂を用い、粉末500gに対して樹脂100gの割合で混合し、アルミナコンパウンドを作製した。
【0052】
当該アルミナコンパウンドを射出成形機によりプレート形状に成型した。成型体を600℃まで加熱し脱脂した後、大気中にて1300℃、2時間焼成し一次焼結体を得た。次に一次焼結体をHIP装置にて、アルゴンガス雰囲気中、150MPaの圧力でHIP処理した。得られた焼結体試料に対し、組成分析、密度測定、平均アスペクト比測定および平均長軸長さ測定、曲げ強度測定および破壊靱性測定、全光線透過率測定を行った。結果を表6〜表8に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

添加酸化物の総量が30〜100ppmのアルミナ焼結体では1425〜1500℃のHIP処理で、平均アスペクト比が1.52〜2.21となり、なおかつ全光線透過率が70%を超えるものが得られた。破壊靱性値4.5MPa・m0.5以上、曲げ強度600MPa以上の機械的特性に優れたアルミナ焼結体が得られた。焼結体組織の例を図6、7に示す。
【0056】
比較例4〜5
実施例13記載の試料作製方法により作製した一次焼結体を同記載のHIP温度より低い1250℃、1300℃でHIP処理を施した。得られた焼結体について実施例と同様の測定を行った。その結果を表9および表10に示す。焼結体組織の例を図8に示す。
【0057】
【表9】

【0058】
【表10】

HIP処理温度が低下すると平均アスペクト比が1.5を超えず、その組織形態により破壊靱性値が低いアルミナ焼結体しか得られなかった。
【0059】
実施例19〜21、比較例6
実施例13にて作製した同様のコンパウンドAを射出成形機により図10に示す所望のブラケット形状に成形した。成形体を600℃まで加熱し脱脂した後、大気中にて1300℃、2時間焼成した。焼結体を実施例13と同様の条件でHIP処理した。得られたブラケットは実施例のサンプルと同程度の透光性を示していた。試料台に接着したブラケットのスロットに0.018×0.025インチCo−Cr合金製ワイヤーを装着し、ワイヤーを固定した状態でブラケットを回転させ、破断させるトルク強度測定を行った。トルク強度は5回測定した平均値を採用した。その結果を表11に示す。
【0060】
【表11】

【0061】
表11および実施例2記載の表8の結果より、破壊靱性値の増大とともにブラケットの平均トルク強度も上昇することがわかった。本発明におけるアルミナ焼結体組織を用いることにより透光性を保持した高トルク強度を有する歯列矯正ブラケットが得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】全光線透過率測定装置の概略図
【図2】焼結結晶粒子のアスペクト比と破壊靭性の相関関係
【図3】本発明の焼結体(試料番号1−3)のSEM写真
【図4】本発明の焼結体(試料番号1−7)のSEM写真
【図5】比較例の焼結体(試料番号1−15)のSEM写真
【図6】本発明の焼結体(試料番号2−1)のSEM写真
【図7】本発明の焼結体(試料番号2−3)のSEM写真
【図8】比較例の焼結体(試料番号2−8)のSEM写真
【図9】本発明の焼結体の全光線透過率曲線
【図10】本発明の透光性アルミナ歯列矯正ブラケット形状の一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破壊靭性が4.5MPa・m0.5以上、曲げ強度350MPa以上、なおかつ波長600nmの可視光に対する全光線透過率(試料厚さ1mm)が60%以上である透光性アルミナ焼結体。
【請求項2】
酸化アルミニウム99.95%以上、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン、酸化ゲルマニウム、1A族アルカリ金属酸化物、MgO以外の2A族アルカリ土類金属酸化物の群のうち少なくとも1種以上を総量で20〜400ppm含有する請求項1に記載の透光性アルミナ焼結体。
【請求項3】
焼結結晶粒子が平均アスペクト比1.5以上、平均長軸長さ15μm以下の細長板状及び/又は柱状粒子であることを特徴とする請求項1及至2に記載の透光性アルミナ焼結体。
【請求項4】
純度99.99%以上のアルミナ粉末と、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化リン、酸化ゲルマニウム、1A族アルカリ金属酸化物、MgO以外の2A族アルカリ土類金属酸化物の群のうち少なくとも1種以上を総量で20〜400ppmを成形後、無加圧下で焼結した後、さらに熱間静水圧プレス処理することを特徴とする透光性アルミナ焼結体の製造方法。
【請求項5】
無加圧下での焼結を大気雰囲気中、温度1250〜1400℃で行う請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
HIP処理を温度1350〜1550℃、圧力50MPa以上で行う請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1及至3のいずれかに記載の透光性アルミナ焼結体を用いた歯科材料。
【請求項8】
歯列矯正ブラケット又は義歯用ミルブランクのいずれかである請求項7の歯科材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−107887(P2009−107887A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281926(P2007−281926)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】