説明

高鮮明性ポリエステル繊維製造用ポリエステル組成物の製造方法

【課題】本発明の目的は、上記の課題を解決し、染色した際に改善された色の深みと鮮明性とを呈する繊維が得られるポリエステル組成物の製造方法及びその繊維を提供することにある。
【解決手段】テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からエステル化反応を行いオリゴマーを生成する工程と、当該オリゴマーに対して重縮合反応を行う工程を有する製造工程にて製造されるポリエステル組成物の製造方法において、
アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と特定のリン化合物とを、該ジカルボン酸成分に対して、アルカリ金属原子及び/又はアルカリ金属原子が0.1〜2.0モル%の範囲で含有するように添加し、且つリン化合物を下記式(1)を満足するように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
0.5≦P/M≦2.0 ・・・(1)
[上記数式(1)において、Pはリン化合物添加によるリン原子のモル量を表し、Mはアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加によるアルカリ金属原子及び/又はアルカリ金属原子のモル量を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル組成物の製造方法に関する。さらに詳しくはポリエステル組成物に繊維の形状を付与したとき、その繊維表面に微細孔を容易に形成することができ、これを染色すると改善された色の深みと鮮明性を呈することができるポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは多くの優れた特性を有するため、合成繊維として広く使用されている。しかしながら、ポリエステル繊維は羊毛や絹のごとき天然繊維、レーヨン、アセテート、アクリル系繊維に比較して、染料にて染色した際に色の深みが無く、発色性・鮮明性に劣るという欠点がある。この欠点を解消すべく、染料の改善はポリエステルの化学的改質が試みられてきたが、いずれも十分な効果は得られなかった。
【0003】
かかる欠点を解消すべく、例えば特許文献1及び特許文献2では、繊維中に微粒子不活性物質を含有させ、繊維が侵されず微粒子状不活性物質が溶解する酸やアルカリで処理して微粒子状不活性物質を除去し、繊維表面を凹凸化する方法が知られている。また、例えば特許文献3では、シリカゾルなどを用いて繊維表面に不規則に凹凸なランダム表面を形成し、さらにそのランダム表面を形成する凹凸内に、さらに微細な凹凸構造を形成せしめたポリエステルが知られている。
【0004】
微細孔形成剤として有機化合物を用いる例としては、例えば特許文献4〜5では、微細孔形成剤としてリン化合物や分子内にカルボン酸金属塩を有しているスルホン酸化合物などを用い、アルカリ減量処理により繊維表面及び内部に微細孔を形成させる方法が知られている。
【0005】
しかし、いずれの公知技術においても、繊維を溶剤処理する事で繊維表面に凹凸形状を付与することは可能でも、色の深みを改善する効果が不十分であり、また、複雑な凹凸構造のためフィブリル化しやすいなどの問題があり、さらに高速製糸性、技術的安定性、工業的生産性などから見て問題は解決されていなかった。
【0006】
このような欠点を解消するため、例えば特許文献6では、ポリエステル合成反応が完了する前の段階で、特定のリン化合物と、リン化合物に対して0.5〜1.2倍モルのアルカリ土類金属とを添加し、しかる後にポリエステルの合成を完了し、得られたポリエステルを溶融紡糸した後にアルカリ減量処理する事により微細孔を有する合成繊維の製造方法が提案されている。この方法によれば優れた色の深みを有するポリエステル繊維を得る事ができる。
【0007】
確かに本方法によれば、反応中に不活性粒子をポリエステル中に均一な超微粒子分散状態で生成しせしめることができる。しかしながら、本方法は酸成分として有機カルボン酸エステルを用いた、いわゆるエステル交換反応法において非常に有効である一方、近年主流となっているジカルボン酸を原料として使用する直接エステル化反応法では、リン化合物を該リン化合物の溶解性が非常に低いオリゴマー内に添加するため、添加時にリン化合物が反応系内で析出してしまい、スケール状の粗大粒子を多量に生成する。このため、溶融紡糸等の成形加工を行う事ができず、このような組成物はいわゆる有機カルボン酸エステルを原料として製造するしかないのが実情であった。
【0008】
これらの問題を解決するため、例えば特許文献7〜8では、添加条件を調整して析出量を低減させる方法が提案されている。しかしながら本方法によっても析出物を完全に抑制することは困難であり、また、溶解性改善のために反応の途中で多量にエチレングリコールを添加する必要があるために反応時間が長くなるなどの問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭43−014186号公報
【特許文献2】特公昭43−016665号公報
【特許文献3】特開昭55−107512号公報
【特許文献4】特開平08−158157号公報
【特許文献5】特開2000−027032号公報
【特許文献6】特開昭58−104215号公報
【特許文献7】特開平01−068568号公報
【特許文献8】特開平05−132855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記の課題を解決し、染色した際に改善された色の深みと鮮明性とを呈する繊維が得られるポリエステル組成物の製造方法及びその繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み本発明者らは鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明はテレフタル酸を主とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からエステル化反応を行いオリゴマーを生成する工程と、当該オリゴマーに対して重縮合反応を行う工程を有する製造工程にて製造されるポリエステル組成物の製造方法において、
アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と下記一般式(I)で表されるリン化合物とを、該ジカルボン酸成分に対して、アルカリ金属原子及び/又はアルカリ金属原子が0.1〜2.0モル%の範囲で含有するように添加し、且つリン化合物を下記式(1)を満足するように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法であり、この製造方法によって上記課題を解決することができる。
【0012】
【化1】

[上記式(I)中、Arは未置換若しくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を表し、Rは水素原子又はOR基を表す。Rは未置換若しくは置換された1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、未置換若しくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基又は未置換若しくは置換された7〜20個の炭素原子を有するベンジル基を表す。]
0.5≦P/M≦2.0 ・・・(1)
[上記数式(1)において、Pはリン化合物添加によるリン原子のモル量を表し、Mはアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加によるアルカリ金属原子及び/又はアルカリ金属原子のモル量を表す。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維の表面に特異な微細孔を容易に形成することができるので、染色した際に改善された色の深みと鮮明性を呈することのでき、強度・伸度にも優れたポリエステル繊維に好適なポリエステル組成物を提供することができる。またそのポリエステル組成物はジエチレングリコール等の副生成物の共重合量が少なく耐熱性も良好であり、そのポリエステル組成物からポリエステル繊維を製造する際の生産性も良好である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1で得られたポリエステル繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例6で得られたポリエステル繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例8で得られたポリエステル繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】参考例1で得られたポリエステル繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。本発明のポリエステル組成物の製造方法はテレフタル酸を主とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からエステル化反応を行いオリゴマーを生成する工程と、当該オリゴマーに対して重縮合反応を行う工程を有する製造工程にて製造されるポリエステル組成物の製造方法である。
【0016】
(原料:酸成分)
本発明において使用されるジカルボン酸は、テレフタル酸が主に用いられるが、物性を失わない範囲で目的に応じて他の成分が共重合されていても良い。テレフタル酸以外の成分としては、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、p−ヒドロキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸などを挙げることができるが、得られるポリエステル組成物の基本品質を維持するためには、該ジカルボン酸成分の80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上はテレフタル酸であることが好ましい。
【0017】
(原料:グリコール成分)
本発明において使用されるジオール成分としては、エチレングリコールが主に用いられるが、物性を失わない範囲で目的に応じて他の成分が共重合されていても良い。エチレングリコール以外の成分としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチレングリコール)、ジプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジメチロールプロピオン酸、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等を挙げることができる。得られるポリエステル組成物の基本品質を維持するためには、該ジオール成分の80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上はエチレングリコールであることが好ましい。
【0018】
(原料:その他)
なお、本発明におけるポリエステルにはトリメリット酸、トリメシン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメリット酸モノカリウム塩などの多価カルボン酸、グリセリン、ペンタエリトリトール、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどの多価ヒドロキシ化合物を、本発明の目的を達成する範囲内であれば、該酸成分の1モル%以内で共重合してもよい。
【0019】
(オリゴマー)
テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からエステル化反応を行いオリゴマーを生成する工程を、本発明のポリエステル組成物の製造方法においては含有する。ここで、オリゴマーとはジカルボン酸成分、ジオール成分がそれぞれテレフタル酸、エチレングリコールの場合にはビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートの他、一分子内にエチレンテレフタレートの繰り返し単位を2以上含み、いまだポリエチレンテレフタレートと呼べるほど固有粘度・分子量・重合度が上がっておらず、末端がカルボキシル基またはヒドロキシエチル基である化合物を表す。そのようなオリゴマーが生成するまでエステル化反応を行う。エステル化反応の反応率は生成する水の量を測定することによって検知することができる。
【0020】
(固有粘度)
本発明におけるポリエステル組成物は、固有粘度が0.60dL/g以上であることが好ましい。固有粘度が0.60dL/g未満であると、当該ポリエステルを溶融紡糸して得られる繊維成形物の物性が低下するようになり実用性に乏しい。固有粘度の上限は特に限定する必要はないが、ポリエステル組成物の製造のしやすさや、それより得られる繊維成形物の成形のしやすさから、1.2dL/g以下とするのが好ましい。ポリエステルの重縮合条件を適宜調整することによって、固有粘度がこの値の範囲内にあるポリエステル組成物を製造することができる。
【0021】
(内部析出粒子)
本発明のポリエステル組成物は、下記一般式(I)で表されるリン化合物と、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を、あらかじめ反応させることなく、個別にポリエステル組成物製造段階に添加し、ポリエステル組成物の合成反応中にアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物とリン化合物が反応することで形成される微粒子を含有することが好ましい。これを反応槽内部で反応することによって形成される微粒子であることから、以下「内部析出粒子」と称することがある。
【0022】
(アルカリ金属・アルカリ土類金属)
本発明にかかるアルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素に関しては、Li,Na,Mg,Ca,Sr,Baが好ましく、特にCa,Sr,Baが好ましく用いられる。そのなかでもCaが最も好ましく用いられる。また、本発明にかかるアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物としては、上記リン化合物と反応して含金属リン化合物を形成するものであれば特に限定されない。具体的には、有機カルボン酸との塩が好ましく、なかでも酢酸塩は反応により副生する酢酸を容易に除去できるので、特に好ましく用いられる。前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属化合物は1種のみに単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0023】
上記アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は、溶媒に溶解させた状態で使用されることが望ましい。このときの溶媒としては、公知の溶媒から適切なものを選択することができるが、対象のポリエステルの原料として使用するグリコールを使用することが最も好ましい。すなわち本発明においては上記の説明から明らかなようにエチレングリコールを用いることである。
【0024】
(金属化合物添加量)
上記のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物は、上述のジカルボン酸成分に対して、アルカリ金属原子及び/又はアルカリ金属原子が金属原子換算で0.1〜2.0モル%の範囲で含有するように添加する必要がある。添加量が0.1モル%未満では、後述するリン化合物とアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物から形成される粒子量が減少するため、得られるポリエステル組成物を溶融紡糸し、次いでアルカリ減量することで得られるポリエステル繊維の表面凹凸構造の形成が不十分となり、十分な鮮明性を発現できない。一方、2.0モル%を越えると、これらのリン化合物とアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物から形成される粒子が粗大な粒子を形成するため、得られるポリエステルを溶融紡糸し、次いでアルカリ減量することで得られるポリエステル繊維の表面凹凸構造の形成が不十分となるうえ、溶融紡糸工程での製糸性を著しく悪化させるため好ましくない。これらのアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加量は、金属元素換算として0.2〜1.8モル%の範囲が好ましく、0.5〜1.5モル%の範囲が更に好ましい。
【0025】
(金属化合物添加時期)
上記のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物のポリエステル組成物の製造工程中への添加時期は、エステル化反応工程、重縮合反応工程の中の任意の段階を選択することができるが、エステル化反応及び重縮合反応へ及ぼす影響から、エステル化反応中、若しくはエステル化反応終了後、重縮合反応開始の前半(30分以内)で添加することが望ましい。
【0026】
(リン化合物)
本発明にかかるリン化合物に関しては、下記一般式(I)で表される化合物である必要がある。
【0027】
【化2】

[上記式(I)中、Arは未置換若しくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を表し、Rは水素原子又はOR基を表す。Rは未置換若しくは置換された1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、未置換若しくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基又は未置換若しくは置換された7〜20個の炭素原子を有するベンジル基を表す。]
【0028】
で示される官能基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ベンジル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ジメチルフェニル基等を挙げることができる。更にこれらの炭化水素基中の1または2以上の水素原子がカルボキシル基、エステル基、ハロゲン基、アルキルオキシ基等に置換されていても良い。
Arで示される官能基としてはフェニル基、モノ−(ジ−又はトリ−)ハロゲン化フェニル基、メトキシフェニル基、モノ−(ジ−又はトリ−)カルボキシフェニル基、1−(2−)ナフチル基、モノ−(ジ−又はトリ−)ハロゲン化−1−(2−)ナフチル基、1−(2−、又は、9−)アントラニル基、4−(2−、又は、3−)ビフェニル基を挙げることができる。
【0029】
このような一般式(I)の化合物としては、例えばフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ノルマルプロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸が例示されるが、中でもフェニルホスホン酸がもっとも好ましく用いられる。上記のリン化合物は溶媒に溶解させた状態で使用されることが望ましい。このときの溶媒としては、公知の溶媒から適切なものを選択することができるが、対象のポリエステルの原料として使用するグリコールを使用することが最も好ましい。すなわち本発明においては上記の説明から明らかなようにエチレングリコールを用いることである。
【0030】
(リン添加時期)
上記リン化合物のポリエステル中への添加時期は、前述のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加前若しくは添加後のどちらでも良い。リン化合物はアルカリ金属化合物及び/アルカリ土類金属化合物と反応して、ポリエステルに不溶の粒子を形成するが、どちらを先に添加しても同様の粒子が形成される。但し、リン化合物をエステル化反応の初期に添加すると、エステル化反応を阻害する可能性があるため、望ましくはエステル化反応の後半、若しくはエステル化反応終了後、重縮合反応開始の前半(30分以内)で添加することが望ましい。
【0031】
(リン化合物とアルカリ金属化合物等の事前反応禁止)
しかしながらポリエステルに添加する前に、あらかじめリン化合物とアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物とを反応させたものをポリエステルに添加する方法では、あらかじめ調整されるリン化合物とアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物とから形成される粒子の大きさが大きくなる。そのため、それをポリエステル中に添加して得られるポリエステルを溶融紡糸し、次いでアルカリ減量することで得られるポリエステル繊維の表面凹凸構造が、所望の微細化した凹凸構造を形成することができず、目的の鮮明性を発現するポリエステル繊維を得ることができない。従って本願のポリエステル組成物の製造方法においては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物とリン化合物を、オリゴマーを生成する工程及び/又は重縮合反応を行う工程に添加する前に反応させる事なく、個別にポリエステルの製造工程に添加する方法を好ましく採用することができる。但し必要に応じて、双方の化合物の単なる混合物として添加することは本発明の範囲に含まれる。
【0032】
(リン原子/金属原子比)
リン化合物とアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加量は、下記式(1)で示す比率で添加する必要がある。
0.5≦P/M≦2.0 ・・・(1)
上記数式(1)のP/Mが0.5未満では、リン化合物とアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物から形成される粒子量が減少するため、得られるポリエステルを溶融紡糸し、次いでアルカリ減量することで得られるポリエステル繊維の表面凹凸構造の形成が不十分となり、十分な鮮明性を発現できないうえ、ポリエステル中のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物量が過剰となり、過剰な金属原子成分がポリエステルの熱分解を促進し、熱安定性を著しく損なうため好ましくない。一方、P/Mが2.0を越えると、逆にリン化合物が過剰となり、過剰なリン化合物がポリエステルの重合反応を阻害するため好ましくない。P/Mは好ましくは0.8〜1.8、更に好ましくは0.9〜1.5の範囲である。
【0033】
(重合触媒、その他添加剤)
本発明のポリエステル組成物には、ポリエステルの製造時に通常用いられるアンチモン、ゲルマニウム、チタンなどの化合物の金属化合触媒、着色防止剤としてのリン化合物、その他として酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消し剤などを、本発明の目的を奏する範囲内で含有していても良い。
【0034】
(ポリエステル組成物の製造方法)
次に本発明のポリエステル組成物を得るための好ましい製造方法の一例を詳細に説明する。すなわち、ポリエステルを作成した後に上記リン化合物やアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物をブレンド等の方法で混合してポリエステル組成物を得るのではなく、ポリエステルを製造する途中の段階で、本発明に係るリン化合物並びにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属化合物を添加してポリエステルの重合反応を行いポリエステル組成物を製造する方法である。この手法により内部析出粒子を生成させることができる。さらに本発明方法におけるポリエステル製造反応条件には格別の制限はないが、重縮合反応は一般に230〜320℃の温度において、常圧下、又は減圧下(0.1Pa〜0.1MPa)において、或はこれらの条件を組み合わせて、15〜300分間重縮合することが好ましい。
【0035】
(溶融紡糸・アルカリ減量)
上記の方法で得られたポリエステルを溶融紡糸して繊維化する方法は、従来のポリエステル繊維の溶融紡糸方法を任意に採用することができる。ここで紡出する繊維は、中空部を有しない中実繊維であっても、中空部を有する中空繊維であってもよい。海島型複合繊維や、2層ないしそれ以上の多層構造を有するサイド・バイ・サイド型複合繊維にしてもよい。
【0036】
このように得られるポリエステル繊維の表面に微細な凹凸構造を付与する方法としては塩基性化合物と接触させて減量する方法が好ましい。この塩基性化合物との接触には、繊維を必要に応じて延伸加熱処理又は仮撚加工などの処理に供した後、又は更に布帛にした後に、例えば塩基性化合物の水溶液で処理することにより容易に行うことができる。
【0037】
ここで使用する塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどを挙げることができる。中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。この塩基性化合物水溶液の濃度は、塩基性化合物の種類、処理条件などによって異なるが、特に0.1〜30重量%の範囲が好ましい。処理温度は常温〜100℃の範囲である事が好ましい。
【0038】
この塩基性化合物水溶液の処理などによってポリエステル繊維を減量する量は、繊維重量に対して2重量%以上、好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上の範囲とすることが好ましい。このように塩基性化合物水溶液で処理する事により、繊維軸方向に配列した微細孔を繊維表面及びその近傍に多数形成させることができ、染色した際により優れた色の深みと鮮明性を呈するようになる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の分析項目などは、下記記載の方法により測定した。
【0040】
(ア)固有粘度:
ポリエステル組成物を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0041】
(イ)ジエチレングリコール含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル試料チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0042】
(ウ)繊維の引張強度・伸度:
JIS−L−1070記載の方法に準拠して測定を行った。
【0043】
(エ)繊維表面の凹凸構造:
アルカリ減量後の布帛を、走査型電子顕微鏡にて4000倍にて観察した。参考例1の方法で得られた繊維表面構造を基準とし、凹凸構造の形成状態を評価した。
【0044】
(オ)深色度:
色の深みを示す尺度として深色度(K/S)を用いた。サンプル布帛の分光反射率を、島津製作所製RC−330型自記分光光度計にて測定し、下記のクベルカ・ムンクの指揮により求めた。この値が大きいほど深色効果が大きい事を示す。
K/S=(1−R)/2R
なお、Rは反射率、Kは吸収計数、Sは散乱計数を示す。
【0045】
(カ)ポリエステル繊維(ポリエステル組成物)の繰り返し単位、含有化合物の化学構造
ポリエステル組成物サンプルを重水素化トリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、沈殿を濾過により除き、得られた溶液を日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定した。そのスペクトルパターンから常法に従ってポリエステルの繰り返し単位の化学構造を同定した。またポリエステル組成物の溶液にメタノールを添加しポリエステル成分を沈殿させた後、上澄み液を濃縮して核磁気共鳴スペクトル分析を行うことによりアルカリ金属化合物等、ホスホン酸化合物の化学構造を同定した。
【0046】
(キ)ポリエステル組成物中のリン原子および金属原子含有量:
ポリエステル組成物中のリン金属原子含有量、金属原子含有量は粒状のポリエステル組成物(繊維)サンプルをスチール板上で加熱溶融した後、圧縮プレス機で平坦面を有する試験成形体を作成した。この試験成形体を使って蛍光X線装置(理学電機工業株式会社製3270E型)を用いて求めた。触媒としてチタン化合物を使用したものについては、サンプルをオルトクロロフェノールに溶解した後、0.5規定塩酸で抽出操作を行った。この抽出液について日立製作所製Z−8100型原子吸光光度計を用いて定量を行った。ここで0.5規定塩酸抽出後の抽出液中に酸化チタンの分散が確認された場合は遠心分離機で酸化チタン粒子を沈降させた。次に傾斜法により上澄み液のみを回収して、同様の操作を行った。これらの操作によりサンプル中に酸化チタンを含有していても触媒として添加しているポリエステルに可溶性のチタン元素の定量が可能となる。また含有量が1ppm未満の測定限界未満であった場合には、「ND」と表記した。
【0047】
(ク)製糸性、濾過時のパック圧上昇:
ポリエステル組成物中の粗大粒子を評価するため、下記のように濾過昇圧速度を評価した。小型1軸スクリュータイプ押出機の溶融ポリマー出側にポリマー定量供給装置を取り付け、更にその出側に内径64mmφの2400メッシュ金網フィルターを2枚重ねて装着した。次いで、溶融ポリエステルの温度を290℃一定となるようにコントロールし、ポリエステル流量が33.3g/minの速度となるようにポリマーを10時間連続して濾過する。この時のフィルター入側の圧力上昇値の平均値をもって、濾過圧力上昇速度(パック圧上昇)とした。
【0048】
[実施例1]
エステル化反応槽にて、テレフタル酸86部とエチレングリコール40部とを、常法に従ってエステル化反応させオリゴマーを得た。このオリゴマーに、テレフタル酸86部とエチレングリコール40部を65分間かけて連続的に供給し、245℃にてエステル化反応を行った。ついで三酸化アンチモン0.045部を添加して20分後、追加供給したテレフタル酸とエチレングリコールとから生成されるオリゴマー量と等モル量のオリゴマーを重縮合反応槽へ送液した。送液終了後直ちに酢酸カルシウムをポリマー中の酸成分に対して0.5モル%を重縮合反応槽に添加した。さらに5分後にフェニルホスホン酸をポリマー中の酸成分に対して0.6モル%を重縮合反応槽に添加した。その後290℃まで昇温し、0.03kPa以下の高真空化にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.64dL/gのポリエステルチップを得た。
このチップを140℃にて6時間乾燥し、孔径0.3mm(円形)、36ホールの紡糸口金を使用し、290℃で溶融紡糸した。得られた未延伸糸を3.5倍に延伸して、83dtex/36filの延伸糸を得た。
【0049】
得られた延伸糸にS撚り2500T/m又はZ撚り2500T/mの強撚を施し、ついで80℃で30分蒸熱処理して撚止めを行ってS撚強撚糸とZ撚強撚糸を得た。該撚止め強撚糸を、経密度47本/cm、緯密度32本/cmで、S撚、Z撚を2本交互に配して梨地ジョーゼット織物を製織した。得られた生機をロータリーワッシャーを用いて沸騰温度下20分間リラックス処理してシボ立てを行い、次いで常法に従ってプリセットを施した後、濃度が3.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液中沸騰温度下で処理して、減量率が20重量%の布帛を得た。この減量処理した布帛の繊維表面には、繊維軸方向に配列した、短径が0.1〜0.5μm、長径が0.5〜1.5μmの微細孔が多数形成されていることを電子顕微鏡で確認した。
このアルカリ減量後の布帛を、Dianoix Black HG−FS(三菱化学製)15%owfを用いて130℃で60分間染色した後、水酸化ナトリウム1g/L及びハイドロサルファイト1g/Lを含む水溶液にて70℃で20分間還元洗浄して黒染布を得た。結果を表1に示した。
【0050】
[実施例2〜5、比較例1〜4]
実施例1において、酢酸カルシウムとフェニルホスホン酸の添加量を表1記載の量に変更したこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0051】
[比較例5,6]
実施例1において、酢酸カルシウムに変えて酢酸マンガン、酢酸亜鉛に変更したこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0052】
[比較例7,8]
実施例1において、フェニルホスホン酸に変えて正リン酸、リン酸トリメチルに変更したこと以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示した。
【0053】
[比較例9]
エステル化反応槽にて、テレフタル酸86部とエチレングリコール40部とを、常法に従ってエステル化反応させオリゴマーを得た。このオリゴマーに、テレフタル酸86部とエチレングリコール40部を65分間かけて連続的に供給し、245℃にてエステル化反応を行った。ついで三酸化アンチモン0.045部を添加して20分後、追加供給したテレフタル酸とエチレングリコールとから生成されるオリゴマー量と等モル量のオリゴマーを重縮合反応槽へ送液した。送液終了後、酢酸カルシウム0.53部(テレフタル酸に対して0.5モル%)とフェニルホスホン酸0.57部(酢酸カルシウムに対して1.2倍モル)を、6.8部のエチレングリコール中で120℃の温度において60分間反応せしめて調整したフェニルホスホン酸カルシウム塩の透明溶液を添加した。その後290℃まで昇温し、0.03kPa以下の高真空化にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.64dL/gのポリエステルチップを得た。
得られたポリエステルは実施例1と同様の方法で紡糸・減量・染色処理を実施した。結果を表1に示した。
【0054】
[参考例1:エステル交換反応法(上記の特許文献6記載)]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、酢酸カルシウム1水和物0.06重量部をエステル交換反応槽に仕込み、窒素ガス雰囲気下で140℃から230℃まで昇温し、生成するメタノールを系外に留去しながらエステル交換反応を行った。続いて0.2部のリン酸トリメチル(テレフタル酸ジメチルに対して0.25モル%)と0.35部の酢酸カルシウム1水塩(リン酸トリメチルに対して1/2倍モル)を6.8部のエチレングリコール中で120℃の温度において60分間反応せしめて調整したリン酸ジエステルカルシウム塩の透明溶液を添加し、次いで三酸化アンチモン0.04重量部を添加して重縮合反応槽に移した。その後290℃まで昇温し、0.03kPa以下の高真空化にて重縮合反応を行い、固有粘度が0.64dL/gのポリエステルチップを得た。
得られたポリエステルは実施例1と同様の方法で紡糸・減量・染色処理を実施した。結果を表1に示した。DEG含有量が多くポリエステル組成物の耐熱性が劣化している。が良くなかった。
【0055】
【表1】

【0056】
本願実施例で得られたポリエステル組成物から得たポリエステル繊維は塩基性化合物水溶液による減量処理(アルカリ減量)を行うことによって繊維表面に微細孔が多数存在し、染色処理を行うことによって色の深みと鮮明性を呈するようになる。しかし、比較例によって得られた繊維は同様の処理を行っても、微細孔の数が少なかったり、粗大な孔がやや少なめ、少なめ、又はやや多めに存在するに過ぎず、染色を処理を行っても色の深みと鮮明性を呈するポリエステル繊維は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、繊維の表面に特異な微細孔を容易に形成することができるので、染色した際に改善された色の深みと鮮明性を呈することのできるポリエステル繊維が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主とするジオール成分からエステル化反応を行いオリゴマーを生成する工程と、当該オリゴマーに対して重縮合反応を行う工程を有する製造工程にて製造されるポリエステル組成物の製造方法において、
アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物と下記一般式(I)で表されるリン化合物とを、該ジカルボン酸成分に対して、アルカリ金属原子及び/又はアルカリ金属原子が0.1〜2.0モル%の範囲で含有するように添加し、且つリン化合物を下記式(1)を満足するように添加することを特徴とするポリエステル組成物の製造方法。
【化1】

[上記式(I)中、Arは未置換若しくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基を表し、Rは水素原子又はOR基を表す。Rは未置換若しくは置換された1〜20個の炭素原子を有するアルキル基、未置換若しくは置換された6〜20個の炭素原子を有するアリール基又は未置換若しくは置換された7〜20個の炭素原子を有するベンジル基を表す。]
0.5≦P/M≦2.0 ・・・(1)
[上記数式(1)において、Pはリン化合物添加によるリン原子のモル量を表し、Mはアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加によるアルカリ金属原子及び/又はアルカリ金属原子のモル量を表す。]
【請求項2】
ポリエステル組成物を製造する際に、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物とリン化合物を、オリゴマーを生成する工程及び/又は重縮合反応を行う工程に添加する前に反応させる事なく、個別にポリエステルの製造工程に添加することを特徴とする、請求項1に記載のポリエステル組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−63646(P2011−63646A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213236(P2009−213236)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】