説明

高Al含有鋼の連続鋳造方法

【課題】 Al含有量が0.70%以上である高Al含有鋼の連続鋳造において、鋳込み初期から常に安定して良好な鋳片を製造し、この鋳片から得られた鋼製品の表面疵不良の発生を抑制する方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、全カーボン量≦5%、45%≦SiO2≦55%、Al23≦10%、15≦CaO≦30%、Na2O≦15%、F≦10%、MgO≦10%、Li2O≦5%からなる組成Aのモールドパウダーを鋳込み初期にモールド内に散布し、鋳込み開始後の1ヒート以内にAl23≦10%、15≦CaO≦30%、Na2O≦15%、F≦10%、MgO≦10%、Li2O≦5%からなる組成Bのモールドパウダーをモールド内に追加散布して鋼を連続鋳造する高Al含有鋼の連続鋳造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al含有量が0.70%以上である高Al含有鋼を連続鋳造のモールド中への鋳込み初期から常に安定して良好な鋳片を製造し、この鋳片から得られた鋼製品の表面疵不良の発生を抑制する連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高Al含有鋼は、連続鋳造時にモールド内へのモールドパウダーの流入が悪いことに起因して、ブルームの凝固殻とモールド間で焼き付きが生じてブルームの表面割れや凹み、場合によっては引抜き中の鋳片にブレークアウトが発生する。このブルームの凹みや割れは、以下のメカニズムで発生することが分っている。通常使用するモールドパウダーでは、パウダー成分に含まれるSiO2と、溶鋼中に多く含有されるAlとが、3SiO2+4Al→3Si+2Al23で示される反応をする。このとき初期組成の塩基度が高い通常のモールドパウダーでは、このパウダーの反応により、高融点結晶であるゲーレナイト(2CaO・Al23・SiO2)が生成し、スラグベアが生成して凝固殻とモールド間へのモールドパウダーの流入を妨げ潤滑が悪くなることにより、ブルームの表面割れや凹みが発生する。また、JISで企画される高Al含有鋼のAl含有量は質量%で0.70〜1.20%である。
【0003】
そこで、高Al含有鋼の連続鋳造において、モールドパウダーのモールド内の反応や拡散、あるいは供給と消費のバランスなどに着目し、組成変動をしても高融点結晶であるゲーレナイトが晶出しないモールドパウダーを開発して適用することで、良好な鋳片を得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、モールドパウダー中のF含有量を高くすることでAl23含有量が増大し、モールドパウダーの粘度変化を抑制することで、良好な鋳片を得ることが提案されている(たとえば、特許文献2参照。)。
【0005】
さらにモールドパウダーの融剤成分としてBaOを用い、ゲーレナイトの析出を抑制して融点の低下と粘度の低下を図ることで、安定鋳造を達成することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0006】
また、さらに高Al、Y、希土類元素などの還元性成分を含有する鋼を連続鋳造する際に、溶融スラグの変質に起因する操業異常および鋳片品質の劣化を防止する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0007】
さらに、高Al含有鋼の連続鋳造用の、高融点結晶であるゲーレナイトの析出を抑制できるように調整したモールドパウダーが提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0008】
しかし、高Al含有鋼の連続鋳造におけるこれらのモールドパウダーは、連続鋳造の定常状態で使用することを前提としており、モールドパウダーの滓化速度を抑制している。そのためには、モールドパウダーがすばやく滓化および溶融してモールドと鋳片の凝固殻の間に流入する必要がある、鋳込み初期には適用できないという問題がある。
【0009】
以上のように、高Al含有鋼で起こるモールドパウダーの組成変動に対応し、かつ、モールドパウダーの滓化性を早め、連続鋳造の連々鋳初期に対応したモールドパウダーを用い、途中で滓化性を抑制した定常鋳造に適したモールドパウダーに切替えることにより、鋳込み初期から常に安定して良好な鋳片を製造可能とする、高Al含有鋼の連続鋳造技術は従来皆無であった。
【0010】
【特許文献1】開2006−110568号公報
【特許文献2】特開2000−42697号公報
【特許文献3】特開平11−226712号公報
【特許文献4】特開2003−181606号公報
【特許文献5】特開2006−110578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、高Al含有鋼の連続鋳造において、鋳込み初期から常に安定して良好な鋳片を製造し、この鋳片から得られた鋼製品の表面疵不良の発生を抑制する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、全カーボン量≦5%で含有するモールドパウダーを鋳込み初期にモールド内に散布し、鋳込み開始後の1ヒート以内に5%<全カーボン量≦15%で含有するモールドパウダーをモールド内に追加散布して、Al含有量が0.70%以上である鋼を連続鋳造することを特徴とする高Al含有鋼の連続鋳造方法である。
【0013】
請求項2の発明では、質量%で、鋳込み初期にモールド内に散布するモールドパウダーは全カーボン量≦5%、45%≦SiO2≦55%、Al23≦10%、15≦CaO≦30%、Na2O≦15%、F≦10%、MgO≦10%、Li2O≦5%からなる組成Aであり、鋳込み開始後1ヒート以内にモールド内に追加散布するモールドパウダーは5%<全カーボン量≦15%、45%≦SiO2≦55%、Al23≦10%、15≦CaO≦30%、Na2O≦15%、F≦10%、MgO≦10%、Li2O≦5%からなる組成Bであることを特徴とする請求項1の手段の高Al含有鋼の連続鋳造方法である。
【発明の効果】
【0014】
上記の手段としたことで、本発明の方法おけるモールドパウダーは鋳込み初期であっても、すぐに滓化および溶融してモールドと鋳片の凝固殻との間に流入し、かつ、モールド内でモールドパウダーの組成が変動しても、高融点結晶であるゲーレナイトを析出することがなく、本発明におけるモールドパウダーを使用することで、鋳片から得られた鋼製品の表面疵不良の発生率は0〜0.5%未満であり、極めて良好な製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を表を参照して説明する。第1の形態では、質量%で、0.70%以上のAl含有率である高Al含有鋼の連続鋳造方法において、モールドパウダーがモールド内で溶鋼中の鋼成分のAlと反応しきった後でも、高融点結晶であるゲーレナイトを生成することがないように、モールドパウダーの組成を設計した。すなわち、パウダーの初期組成を低CaO/SiO2化することでSiO2濃度が高い側へ初期組成が移動し、反応によってパウダーが組成変動しても、高融点結晶(ゲーレナイト)析出領域に入らないように設計した。さらに、鋳込みの初期で使用するモールドパウダーは、モールドパウダーの全炭素量T.Cを5%以下とし、このモールドパウダーをモールド内に投入した後、モールドパウダーがすぐに滓化および溶融して、鋳込み初期から確実にモールドと鋳片の凝固殻との間へ流入して潤滑性を発揮できるものとした。鋳込み初期の滓化性を早めたモールドパウダーで鋳込みを開始し、その後は1ヒート以内に全炭素量T.Cを5%<T.C≦15%としたモールドパウダーに切替えてモールド内に追加散布して高Al含有鋼の連続鋳造の操業をした。ここでいう鋳込み初期とは、鋳込みスタート直後であるが、そこで投入したパウダーの量により、通常部用のパウダーの投入開始時期も異なる。また、通常部ではパウダーのC量が5%<T.C<15%でないと、保温性などの問題から不具合を起こす。
【0016】
第2の形態では、上記の形態の連続鋳造方法において、鋳込み初期に投入するモールドパウダーを組成Aとし、その後の1ヒート以内に追加するモールドパウダーを組成Bとするとき、これらの化学組成を表1に示す。
【0017】
【表1】

【実施例1】
【0018】
表2に示す仕様の3ストランドを有する完全垂直式の鋳型内のメニスカスから引抜き用のピンチロールの上端までの長さが25.3mのブルームの連続鋳造装置により、Al含有量が0.70%以上である高Al含有鋼の溶鋼を最大で0.65m/minの鋳造速度で連続鋳造し、サイズ380m×90mmの鋳片を切断長さ3.0〜4.5mとして製造した。
【0019】
【表2】

【0020】
この連続鋳造においては、本発明により開発した表3に示す化学組成の鋳込初期のモールドパウダーおよびその後の1ヒート以内に追加するモールドパウダーとして通常のモールドパウダーを適用して連続鋳造した。
【0021】
【表3】

【0022】
モールドパウダーは鋳込み初期であっても、すぐに滓化および溶融してモールドと鋳片の凝固殻との間に流入し、さらにモールド内でモールドパウダーの組成が変動しても、高融点結晶であるゲーレナイトを析出することがなく、本発明におけるモールドパウダーを使用することで、鋳片から得られた鋼製品の表面疵不良の発生率は、表4に示すようにテスト1〜5の全てにおいて、0〜0.5%未満の◎であって、極めて良好な製品が得られた。
【0023】
【表4】

【0024】
これに対して、従来のモールドパウダーで製造した比較例1〜17では、表5に示す評価の◎から〇、△、×までと表面疵不良重量率の0.5%未満の極めて良いものから10%以上のよくないものまで広範であった。
【0025】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、全カーボン量が5%以下であるモールドパウダーを鋳込み初期にモールド内に散布し、鋳込み開始後の1ヒート以内に全カーボン量が5%を超え15%以下であるモールドパウダーをモールド内に追加散布して、Al含有量が0.70%以上である鋼を連続鋳造することを特徴とする高Al含有鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
質量%で、鋳込み初期にモールド内に散布するモールドパウダーは全カーボン量≦5%、45%≦SiO2≦55%、Al23≦10%、15≦CaO≦30%、Na2O≦15%、F≦10%、MgO≦10%、Li2O≦5%からなる組成(A)であり、鋳込み開始後1ヒート以内にモールド内に追加散布するモールドパウダーは5%<全カーボン量≦15%、45%≦SiO2≦55%、Al23≦10%、15≦CaO≦30%、Na2O≦15%、F≦10%、MgO≦10%、Li2O≦5%からなる組成(B)であることを特徴とする請求項1に記載の高Al含有鋼の連続鋳造方法。

【公開番号】特開2010−42421(P2010−42421A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206714(P2008−206714)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】