説明

鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法

【課題】経皮投与によっても経口投与と同等以上の効果を得ることができる鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】鮭類の卵巣膜を、第1のタンパク質分解酵素で処理して第1の成分を抽出する。第1の成分を、第1のタンパク質分解酵素とは異なる第2のタンパク質分解酵素で処理して、第1の成分よりも低分子化された第2の成分を得る。さらに、第2の成分を、超高圧乳化機を用いて、980〜2940MPaの範囲の圧力下に処理して、平均粒子径200〜1400nmの粒子を得る工程を備えてることが好ましい。第2のタンパク質分解酵素は、放線菌の産生する複数のエンドプロテアーゼ及びエクソプロテアーゼの混合物からなるタンパク質分解酵素、パパイン、プロテアーゼKからなる群から選択される1種のタンパク質分解酵素であり、特に放線菌の産生する複数のエンドプロテアーゼ及びエクソプロテアーゼの混合物からなるタンパク質分解酵素が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮭類の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理して抽出された鮭類卵巣膜抽出成分を含む組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鮭類の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理して抽出された成分(以下、鮭類卵巣膜抽出成分と略記する)は、単にタンパク質、アミノ酸を含むのみならず、ビタミン、ミネラル、コンドロイチン硫酸、核酸成分である5’−イノシン酸等の有用成分を含んでいる。そこで、従来、前記鮭類卵巣膜抽出成分は、経口投与による肌荒れ改良剤として用いることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記鮭類卵巣膜抽出成分は、例えば、魚卵から分離された前記卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理してタンパク質を抽出した溶液を、濾過し、得られた濾液を乾燥させる方法により製造することができる。
【0004】
また、前記鮭類卵巣膜抽出成分を経皮投与することにより、皮膚の状態を改善するための化粧料として用いることが検討されている。前記化粧料は、前記鮭類卵巣膜抽出成分を含むことにより、皮膚の細胞を活性化させる効果、メラニンの生成を抑制して皮膚を美白化する効果、ヒスタミンの遊離を抑制してかゆみ止めする効果、コラーゲンの生成を促進して保湿性や、シミ、ソバカス、シワを改良する効果、皮丘及び皮溝を明確にしてキメを細かくする効果等の種々の効果が期待される。
【0005】
しかしながら、経皮投与は一般に経口投与に比較して吸収されにくく、効果が低減するので、前記鮭類卵巣膜抽出成分を経皮投与する場合に、経口投与と同等以上の効果を得るために、さらに改良が望まれる。
【特許文献1】特許3899116号公報
【特許文献2】米国特許第4533254号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して、経皮投与によっても経口投与と同等以上の効果を得ることができる鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明は、鮭類の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理して抽出された鮭類卵巣膜抽出成分を含む組成物の製造方法であって、鮭類の卵巣膜を、第1のタンパク質分解酵素で処理して第1の成分を抽出する工程と、第1の成分を、第1のタンパク質分解酵素とは異なる第2のタンパク質分解酵素で処理して、第1の成分よりも低分子化された第2の成分を得る工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法によれば、鮭類の卵巣膜を、第1のタンパク質分解酵素で処理して得られた鮭類卵巣膜抽出成分(第1の成分)を、再度、第1のタンパク質分解酵素とは異なる第2のタンパク質分解酵素で処理する。このようにすることにより、第1のタンパク質分解酵素で処理して得られた鮭類卵巣膜抽出成分(第1の成分)が、低分子化された第2の成分を得ることができる。
【0009】
前記第2の成分は、前記第1の成分に比較して低分子化されているので、経皮的にも吸収されやすく、前記第1の成分を経皮的に用いた場合よりも大きな効果を得ることができる。
【0010】
本発明の鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法は、さらに、前記第2の成分を、超高圧乳化機を用いて、980〜2940MPaの範囲の圧力下に処理して、平均粒子径200〜1400nmの粒子を得る工程を備えることが好ましい。
【0011】
このようにすると、前記第2の成分が微粒子化され、平均粒子径200〜1400nmの粒子を得ることができる。前記粒子によれば、前記範囲の平均粒子径を備えているので、経皮的にさらに吸収されやすく、前記第2の成分を経皮的に用いた場合よりもさらに大きな効果を得ることができる。
【0012】
前記粒子は、平均粒子径が1400nmを超えると、前記第2の成分より大きな効果が得られないことがある。また、平均粒子径を200nm未満とすることは、前記超高圧乳化機の装置構成の上で困難である。
【0013】
前記超高圧乳化機による処理において、圧力が980MPa未満では、前記範囲の平均粒子径を得ることができない。また、2940MPaを超える圧力とすることは、装置構成の上で困難である。
【0014】
本発明の鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法において、前記第1の成分に比較して低分子化された前記第2の成分を得るために、前記第2のタンパク質分解酵素は、放線菌の産生する複数のエンドプロテアーゼ及びエクソプロテアーゼの混合物からなるタンパク質分解酵素、パパイン、プロテアーゼKからなる群から選択される1種のタンパク質分解酵素を用いることができる。
【0015】
前記第2のタンパク質分解酵素は、より低分子化された前記第2の成分を得るために、放線菌の産生する複数のエンドプロテアーゼ及びエクソプロテアーゼの混合物からなるタンパク質分解酵素であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0017】
本実施形態の製造方法では、まず、鮭類の卵巣膜を水洗する。前記鮭類に属する魚類としては、例えば、白ザケ、紅ザケ、銀ザケ、ニジマス、サクラマス、マスノスケ等を挙げることができ、本実施形態の製造方法では、前記魚類のいずれの卵巣膜を用いてもよい。前記卵巣膜は、前記鮭類の魚類の卵巣から魚卵を採取した後の魚卵外皮である。
【0018】
次に、前記卵巣膜に対して水を卵巣膜:水=1:1〜1:3の重量比で加えて撹拌、混合し、さらに第1のタンパク質分解酵素を卵巣膜の全量に対して1〜3重量%の範囲の量で添加し、45〜55℃の温度で30分間〜5時間、好ましくは2時間加熱する。前記第1のタンパク質分解酵素としては、例えば、アロアーゼ、パンチターゼ等を挙げることができる。
【0019】
次に、前記水溶液に含まれている前記第1のタンパク質分解酵素を失活する。前記失活は、例えば、前記水溶液を90℃の温度で5分間加熱することにより行うことができる。
【0020】
このようにすると、前記卵巣膜の成分のうち、前記第1のタンパク分解酵素で分解された第1の成分が水中に溶出し、該第1の成分の水溶液が得られる。前記第1の成分は、前記第1のタンパク質分解酵素として何を用いるかにもよるが、例えば、35000程度の数平均分子量を備えている。
【0021】
次に、前記第1の成分を含む水溶液に、第2のタンパク質分解酵素を、前記原料としての卵巣膜の全量に対して0.5〜5.0重量%の範囲となる量で添加し、45〜50℃の温度に加熱し、30分間〜5時間、好ましくは2時間振盪する。前記第2のタンパク質分解酵素は、前記第2のタンパク質分解酵素とは異なる酵素である。前記第2のタンパク質分解酵素としては、放線菌の産生する複数のエンドプロテアーゼ及びエクソプロテアーゼの混合物からなるタンパク質分解酵素(プロナーゼ)、パパイン、プロテアーゼKからなる群から選択される1種のタンパク質分解酵素を用いることができるが、特にプロナーゼを用いることが好ましい。前記プロナーゼは、例えば、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製の同名のタンパク質分解酵素を用いることができる。
【0022】
次に、前記水溶液に含まれている前記第2のタンパク質分解酵素を失活する。前記失活は、例えば、前記水溶液を90℃の温度で5分間加熱することにより行うことができる。
【0023】
このようにすると、前記水溶液中の第1の成分が、さらに、前記第2のタンパク分解酵素で分解され、第1の成分よりも低分子化された第2の成分を含む水溶液が得られる。前記第2の成分は、前記第2のタンパク質分解酵素として何を用いるかにもよるが、例えば、前記第1の成分の分子量の約1/10に低分子化され、800〜4000の範囲の数平均分子量を備えている。
【0024】
次に、前記第2の成分の水溶液を30メッシュ程度の金網で簡易濾過し、未分解の卵巣膜等の粗大物を除去する。そして、得られた濾液に活性炭を添加して、該濾液の脱臭、脱色、脱脂を行う。前記濾液の脱臭、脱色、脱脂は、前記原料としての卵巣膜の全量に対して2〜4重量%の範囲の量の活性炭を該濾液に添加し、例えば60℃の温度で30分間加熱することにより行うことができる。
【0025】
前記活性炭による脱臭、脱色、脱脂処理後、前記濾液を例えばフィルタープレスにより濾過し、得られた濾液を、減圧下、例えば60℃の温度で濃縮した後、例えば80℃の温度に10分間維持して滅菌する。そして、滅菌後の前記濾液をスプレードライにて乾燥させることにより、鮭類卵巣膜抽出成分を得ることができる。
【0026】
次に、前記第1の成分を前記第2のタンパク質分解酵素で処理しなかった以外は、上述の製造方法と全く同一にして得られた鮭類卵巣膜抽出成分(比較例)と、本実施形態の製造方法で得られた鮭類卵巣膜抽出成分とについて、高速液体クロマトグラフィーによる分子ふるいクロマトグラフィーを用いて数平均分子量を測定した。本実施形態の製造方法で得られた鮭類卵巣膜抽出成分は、前記第2のタンパク質分解酵素として、それぞれプロナーゼ(実施例1)、パパイン(実施例2)、プロテアーゼK(実施例3)を用いて得られた鮭類卵巣膜抽出成分である。
【0027】
従って、前記比較例の鮭類卵巣膜抽出成分は、前記第1の成分からなるものであり、前記実施例1〜3の鮭類卵巣膜抽出成分は、前記第1の成分からなるものである。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から、第1の成分を前記第2のタンパク質分解酵素で処理しなかった以外は上述の製造方法と全く同一にして得られた鮭類卵巣膜抽出成分(比較例)に比較して、本実施形態の製造方法で得られた鮭類卵巣膜抽出成分(実施例1〜3)によれば、数平均分子量が約1/10になっており、低分子化されていることが明らかである。また、本実施形態の製造方法で得られた鮭類卵巣膜抽出成分では、特に実施例1の前記第2のタンパク質分解酵素としてプロナーゼを用いたものが、低分子化の程度が大きいことが明らかである。
【0030】
本実施形態の製造方法で得られた鮭類卵巣膜抽出成分は、前述のように第1の成分を前記第2のタンパク質分解酵素で処理しなかった場合に比較して、低分子化されているので、このまま皮膚状態改善用化粧料等の原料としてもよい。しかし、さらに大きな効果を望む場合には、本実施形態の製造方法で得られた鮭類卵巣膜抽出成分をさらに、超高圧乳化機で処理することが好ましい。
【0031】
前記超高圧乳化機は、マイクロフルイダイザー(商品名)として公知である(例えば、特許文献2参照)。
【0032】
前記超高圧乳化機により処理するときには、まず、本実施形態の製造方法で得られた前記第2の成分の水溶液を、30メッシュ程度の金網で簡易濾過し、未分解の卵巣膜等の粗大物を除去する。そして、得られた濾液に活性炭を添加して、該濾液の脱臭、脱色、脱脂を行う。前記濾液の脱臭、脱色、脱脂は、上述の方法と全く同一にして行うことができる。
【0033】
前記濾液を前記超高圧乳化機により処理するときには、該濾液は前記範囲の圧力により高温に加熱されて滅菌されるので、前記活性炭による脱臭、脱色、脱脂処理後、特に滅菌を行う必要がない。従って、前記第2の成分を含む濃縮された濾液は、前記活性炭による脱臭、脱色、脱脂処理後、直ちに、例えばフィルタープレスにより濾過し、得られた濾液を、減圧下、例えば60℃の温度で濃縮する。
【0034】
次に、前記濃縮された濾液を、前記超高圧乳化機により980〜2940MPaの範囲の圧力下に処理することにより、該第2の成分を平均粒子径が200〜1400nmの範囲の微粒子とすることができる。そして、前記超高圧乳化機で処理された濾液をスプレードライにて乾燥させることにより、前記微粒子化された鮭類卵巣膜抽出成分を得ることができる。
【0035】
前記微粒子化された鮭類卵巣膜抽出成分は、皮膚状態改善用化粧料等の原料として用いることができる。尚、前記実施形態では、前記超高圧乳化機で処理された濾液をスプレードライにて乾燥させているが、該濾液に含まれる前記鮭類卵巣膜抽出成分は既に微粒子化されているので、該濾液をそのまま前記皮膚状態改善用化粧料等の原料として用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮭類の卵巣膜をタンパク質分解酵素で処理して抽出された鮭類卵巣膜抽出成分を含む組成物の製造方法であって、
鮭類の卵巣膜を、第1のタンパク質分解酵素で処理して第1の成分を抽出する工程と、
第1の成分を、第1のタンパク質分解酵素とは異なる第2のタンパク質分解酵素で処理して、第1の成分よりも低分子化された第2の成分を得る工程とを備えることを特徴とする鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の有用成分組成物の製造方法において、第2の成分を、超高圧乳化機を用いて、980〜2940MPaの範囲の圧力下に処理して、平均粒子径200〜1400nmの粒子を得る工程を備えることを特徴とする鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の有用成分組成物の製造方法において、第2のタンパク質分解酵素は、放線菌の産生する複数のエンドプロテアーゼ及びエクソプロテアーゼの混合物からなるタンパク質分解酵素、パパイン、プロテアーゼKからなる群から選択される1種のタンパク質分解酵素であることを特徴とする鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の有用成分組成物の製造方法において、第2のタンパク質分解酵素は、放線菌の産生する複数のエンドプロテアーゼ及びエクソプロテアーゼの混合物からなるタンパク質分解酵素であることを特徴とする鮭類卵巣膜抽出成分組成物の製造方法。

【公開番号】特開2008−278812(P2008−278812A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126617(P2007−126617)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(501195223)株式会社日本バリアフリー (26)
【Fターム(参考)】