説明

鱗片状ガラス及びその製造方法

【課題】着色を呈する新たな鱗片状ガラスを製造する。
【解決手段】質量%で表して、40≦SiO2≦75、0.1≦Al23≦30、および
5≦CoO(全Coから換算したCoO)≦50の成分を含有する鱗片状ガラスとする。鱗片状ガラス中にはCoを構成原子とする結晶(例えば、Co)が含まれていてもよい。この鱗片状ガラスは、含まれるコバルトの状態に応じて青色、黒褐色などの色を呈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、塗料、インク(インキ)、化粧料等に配合されて使用され、優れた色調や光沢を発揮することができる鱗片状ガラスと、この製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鱗片状ガラスは、樹脂組成物(樹脂マトリックス)中に分散させると、この樹脂組成物から得られる樹脂成形体の強度や寸法精度を向上させることができる。また、鱗片状ガラスは、ライニング材として塗料に配合され、金属やコンクリート表面に塗布される。鱗片状ガラスは、表面が金属で被覆されることにより金属色を呈するようになり、表面が金属酸化物で被覆されることにより反射光の干渉による干渉色を呈するようになる。金属または金属酸化物からなる被膜で被覆された鱗片状ガラスは、光輝性顔料として好適に利用される。このような鱗片状ガラスを用いた光輝性顔料は、塗料や化粧料等の、色調や光沢が重要視される用途において好んで使用されている。
【0003】
鱗片状ガラスに好適な組成として、特許文献1にはCガラス、Eガラスおよび板ガラス組成が記載されている。特許文献2および3には紫外線吸収性能の高い鱗片状ガラスが記載されている。
【0004】
表面が金属または金属酸化物で被覆されることにより着色性、光反射性および隠蔽性が向上した鱗片状ガラスの一つとして、特許文献4にはルチル型二酸化チタンが表面に析出した鱗片状ガラスが記載されている。
【0005】
また、特許文献5には、酸化鉄により可視光透過率が低く抑えられた鱗片状ガラスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−201041号公報
【特許文献2】特開昭63−307142号公報
【特許文献3】特開平3−40938号公報
【特許文献4】特開2001−31421号公報
【特許文献5】国際公開第2004/076372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献4に記載された鱗片状ガラスは可視光を吸収する成分をほとんど含有せず、鱗片状ガラス自体の着色については考慮されていない。また、特許文献2および特許文献3の鱗片状ガラスにおいても、可視光を吸収する成分の量が少なく、鱗片状ガラス自体の着色については考慮されていない。
【0008】
特許文献5に記載されている鱗片状ガラスは、酸化鉄に由来する赤褐色ないし黒褐色の着色を有する。しかし、酸化鉄に由来する着色は、その色の種類が限られており、用途によっては望ましい系統の色には一致しない。
【0009】
この発明の目的とするところは、新たな着色を呈する鱗片状ガラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、質量%で表して、
40≦SiO2≦75、
0.1≦Al23≦30、
5≦CoO≦50、
の成分を含有する鱗片状ガラスを提供する。ただし、前記CoOの値は、前記鱗片状ガラスに含まれるすべてのCo原子をCoOに換算して得られる値を示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、コバルト(Co)の含有率が、CoOに換算して、5〜50質量%に設定されている。このため、鱗片状ガラスがコバルトに由来する十分な着色を呈する。単に可視光透過率を引き下げたいのであれば鱗片状ガラスに酸化鉄を添加すれば足りるが、好ましい着色のためには、コバルトの添加が有効である。また、本発明には、二酸化ケイ素(SiO2)および酸化アルミニウム(Al23)の含有量が十分に確保されているので、ガラス網目の骨格を形成する成分である二酸化ケイ素および酸化アルミニウムがその機能を有効に発現する。また、本発明では、従来の製法を用いて鱗片状ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明の鱗片状ガラスの一例を示す斜視図であり、(b)はこの鱗片状ガラスの平面図である。
【図2】Coを構成原子とする結晶を含有する鱗片状ガラスの一例を示す断面図である。
【図3】被膜付き鱗片状ガラスの一例を示す断面図である。
【図4】鱗片状ガラスまたは被膜付き鱗片状ガラスを含む塗膜が表面に形成された基材の一例を示す断面図である。
【図5】鱗片状ガラスを製造する装置の断面構造を表す図である。
【図6】鱗片状ガラスを製造する別の装置の断面構造を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[鱗片状ガラスの成分]
本発明の鱗片状ガラスは、質量%で表して以下の成分を含有する。
40≦SiO2≦75、
0.1≦Al23≦30、
5≦CoO(全Coから換算したCoO)≦50。
【0014】
本発明の鱗片状ガラスはコバルト(Co)を含有するが、Coの価数に制限はない。
【0015】
以下、上記各成分および鱗片状ガラスに含まれていてもよい任意成分について説明する。以下において成分の含有率を示す%表示はすべて質量%である。
【0016】
(SiO2
二酸化ケイ素(SiO2)は、鱗片状ガラスを構成するガラス組成物またはガラスマトリックスの骨格を形成する成分である。SiO2は、ガラスの耐熱性を保ちながらガラス製造時の失透温度および粘度を調整する成分であり、さらに耐酸性を向上させる成分でもある。SiO2の含有率が40%未満であると、失透温度が上昇し過ぎて鱗片状ガラスの形成が困難になると共に、鱗片状ガラスの耐酸性が低下する。SiO2の含有率が75%を超えると、ガラスの融点が高くなり過ぎて、原料を均一に溶融することが困難になる。したがって、SiO2の含有率は、40%以上であり、45%以上が好ましく、50%より大きいことがより好ましく、55%以上が最も好ましい。SiO2の含有率は、75%以下であり、70%以下が好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下が最も好ましい。
【0017】
(B23
三酸化二ホウ素(B23)は、SiO2とともにガラスの骨格を形成する任意成分であり、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。B23の含有率が10%を超えると、ガラスを溶融する際に溶融窯や蓄熱窯の炉壁が浸食されて窯の寿命が著しく低下する。したがって、B23の含有率は、10%以下が好ましく、5%未満がより好ましく、2%以下が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0018】
(Al23
酸化アルミニウム(Al23)は、SiO2とともにガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスの耐熱性を保ちながらガラス製造時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。また、Al23は、耐水性を向上させる成分であるが、耐酸性を低下させる成分でもある。Al23の含有率が0.1%未満であると、失透温度および粘性の調整、あるいは、耐水性の改善が困難になる。Al23の含有率が30%を超えると、ガラスの融点が高くなり過ぎて原料を均一に溶融することが困難になり、耐酸性も悪化する。したがって、Al23の含有率は、0.1%以上であり、1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上が最も好ましい。Al23の含有率は、30%以下であり、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、12%未満が最も好ましい。
【0019】
(MgO)
酸化マグネシウム(MgO)は、ガラスの耐熱性を保ちながら、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整する任意成分である。MgOの含有率が10%を超えると、失透温度が上昇し過ぎて鱗片状ガラスの形成が困難になる。したがって、MgOの含有率は、0%より大きいことが好ましく、0.1%以上がより好ましい。MgOの含有率は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、2%未満が最も好ましい。
【0020】
(CaO)
酸化カルシウム(CaO)は、ガラスの耐熱性を保ちながらガラス製造時の失透温度および粘度を調整するための任意成分である。CaOの含有率が20%を超えると、失透温度が上昇し過ぎて鱗片状ガラスの形成が困難になる。したがって、CaOの含有率は、0%より大きいことが好ましく、0.1%以上がより好ましい。CaOの含有率は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、5%以下が最も好ましい。
【0021】
(SrO)
酸化ストロンチウム(SrO)は、ガラスの耐熱性を保ちながらガラス製造時の失透温度および粘度を調整する任意成分であるが、ガラスの耐酸性を低下させる成分でもある。SrOの含有率が10%を超えると耐酸性が低下する。したがって、SrOの含有率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0022】
(BaO)
酸化バリウム(BaO)は、ガラスの耐熱性を保ちながらガラス製造時の失透温度および粘度を調整する任意成分であるが、ガラスの耐酸性を低下させる成分でもある。BaOの含有率が10%を超えると耐酸性が低下する。したがって、BaOの含有率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0023】
(MgO+CaO+SrO+BaO)
鱗片状ガラスの成形性を重視する場合、ガラスの耐熱性を保ちながらガラス製造時の失透温度および粘度を調整する成分であるMgO、CaO、SrOおよびBaOの含有率の合計(MgO+CaO+SrO+BaO)が重要である。(MgO+CaO+SrO+BaO)の合計含有率が20%を超えると、失透温度が上昇し過ぎて鱗片状ガラスの形成が困難になる。したがって、(MgO+CaO+SrO+BaO)の合計含有率は、0%より大きいことが好ましく、0.1%以上がより好ましい。(MgO+CaO+SrO+BaO)の合計含有率は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0024】
(ZnO)
酸化亜鉛(ZnO)は、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整する任意成分である。しかし、ZnOは揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性がある。ZnOの含有率が10%を超えると、この揮発の割合が大きくなるため、ガラス中のZnOの含有量の管理が困難になる。したがって、ZnOの含有率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0025】
(Li2O、Na2O、K2O)
アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)は、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整する任意成分である。(Li2O+Na2O+K2O)の合計含有率が20%を超えると、ガラス転移温度が低くなり、ガラスの耐熱性が低下するとともに化学的耐久性が低下する。したがって、(Li2O+Na2O+K2O)の合計含有率は、0%より大きいことが好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1%以上が特に好ましく、1.5%以上が最も好ましい。(Li2O+Na2O+K2O)の合計含有率は、20%以下が好ましく、15%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましく、7%以下が特に好ましく、5%未満が最も好ましい。
【0026】
酸化リチウム(Li2O)は、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整するための成分である。Li2Oにはガラスの融点を下げる効果があり、ガラス原料を均一に溶融し易くする。また、Li2Oには作業温度を下げる効果があり、鱗片状ガラスの形成を容易にする。ただし、Li2Oの含有率が9%を超えると、ガラス転移温度が低くなり、ガラスの耐熱性が悪くなる。したがって、Li2Oの含有率は、0%より大きいことが好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましく、1%以上が最も好ましい。Li2Oの含有率は、9%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、4%以下が最も好ましい。
【0027】
酸化ナトリウム(Na2O)は、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整する成分である。Na2Oの含有率が20%を超えると、ガラス転移温度が低くなり、ガラスの耐熱性が低下する。したがって、Na2Oの含有率は、0%より大きいことが好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましく、0.5%以上が特に好ましく、1%以上が最も好ましい。Na2Oの含有率は、20%以下が好ましく、14%以下がより好ましく、9%以下がさらに好ましく、3%未満が最も好ましい。
【0028】
酸化カリウム(K2O)は、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整するための成分である。K2Oの含有率が5%を超えると、ガラス転移温度が低くなり、ガラスの耐熱性が低下する。したがって、K2Oの含有率は、0%より大きいことが好ましく、0.1%以上がより好ましい。K2Oの含有率は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が最も好ましい。
【0029】
(TiO2
二酸化チタン(TiO2)は、溶融性とガラスの化学的耐久性および紫外線吸収特性とを向上させる任意成分である。TiO2の含有率が5%を超えると、ガラスの失透温度が上昇し過ぎて鱗片状ガラスの形成が困難になる。したがって、TiO2の含有率は、5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0030】
(ZrO2
酸化ジルコニウム(ZrO2)は、ガラス製造時の失透温度および粘度を調整する任意成分であり、ガラスの失透成長を速める働きを有している。ZrO2の含有率が5%を超えると、ガラスの失透温度が上昇し過ぎて鱗片状ガラスの形成が困難になる。したがって、ZrO2の含有率は、5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0031】
(Fe)
ガラス中の鉄(Fe)は、通常、Fe2+またはFe3+の状態で存在する。Fe3+は鱗片状ガラスの紫外線吸収特性を高める成分であり、Fe2+は熱線吸収特性を高める成分である。酸化鉄(Fe23、FeO)は、鱗片状ガラスの光学特性を調整するための任意成分として使用してもよい。酸化鉄は、意図的に含ませなくとも、工業用原料により不可避的に混入する場合がある。しかし、酸化鉄の含有量が多くなると、鱗片状ガラスの着色が顕著になる。鉄による着色は、色調や光沢が重要視される鱗片状ガラスの用途においては避けるべきである。したがって、酸化鉄の含有率は、Fe23換算で、5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0032】
(Co)
ガラス組成物中においてコバルト(Co)は、通常、Co2+の状態で存在し、Co2+に由来する青色を呈する。ただし、鱗片状ガラスにおいて、CoはCoを構成原子とする結晶の状態で存在していてもよい。Coはその状態によって異なる着色をもたらす。また、Coは、耐水性を向上させる成分でもある。鱗片状ガラスにおけるコバルトの含有率が、CoO換算で50%を超えると、失透温度が上昇し過ぎて鱗片状ガラスの形成が困難になる。他方、コバルトの含有率がCoO換算で5%を下回るとコバルトに由来する着色が十分に得られなくなる。したがって、コバルトの含有率は、CoO換算で、5%以上であり、8%以上が好ましく、10%以上がより好ましい。コバルトの含有率は、CoO換算で、50%以下であり、40%以下が好ましく、35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。
【0033】
(SO3
三酸化硫黄(SO3)は必須成分ではないが、清澄剤として使用してもよい。硫酸塩の原料を使用した場合、0.5%以下の含有率でSO3が混入することがある。
【0034】
(F)
フッ素(F)は揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があり、ガラス中のFの含有量の管理が困難になる。したがって、Fは実質的に含有しないことが好ましい。
【0035】
なお、本発明において、実質的に含有しないとは、工業用原料から不可避的に混入する場合を除き、意図的に含ませないことを意味する。実質的に含有しないとは、具体的には、含有率が0.1%未満、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.03%以下であることを意味する。
【0036】
以上の説明から、本発明の鱗片状ガラスは、質量%で表示して以下の成分を含んでいてもよいことが理解できる。
40≦SiO2≦75、
0.1≦Al23≦30、
5≦CoO(全Coから換算したCoO)≦50、
0≦B23≦10、
0≦(MgO+CaO+SrO+BaO)≦20、
0≦ZnO≦10、
0≦(Li2O+Na2O+K2O)≦20、
0≦TiO2≦5、
0≦ZrO2≦5、
0≦Fe23(全Feから換算したFe23)≦5、
0≦SO3≦0.5。
【0037】
[鱗片状ガラスの形状]
本明細書において、鱗片状ガラスとは、平均厚さtが0.1μm以上100μm未満、好ましくは0.1〜15μm、アスペクト比(平均粒子径a/平均厚さt)が2〜1000の薄片状粒子10をいう(図1(a)参照)。ここで、平均粒子径aは、鱗片状ガラス10を平面視したときの面積Sの平方根として定義される(図1(b)参照;a=S1/2)。平均厚さtは、0.1〜15μmが好ましいが、用途によっては、0.5〜5μm、さらには0.5〜1μmに調整してもよい。
【0038】
[Coを構成原子とする結晶]
本発明の鱗片状ガラスは、上述した成分を含有するガラス組成物から構成されていてもよいが、Coを構成原子とする微小な結晶が分散した状態にあってもよい。上述した成分を含有するガラス組成物からなる場合、鱗片状ガラスはその全体がアモルファス(ガラス組成物)であるが、微小な結晶を含む場合、鱗片状ガラスは、微小な結晶とこの結晶を含む残部のアモルファス部分(ガラスマトリックス)とからなる。後者の場合、図2に示すように、鱗片状ガラス10は、Coを構成原子とする結晶3を含むガラスマトリックス2から構成される。Coを構成原子とする結晶3は、後述するとおり、予め成形したガラス組成物からなる鱗片状ガラスを熱処理することにより、析出させることができる。結晶の析出量、結晶粒径およびその種類を制御することにより、鱗片状ガラスの可視光透過率および色調を容易に調整することができる。Coを構成原子とする結晶3は、通常、Coである。Coの析出は黒褐色の着色をもたらす。鱗片状ガラス中に析出したCoを構成原子とする結晶は、X線回折法により検出可能であるが、電子顕微鏡を用いて観察できることもある。また、鱗片状ガラスに生じた分相構造も、電子顕微鏡で観察できることがある。
【0039】
[鱗片状ガラスの製造方法]
本発明の鱗片状ガラスは、従来から知られていた方法により得ることができる。本発明の鱗片状ガラスは、例えば、図5に示した製造装置を用いて製造することができる。図5に示すように、耐火窯槽20内で溶融されたガラス素地21は、ブローノズル22へ送り込まれたガス23により風船状に膨らみ、中空状ガラス膜24となる。この中空状ガラス膜24を一対の押圧ロール25により粉砕することで、鱗片状ガラス10が得られる。
【0040】
本発明の鱗片状ガラスは、例えば、図6に示した製造装置を用いて製造することもできる。図6に示すように、回転カップ26に流し込まれた溶融状態のガラス素地21は、遠心力により回転カップ26の上縁部から放射状に流出し、この上縁部の上下に配置された環状プレート27の間を通って空気流により吸引され、環状サイクロン型捕集機28へ導入される。ガラス素地21は、上下の環状プレート27の間を通過する間に薄膜の形状となって冷却・固化し、捕集器28へ導入される過程でさらに破砕されて微小片となる。この結果、鱗片状ガラス10が得られる。
【0041】
図5、図6に示したような従来の製造装置を用いれば、所定のガラス組成物からなる鱗片状ガラスを得ることができる。
【0042】
こうして製造された鱗片状ガラスを熱処理することにより、Coを構成原子とする結晶が析出した鱗片状ガラスを得ることができる。熱処理は、用いるガラスのガラス転移温度以上軟化点以下の温度で鱗片状ガラスを一定時間保持することにより行うとよい。なお、鱗片状ガラスを形成する前に、溶融ガラスの保持温度等を適宜調整することによっても、Coを構成原子とする結晶が析出した鱗片状ガラスを得ることは可能である。
【0043】
鱗片状ガラス中のCoが還元される雰囲気下で熱処理を行うことにより、Coを構成原子とする結晶の種類を制御して、鱗片状ガラスの可視光透過率や色調を調整することができる。鱗片状ガラス中のCoが還元される雰囲気は、還元性雰囲気または不活性雰囲気であればよい。還元性雰囲気としては、水素を含む混合ガス等の還元性ガスを使用するとよい。不活性雰囲気としては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスを使用するとよい。還元性雰囲気における熱処理により、鱗片状ガラスにCoを析出させることができる。熱処理は複数回行ってもよい。
【0044】
以上から明らかなとおり、本発明は、その別の側面から、
質量%で表示して、
40≦SiO2≦75、
0.1≦Al23≦30、
5≦CoO≦50、
の成分を含有するガラス組成物からなる鱗片状ガラスを作製し、
前記鱗片状ガラスを熱処理することにより、当該鱗片状ガラス中にCoを構成原子として含有する結晶を析出させ、
Coを構成原子として含有する結晶がガラスマトリックス中に分散した、鱗片状ガラスを得る、鱗片状ガラスの製造方法を提供する。ここでも、前記CoOの値は、前記ガラス組成物からなる鱗片状ガラスに含まれるすべてのCo原子をCoOに換算して得られる値を示す。
【0045】
[温度特性/作業温度]
溶融ガラスの粘度が100Pa・s(1000P)となるときの温度は作業温度と呼ばれる。作業温度は、鱗片状ガラスの形成の容易さの指標となる。作業温度が1000℃を下回ると、図5に示した製造装置を用いて鱗片状ガラスを製造する際に、中空状ガラス膜24を均一な膜厚で形成することが難しくなり、均一性の高い鱗片状ガラス10を得ることが困難になる。一方、作業温度が1300℃を上回ると、ガラスの製造装置が熱による腐食を受け易くなり、装置寿命が短くなる。したがって、作業温度は、1000℃以上が好ましく、1050℃以上がより好ましい。作業温度は、1300℃以下が好ましく、1250℃以下がより好ましく、1200℃以下がさらに好ましい。
【0046】
[化学的耐久性/耐水性]
本発明の鱗片状ガラスは耐水性等の化学的耐久性に優れており、樹脂成型体、塗料、化粧料、インキ等の用途に好適に使用される。耐水性の指標としては、後述するアルカリ溶出量が採用され、このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。鱗片状ガラスを樹脂組成物(樹脂マトリックス)中に分散させる場合、ガラスのアルカリ溶出量が0.4mgを超えると、樹脂組成物の強度低下が引き起こされる。したがって、アルカリ溶出量は、0.4mg以下が好ましく、0.3mg以下がより好ましく、0.2mg以下がさらに好ましい。
【0047】
[被膜付き鱗片状ガラス]
図3に模式的に示すように、鱗片状ガラス10を基材とし、この表面に金属または金属酸化物を主成分とする被膜11を形成することにより、被膜付き鱗片状ガラス12を製造することができる。この被膜11は、実質的に金属および金属酸化物の少なくとも1種から形成されることが好ましい。被膜11の形態は単層、混合層、または複層のいずれであってもよい。
【0048】
被膜11は、具体的には、銀、金、白金、パラジウム、およびニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属、または、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、および二酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物により形成されていることが好ましい。これらの中でも、屈折率および透明性が高く干渉色の発色が良い二酸化チタン、および、特徴のある干渉色を発色できる酸化鉄によって被膜11が形成されていることが好ましい。
【0049】
被膜11は、金属を主成分とする第一膜と、金属酸化物を主成分とする第二膜とを含む積層膜であってもよい。また、基材となる鱗片状ガラス10の表面全体に被膜11が形成されている必要はなく、鱗片状ガラス10の表面の一部に被膜11が形成されていてもよい。
【0050】
被膜11の厚さは目的により適宜設定することができる。被膜11を鱗片状ガラス10の表面に形成する方法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法(化学蒸着法)、金属塩から金属酸化物を基板等の表面に析出させる液相析出法等、公知の方法を含めて、どのような方法も採用することができる。ここで、液相析出法(Liquid Phase Deposition Method:LPD法)とは、反応溶液から基板等の表面に金属酸化物を被膜として析出させる方法である。
【0051】
〔用途(樹脂組成物、塗料、インキ組成物および化粧料)〕
本発明の鱗片状ガラスは、上述の特性により、樹脂成形体、塗料、化粧料、インキ等の用途に好適に用いられる。
【0052】
鱗片状ガラス10や被膜付き鱗片状ガラス12は、公知の方法により、顔料または補強用充填材として、樹脂組成物、塗料、インキ組成物、化粧料等に配合される。特に、被膜付き鱗片状ガラス12は、被膜11による金属色や干渉色などの発色を呈するため、光輝性顔料として好適に用いることができる。
【0053】
具体的には、鱗片状ガラス10や被膜付き鱗片状ガラス12を、樹脂組成物に配合することにより強度や寸法精度等の物性の向上した樹脂成形体を得ることができ、塗料に配合することにより塗膜に金属色や光沢を付与することができ、インキ組成物に配合することによりこの組成物により形成される文字や図形等に金属色や光沢を付与することができ、化粧料に配合することにより顔面等に施された化粧料に良好な色調や光沢を付与することができる。
【0054】
図4は、この鱗片状ガラス10または被膜付き鱗片状ガラス12を塗料に配合し、これを基材13の表面に塗布した例を説明するための模式的な断面図である。この図4に示すように、鱗片状ガラス10または被膜付き鱗片状ガラス12は、塗膜14の樹脂マトリックス15中に分散されている。
【0055】
樹脂組成物、塗料、インキ組成物、および化粧料としては、目的に応じて公知のものを適宜選択して用いることができる。鱗片状ガラス(または被膜付き鱗片状ガラス)とこれらの材料との混合比も適宜設定することができ、この混合方法としては公知の方法を採用することができる。
【0056】
鱗片状ガラス(または被膜付き鱗片状ガラス)を樹脂組成物中に配合する場合、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を適宜選択して母材樹脂に配合することができる。
【0057】
熱硬化性樹脂としては特に限定されず、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル−ウレタン硬化系樹脂、エポキシ−ポリエステル硬化系樹脂、アクリル−ポリエステル系樹脂、アクリル−ウレタン硬化系樹脂、アクリル−メラミン硬化系樹脂、ポリエステル−メラミン硬化系樹脂等が挙げられる。
【0058】
熱可塑性樹脂としては特に限定されず、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、これらを形成する単量体を共重合してなる共重合体、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー(I型、II型、またはIII型)、熱可塑性フッ素樹脂等が挙げられる。
【0059】
鱗片状ガラス(または被膜付き鱗片状ガラス)を塗料中に配合する場合、前述の各種の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、または、硬化剤を適宜選択して母材樹脂に配合することができる。
【0060】
硬化剤としては特に限定されず、ポリイソシアネート、アミン、ポリアミド、多塩基酸、酸無水物、ポリスルフィド、三フッ化ホウ素酸、酸ジヒドラジド、イミダゾール等が挙げられる。
【0061】
鱗片状ガラス(または被膜付き鱗片状ガラス)をインキ組成物に配合する場合、インキ組成物としては、各種ボールペンやフェルトペン等の筆記具用インキ、および、グラビアインキやオフセットインキ等の印刷インキが挙げられる。インキ組成物を構成するビヒクルは、樹脂類、油分、溶剤等からなり、顔料を分散させて紙にインキを固着させる働きをする。
【0062】
筆記具用インキのビヒクルにおける、樹脂類としては、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、アクリル単量体−酢酸ビニル共重合体、ザンサンガム等の微生物産生多糖類、グアーガム等の水溶性植物性多糖類等が挙げられ、また、溶剤としては、水、アルコール、炭化水素、エステル等が挙げられる。
【0063】
グラビアインキ用ビヒクルにおける、樹脂類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、ライムロジン、ロジンエスエル、マレイン酸樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、エチルセルロース、塩化ゴム、環化ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ギルソナイト、ダンマル、セラック等、およびこれらの混合物や、これらの樹脂類を水溶化した水溶性樹脂または水性エマルション樹脂等が挙げられ、また、溶剤としては、炭化水素、アルコール、エーテル、エステル、水等が挙げられる。
【0064】
オフセットインキのビヒクルにおける、樹脂類としては、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、アルキド樹脂、またはこれらの乾性変性樹脂等が挙げられ、また、油分としては、アマニ油、桐油、大豆油等の植物油が挙げられ、さらに、溶剤としては、n−パラフィン、イソパラフィン、アロマテック、ナフテン、α−オレフィン、水等が挙げられる。
【0065】
なお、上記の各ビヒクルには、染料、顔料、界面活性剤、潤滑剤、消泡剤、レベリング剤等の慣用の添加剤を適宜選択して配合してもよい。
【0066】
鱗片状ガラス(または被膜付き鱗片状ガラス)を化粧料に配合する場合、化粧料としては、フェイシャル化粧料、メーキャップ化粧料、ヘア化粧料等の幅広い範囲の化粧料が挙げられる。これらの中でも、特に、ファンデーション、粉白粉、アイシャドー、ブラッシャー、化粧下地、ネイルエナメル、アイライナー、マスカラ、口紅、ファンシーパウダー等に鱗片状ガラス(または被膜付き鱗片状ガラス)を配合することが好適である。
【0067】
化粧料の目的に応じて、鱗片状ガラスに疎水化処理を適宜施すことができる。疎水化処理の方法としては以下の5つの方法を挙げることができる。
(1)メチルハイドロジェンポリシロキサン、高粘度シリコーンオイル、シリコーン樹脂等のシリコーン化合物による処理方法。
(2)アニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤等の界面活性剤による処理方法。
(3)ナイロン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、各種フッ素樹脂〔ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)等〕、ポリアミノ酸等の高分子化合物による処理方法。
(4)パーフルオロ基含有化合物、レシチン、コラーゲン、金属石鹸、親油性ワックス、多価アルコール部分エステルまたは完全エステル等による処理方法。
(5)これらを複合した処理方法。
【0068】
なお、粉末の疎水化処理に適用できる一般的な方法であれば、上記以外の方法を用いることもできる。
【0069】
また、この化粧料には、化粧料として通常用いられる他の材料を必要に応じて配合することができる。この材料としては、例えば、無機粉末、有機粉末、顔料や色素、炭化水素、エステル類、油性成分、有機溶媒、樹脂、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、保湿剤、香料、水、アルコール、増粘剤等が挙げられる。
【0070】
無機粉末としては、タルク、カオリン、セリサイト、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、バーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイソウ土、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム、タングステン酸金属塩、シリカ、ヒドロキシアパタイト、ゼオライト、窒化ホウ素、セラミックスパウダー等が挙げられる。
【0071】
有機粉末としては、ナイロンパウダー、ポリエチレンパウダー、ポリスチレンパウダー、ベンゾグアナミンパウダー、ポリ四フッ化エチレンパウダー、(ジスチレンベンゼンポリマーパウダー)、エポキシ樹脂パウダー、アクリル樹脂パウダー、微結晶性セルロース等が挙げられる。
【0072】
顔料は、無機顔料と有機顔料とに大別される。
【0073】
無機顔料としては、色調別に各種、次のものが挙げられる。無機白色顔料:酸化チタン、酸化亜鉛等。無機赤色系顔料:酸化鉄(ベンガラ)、チタン酸鉄等。無機褐色系顔料:γ酸化鉄等。無機黄色系顔料:黄酸化鉄、黄土等。無機黒色系顔料:黒酸化鉄、カーボンブラック等。無機紫色系顔料:マンゴバイオレット、コバルトバイオレット等。無機緑色系顔料:チタン酸コバルト等。無機青色系顔料:群青、紺青等。パール調顔料:酸化チタン被膜雲母、酸化チタン被膜オキシ塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被膜タルク、魚鱗箔、着色酸化チタン被膜雲母等。金属粉末顔料:アルミニウムパウダー、カッパーパウダー等。
【0074】
有機顔料としては、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、橙色204号、黄色205号、黄色401号及び青色404号等が挙げられる。これらの他にも、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、アルミニウムホワイト等の体質顔料に染料をレーキ化した有機顔料が用いられる。この染料としては、赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色227号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、橙色205号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、緑色3号及び青色1号等が挙げられる。
【0075】
色素としては、クロロフィル、β−カロテン等の天然色素が挙げられる。
【0076】
炭化水素としては、スクワラン、流動パラフィン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、オケゾライト、セレシン、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、セチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オレイルアルコール、2−エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ミリスチン酸2−オクチルドデシル、ジ−2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセロール、オレイン酸−2−オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセロール、トリヤシ油脂肪酸グリセロール、オリーブ油、アボカド油、ミツロウ、ミリスチン酸ミリスチル、ミンク油、ラノリン等が挙げられる。
【0077】
油性成分としては、シリコーン油、高級脂肪酸、油脂類等のエステル類や、高級アルコール、ロウ等が挙げられる。有機溶媒としては、アセトン、トルエン、酢酸ブチル、酢酸エステル等が挙げられる。可塑剤としては、アルキド樹脂、尿素樹脂等の樹脂、カンファ、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0078】
この化粧料の形状は特に限定されず、例として、粉末状、ケーキ状、ペンシル状、スティック状、軟膏状、液状、乳液状、クリーム状等が挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0080】
(実施例1〜26、比較例1〜5)
表1〜3,5に示した組成となるように各成分の原料を調合し、ガラスのバッチを作製した。電気炉を用い、各バッチを1400〜1600℃にまで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間この温度で保持した。この後、溶融したガラスを冷却しながらペレットに成形した。このペレットを図5に示した製造装置に投入し、鱗片状ガラスの平均厚さが1μmおよび15μmとなるようにガラス素地の温度等の製造条件を適宜調節した。これにより、各組成について、平均厚さが1μmおよび15μmである均一性の良い鱗片状ガラスが作製された。
【0081】
(実施例27,28)
実施例1,4で作製された平均厚さ1μmおよび15μmの鱗片状ガラスを、Coが還元される還元性雰囲気である3%水素と97%窒素の混合ガス雰囲気下、700℃の加熱炉中に2時間保持した(表4)。これにより、内部にCoを構成原子とする結晶(Co)が析出した鱗片状ガラスが作製された。
【0082】
実施例1〜26および比較例1〜3のガラスについて、作業温度およびアルカリ溶出量を測定した。また、実施例1〜28および比較例1〜3で作製された鱗片状ガラスのうち、平均厚さが15μmである鱗片状ガラスについて、色調を観察し、可視光透過率を測定し、結晶の析出の有無の判定およびこの結晶の組成の同定を行った。これらの測定・評価方法を以下に説明する。
【0083】
[可視光透過率]
可視光透過率は、市販の分光光度計〔(株)島津製作所、分光光度計、UV3100PC〕を用いて透過率を測定し、得られた透過率スペクトルから求められた。可視光透過率は着色の程度の指標とすることができる。本明細書では、JIS R3106に基づきA光源を用いて測定された厚さ15μm換算の可視光透過率を求めて上記指標とした。
【0084】
ここで、鱗片状ガラスの可視光透過率の測定方法について説明を補足する。
【0085】
鱗片状ガラスの粒子径が十分大きく、厚さが15μmより大き過ぎるときには、研磨やエッチング等により鱗片状ガラスの厚さを15μmに調整し、A光源を用いて可視光透過率を測定するとよい。
【0086】
鱗片状ガラスの粒子径が小さく、可視光透過率を直接測定することが困難なときは、この鱗片状ガラスと組成が等しく、平均厚さが15μmで粒子径が十分大きい鱗片状ガラスを製造し、A光源を用いて可視光透過率を測定する。あるいは以下のように、近似式から可視光透過率を算出してもよい。
【0087】
まず、鱗片状ガラスの主表面(厚さ方向と垂直な面)に対してA光源を垂直に照射する。次に、鱗片状ガラスを挟んでA光源と反対の方向から鱗片状ガラスを平面視する写真を、光学顕微鏡を用いて撮影する。この写真から、光源が存在しないときの写真の明度を0とし、鱗片状ガラスを置かずに光源のみを置いたときの写真の明度を100として、鱗片状ガラスの明度L*を読み取る。明度L*は、例えば、これらの写真をパーソナルコンピュータの画像ファイルに変換し、画像編集用アプリケーション等を用いることによって読み取ることができる。鱗片状ガラスの明度L*はJIS Z 8729に基づいてY/Ynに変換することができ、このY/Ynを近似的に可視光透過率とする。ここで、YはXYZ系における三刺激値の値であり、Ynは完全拡散反射面の標準の光によるYの値である。この操作を、15μmに近く異なる厚さを有する2枚の鱗片状ガラスについて行い、厚さと可視光透過率の関係についてLambert−Beerの法則に基づく近似式を作成し、厚さ15μm換算の可視光透過率を算出する。
【0088】
なお、鱗片状ガラスの厚さを直接測定することが困難なときは、電子顕微鏡等により鱗片状ガラスの断面写真を撮影し、鱗片状ガラスの厚さを読み取ることが好ましい。
【0089】
[作業温度]
通常の白金球引き上げ法により粘度を測定し、得られた粘度と温度との関係から、溶融ガラスの粘度が100Pa・sとなるときの温度を求め、作業温度とした。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に浸した白金球を等速運動で引き上げる際の、速度、白金球にはたらく重力、抵抗力、引き上げ力、および溶融ガラスの粘度、の関係を示したストークス(Stokes)の法則により粘度を測定する方法である。
【0090】
[アルカリ溶出量]
ガラス試料を粉砕して得たガラス粉末をJIS Z 8801に規定の標準網ふるいにかけ、目開き420μmの標準網ふるいを通過し、目開き250μmの標準網ふるいにとどまったガラス粉末を、ガラスの比重と同じグラム数量秤り取った。このガラス粉末を100℃の蒸留水50mLに1時間浸漬した後、この水溶液中のアルカリ成分を0.01Nの硫酸で滴定した。滴定に要した0.01Nの硫酸のミリリットル数に0.31を乗じることにより、Na2Oに換算したアルカリ成分のミリグラム数を求め、このミリグラム数をアルカリ溶出量とした。このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。この測定方法は、日本工業規格(JIS)の「化学分析用ガラス器具の試験方法 R 3502‐1995」に準拠している。
【0091】
[結晶の有無および組成]
鱗片状ガラスの内部におけるCoを構成原子とする結晶の析出の有無の判定およびこの結晶の種類の同定は、X線回折法による測定により行った。結晶の析出の有無の判定は、得られたX線回折図形における結晶の回折ピークの有無を基準として行った。ただし、鱗片状ガラスの内部に析出した結晶がごく微量である場合は、この鱗片状ガラスと同じ組成を有するバルク状ガラスを作製し、これを粉砕して得たガラス砕片についてX線回折法による測定を行って、その種類を同定した。
【0092】
これらの測定結果を、表1〜表5に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
実施例1〜26のガラスの作業温度は1131〜1228℃であり、鱗片状ガラスの作製に好適な範囲内に入っている。また、実施例1〜26のガラスは、アルカリ溶出量が0.001〜0.3mg、より具体的には0.01〜0.2mgとなり、実施例1,3〜13,15〜26においては0.15mg以下、実施例1,3〜5,7,9,11〜13,15〜19,21〜24,26においては0.10mg以下となり、本発明の鱗片状ガラスが優れた耐水性を有することを示している。
【0099】
実施例1〜28の鱗片状ガラスの可視光透過率は70%以下、より具体的には60%以下となり、実施例1,2,4〜28においては50%以下、実施例1,4,5,7,9,11,13〜19,21,23,24,26〜28においては30%以下、実施例1,27,28においては20%以下となった。このことは、これらの鱗片状ガラスが十分に着色していることを示している。ガラス組成物からなる鱗片状ガラス(実施例1〜26)では、可視光透過率が1〜70%、より具体的には2〜60%の範囲となった。
【0100】
実施例27,28では、鱗片状ガラスを熱処理し、この鱗片状ガラス中にCoを構成原子とする結晶を析出させたことによって、可視光透過率が低下し、より十分な着色を呈する鱗片状ガラスが得られた。
【0101】
これに対し、比較例1の鱗片状ガラスは、CoOが含まれていないため、着色が視認されず、可視光透過率が90%を上回り、また、アルカリ溶出量も0.4mgを上回り、耐水性が不十分であった。
【0102】
比較例2,3の鱗片状ガラスは、CoOが含まれていないため、着色が視認されず、可視光透過率が90%を上回った。
【0103】
比較例4ではSiO2の含有率が低すぎ、CoOの含有率が高すぎたために、失透が生じ、鱗片状ガラスが得られなかった。
【0104】
比較例5ではSiO2の含有率が高すぎ、Al23を含有しなかったため、失透が生じ、鱗片状ガラスが得られなかった。
【0105】
(実施例29〜54)
実施例2〜26,28で作製された平均厚さが1μmである鱗片状ガラスを、さらに粉砕して適当な粒径の鱗片状ガラスとした。この鱗片状ガラスの表面を液相法により酸化チタンで被覆した。液相法は、金属塩から鱗片状ガラスの表面に二酸化チタンを析出させる方法である。すなわち、イオン交換水に金属塩として塩化第一スズ・二水和物を溶かし、これに希塩酸を加えてpH2.0〜2.5に調整した。この溶液を攪拌しながら鱗片状ガラスを投入し、10分後にこの溶液を濾過した。続いて、イオン交換水にヘキサクロロ白金酸・六水和物を溶かし、攪拌しながら、この濾過後の鱗片状ガラスを投入し、10分後に濾過した。次いで、イオン交換水に塩酸溶液(35質量%)を加えてpH0.7の塩酸酸性溶液を得た。この酸性溶液を攪拌しながら、この鱗片状ガラスを投入し、溶液の温度を75℃まで昇温した。
【0106】
この溶液に対して、チタン換算で0.2g/分の割合で四塩化チタン(TiCl4)溶液を添加すると同時に、pHが変化しないように水酸化ナトリウムを添加して、中和反応により二酸化チタン(TiO2)またはこの水和物を鱗片状ガラス表面に析出させる処理を2時間行った。この後、表面に被膜が形成された鱗片状ガラスを濾過し、180℃で2時間乾燥させることにより、被膜付き鱗片状ガラスが作製された。この被膜付き鱗片状ガラスを電子顕微鏡で観察したところ、鱗片状ガラスの表面上に酸化チタンの被膜が形成されていることが確認された。
【0107】
(実施例55〜82)
実施例1〜28で作製された平均厚さが1μmである鱗片状ガラスを、さらに粉砕して適当な粒径の鱗片状ガラスとした。この鱗片状ガラスの表面を、通常の無電解めっき法により銀で被覆した。この無電解めっき法について説明する。まず、実施例29〜54と同様に、鱗片状ガラスに対して塩化第一スズとヘキサクロロ白金酸・六水和物による前処理を行った。続いて、イオン交換水10Lに硝酸銀200gと適量のアンモニア水とを加え、銀液を得た。この銀液を攪拌しながら、前処理を施した鱗片状ガラス1kgを投入し、さらに、還元液として14質量%の酒石酸ナトリウムカリウム溶液を添加することにより、鱗片状ガラスの表面を銀で被覆させた。この後、この鱗片状ガラスを濾過し、400℃で2時間乾燥させることにより、表面に銀の被膜を有する被膜付き鱗片状ガラスが作製された。
【0108】
この被膜付き鱗片状ガラスを電子顕微鏡で観察したところ、鱗片状ガラスの表面に銀の被膜が形成されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上説明したとおり、本発明によれば、従来にない色調を有する鱗片状ガラスが提供される。
【符号の説明】
【0110】
2 ガラスマトリックス
3 結晶
10 鱗片状ガラス
11 被膜
12 被膜付き鱗片状ガラス
13 基材
14 塗膜
15 樹脂マトリックス
20 耐火窯槽
21 ガラス素地
22 ブローノズル
23 ガス
24 中空状ガラス膜
25 押圧ロール
26 回転カップ
27 環状プレート
28 捕集器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で表して、
40≦SiO2≦75、
0.1≦Al23≦30、
5≦CoO≦50、
の成分を含有する鱗片状ガラス。
ただし、前記CoOの値は、前記鱗片状ガラスに含まれるすべてのCo原子をCoOに換算して得られる値を示す。
【請求項2】
質量%で表して、0.1≦(Li2O+Na2O+K2O)≦20をさらに含有する請求項1に記載の鱗片状ガラス。
【請求項3】
質量%で表して、0.1≦(MgO+CaO+SrO+BaO)≦20をさらに含有する請求項1または2に記載の鱗片状ガラス。
【請求項4】
前記成分を含有するガラス組成物からなる請求項1〜3のいずれかに記載の鱗片状ガラス。
【請求項5】
JIS R 3502‐1995に準拠する測定方法によるアルカリ溶出量が0.001〜0.4mgであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鱗片状ガラス。
【請求項6】
Coを構成原子とする結晶を含むガラスマトリックスからなる請求項1〜3のいずれかに記載の鱗片状ガラス。
【請求項7】
前記結晶がCoである請求項6に記載の鱗片状ガラス。
【請求項8】
厚さ15μmに換算したときの可視光透過率が80%以下である請求項1〜7のいずれかに記載の鱗片状ガラス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の鱗片状ガラスと前記鱗片状ガラスの表面に形成された被膜とを含み、前記被膜が金属または金属酸化物により構成されている、被膜付き鱗片状ガラス。
【請求項10】
質量%で表示して、
40≦SiO2≦75、
0.1≦Al23≦30、
5≦CoO≦50、
の成分を含有するガラス組成物からなる鱗片状ガラスを作製し、
前記鱗片状ガラスを熱処理することにより、当該鱗片状ガラス中にCoを構成原子として含有する結晶を析出させ、
Coを構成原子として含有する結晶がガラスマトリックス中に分散した、鱗片状ガラスを得る、鱗片状ガラスの製造方法。
ただし、前記CoOの値は、前記ガラス組成物からなる鱗片状ガラスに含まれるすべてのCo原子をCoOに換算して得られる値を示す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132109(P2011−132109A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295605(P2009−295605)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】