説明

黒色ペースト組成物及びこれを用いた黒色膜の製造方法。

【課題】遮蔽率が高く、かつファインなパターンの黒色膜を形成できる。ペースト材料の利用効率を向上することができる。フォトリソグラフィ法を用いた従来の製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化できる。
【解決手段】PDP10を構成するフロントガラス基板11上にオフセット印刷法により黒色膜16b、24を作製するための黒色ペースト組成物であって、組成物が10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、黒色酸化物粉末の平均粒径及びガラス粉末の平均粒径がそれぞれ0.05〜0.5μmの範囲内にあり、黒色酸化物粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径とガラス粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径との差が0.25μm以下であり、かつ黒色酸化物粉末とガラス粉末の分布曲線における半値幅の差が0.3μm以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下、PDPという。)のフロントガラス基板上にバス電極用及びブラックストライプ用の黒色膜をオフセット印刷法により作成するのに好適な黒色ペースト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
PDPはガスを封入した密閉空間である放電セルの電極対に電圧を印加し、プラズマ放電を発生させ、ガスから発生する紫外線を放電セル内に塗布された蛍光体に照射し、蛍光体を励起させてこれを発光させることにより情報を表示する表示デバイスである。
【0003】
PDPの画像表示方法について以下、図1を参照しながら更に説明する。PDPはフロントガラス基板11とリアガラス基板12との間に放電の広がりを一定領域に抑え、表示を規定のセル内で行わせると同時に、かつ均一な放電空間を確保するために隔壁13が設けられる。フロントガラス基板11の内面にはバス電極16が設けられ、リアガラス基板12の内面には、バス電極16に対向してアドレス電極17が設けられる。両基板11及び12は隔壁13により区画される。区画された内部にはガスが封入され、放電空間14が形成される。PDPはこの放電空間14内で相対向するバス電極16とアドレス電極17との間にプラズマ放電を生じさせることにより、この放電空間14内に封入されているガスから発生する紫外線を放電空間14内に設けた蛍光体18G,18B,18Rに当てることにより表示を行うものである。
【0004】
近年、PDPの高画質化が求められ、その対策の一つとしてハイコントラスト化が挙げられる。従来、PDPのコントラストは、ブラウン管テレビと比べ低いものであったが、このコントラストを低下させる原因の1つが、室内光の反射輝度の高さである。
【0005】
室内光は可視光であるが、PDPを構成する放電セル内の蛍光体に対する可視光の反射率が高いため、蛍光体に当たって反射した室内光が視聴者の目に入り、蛍光体による発光の視認を弱める原因を引き起こしていた。
【0006】
そのため、最近のPDPでは、室内光の反射によるコントラスト低下を解決する対策として、フロント基板における室内光の遮蔽率を向上させることにより、室内光がPDPを構成する放電セル内に射し込むのを防止する方法が採用されている。第一の方法は、パネルの放電していない部分、即ち各放電空間を作り出す隔壁13の位置にブラックストライプ24を形成することにより、遮蔽して外光反射率を下げる方法である。第二の方法は、従来、銀などを主成分とする白色層1層のみで構成されていたバス電極を、先ず黒色ペーストを塗布して黒色層16bを形成し、その上に白色層16aを積層することで白黒2層16a,16bから構成されるバス電極16とする方法である。
【0007】
上記ブラックストライプやバス電極の黒色層のような黒色膜を形成するための材料として耐熱性黒顔料、有機バインダ、光重合性モノマー、光重合開始剤及び有機ビーズを含有することを特徴とする光硬化性樹脂組成物、及び黒色層とブラックマトリックス(ブラックストライプ)が上記光硬化性樹脂組成物により形成されることを特徴とするPDP用前面基板が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。前記特許文献1に示される光硬化性樹脂組成物によるバス電極を構成する黒色層とブラックマトリックスを形成するためにフォトリソグラフィ法が使用されている。
【0008】
具体的には、先ず、透明電極が形成されたフロントガラス基板の全面に光硬化性樹脂組成物を塗布し、乾燥してタックフリーの黒層を形成する。形成した黒層に対し、バス電極とブラックマトリックスのパターンを有するフォトマスクを重ね合わせ、露光する。次に、黒層の全面にAg等の導電性粉末を含有する導電性の高い組成物を塗布し、乾燥してタックフリーの白層(導電性層)を形成する。これにバス電極の露光パターンを有するフォトマスクを重ね合わせ、露光する。次に、アルカリ水溶液により現像して非露光部分を除去し、焼成することにより、フロントガラス基板の透明電極の上に、黒層(下層)電極と
白層(上層)電極とからなるバス電極と、ブラックマトリクスとが形成される。ここで、「タック」とは、粘着力の度合いを示す値である。
【特許文献1】特開2005ー8700号公報(請求項1及び4、明細書[0052]、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に示されるような、フォトリソグラフィ法では、黒層やブラックマトリクスの材料として、光硬化の性質を有する光硬化性モノマーなどを含んだ、いわゆる感光性の黒色ペーストが使用されている。フォトリソグラフィ法では感光性黒色ペーストを塗布して形成した塗膜層全体を露光し硬化する必要がある。しかし、感光性黒色ペーストに含まれる黒色顔料のような黒色粉末の粒子径を小さくし、より微細なパターンの黒色膜を形成しようとする場合、その粒子径を一定値以下にすると、粒子が密な状態に集まり、露光の光を遮ってしまうため、光硬化性モノマーなどの光硬化性組成物が十分な硬化を得られず、ファインなパターンの黒色膜を形成することができないという問題が生じる。一方、光硬化性組成物の十分な硬化を得るために、逆に黒色粉末の粒子径を大きくすると、粒子間の隙間が大きくなり、黒層の可視光に対する遮蔽としての効果が十分に得られないという問題が生じる。
【0010】
また、フォトリソグラフィ法では露光した部分以外は後工程で除去してしまうため、ペースト材料の利用効率が極めて悪く、除去するペースト材料に含まれる元素の種類によっては、処理方法やリサイクル等にコストがかかるという問題も生じていた。
【0011】
更に、前記特許文献1のようなフォトリソグラフィ法により黒層やブラックマトリクスを形成する場合には、塗布、乾燥、露光、現像、焼成といった煩雑な製造工程を踏まなければならない。
【0012】
そこで本発明は、このような従来技術が抱える課題を解決するためになされたものである。
本発明の目的は、遮蔽率が高く、かつファインなパターンの黒色膜を形成し得る黒色ペースト組成物、及び該組成物を用いた黒色膜の製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、ペースト材料の利用効率を向上し得る、黒色ペースト組成物を用いた黒色膜の製造方法を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、フォトリソグラフィ法を用いた従来の製造工程の煩雑さを改善し、製造工程を簡略化し得る、黒色ペースト組成物を用いた黒色膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来の製造工程で使用されていたフォトリソグラフィ法では、感光性ペーストを露光し硬化させるため、黒色粉末の粒子間にある程度の隙間を確保し、露光の光を通過させる必要がある。そのため、黒色粉末の粒径を必要以上に大きくせざるを得ず、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成するには限界が生じていたが、オフセット印刷法を用いることにより、粒径が小さい黒色粉末の使用を可能とすることで、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することが可能となる。
【0014】
本発明者は当初、オフセット印刷に用いる黒色ペースト組成物を作製する際、3本ロール等の攪拌機を使用していた。しかし、本発明者が検討した結果、印刷時の印刷性及び形成後の黒色膜の遮蔽率において、黒色ペースト組成物を作製する際に混合される黒色酸化物粉末とガラス粉末の粒径差の大きさから不具合が生じることがわかった。現状では、市販されているガラス粉末は、本発明に使用する黒色酸化物粉末の粒径ほど小さくすることができない。一般的に黒色酸化物粉末は粉砕して使用されている。そのため遮蔽率の高い黒色膜を作製するために黒色酸化物粉末の粒径を小さくしようとするに従い、ガラス粉末との粒径差が広がっていた。粒径差の大きな両粉末を混合した黒色ペースト組成物を使用し黒色膜を形成すると、形成される黒色膜にポアと呼ばれる空間が生じてしまい、形成後の膜の組成が不均一なものになる。そのため、印刷時における基板への密着性が悪くなり、また形成した黒色膜の遮蔽率にも偏りが生じる問題があった。本発明者は、粒径差の小さい黒色酸化物粉末とガラス粉末を多く含ませることにより上記問題を解決することを見出した。
【0015】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、PDP10を構成するフロントガラス基板11上にオフセット印刷法により黒色膜16b、24を作製するための黒色ペースト組成物である。その特徴ある構成は、組成物が10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、黒色酸化物粉末の平均粒径及びガラス粉末の平均粒径がそれぞれ0.05〜0.5μmの範囲内にあり、黒色酸化物粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径とガラス粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径の差が0.25μm以下であり、かつ黒色酸化物粉末とガラス粉末の半値幅の差が0.3μm以下であるところにある。
請求項1に係る発明では、黒色ペースト組成物中の黒色酸化物粉末及びガラス粉末の含有量を上記範囲内とすることにより、オフセット印刷に適した黒色ペースト組成物が得られる。また黒色酸化物粉末及びガラス粉末の平均粒径を上記範囲内にすれば、微細なパターンの黒色膜を形成することができる。更に、組成物中の黒色酸化物粉末及びガラス粉末の粒径の分布におけるピーク値の差と半値幅の差をそれぞれ上記範囲に規定することにより、粒径差の小さい黒色酸化物粉末とガラス粉末を多く含む黒色ペースト組成物ができ、組成が均一で遮蔽率が高い黒色膜を形成することができる。
【0016】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、有機系ビヒクルは液状のアクリル系樹脂と溶剤とを含み、黒色酸化物粉末とガラス粉末と溶剤とを混合し、混合物をビーズミルにて微粉砕した後、アクリル系樹脂を添加混合してなる黒色ペースト組成物である。
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、有機系ビヒクルは固体のアクリル系樹脂を溶剤で溶解した液状物であり、黒色酸化物粉末とガラス粉末と溶剤と同一の溶剤とを混合し、混合物をビーズミルにて微粉砕した後、液状物を付加混合してなる黒色ペースト組成物である。
請求項2及び3に係る発明では、粉砕と分散を同時に行うことができるビーズミルを用いて作製されるため、粒径差の小さい黒色酸化物粉末とガラス粉末を多く含ませることができる。そのため組成が均一な黒色膜を形成することができる。ここでビーズミルとは、ベッセルと呼ばれる容器の中にビーズを投入して、ベッセル中央の回転軸を高速回転させることによりビーズに運動を与え、ビーズの衝突により被粉砕物を微粉砕し更に分散させることができる装置のことをいう。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明であって、黒色酸化物粉末がCo、Cr、Cu、Mn、Fe及びNiからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属元素を含む金属酸化物又は複合酸化物である黒色ペースト組成物である。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明であって、ガラス粉末が酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1又は2以上の酸化物を含む450〜550℃の軟化点を有するフリットガラスである黒色ペースト組成物である。
【0019】
請求項6に係る発明は、図4及び図5に示すように、請求項1ないし5いずれか1項に記載の黒色ペースト組成物を用いてオフセット印刷法により基板11上に黒色膜16b,24を作製することを特徴とする黒色膜の製造方法である。
請求項6に係る発明では、従来の製造工程で使用されていたフォトリソグラフィ法では、感光性ペーストを露光し硬化させるため、黒色粉末の粒子間にある程度の隙間を確保し、露光の光を通過させる必要がある。そのため、黒色粉末の粒径を必要以上に大きくせざるを得ず、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成するには限界が生じていたが、オフセット印刷法を用いることにより、粒径が小さい黒色粉末の使用を可能とすることで、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することが可能となる。請求項6に係る発明では、前記の高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成するべく、オフセット印刷法により、オフセット印刷性、つまりペーストをオフセット印刷機で印刷した際の転写性等に優れた粘度を有する黒色ペースト組成物を用いることで、ライン乱れがなく、良好なペースト形状を保持したファインなパターンの黒色膜を形成することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
従来の製造工程で使用されていたフォトリソグラフィ法では、感光性ペーストを露光し硬化させるため、黒色粉末の粒子間にある程度の隙間を確保し、露光の光を通過させる必要があったために、黒色粉末の粒径を必要以上に大きくせざるを得なかった。本発明では、オフセット印刷法を用いるため、粒径が小さい黒色粉末の使用が可能になり、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することができる。しかし、使用するガラス粉末との粒径差から生じる不具合により、形成後の黒色膜における、基板への密着不良及び遮蔽率低下が問題となる。本発明によれば、黒色酸化物粉末の含有量を10〜50質量%、ガラス粉末の含有量を5〜30質量%とすることで、オフセット印刷に適した黒色ペースト組成物ができる。また、黒色酸化物粉末及びガラス粉末の平均粒径をそれぞれ0.05〜0.5μmの範囲内にすることで、微細なパターンの黒色膜を形成することができる。更に、黒色ペースト組成物中の黒色酸化物粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径とガラス粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径との差を0.25μm以下、かつ黒色酸化物粉末とガラス粉末の分布曲線における半値幅の差を0.3μm以下とすることで、粒径差の小さい黒色酸化物粉末とガラス粉末を多く含む黒色ペースト組成物ができるため、組成が均一で遮蔽率が高い黒色膜を形成することができる。
従来の製造工程に使用されていたフォトリソグラフィ法では所望の面全体にペースト組成物を塗布してから露光し、不必要な部分を後工程で廃棄し除去していたが、本発明ではオフセット印刷法により黒色膜を形成するため、必要な部分にのみペースト組成物を塗布すればよいため、材料の利用効率向上の効果が得られる。また、フォトリソグラフィ法における塗布、露光、現像といった煩雑な工程を踏む必要がなく、製造工程を簡略化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
本発明の黒色ペースト組成物は、図1に示すように、PDP10を構成するフロントガラス基板11上にオフセット印刷法により黒色膜16b、24を作製するために使用される。本発明の黒色ペースト組成物は、10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含むように構成され、黒色酸化物粉末の平均粒径及びガラス粉末の平均粒径がそれぞれ0.05〜0.5μmの範囲内にあり、黒色酸化物粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径とガラス粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径の差が0.25μm以下であり、かつ黒色酸化物粉末とガラス粉末の分布曲線における半値幅の差が0.3μm以下であることを特徴とする。
【0022】
従来の製造工程では、感光性ペーストをフォトリソグラフィ法により露光し硬化させていたため、露光の光を通過させるための隙間を確保するために、粒径がミクロンオーダーからサブミクロンオーダーの範囲内の黒色酸化物粉末を用いる必要があったが、本発明ではオフセット印刷法を用いるため、従来技術で使用されるものよりも粒径の小さい黒色酸化物粉末の使用が可能となり、より高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することができる。しかし、市販されているガラス粉末との粒径差から、形成後の黒色膜にポアと呼ばれる空間ができるため、形成後の黒色膜の基板への密着不良、及び遮蔽率低下の不具合が生じる。本発明では、黒色酸化物粉末及びガラス粉末の平均粒径を0.05〜0.5μmの範囲内とし、更に黒色酸化物粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径とガラス粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径との差及び黒色酸化物粉末とガラス粉末の半値幅の差を規定する。そのことにより、粒径差の小さい黒色酸化物粉末及びガラス粉末を多く含ませることでき、十分な密着性及び遮蔽率を有するファインなパターンの黒色膜を形成することができる。
【0023】
なお、本発明で使用される黒色酸化物粉末及びガラス粉末の平均粒径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−950)にて測定し、粒子径基準を個数として演算した50%平均粒子径(D50)をいう。このレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置による個数基準平均粒径の値は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S−4300SE及びS−900)により観察した画像において、任意の50個の粒子について粒径を実測したときのその平均粒径とほぼ一致する。
【0024】
また黒色酸化物粉末及びガラス粉末の分布曲線におけるピーク値とは、上記レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製 LA−950)により求められた、縦軸を個数基準平均の分布度数(%)、横軸を粒径(μm)としたそれぞれの分布曲線において、分布度数(%)の最大値をいう。
【0025】
例えば、図2は、上記測定装置により求められた、本発明者が当初使用していた黒色ペースト組成物中に含まれる黒色酸化物粉末の粒径の分布曲線(X)及びガラス粉末の粒径の分布曲線(Y)を模式的に表している。また図3は、黒色酸化物粉末31及びガラス粉末32が図2の曲線で示される分布を持つときの黒色膜30の組成を模式的に表したものである。この本発明者が当初使用していた黒色ペースト組成物に含まれるガラス粉末32の粒径は黒色酸化物粉末31よりも大きく、粒径差も大きい。一方、図4は、上記測定装置により求められた、本発明で規定した範囲を満たすように調整した黒色ペースト組成物における黒色酸化物粉末31の粒径の分布曲線(X)及びガラス粉末32の分布曲線(Y)を模式的に表している。また図5は黒色酸化物粉末31及びガラス粉末32が図4の曲線で示される分布を有するときの黒色膜30の組成を表したものである。
【0026】
黒色酸化物粉末31の分布曲線におけるピーク(A)が示す粒径pとガラス粉末32の分布曲線におけるピーク(B)が示す粒径qの差をkとするとkは下式(1)で表される。
k=|q−p| (1)
また、黒色酸化物粉末31の分布曲線(X)において、p点における度数の半分の値をとる2点であるa点とb点の粒径差を半値幅rとし,ガラス粉末32の分布曲線(Y)において、q点における度数の半分の値をとる2点であるc点とd点の粒径差を半値幅sとすると、半値幅の差lは下式(2)で表される。
l=|r−s| (2)
但し、r=b−a,s=d−cである。
本発明の組成物ではk又はlが次の式(3),式(4)を満たすように調整される。
k≦0.25 (3)
l≦0.3 (4)
上記式(3),式(4)のいずれかを満たさない場合、図3に示すように、形成される黒色膜30には粒径差の大きい黒色酸化物粉末31とガラス粉末32を多く含むため、ポア33と呼ばれる空間ができ、それが原因となり基板への密着不良や遮蔽率低下の不具合を引き起こす。
【0027】
本発明の組成物では、黒色酸化物粉末及びガラス粉末の平均粒径が0.05〜0.5μmの範囲内にあり、kが式(3)を満たし、かつlが式(4)を満たすので、図5のように、形成される黒色膜30には粒径差の小さい黒色酸化物粉末31とガラス粉末32を多く含むため、ポア33ができにくく、組成が均一になるため、基板への密着性、及び遮蔽率の高い黒色膜の形成ができる。このうちkが0〜0.15で、lが0〜0.2の範囲であることが好ましい。
【0028】
黒色酸化物粉末はCo、Cr、Cu、Mn、Fe及びNiからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属元素を含む金属酸化物又はこれらの複合酸化物であることが好ましい。このうち、Co34やFe,Mn,Cu複合酸化物、Cu,Cr,Mn複合酸化物が特に好ましい。黒色酸化物粉末の平均粒径は0.05〜0.5μmの範囲とし、このうち黒色酸化物粉末の平均粒径は0.05〜0.3μmの範囲内であることが好ましい。0.05μm未満では、粒子の比表面積が高くなり、ペースト化した際にチキソトロピー性を発現するため、印刷時の形状が乱れる不具合が生じ、0.3μmを越えると、粒子径が大きいために黒色酸化物粉末が密に集まらず、形成される黒色膜の遮蔽率が低くなりやすい。黒色酸化物粉末が上記範囲の平均粒径であれば、オフセット印刷法に適し、高密度の遮蔽率の高い黒色膜を作製するのに好適なペースト組成物とすることができる。
【0029】
ガラス粉末は、酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の酸化物を含む400〜550℃の軟化点を有するフリットガラスであることが好適である。フリットガラスの軟化点は450〜550℃が好ましい。軟化点を上記範囲内としたのは、軟化点が下限値未満のフリットガラスでは、ガラス粉末がペースト組成物中の有機系ビヒクルを構成するバインダ樹脂の脱バインダを妨げてしまい、この黒色ペースト組成物を用いて作製した黒色膜は、抵抗値が上昇してしまう不具合を生じるためである。また、軟化点が上限値を越えるフリットガラスでは、ガラス粉末がガラス基板との間の十分なアンカーを与えることができないためである。また、ガラス粉末の平均粒径は0.05〜0.5μmとする。0.05μm未満では粒子の比表面積が高くなり、ペースト化した際にチキソトロピー性を発現し、印刷時の形状が乱れる不具合があり、0.5μmを越えると、ガラス粉末に起因するポアが層内にできるため、基板への密着性が低下する不具合が生じるからである。このうち、ガラス粉末の平均粒径は0.05〜0.3μmの範囲であることが好ましい。具体的には、PbO−B23−SiO2、ZnO−B23−SiO2、PbO−B23−SiO2−Al23、PbO−ZnO−B23−SiO2、PbO−B23−SiO2−Al23−ZnO、PbO−B23−SiO2−CaO、B23−ZnO−Bi23、B23−Bi23、B23−ZnO、Bi23−B23−SiO2、ZnO−P25−SiO2、P25−B23−Al23、ZnO−P25−TiO2などの組み合わせが挙げられる。
【0030】
有機系ビヒクルとは、アルカリ可溶性樹脂を有機溶剤に溶解することにより調整されることが好ましい。黒色酸化物粉末及びガラス粉末の分散性向上のための分散剤や、ペースト粘度調整のための粘度調整剤等を必要に応じて加える。本発明に係る黒色ペースト組成物は、先ず黒色酸化物粉末とガラス粉末と溶剤とを混合し、得られた混合物をビーズミルを使用することで、混合物中の黒色酸化物粉末とガラス粉末を同時に粉砕し、次に混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合することにより作製される。この場合の有機系ビヒクルとは、液状のアクリル系樹脂と溶剤のことをいう。液状のアクリル系樹脂の代わりに固体のアクリル系樹脂を使用する場合には、先ず黒色酸化物粉末とガラス粉末、及び後工程で固体のアクリル系樹脂を溶解する溶剤の一部を混合する。次に得られた混合物をビーズミルを使用することで、混合物中の黒色酸化物粉末とガラス粉末を同時に粉砕する。その後、混合物に固体のアクリル系樹脂を溶剤で溶かした液状物を添加混合して作製される。この場合の有機系ビヒクルとは、固体のアクリル系樹脂を溶剤で溶かした液状物のことをいう。
【0031】
本発明の黒色膜の製造方法は、上記黒色ペースト組成物を用いてオフセット印刷法により基板上に黒色膜を作製することを特徴とする。従来の製造工程では、感光性ペーストをフォトリソグラフィ法により露光し硬化させていたため、露光の光を通過させるための隙間を確保するために、黒色粉末の粒径に必要以上の大きさを持たせる必要があったが、本発明ではオフセット印刷法を用いるため、従来技術で使用されるものよりも粒径の小さい黒色粉末の使用が可能となり、より高密度で遮蔽度の高い黒色膜を形成することができる。また、オフセット印刷法に適した本発明の黒色ペースト組成物を用いることにより、オフセット印刷によるライン乱れのない、良好なペースト形状を保持したファインなパターンの黒色膜を形成することができる。更に、従来の製造工程に使用されていたフォトリソグラフィ法では所望の面全体にペースト組成物を塗布してから露光し、不必要な部分を後工程で廃棄し除去していたが、本発明ではオフセット印刷法により黒色膜を形成するため、必要な部分にのみペースト組成物を塗布すればよいため、材料の利用効率向上の効果が得られる。また、フォトリソグラフィ法における塗布、露光、現像といった煩雑な工程の代わりに工程数を少なくすることができる。更に、オフセット印刷法では黒色層形成後、この形成した未焼成の黒色層上に白色層を形成した後に、黒色層及び白色層の2層を同時に焼成することが可能であるため、製造工程を簡略化することができる。
【0032】
次に、本発明の黒色膜の製造方法を用いて、PDP用前面基板を作製する方法を説明する。
先ず、図6(a)に示すような、フロントガラス基板11を用意し、図6(b)に示すように、フロントガラス基板11に透明電極23を形成する。ここで形成する透明電極23は、プラズマ放電に必要であり、かつ発光の妨げにならないように透明な材質で形成される。具体的には、透明電極23はITO(Indium Tin Oxide)やSnO2等の酸化膜が使用され、スパッタリング、蒸着等の真空成膜法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成される。
【0033】
次いで、図6(c)に示すように、形成した透明電極23上に、本発明の黒色ペースト組成物をオフセット印刷法により塗布、焼成することにより、黒色層16bを形成する。本発明の方法では、オフセット印刷法により塗布膜を形成するため、より小さい粒径の黒色粉末を用いることができ、高密度で遮蔽率が高い黒色膜を形成することができる。続いて、図6(d)に示すように、形成した黒色層16b上に、AgやAu、Pt、Pd等の導電性粉末を含有する導電性の高い白色系導電性ペーストを塗布、焼成することにより白色層16aを形成する。これにより黒色層16b及び白色層16aから構成されるバス電極16が形成される。
なお、本発明の黒色ペースト組成物をオフセット印刷法により塗布して黒色層16bを形成し、続いて、白色系導電性ペーストをオフセット印刷法により塗布して黒色層16bの上に白色層16aを形成し、この黒色層16bと白色層16aを同時に焼成することにより黒色層16b及び白色層16aから構成されるバス電極16を形成することもできる。このような方法では、重ねた2層の塗布膜を同時に焼成するため、工程の短縮化を図ることができる。
【0034】
次に、図6(e)に示すように、透明電極23及びバス電極16を覆うように、フロントガラス基板11の全面に透明誘電体層21を形成する。透明誘電体層21は電極の保護と放電時に誘電体層表面に壁電荷を形成してメモリ機能を持たせるために形成するものである。この透明誘電体層21は、バス電極16上に20〜40μmの厚みとなるように形成される。
【0035】
次に、図7(a)に示すように、形成した透明誘電体層21の上に、本発明の黒色ペースト組成物をオフセット印刷法により塗布、焼成することにより、ブラックストライプ24を形成する。ブラックストライプ24を形成することで、外光反射率が低下し、コントラストが改善される。本発明の方法では、オフセット印刷法により塗布膜を形成するため、より小さい粒径の黒色粉末を用いることができ、高密度で遮蔽率の高い黒色膜を形成することができる。
【0036】
次に、図7(b)に示すように、透明誘電体層21の上に、ブラックストライプ24と同じ高さになるように、カラーフィルタ22を形成する。続いて、図7(c)に示すように、カラーフィルタ22及びブラックストライプ24の上に、透明誘電体層21を形成する。更に、図7(d)に示すように、透明誘電体層21の上に、保護膜19を形成する。
保護膜19を形成するのは、放電によるイオン衝撃で誘電体層がダメージを受け、パネル寿命が短くなるのと、プラズマ放電に必要な二次電子放出の効率が悪いため、放電電圧が高くなるのを防ぐためである。保護膜19はMgOが使用され、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングによって形成することができる。
【0037】
以上、図6(a)〜図7(d)の各工程を経ることにより、PDP用の前面基板が得られる。
【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物をビーズミル(アシザワファインテック製 MINICER)を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を15質量%、ガラス粉末を15質量%、アルカリ可溶性樹脂を30質量%、溶剤を40質量%とした。
【0039】
<実施例2>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を20質量%、ガラス粉末を10質量%、アルカリ可溶性樹脂を40質量%、溶剤を30質量%とした。
【0040】
<実施例3>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を25質量%、ガラス粉末を5質量%、アルカリ可溶性樹脂を30質量%、溶剤を40質量%とした。
【0041】
<実施例4>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を30質量%、ガラス粉末を10質量%、アルカリ可溶性樹脂を20質量%、溶剤を40質量%とした。
【0042】
<比較例1>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、黒色酸化物粉末、ガラス粉末、溶剤及び液状のアクリル系樹脂を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を15質量%、ガラス粉末を15質量%、アルカリ可溶性樹脂を30質量%、溶剤を40質量%とした。
【0043】
<比較例2>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を20質量%、ガラス粉末を10質量%、アルカリ可溶性樹脂を40質量%、溶剤を30質量%とした。
【0044】
<比較例3>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を8質量%、ガラス粉末を32質量%、アルカリ可溶性樹脂を35質量%、溶剤を25質量%とした。
【0045】
<比較例4>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を55質量%、ガラス粉末を3質量%、アルカリ可溶性樹脂を22質量%、溶剤を20質量%とした。
【0046】
<比較例5>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を15質量%、ガラス粉末を15質量%、アルカリ可溶性樹脂を30質量%、溶剤を40質量%とした。
【0047】
<比較例6>
次の表1に示す黒色酸化物粉末、ガラス粉末、アルカリ可溶性樹脂及び溶剤を用意し、先ず、黒色酸化物粉末、ガラス粉末及び溶剤を混合し、得られた混合物を実施例1と同じ装置を用いて、混合物中に含まれる黒色酸化物粉末及びガラス粉末を同時に粉砕した。次に、この混合物に液状のアクリル系樹脂を添加混合して黒色ペースト組成物を作製した。このときの黒色ペースト組成物の各成分の含有割合は、黒色酸化物粉末を15質量%、ガラス粉末を15質量%、アルカリ可溶性樹脂を30質量%、溶剤を40質量%とした。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

<比較試験及び評価>
実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた黒色ペースト組成物中に含まれる、黒色酸化物粉末及びガラス粉末の平均粒径を測定し、ピーク値の差 kと半値幅の差lを求めた。その結果を次の表3に示す。
【0050】
【表3】

また、実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた黒色ペースト組成物を用いて、以下のオフセット印刷性、黒色度及び密着性についての評価を行った。その結果を次の表4に示す。
【0051】
(1) オフセット印刷性:黒色ペースト組成物をオフセット印刷機(日本電子精機社製)でガラス基板上に印刷した際の転写性等をオフセット印刷性として評価した。オフセット印刷性の具体的な評価は、黒色ペースト組成物がブランケットからガラス基板上に転写される際に、ライン形状に乱れが無く、100%転写され、ブランケットに残留ペーストがない状態を「良好」の評価とし、ライン形状に一部、にじみや乱れが確認されるも、ブランケット上には残留ペースト組成物が無く100%転写できた場合を「可」の評価として、大きな形状乱れや印刷斑、欠損箇所などが確認されたり、ブランケット上に転写できないペーストが残留した場合を「不可」の評価とした。
【0052】
次に、実施例1〜4及び比較例1〜6で得られた黒色ペースト組成物をスクリーン印刷法によりガラス基板上に塗布し、この塗布膜を580℃で30分間焼成して黒色膜を形成した。形成した黒色膜について、以下の黒色度及び密着性についての評価を行った。その結果を次の表3に示す。
【0053】
(2) 黒色度:形成した黒色膜について、カラーコンピュータ(スガ試験機社製)を用いて黒色度を測定した。具体的には、XYZ系色差を測定した際の黒色度を表すY値を求めた。なお、Y値が小さいほど黒色度が高いことを意味する。
【0054】
(3) 密着性:形成した黒色膜について、JIS−K5400に準拠した碁盤目テープテスト法により、黒色膜の密着性を評価した。密着性の具体的な評価は、碁盤の目テープテストを実施した際に、テープ側の黒色膜が転写されず、ガラス基板上に黒色膜が100%密着している場合を「良好」の評価とし、テープとガラス基板の両方に黒色膜が内部破壊を起こして付着した場合を「可」の評価とし、テープ側に多くの黒色膜が付着し、薄利後の界面にガラス基板が観察された際を「不可」の評価とした。
【0055】
【表4】

表4から明らかなように、実施例1〜4と比較例1を比較すると、すべての評価項目において比較例1よりも優れた値を示した。このことから、ピーク値の差kが0.25以下であることが効果的であることが確認された。また、実施例1〜4と比較例2を比較すると、すべての評価項目において、比較例2よりも優れた値を示した。このことから、半値幅の差lは0.3μm以下であることが効果的であることが確認された。黒色酸化物粉末の含有割合が下限値である10質量%を満たさず、ガラス粉末が上限値である30質量%を越える比較例3では、良好な密着性は得られたものの、黒色度については、Y値が最も高い値を示し十分な黒色度が得られなかった。一方、黒色酸化物粉末の含有割合が上限値である50質量%を越え、ガラス粉末が下限値である5質量%に満たない比較例4では、遮蔽効果として十分な黒色度は得られたものの、密着性が不可となった。このことから、黒色酸化物粉末の含有割合は10〜50質量%、ガラス粉末の含有割合は5〜30質量%であることが効果的であることが確認された。黒色酸化物粉末の平均粒径とガラス粉末の平均粒径が0.05〜0.5μmの範囲内にない比較例5,6では、オフセット印刷性及び密着性がともに不可となった。このことから、黒色酸化物粉末の平均粒径とガラス粉末の平均粒径が0.05〜0.5μmの範囲内であることが効果的であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】PDPの放電セルを示す図。
【図2】本発明に関わる黒色酸化物粉末及びガラス粉末の粒径の分布曲線を模式的に表した図。
【図3】黒色酸化物粉末及びガラス粉末が図2の分布曲線を持つ場合の黒色膜の断面を模擬的に表した図。
【図4】本発明の規定外の黒色酸化物粉末及びガラス粉末の粒径の分布曲線を模式的に表した図。
【図5】黒色酸化物粉末及びガラス粉末が図4の分布曲線を持つ場合の黒色膜の断面を模擬的に表した図。
【図6】PDP用前面基板の製造工程の前段を示す図。
【図7】PDP用前面基板の製造工程の後段を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマディスプレイパネルを構成するフロントガラス基板上にオフセット印刷法により黒色膜を作成するための黒色ペースト組成物であって、
前記組成物が10〜50質量%の黒色酸化物粉末と、5〜30質量%のガラス粉末と、残部が有機系ビヒクルとを含み、
前記黒色酸化物粉末の平均粒径及び前記ガラス粉末の平均粒径がそれぞれ0.05〜0.5μmの範囲内にあり、黒色酸化物粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径とガラス粉末の分布曲線におけるピーク値が示す粒径との差が0.25μm以下であり、かつ黒色酸化物粉末とガラス粉末の分布曲線における半値幅の差が0.3μm以下であることを特徴とする黒色ペースト組成物。
【請求項2】
有機系ビヒクルは液状のアクリル系樹脂と溶剤の双方を含み、黒色酸化物粉末とガラス粉末と前記溶剤とを混合し、前記得られた混合物をビーズミルにて微粉砕した後、前記微粉砕した混合物に前記液状のアクリル系樹脂を添加混合してなる請求項1記載の黒色ペースト組成物。
【請求項3】
有機系ビヒクルは固体のアクリル系樹脂と溶剤の双方を含む液状物であり、黒色酸化物粉末とガラス粉末と前記溶剤の一部とを混合し、前記得られた混合物をビーズミルにて微粉砕した後、前記微粉砕した混合物に前記固体のアクリル系樹脂を溶剤で溶解した液状物を添加混合してなる請求項1記載の黒色ペースト組成物。
【請求項4】
黒色酸化物粉末がCo、Cr、Cu、Mn、Fe及びNiからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属元素を含む金属酸化物又は複合酸化物である請求項1記載の黒色ペースト組成物。
【請求項5】
ガラス粉末が酸化鉛、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化リン、酸化カルシウム及び酸化チタンからなる群より選ばれた1又は2以上の酸化物を含む450〜550℃の軟化点を有するフリットガラスである請求項1記載の黒色ペースト組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の黒色ペースト組成物を用いてオフセット印刷法により基板上に黒色膜を作成することを特徴とする黒色膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−255346(P2008−255346A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62020(P2008−62020)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】