説明

鼻洞薬物送達用エーロゾル剤

【課題】活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むのに適したエーロゾル薬剤を提供する。
【解決手段】エーロゾルの圧力は一定ではなく、むしろ約10乃至90Hzの振動数で変動する。エーロゾル剤の特徴は更に、毎分約5リットル未満という少ない有効流量を示すことにある。エーロゾル剤は特に、鼻または副鼻腔を冒す病気、症状または状態、例えば急性及び慢性副鼻腔炎の予防、管理および治療に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーロゾル薬剤、およびそのようなエーロゾル剤を生成させるのに適した装置に関する。別の面では、本発明は、エーロゾル剤の治療的使用、並びにエーロゾル剤を生成させる方法および患者へのエーロゾル剤の投与方法にも関する。エーロゾル剤は、鼻腔および副鼻腔を含む気道内の選択的領域に、薬剤物質を送り込むのに適している。
【背景技術】
【0002】
ヨーロッパおよび合衆国を含む世界の多数の国々や地域では、副鼻腔または鼻腔と副鼻腔両方を冒す病気や疾患、特には鼻副鼻腔炎の急性及び慢性型が、益々発生し流行し続けている。これらの病気は、重い症状に結び付いて生活の質や日常の機能に負の影響を与えることがある。
【0003】
鼻腔に薬物を送り込むのに最も普通に用いられている方法は、スクィーズボトル、または一作動当り50乃至140μlの容量を霧状にする計量スプレーポンプである。だが、スプレーポンプで投与した液滴の生体内付着パターンを調べた研究では、局所分布は主に鼻腔の前方部分にあって、鼻腔の大部分は薬物に接触しないままであることが示されている(非特許文献1参照)。さらに、通常は平均クリアランス時間が10から20分の間で容認されているが、鼻用ポンプスプレーで適用した薬物は鼻から極めて迅速に消失する(非特許文献2参照)。鼻の迅速なクリアランス率、およびこれらの欠点を溶液粘度の増加により克服することの難しさについては、非特許文献3にも記載されている。ただし、それらの試みは、薬物が鼻に留まるのを改善して、滞留時間、投与量の50%を消失するのにかかる時間を2.2時間まで延ばすのに成功したにすぎない。従って、滞留時間を増やす方法による鼻及び副鼻粘膜の有効な治療が要求され続けている。鼻腔の粘膜は、鼻用スプレー液として配合された局所投与薬物の実施可能な標的であるが、一方、副鼻腔や洞口鼻道系には液体配合物は容易に行き届かない。従来の鼻用スプレー液のような比較的粗いエーロゾル剤の場合には、副鼻腔粘膜への付着は無視できるほどであり、またネブライザ(噴霧器)で発生したもののようなもっと微細なエーロゾル剤であっても、副鼻腔付着は非常に低い程度である。
【0004】
吸入されたエーロゾル剤の副鼻腔への到達が不充分である主な理由は、解剖学的なものである:鼻腔とは反対に、洞口鼻道系や副鼻腔は積極的に空気を通すことがない。後者の副鼻腔は、洞口と呼ばれる小さい開口部を介して鼻道につながっていて、その直径は一般に僅か約0.5乃至2mmの範囲にある。空気が鼻から吸入されて鼻道を通って気管に入るとき、非常に僅かな対流する流れしか洞口に入らない。
【0005】
エーロゾル剤を洞口鼻道系および副鼻腔に送り込むのに、より効果的な装置及び方法に対する要求を処理するために、特許文献1には、エーロゾル化した薬配合物の大部分が鼻腔深部および副鼻腔に達するためには、一定の粒子径と渦度特性を達成しなければならないとの示唆がある。
【0006】
さらに、特許文献2には、ネブライザおよび振動する空気流をネブライザに送り込む圧縮器とを含むエーロゾル発生器が開示されている。この文献には更に、ネブライザから放出されたエーロゾル剤は、適切なノーズピースを介して一方の外鼻孔から吸入されるべきで、もう一方の外鼻孔は適切な装置で閉じられるべきであると記載されている。
【0007】
しかし、これら先行技術の教示は、実際には大部分の活性薬剤の鼻洞粘膜への付着を保証するものではなく、装置の実際の構造とエーロゾル剤の特性に依存することを、本発明者は見い出した。
【0008】
特許文献3の教示によって更なる実質的な改良が行なわれ、それによれば、圧力変動を少なくとも約5mbarなどの一定の振幅で維持することが保証されれば、振動するエーロゾル剤の鼻洞付着を著しく増大させることができるとされている。
【0009】
それにもかかわらず、如何なるエーロゾル剤であれ、今日知られている方法で鼻洞の標的領域に送り込むことができるのはその一部でしかないので、鼻洞粘膜に付着する活性薬剤の比率を増加させ、それにより鼻洞疾患や病気の改良された、より選択的な治療手段をもたらす技術改善、に対する要求が依然としてある。さらに、クリアランスを低減して薬物の標的部位での滞留時間を延ばす要求も依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2005/023335号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/020029号パンフレット
【特許文献3】欧州特許第1820493A2号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】サマン(Suman)、外著、「ネブライザと水性スプレーポンプで発生させたエーロゾル剤の鼻付着及びクリアランスの比較」、ファーマスーティカル・リサーチ(Pharmaceutical Research)、第16巻、第10号、1999年
【非特許文献2】C.マリオット(C. Marriott)著、「ステロイド類の1日1回鼻送達:鼻はだまされるか?」、RDDヨーロッパ2007年(RDD Europe 2007)、会報、p.179−185
【非特許文献3】ペニントン(Pennington)、外著、「鼻噴霧付着及びクリアランスに対する溶液粘度の影響」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティクス(Intern. Journal of Pharmaceutics)、第43号、p.221−224、1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、副鼻腔または鼻腔と副鼻腔両方の粘膜に活性化合物を送り込むのに有用な改良エーロゾル薬剤を提供することにある。また、本発明の目的は、そのようなエーロゾル剤を生成させる方法を提供することにもある。
【0013】
特には、本発明の目的は、エーロゾル剤の送達により鼻洞粘膜に付着する活性薬剤の比率を高めること、そして活性薬剤のその標的部位での滞留時間を延ばすことにある。それ以上の目的は、以下の記述および特許請求の範囲に基づいて明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一面では、本発明は、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を生成させる方法を提供する。エーロゾル剤は分散液相と連続気相とからなる。その方法には次の工程が含まれる:(a)エーロゾル剤を、毎分約5リットル未満の有効流量で放出するように調整したエーロゾル発生器を用意する工程、(b)エーロゾル剤の圧力変動を、約10乃至約90Hzの範囲の振動数でもたらす手段を用意する工程、(c)上記活性化合物を含む液体組成物であって、単位用量の活性化合物が、約5ml未満の容量の上記液体組成物に含まれる液体組成物を用意する工程、そして(d)該液体組成物を霧状にして約5リットル/分未満の有効流量のエーロゾル剤にするために、上記エーロゾル発生器を作動させ、同時に上記手段を作動させて、エーロゾル剤の圧力変動を約10乃至約90Hzの範囲の振動数でもたらす工程。
【0015】
特定の態様では、その方法は、エーロゾル剤を毎分約3リットル以下の有効流量で放出するエーロゾル発生器を用いて実施される。有用なエーロゾル発生器には、超音波ネブライザおよび電子振動膜ネブライザからなる群より選ばれたネブライザが含まれる。エーロゾル剤の圧力変動をもたらす手段は、圧力変動の振幅を少なくとも約5mbar、又は少なくとも約10mbarで維持することができるならば、特に有用である。
【0016】
別の面では、本発明は、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を提供する。エーロゾル剤は分散液相と連続気相とからなる。エーロゾル剤の圧力は、約10乃至約90Hzの範囲の振動数で変動する。また、エーロゾル剤は少ない有効流量によっても特徴付けられる。特には、有効流量は毎分約5リットル未満である。
【0017】
活性化合物は、様々な治療的範疇から選ぶことができ、例えば任意の抗炎症化合物、抗アレルギー薬、抗生物質、抗体、抗真菌薬、抗感染症薬、抗酸化薬、防腐薬、抗ウイルス薬、細胞増殖抑制薬、うっ血除去薬、遺伝子、糖質コルチコイド類、免疫刺激剤、ロイコトリエン桔抗薬、局所麻酔薬、粘液溶解薬、オリゴヌクレオチド類、ペプチド類、植物エキス類、蛋白質、ワクチン、ビタミン類、および創傷治療薬から選ぶことができる。
【0018】
また別の面では、本発明は、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を発生させる装置を提供する。この装置は、エーロゾル剤を約5リットル/分未満の有効流量で放出するように調整されたエーロゾル発生器、およびエーロゾル剤を約10乃至約90Hzの範囲の振動数で圧力変動させる手段を含んでいる。
【0019】
特定の態様では、エーロゾル発生器は、エーロゾル剤を約3リットル/分以下の有効流量で放出するように調整されている。任意にエーロゾル発生器は、超音波ネブライザおよび電子振動膜ネブライザからなる群より選ばれたネブライザを含む。
【0020】
本発明のエーロゾル剤および装置は、任意の下部もしくは上部の気道疾患、または任意の下部もしくは上部の気道疾患により引き起こされる任意の症状もしくは状態の予防、管理又は治療のために使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
上述した本発明の方法、エーロゾル剤および装置は、鼻腔及び/又は副鼻腔内で活性化合物の高度の付着をもたらすことができる。従って、鼻、副鼻腔及び/又は洞口鼻道系を冒す任意の病気、症状又は状態、具体的にはぜん息、急性及び慢性の副鼻腔炎、例えばアレルギー性副鼻腔炎、季節性副鼻腔炎、細菌性副鼻腔炎、真菌性副鼻腔炎、ウィルス性副鼻腔炎、前頭洞炎、上顎骨洞炎、蝶形骨洞炎、篩骨洞炎、真空副鼻腔炎;急性及び慢性鼻炎、例えばアレルギー性鼻炎、季節性鼻炎、細菌性鼻炎、真菌性鼻炎、ウィルス性鼻炎、萎縮性鼻炎、血管運動性鼻炎;鼻炎と副鼻腔炎の任意の組合せ(すなわち、鼻副鼻腔炎);鼻ポリープ、鼻フルンケル、鼻出血、鼻又は鼻洞粘膜の創傷、例えば外傷又は手術後のもの;および鼻乾燥症侯群;下部気道疾患により引き起こされる鼻又は鼻洞の状態、例えば嚢胞性繊維症の予防、管理又は治療に使用することができる。また、ワクチン、抗体および遺伝子の投与にも使用することができる。
【0022】
特には本発明は、クリアランスを低減して薬物の標的部位での滞留時間を増加させることにより、鼻及び鼻傍治療の改善をもたらす。より大部分の投与量を標的部位に送達でき、また最近確立された治療養生法に比べて薬物がずっと緩やかに消失するから、投与頻度を減らすことができるので、この特徴には大きな利点がある。
【0023】
本発明の更なる態様については、以下の詳細な記述、実施例および特許請求の範囲に基づいて明らかになろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一面では、本発明は、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むための、分散液相と連続気相とからなるエーロゾル薬剤を提供する。エーロゾル剤の圧力は、約10乃至約90Hzの範囲の振動数で変動する。また、エーロゾル剤は少ない有効流量によっても特徴付けられる。特には、有効流量は毎分約5リットル未満である。
【0025】
エーロゾルは、固相または液相が気相に分散している分散物である。分散相は、非連続相とも呼ばれるが、多数の固体又は液体粒子から構成される。一般的に分散相の粒子径は約100μm未満であり、通常はそれよりかなり小さい。基本の物理的タイプのエーロゾルは両方とも、すなわち気相中の固体分散物も液体分散物も、エーロゾル薬剤として使用することができる。気相中の固体粒子を表すエーロゾル剤の例としては、乾燥粉末吸入器(DPI’s)が放出するものがある。逆に、加圧定量吸入器やネブライザは、分散相が液体であるエーロゾル剤を送り出す。
【0026】
本発明によれば、エーロゾル剤は分散液相と連続気相とからなる。そのようなエーロゾル剤は、ときには「液体エーロゾル剤」とも呼ばれ、おそらくは、より適切にはエーロゾル化した液体である。分散液相という要求条件は固相の存在を排除するものではないことに留意されたい。特には、分散液相自体が、固体粒子が液体に懸濁した懸濁液のような分散液を表していてもよい。
【0027】
連続気相は、薬学的に許容できる任意の気体または気体混合物から選ぶことができる。例えば気相は、単に空気であっても圧縮空気であってもよく、エーロゾル発生器としてネブライザを用いる吸入療法では最も一般的なものである。あるいは、酸素濃度を高めた空気または窒素と酸素の混合物など、他の気体および気体混合物も使用することができる。連続気相として最も好ましいのは空気の使用である。
【0028】
活性化合物は、動物、特にはヒトの病気、疾患または症状の診断、予防、管理または治療に有用である、天然の、生物工学により誘導された、もしくは合成された化合物、またはそれらの化合物の混合物である。活性化合物の同意語として使用できる他の用語としては、例えば活性成分、活性薬剤成分、薬剤物質および薬物等を挙げることができる。
【0029】
本発明のエーロゾル剤は、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのものである。副鼻腔は、頭蓋及び顔面の骨組織内にある四対の含気窩又は腔から構成されている。副鼻腔は、副鼻腔がその下に位置する骨組織によって名付けられた小グループに分けられる:(1)上顎洞、洞とも呼ばれ、眼の下で上顎骨内に位置している、(2)前頭洞、眼の上で額の骨組織内にある、(3)篩骨洞、鼻と眼の間で頭蓋後方に向かって位置している、および(4)蝶形骨洞、ほぼ頭蓋底の中心にある。副鼻腔の主要な機能は完全には明らかでないが、頭蓋前方の相対重量を減らし、吸い込んだ空気を肺に達する前に温めて潤し、音声の共鳴を増大させ、そしておそらくは顔の強打に対する緩衝剤になると思われる。
【0030】
鼻腔および副鼻腔は粘膜で覆われている。粘膜又は粘液膜は、粘液で覆われた上皮内張りである。鼻腔および副鼻腔の粘膜はしばしば、アレルギーや感染症などの疾患によって冒されるが、本発明のエーロゾル剤は、これら粘膜に治療上有用な活性薬剤を送り込む改良手段になる。
【0031】
本発明のエーロゾル剤の重要な特徴の一つは、エーロゾル剤が選択した振動数で変動又は振動することにある。本明細書で使用するとき、エーロゾル剤の変動とは、圧力の周期的変化と解釈される。変動は規則正しい、すなわち圧力ピーク間の時間間隔がおよそ一定であることが好ましい。圧力変動の振幅も、少なくともエーロゾル発生器からの変動エーロゾル剤の発生及び放出に関しては、相対的に一定であってよい。
【0032】
本明細書で使用するとき、エーロゾル発生器は、エーロゾル剤を発生させて放出することができる装置又は装置の組合せからなる。本発明における装置は、液体材料をエーロゾル化して分散液相にすることができる。一般に、そのような装置はネブライザと呼ばれている。装置の種類や型に応じて、本発明のエーロゾル発生器は圧縮器を必要としたり、もしくは含むことができる。言い換えれば、エーロゾル発生器は、エーロゾル剤を製造し放出して、ヒト患者のような動物にエーロゾル剤を投与するのに必要な完成装置又は集成装置として使用される。
【0033】
本発明によれば、エーロゾル剤の圧力は、約10Hz乃至約90Hzの範囲の振動数で変動する。また、更なる態様によれば圧力はそれぞれ、少なくとも約15Hz、少なくとも約20Hz、少なくとも約25Hz、又は少なくとも約30Hzの振動数で変動してもよい。同時に変動振動数はそれぞれ、約80Hz以下、約70Hz以下、約60Hz以下、または約55Hz以下であるように選択することができる。有用な振動の振動数の例は、約36Hz、約40Hz、および約44Hzである。
【0034】
振動するエーロゾル剤は、適切な粒子径を選ぶならば、鼻から吸入されたのち、圧力が実質的に一定である従来のエーロゾル剤よりもずっと多く副鼻腔に入ることが分かっている。粒子径が大きいほど副鼻腔への付着は少なくなるが、鼻粘膜への付着は大となり、一方、粒子径が非常に小さいと、エーロゾル液滴は圧力変動の圧力勾配に従って副鼻腔に入るが、付着せずに副鼻腔から再び出てしまうことにもなる。
【0035】
副鼻腔付着の増大のための、変動又は振動エーロゾル剤を発生させて適用する原理が、最近になって知られ、例えば欧州特許第0507707A1号明細書及び国際公開第2004/020029号パンフレットに記載されていて、その開示内容も全て参照内容として本明細書の記載とする。
【0036】
副鼻腔は、正常な環境では呼吸する間空気をあまり通さない。副鼻腔の空気交換の殆どは、洞口から空気の拡散により生じ、一方、対流は僅かしか、あるいは全く認められない。従来式ネブライザで発生した治療用エーロゾル剤のようなエーロゾル剤は、鼻から吸入されると、直径が適切に小さい粒子を含むならば、鼻腔を通って下部気道に流れることになる。実際に副鼻腔への積極的な流れが無いので、エーロゾル剤は副鼻腔に極僅かしか付着しないか、又はほぼ全く付着しない。
【0037】
反対に、振動するエーロゾル剤は、周期的な瞬間圧力勾配を作って、積極的に空気を通す鼻腔から洞口を通って副鼻腔まで達し、その勾配は、空気の短時間の対流を引き起こし、副鼻腔内の圧力が鼻腔の空気圧と等しくなるまでエーロゾル剤を副鼻腔に送る。このようにして副鼻腔に入ったエーロゾル剤液滴の一部は、そこで粘膜に付着する。エーロゾル剤が付着する程度は、例えば液滴径に依存する。例えば、1μm未満の液滴のような非常に小さい液滴はおそらく、エーロゾル圧力、よって鼻腔の圧力が副鼻腔内の圧力よりも低い次の変動相の間に、副鼻腔から排出され、そしてその間に副鼻腔から鼻腔への空気の対流が生じる。
【0038】
圧力振動は、それ自体知られている手段によって発生させることができる。例えば国際公開第2004/020029号パンフレットには、片側が薄膜で密閉された圧力室なる手段によって、そのような振動を発生させることができる装置が開示されている。薄膜をピストンの作動により前後に動かし、それにより周期的に圧力室の内部容積を増減して、それに対応した圧力変動を導く。出口を介して圧力変動を、例えばネブライザに伝え、そこでエーロゾル主流に重ね合わせることができる。あるいは、エーロゾル主流とは別に、例えばノーズピースにより外鼻孔の一方につないだ管を通して、圧力変動を患者に伝えることができ、一方、ネブライザから放出させたエーロゾル剤をもう一方の外鼻孔に導入する、これによっても同じ効果、すなわちエーロゾル剤の振動を生成させることができる。
【0039】
更なる態様では、エーロゾル剤の圧力は少なくとも約5mbarの振幅で変動する。個々の人間の鼻洞の解剖学的構造に応じて、例えば大きな副鼻腔容積によって、変動エーロゾル剤の圧力振幅が実質的に減衰しうることが分かっている。だが、この特定の態様に従って、個々の患者の解剖学的構造に関係なく、鼻腔内で測定して少なくとも5mbarの圧力振幅を維持するように調整した圧力変動をもたらす手段を使用する。あるいは、振動の振幅を、少なくとも約10mbar、又は少なくとも約15mbar、又は少なくとも約20mbar、又は少なくとも約25mbarのレベルで維持してもよい。有用な振幅のそれ以上の例としては、約20乃至約50mbar、又は約30乃至約50mbar、例えば約40mbarがある。50mbarより大きい振幅であっても、患者の不快さがある程度容認できると分かっているある種の患者及び適応症、例えば副鼻腔粘膜の重大な病気や疾患には有用であると言える。
【0040】
エーロゾル剤の変動を鼻腔に有効に伝えるためには、それぞれの患者に、適切な吸入技術を観察するように教えることが有益である。特に、外鼻孔を外気から密閉するノーズピースによって、エーロゾル剤を一方の外鼻孔から導入してもよい。エーロゾル主流自体を振動させるならば、鼻腔内における変動エーロゾル剤の大きな圧力振幅を維持するために、国際公開第2004/020029号パンフレットに記載されているように、外鼻孔出口に適当なノーズピースまたは鼻栓のような抵抗手段を付すことが有益である。あるいは、ネブライザから放出させたエーロゾル剤を振動させず、圧力変動を別個に患者に伝えるなら、外鼻孔を外気から密閉するノーズピースによっても、圧力変動を伝えることが有益である。こうして、エーロゾル剤を外鼻孔の一方に導入し、圧力変動をもう一方の外鼻孔より導入し、その結果、患者の上部気道内で振動するエーロゾル剤が生じる。また、エーロゾル剤が口腔に入るのを防ぐためには、エーロゾル剤を受ける人が軟口蓋を閉じることが推奨される。患者には、振動エーロゾル剤の投与の間その息を止めるようにはっきりと教えてもよい。
【0041】
本発明のエーロゾル剤の特徴は更に、毎分約5リットル未満の有効流量を示すことにある。驚くべきことには、本発明者は、少ない流量の選択が、呼吸系の鼻洞領域での高効率のエーロゾル剤の付着に寄与することを見い出した。特に、エーロゾル振動の原理と、少ないエーロゾル流量の使用との組合せの結果、従来形式のエーロゾル剤投与に比べて鼻洞付着の顕著な増加を生じさせることができる。
【0042】
本明細書で使用するとき、有効エーロゾル流とは、エーロゾル剤が、例えば外鼻孔からノーズピースによって患者の呼吸系に入るときのエーロゾル剤の流れと解釈される。例えば、正常な呼吸をする間、健康な大人は一般平均流量が毎分約15リットルの範囲内で空気を吸っている。
【0043】
殆どのジェットネブライザは、毎分約5リットル未満という少ない有効エーロゾル流量を与えるのに適していないことが認められる。ジェットネブライザは、そのエーロゾル発生原理に基づいて、ある作動閾値より多くなければならない空気または気体の供給を必要とする。一般に、この流量は圧縮器により供給される。先行技術では、エーロゾル剤が振動を伝える管に吸い込まれるのを防ぐために、圧力振動は、正味流量が正の振動空気流を通して、ジェットネブライザから放出されたエーロゾル主流に重ね合わされる。正味空気流量は、毎分約2リットルの範囲内にあってよいが、主エーロゾル剤の流量に加えて、前に定義した有効エーロゾル流量の推定値を得る。例えば、パリ・サイナス(PARI Sinus、商標)ジェットネブライザと圧縮器との組合せで発生する有効エーロゾル流量は、毎分およそ7リットルである。(A.ボーム(A. Boehm)、外著:薬物の副鼻腔送達の研究:鼻成形模型を用いた体外付着調査、プロシーディング・レスピラトリ・ドラッグ・デリバリーIX(Proceeding Respiratory Drug Delivery IX)、2004年、p.601−604)。
【0044】
本発明の更なる態様では、有効エーロゾル流量をそれぞれ、毎分約4.5リットル以下、及び毎分約3リットル以下であるように選ぶ。また、有効空気流量は、毎分約0.5乃至約4.5リットル、又は毎分約0.8乃至約4.5リットル、又は毎分約0.8乃至約3リットルの範囲にあってよく、例えば毎分約1、2、3又は4リットルである。そのような少ない有効流量を示すエーロゾル剤は、液体を霧状にするのに空気又は気体流を必要としないネブライザによって生成させることができる。例えば超音波ネブライザや電子振動膜ネブライザが、本発明を実施するのに適した装置である。
【0045】
特定の態様では、有効エーロゾル流が一定でないようなやり方でエーロゾル剤を供給する。変動エーロゾル流、例えば間欠的なエーロゾル流は、鼻洞領域の粘膜などの標的部位にエーロゾル化した薬剤を送り込むという要求と、その送達には本質的にエーロゾル流が必要であるが、エーロゾル剤の副鼻腔への導入および標的組織への付着を可能にするために、一旦上部呼吸系に達したら、エーロゾル剤の長い保持時間という要求とを調和させる代替手段である。この態様によれば、第一の時間ではエーロゾル剤をゼロより大きい第一有効流量で送り出し、その後に第二流量を用いる時間が続き、その第二流量は第一流量よりも実質的に少ないか、又は約ゼロですらある(すなわち、流れない)。これに関連して、「第一」及び「第二」流量という表現は単に、流量が独立に選択され、よって互いに異なっていてもよいが、必ずしも順序を明示するものではないことを意味する:勿論、エーロゾル剤を供給する初相が流量の少ない相で、その後に流量のより多い相が続くことも可能である。だが、流量の多い相の後に流量の少ない又はゼロの相が続くことが好ましい。
【0046】
例えば、エーロゾル流は間欠形態で供給することができ、エーロゾル流の相をエーロゾル流が非常に少ないか無い相で中断する。本発明によれば、少なくとも流量の少ない相は、前に明記したような有効流量、すなわち毎分約5リットル未満、特には毎分約4.5リットル未満、例えば毎分約0.5乃至約4.5リットル、又は毎分約0.8乃至約4.5リットル、又は毎分約0.8乃至約3リットルの範囲、具体的には毎分約1、2、3又は4リットルを示すことが必要である。一方、エーロゾル流の(多い)相は任意に、如何なる有用な有効エーロゾル流量を示してもよく、毎分5リットルより高い有効流量であっても可能である。ただし、多くの場合、実質的により少ない流量で足りる。特定の態様ではエーロゾル剤は、有効エーロゾル流が実質的に無い相と有効エーロゾル流が毎分約1乃至約10リットルの相とが交互に現われるようにする。
【0047】
変動エーロゾル流の場合には、エーロゾル流の(多い)相およびエーロゾル流が少ないか無い相の持続時間はそれぞれ、独立に選ぶことができる。エーロゾル流の(多い)相の持続時間は、鼻洞領域が、その容積は一般に大人で約15乃至30mlであるが、各エーロゾル流の相又は合間の後に、エーロゾル剤の別の一部で満たされることを保証する時間であってよい。これを遂行するために、相の持続時間をこの相中の有効流量を考慮して調整することができる。例えば、有効流量が毎分5リットルであるならば、25mlのエーロゾル剤を約0.3秒以内に送り出す。一方、有効流量が毎分0.5リットルであるならば、約3秒かかることになる。勿論、一相の流れの間に15乃至30mlより多い又は少ないエーロゾル剤を送り出すことも可能である。
【0048】
エーロゾル流が少ないか無い相の持続時間は、例えば約1ミリ秒乃至約10秒、又は約10ミリ秒乃至約3秒の範囲にあってよい。更なる態様では、持続時間は約0.1乃至約2秒、又は約0.5乃至約2秒である。持続時間は、エーロゾル流の(多い)相の持続時間と同じであっても、あるいはそれより短くても長くてもよい。特定の態様ではエーロゾル流が少ないか無い相の持続時間は、少なくともエーロゾル流の(多い)相の持続時間ぐらい長い。
【0049】
変動エーロゾル流の場合には、エーロゾル流が少ないか無い相とエーロゾル流の多い相両方の間中ずっと、エーロゾル剤が振動又は変動することは必須ではない。だが、少なくともエーロゾル流が少ないか存在しない相の幾つか又は全てのうちの一部分において、振動することが必要であると思われる。特定の態様の一つでは、エーロゾル剤は、有効エーロゾル流が実質的に存在しない相であって、その間エーロゾル剤の圧力が変動する相と、実質的にゼロではない有効エーロゾル流の相であって、その間エーロゾル剤が変動しない相とが交互に現われるようにする。別の特定の態様では、交互に起こる両相の間中エーロゾル剤の圧力が変動する。
【0050】
また、本発明の特徴を利用することによって、比較的少ない有効流量にもかかわらず、もしくは間欠エーロゾル流にもかかわらず、本発明のエーロゾル剤を効率良く送り出すことができることも、本発明者は見い出している。このことは、高密度のエーロゾル剤を使用する別の態様において特に真実である。本明細書で理解するとき、高密度のエーロゾル剤とは、容量で表しても質量で表しても、連続気相の容量当り分散液相の含有量が高いエーロゾル剤のことである。例えば、有用なエーロゾル剤を、少なくとも約0.05μl/ml、又は少なくとも約0.075μl/ml、又は少なくとも約0.1μl/ml、又はそれより高い密度、例えば約0.1乃至約1μl/mlの範囲の密度であるように選ぶことができる。これは、ジェットネブライザで発生する振動エーロゾル剤による鼻洞送達のための従来式噴霧とは著しく違っていて、ジェットネブライザでは一般に約0.03μl/ml未満の密度のエーロゾル剤になる。
【0051】
高密度のエーロゾル剤は、例えば振動孔あきメッシュ又は膜の原理を利用する最新の電子ネブライザ、例えばパリ・イーフロー(PARI eFlow、商標)によって発生させることができる。超音波ネブライザなどのある別のタイプのネブライザも、そのような密度の濃いエーロゾル剤を送り出すように調整することがおそらくは可能であるか、もしくは調整することができる。
【0052】
別の態様によれば、単位用量を含む液体の容量およびエーロゾル発生器の出力量を、単位用量の投与時間が約30分以下、より好ましくは約20分以下になるように選ぶ。別の態様によれば、投与時間はそれぞれ約15分以下、約12分以下、及び約10分以下、及び約5分以下である。例えば、特に少ない容量、好ましくは約2.5ml未満、例えば約2mlに、単位容量が含まれるように液体組成物を配合し、そしてエーロゾル発生器の出力量を特に高く、例えば少なくとも約0.2g/分にするなら、このような短い投与時間、また約3分又はそれ以下のようなもっと短い投与時間でも達成することができる。
【0053】
誤解を避けるために、普通の実施において、空気圧縮器で駆動するジェットネブライザなどのエーロゾル発生器では、一般にネブライザに死容積があるために、公称単位用量を完全にはエーロゾル化できないことが指摘されている。装置内の残留液体はしばしば、約0.5乃至約1mlの範囲にある。従って、エーロゾル化した液体の実際に放出される容量は、装置に注入された液体の容量より少なく、そして再度普通の実施によれば、活性成分の実際に放出される用量は、装置に注入された公称用量より少ない。従って、本明細書で単位用量を投与する好ましい持続時間に当る時間値は、装置内で残留分として失われる液体と薬剤物質の一部を除いて、実際に放出される単位用量配合物のその部分をエーロゾル化する持続時間を意味すると理解されたい。電子メッシュ及び/又は孔あき振動メッシュネブライザを使用すると、残留容量をほぼゼロに保つことができ、これが、0.1乃至2ml、しばしば0.3乃至1.2mlという少ない容量注入を有利に選ぶことができる理由である。
【0054】
また別の態様では、本発明のエーロゾル剤は分散液相の質量中央径(MMD)を、レーザー回折で測定したときに約2.0乃至約6μmの範囲で示す。質量中央径を測定できる各種の適切な分析装置が知られ、市販されてもいて、例えばマルバーン・マスターサイザーX(Malvern MasterSizer X、商標)や、マルバーン・スプレーテック(Malvern SprayTec、商標)がある。エーロゾル化した液体粒子又は液滴の幾何分布は、質量中央径と同時に測定することができて、液滴径分布の幅を表している。
【0055】
活性化合物の肺による系統だった吸収が望ましいような場合など、肺深部がエーロゾル剤送達の標的部位であるなら、質量中央径はかなり小さくあるべきで、例えば約3μm未満、又は約2μm未満であるが、一方、エーロゾル剤を鼻腔や副鼻腔に付着させるのに最も有用な径は、それより幾分大きいことが分かった。例えば、3乃至3.5μmの範囲のMMDは、肺送達にはあまり望ましいようには見えないが、副鼻腔送達には適している。さらに、比較的大量のエーロゾル剤付着に至るMMDは、個々の要因、特にはエーロゾル剤が副鼻腔に達するのに通る洞口を含む副鼻腔の構造に依存することも示唆されている。例えば、副鼻腔の容積や洞口の径は、個人個人で実質的に違っている。たとえ洞口および液滴の直径が全く異なる大きさであっても、直径の大きい洞口は、大きなエーロゾル液滴が副鼻腔に入るのに有利であると考えられる。エーロゾル剤による治療の対象となる人間の個々の鼻洞解剖学的構造、またはそこから引き出されるパラメータが少なくとも一部でも既知であるなら、鼻又は鼻洞送達を最大限に生かせる特定のMMDを選ぶことも可能である。ある態様では、本発明のエーロゾル剤の質量中央径は約2.5乃至4.5μmであってよく、別の態様ではそれぞれ約3乃至約4μm、又は約2.8乃至約3.5μmである。また別の態様では、MMDはおよそ(±0.2μm)2.8μm、3.0μm、3.2μm、3.4μm、3.6μm、3.8μm、又は4.0μmである。
【0056】
更なる態様では、本発明のエーロゾル剤のMMDの幾何標準偏差は、2未満から約3まで、例えば約2.3乃至2.7の範囲で選ぶことができる。
【0057】
本発明は、吸入に適した活性化合物を含む任意のエーロゾル化可能な液体を用いて実施できる。さらに、配合物は薬学的に許容できるように設計され、処理されるべきである。最も好ましくは、液体組成物はその包装容器から取り出されたときに無菌であるべきである。液体組成物の不活性成分も薬学的に許容できるべきである。
【0058】
分散液相の容量は、約5ml以下に単位用量の活性化合物が含有されるように選ぶことができる。特には単位用量を含むその容量は、約2.5ml未満であってよく、例えば約2ml、約1.5ml、約1ml、約0.5ml、又は約0.25mlである。
【0059】
液相5mlの投与が珍しくない肺のエーロゾル剤治療とは反対に、エーロゾル剤に含まれる薬物の大部分を鼻腔の粘膜及び副鼻腔に送り込むよりも充分な見込みは、比較的少ない容量を選ぶことで達成できることが分かった。理論にとらわれることを望まないが、この効果は、特には副鼻腔粘膜の、付着したエーロゾル剤を保持する限られた能力に関係していると考えられる。言い換えれば、標的粘膜に投与される液相の容量が大きいほど、エーロゾル剤のかなりの割合が、効果を発揮できる前に排出又は放出される可能性も高くなる。従って、容量が多ければ付着したエーロゾル剤の分布パターンを変える可能性がある:ある有益な又は望ましいパターンに従って、1mlなどの少ない容量の液相が鼻洞粘膜に付着するとすれば、そのようなパターンは容量が5ml以上に増えたら実質的に変化するかもしれない。
【0060】
別の好ましい態様では分散液相の容量は、約4ml又はそれ以下、3.5ml又はそれ以下、3ml又はそれ以下、2.5ml又はそれ以下、又は約0.25乃至約3mlの範囲、又は約0.5乃至約3mlの範囲、又は約1乃至約2.5mlの範囲にある。エーロゾル化する液相の容量を算出する際に、現在入手可能なエーロゾル発生器の多くは最大約1mlの死容積があり、その幾つかでは1mlを越えるので、一定容量のエーロゾル化液体を得るには、それより多い容量の液体を装置の液体供給部に注入しなければならないことに注意が必要である。
【0061】
液体組成物は勿論、更に賦形剤、例えば一種以上の溶媒、補助溶媒、酸、塩基、緩衝剤、浸透物質、安定剤、抗酸化剤、味覚マスキング剤、クラスレート又は錯体生成化合物、高分子、香味料、甘味料、イオン及び非イオン界面活性剤、増粘剤、着色剤、充填剤、および増量剤を含有していてもよい。
【0062】
組成物が吸入を意図するものであるなら、水以外の溶媒および補助溶媒はできるなら避けるべきである。溶媒の取込みが避けられないなら、賦形剤はその生理学的許容度を考慮して注意深く選ぶべきである。例えば、組成物が生命に関わる病気の治療に指定されるなら、非水性溶媒として限られた若干量のエタノール、グリセロール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールの使用を認めることができる。ただし、本発明のより好ましい態様によれば、組成物はこれらの溶媒、特にはグリセロール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールを実質的に含むことはない。
【0063】
耐容性の充分なエーロゾル剤とするために、製剤は、体水分の正常なpH値に調節されるべきである。「体水分の正常な」とは、これも薬学的要求と生理的要求とに相違があるので、例えば、製剤が経済的な観点からは貯蔵中はかろうじて足りるだけ安定であるが、一方では耐容性が極めて高いことを保証する妥協点を見つけなければならないことを既に暗に含んでいる。pH値は、僅かに酸性乃至中性の範囲、すなわち約3.5乃至8.5のpH値範囲にあることが好ましい。弱酸性環境にずれる方が、pH値がアルカリ性範囲に動くよりも大目に見ることができることに注意すべきである。約4.5乃至約7.5の範囲のpH値が特に好ましい。
【0064】
pH値を調節し、任意に緩衝するために、生理的に許容可能な酸、塩基、塩およびこれらの組合せを用いることができる。pH値を下げるのに、もしくは緩衝系の酸性成分として適した賦形剤は、強い鉱酸、特には硫酸および塩酸がある。また、中位の強度の無機及び有機酸並びに酸性塩、例えばリン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、メチオニン、ナトリウム又はカリウムを含む酸性リン酸水素塩、乳酸、グルクロン酸等も用いることができる。ただし、硫酸および塩酸が最も好ましい。pH値を上げるのに、もしくは緩衝系の塩基性成分として適しているのは、特には無機塩基であり、例えば水酸化ナトリウム、または他のアルカリ及びアルカリ土類水酸化物及び酸化物、具体的には特には水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウム、水酸化アンモニウムおよび酢酸アンモニウムなどの塩基性アンモニウム塩、並びにリシンなどの塩基性アミノ酸、炭酸ナトリウム又はマグネシウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩等がある。
【0065】
好ましい態様の一つでは、液体組成物は二成分からなる緩衝系を含んでいて、好ましい緩衝系の一つはクエン酸とクエン酸ナトリウムを含んでいる。それでも、他の緩衝系も適している。
【0066】
主に生理的な理由だけからでなく、薬学的な理由からも、化学的安定化を達成するのに一種以上の賦形剤の使用を必要とすることがある。これは、主として含まれる活性薬剤の種類に依存する。水系製剤における化学的に明確な活性薬剤の最も一般的な分解反応には、特には加水分解反応(これは主に最適pH調節で制限できる)、並びに酸化反応が含まれる。酸化攻撃を受けうる活性薬剤の例としては、オレフィン基、アルデヒド基、第一級又は第二級ヒドロキシル基、エーテル基、チオエーテル基、エンジオール基、ケト基又はアミノ基を持つ薬剤がある。従って、そのような酸化に敏感な活性薬剤の場合には、任意に共力剤と組み合わせて抗酸化剤を添加することが得策、もしくは必要である。
【0067】
抗酸化剤は、活性薬剤の酸化を防止又は阻止する天然又は合成物質である。これらは主として、それ自体易酸化性であるか、もしくは還元剤として作用する補助薬であり、例えば酢酸トコフェロール、還元グルタチオン、カタラーゼ、ペルオキシドジスムターゼ、ブチルヒドロキシアンシオール(BHA)がある。共力物質は例えば、酸化工程で直接には反応体として作用しないが、酸化の触媒として作用する金属イオンとの錯体形成のような間接的なメカニズムによって酸化を妨げるものであり、例えばEDTA誘導体(EDTA:エチレンジアミン四酢酸)ではそれが事実である。別の好適な抗酸化剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムおよびアスコルビン酸の他の塩及びエステル類(例えば、アスコルビン酸パルミテート)、フマル酸及びその塩、マレイン酸及びその塩、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、並びにメタ重亜硫酸ナトリウムなどの亜硫酸塩がある。EDTA及びその塩とは別に、クエン酸及びクエン酸塩、マレイン酸及びその塩、およびマルトール(3−ヒドロキシ−2−メチル−4H−ピラン−4−オン)もキレート化剤として作用することができる。
【0068】
態様の一つでは、組成物は少なくとも一種の抗酸化剤を含んでいる。別の態様では、抗酸化剤とキレート化剤両方を含んでいる。ビタミンE誘導体、特にはビタミンEアセテートと、EDTA誘導体、特にはEDTA二ナトリウム塩との組合せが特に好ましい。ある種の活性薬剤の場合には、この組合せが組成物の高い化学安定性と耐久性を得るのに、特に有利であることが証明済みである。特に活性薬剤ブデソニドと組み合わせるときには、この賦形剤の組合せが好ましい。
【0069】
耐容性が充分であるためには、エーロゾル剤は、できる限り生理的張度または質量オスモル濃度を有するべきである。よって、エーロゾル剤の質量オスモル濃度を制御するために、浸透活性な賦形剤を取り入れることが望ましいと言える。この賦形剤(または、物質の組合せを用いるなら賦形剤類)の含量は、生理液の質量オスモル濃度、すなわち約290mOsmol/kgから、あまりはずれ過ぎない質量オスモル濃度のエーロゾル剤が生じるように選ぶべきである。ただし、個々の場合で、一方の物理化学的又は薬学的要求と他方の生理的要求との間に、これも妥協点を見つけなければならない。さらに、鼻洞へのエーロゾル剤の送達は質量オスモル濃度の点では、例えば肺深部へのエーロゾル剤送達ほど問題にはならないと思われる。一般的に、1200mOsmol/kgまでの範囲の質量オスモル濃度が許容できる。特には、約200乃至約600mOsmol/kgまでの範囲の質量オスモル濃度が好ましい。別の態様では質量オスモル濃度は、生理的値、すなわち約220乃至約400mOsmol/kgに更に近い。
【0070】
組成物に含まれる活性薬剤や界面活性剤が、要求値又は所望値より低い質量オスモル濃度を与えるなら、一種以上の好適な浸透活性賦形剤を加えることによって、所望の値に調節することができる。そのような化合物としては特には、主として中性的に反応する無害な無機塩(そのような補助薬が、同時にpH値を調節又は緩衝しない限り)、例えば塩酸、硫酸又はリン酸ナトリウム、カルシウム又はマグネシウムがある。これらのうち特に好ましいものの一つは塩酸ナトリウムである。この目的で別の好ましい賦形剤は、硫酸及び塩酸マグネシウム及びカルシウムである。
【0071】
中性無機塩の代替物として、生理的に安全な有機化合物を等張剤として使用してもよい。特に好適なのは、分子量が比較的小さく、例えば分子量が300未満、又は200未満ならなおよく、浸透活性がそれに対応して高い水溶性物質である。そのような賦形剤の例としては、糖類、例えばトレハロース、乳糖、フルクトース、ショ糖、グルコース、並びに糖アルコール類、特にはマンニトール、キシリトール、ソルビトールおよびイソマルトールがある。
【0072】
選択的賦形剤の中には保存薬があるが、吸入を目的とするエーロゾル剤にはあまり望ましくないと考えられる。従って、態様の一つでは組成物は保存薬を実質的に含まない。だが、組成物または組成物を含む薬剤を複単位用量用容器に詰めることになるなら、無菌を維持するために保存薬を使用することが必要になりうる。
【0073】
好ましい態様の一つでは、本発明のエーロゾル剤を得る液体を水性液の形で用意する。あるいは、エーロゾル剤として投与できる水性液を調製するために調整した乾燥固体材料の形で用意してもよい。活性薬剤および組成物の化学的物理的安定性が許すなら、液体の形で組成物を用意することが好ましい。許容できる貯蔵寿命を達成できないなら、再構成用の粉末または凍結乾燥物質など乾燥固形物として、組成物を配合しなければならない。
【0074】
本明細書で使用するとき、水性液は、液体担体又は溶媒が主として水からなる、もしくはそのうちの少なくとも50質量%が水に相当する液体組成物である。液体状態は、製剤が液体単相系又は多相系であるが連続液相であることを意味する。よって、本発明に従う水性液は、水溶液、コロイド溶液、懸濁液または乳濁液を意味することができる。
【0075】
液体担体は、たとえ主として水であっても、個々の場合に、少なくとも部分的に水と混和しうる一種以上の液体、例えばエタノール、グリセロール、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールを含有していてもよい。だが、組成物は非水性液を実質的に含まないことが好ましい。
【0076】
たとえ乳濁液や懸濁液のエーロゾル化が可能であっても、本発明の態様によっては水性液は、溶液、またはコロイド溶液又は分散液を意味することが好ましい。コロイド溶液又は分散液は、例えば分散した固相を含む懸濁液とは違って、本明細書では単相系として定義される。これを支持する理論的根拠は、コロイド溶液又は分散液(本明細書で使用するとき、これらは置き換え可能である)内に分散したコロイド材料が、通常は固体材料と関係がある測定可能な物性を示さず、さらに真の固液界面相を供しないことにある。
【0077】
コロイド担体系、例えばミセル、混合ミセル、コロイド錯体およびリポソームは、水に難溶性の活性化合物の担体として薬物送達に、あるいはある種の薬剤物質の標的送達のために使用される。
【0078】
コロイド系では、全ての成分が分子で分散しているわけではなく、そのうちの少なくとも一成分がコロイドで分散している。通常、コロイド構造は、普通に理解するときは約1μm未満、あるいは他の情報源で定義するのは、1から約500nmの間のサイズ範囲にあると理解されている(H.ストリッカー(H. Stricker)著、フィジカリシュ・ファルマジー(Physikalische Pharmazie)、第三版、p.440)。従って、コロイド構造物は実際には光学顕微鏡で見えず、結果的に溶液の著しい濁りではなく、むしろ乳光を生じる。ただし、上記のサイズ限度は、考慮する性状にある程度依存するので厳密なものではない。この専門用語は、特に徐々の性状変化を考慮するとき、粗い系に適用することができる。
【0079】
本発明の態様の一つによれば、エーロゾル剤に変換される液体組成物は、(光子相関分光法で測定して)平均サイズが最大約1μmのコロイド担体系を含んでいる。別の態様では、平均直径は約10nm乃至約400nmである。また別の態様では、平均直径は約10nm乃至約250nmである。
【0080】
コロイド構造物は、比較的狭いサイズ分布を有することが好ましい。例えば、組成物がリポソームを含有するなら、そして組成物の製造に除菌工程を含ませるつもりならば、大きなリポソームをかなりの割合で保持することで、組成物中の薬物が損失したり変質するといった問題無しに除菌工程を可能にするためには、リポソームの平均直径を約200nm未満で、むしろ分布も狭いようにすることが好ましい。コロイド構造物の直径の分布を言い表す好適なパラメータは、多分散指数である。多分散指数は約0.5未満であることが好ましい。より好ましくは、多分散指数は約0.4未満である。別の態様では、多分散指数は0.3未満、又は0.2又は0.1未満である。
【0081】
比較的低い多分散指数は、狭いサイズ分布を反映しているが、熟練者に一般に知られている方法で達成することができる。例えば、リポソーム溶液を超音波で処理したり、(任意に高圧を利用しながら)均質化したり、あるいは中位の圧力で薄膜から押し出してもよい。コロイド構造物のもっと分布の狭い部分を単離する方法として、透析や遠心分離を利用することができる。
【0082】
各々の組成物は、コロイド構造物の存在のみならず、大粒子の低い含量又は不在によっても特徴付けられる。特に、沈降しうる大粒子または固体材料の粒子は存在しないことが好ましい。
【0083】
液体組成物がミセル又は混合ミセル溶液を意味するなら、ミセルの平均サイズは、(光子相関分光法で測定して)約200nm未満、例えば約10nm乃至約100nmであることが好ましい。特に好ましくは、平均直径が約10乃至約50nmのミセルである。
【0084】
リポソームおよびリポソーム製剤の製造及び特性評価方法は、それなりに熟練者に知られている。往々にして、両親媒性脂質が水和すると同時に多層板状の小胞が生成するが、一方、小さな単層板状の小胞は通常、超音波処理や高圧均質化のような実質エネルギー入力を含む方法を必要とする。リポソームを製造して評価する別の方法は、例えばS.ヴェムリ(S. Vemuri)、外著[治療送達システムとしてのリポソームの製造及び特性評価:総説、ファーマスーチカ・アクタ・ヘルヴェチエ(Pharm. Acta Helv.)、1995年、第70(2)号:p.95−111]に記載されている。
【0085】
公知のリポソームのうちでは、本発明によれば、主としてコロイドサイズ、すなわちその平均粒子径が約1μm未満、なおよくは最大約500nmであるものが好ましい。非常に好ましいのは直径約200nm未満である。そのような平均粒子径は通常、孔径が0.22μmのろ過器による除菌を可能にし、これは、組成物が熱殺菌に耐えられるほど充分に安定でない場合に大きな利点である。
【0086】
鼻、副鼻腔又は鼻洞送達に適した本発明のエーロゾル剤を得るためには、本発明の組成物の表面張力を、約25乃至80mN/mの範囲、好ましくは約30乃至75mN/mの範囲に調節することが好ましい。これに関連して、この範囲の最小域では製剤の粘膜への特に優れた散布性が期待できるものの、エーロゾル剤の品質と噴霧効率が悪影響を受けうることを考慮に入れなければならない。
【0087】
一方、難溶性の活性薬剤をコロイド状に可溶化するために界面活性剤を取り入れるなら、表面張力が水又は生理緩衝液の表面張力より相当著しく低くなることは殆ど避けられない。よって、場合毎に活性化合物や意図する用途に応じて妥協点を見つけなければならない。
【0088】
国際公開第01/02024号パンフレットなどの先行技術の研究結果に反して、鼻洞エーロゾル剤付着では、水又は緩衝水溶液の表面張力よりも低い表面張力は必要ではないことが、本発明者によって判明した。事実、本発明者は、本発明の教示内容を観察できるものなら、表面張力が比較的高い液体組成物を、鼻腔及び副鼻腔の粘膜表面に効率良く送り込むことができることを見い出した。界面活性な薬剤物質又は賦形剤をエーロゾル化される液体組成物に取り入れるなら、低い表面張力は避け難いかもしれないが、界面活性剤は、それが必要ではないならば、また薬剤物質自体が表面張力の著しい減少を招かないなら、本発明によれば、約65乃至約80mN/mの範囲、例えばおよそ70mN/mの範囲で表面張力を選択することが好ましい。
【0089】
動粘性率も、噴霧化により生成するエーロゾル剤の粒度分布および噴霧効率に影響を及ぼす。動粘性率を約0.8乃至約3mPasの範囲に調節することが好ましい。別の態様によれば、動粘性率は約1.0乃至約2.5mPasの範囲、又は約1.2乃至約2.0mPasの範囲にある。
【0090】
本発明のエーロゾル剤に含まれる活性化合物は一般に、鼻、副鼻腔及び/又は洞口鼻道系を冒す任意の病気、症状又は状態、具体的には急性及び慢性副鼻腔炎、例えばアレルギー性副鼻腔炎、季節性副鼻腔炎、細菌性副鼻腔炎、真菌性副鼻腔炎、ウィルス性副鼻腔炎、前頭洞炎、上顎骨洞炎、蝶形骨洞炎、篩骨洞炎、真空副鼻腔炎;急性及び慢性鼻炎、例えばアレルギー性鼻炎、季節性鼻炎、細菌性鼻炎、真菌性鼻炎、ウィルス性鼻炎、萎縮性鼻炎、血管運動性鼻炎;鼻炎と副鼻腔炎の任意の組合せ(すなわち、鼻副鼻腔炎);鼻ポリープ、鼻フルンケル、鼻出血、鼻又は鼻洞粘膜の創傷、例えば外傷又は手術後のもの;および鼻乾燥症侯群;下部気道疾患により引き起こされる鼻又は鼻洞の状態、例えばぜん息および嚢胞性繊維症、の予防、管理又は治療に有用である薬剤物質である。あるいは、ワクチン、抗体などの抗原、または遺伝子などの核酸であってもよい。
【0091】
これらの目的の一つを満たすのに有用な活性化合物には、例えば、抗炎症化合物、糖質コルチコイド類、抗アレルギー薬、抗酸化薬、ビタミン類、ロイコトリエン桔抗薬、抗感染症薬、抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬、粘液溶解薬、うっ血除去薬、防腐薬、細胞増殖抑制薬、免疫刺激剤、ワクチン、創傷治療薬、局所麻酔薬、オリゴヌクレオチド類、ペプチド類、蛋白質および植物エキス類からなる群より選ばれた物質がある。
【0092】
潜在的に有用な抗炎症化合物の例としては、糖質コルチコイド類および非ステロイド抗炎症薬、例えばベタメタゾン、ベクロメタゾン、ブデソニド、シクレソニド、デキサメタゾン、デスオキシメタゾン、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルニソリド、フルチカゾン、イコメタゾン、ロフレポニド、トリアムシノロンアセトニド、フルオコルチンブチル、ヒドロコルチゾン、ヒドロキシコルチゾン−17−ブチレート、プレドニカルベート、6−メチルプレドニゾロンアセポネート、モメタゾンフロエート、デヒドロエピアンドロステロンスルフェート(DHEAS)、エラステイン、プロスタグランジン、ロイコトリエン、ブラジキニン桔抗薬、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、例えばイブプロフェンがあり、各々の活性部を含む活性化合物の任意の薬学的に許容可能な塩、エステル、異性体、立体異性体、ジアステレオマー、エピマー、溶媒和物又は他の水和物、プロドラッグ、誘導体またはその他任意の化学的又は物理的形態も含まれる。
【0093】
抗感染症薬の例としては、その部類又は治療分類は、本明細書では細菌、真菌及びウィルス感染症に有効である化合物を含む、すなわち抗菌剤、抗生物質、抗真菌薬、防腐薬および抗ウイルス薬の部類を包含すると解釈されるが、下記の物質がある。
【0094】
ペニシリン類、ベンジルペニシリン類(ペニシリンGナトリウム、クレミゾンペニシリン、ベンズアチンペニシリンG)、フェノキシペニシリン類(ペニシリンV、プロピシリン)、アミノベンジルペニシリン類(アンピシリン、アモキシリン、バカンピシリン)、アシルアミノペニシリン類(アズロシリン、メズロシリン、ピペラシリン、アパルシリン)、カルボキシペニシリン類(カルベニシリン、チカルシリン、テモシリン)、イソオキザゾリルペニシリン類(オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン)、およびアミイジンペニシリン類(メシリナム)が挙げられる。
【0095】
セファロスポリン類、セファゾリン類(セファゾリン、セファゼドン)、セフロキシム類(セフロキシム、セファムドール、セフォチアム)、セフォキシチン類(セフォキシチン、セフォテタン、ラタモキセフ、フロモキセフ)、セフォタキシム類(セフォタキシム、セフトリアキソン、セフチゾキシム、セフメノキシム)、セフタジジム類(セフタジジム、セフピロム、セフェピム)、セファレキシン類(セファレキシン、セファクロール、セファドロキシル、セフラジン、ロラカルベフ、セフプロジル)、およびセフィキシム類(セフィキシム、セフポドキシムプロキセチル、セフロキシムアキセチル、セフェタメトピボキシル、セフォチアムヘキセチル)、ロラカルベフ、セフェピム、クラブラン酸/アモキシシリン、セフトビプロールが挙げられる。
【0096】
共力剤、ベータ−ラクタマーゼ阻害薬、例えばクラブラン酸、スルバクタム、およびタゾバクタムが挙げられる。
【0097】
カルバペネム類、イミペネム、シラスチン、メロペネム、ドリペネム、テビペネム、エルタペネム、リチペナム、およびビアペネムが挙げられる。
【0098】
モノバクタム類、アズトレオナムが挙げられる。
【0099】
アミノ配糖体類、例えばアプラマイシン、ゲンタマイシン、アミカシン、イセパマイシン、アルベカシン、トブラマイシン、ネチルマイシン、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、カプレオマイシン、ネオマイシン、パラモマイシン、およびカナマイシン。
【0100】
マクロライド系抗生物質、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、ジスロマイシン、ジョサマイシン、スピラマイシン、およびテリスロマイシンが挙げられる。
【0101】
ジャイレース阻害薬又はフルオロキノロン類、シプロフロキサシン、ガチフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、レボフロキサシン、ペルフロキサシン、ロメフロキサシン、フレロキサシン、ガレノキサシン、クリナフロキサシン、シタフロキサシン、プルリフロキサシン、オラムフロキサシン、カデロフロキサシン、ゲミフロキサシン、バロフロキサシン、トロバフロキサシン、およびモキシフロキサシンが挙げられる。
【0102】
テトラサイクリン類、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ロリテトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、チゲサイクリン、およびアミノサイクリンが挙げられる。
【0103】
グリコペプチド類、バンコマイシン、テイコプラニン、リストセチン、アボパルシン、オリタバンシン、ラモプラニン、およびペプチド4が挙げられる。
【0104】
ポリペプチド類、プレクタシン、ダルババンシン、ダプトマイシン、オリタバンシン、ラモプラニン、ダルババンシン、テラバンシン、バシトラシン、チロスリシン、ネオマイシン、カナマイシン、ムピロシン、パラモマイシン、ポリミキシンB、およびコリスチンが挙げられる。
【0105】
スルホンアミド類、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、スルファレン、コトリモキサゾール、コトリメトロール、コトリモキサジン、およびコテトラキサジンが挙げられる。
【0106】
アゾール類、クロトリマゾール、オキシコナゾール、ミコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、フルコナゾール、メトロニダゾール、チニダゾール、ビフォナゾール、ラブコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾール、およびオルミダゾールが挙げられ、並びに他の抗真菌薬、フルシトシン、グリセオフルビン、トノフタール、ナフチフィン、テルビナフィン、アモロルフィン、シクロピロックスオラミン、エキノカンジン類、例えばミカフンジン、カスポフンジン、アニズラフンジンが挙げられる。
【0107】
ニトロフラン類、ニトロフラントイン、およびニトロフラゾンが挙げられる。
【0108】
ポリエン類、アンホテリシンB、ナタマイシン、ナイスタチン、フルコシトシンが挙げられる。
【0109】
他の抗生物質、チスロマイシン、リンコマイシン、クリンダマイシン、オキサゾリンジオン類(リンゼゾリド類)、ランベゾリド、ストレプトグラミンA+B、プリスチナマイシンA+B、ヴァージニアマイシンA+B、ダルホプリスチン/キウヌプリスチン(サイネルシド)、クロラムフェニコール、エタンブトール、ピラジンアミド、テリジドン、ダプソン、プロチオンアミド、ホスホマイシン、フシジン酸、リファンピシン、イソニアジド、サイクロセリン、テリジドン、アンサマイシン、リソスタフィン、イクラプリン、ミロシンB17、クレロシジン、フィルグラスチン、およびペンタミジンが挙げられる。
【0110】
抗ウィルス薬、アシクロビル、ガンシクロビル、ビリブジン、バラシクロビル、ジドブジン、ジダノシン、チアシチジン、スタブジン、ラミブジン、ザルシタビン、リバビリン、ネビラピリン、デラビリジン、トリフルリジン、リトナビル、サキナビル、インジナビル、ホスカネット、アマンタジン、ポドフィロトキシン、ビダラビン、トロマンタジン、およびプロテイナーゼ阻害薬が挙げられる。
【0111】
防腐薬、アクリジン誘導体、ヨウ素−ポビドン、ベンゾエート類、リバノール、クロルヘキシジン、第四級アンモニウム化合物、セトリミド類、ビフェニロール、クロロフェン、およびオクテニジンが挙げられる。
【0112】
植物エキス類又は成分、例えばカモミール、マンサク、エキナセア、キンセンカ、チミアン、パパイン、テンジクアオイ、松の木からの植物エキス、精油、ミルトール、ピネン、リモネン、シネオール、チモール、メントール、ショウノウ、タンニン、アルファ−ヘデリン、ビサボロール、セキショウシ、ビタフェロールが挙げられる。
【0113】
創傷治療薬、デクスパンテノール、アラントイン、ビタミン類、ヒアルロン酸、アルファ−抗トリプシン、無機及び有機亜鉛塩/化合物、ビスマス及びセレンの塩が挙げられる。
【0114】
インターフェロン類(アルファ、ベータ、ガンマ)、腫瘍壊死因子、サイトカイン類、インターロイキン類。
【0115】
免疫刺激剤、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、ラパマイシン、モフェチル、モフェチル−マイコフェノレートが挙げられる。
【0116】
細胞増殖抑制薬、および転移抑制薬。
【0117】
アルキル化剤、例えばニムスチン、メルファラン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、トロホスファミド、クロラムブシル、ブスルファン、トレオスルファン、プレドニムスチン、チオテパ。
【0118】
代謝桔抗物質、例えばシタラビン、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン。
【0119】
アルカロイド類、例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン。
【0120】
抗生物質、例えばアルカルビシン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシン、プリカマイシン。
【0121】
遷移族元素(例えばTi、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Pt)の錯体、例えばカルボ白金、シス−白金、および二塩化チタノセンなどのメタロセン化合物。
【0122】
アムサクリン、ダカルバジン、エストラムスチン、エトポシド、ベラプロスト、ヒドロキシカルバミド、ミトザントロン、プロカルバジン、テミポシド。
【0123】
パクリタキセル、イレッサ、ザクチマ、ポリ−ADP−リボース−ポリメラーゼ(PRAP)酵素阻害薬、バノキサントロン、ゲンシタビン、ペメトレキセド、ベバシズマブ、ラニビズマブ。
【0124】
潜在的に有用な粘液溶解薬の例としては、DNase(デオキシリボヌクレアーゼ)、P2Y2作用薬(デヌフォゾール)、塩素とナトリウム透過に作用する薬物、例えばN−(3,5−ジアミノ−6−クロロピラジン−2−カルボニル)−N’−{4−[4−(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−フェニル]ブチル}グアニジンメタンスルホネート(PARION552−02)、ヘパリノイド類、グアイフェネシン、アセチルシステイン、カルボシステイン、アンブロキソール、ブロムヘキシン、チロキサポール、レシチン、ミルトール、および組換えサーファクタント蛋白質がある。
【0125】
粘膜の腫張を低減するのに有益である潜在的に有用な血管収縮薬およびうっ血除去薬の例としては、フェニレフリン、ナファゾリン、トラマゾリン、テトリゾリン、オキシメタゾリン、フェノキサゾリン、キシロメタゾリン、エピネフリン、イソプレナリン、ヘキソプレナリン、およびエフェドリンがある。
【0126】
潜在的に有用な局所麻酔薬の例としては、ベンゾカイン、テトラカイン、プロカイン、リドカイン、およびブピバカインがある。
【0127】
潜在的に有用な抗アレルギー薬の例としては、前記の糖質コルチコイド類、クロモリンナトリウム、ネドクロミル、セトリジン、ロラチジン、モンテルカスト、ロフルミラスト、ジルトン、オマリズマブ、ヘパリノイド類、および他の抗ヒスタミン薬、アゼラスチン、セチリジン、デスロラタジン、エバスチン、フェキソフェナジン、レボセチリジン、ロラタジンを含む、が挙げられる。
【0128】
アンチセンス・オリゴヌクレオチド類は、転写や翻訳、スプライシングなどの生物的事象を止めるように設計された標的配列(DNA、RNA)と、相補的またはアンチセンスであるDNA(又は類似物)の短い合成鎖である。得られた遺伝子発現の抑制によって、オリゴヌクレオチド類は多くの病気の治療に有益な組成に応じたものになり、最近では様々な化合物が臨床的に評価されていて、例えば、RSウィルスを治療するためのALN−RSV01、ぜん息やアレルギーを治療するためのAVE−7279、アレルギー性ぜん息を治療するためのTPI−ASM8、癌を治療するための1018−ISSがある。
【0129】
潜在的に有用なペプチド類および蛋白質の例としては、微生物が作り出す毒素に対する抗体、抗菌性ペプチド類、例えばセクロピン類、デフェンシン類、チオニン類およびカテリシジン類が挙げられる。
【0130】
本発明を実施するのに潜在的に有用であるこれら及び他の明示した薬剤物質の例のいずれにあっても、本明細書に記した化合物名は、それぞれ活性部を含む各々の化合物の任意の薬学的に許容可能な塩、溶媒和物又は他の水和物、プロドラッグ、異性体または他の任意の化学的又は物理的形態も意味すると理解されたい。
【0131】
ただし、本発明の実施はこれらの化合物に限定されるものではない。鼻腔及び/又は副鼻腔の粘膜に潜在的に有益な効果をもたらす、如何なる治療的又は予防的物質または物質の混合物又は組合せも、本発明の範囲内に含まれると理解されたい。
【0132】
本発明の好ましい一態様では、活性化合物は、アジスロマイシンやクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質を、10乃至100mg/mlの濃度で含み、そして液体組成物は二価の陽イオンを含み、二価の陽イオンの全モル濃度とマクロライド系抗生物質のモル濃度との比は、約0.1:1乃至10:1の範囲にあり、例えば約0.1:1、0.5:1、1:1、1.5:1、2:1、5:1、又は10:1である。好ましくは、(マクロライド系抗生物質の量に対して)少なくとも等モル量の二価の陽イオンを使用する(すなわち、二価の陽イオンとマクロライド系抗生物質のモル比は少なくとも1である)。二価の陽イオンは、カルシウムおよびマグネシウムの水溶性無機及び有機塩から選ばれることが好ましい。驚くべきことには、水溶性マグネシウム塩は、吸入用のアジスロマイシン溶解配合物を例えばイーフロー(商標)電子ネブライザでエーロゾル化すると、その味覚を大いに改善することが判明した。さらに、水溶性マグネシウム又はカルシウム塩を含むアジスロマイシン水溶液の貯蔵における溶解度と安定性が、マグネシウム及びカルシウム塩無しの配合物に比べて、改善されることも判明した。
【0133】
本発明の更に好ましい態様では活性化合物は、アジスロマイシンとフルオロキノロンまたはアミノ配糖体とを、1:3乃至3:1の範囲の比で組み合わせたものである。
【0134】
態様の一つでは活性化合物は、水に難溶性の、例えば水への溶解度が20℃で約1質量%未満である薬剤物質から選ばれる。別の態様では活性化合物またはエーロゾル剤の液相中に存在する活性化合物のうちの一つの溶解度は、約1mg/ml未満である。
【0135】
水に難溶性の活性薬剤は一般に、エーロゾル化液体として投与するのにあまり容易ではなく、その理由の一つは、エーロゾル剤として投与できる液体の容量が制限されていることにある。しかし、本発明者は、驚くべきことに、本明細書に開示する教示及び言及内容を観察できるものであれば、そのような化合物をエーロゾル化した形で鼻洞粘膜にでも送り込めることを見い出した。
【0136】
また、薬剤物質が比較的大量の単位用量を必要とするならば、水に難溶性であることはとりわけ問題になる。単位用量は、1回の投与で与えたときに適切で効果がある活性化合物の量と解釈される。任意に、単位用量又は単回投与量は一定の養生法に従って繰り返し、例えば1日1回、1日2回又は1日3回、長い期間にわたって、例えば数日間、数週間又はもっと長く投与される。
【0137】
例えば、単位用量の薬剤物質が5mlの水又は水性担体に溶解しなくても、経口投与または非経口注入を実行することができる、というのは、化合物を溶解するのに大容量の水(または胃腸液)が利用できて吸収できるようにするからである。反対にエーロゾル剤送達では、そのような化合物を配合することは更に困難である、というのは、液体担体の容量を任意に増やすことができないからである。副鼻腔又は鼻洞エーロゾル剤送達の場合には、本発明者は、鼻及び副鼻腔粘膜を少量の液体で湿らすことしかできないので、単位用量の容量が5mlより多いと薬物の大きな損失を招くことを見い出した。
【0138】
そのような化合物を、鼻及び/又は副鼻腔送達用のエーロゾル投与可能な液体組成物として配合することは難しいが、一方でこの問題は、ナノ粒子の薬物を使用することにより、活性化合物とコロイド担体系を組み合わせることにより、あるいは活性化合物を溶解度向上剤または賦形剤で可溶化することにより、克服することができる。
【0139】
態様の一つでは、単位用量の活性化合物を20℃で溶解するのに水が約5mlより多く必要であり、そこで活性化合物を、本発明のエーロゾル剤がナノ粒子の形で得られる液体に取り入れるか、コロイド担体に取り込む又は会合させるか、あるいは可溶化状態にする、ただし、可溶化状態は溶解度向上剤の取込みにより達成できる。別の態様でも、活性成分の水溶解度は単位用量に対して依然として低く、例えば20℃で溶解するのに水が少なくとも約10ml、又は約50mlより多く、又は約100mlよりも多く必要である。
【0140】
本明細書で使用するとき、ナノ粒子は、直径が約1μmまでの範囲にある半固体又は固体材料の粒子である。そのような小粒子では固体状態を観察することが難しく、またそのようなナノ粒子を含む液体系では固液界面を検知できないことに留意して欲しい。それでもナノ粒子を主に構成する材料は、標準状態で半固体又は固体材料である。ナノ粒子は、様々な形状および構造を持つことができる:ナノ球、ナノ棒およびナノカプセルは、様々なタイプのナノ粒子のほんの僅かな例である。好ましい態様の一つではナノ粒子の質量中央径は約800nm未満であり、別の態様では質量中央径は約600nm未満、又は約500nm未満である。また別の態様では質量中央径は約150乃至約450nmの範囲にある。最も好ましいのは、サイズが200nm未満の粒子であり、これは約220nmのろ過器による標準ろ過工程で殺菌することができる。
【0141】
エーロゾル剤の液相にナノ粒子が存在するなら、界面活性剤、高分子電解質および増粘剤またはゲル化剤の群から任意に選ばれた少なくとも一種の賦形剤によって、安定化することが好ましい。安定剤又は安定剤類の機能は、ナノ粒子の集合または少なくとも不可逆の集合を防ぐことにあり、その界面エネルギーはとりわけ高い。
【0142】
ナノ粒子は、主に活性化合物から構成されるが、少なくとも1層の安定剤分子層で覆われることが好ましい。エーロゾル化に適した液体組成物に取り込むことができる薬物ナノ粒子の更なる選択的特徴は、例えば国際公開第96/25918号パンフレットに開示されていて、その教示内容も参照内容として本明細書の記載とする。
【0143】
コロイド担体又はコロイド薬物担体は、コロイドサイズ範囲にある、すなわち一般に平均直径が約1μm未満の構造物であり、主として賦形剤分子からなる。そのようなコロイド構造物では、薬剤物質がコロイド担体に取り込まれるか、あるいは活性成分が単にコロイド担体と会合する。そのようなコロイド担体の限定的ではない例としては、リポソーム、脂質複合体、ミセル、混合ミセル、脂質ナノ粒子、ナノ粒子、ナノカプセル、ニオソーム、および高分子複合体が挙げられる。そのようなコロイド系の更なる特徴については先に記載済である。
【0144】
任意にエーロゾル剤の液相は、水に難溶性の活性薬剤、および界面活性剤、塩基、酸などの溶解度向上賦形剤、またはシクロデキストリンなどの錯生成剤を含んでいる。本明細書で使用するとき、溶解度向上剤は、本発明のエーロゾル剤の液相など水性液体組成物におけるその存在が、取り込んだ活性成分の分子又はコロイド溶解度を実質的に増大させることになる賦形剤又は賦形剤の組合せである。特には溶解度向上剤又は賦形剤は、活性化合物の溶解度を少なくとも20%増加させる。別の態様では分子であろうとコロイドであろうと、溶解度の増加はそれぞれ、少なくとも約50%、少なくとも約100%、及び少なくとも約150%である。溶解度向上剤は、単位用量の活性化合物が、溶解度向上剤不在の場合には20℃で5mlの水に溶解し得ないが、約5ml以下の液体容量に、好ましくは容量が約4ml以下の液相に溶解又はコロイドで可溶化するのを達成できる質と量で選ぶことが好ましい。別の態様によれば活性薬剤は、容量が3ml未満、好ましくは約0.5ml乃至約2mlの範囲にある液体に溶解又はコロイドで可溶化する。
【0145】
任意に溶解度向上剤は、水性液体組成物のpHを活性化合物がもっと溶解できる値に調節する。この場合に溶解度向上剤は、薬学的に許容可能な酸および塩基の群から選ばれる。本明細書で使用するとき酸および塩基には、酸性及び塩基性塩、もしくは更に総括的に定義すれば、その飽和水溶液が7とは実質的に異なるpH、例えば酸では約6より下、塩基では約8より上を示す化合物も含まれる。
【0146】
薬学的に許容可能な酸および塩基の例としては、アンモニウム塩、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硫酸、塩酸、リン酸などの無機賦形剤;並びにリシン、メチオニン、アルギニン、クエン酸およびフマル酸などの有機化合物が挙げられる。
【0147】
あるいは溶解度向上剤は、薬学的に許容可能な界面活性剤である。界面活性剤は、両親媒性で表面又は界面活性な材料である。そのような化合物には、少なくとも一つの比較的親水性の分子領域と、少なくとも一つの比較的親油性又は脂肪親和性の分子領域とがある。化合物は相界面に集まって表面張力を低減する。界面活性剤は、特に多相系を安定させるためにしばしば使用されている。非イオン界面活性剤は、実質的に中性なpH(例えば、pH4から10の間)の水性媒体中では、真のイオン電荷を持たず、せいぜい部分電荷を持つ界面活性剤である。界面活性剤を、清浄剤または界面活性物質、もしくは特定の組成物でのその機能を表示するために、乳化剤または湿潤剤とも呼ぶことがある。
【0148】
好適な非イオン界面活性剤としては特には、経口又は鼻吸入または口粘膜投与で安全であると理解できるものが挙げられる。特に優れた生理的適合性があると思われる非イオン界面活性剤の例としては、チロキサポール、ポリソルベート80などのポリソルベート類、ビタミンE−TPGS、およびマクロゴール−15−ヒドロキシステアレートなどのマクロゴールヒドロキシステアレート類がある。
【0149】
任意に、エーロゾル化される液相には、一種以上の界面活性剤が、例えばポリソルベート80をビタミンE−TPGSと組み合わせて、存在していてもよい。組成物の性状に対する界面活性剤の効果、特には難溶性活性薬剤に対する可溶化効果も付加できることが認められている。このことは、ただ一種類の代わりに二種類の界面活性剤を取り入れることによって、界面活性剤の各々の濃度が低くても配合物に所望の効果を達成できて、ただ一種類の特定の界面活性剤が高含量で引き起こす悪影響の発生を回避するのに有用であることを意味している。
【0150】
リン脂質はイオン性界面活性剤の一例である。リン脂質は、リンを含有する両親媒性脂質と定義することができる。ホスファチドとしても知られていて、特に生体膜の二層形成成分として、自然界で重要な役目を果たしている。ホスファチジン酸から化学的に誘導されるリン脂質は、広く存在し、薬用でも普通に用いられている。この酸は、脂肪酸残基が異なる長さである、通常は(二重に)アシル化したグリセロール−3−ホスフェートである。ホスファチジン酸の誘導体としては例えば、ホスフェート基が更にコリンでエステル化されたホスホコリン類又はホスファチジルコリン類、更にはホスファチジルエタノールアミン類、ホスファチジルイノシトール類等が挙げられる。レシチン類は、通常ホスファチジルコリンの割合が高い様々なリン脂質の天然混合物である。特定のレシチン原料やその抽出及び/又は濃縮法によって、これらの混合物は、大量のステロール類、脂肪酸類、トリグリセリド類および他の物質も含むことがある。
【0151】
また、好適なリン脂質は、その生理的特性のために吸入による投与に適したものでもある。これらには特には、大豆や鶏卵黄などの天然原料からレシチンの形で、好ましくは水素化した形及び/又はリゾレクチンを含まない形で抽出されたリン脂質混合物、並びに精製、濃縮または好ましくは飽和脂肪酸エステル類を用いて部分合成されたリン脂質が含まれる。特に好ましいのは、精製、濃縮又は部分合成された、主としてアシル鎖に不飽和が無くかつリゾレクチンや過酸化物を含まない、中鎖乃至長鎖の双イオン性リン脂質である。リン脂質混合物のうちではレシチンが特に好ましい。濃縮又は純粋化合物の例としては、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、およびジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)がある。これらのうちではDMPCが最近より好ましい。あるいは、オレイル残基とホスファチジルグリセロールを持ち、コリン残基を持たないリン脂質が、本発明の態様および用途によっては適している。
【0152】
溶解度向上剤として役に立ちうる他のイオン界面活性剤としては例えば、硫酸ラウリルナトリウム、硫酸セチルステアリルナトリウム、ナトリウム(又はカルシウム又はカリウム)ドキュセート、中鎖及び長鎖脂肪酸等がある。
【0153】
その他の溶解度向上剤は、種々の化学物質群、例えば補助溶媒、カオトロピック塩、尿素、および二価陽イオンなどの錯生成剤から選ぶことができる。これらのうちで特に好ましいのは、錯生成剤であり、特には薬学的に許容可能なシクロデキストリンの部類の化合物である。
【0154】
シクロデキストリン類(CDs)は、(α−1,4)結合α−D−グルコピラノース単位からなる環状オリゴ糖類である。比較的疎水性の中心空洞と親水性の外側領域とからなる。単量体単位は、α−1,4結合で自由に回転できないから、分子の形状は円柱よりは円錐に近く、第一級ヒドロキシル基が円錐の小さい方に位置し、第二級ヒドロキシル基が大きい方に位置している。
【0155】
最も一般的なシクロデキストリン類は、グルコピラノース単位をそれぞれ6個、7個、8個持つα−、β−及びγ−シクロデキストリンである。空洞の直径はおよそ、α−シクロデキストリンで4.7乃至5.3、β−シクロデキストリンで6.0乃至6.5、そしてγ−シクロデキストリンで7.5乃至8.3オングストロームである。非誘導体化シクロデキストリンの水溶解度は25℃でおよそ、145mg/ml(α−シクロデキストリン)、18.5mg/ml(β−シクロデキストリン)、および232mg/ml(γ−シクロデキストリン)である。
【0156】
シクロデキストリン類は、小さい分子と一緒に包接錯体を形成できる能力で知られている。ホスト分子自体が水に難溶性であるなら、そのようなシクロデキストリン包接錯体の形で可溶化できるようになる。数種類の薬剤がうまく配合されて、溶解度向上剤としてシクロデキストリンを取り入れた市販製剤にされている。
【0157】
潜在的に有用なシクロデキストリン類の例としては、非誘導体化シクロデキストリン類、並びにヒドロキシル基がアルキル化又はヒドロキシアルキル化した誘導体、例えば2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピル−γ−シクロデキストリン、エステル化した誘導体、例えばマルトシル−β−シクロデキストリン、およびメチル−γ−シクロデキストリン、またはエーテル化した誘導体、例えばベータ及びガンマスルホアルキルエーテルシクロデキストリン類(SAE−CD)、具体的にはスルホブチル−β−シクロデキストリン、スルホブチル−γ−シクロデキストリンも挙げることができる。本発明で特に好ましいのは、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、SAE−CDsα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンである。特に有用なのは、アルキル及びエーテル置換基各々についてその置換基の鎖長が2−12C原子で異なっていてもよい、毒性の低いベータ及びガンマスルホアルキルエーテルシクロデキストリン類(SAE−CD)である。後者のうちでは、シクロデキストリン分子当りアルキル置換基7個がエーテル化した構造のものが最も好ましく、スルホブチル−β−シクロデキストリン(カプチゾール)、およびスルホブチル−γ−シクロデキストリンが挙げられる。
【0158】
別の態様によれば難溶性の活性物質の溶解度を、少なくとも二種類の溶解度向上賦形剤、例えばシクロデキストリンと界面活性剤、または非イオン及びイオン界面活性剤、界面活性剤と酸又は塩基、またはシクロデキストリンと酸又は塩基の存在によって増大させる。勿論、二種類より多い溶解度向上剤が必要であって薬学的に許容可能と思われるなら、そのような数の賦形剤を、エーロゾル剤を得る液体配合物に混ぜ合わせたり用いたりすることもできる。
【0159】
別の態様では、フルオロキノロン類およびマクロライド系抗生物質の部類に属する薬物から製造した水性配合物の溶解度と味覚両方を改善するために、二価陽イオン類、特には塩化カルシウム及び/又はマグネシウムなどのカルシウム及びマグネシウム塩、もしくはアスパラギン酸及びグルコン酸マグネシウムなどの有機塩を使用することができる。さらに、これらの塩は、好適なpH値を選ぶなら、水性配合物の溶解度と安定性を改善することができる。貯蔵安定性が不充分な場合には、乳糖、ショ糖、トレハロースなどの糖類、および/またはキシリトール、マンニトール、イソマルトールなどの糖アルコール類の添加が、凍結乾燥物質を製造するのに有利であることがある。液体組成物の物理的化学的安定性によっては、商業上有益な貯蔵寿命を達成できないことがある。例えば、活性化合物が加水分解反応に活性であるなら、貯蔵寿命が少なくとも2年の水性液体組成物をうまく配合できない可能性がある。また別の例として、物理的複合体担体系、例えば界面活性剤で安定化したナノ粒子系、またはリポソームのようなコロイド薬物担体は、必要な貯蔵寿命を保証するほど充分な期間にわたって、物理的に安定でないことがある。
【0160】
これらの場合のいずれにおいても、投与に先立って液体組成物に再構成することができる固体状態の配合物を、開発することは有益であると言える。固体配合物は少なくとも活性化合物を含んでいるか、あるいはエーロゾル剤の液相が活性化合物を一種より多く含むことになるなら、固体配合物は活性化合物のうちの少なくとも一種を含んでいる。
【0161】
従って、本発明の一態様では活性化合物を含む液体組成物を用意する工程は、次のことを含んでいる:(a)該活性化合物を含む固体組成物を用意すること、(b)該固体組成物を再構成するための液体を用意すること、そして(c)該固体組成物を該液体で再構成して、活性化合物を含む液体組成物を得ること。
【0162】
エーロゾル剤の分散液相の設計および組成によっては、再構成用の固体組成物は、前記に開示した固体賦形剤のいずれかから選んでも、あるいは選ばなくてもよいが、更なる成分を含むことができる。好ましい賦形剤には、浸透物質、例えば無機塩類;pHを調節もしくは緩衝する賦形剤、例えば有機又は無機塩類、酸類および塩基類;増量剤および凍結乾燥助剤、例えばショ糖、乳糖、マンニトール、ソルビトール、キシリトールおよび他の糖アルコール類;安定剤および酸化防止剤、例えばビタミンE又はビタミンE誘導体、アスコルビン酸、亜硫酸塩類、亜硫酸水素塩類、没食子酸エステル類、ブチルヒドロキシアニソールおよびブチルヒドロキシトルエン;イオン及び非イオン界面活性剤、リン脂質も含まれ、例えば上記に開示した界面活性剤;錯生成剤、例えばシクロデキストリン類、特には上記に開示したシクロデキストリン類;更には味覚マスキング剤、崩壊剤、着色剤、甘味料および香味料がある。
【0163】
再構成用の固体組成物は、薬剤キットの一部であってもよい。そのようなキットは、固体組成物を無菌状態で含んでいることが好ましい。
【0164】
固体組成物は、エーロゾル化対象の液体組成物と同様の液体組成物を用意し、次いでそれを凍結乾燥などで乾燥することにより製造することができる。同様とは、例えば再構成用の液体担体が一種以上の賦形剤を含むように設計されている場合に、乾燥することで固体組成物を製造できる液体組成物が、すぐ使用できる液体組成物の固体成分全部を含まないことがあることを意味する。また、これら二つの液体組成物で成分の濃度が同一であることも必要ではない。
【0165】
あるいは、活性成分と任意に少なくとも一種の賦形剤とを粉末状態で用意し、次いでこれらを混合して粉末混合物にすることによっても、再構成用の固体組成物を製造することができる。
【0166】
容器の各々が、単位用量の活性化合物を約0.25乃至5mlの容量範囲に含有するような量の配合物を保有できる密閉容器に、固体組成物を詰めることが好ましい。あるいは、微生物の混入の危険があるため、本発明ではあまり好ましくないが、容器は複数の単位用量を保有することもできる。さらにキットは、固体組成物を再構成したり、エーロゾル化用の液体組成物を製造するための液体担体を含んでいてもよい、ただし、エーロゾルは、活性化合物(類)を鼻の粘膜、洞口鼻道系または一箇所以上の副鼻腔に送り込むために用いられる。
【0167】
一態様によれば、そのような液体担体を水のみから構成することができる。別の態様では担体は、一種以上の生理的に不活性な成分、例えば緩衝剤及びpH調節剤、塩、界面活性剤等から選ばれた一種以上の賦形剤も含んでいる。一単位用量を含有する量の固体配合物を再構成するのに必要な量の液体を保有できる別個の包装容器に、液体担体を供給することができる。一より多い単位用量を保有する容器に固体配合物を詰めるなら、液体担体ももっと大きな容器に詰めてもよい。この場合に、再構成後の微生物の成長を防ぐために、液体担体と固体配合物のどちらかが保存薬又は保存薬の組合せも含むべきである。
【0168】
再構成用の液体担体と固体組成物を含む容器には、それら各内容物の混合を容易にして簡単で便利な再構成を可能にするために、それらを互いに結び付ける手段が含まれていてもよい。態様の一つでは、二成分を別々に貯蔵して、要求に応じてそれらを容器から引き出す必要も無く、混合するように調整された二室装置の二つの別々の室に、液体担体と固体組成物を充填する。このようにして、再構成はより一層便利になり、微生物の混入無しに行うことができる。
【0169】
あるいは、キットは、液体担体を引き出すように、もしくは二つの成分を都合良く有効に混合するように調整された一つ以上の手段又は装置を含んでいてもよい。好ましくはキットは、鼻腔及び/又は副鼻腔の粘膜への活性化合物の送達を遂行するために、どのように配合物を再構成するか、そして再構成した液体組成物をどのようにエーロゾル化して投与するかについての印刷された説明書をも含む。
【0170】
別の態様では、最初に内容物を調剤してネブライザの薬物保有カップに入れるまでは、もはやバイアルを開ける必要が無いという、一種の「ルア・ロック原理」に従うネブライザ装置に、溶解薬物を保有するバイアル又は容器を挿入することができる。よって、その新規なエーロゾル送達特徴を持たない他のネブライザに伴う混乱が、起こらないことを保証する全く別のネブライザの薬物保有溜めとして機能するように、バイアルを設計することができる。
【0171】
本発明のエーロゾル剤は、鼻組織または鼻腔及び/又は副鼻腔の粘膜の、もしくはそれらに関連した疾患、状態、症状又は病気、具体的には急性及び慢性副鼻腔炎、例えばアレルギー性副鼻腔炎、季節性副鼻腔炎、細菌性副鼻腔炎、真菌性副鼻腔炎、ウィルス性副鼻腔炎、前頭洞炎、上顎骨洞炎、蝶形骨洞炎、篩骨洞炎、真空副鼻腔炎;急性及び慢性鼻炎、例えばアレルギー性鼻炎、季節性鼻炎、細菌性鼻炎、真菌性鼻炎、ウィルス性鼻炎、萎縮性鼻炎、血管運動性鼻炎;鼻炎と副鼻腔炎の任意の組合せ(すなわち、鼻副鼻腔炎);鼻ポリープ、鼻フルンケル、鼻出血、鼻又は鼻洞粘膜の創傷、例えば外傷又は手術後のもの;および鼻乾燥症侯群、の予防、管理又は治療のために使用することができる。エーロゾル剤の、よってエーロゾル剤を得る液体組成物の特に好ましい使用は、副鼻腔炎の急性及び慢性形の治療目的にある。この使用には、任意に規則正しい投与養生法に従って、少なくとも3日間にわたって少なくとも1日1回投与、という繰返しの投与が含まれる。別の態様によれば、投与回数は1日約2回又は3回である。任意に治療には、もっと回数の多い投与、例えば1日4回又はもっと頻繁な投与が含まれる。1日1回の投与を選択するなら、長時間の無投薬を避けるために、連続する2回の投与間の時間間隔を約18乃至30時間の範囲で、例えば毎夕、毎正午または毎朝のように選ぶことも有益である。
【0172】
驚くべきことには、本発明に従う装置を用いたガンマ−シンチグラフィ研究で、上部気道におけるその薬物保持が、鼻スプレー及びネブライザによる公表データ(サマン、外著、ファーマスーティカル・リサーチ、第16巻、第10号、1999年)に比べて、6乃至8倍も高いことが判明したが、これは、薬物が副鼻腔に送り込まれると持続放出効果があることを示している。この予測し得ない効果は、鼻スプレーやその他鼻への薬物投与ルートに推奨されている養生法(C.マリオット、外著、RDDヨーロッパ2007年、会報、p.179−185)に比べて、投与回数の減少を可能にする。これにより、本発明に従う鼻洞薬物送達システムは、鼻ポンプスプレー、鼻ドロップ又はネブライザ治療による最近の薬物投与に比べて、投薬回数を減らすことができるので、患者の状態を改善できる可能性がある。
【0173】
また別の面では本発明は、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を生成させる方法であって、該エーロゾル剤が分散液相と連続気相とからなる方法を提供する。方法は、(a)エーロゾル剤を、毎分約5リットル未満の有効流量で放出するように調整したエーロゾル発生器を用意する工程、(b)エーロゾル剤の圧力変動を、約10乃至約90Hzの範囲の振動数でもたらす手段を用意する工程、(c)活性化合物を含む液体組成物であって、単位用量の活性化合物が、約5ml未満の容量の該液体組成物に含まれてなる液体組成物を用意する工程、そして(d)該液体組成物を霧状にして約5リットル/分未満の有効流量のエーロゾル剤にするために、該エーロゾル発生器を作動させ、同時に該手段を作動させて、エーロゾル剤を約10乃至約90Hzの範囲の振動数で圧力変動させる工程、を含む。
【0174】
この方法の選択的特徴に関しては、前述した本発明のエーロゾル剤の選択的特徴、並びにそのようなエーロゾル剤を生成させるのに適していると記載した装置の特徴、および本発明に照らして霧状にするのに有用である液体組成物の特徴が、必要な変更を加えて本方法にも適用されることになる。
【0175】
特に、有効エーロゾル流をそれぞれ、毎分約4.5リットル以下、又は毎分約3リットル以下、又は毎分約2リットル以下、又は毎分約1リットル以下、例えば毎分約0.5又は0.3リットルであるように選ぶことができる。
【0176】
また、ある種のエーロゾル発生器では、有効流量が約5リットル/分未満、特には約3リットル/分以下のエーロゾル剤を生成させるように調整することが困難であると思われている。ジェットネブライザを含むエーロゾル発生器はこれまで、その圧力が約10乃至約90Hzの振動数で振動する圧縮空気を送り出すことができる適切な圧縮器との組合せで、変動エーロゾル剤を放出するように調整されているが、一方、これらのジェットネブライザは一般に、液体を霧状のエーロゾル剤に変換するためにかなりの空気又は気体流を必要とする。
【0177】
所望の有効流量を示すエーロゾル剤は、液体を霧状にするために空気又は気体の流れを必要としないネブライザによって、生成させることができる。例えば超音波ネブライザおよび電子振動膜ネブライザは、本発明を実施するのに適した装置である。
【0178】
この方法は、液体を霧状のエーロゾル剤に変換する好適なエーロゾル発生器と、エーロゾル剤の圧力変動をもたらすのに適した手段との同時操作を含む。本発明において、同時操作とは、エーロゾル剤投与の一コースの間、エーロゾル発生器と変動手段の両方を作動させて、エーロゾル発生器が放出したエーロゾル剤が変動するという結果になることを意味する。エーロゾル剤を投与するために、両装置を規定の時間中、例えば数分間にわたって連続して、実質的に同調させて作動させることにより、同時操作を遂行してもよいし;あるいは、例えばエーロゾル発生器と変動手段を短い交互のサイクルで間欠的に作動させることにより、同時作動を遂行してもよいし;あるいは、ある時間エーロゾル発生器からエーロゾル剤を間欠的に放出させ、その間変動手段を連続して作動させることにより、同時作動を遂行してもよい。肝心なことは、エーロゾル発生器から放出されたエーロゾル剤が、変動手段の作動によって振動することにある。
【0179】
前述したように、エーロゾル剤の変動をもたらす手段は、特にエーロゾル主流に圧力振動を重ね合わせることになるなら、エーロゾル発生器内に組み込まれていてもよい。あるいは、変動手段は独立した装置であってもよく、そして装置が発生させた圧力振動を、エーロゾル主流とは別に、例えば一方の外鼻孔にノーズピースでつながれた管によって患者に伝えることができ、一方、ネブライザから放出されたエーロゾル剤をもう一方の外鼻孔に導入する:この仕組みでも同じ結果、すなわちエーロゾル剤の振動に達する。
【0180】
本発明のエーロゾル剤を投与する便利で効果的な方法を提供するために、霧状のエーロゾル剤を、分散液相少なくとも毎分約0.1mlの量で、放出するように調整したエーロゾル発生器を選ぶことができる。別の態様によれば、連続(非間欠的)作動の間、分散相少なくとも毎分約0.15mlで、又は少なくとも毎分約0.175ml、少なくとも約0.2ml/分、少なくとも約0.3ml/分、例えば約0.3乃至0.5ml/分で放出するように、エーロゾル発生器を調整する。間欠作動様式で行うなら、間欠的な「入」と「切」相の相対持続時間によっては、平均総出力量が下がることがある。
【0181】
また別の面では、本発明は、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を発生させる装置を提供する。装置は、エーロゾル剤を約5リットル/分未満の有効流量で放出するように調整されたエーロゾル発生器、およびエーロゾル剤の圧力変動を約10乃至約90Hzの範囲の振動数でもたらす手段を含んでいる。本明細書で使用するとき、装置は、所望の効果、この場合には有効流量の少ない振動エーロゾル剤を達成するために、一緒に動く一つ以上の器具と解釈される。従って、装置の構成部品が相互に機械的に連結するように組み立てられているか否かは、必須ではない。装置及びその構成部品の選択的特徴に関しては、様々な態様でこれらの特徴の詳細も示した本発明のエーロゾル剤についての前記記述における各々の側面を参照できる。
【0182】
本発明は、エーロゾル剤を先行技術の記載よりも高い効率で副鼻腔に送り込むのに、液体組成物を約0.25乃至2.5ml、又は0.5乃至1.5mlという少量で、使用することを可能にする。
【0183】
本発明について以下の実施例により更に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものと解されるべきではない。
【実施例】
【0184】
[実施例1]
レボフロキサシン水溶液を、有効流量の少ない変動エーロゾル剤を発生させる本発明の装置によって霧状にした。ヒト鼻体外模型にてその鼻洞付着の評価を行った。
【0185】
鼻洞付着模型:鼻腔及び鼻道の解剖学的形状と寸法に基づいたヒト鼻成形模型を、プラスチック(ポリオキシメチレン)で作った。この模型では、前頭洞、上顎洞および蝶形骨洞それぞれを表す、片側3個で計6個の交換可能なガラスビンで、副鼻腔をシミュレートする。人工副鼻腔の洞を鼻模型につなぐために、長さ10mmの交換可能な人工洞口を用いた。また、模型には、人工外鼻孔に相当する二つの開口部と、鼻腔と気管をつなぐ咽頭をシミュレートする一つの開口部がある。付着模型には、エーロゾル剤の圧力変動の振幅を測定するために、鼻腔内部に圧力検出器も備えられている。
【0186】
この実験に使用した構造物に包含された内部容量は、前頭洞の各々で7.5ml、上顎洞の各々で23ml、そして蝶形骨洞の各々で13mlであった。洞口の直径は、どの洞でも1mm(左側)と3mm(右側)であった。洞に相当するガラスビンの各々の内部空間をろ過材のパッチで裏打ちした。
【0187】
試験配合物:活性成分3質量%を含むレボフロキサシンの水溶液を調製した。不活性成分は、キシリトール(2質量%)、塩化ナトリウム(0.029質量%)、硫酸マグネシウム六水和物(1.33質量%)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(0.01質量%)、および水であった。
【0188】
エーロゾル発生器及び変動手段:電子振動メッシュ原型ネブライザを、フレキシブルチューブと密封ノーズピースを介して、エーロゾル剤を成形模型の人工外鼻孔の一方に送る外気流を、受け入れるように改良した。アダプタのノーズピースをもう一方の外鼻孔に固定したが、アダプタには、流量抵抗器付き出口と、(模型で測定して)約20mbarの圧力変動を振動数36Hzで与える振動発生器と接続したフレキシブルチューブに、アダプタを接続する入口とがある、ただし、正味の如何なる空気流も無い。この特別な組立てでは、振動発生器から追加の正味流が加わらず大きな損失又は減衰も起こらないので、エーロゾル剤を模型に送る流れは、前記に規定した有効エーロゾル流と実質的に同じである。
【0189】
試験手法:各試験毎に、ネブライザの溜めにレボフロキサシン溶液0.5mlを注入した。次に、溜めが空になって装置のスィッチが自動的に切れるまで、ネブライザを連続様式で規定エーロゾル流で作動させた。ネブライザと同時に、振動発生器を連続様式で作動させた。その後、溜めに再びレボフロキサシン溶液0.5mlを注入した。そこで、エーロゾル剤を成形模型に送るチューブをもう一方の外鼻孔に固定し、そして溜めが空になるまで、ネブライザと振動発生器を再び同時に作動させた。エーロゾル剤の付着について評価するために、次に模型を分解した。各々の構成部品を適当な溶媒ですすいで活性成分を抽出し、それをHPLCで定量した。同様に、ネブライザの接触面、成形模型の残りの部分および流量制限器内部のろ過器における薬物量を分析した。成形模型の残り部分に検出された薬剤物質を、副鼻腔内で検出されたものに足して、全鼻洞付着を算定した。各流量毎に、完全な試験サイクルを2回実施した。
【0190】
結果:第1表は、様々な流量におけるレボフロキサシンの副鼻腔付着と全鼻洞付着(質量%)を示す。有効流量0.8、1.5、3.0及び4.5リットル/分では、並外れて高い度合いの副鼻腔及び鼻洞付着を示し、それらは、副鼻腔または鼻洞粘膜へのエーロゾル剤送達のために示唆された先行技術方法及び装置を試験したときに、本発明者が見い出した他の如何なる付着値よりもはるかに高いことが認められる。2×0.5mlの噴霧時間は、どの試験でも3乃至3.5分の範囲にあった。
【0191】
第 1 表
─────────────────────────────────
流量 試験 副鼻腔 全模型(鼻洞) 全回収
(l/分) 付着 付着
─────────────────────────────────
0.8 1 19.9% 62.2% 96.4%
0.8 2 22.0% 67.2% 95.8%
1.5 1 22.2% 64.6% 84.6%
1.5 2 22.0% 61.0% 85.9%
3.0 1 19.5% 52.2% 95.9%
3.0 2 19.7% 54.1% 93.9%
4.5 1 16.5% 44.9% 86.2%
4.5 2 16.6% 45.0% 87.0%
7.0 1 9.3% 28.1% 96.1%
7.0 2 10.4% 28.8% 94.8%
─────────────────────────────────
【0192】
[実施例2]
2l/分の流量(この場合にはこれも有効流量である)で作動させた、実施例1に記載した本発明の装置と、有効流量が7l/分の改良LCスプリント・ジュニア(LC SPRINT Junior、商標)ジェットネブライザを備え、これもまた振動エーロゾル剤を放出するパリ・サイナス(PARI SINUS、商標)装置との比較研究を、実施例1に記載した付着模型を用いて行った。両装置を、平均液滴サイズがおよそ3μmのエーロゾル剤を生成させるように調整し、両装置で振動の圧力振幅を(模型で測定して)20mbarにし、そして振動数を44Hzに設定した。
【0193】
試験配合物:レボフロキサシン15mgを等張食塩水3mlに溶解した。少流量ネブライザに2×1.5mlを注入した。
【0194】
結果:下記第2表に示すように、同じ注入薬物量でパリ・サイナス(商標)装置に比べて、少流量原型装置ではずっと高い薬物付着を達成することができる。また、本発明の装置による投与時間は、パリ・サイナス(商標)装置による投与時間よりも著しく短かった(6.7分対8.0分)。
【0195】
第 2 表
─────────────────────────────────
副鼻腔の位置と寸法 副鼻腔の付着薬物(μg)
装置の種類への依存
─────────────────────────────────
位置 副鼻腔容積 洞口径 パリ・ 本発明の
(ml) (mm) サイナス 装置
─────────────────────────────────
前頭右 7.5 3 24 188
前頭左 7.5 1 71 251
上顎右 23 3 145 825
上顎左 23 1 86 284
蝶形骨右 12 3 53 401
蝶形骨左 12 1 74 360
─────────────────────────────────
【0196】
[実施例3]
試験配合物:アジスロマイシン5.0質量%、塩化マグネシウム六水和物2.0質量%、メントール0.0125質量%、サッカリンナトリウム0.025質量%、およびキシリトール2.5質量%、並びにpH6.3に調節するための塩酸からなるアジスロマイシン配合物を使用して、本発明に係る装置の噴霧効率を調べた。アジスロマイシンの抗菌、抗炎症及び免疫刺激効果のために、この配合物は、鼻及び鼻傍の炎症及び感染症の治療に特に有用であると言える。さらに、この薬配合物は、本発明に係る装置で送り出されれば、鼻ポリープを治療するのにも適している。
【0197】
試験手法:最初に、種々のエーロゾル発生器(噴霧ヘッド)を用いて試験配合物を霧状にし、レーザー回折で質量中央径を測定した。実施例1に記載した付着研究には、質量中央径が3.0μmのエーロゾル剤を生成させるヘッドを選んだ。装置を一定流量1.0l/分、変動振動数36Hzで作動させた。
【0198】
各試験毎に、ネブライザの溜めに、上記のアジスロマイシン溶液(50mg/ml)0.5mlを注入した。次に、溜めが空になって装置のスィッチが自動的に切れるまで、ネブライザを連続様式で規定エーロゾル流で作動させた。ネブライザと同時に、振動手段を連続様式で作動させた。その後、溜めに再びアジスロマイシン溶液0.5mlを注入した。そこで、エーロゾル剤を成形模型に送るチューブをもう一方の外鼻孔に固定し、そして溜めが空になるまで、ネブライザと振動手段を再び同時に作動させた。エーロゾル剤の付着を評価するために、次に模型を分解した。各々の構成部品を適当な溶媒ですすいで活性成分を抽出し、それをHPLCで定量した。同様に、ネブライザの接触面、成形模型の残り部分および流量制限器内部のろ過器における薬物量を分析した。成形模型の残り部分で検出された薬剤物質を、副鼻腔内で検出されたものに足して、全鼻洞付着を算定した。実験を4回実施した。
【0199】
結果:第3表は、アジスロマイシンの副鼻腔付着(μg)を示す。注入薬物量のうちの30%は全六箇所の副鼻腔の洞に付着し、32%は鼻腔に付着した。その結果、鼻洞付着は62%であった。2×0.5mlの噴霧時間は、どの試験でも3.2乃至3.4分の範囲にあった。
【0200】
第 3 表
─────────────────────────────────
副鼻腔の位置と寸法 副鼻腔に付着した
位置 副鼻腔容積 洞口径 アジスロマイシン(μg)
(ml) (mm)
─────────────────────────────────
前頭右 7.5 0.5 214
前頭左 7.5 0.5 312
上顎右 23 2 5039
上顎左 23 2 5568
蝶形骨右 12 1 1661
蝶形骨左 12 1 1908
─────────────────────────────────
【0201】
[実施例4]
第4表に列挙した成分からなる水性ブデソニド配合物を使用して、本発明に係る装置の噴霧効率を調べた。最初に、種々のエーロゾル発生器(噴霧ヘッド)を用いて試験配合物を霧状にし、レーザー回折で質量中央径を測定した。実施例1に記載した付着研究には、質量中央径が3.0μmのエーロゾル剤を生成させるヘッドを選んだ。装置を一定流量1.0l/分、変動振動数36Hzで作動させた。
【0202】
第 4 表: 試験配合物の組成
─────────────────────────────────
成分 (質量%)
─────────────────────────────────
ブデソニド(用量:120μg/0.5ml) 0.0236
カプチゾール(商標) 3.57
クエン酸、無水 0.03
クエン酸ナトリウム、二水和物 0.05
塩化ナトリウム 0.57
エデト酸二ナトリウム、二水和物 0.01
注射用蒸留水 合計100.0
─────────────────────────────────
【0203】
試験手法:各試験毎に、ネブライザの溜めに、ブデソニド溶液0.5mlを注入した。次に、溜めが空になって装置のスィッチが自動的に切れるまで、ネブライザを連続様式で規定エーロゾル流で作動させた。ネブライザと同時に、振動手段を連続様式で作動させた。その後、溜めに再びブデソニド溶液0.5mlを注入した。そこで、エーロゾル剤を成形模型に送るチューブをもう一方の外鼻孔に固定し、そして溜めが空になるまで、ネブライザと振動手段を再び同時に作動させた。エーロゾル剤の付着を評価するために、次に模型を分解した。各々の構成部品を適当な溶媒ですすいで活性成分を抽出し、それをHPLCで定量した。同様に、ネブライザの接触面、成形模型の残り部分および流量制限器内部のろ過器における薬物量を分析した。成形模型の残り部分で検出された薬剤物質を、副鼻腔内で検出されたものに足して、全鼻洞付着を算定した。実験を3回実施した。
【0204】
結果:第5表は、ブデソニドの副鼻腔付着(μg)を示す。注入薬物量のうちの28%は全六箇所の副鼻腔の洞に付着し、33%は鼻腔に付着した。その結果、鼻洞付着は最初に注入した薬物質量の61%であった。2×0.5mlの噴霧時間は、どの試験でも3.3乃至3.5分の範囲にあった。
【0205】
第 5 表
─────────────────────────────────
副鼻腔の位置と寸法 副鼻腔に付着した
位置 副鼻腔容積 洞口径 ブデソニド(μg)
(ml) (mm)
─────────────────────────────────
前頭右 7.5 0.5 0.5
前頭左 7.5 0.5 0.5
上顎右 23 2 25.2
上顎左 23 2 28.0
蝶形骨右 12 1 8.3
蝶形骨左 12 1 9.5
─────────────────────────────────
【0206】
[実施例5]
99mTc−DTPAで放射性標識したクロモグリク酸二ナトリウム溶液(イソクロム(商標)パリ・ファーマ(IsoCrom PARI Pharma)、独国ミュンヘン)を用いたシンチグラフィ研究を、下記のようにして2人の健康なボランティアで行った。
【0207】
試験手法:ネブライザの溜めに、99mTc−DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)で標識した等張クロモグリク酸塩溶液およそ1.0mlを注入した。次に、各外鼻孔にネブライザを連続様式で、規定エーロゾル流量1.0l/分、変動振動数36Hzで10秒間作動させた。投与後直ちに、各ボランティアをガンマカメラの前方位置につかせて付着画像を得た。投与後24時間まで様々な時間経過で追加の画像を得た。各画像の壊変修正した計数を時間に対してプロットし、そしてデータに指数回帰曲線を合わせた。回帰方程式から半減期(T1/2)と時定数(τ)を算出した。第6表に、データを示す。
【0208】
公表されているクリアランスデータ(サマン、外著、「ネブライザと水性スプレーポンプで発生させたエーロゾル剤の鼻付着及びクリアランスの比較」、ファーマスーティカル・リサーチ、第16巻、第10号、1999年)を、同じように処理して、活性保持の半減期と時定数を、鼻スプレー液(T1/2=0.75h、τ=1.0h)、およびネブライザ(T1/2=1.0h、τ=1.5h)で得た。
【0209】
第 6 表
────────────────────────────────────
被検者1 被検者2
時間(h) 保持(%) 時間(h) 保持(%)
────────────────────────────────────
0.03 100 0.06 100
1.28 72.2 0.68 68.8
3.08 63.7 1.2 62.6
22.7 8.4 4.5 48.9
5.9 42.0
24.6 8.7
────────────────────────────────────
結果:T1/2=6.3h、τ=9.1h T1/2=6.8h、τ=9.8
────────────────────────────────────
【0210】
本発明に係る装置による薬物投与で得られた薬物保持は、鼻薬物投与に適したネブライザに比べて約6倍も高く(約6.5対1h)、また既定の計量鼻ポンプスプレーよりも約8倍も高い(約6.5対0.75h)。
【0211】
[実施例6]
慢性鼻副鼻腔炎及び/又は嚢胞性繊維症により引き起こされる鼻及び副鼻腔の細菌感染症を治療するための、二種類の共力して作用する抗生物質からなる組合せ生成物用配合物は、マクロライド系抗生物質と、アミノ配糖体、フルオロキノロンまたはセファロスポリンまたはモノバクタムとから構成することができる。以下に、錯体生成賦形剤として二価イオンを用いる幾つかの例を記す。
【0212】
実施例6−1:アジスロマイシンモノハイドレートエタノラートとトブラマイシンとの組合せ生成物を、次のようにして配合した:アジスロマイシン5.0gを、HCl(1M)を用いて注射用蒸留水約82gに溶解した。等モル量の塩化マグネシウム六水和物(約1.4g)を溶液に加えて、完全に溶解するまでかき混ぜた。残りの味覚マスキング剤トレハロース(2.0質量%)、サッカリンナトリウム(0.025質量%)、およびL−メントール(0.025質量%)を加えて撹拌しながら溶解し、次いで1N NaOHでpHをpH6.3に調節し、そして容量を100mlにした。次に、トブラマイシン10.0gをこの溶液に加えた。最終溶液を空気層流下で除菌し、そしてそのうちの0.5mlを、ポリエチレン製ブロー注入シールバイアルに注入し、そののちそれを密封した。2−8℃で3週間貯蔵した後、この配合物の質量オスモル濃度を測定して、748mOsmol/kgであった。
【0213】
実施例6−2:アジスロマイシンモノハイドレートエタノラート5.0g、および塩化マグネシウム六水和物約2.5gを、1N HClを滴下しながら注射用蒸留水約86gに溶解して、pH約6に達した。レボフロキサシン3.0gを加え、混合物を溶解するまでかき混ぜた。その後、NaOHでpHをpH6.3に調節し、そして容量を100mlに調節した。得られた透明な溶液を空気層流下で除菌した。次に、溶液2mlを、予備減菌して窒素ガスを供給したポリエチレン製ブロー注入シールバイアルに注入した。
【0214】
[実施例7]
この実施例では、グラム陰性及びグラム陽性菌により引き起こされる鼻及び副鼻腔の感染症を治療するための、本発明に係る装置による噴霧用の組合せ生成物として、アズトレオナム75mg/mlと、アジスロマイシン75mg/mlとからなる凍結乾燥物質の製造について記載する。
【0215】
アズトレオナム約7.5gを、注射用蒸留水約75mlに懸濁させた。計算量のリシン一水和物の90%を、計算量の注射用蒸留水の約15%に溶解した(中和溶液I)。リシン一水和物溶液(中和溶液I)を、絶えず撹拌しながらpH制御(pH計)しながら、アズトレオナム懸濁液に緩やかに加えた。リシン一水和物5.0gを、注射用蒸留水50.0mlに溶解した(中和溶液II)。この溶液(中和溶液II)を、所望のpH値を得るまで(絶えず撹拌しながらpH制御しながら)、中和したアズトレオナム溶液に加えた。注射用蒸留水を加えて、計算最終容量(=凍結乾燥溶液)を得た。このアズトレオナム溶液に、下記のようにして調製したアジスロマイシン溶液(75mg/ml)を加えた。
【0216】
アジスロマイシンモノハイドレートエタノラート7.6gを、HCl(1M)を用いて注射用蒸留水約90gに溶解した。マンニトール3%、および塩化マグネシウム六水和物約2.1gをこの溶液に加えて、完全に溶解するまでかき混ぜた。pHを1N NaOHでpH6.3に調節し、そして注射用蒸留水を加えることで容量を100mlにした。
【0217】
その後、両溶液約90mlを1:1の比で一緒に混ぜ合わせ、そして0.22μmろ過器に通してろ過した。4mlアリコートを予備減菌した褐色ガラスバイアルに注入し、凍結乾燥庫(クライスト・エプシロン(Christ Epsilon)2−6D)に入れて、下記の条件に従って凍結乾燥した。
【0218】
凍結: 6時間、−40℃、減圧無し
第一乾燥: 18時間、−10℃、0.25mbar
第二乾燥: 18時間、+20℃、0.04mbar
【0219】
乾燥サイクルの完了後にバイアルを凍結乾燥庫内で閉じて、そののち密封した。ケークを2mlの減菌水に溶解し、そして溶液をエーロゾル剤として新規な鼻傍薬物送達システムを用いて送り出して、グラム陰性及びグラム陽性菌により引き起こされた感染症を患い、かつ様々な部類の静脈内及び経口抗生物質による有効な治療に失敗した患者を治療した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を生成させる方法であって、該エーロゾル剤が分散液相と連続気相とからなり、そして下記の工程を含む方法:
(a)エーロゾル剤を、約5リットル/分未満の有効流量で放出するように調整したエーロゾル発生器を用意する工程、
(b)エーロゾル剤の圧力変動を、約10乃至約90Hzの範囲の振動数で生じさせる手段を用意する工程、
(c)上記活性化合物を含む液体組成物であって、単位用量の活性化合物が、約5ml未満の容量の該液体組成物に含まれている液体組成物を用意する工程、そして
(d)該液体組成物を霧状にして約5リットル/分未満の有効流量のエーロゾル剤にするために、上記エーロゾル発生器を作動させ、同時に上記手段を作動させて、約10乃至約90Hzの範囲の振動数にてエーロゾル剤を圧力変動させる工程。
【請求項2】
エーロゾル発生器が、エーロゾル剤を約3リットル/分以下の有効流量で放出する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
圧力変動をもたらす手段が、圧力変動の振幅を少なくとも約5mbarで維持する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
エーロゾル発生器が、エーロゾル剤を連続気相1ml当り分散液相少なくとも約0.05μlの密度で放出する前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
エーロゾル発生器が、超音波ネブライザおよび電子振動膜ネブライザからなる群より選ばれたネブライザを有する前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
単位用量の活性化合物が、約2.5ml未満の容量の液体組成物に含まれている前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項7】
エーロゾル発生器が、単位用量の活性化合物を含む量のエーロゾル剤を、約10分未満以内で放出する前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項8】
分散液相の質量中央径が、レーザー回折での測定値で約2.0乃至約6.0μmを示す前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)を、変動する有効エーロゾル流が形成されるように行う前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)に、有効エーロゾル流が実質的に存在しない相が一つ以上含まれる請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第一の時間ではエーロゾル剤をゼロより大きい第一有効流量で放出させ、続く第二の時間ではエーロゾル剤を第一流量よりも実質的に少ない第二流量で放出させる請求項9に記載の方法。
【請求項12】
第二流量が約ゼロである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第一の時間が、鼻洞領域をエーロゾル剤の新たな一部で満たすことを確実にする持続時間を示す請求項11に記載の方法。
【請求項14】
第二の時間の持続時間が約0.5乃至約2秒である請求項11に記載の方法。
【請求項15】
(i)エーロゾル剤の圧力が変動する間は有効エーロゾル流が実質的に存在しない相と、(ii)エーロゾル剤が変動しない間は有効エーロゾル流が実質的にゼロでない相とを交互に生成させながらエーロゾル剤を放出させる請求項10に記載の方法。
【請求項16】
活性化合物を含む液体組成物を用意する工程が、次の工程を含む前記請求項のいずれかの項に記載の方法:
(a)上記活性化合物を含む固体組成物を用意する工程、
(b)上記固体組成物を再構成するための液体を用意する工程、そして
(c)上記固体組成物を該液体で再構成して、活性化合物を含む液体組成物を得る工程。
【請求項17】
活性化合物が、抗炎症化合物、抗アレルギー薬、抗生物質、抗体、抗真菌薬、抗感染症薬、抗酸化薬、防腐薬、抗ウイルス薬、細胞増殖抑制薬、うっ血除去薬、遺伝子、糖質コルチコイド類、免疫刺激剤、ロイコトリエン桔抗薬、局所麻酔薬、粘液溶解薬、オリゴヌクレオチド類、ペプチド類、植物エキス類、蛋白質、ワクチン、ビタミン類、および創傷治療薬からなる群より選ばれる前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項18】
活性化合物がマクロライド系抗生物質を10乃至100mg/mlの濃度で含み、液体組成物が二価の陽イオンを含み、そして二価の陽イオンの全モル濃度とマクロライド系抗生物質のモル濃度との比が、約0.1:1乃至10:1の範囲にある前記請求項のいずれかの項に記載の方法。
【請求項19】
マクロライド系抗生物質がアジスロマイシンである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
二価の陽イオンが、カルシウムおよびマグネシウムの水溶性の無機及び有機塩から選ばれる請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
活性化合物が、アジスロマイシンとフルオロキノロンまたはアミノ配糖体とを、1:3乃至3:1の範囲の比で組み合わせたものである請求項1乃至17のいずれかの項に記載の方法。
【請求項22】
活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤であって、該エーロゾル剤が分散液相と連続気相とからなり、そして該エーロゾル剤の圧力が約10乃至約90Hzの範囲の振動数で変動し、かつ該エーロゾル剤が約5リットル/分未満の有効流量を示すエーロゾル薬剤。
【請求項23】
有効流量が約3リットル/分以下である請求項22に記載のエーロゾル剤。
【請求項24】
圧力が少なくとも約5mbarの振幅で変動する請求項22または23に記載のエーロゾル剤。
【請求項25】
連続気相1ml当り分散液相を少なくとも約0.05μlの密度で有する請求項22乃至24のいずれかの項に記載のエーロゾル剤。
【請求項26】
分散液相の質量中央径が、レーザー回折での測定値で約2.0乃至約6.0μmである請求項22乃至25のいずれかの項に記載のエーロゾル剤。
【請求項27】
活性化合物が、抗炎症化合物、抗アレルギー薬、抗生物質、抗体、抗真菌薬、抗感染症薬、抗酸化薬、防腐薬、抗ウイルス薬、細胞増殖抑制薬、うっ血除去薬、遺伝子、糖質コルチコイド類、免疫刺激剤、ロイコトリエン桔抗薬、局所麻酔薬、粘液溶解薬、オリゴヌクレオチド類、ペプチド類、植物エキス類、蛋白質、ワクチン、ビタミン類、および創傷治療薬からなる群より選ばれる請求項22乃至26のいずれかの項に記載のエーロゾル剤。
【請求項28】
活性化合物がマクロライド系抗生物質を10乃至100mg/mlの濃度で含み、液体組成物が二価の陽イオンを含み、そして二価の陽イオンの全モル濃度とマクロライド系抗生物質のモル濃度との比が、約0.1:1乃至10:1の範囲にある請求項22乃至27のいずれかの項に記載のエーロゾル剤。
【請求項29】
マクロライド系抗生物質がアジスロマイシンである請求項28に記載のエーロゾル剤。
【請求項30】
二価の陽イオンが、カルシウムおよびマグネシウムの水溶性の無機及び有機塩から選ばれる請求項28または29に記載のエーロゾル剤。
【請求項31】
活性化合物が、アジスロマイシンとフルオロキノロンまたはアミノ配糖体とを、1:3乃至3:1の範囲の比で組み合わせたものである請求項22乃至27のいずれかの項に記載のエーロゾル剤。
【請求項32】
任意の下部又は上部気道疾患の予防、管理または治療の目的で、活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を生成させるための該活性化合物の使用であって、該エーロゾル剤が分散液相と連続気相とからなり、そして下記の工程を含む使用:
(a)エーロゾル剤を、約5リットル/分未満の有効流量で放出するように調整したエーロゾル発生器を用意する工程、
(b)エーロゾル剤の圧力変動を、約10乃至約90Hzの範囲の振動数でもたらす手段を用意する工程、
(c)該活性化合物を含む液体組成物であって、単位用量の活性化合物が、約5ml未満の容量の該液体組成物に含まれてなる液体組成物を用意する工程、そして
(d)該エーロゾル発生器を作動させることにより、該液体組成物を霧状にして約5リットル/分未満の有効流量のエーロゾル剤とし、同時に該手段を作動させて、エーロゾル剤を約10乃至約90Hzの範囲の振動数で圧力変動させる工程。
【請求項33】
疾患が、ぜん息、嚢胞性繊維症、急性もしくは慢性の副鼻腔炎、または鼻ポリープである請求項32に記載の使用。
【請求項34】
エーロゾル剤を、週に少なくとも1回、2回または3回、もしくは少なくとも3日間にわたって日に1回の頻度で投与する請求項32または33に記載の使用。
【請求項35】
活性化合物がマクロライド系抗生物質を10乃至100mg/mlの濃度で含み、液体組成物が二価の陽イオンを含み、そして二価の陽イオンの全モル濃度とマクロライド系抗生物質のモル濃度との比が、約0.1:1乃至10:1の範囲にある請求項32乃至34のいずれかの項に記載の使用。
【請求項36】
マクロライド系抗生物質がアジスロマイシンである請求項35に記載の使用。
【請求項37】
二価の陽イオンが、カルシウムおよびマグネシウムの水溶性の無機及び有機塩から選ばれる請求項35または36に記載の使用。
【請求項38】
活性化合物が、アジスロマイシンとフルオロキノロンまたはアミノ配糖体とを、1:3乃至3:1の範囲の比で組み合わせたものである請求項32乃至34のいずれかの項に記載の使用。
【請求項39】
活性化合物を鼻の粘膜、洞口鼻道系または副鼻腔に送り込むためのエーロゾル薬剤を発生させる装置であって、エーロゾル剤を約5リットル/分未満の有効流量で放出するように調整されたエーロゾル発生器、およびエーロゾル剤を約10乃至約90Hzの範囲の振動数で圧力変動させる手段を含む装置。
【請求項40】
エーロゾル発生器が、エーロゾル剤を約3リットル/分以下の有効流量で放出するように調整されている請求項39に記載の装置。
【請求項41】
圧力変動をもたらす手段が、圧力変動の振幅を少なくとも約5mbarで維持するように調整されている請求項39または40に記載の装置。
【請求項42】
エーロゾル発生器が、超音波ネブライザおよび電子振動膜ネブライザからなる群より選ばれたネブライザを有する請求項39乃至41のいずれかの項に記載の装置。
【請求項43】
ネブライザが、エーロゾル剤を放出する第一ノーズピースを含み、そして圧力変動をもたらす手段が、圧力変動を伝える第二ノーズピースを含む請求項39乃至42のいずれかの項に記載の装置。
【請求項44】
副鼻腔に付着することができ、かつ異なるクリアランス機構とエーロゾル剤の鼻付着に比べて長い滞留時間とを有するエーロゾル剤をネブライザが生成させる請求項39乃至43のいずれかの項に記載の装置。
【請求項45】
ヒトの鼻の成形模型に適用したときに体外副鼻腔薬物付着が少なくとも8%であり、そして公称投与量の2時間体内クリアランス率が50%未満であることを特徴とする請求項39乃至44のいずれかの項に記載の装置。
【請求項46】
任意の下部もしくは上部の気道疾患、または任意の下部もしくは上部気道疾患により引き起こされる任意の症状もしくは状態の予防、管理又は治療のための、請求項39乃至45のいずれかの項に記載の装置の使用。
【請求項47】
疾患が、ぜん息、嚢胞性繊維症、急性又は慢性副鼻腔炎または鼻ポリープである請求項46に記載の使用。
【請求項48】
任意の下部もしくは上部の気道疾患、またはそのような疾患により引き起こされる任意の症状もしくは状態の予防、管理又は治療を必要とする被検者に、そのような予防、管理または治療を行なう方法であって、(i)請求項1乃至12のいずれかの項に記載の方法に従って、エーロゾル薬剤を生成させる工程、そして(ii)エーロゾル剤を被検者に投与する工程を含む方法。
【請求項49】
疾患が、ぜん息、嚢胞性繊維症、急性もしくは慢性副鼻腔炎、または鼻ポリープである請求項48に記載の方法。
【請求項50】
活性化合物がマクロライド系抗生物質を10乃至100mg/mlの濃度で含み、液体組成物が二価の陽イオンを含み、そして二価の陽イオンの全モル濃度とマクロライド系抗生物質のモル濃度との比が、約0.1:1乃至10:1の範囲にある請求項48または49に記載の方法。
【請求項51】
マクロライド系抗生物質がアジスロマイシンである請求項50に記載の方法。
【請求項52】
二価の陽イオンが、カルシウムおよびマグネシウムの水溶性の無機又は有機塩から選ばれる請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】
活性化合物が、アジスロマイシンとフルオロキノロンまたはアミノ配糖体とを、1:3乃至3:1の範囲の比で組み合わせたものである請求項48または49に記載の方法。

【公表番号】特表2010−536519(P2010−536519A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522253(P2010−522253)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007090
【国際公開番号】WO2009/027095
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(507253026)パーリ・ファルマ・ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】