説明

鼻腔内投与組成物

本発明は、グラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩の鼻腔内投与のための組成物を提供する。本発明の好ましい組成物は水性液剤の形態をとる。本発明の組成物はキトサン、その塩又は誘導体、又はキトサンの誘導体の塩を任意で含む。この組成物は悪心及び/又は嘔吐の治療又は予防に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物のグラニセトロン及びその薬剤学的に許容可能な塩類の鼻腔内投与のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
グラニセトロン(分子量312.4)は1−メチル−N−(9−メチル−9−アザビシクロ[3.3.1]ノン−3−イル)−1H−インダゾール−3−カルボキサミドであり、次の構造を有する。
【0003】
【化1】

【0004】
グラニセトロンはセロトニン5−HT受容体の拮抗薬であり、制吐作用を有する。グラニセトロンは、化学受容器引金帯とおそらくは上部消化管における受容体に結合することにより作用すると考えられている(pages G86-G90, Therapeutic Drugs, Dollery (ed), 2ndedition, Churchill Livingstone, Edinburgh, 1999を参照されたい)。
【0005】
典型的にはグラニセトロンは塩酸塩(分子量348.9)として治療目的で投与されるが、通常、塩基で表される(塩基1mgは塩酸塩1.12mgに相当する)。
【0006】
細胞傷害性の化学療法又は放射線療法により誘発される悪心及び嘔吐を治療するためには、典型的な成人の経口用量は、治療開始前1時間以内に1〜2mg、次に1回又は2回に分割した1日量2mgである。静脈内注射では用量は成人及び小児の双方において米国では10μg/kgである。成人における術後の悪心及び嘔吐の予防又は治療には、静注により1mgを投与する(1日量最大2mg)(Martindale, The Complete Drug Reference, 33rd Edition, Pharmaceutical Press 2002, pages 1227 and 1228)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
悪心及び嘔吐は経口投与薬剤の吸収を阻害する。薬剤の経口投与に関連する課題を回避する経路により投与するグラニセトロンを提供することは有益であろう。本発明はこの課題を解決しようとするものである。
【0008】
本発明では経口経路による投与に比し、グラニセトロンの鼻腔内投与経路は有利であり得るとともに、有意な利益を提供し得ることを見出した。特に、鼻腔内投与経路は悪心及び/又は嘔吐の治療又は予防において有利であることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、グラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩を含む、鼻腔内送達用の組成物を提供する。
【0010】
グラニセトロンは遊離塩基として、或いは薬剤学的に許容可能な塩の形態で使用し得る。好適な薬剤学的に許容可能な塩類には、塩酸塩、メシル酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、琥珀酸塩、フマル酸塩、及びグルコン酸塩が含まれるが、これらに限定されない。塩酸グラニセトロンを用いることが好ましい。
【0011】
グラニセトロンの塩を含有する組成物を生成する場合、適切な塩を用いるか、或いはグラニセトロン塩基を好適な酸の中にin situで溶解することができる。
【0012】
当該組成物は鼻腔内送達に適した任意の形態でよい。好適な形態には水性又は非水性液剤及び粉末剤が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1つの態様において、本発明は鼻腔内送達に好適な、グラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩を含む水性液剤を提供する。
【0014】
本発明の水性液剤は、好ましくは0.2〜150mg/ml(遊離塩基として表す)(例えば、1〜150mg/ml)、より好ましくは0.5〜125mg/ml(例えば、2〜125mg/ml)、最も好ましくは1〜100mg/ml(例えば、5〜100mg/ml)の濃度でグラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩を含む。従って、グラニセトロンを塩酸塩の形態で用いる際、塩酸グラニセトロンの濃度は、好ましくは0.22〜168mg/ml(例えば、1.1〜168mg/ml)、より好ましくは0.56〜140mg/ml(例えば、2〜140mg/ml)、最も好ましくは1.12〜112mg/ml(例えば、6〜112mg/ml)である。
【0015】
本発明の水性液剤の粘度は、好ましくは250センチポアズ(cp)未満、より好ましくは200cp未満、最も好ましくは150cp未満である。
【0016】
本発明の水性液剤は等張性或いはほぼ等張性であることが好ましい。液剤の浸透圧は、好ましくは0.15〜0.45osmol/kg、より好ましくは0.20〜0.40osmol/kg、最も好ましくは0.25〜0.35osmol/kg、例えば、約0.29osmol/kgである。
【0017】
水性液剤の浸透圧は、当該技術分野で公知の任意の好適な浸透圧調整剤の添加により、所望の値に調整し得る。浸透圧を調整するために使用し得る薬剤には、マンニトール若しくはソルビトールのようなポリオール、ブドウ糖のような糖類、又は塩化ナトリウムのような塩類が含まれるが、これらに限定されない。水性液剤の浸透圧を調整するのに好ましい薬剤は塩化ナトリウム及びマンニトールである。これらの薬剤は単独で、或いは併用して用い得る。
【0018】
本発明の水性液剤は、好ましくは3〜8、より好ましくは3.5〜7.5、最も好ましくは4.0〜7.0のpH値を有する。液剤のpHは、任意の有機若しくは無機の酸又は有機若しくは無機の塩基を用いて所望の値に調整し得る。好適な有機酸には、酢酸、クエン酸、グルタミン酸、及びメタンスルホン酸が含まれるが、これらに限定されない。好適な無機酸には塩酸及び硫酸が含まれるが、これらに限定されない。好適な有機塩基にはメグルミン、リシン、及びトロメタミン(TRIS)が含まれるが、これらに限定されない。好適な無機塩基には水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが含まれるが、これらに限定されない。或いは、又はこれに加えて、pHを調整或いは維持するために組成物中に緩衝系を含み得る。好適な緩衝系の例には、リン酸ニ水素ナトリウム/リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム/クエン酸、及びクエン酸/リン酸ナトリウムが含まれるが、これらに限定されない。
【0019】
本発明の水性液剤は、キトサン、キトサンの塩又は誘導体、又はキトサンの誘導体の塩を更に含み得る。
【0020】
キトサンはグルコサミン及びN−アセチルグルコサミンを含むカチオン性バイオポリマーであり、生体吸着性を有し、鼻腔のような粘膜表面にわたってある種の薬剤化合物の全身性バイオアベイラビリティを向上させることが示されている(Illum, Drug Discovery Today, 7, 1184-1189, 2002を参照されたい)。
【0021】
「キトサン」という用語ではあらゆるポリグルコサミン及び異なる分子量のグルコサミン物質のオリゴマーを含むキチン、即ちポリ−N−アセチル−D−グルコサミンのあらゆる誘導体を含み、ここでN−アセチル基の大半は加水分解により除去されている(脱アセチル化)。本発明に従って、脱アセチル化により除去されたN−アセチル基の割合を表す脱アセチル化の程度は、好ましくは40〜97%の範囲、より好ましくは60〜96%の範囲、最も好ましくは70〜95%の範囲である。
【0022】
本発明において用いられるキトサン、キトサンの誘導体又は塩は、好ましくは10,000〜1,000,000ダルトンの範囲、より好ましくは15,000〜750,000ダルトンの範囲、最も好ましくは20,000〜500,000ダルトンの範囲の分子量を有する。
【0023】
キトサンの塩類は本発明の使用に好適である。種々の有機酸及び無機酸を含む塩類は好適である。このような好適な塩類には硝酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、塩酸塩、及び酢酸塩が含まれるが、これらに限定されない。好ましい塩類は塩酸塩及びグルタミン酸塩である。
【0024】
キトサン誘導体とその塩類も本発明に好適である。好適なキトサン誘導体にはアシル基及び/又はアルキル基をキトサンのアミノ基ではなく水酸基に結合して形成されるエステル、エーテル、又は他の誘導体が含まれるが、これらに限定されない。この例にはキトサンのO−アルキルエーテル及びキトサンのO−アシルエステルが含まれる。ポリエチレングリコールに共役結合したような修飾キトサンを本発明に用い得る。キトサンとポリエチレングリコールの結合体はWO99/01498に記述されている。
【0025】
本発明における使用に好適なキトサンは種々の供給源から得ることが可能であり、これにはノルウェー、ハウゲスン(Haugesund)、Primex社;ノルウェー、ドランメン(Drammen)、NovaMatrix社;米国、メリーランド州、Seigagaku America Inc.;インド、Meron(India)Pvt,Ltd.;米国、バージニア州、Vanson Ltd;及び英国、AMS Biotechnology Ltd.が含まれる。好適な誘導体にはRoberts, Chitin Chemistry, MacMillan Press Ltd., London (1992)に開示されている誘導体が含まれる。
【0026】
特に好ましいキトサン化合物を挙げると、グルタミン酸キトサン(ノルウェー、ドランメン、NovaMatrix社からProtasan UPG213として市販されている)が含まれる。
【0027】
水性液剤中のキトサンの濃度は、好ましくは0.5〜50mg/ml、より好ましくは0.75〜35mg/ml、最も好ましくは1〜20mg/mlである。
【0028】
本発明の好ましいキトサン含有水性液剤は、約1〜112mg/ml(例えば、6〜60mg/ml)塩酸グラニセトロンと2〜10mg/mlグルタミン酸キトサンを含む。
【0029】
キトサン含有水性液剤は前述の範囲内の浸透圧を有することが好ましい。水性液剤の浸透圧を調整するための前述の薬剤を、キトサン含有液剤の浸透圧を調整するために用いることができる。
【0030】
キトサン、その塩又は誘導体、又はキトサン誘導体の塩を含有する水性液剤は、好ましくは3〜6、より好ましくは3.5〜5.8、最も好ましくは4.0〜5.6のpHを有する。キトサン含有液剤のpHは前述のように調整することができるが、クエン酸塩の使用はキトサン存在下で沈殿物を生成するため、クエン酸塩を使用しないことが好ましい。
【0031】
驚くべきことに、本発明ではキトサン、その塩又は誘導体、又はキトサン誘導体の塩の使用によりグラニセトロンの鼻腔内吸収率が上昇することを見出した。「吸収率の上昇」とは、投与後に最大血漿濃度に達する時間(Tmax)がキトサンを含有しない組成物に比し短いということである。Tmaxが短いということはより迅速な作用開始ということになるであろう。
【0032】
本発明の液剤を調製するために用いる水は、溶解酸素含量を最小にして薬剤安定性を最大にすべく、沸騰させて冷却し、及び/又はヘリウムのようなガスにより浄化することができる。注射用の水のような精製水を本発明の組成物に用いることができる。
【0033】
或いは、本発明の組成物は非水性液剤又は粉末組成物の形態でも可能である。
【0034】
本発明の非水性液剤を調製するために用い得る溶媒には、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリコフロール、安息香酸ベンジル、及びCremophor(登録商標)(ドイツ、BASF)のようなポリオキシエチレンヒマシ油誘導体が含まれるが、これらに限定されない。通常、本発明の非水性液剤中のグラニセトロン又はその塩の濃度は、水性液剤について前述したようになる。本発明の非水性液剤の粘度は、通常、水性液剤について前述したようになる。
【0035】
本発明の液剤は増粘剤、粘着剤、又はゲル化剤を含有することも可能であり、例えば、セルロース(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及び微結晶セルロース)、カルボマー、ポリエチレンオキシド、ポロキサマー、又はポリエチレングリコールがあるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の液剤は、当該技術分野において既知の他の薬剤学的に許容可能な成分を含有することも可能である。このような成分には酸化防止剤(例えば、メタ重亜硫酸ナトリウム)、キレート化剤(例えば、エデト酸又はその塩類の1つ)、防腐剤(例えば、ソルビン酸カリウム、パラベン、フェニルエチルアルコール、又は塩化ベンザルコニウム)、着香剤、及び甘味剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の液剤は防腐剤及び/又は滅菌剤を含有することが好ましい。組成物から防腐剤を除外する場合、当該技術分野において既知の任意の好適な方法を用いて、例えば、組成物を無菌性に、或いは最終的に滅菌することにより、微生物を除去することが可能である。
【0038】
本発明の組成物は非発熱原性であることが好ましい。
【0039】
投与する薬剤物質を粉末形態に製剤化する方法は、当業者には公知である。例えば、本発明の粉末製剤は、薬剤粉末と他の成分のブレンドの形態又は顆粒若しくはミクロスフェアの形態とすることができる。
【0040】
本発明に基づく粉末ブレンドは、グラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩と、当該技術分野において標準的な不活性成分を混合することにより調製することができる。このような不活性成分には、リン酸カルシウム、ラクトース、ショ糖及びブドウ糖のような糖類のような希釈剤、マンニトール及びソルビトールのようなポリオール、微結晶セルロース、コロイド状シリカのような滑走剤、ステアリン酸マグネシウム及び水素添加植物油のような潤滑剤、ポリソルベートのような界面活性剤、並びにポリエチレングリコールが含まれるが、これらに限定されない。粉末ブレンドはキトサン、キトサンの塩又は誘導体、又はキトサンの誘導体の塩を任意に含有することができる。
【0041】
均質の粉末ブレンドを小規模で調製するには乳棒と乳鉢及び/又は篩が適切であり得るが、大規模な製造には機械式ミキサーが必要である。多種類のミキサーが利用でき、これらは文献、例えば、Chapter 37, Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20thEdition, Lipincott, Williams and Wilkins, Baltimore, 2000に記述されている。
【0042】
本発明の製剤を調製する別の工程には、噴霧乾燥、造粒、及び超臨界液の工程が含まれる。
【0043】
本発明の粉末組成物が顆粒を含む場合、これらの顆粒は湿式造粒、乾式造粒(スラッギング)、押出し/球状化、流動層造粒、及びスプレー凝固のような当業者に既知の技法により生成し得る。造粒工程に関する更なる詳細事項については、文献、例えば、Chapter 6, Pharmaceutical Principles of Solid Dosage Forms, J. T. Carstensen, Technomic, Lancaster, PA, 1993に見出すことができる。
【0044】
グラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩に加え、他の成分を顆粒に組み入れることができる。このような他の成分には、デンプン類、リン酸カルシウム、ラクトース、ブドウ糖、マンニトールのような希釈剤、微結晶セルロースのようなセルロース、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、ゼラチン、及びアカシアのような結合剤、デンプン、クロスカルメロース、及びクロスポビドンのような崩壊剤、コロイド状シリカのような滑走剤、並びにステアリン酸マグネシウム及び水素添加植物油のような潤滑剤が含まれるが、これらに限定されない。顆粒はキトサン、キトサンの塩又は誘導体、又はキトサンの誘導体の塩を任意に含有することができる。
【0045】
ミクロスフェアの調製方法は当業者には既知であり、噴霧乾燥、界面重合、コアセルベーション(coarcervation)/相分離、及び溶媒蒸発が含まれるが、これらに限定されない。ミクロスフェアを生成する方法は、例えば、Physicochemical Principles of Pharmacy, 3rd Edition, pages 357 to 360, A T Florence and D Attwood, Macmillan, London, 1998及びPhysical Pharmacy, 4th Edition, pages 516 to 519, A Martin, Wilkins and Wilkins, Baltimore, 1993に記述されている。
【0046】
グラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩に加え、本発明において用いられるミクロスフェアは、ミクロスフェアに含まれるのに好適であると当該技術分野において公知である成分、例えば、デンプン類、デキストラン、ゼラチン、アルブミン、コラーゲン、ヒアルロン酸、キトサン、ラクトース、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、Eudragit(登録商標)ポリマー(ドイツ、Degussa社)のようなメタクリレートコポリマー、メチルセルロースのようなセルロース、及びポリ(ラクチド−co−グリコリド)のようなポリエステルを含み得るが、これらに限定されない。
【0047】
本発明の粉末製剤は、好ましくは製剤の2〜90重量%(遊離塩基として算出)、より好ましくは5〜70重量%、最も好ましくは10〜50重量%グラニセトロン含量を有する。
【0048】
本発明の粉末製剤が、キトサン、キトサンの塩又は誘導体、又はキトサンの誘導体の塩を含む場合、これらは、好ましくは製剤の2〜95重量%(遊離塩基として算出)、より好ましくは5〜90重量%、最も好ましくは10〜80重量%キトサン含量を有する。
【0049】
本発明の粉末製剤は、好ましくは10〜900μm、より好ましくは10〜600μm、最も好ましくは10〜300μmの範囲の粒径を有する。より具体的には、平均体積径(D50%)として表され、画像解析と組み合わせた光学顕微鏡法のような技法により計測される平均粒径は、これらの範囲にある。D50%は、好ましくは25〜700μm、より好ましくは25〜450μm、最も好ましくは25〜200μmである。更に、粒子の僅か10容量%が10μm未満の径(D10%)を有し、粒子の少なくとも90容量%が粒度範囲の上限を超えない径(D90%)を有する。
【0050】
本発明の製剤は肺への送達の可能性を最小限にすべく、10μm未満の径を有する粒子を相当数含有しないことが望ましい。
【0051】
本発明の組成物はグラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩に加え、別の薬剤を含み得る。任意の適切で適合性のある追加薬剤を用いることができる。好ましい追加薬剤には、デキサメタゾン又はその薬剤学的な塩又はエステルのような制吐コルチコステロイドが含まれる。
【0052】
本発明の組成物は任意の好適な形態で鼻腔に投与し得る。例えば、本発明の液剤は滴剤又は噴霧剤の形態で鼻腔に投与することができ、本発明の粉末剤はエアロゾル化形態で投与することができる。
【0053】
本発明の液剤を投与する好ましい方法は噴霧装置を用いることである。噴霧装置は単回(「単位」)投与又は頻回投与システムにすることができ、例えば、瓶、ポンプ、及びアクチュエータを含み、種々の市販供給源から得ることができ、これにはPfeiffer社(ドイツ)、Valois社(フランス)、Calmar社(ドイツ)、Ursatech社(ドイツ)、Bespak社(英国)、及びBecton−Dickinson社(米国)が含まれる。米国特許第5,655,517号に記載されているような静電噴霧装置も、本発明の液剤の鼻腔内投与に好適である。
【0054】
噴霧装置では単回の噴霧操作で分配される液体の典型的な容量は、0.01〜0.14mlであり、例えば、0.05〜0.14mlであって、例えば、0.1mlである。各鼻孔に最大で約0.2mlを投与し(即ち、2×0.1mlの噴霧)、薬剤の治療用量を提供することは実際的な案であるが、最も受容可能な投与方法は一方の鼻孔又は両方の鼻孔への1回噴霧であろう。1回又は2回の0.1ml噴霧の総量としてグラニセトロン用量2mg(遊離塩基として表す)を投与することに基づき、薬物濃度は約11〜約22mg/ml塩酸グラニセトロンであることが好ましい。明らかに、対応する薬物濃度の上昇がある場合には、噴霧容量を少なくして(或いは、薬剤用量を増大して)投与することが可能である。即ち、45mg/ml塩酸グラニセトロン液の単回噴霧0.05mlとして2mg用量を投与することが可能である。
【0055】
本発明の粉末製剤はエアロゾル化形態で患者に投与することが好ましく、これにより患者の吸入(吸引)によるエネルギーを利用して鼻腔に粉末剤をエアロゾル化し、或いは装置自体が、例えば、圧縮空気によりエアロゾル化エネルギーを鼻腔において提供する。前者の装置の一例がPfeiffer社によって製造され、後者の一例がValois社によって製造されている“Monopowder”である。
【0056】
本発明は、鼻腔薬物送達装置又は前述で明示したような組成物を装填した、鼻腔送達装置において使用するための投与カートリッジも提供する。
【0057】
本発明は本発明の組成物を調製する方法も提供する。本発明の液剤を調製する方法は、水のような好適な溶媒中で構成成分を混合するステップを含む。粉末組成物は当該技術分野において公知の方法を用いて調製することができる。
【0058】
本発明の組成物は制吐特性を有し、特に癌の化学療法、放射線療法、及び術後に生じる悪心及び/又は嘔吐の治療及び/又は予防に用い得る。従って、本発明は、例えば前述の病状の予防又は治療のために、必要とする患者にグラニセトロンを投与する方法を提供し、これは前述で明示したような組成物の鼻腔内投与を含む。
【0059】
本発明は必要とする患者に対する鼻腔内投与用薬剤の製造における、グラニセトロン又はその塩の使用も提供する。このような薬剤は制吐特性を有することができ、悪心及び/又は嘔吐の治療及び/又は予防に用い得る。
【0060】
本発明を次の非限定的実施例により例示する。
【実施例1】
【0061】
(20mg/mlグラニセトロンを含有する鼻腔内液剤)
塩酸グラニセトロン4.468g(中国、杭州、ZMC社)を100mlメスフラスコに量り分け、注射用水90ml(英国、セットフォード、Baxter社)を加えた。薬剤が溶解してしまうまでフラスコの内容物を攪拌し、次に、水により容量調整した。これにより40mg/mlグラニセトロン(塩基)を含有する原液を生成した。
【0062】
水酸化ナトリウム40mg(英国、ラフバラ、Fisher社)を100mlメスフラスコに量り分け、注射用水90mlを加えた。水酸化ナトリウムが溶解してしまうまでフラスコの内容物を攪拌し、次に、水により容量調整した。これにより0.01M水酸化ナトリウム溶液を生成した。
【0063】
50%塩化ベンザルコニウム溶液300mg(英国、ホワイトヘブン、Albright & Wilson社)を10mlメスフラスコに量り分け、注射用水8mlを加えた。フラスコの内容物を攪拌して塩化ベンザルコニウムを分散させ、次に、水により容量調整した。これにより15mg/ml塩化ベンザルコニウムを含有する原液を生成した。
【0064】
ピペットを用いて40mg/mlグラニセトロンの原液12.5mlを25mlメスフラスコに計量分配した。注射用水8mlと15mg/ml塩化ベンザルコニウムの原液0.25mlをフラスコに加えた。塩化ナトリウム170mg(英国、プール、Sigma社)をフラスコに加え、溶解するまで攪拌した。0.01M水酸化ナトリウム溶液を加えることにより溶液のpHを5.0に調整した。フラスコの内容物を水により容量調整した。最終的なpHは5.25であり、浸透圧は0.304osmol/kgであった。HPLCにより溶液を分析し、グラニセトロン含量を調べた。測定された含量は20.2mg/mlであった。
【実施例2】
【0065】
(20mg/mlグラニセトロンと5mg/mlグルタミン酸キトサンを含有する鼻腔内液剤)
グルタミン酸キトサン250mg(ノルウェー、ドランメン、NovaMatrix社、Protasan UPG213)を50mlメスフラスコに量り分けた。40mg/mlグラニセトロンの原液25ml(実施例1において調製)と注射用水15mlをフラスコに加えた。キトサンが溶解してしまうまでフラスコの内容物を攪拌した。15mg/ml塩化ベンザルコニウムの原液0.5ml(実施例1)と塩化ナトリウム0.327gを、キトサンとグラニセトロンを含有するフラスコに加え、溶解するまで内容物を攪拌した。フラスコの内容物を水により容量調整し、pH、浸透圧、及びグラニセトロン含量を(HPLC)測定した。pHは4.85、浸透圧は0.303osmol/kg、グラニセトロン含量は20.0mg/mlであった。
【実施例3】
【0066】
(ヒツジにおける鼻腔内グラニセトロン製剤の薬物動態学的性能)
実施例1及び2において記載した鼻腔内グラニセトロン液の薬物動態学的性能をヒツジにおいて評価した。鼻腔内投与量の絶対バイオアベイラビリティを判定する目的で、グラニセトロンを静注投与した。注射剤は1mg/mlグラニセトロンを含有した(英国、ウェリン、Roche社、Kytril(登録商標)注射剤)。
【0067】
雌ヒツジ5匹からなる群を用い、各々体重は約35kgであった。無作為化交差試験型で製剤を投与した。グラニセトロン用量8mgにて各鼻腔内製剤を投与した。この用量は、双方の鼻孔で均等に分割して噴霧装置により各製剤0.4mlを投与することにより与えた。投与後の鼻息及びくしゃみの頻度により測定したように、製剤はヒツジに対する忍容性が良好であった。静注投与ではボーラス注射としてKytril(登録商標)注射剤2mlを投与した。
【0068】
投与後360分間にわたり血液試料を採取し、血漿を分離した。グラニセトロンを固相抽出法により血漿試料から分離し、HPLC法(蛍光検出)により定量化した。血漿データから薬物動態パラメータを計算した。
【0069】
薬物動態パラメータの概要を表1に示す。血漿濃度対時間曲線を図1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
ヒツジにおいて鼻腔内経路によりグラニセトロンは良好に吸収され、静注に対するバイオアベイラビリティは約50%であった。ピーク血漿濃度(Cmax)はキトサン含有液のほうが高く、より迅速にピークに達した(Tmax)。統計上、鼻腔投与2群間においてTmaxは有意に異なっていた(p<0.05)。
【実施例4】
【0072】
(50mg/mlグラニセトロンを含有する鼻腔内液剤)
塩酸グラニセトロン279.3mg(=グラニセトロン塩基250mg)を5mlメスフラスコに量り分け、水4mlを加えた。フラスコの内容物を薬剤が溶解してしまうまで攪拌した。塩化ナトリウム17.5mg(Sigma社)、プロピルパラベン1mg(英国、Nipa Laboratories社)、及びフェニルエチルアルコール25μl(英国、R.C.Treatt社)をグラニセトロン液に加え、全成分が溶解してしまうまでフラスコの内容物を攪拌した。0.01M水酸化ナトリウム溶液160μlをフラスコに加え、内容物を水により容量調整した。最終的な液剤はpH5.5、浸透圧0.344osmol/kgを有した。
【実施例5】
【0073】
(pH5の緩衝液中に20mg/mlグラニセトロンを含有する鼻腔内液剤)
オルトリン酸二水素カリウム0.9073g(英国、BDH社)を水約90mlに溶解し、次に、メスフラスコ中100mlに容量調整した(溶液A)。オルトリン酸水素二ナトリウム0.2374g(英国、Fisher社)を水約15mlに溶解し、次に、メスフラスコ中20mlに容量調整した(溶液B)。
【0074】
溶液A49.6mlを50mlメスフラスコに計量分配し、溶液Bを用いてフラスコの内容物を50mlに容量調整した(=溶液C)。
【0075】
塩酸グラニセトロン112mg(=グラニセトロン塩基100mg)を5mlメスフラスコに量り分け、溶液C4mlに溶解した。塩化ナトリウム9.3mgとソルビン酸カリウム7.5mg(Sigma社)をグラニセトロン液に溶解し、フラスコの内容物を溶液Cにより容量調整した。最終的な液剤はpH5.1、浸透圧0.28osmol/kgを有した。
【実施例6】
【0076】
(pH6の緩衝液中に10mg/mlグラニセトロンを含有する鼻腔内液剤)
溶液A44.5ml(実施例5)を50mlメスフラスコに計量分配し、溶液B(実施例5)を用いてフラスコの内容物を50mlに容量調整した(=溶液D)。
【0077】
塩酸グラニセトロン55.9mg(=グラニセトロン塩基50mg)を5mlメスフラスコに量り分け、溶液D4mlに溶解した。マンニトール95mg(フランス、Roquette社)と15mg/ml塩化ベンザルコニウム液50μl(実施例1)をグラニセトロン液に溶解し、フラスコの内容物を溶液Dにより容量調整した。最終的な液剤はpH5.9、浸透圧0.29osmol/kgを有した。
【実施例7】
【0078】
(塩酸グラニセトロン及びグルタミン酸キトサンを含む粉末ブレンド)
塩酸グラニセトロン2.24g、グルタミン酸キトサン5g(ノルウェー、NovaMatrix社、Protasan UPG213)、及びラクトース2.76g(ドイツ、Meggle社、InhaLac(登録商標)120)をガラス瓶に量り分ける。瓶に蓋をし、Turbula T2Cミキサー(スイス、バーゼル、Willy Bachofen社)に配置する。瓶の内容物を30分、速度設定2で混合する。粉末ブレンド試料10mgをMonopowder経鼻噴霧装置(フランス、マルリー・ル・ロワ、Valois社)に充填する。この装置は作動するとグラニセトロン2mgに相当する粉末剤10mgを送達する。
【実施例8】
【0079】
(pH5のクエン酸/リン酸ナトリウム緩衝液中の20mg/mlグラニセトロン液)
クエン酸0.210g(英国、ラフバラ、Fisher Scientific社)を水約9mlに溶解し、次に、メスフラスコ中10mlに容量調整して溶液1を生成した。
【0080】
オルトリン酸水素二ナトリウム二水和物0.356g(Fisher Scientific社)を水約9mlに溶解し、次に、メスフラスコ中10mlに容量調整して溶液2を生成した。
【0081】
10mlメスフラスコ中に溶液1 5mlを計量分配し、溶液2を用いてフラスコの内容物を10mlに容量調整して溶液3を生成した。
【0082】
塩酸グラニセトロン0.224g(中国、浙江省、Hisun社)を水約4mlに溶解し、次に、メスフラスコ中、水により5mlに容量調整した。これにより40mg/mlグラニセトロン(塩基)を含有する原液を生成した。
【0083】
ピペットを用いて40mg/mlグラニセトロンの原液2.5mlを5mlメスフラスコに計量分配した。溶液3 1.5mlと15mg/ml塩化ベンザルコニウム液0.05mlをフラスコに加えた。塩化ナトリウム7.7mg(米国、Mallinckrodt社)をフラスコに加え、溶解するまで攪拌した。次に、フラスコの内容物を溶液3により容量調整した。最終的なpHは4.93であり、浸透圧は0.293osmol/kgであった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】グラニセトロン製剤のヒツジへの静脈内及び鼻腔内投与後の血漿濃度曲線を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩を含む、鼻腔内送達用の組成物。
【請求項2】
液剤又は粉末剤の形態をとる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
水性液剤の形態をとる、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
塩酸塩、メシル酸塩、クエン酸塩、硝酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、琥珀酸塩、フマル酸塩、及びグルコン酸塩から選択されるグラニセトロンの塩を含む、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記塩が塩酸塩である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
液剤の形態をとるとともに遊離塩基として0.2〜150mg/mlグラニセトロンを含む、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
遊離塩基として1〜100mg/mlグラニセトロンを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
浸透圧0.15〜0.45osmol/kgを有する、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
pH4.0〜7.0を有する、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
キトサン、その塩、その誘導体、又はその誘導体の塩を更に含む、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
0.5〜50mg/mlキトサンを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
水性液剤であって、1〜112mg/mlの塩酸グラニセトロンと2〜10mg/mlのグルタミン酸キトサンを含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
非水性液剤の形態をとる、請求項1、2、及び4から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリコフロール、安息香酸ベンジル、及びポリオキシエチレンヒマシ油誘導体の少なくとも1つを含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
粉末剤の形態をとる、請求項1、2、及び4から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記粉末剤が顆粒又はミクロスフェアを含有する、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
遊離塩基として30〜70重量%グラニセトロンを含む、請求項15又は16に記載の組成物。
【請求項18】
必要とする患者に対する鼻腔内投与用薬剤の製造におけるグラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩の使用。
【請求項19】
悪心及び/又は嘔吐の治療又は予防用の薬剤の製造における、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
必要とする患者にグラニセトロン又はその薬剤学的に許容可能な塩を投与する方法であって、請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の組成物の鼻腔内投与を含む方法。
【請求項21】
悪心及び/又は嘔吐を治療又は予防する方法であって、請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の組成物の鼻腔内投与を含む方法。
【請求項22】
請求項1から請求項17のいずれか一項に記載の組成物を含む、鼻腔薬物送達装置又は鼻腔薬物送達装置において使用するための投与カートリッジ。

【図1】
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【公表番号】特表2007−513129(P2007−513129A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542003(P2006−542003)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【国際出願番号】PCT/GB2004/005043
【国際公開番号】WO2005/056008
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505260176)アルキメデス ディヴェロプメント リミテッド (8)
【Fターム(参考)】