説明

2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの2’−デオキシヌクレオシド及び2’−デオキシヌクレオシド前駆体の製造

【課題】デオキシヌクレオシド及びデオキシヌクレオシド前駆体を、あてにならない天然起源物に依存することなく、安価な市販されている化合物から出発して、生合成により製造する手段及び方法を提供すること。
【解決手段】2’−デオキシヌクレオシド又は2’−デオキシヌクレオシド前駆体の、下記式(I)の化合物
【化1】


若しくはその塩又はそれらの保護形態からの、脱カルボキシル化工程を含む方法における製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸(通常、KDGと略記)又はその塩を出発物質として利用する、2’−デオキシヌクレオシド化合物又は2’−デオキシヌクレオシド前駆体の製造方法に関するものである。様々な2’−デオキシヌクレオシド及びそれらの類似体が、抗ウイルス剤、抗癌剤又はアンチセンス薬剤の製造における合成又は薬物配合物のための出発物質として利用されている。
【0002】
特に、この発明は、KDG又はKDGの誘導体を脱カルボキシル化工程にかけてKDGの元のカルボキシル基を除去する方法に関係する。好適具体例において、この発明の方法において用いられるKDGは、D−グルコネート又はD−グルコサミネートから酵素的に生成される。
【0003】
2−デオキシ−D−リボースを含む2’−デオキシヌクレオシド及び2’−デオキシヌクレオシド前駆体は、例えば、抗ウイルス剤及び抗癌剤の製造における合成又は薬物配合物のための出発物質として利用される。2’−デオキシヌクレオシド又はその誘導体及び2’−デオキシヌクレオシド前駆体は又、研究、診断及び治療用アンチセンス分子の合成のための試薬としても利用される。
【背景技術】
【0004】
一つの従来技術の方法において、デオキシヌクレオシドは、生物学的材料例えば精巣(WO99/49074)又は酵母又は魚精子からDNAの酵素的開裂により生成される。しかしながら、この方法は、幾つかの不都合を、特に、出発物質を十分な量及び質で得ることの困難さに関して含んでいる。
【0005】
2−デオキシ−D−リボースの主な製造方法は、現在、DNAの化学的加水分解にある。この場合、デオキシリボシル部分は、リボヌクレオチドレダクターゼ活性中に起源を持つ。2−デオキシ−D−リボースのKDGからの合成は、未だ記載されたことはない。
【0006】
殆どの生細胞において、デオキシリボヌクレオシドは、ヌクレオチド代謝の「サルベージ経路」から生じる。デオキシリボヌクレオシドのデオキシリボース部分は、リボシル部分の、リボヌクレオチドレダクターゼにより触媒される二又は三リン酸リボヌクレオチドへの還元から得られる。しかしながら、このデオキシリボース部分は、再利用されずに、下記の中心的代謝の反応により、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸及びアセトアルデヒドへと分解される:
- デオキシヌクレオシドは、チミジンホスホリラーゼ(deoA)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(deoD)、ウリジンホスホリラーゼ(udp)又はキサントシンホスホリラーゼ(xapA)をコードする遺伝子の産物により媒介される加リン酸分解によって、デオキシリボース−1−リン酸及びヌクレオ塩基へと開裂される。
- デオキシリボース−1−リン酸は、デオキシリボースホスフェートムターゼ(deoB)により触媒される反応によって、デオキシリボース−5−リン酸へと変換され、
- これは、更に、デオキシリボース−5−ホスフェートアルドラーゼ(deoC)により触媒される反応によって、D−グリセルアルデヒド−3−リン酸及びアセトアルデヒドへと分解される。
【0007】
deo酵素は、イン・ビトロで、逆同化反応をも触媒するということが示されており:デオキシリボース−5−ホスフェートが、イン・ビトロで、アセトアルデヒド及びD−グリセルアルデヒド−3リン酸から出発して、精製した大腸菌又はラクトバチルス・プランタルムのデオキシリボースアルドラーゼの存在下で得られる(Rosen等、J.Biol.Chem., 240, (1964), 1517-1524;Pricer, J.Biol.Chem., 235, (1960), 1292-1298)。デオキシリボースは、アセトアルデヒドとグリセルアルデヒドを酵素基質として用いても得ることができるが、非常に低い収率でしか得られない(Barbas, J.Am.Chem.Soc. 112(1990), 2013-2014)。
【0008】
特許出願WO01/14566は、デオキシリボース−1リン酸から出発する、deoオペロンの3つの酵素即ち、デオキシリボースアルドラーゼ、デオキシリボムターゼ及びホスホリラーゼ(チミジン又はプリンヌクレオシドホスホリラーゼ)の組み合わさった活性による、ワンポット反応における、デオキシヌクレオシドの、D−グリセルアルデヒド−3リン酸、アセトアルデヒド及びヌクレオ塩基を出発基質として利用する酵素的合成を記載している。D−グリセルアルデヒド−3リン酸は、フルクトース−1,6−二リン酸から酵素的工程によって得ることができる。
【0009】
特許出願EP1179598は、デオキシリボース−一リン酸及びヌクレオ塩基から出発するデオキシヌクレオシドの酵素的生成を触媒するためのホスホリラーゼの利用を記載している。デオキシヌクレオシド合成の収率は、ホスフェートの沈殿によって改善される。
【0010】
しかしながら、逆向きで働くdeoオペロンの酵素を利用する方法は、それらの生物学的機能と比較して、低い収率を示し、これは、それらの利用に関する重大な欠点を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO01/14566号明細書
【特許文献2】欧州EP1179598号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Rosen等、J.Biol.Chem., 240, (1964), 1517-1524
【非特許文献2】Pricer, J.Biol.Chem., 235, (1960), 1292-1298
【非特許文献3】Barbas, J.Am.Chem.Soc. 112(1990), 2013-2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
現在でオキシヌクレオシド及びデオキシヌクレオシド前駆体の製造に適用されている方法の上記の非効率性の故に、デオキシヌクレオシド及びデオキシヌクレオシド前駆体を、あてにならない天然起源物に依存することなく、安価な市販されている化合物から出発して、生合成により製造する手段及び方法を提供することが、本発明の目的である。
【0014】
特に、オキシヌクレオシド及びデオキシヌクレオシド前駆体の製造のための、デオキシリボヌクレオシドの効率的で経済的な合成を可能にする別法であって、従来法の欠点を排除する当該別法に対する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、2’−デオキシヌクレオシド及びその前駆体の、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸(KDG)又はその塩から出発して脱カルボキシル化工程を包含する製造方法に関係する。
【0016】
特に、この方法は、2−デオキシ−D−リボース(DRI)並びに2’−デオキシヌクレオシド前駆体としてのDRIの合成用途の広いエナミン誘導体の製造に有効である。
【0017】
脱カルボキシル化工程は、KDG又はその塩を直接反応させ、又はKDGの誘導体を反応させて、通常KDGのC1−C2結合を開裂させることにより起きる。
【0018】
この発明の一つの具体例において、KDG又はその塩の一種は、2−デオキシ−D−リボン酸(DRN)又はその塩へと導く(酸化的)脱カルボキシル化を受け、それ自体、更に、2−デオキシ−D−リボース(DRI)又は2−デオキシ−D−リビトール(DRL)に変換される。
【0019】
この発明の他の具体例において、脱カルボキシル化は、KDG又はその塩をアミンと反応させて、エナミン誘導体へと誘導することによって起きる。この高エネルギーのエナミン誘導体は、更に、加水分解によってDRIへと変換することができる。
【0020】
この発明の他の具体例において、(酸化的)脱カルボキシル化を、3−デオキシ−D−グルコン酸(DGN)若しくはその塩及び/又は3−デオキシ−D−マンノン酸(DMN)若しくはその塩(KDG誘導体)について行なって、DRIへと導く。DGNとDMNの混合物の製造は、KDGの還元によって起きる。脱カルボキシル化は、好ましくは、過酸化水素との反応により行なう。
【0021】
この発明の他の具体例において、(酸化的)脱カルボキシル化を、3−デオキシ−D−グルコサミン酸(DGM)若しくはその塩及び/又は3−デオキシ−D−マンノサミン酸(DMM)若しくはその塩について行なって、DRIへと導く。DGM及びDMMの混合物の製造は、KDGから、還元的アミン化により起きる。
【0022】
この発明の他の面は、上記の方法で利用するKDG又はその塩の製造のための便利で費用有効性の高い方法である。この方法は、D−グルコネートからか又はD−グルコサミネートから組換え酵素を利用して出発する。この発明は、D−グルコネートデヒドラターゼ活性を有するポリペプチドをコードする新規なヌクレオチド配列及びD−グルコサミネートデアミナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0023】
本発明の方法で利用する出発物質は、下記の式(I)で表されるKDG若しくはその塩の一種、又はその保護された誘導体であり、式中、4、5及び/又は6位のヒドロキシル基の一つ又は幾つかは、当分野で公知の保護基によって保護されている。
【化1】

【0024】
用語「2’−デオキシヌクレオシド」は、ここで用いる場合、N−グリコシドである2’−デオキシリボヌクレオシドと関連し、このヌクレオ塩基又はヌクレオ塩基類似体の塩基性N原子は、2−デオキシ−D−リボース又はその誘導体の一つの芳香族炭素原子に結合している。適当なヌクレオ塩基の例は、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、ウラシル、2,6−ジアミノプリン、及びヒポキサンチンである。ヌクレオ塩基の類似体の例は、5−アザシトシン、2−クロロ−アデニン、5−ヨード−シトシン、8−アザ−グアニン、5−ヨード−ウラシル、5−ブロモ−ウラシル、5−フルオロ−ウラシル、5−エチル−ウラシル及び5−トリフルオロメチル−ウラシルである。
【0025】
用語「2’−デオキシヌクレオシド前駆体」は、ここで用いる場合、従来技術において公知の方法を適用することによって2’−デオキシヌクレオシドに容易に変換されうる化合物に関係する。好適な2’−デオキシヌクレオシド前駆体は、2−デオキシ−D−リボース(DRI)又は2’−デオキシヌクレオシドの2−デオキシ−D−リボース部分に変換しうる炭水化物化合物例えば当分野で確立されたもの1−ホスホ−2−デオキシ−D−リボース、5−ホスホ−2−デオキシ−D−リボース及び本発明により確立されたもの2−デオキシ−D−リビトール、2−デオキシ−D−リボン酸、2−デオキシ−D−リボノ−1,4−ラクトン、1−N−モルホリノ−3,4,5−トリヒドロキシ−ペンテン−1、及びこれらの誘導体である。
【0026】
この発明の方法は、脱カルボキシル化工程を直接KDG若しくはその塩又はKDGから誘導された化合物に対して行なう方法を包含する。好適なKDG誘導体は、3−デオキシ−D−グルコン酸、3−デオキシ−D−マンノン酸、3−デオキシ−D−グルコサミン酸及び3−デオキシ−D−マンノサミン酸及びそれらのそれぞれの塩である。
【0027】
その上、KDG及びその塩又はこれらの保護形態{4、5及び/又は6位のヒドロキシル基の少なくとも一つが、その目的に関して当分野で公知の保護基で置換されている}は又、本発明の脱カルボキシル化反応の適当な出発物質でもある。別途記した場合を除いて、以下の明細書におけるKDGへの如何なる言及も、KDGの保護形態を包含する(ちょうど、KDG誘導体への言及が、これらの誘導体の保護形態を包含することを意図するように)。同様に、この発明の方法において得られる生成物への如何なる言及も、これらの生成物の保護形態を包含することを意図している。この発明の目的のための好適な保護基は、それぞれのヒドロキシル基をアセテートエステル、ベンゾエートエステル、アリルエーテル、ベンジルエーテル、トリチルエーテル、t−ブチルジメチルシリル(TBDMS)エーテル、イソプロピリデン又はベンジリデンアセタールによって置換するものである。
【0028】
この発明の具体例に適した反応条件に依って、反応物として利用され又は生成物として得られた有機酸中のカルボキシル基は、プロトン化形態若しくはそれらの塩形態であってよく、又は平衡化して存在してよいということは理解されるべきである。これらの酸の典型的な塩は、対イオンとして金属又はアンモニウムイオン、特にアルカリ金属イオン例えばナトリウム及び/又はカリウムを有するものである。
【0029】
本発明に記載された炭水化物化合物及びそれらの誘導体の殆どは、幾つかの環状形態で存在するが、簡単のために、開環鎖の式により表されてきた。本発明がこれらのすべての異性体又は互変体形態を包含することは理解される。
【0030】
この発明の第一の具体例において、KDG又はその塩を過酸化水素と反応させて、(酸化的)脱カルボキシル化を行なって、下記式(II)の化合物2−デオキシ−D−リボン酸(DRN)又はその塩とする。
【化2】

【0031】
この生成物を、更に、下記式(IV)により表される2−デオキシ−D−リビトール(DRL)
【化3】

又は下記式(III)により表される2−デオキシ−D−リボース(DRI)
【化4】

に変換することができる。
【0032】
DRN、DRL及び特にDRIは、本発明の目的に適した2’−デオキシヌクレオシド前駆体の内にある。DRNのDRIへの変換は、直接進行しうるし又は中間体としてのDRLを介して進行することもできる。
【0033】
好ましくは、DRNの製造は、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸ナトリウム又はカリウムの水溶液中での、実施例5に記載したような過酸化水素による室温での酸化的脱カルボキシル化によって行なう。2−ケトアルドン酸の酸化的脱カルボキシル化によるアルドン酸の製造のための一般的方法は、特許EP1038860A1に記載されている。
【0034】
好ましくは、DRLの製造は、2−デオキシ−D−リボノラクトンの水溶液中での、炭素上のロジウム触媒による、80バールの圧力下での、130℃の温度での水素化によって実施例6に記載のようにして行なう。2−デオキシ−D−リボノラクトンは、2−デオキシ−D−リボネート(DRN塩)を2−デオキシ−D−リボン酸に変換することによって容易に製造することができ、これは、水溶液中で、そのラクトン型と平衡にある(Han, Tetrahedron. 1993. 49, 349-362; Han, Tetrahedron Asymmetry. 1994. 5, 2535-62)。
【0035】
好ましくは、2−デオキシ−D−リボース(DRI)製造は、2−デオキシ−D−リビトール(DLR)の酸化(例えば、ピリジン中で酸化クロム使用)によって行なう。
【0036】
この発明の他の具体例において、脱カルボキシル化は、(KDG)又はその塩をアミノ基含有試薬Y−Hと反応させることによって起き、下記式(V)の化合物
【化5】

又はそのトランス異性体又はその保護形態を生じる(2’−デオキシヌクレオシド前駆体として)。Y−Hは、アミノ基の窒素に結合した水素原子Hを有するアミンを表す。
【0037】
この発明の好適具体例において、Y−Hにより表されたアミノ基含有試薬は、直鎖又は環状の第二アミンであり;β−カルボニル基を有する第一アミン好ましくはα−ケト酸の脱カルボキシル化に有効であることが見出された3−アミノ−2−インドリノンである(Hanson, J.Chem.Education, 1987, 591-595)。これらの各々の場合に、式(V)中の−Yはこれらのアミノ基含有試薬に由来するそれぞれの窒素含有残基を表す。
【0038】
好ましくは、式(V)の化合物は、直鎖又は環状第二アミン(Y−H)の反応により生成されたエナミンを表している。
【0039】
好適な環状第二アミンは、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、又はN−メチルピペラジンであり;好適な非環状アミンは、式R1−NH−R2(式中、R1及びR2は、独立に、1〜8好ましくは1〜4炭素原子の直鎖又は分枝鎖アルキル基を表す)のものである。非環状アミンとして特に好適なものは、ジエチルアミンである。
環状アミンとして特に好適なものは、モルホリンである。
【0040】
式(V)の化合物又はそのトランス異性体又はこれらの保護形態を、更に、Z−H(式中、Hは、水素原子を表し、Zは、脱離基を表す)と反応させて下記式(VI)の化合物
【化6】

又はそのそれぞれのトランス異性体又はこれらの保護形態を、2’−デオキシヌクレオシド前駆体として生成することができる。Z−Hは、好ましくは、水であり、その場合、式(VI)の化合物は、DRI又はその保護形態(ケト−エノール互変異性)である。
【0041】
好ましくは、式(V)の化合物の製造は、ベンゼン中でKDGをアミン例えばモルホリンと、実施例7に記載の方法を利用して、還流下で反応させることによって行なって、1−N−モルホリノ−3,4,5−トリヒドロキシ−ペンテン−1へ導く。酸触媒された加水分解は、2−デオキシ−D−リボース(DRI)を生成する。
【0042】
β−水素を有するα−オキソカルボン酸からエナミンを介してアルデヒドに至る一般的経路は、Stamos(Tetrahedron Lett. 23 (1982), 459-462)により記載されている。エナミンの製造及び加水分解のための他の方法は、他所に記載されている(Stock, J.Am.Chem.Soc. 85 (1963), 207-222; Stamhuis, J.Org.Chem. 30 (1965), 2156-2160)。
【0043】
この発明の他の具体例において、KDG又はその塩は、下記式(VII)により表される3−デオキシ−D−グルコン酸(DGN)及び/又は3−デオキシ−D−マンノン酸(DMN)又はこれらの化合物の塩に変換される
【化7】

【0044】
この反応から生じた生成物を、好ましくは、過酸化水素を利用して、(酸化的)脱カルボキシル化にかけて、DRIを生成する。DGN及びDMN又はそれらの塩の混合物の生成は、KDG又はその塩から還元によって起きる。
【0045】
好ましくは、2−デオキシ−D−リボース(DRI)の製造は、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸の水中での、水素化ホウ素ナトリウムによる、室温での、2−ケト−3−デオキシヘプトン酸につきWeissbach(J.Biol.Chem. 234 (1959), 705-709)により記載された方法を利用する非立体選択的還元と、その後の、例えば米国特許第3,312,683号;Richards J.Chem.Soc. (1954), 3638-3640; Sowden J.Am.Chem.Soc. 76 (1954), 3541-3542に記載されたような、3−デオキシ−D−グルコネート及び3−デオキシ−D−マンノネートの過酸化水素による酸化的脱カルボキシル化によって行なう。
【0046】
他の好適具体例において、DGN及びDMNの混合物の製造は、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートの水溶液中での、6%ラネーニッケル触媒又は酸化白金による室温で6バールの圧力下での水素化によって行なう。
【0047】
この発明の他の具体例において、KDG又はその塩は、3−デオキシ−D−グルコサミネート(DGM)又は下記式(VIII)により表される3−デオキシ−D−マンノサミネート(DMM)又はこれらの化合物の塩に変換される
【化8】

【0048】
この反応から生じた生成物は、好ましくはニンヒドリンを利用する(酸化的)脱カルボキシル化を受けて、DRIを生じる。DGMとDMMの混合物又はそれらの塩の製造は、KDG又はその塩から還元的アミノ化によって起きる。
【0049】
好ましくは、2−デオキシ−D−リボースの製造は、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グコンサンナトリウム又はカリウムの水溶液中での、アンモニア又はシアノボロ水素化ナトリウムによる室温での非立体選択的な還元的アミノ化、及びその後の、3−デオキシ−D−2−グルコサミネート及び3−デオキシ−D−2−マンノサミネートの、ニンヒドリンによる酸化的脱カルボキシル化により、2−デオキシ−D−アロースの合成についてShelton (J.Am.Chem.Soc. 118(1996), 2117-2125;及びBorch, J.Am.Chem.Soc. 93(1971), 2897;Durrwachter, J.Am.Chem.Soc. 108(1986), 7812 これらの中で引用された文献)により記載された方法を利用して行なう。
【0050】
その上、本発明は、式(III)の化合物(2−デオキシ−D−リボース)を、式(I)の化合物又はその塩の一種(KDG)を単一ステップで変換することによって製造するための方法を提供する。好ましくは、この変換は、酵素的触媒により達成される。この変換は、好ましくは、ケト酸デカルボキシラーゼにより触媒される。好適なケト酸デカルボキシラーゼは、チアミンピロリン酸(TPP)依存性ケト酸デカルボキシラーゼである。TPP依存性ケト酸デカルボキシラーゼの例は、ピルベートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.1)、ベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.7)、インドールピルベートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.74)、ホスホノピルベートデカルボキシラーゼ、スルホピルベートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.79)、オキサリルコエンザイムAデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.8)、オキサログルタレートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.71)又はフェニルピルベートデカルボキシラーゼ(EC 4.1.1.43)である。ケト酸デカルボキシラーゼ例えば異なる生物に由来するピルベートデカルボキシラーゼ酵素が、KDGを2−デオキシ−D−リボースへ変換することができるということは示すことができた(実施例8〜12参照)。原則として、如何なるケト酸デカルボキシラーゼでも、本発明と共に利用することができる。
【0051】
この発明による方法の好適な具体例において、KDGは、ピルベートデカルボキシラーゼ活性を有する酵素の利用によって、2−デオキシ−D−リボースに変換される。
【0052】
ピルベートデカルボキシラーゼは、下記の反応を触媒する:
ピルベート + H+ ――> アセトアルデヒド + CO2
【0053】
幾つかのピルベートデカルボキシラーゼ(PDC)並びに対応するpdc遺伝子が、特性決定されている。例えば、ジモモナス・モビリスのPDC(Genbank受入れ番号AAD19711;Neale等、J.Bacteriol. 1987, 169:1024-1028)、サッカロミセス・セレビシエのPDC(Genbank受入れ番号NP013145;Candy等、J.Gen.Microbiol. 1991, 137:2811-2815)、アセトバクター・パスツーリアヌスのPDC(Genbank受入れ番号AAM21208;Raj等、Arch.Microbiol. 2001, 176:443-451)、ザイモバクター・パルメのPDC(Genbank受入れ番号AAM49566;Raj等、Appl. Environ. Microbiol. 2002, 68:2869-2876)、サルシナ・ベントリキュリのPDC(Genbank受入れ番号AAL18557;Lowe等、J.Gen.Microbiol. 1992, 138:803-807)。多くの他のピルベートデカルボキシラーゼは、十分に確立されたpdc遺伝子との配列相同性を共有する遺伝子の存在により証明されるように、植物、カビ及び細菌に存在しているようである。かかる推定のピルベートデカルボキシラーゼの例は、次の通りである:
【0054】
植物由来のPDC:
アラビドプシス・タリアナ(Genbank受入れ番号 T48155)
エキノクロア・クラス−ガリ(Genbank受入れ番号 AAM18119)
オリザ・サティバ(Genbank受入れ番号 NP922014)
リゾプス・オリゼ(Genbank受入れ番号 AAM73540)
ロータス・コーニキュラタス(Genbank受入れ番号 AAO72533)
ゼア・メイズ(Genbank受入れ番号 BAA03354)
ピスム・サティバム(Genbank受入れ番号 CAA91445)
ガーデン・ピー(Genbank受入れ番号 S65470)
ニコチアナ・タバクム(Genbank受入れ番号 CAA57447)
ソラナム・ツベロスム(Genbank受入れ番号 BAC23043)
フラガリア・アナナッサ(Genbank受入れ番号 AAL37492)
ククミス・メロ(Genbank受入れ番号 AAL33553)
ビティス・ビニフェラ(Genbank受入れ番号 AAG22488)
【0055】
カビ由来のPDC:
サッカルム・オフィシナルム(Genbank受入れ番号 CAB61763)
アスペルギルス・オリゼ(Genbank受入れ番号 AAD16178)
アスペルギルス・パラシティクス(Genbank受入れ番号 P51844)
サッカロミセス・セレビシエ(Genbank受入れ番号 NP013145)
フラムリナ・ベルティペス(Genbank受入れ番号 AAR00231)
サッカロミセス・クルイベリ(Genbank受入れ番号 AAP75899)
シゾサッカロミセス・ポンベ(Genbank受入れ番号 CAB75873)
カンジダ・グラブラタ(Genbank受入れ番号 AAN77243)
ニューロスポラ・クラッサ(Genbank受入れ番号 JN0782)
ピチア・スティピス(Genbank受入れ番号 AAC03164)
クイベロミセス・ラクティス(Genbank受入れ番号 CAA61155)
エメリセラ・ニデュランス(Genbank受入れ番号 AAB63012)
【0056】
原核生物由来のPDC:
ミコバクテリウム・ボビス(Genbank受入れ番号 CAD93738)
ミコバクテリウム・レプラ(Genbank受入れ番号 CAC31122)
ミコバクテリウム・ツベルキュロシス(Genbank受入れ番号 NP215368)
ミコプラスマ・ペネトランス(Genbank受入れ番号 NP758077)
クロストリジウム・アセトブチリカム(Genbank受入れ番号 NP149189)
アセトバクター・パスツーリアヌス(Genbank受入れ番号 AAM21208)
ザイモバクター・パルメ(Genbank受入れ番号 AAM49566)
ザイモモナス・モビリス(Genbank受入れ番号 AAD19711)
サルシナ・ベントリキュリ(Genbank受入れ番号 AAL18557)
ノストック・パンクチフォーム(Genbank受入れ番号 ZP00110850)
【0057】
かかる酵素は、対応する遺伝子を過剰発現する組換え微生物によって容易に生成することができる。TPP依存性ケト酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子の例は、ザイモモナス・モビリスのpdc(Genbank受入れ番号 AF124349)、サッカロミセス・セレビシエのpdc(Genbank受入れ番号 NC001144)、アセトバクター・パスツーリアヌスのpdc(Genbank受入れ番号 AF368435)、ザイモバクター・パルメのpdc(Genbank受入れ番号 AF474145)、サルシナ・ベントリキュリのpdc(Genbank受入れ番号 AF354297)である。他のpdc遺伝子は、推定のピルベートデカルボキシラーゼの上記のリストに対応してGenbankにおいて見出すことができる。
好適具体例において、このピルベートデカルボキシラーゼは、真核生物起源であり、一層好ましくは酵母に由来し、最も好ましくはサッカロミセス・セレビシエに由来する。特に好適な具体例において、このピルベートデカルボキシラーゼは、SEQ ID NO:21に示したアミノ酸配列を有するS.セレビシエに由来する推定のデカルボキシラーゼである(GenBank受入れ番号NP013145も参照されたい)。
【0058】
他の好適具体例において、推定のデカルボキシラーゼは、原核生物起源であり、一層好ましくはザイモモナス属の微生物に由来し、最も好ましくはザイモモナス・モビリスに由来する。特に好適な具体例において、推定のデカルボキシラーゼは、SEQ ID NO:19に示したアミノ酸配列を有するZ.モビリス由来のピルベートデカルボキシラーゼである(GenBank受入れ番号AAD19711も参照されたい)。
【0059】
他の好適具体例において、原核生物のピルベートデカルボキシラーゼは、アセトバクター属の微生物に由来し、一層好ましくはアセトバクター・パスツーリアヌス種に由来する。特に好適なピルベートデカルボキシラーゼは、SEQ ID NO:25に与えたアミノ酸配列を示すA.パスツーリアヌスのものである(GenBank受入れ番号AAM21208も参照されたい)。
【0060】
更に好適な具体例において、ピルベートデカルボキシラーゼは、ザイモバクター属の微生物に由来し、一層好ましくはザイモバクター・パルメ種の微生物に由来する。特に好適なものは、SEQ ID NO:29に与えたアミノ酸配列を示すZ.パルメに由来するピルベートデカルボキシラーゼである(GenBank受入れ番号AAM49566も参照)。
【0061】
この発明の方法の他の好適な具体例において、KDGは、2−デオキシ−D−リボースに、ベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼ活性を有する酵素の利用によって変換される。
【0062】
ベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼは、下記の反応を触媒する:
ベンゾイルホルメート + H+ ――> ベンズアルデヒド + CO2
【0063】
シュードモナス・プチダのベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼ(BDC)(Genbank受入れ番号AAC15502;Tsou等、Biochemistry 1990, 29:9856-9862)は、特性決定されており並びに対応する遺伝子mdlC(Genbank受入れ番号AY143338)も特性決定されている。この酵素は、2−ケト−4,5−ジヒドロキシバレレートのD及びL異性体の両方を脱カルボキシル化して、3,4−ジヒドロキシブタナールのそれぞれの異性体とすることが示されている(Niu等、J.Am.Chem.Soc. 125(2003), 12998-12999)。多くの他のベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼは、十分確立されたBDCをコードする遺伝子と相同な配列を共有する遺伝子の存在により証明されたように、細菌及び古細菌中に生じるようである。かかる推定のベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼの例は、次の通りである:
【0064】
細菌由来のBDC:
シュードモナス・アエルギノサ(Genbank受入れ番号 NP_253588)
ロドシュードモナス・パルストリス(Genbank受入れ番号 NP_946955)
ストレプトミセス・コエリカラー(Genbank受入れ番号 NP_631486)
クロモバクテリウム・ビオラセウム(Genbank受入れ番号 NP_902771)
ブラジリゾビウム・ジャポニカム(Genbank受入れ番号 NP_774243)
【0065】
古細菌由来のBDC:
スルホロブス・ソルファタリカム(Genbank受入れ番号 NP_343070)
サーモプラスマ・アシドフィルム(Genbank受入れ番号 NP_393976)
サーモプラスマ・ボルカニウム(Genbank受入れ番号 NP_111716)
【0066】
かかる酵素は、対応するbdc遺伝子を過剰発現する組換え微生物によって容易に生成することができる。かかる遺伝子は、推定のベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼの上記のリストに対応するGenbankで見出すことができる。
【0067】
この発明の方法で用いることのできるチアミン依存性デカルボキシラーゼの他の例は、ホスホノピルベートデカルボキシラーゼである。幾つかのホスホノピルベートデカルボキシラーゼ(PPD)並びに対応する遺伝子、例えばバクテロイデス・フラジリス由来のPPD(Genbank受入れ番号AAG26466;Zhang等、J.Biol.Chem. 2003, 278:41302-41308)、ストレプトミセス・ウェドモレンシス由来のPPD(Genbank受入れ番号BAA32496;Nakashita等、J.Antibiot. 1997, 50:212-219)が、特性決定されている。多くの他のホスホノピルベートデカルボキシラーゼは、十分に確立されたPPDをコードする遺伝子と相同な配列を共有する遺伝子の存在により証明されたように、細菌中に存在するようである。かかる推定のホスホノピルベートデカルボキシラーゼの例は、次の通りである:バクテロイデス・テタイオタオミクロンのPPD(Genbank受入れ番号NP_810632)、アミコラトプシス・オリエンタリスのPPD(Genbank受入れ番号 CAB45023)、クロストリジウム・テタニ E88のPPD(Genbank受入れ番号NP_782297)、ストレプトミセス・ビリドクロモゲネスのPPD(Genbank受入れ番号 CAA74722)、ストレプトミセス・ヒグロスコピクス(Genbank受入れ番号 BAA07055)、ストレプトミセス・コエリカラーA3(Genbank受入れ番号NP_733715)、ストレプトミセス・リシリエンシス(Genbank受入れ番号 AAG29796)、ボーデテラ・ペルトゥシス(Genbank受入れ番号 CAE 41214)。かかる酵素は、対応する遺伝子を過剰発現する組換え微生物によって、容易に生成することができる。
【0068】
本発明の方法において利用することのできるチアミン依存性デカルボキシラーゼの更なる例は、スルホピルベートデカルボキシラーゼである。2つのサブユニットComD(Genbank受入れ番号 P58415)及びComE(Genbank受入れ番号 P58416)よりなるメタノコッカス・ジャナシのスルホピルベートデカルボキシラーゼ(SPD)(Graupner等、J.Bacteriol. 2000, 182:4862-4867)並びに対応する遺伝子は、特性決定されてきた。多くの他のスルホピルベートデカルボキシラーゼは、よく確立されたSPDをコードする遺伝子と配列相同性を共有する遺伝子の存在により証明されたように、古細菌及び細菌中に存在するようである。
【0069】
本発明の方法において利用することのできるチアミン依存性デカルボキシラーゼの他の更なる例は、インドールピルベートデカルボキシラーゼである。幾つかのインドールピルベートデカルボキシラーゼ(IPD)並びに対応する遺伝子{例えば、エンテロバクター・クロアカエに由来する本IPD(Genbank受入れ番号 BAA14242;Scutz等、2003, Eur.J.Biochem. 270:2322-2331)、アゾスピリラム・ブラジレンスに由来するIPD(Genbank受入れ番号 AAC36886;Costacurta等、Mol.Gen.Genet. 1994, 243:463-472)、エルウィニア・ヘルビコラに由来するIPD(Genbank受入れ番号 AAB06571;Brandl等、Appl.Environ.Microbiol. 1996, 62:4121-4128)}が、特性決定されている。多くの他のインドールピルベートデカルボキシラーゼは、よく確立されたIPDをコードする遺伝子と配列相同性を共有する遺伝子の存在により証明されたように、細菌中に存在するようである。
【0070】
本発明の方法において利用することのできるチアミン依存性デカルボキシラーゼの尚更なる他の例は、フェニルピルベートデカルボキシラーゼである。酵母のフェニルピルベートデカルボキシラーゼ(Genbank受入れ番号 NP010668;Vuralhan等、Appl.Environ.Microbiol.2003, 69:4534-41)並びにその対応する遺伝子ARO10(Genbank受入れ番号 Genbank受入れ番号 NC001136)が、特性決定されている。
【0071】
脱カルボキシル化工程が酵素反応により達成されるこの発明の方法の好適な具体例において、pH値は、酸の添加により、pH5〜9(好ましくは、pH6〜8)に調節される。原則として、任意の適当な酸をこの目的のために利用することができる。好適な酸は、HCl、H2SO4、D−グルコン酸又は2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸である。
【0072】
この発明の他の面は、D−グルコネート(GCN)又はD−グルコサミネートからの組換え酵素の利用によるKDGの製造のための便利で且つ費用有効性の高い方法である。
【0073】
この発明の方法の好適具体例において、式(I)の化合物は、予備工程において、D−グルコン酸塩から、D−グルコネートデヒドラターゼ活性の利用により生成する。好適な塩は、D−グルコン酸カリウム又はナトリウムである。好ましくは、D−グルコネートデヒドラターゼは、下記よりなる群から選択するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる:
(a)SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(b)SEQ ID NO:1のコード配列を含むヌクレオチド配列;
(c)(a)又は(b)のヌクレオチド配列によりコードされる断片をコードするヌクレオチド配列;
(d)(a)〜(c)の何れか一つのヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(e)(d)のヌクレオチド配列から、遺伝コードの縮重の結果として、外れているヌクレオチド配列。
【0074】
KDG又はその塩の、D−グルコネートデヒドラターゼを利用する酵素的合成は、次の反応により進行する:D−グルコネートを、水分子一つの除去によって、KDGに変換する。D−グルコネートデヒドラターゼの活性は、種々の細菌種例えばアルカリゲネス(Kersters, Methods in Enzymology 42(1975), 301-304;クロストリジウム・パスツーリアヌム, (Gottschalk, Methods in Enzymology 90(1982), 283-287);サーモプラスマ・アシドフィルム(Budgen, FEBS Letters 196(1986), 207-210)及びスルホロブス・ソルファタリクス(Nicolaus, Biotechnology Letter 8(7)(1986), 497-500)において特性決定されている。好適なD−グルコネートデヒドラターゼは、幾つかの収集株を、D−グルコネートデヒドラターゼ活性についてスクリーニングすることにより同定した。D−グルコネートデヒドラターゼをコードする遺伝子(gcnDと称する)を、アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58株のゲノムライブラリーから選択し、更に、発現に最適化させたマルチコピーベクターに挿入した。gcnD遺伝子を過剰発現する大腸菌細胞からの粗抽出物がD−グルコネートのKDGへの全変換を触媒するということが示された(実施例2参照)。
【0075】
この発明の方法の更なる好適具体例において、式(I)の化合物は、予備工程において、D−グルコサミネートから、D−グルコサミネートデアミナーゼ活性の利用によって生成する。好ましくは、D−グルコサミネートデアミナーゼは、下記よりなる群から選択するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる:
(f)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(g)SEQ ID NO:3のコード配列を含むヌクレオチド配列;
(h)(a)又は(b)のヌクレオチド配列によりコードされる断片をコードするヌクレオチド配列;
(i)(a)〜(c)の何れか一つのヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(j)(d)のヌクレオチド配列から、遺伝コードの縮重の結果として、外れているヌクレオチド配列。
【0076】
KDG又はその塩の、D−グルコサミネートデアミナーゼを利用する酵素的合成は、次の反応により進行する:D−グルコサミネートは、一分子の水と一分子のアンモニアの除去によって、KDGに変換される。D−グルコサミネートデアミナーゼの活性は、種々の細菌種例えばシュードモナス・フルオレセンス(Iwamoto, Agric.Biol.Chem. 53 (1989), 2563-2569)アグロバクテリウム・ラディオバクター(Iwamoto, FEBS Letters 104(1979), 131-134;Iwamoto, J.Biochem. 91(1982), 283-289)において特性決定されており、そのMn2+イオン要求性が示された(Iwamoto, Biosci.Biotech.Biochem. 59(1995), 408-411)。
【0077】
好適なD−グコサミネートデアミナーゼを、幾つかの収集株をD−グコサミネートデアミナーゼ活性についてスクリーニングすることによって同定した。D−グコサミネートデアミナーゼをコードする遺伝子(gmaAと称する)を、アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58株から、推定のD−セリンデアミナーゼとして注釈付きの遺伝子をクローン化することにより単離した。このgmaA遺伝子を、更に、発現につき最適化したマルチコピーベクター中に挿入した。gmaA遺伝子を過剰発現する大腸菌細胞からの粗抽出物が、D−グルコサミネートのKDGへの変換を触媒するということが示された(実施例4参照)。
【0078】
好適具体例において、本発明は、式IIIの化合物、特に2−デオキシ−D−リボースを、D−グルコネート又はD−グルコサミネートから出発して、第一工程において、上記のようにD−グルコネート又はD−グルコサミネートをKDGに変換し、第二工程において、上記のようにKDGを2−デオキシ−D−リボースに変換する酵素反応により製造する方法と関係する。
【0079】
こうして、D−グルコネートのKDGへの酵素的変換は、D−グルコネートデヒドラターゼの利用により達成することができる。D−グルコサミネートのKDGへの酵素的変換は、D−グルコサミネートデアミナーゼの利用により達成することができる。好適具体例につき、上記と同様にする。その結果生成したKDGの2−デオキシ−D−リボースへの酵素的変換は、ケト酸デカルボキシラーゼの利用により達成することができる。好適具体例につき、上記と同様にする。
【0080】
D−グルコネート又はD−グルコサミネートを、2−デオキシ−D−リボースへ、KDGを介して変換する酵素的な2工程の方法は、対応する酵素を発現する細胞の細胞抽出物の利用により又は精製し若しくは部分精製した酵素の利用により、イン・ビトロで実施することができる。これらの酵素は、生物において自然に発現される酵素であってよく、又はそれらは、組換えにより生成されたものであってよい。対応する(組換え)酵素を製造し及び単離する方法は、当業者に周知である。
【0081】
好適具体例において、D−グルコネート又はD−グルコサミネートを、KDGを介して2−デオキシ−D−リボースに変換する酵素的2工程方法は、イン・ビボで、即ち必要な酵素活性を発現する適当な生物を利用することにより実施することができる。この生物は、如何なる種類の生物であってもよく、好ましくは、それは、細胞例えば植物、動物、カビの細胞又は細菌の細胞である。最も好ましくは、カビ又は細菌の細胞が用いられる。好適なカビは、酵母例えばサッカロミセス・セレビシエであり;好適な細菌細胞は、例えば大腸菌、ザイモモナス・モビリス、ザイモバクター・パルメ、アセトバクター・パスツーリアヌス、アシネトバクター・カルコアセチクス、アグロバクテリウム・ツメファシエンス及びバチルス・ズブチリスである。この生物は、酵素活性の一つ即ちKDG生成のためのD−グルコネートデヒドラターゼ若しくはD−グルコサミネートデアミナーゼ又はKDGを2−デオキシ−D−リボースに変換するためのケト酸デカルボキシラーゼを既に内在的に発現している生物であって、該生物においては、それぞれの他の酵素活性が、対応する酵素をコードする対応する外因性核酸分子の導入により発現される生物であってよい。或は、この生物は、D−グルコネート又はD−グルコサミネートのKDGへの変換に必要な酵素活性及び更に2−デオキシ−D−リボースへの変換に必要な酵素活性を自然には発現しない生物であって、D−グルコネートデヒドラターゼ又はD−グルコサミネートデアミナーゼ及びケト酸デカルボキシラーゼをそれぞれコードする対応する外来核酸分子が導入された生物であってもよい。
【0082】
特に好適な具体例において、この生物は、KDGキナーゼ(kdgK)活性を発現しない生物である。かかる酵素活性は、KDGのKDPGへのリン酸化へと導き、これは、更にアルドラーゼによって開裂されてピルベートとグリセルアルデヒドリン酸になり、それにより、KDGを異なる望ましくない代謝経路へと向ける。この発明の方法に、自然にはkdgK遺伝子を発現しない生物を利用することは可能である。もし、用いる生物が自然にkdgKを発現するならば、かかる生物の対応するkdgD遺伝子が不活性化された変異体を生成する手段及び方法は、当業者に周知である。
【0083】
この発明に記載した方法をイン・ビボで、D−グルコネートのKDGへの変換のためのD−グルコネートデヒドラターゼ及びKDGの2−デオキシ−D−リボースへの変換のためのケト酸デカルボキシラーゼを発現する生物を利用することにより行なうならば、これは、その生物を培養するために用いる培養培地にD−グルコネートを基質として与えることができるという利点を有する。D−グルコネートは、この生物により取り込まれて、2−デオキシ−D−リボースに変換される。
【0084】
他の特に好適な具体例において、この生物は、KDGアルドラーゼ(大腸菌において、eda遺伝子によりコードされる)活性を発現しない生物である。かかる酵素活性は、KDGのピルベートとグリセルアルデヒドへの開裂へと導き、それにより、KDGを異なる望ましくない代謝経路へと向ける。この発明の方法に、自然にはeda遺伝子を発現しない生物を利用することは可能である。もし、用いる生物がeda遺伝子を発現するならば、かかる生物の対応するeda遺伝子が不活性化された変異体を生成する手段及び方法は、当業者に周知である。
【0085】
更に他の特に好適な具体例において、この生物は、2−デオキシ−D−リボースアルドラーゼ(大腸菌において、deoC遺伝子によりコードされる)活性を発現しない生物である。かかる酵素活性は、2−デオキシ−D−リボースのアセトアルデヒドとグリセルアルデヒドへの開裂へと導き、それにより、2−デオキシ−D−リボースの異なる望ましくない代謝経路へと向ける。この発明の方法に、自然にはdeoC遺伝子を発現しない生物を利用することは可能である。もし、用いる生物がdeoC遺伝子を発現するならば、かかる生物の対応するdeoC遺伝子が不活性化された変異体を生成する手段及び方法は、当業者に周知である。例えば、大腸菌のdeoC変異体(Valentin-Hansen, EMBO J. 1(1982), 317-322)並びに大腸菌のdeoオペロンを欠失させる方法(Kaminski, J.Biol.Chem. 277 (2002), 14400-14407;Valentin-Hansen, Molec.Gen.Genet. 159(1978), 191-202)は、報告されている。
【0086】
本発明は又、D−グルコネートをD−グルコネートデヒドラターゼの発現によりKDGに酵素的に変換し及び/又はD−グルコサミネートをD−グルコサミネートデアミナーゼの発現によりKDGに酵素的に変換することができ、更に、KDGを2−デオキシ−D−リボースに、ケト酸デカルボキシラーゼにより触媒される脱カルボキシル化反応によって酵素的に変換することのできる生物にも関係する。この生物は、原則として、任意の適当な生物であってよく、好ましくは、それは、細胞例えば植物細胞、動物細胞、カビ細胞又は細菌細胞である。一層好ましくは、それは、カビ又は細菌細胞である。好適なカビは、酵母例えばサッカロミセス・セレビシエである。好適な細菌は、大腸菌、ザイモモナス・モビリス、ザイモバクター・パルメ、アセトバクター・パスツーリアヌス、アシネトバクター・カルコアセチクス、アグロバクテリウム・ツメファシエンス及びバチルス・ズブチリスである。一つの面において、この生物は、D−グルコネートデヒドラターゼ又はD−グルコサミネート・デアミナーゼを既に内因的に発現している生物であって、KDGの2−デオキシ−D−リボースへの脱カルボキシル化を触媒することのできるケト酸デカルボキシラーゼをコードする外来核酸分子が導入された生物である。ケト酸デカルボキシラーゼの好適具体例に関して、前記と同じことが適用される。
【0087】
他の面において、この生物は、KDGを2−デオキシ−D−リボースに脱カルボキシル化反応によって変換することのできるケト酸デカルボキシラーゼを既に発現しているが、D−グルコネートデヒドラターゼ又はD−グルコサミネートデアミナーゼを自然には発現しない生物であって、D−グルコネートデヒドラターゼをコードし及び/又はD−グルコサミネートデアミナーゼをコードする外来核酸を導入した生物である。即ち、この生物は、D−グルコネートデヒドラターゼ若しくはD−グルコサミネートデアミナーゼ又は両酵素を発現するように遺伝的に改変されていてよい。
【0088】
更なる面において、この生物は、D−グルコネートデヒドラターゼ、D−グルコサミネートデアミナーゼ及び、KDGを脱カルボキシル化により2−デオキシ−D−リボースに変換するケト酸デカルボキシラーゼを自然には発現しない生物であって、D−グルコネートデヒドラターゼ若しくはD−グルコサミネートデアミナーゼ又は両酵素をコードする外来核酸分子及びKDGを脱カルボキシル化により2−デオキシ−D−リボースに変換することのできるケト酸デカルボキシラーゼをコードする核酸分子を導入した生物である。
【0089】
この発明の生物において発現すべきD−グルコネートデヒドラターゼ、D−グルコサミンデアミナーゼ及びケト酸デカルボキシラーゼの好適具体例に関して、この発明の方法と共に前記したのと同様にする。
【0090】
特に好適な具体例において、この発明の生物は、KDGキナーゼ(kdgK)活性を発現しない。それは、自然にはkdgKを発現しない生物であるか又は、自然にはkdgKを発現するが、例えば遺伝子破壊若しくは当業者に周知の他の適当な方法によって、対応する遺伝子が不活性化された生物である。
【0091】
本発明は又、KDGを2−デオキシ−D−リボースに変換する方法におけるケト酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素又はかかる酵素をコードするポリヌクレオチドの利用にも関係する。好適具体例に関して、本発明の方法と共に既に示したように適用される。
【0092】
これら及び他の具体例は、本発明の記載及び実施例により開示され、包含されている。上記の及び下記の任意の参考文献の開示内容を、本願に援用する。本発明により採用されるべきこれらの方法、利用及び化合物の任意の一つに関係する更なる文献は、公共の図書館から例えば電子装置を利用して検索することができる。例えば、公共のデータベースの「Medline」を利用することができ、それは、例えばインターネットで http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.html. で利用することができる。更なるデータベース及びアドレス例えば http://www.ncbi.nlm.nih.gov/、http://www.infobiogen.fr/、http://www.fmi.ch/biology/research_tools.html、http://www.tigr.org/ が、当業者に知られており、例えば http://www.google.de. を利用して得ることもできる。バイオテクノロジーにおける特許情報の概観及び後ろ向き検索及びカレントアウェアネスに有用な特許情報の適当な起源の概観は、Berks, TIBTECH 12(1994), 352-364に与えられている。
その上、用語「及び/又は」は、ここで出現する場合は、「及び」、「又は」及び「この用語により繋がれる要素のすべての又は他の組合せ」の意味を含んでいる。
【実施例】
【0093】
実施例
実施例1:アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58株(CIP104333)に由来するD−グルコネートデヒドラターゼをコードする遺伝子のクローニング
アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58株(CIP104333)を、Institut Pasteur Collection (CIP, Paris, フランス国)から得た。染色体DNAを抽出して、D−グルコネートデヒドラターゼ遺伝子を、下記のプライマーを使用して標準的プロトコールに従ってPCRにより増幅した:
5'-CCCTTAATTAATGACGACATCTGATAATCTTC-3' (SEQ ID NO:5に描写)
5'-TTTGCGGCCGCTTAGTGGTTATCGCGCGGC-3' (SEQ ID NO:6に描写)
5'-CCCGGTACCATGACGACATCTGATAATCTTC-3' (SEQ ID NO:7に描写)
SEQ ID NO:5及びSEQ ID NO:6に描写した2つのプライマーを利用して増幅した第一のDNA断片を、予めPacI及びNotIで消化したpUC18由来のベクター中に連結してプラスミドpVDM80を生成した。SEQ ID NO:6及びSEQ ID NO:7に描写した2つのプライマーを利用して増幅した第二のDNA断片を、予めKpnI及びNotIで消化したpET29aベクター(Novagen)中に連結してプラスミドpVDM82を生成した。このクローン化した遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1に描写してあり、この遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列は、SEQ ID NO:2に描写してある。
【0094】
実施例2:D−グルコネートデヒドラターゼ活性の大腸菌における発現及び2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートのD−グルコネートからの製造
大腸菌BL21のコンピテント細胞を、実施例1に記載したように構築したpVD82プラスミドでトランスフォームして、+1289株を生成した。+1289株を、30℃で、30mg/l カナマイシンを含むルリア−ベルターニ(LB)培地(Difco)中で、OD(600nm)が0.6の値に達するまで培養した。その後、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を、終濃度0.5mMまで加えた。更なる2時間と30分の培養時間の後に、細胞を遠心分離により集めて、20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)で一回洗った。細胞抽出物を、約5gの細胞を、10000ユニットのリゾチーム(Ready-Lyse, ウィスコンシン、Madison在、Epicentre製)及び1mM EDTAを含む10mlの50mM トリス−HCl(pH8.5)緩衝液に懸濁させて、その懸濁液を30℃で15分間インキュベートすることによって調製した。次いで、10000kユニットのデオキシリボヌクレアーゼI(DNアーゼI、Sigma社製)並びに5mM MgCl2をこの調製物に加え、それを、30℃で更に15分間インキュベートした。こうして得られた細胞抽出物を、使用するまで−20℃で凍結保存した。
【0095】
この細胞抽出物1.5mlを、2M D−グルコン酸ナトリウム又はカリウムと混合した(総容積10ml)。この調製物を、pHを8.5に調整してから、37℃でインキュベートした。2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネート(KDG)の合成の進行を、増大するインキュベーション時間の後に採取したアリコートを分析することによって追跡した。これらのアリコートの幾つかの希釈部分をシリカプレート上に付着させて、次の溶媒系でのクロマトグラフィーを行なった:イソプロパノール/水(90/10)。KDGの黄色のスポット(Rf〜0.40)が、p−アニスアルデヒドへの暴露後に検出された。KDGは又、Mac Gee (J.Biol.Chem. 1954, 210, 617-626)により記載されたように、セミカルバジド塩酸塩との反応に基づく分光測光アッセイを利用して定量もした。典型的には、30時間のインキュベーションの後に、分光測光アッセイを利用して、KDGの濃度は、1.5〜2Mであった。
【0096】
こうして得られた2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸ナトリウム又はカリウム溶液を、更なる合成工程に利用することができた。2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸も又、かかる溶液から、公開されたプロトコール(Bender, Anal.Biochem. 1974, 61, 275-279)を適用して製造することができた。2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸とKClの混合物の粗調製物は又、1当量のHClを、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸カリウム溶液に加えてから蒸発させることによっても得ることができた。
【0097】
実施例3:アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58株(CIP104333)に由来するD−グルコサミネートデアミナーゼをコードする遺伝子のクローニング
アグロバクテリウム・ツメファシエンスC58株 (CIP104333)を、Institut Pasteur Collection (CIP, Paris, フランス)から得た。染色体DNAを抽出して、D−グルコサミネートデアミナーゼ遺伝子を、下記のプライマーを利用する標準的プロトコールに従ってPCRにより増幅した:
5'-CCCTTAATTAATGCAGTCTTCTTCAGCTCTTC-3' (SEQ ID NO:8に描写);
5'-TTTGCGGCCGCCTAGTGAAAGAAGGTTGTGTAGAT-3' (SEQ ID NO:9に描写);
5'-AAATCATGACTATGCAGTCTTCTTCAGCTCTTCG-3' (SEQ ID NO:10に描写);
5'-TATAGATCTCTAGTGAAAGAAGGTTGTGTAGAT-3' (SEQ ID NO:11に描写);
【0098】
SEQ ID NO:8及びSEQ ID NO:9に描写した2つのプライマーを利用して増幅した第一のDNA断片を、PacI及びNotIで予め消化したpUC18由来のベクターに連結して、プラスミドpKDGb1を生成した。SEQ ID NO:10及びSEQ ID NO:11に描写した2つのプライマーを利用して増幅した第二のDNA断片を、BspH1及びBglIIで予め消化したpQE60ベクター(Qiagen)に連結して、プラスミドpEP18を生成した。クローン化した遺伝子のヌクレオチド配列をSEQ ID NO:3に描写し、この遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列をSEQ ID NO:4に描写してある。
【0099】
実施例4:D−グルコサミネートデアミナーゼ活性の大腸菌における発現及び2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸のD−グルコサミネートからの製造
大腸菌MG1655のコンピテント細胞を、実施例1に記載したように構築したpEP18プラスミド及びpREP4(Qiagen)でトランスフォームして、+1068株を生成した。+1068株を、37℃で、30mg/l カナマイシン及び100mg/l アンピシリンを含むLB培地中でOD(600nm)が0.6の値に達するまで培養した。その後、IPTGを終濃度0.5mMまで加えた。更なる2時間と30分の培養期間の後に、細胞を遠心分離により集めて20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.2)で一回洗った。細胞抽出物を、実施例2に記載したプロトコールを利用して調製した。
【0100】
この細胞抽出物2mlを、100mM D−グルコサミン酸ナトリウム又はカリウム及び0.1mM ピリドキサルリン酸と、総容積5mlにて混合した。この調製物を、pHを7.5に調節した後に、37℃でインキュベートした。
この2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネート(KDG)の合成の進行を、実施例2に記載したプロトコールを利用して追跡した。典型的には、30時間のインキュベーション期間後に、実施例2記載の分光測光アッセイを利用して、KDG濃度は、50〜100mMに及んだ。
【0101】
実施例5:2−デオキシ−D−リボネートの2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの製造
31%過酸化水素溶液0.5mlを、1M 2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートカリウム(KDG)溶液に25℃で加えた。KDGの脱カルボキシル化の進行を、二酸化炭素の放出により生じた泡の観察及びKDG(実施例2に記載した薄層クロマトグラフィープロトコール使用)の消失の両方により追跡した。典型的には、3時間の反応の後に、残留KDG濃度は、10mM未満であった。
【0102】
実施例6:2−デオキシ−D−リビトールの、2−デオキシ−D−リボノラクトンからの製造
ロジウム(炭素上、5%)触媒0.2gを、2−デオキシ−L−リボノラクトンの合成のためにDeriazにより記載された方法(J.Chem.Soc.(1949), 1879-1883)に従って製造された1gの2−デオキシ−D−リボノラクトンの水溶液に加えた。2−デオキシ−D−リボノラクトンの水素化を、130℃で、80バールの圧力下で行なった。反応混合物の濾過後に得られた溶液を蒸発させた。残留ぶつを酢酸エチルに溶解させて、更に、シリカカラム上でのクロマトグラフィーにより精製した。溶剤を真空下で除去して、黄色い油を生じた(収率85%)。こうして得られた化合物は、Rabow (J.Am.Chem.Soc. 122 (1999), 3196-3203)により記載された2−デオキシ−D−リボースの還元により得られた2−デオキシ−D−リビトールと同一物であった。
【0103】
実施例7:1−N−モルホリノ−3,4,5−トリヒドロキシペンテン−1の、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの製造
2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸2gを、ベンゼン150mlに懸濁させた。モルホリン1.1ml及びp−トルエンスルホン酸100mgをこの懸濁液に加え、この反応混合物を3時間還流した。この反応で生じた水を、蒸留により除去した。ベンゼンをデカンテーションにより除去した。容器に付着した固形化合物を集め、アセトンで洗って乾燥した。この沈殿中に存在する主要化合物(収率40%)を、更に、クロロフォルム中のメタノール勾配を利用するシリカ上でのカラムクロマトグラフィーによって精製した。1−N−モルホリノ−3,4,5−トリヒドロキシペンテン−1を含む画分をプールして、溶媒を真空中で除去した。
1H−NMR(D2O):δ=3.15ppm(4H,t,モルホリン)、3.8ppm(4H,t,モルホリン)、3.4〜4ppm、(4H,m,5a−H,5b−H,4−H,3−H)、6.3及び6.8ppm(2H,2d,1−H及び2H,J=4Hz)。
【0104】
実施例8:ザイモモナス・モビリスに由来するピルベートデカルボキシラーゼをコードする遺伝子のクローニング
ザイモモナス・モビリスB−806株(CIP 102538T)を、インスティチュート・パスツール・コレクション(CIP,パリ、フランス)から得た。染色体DNAを抽出して、ピルベートデカルボキシラーゼ遺伝子を、下記のプライマーを利用する標準的プロトコールに従ったPCRにより増幅した:
5'-GCGTTAATTAATGAGTTATACTGTCGGTACC-3' (SEQ ID NO:12に描写);
5'-TATGCGGCCGCTTAGAGGAGCTTGTTAACAGG-3' (SEQ ID NO:13に描写);
【0105】
SEQ ID NO:12及びSEQ ID NO:13に描写した2つのプライマーを利用して増幅したDNAを、予めPacI及びNotIで消化したpSP100又はpEVL5(それぞれ、後記のように、pUC18又はpQE70に由来するベクター)中に連結して、それぞれ、プラスミドpEVL107及びpEVL420を生成した。このクローン化した遺伝子のヌクレオチド配列並びに対応するポリペプチドのコードされた配列は、GenBankにて見出すことができ(受入れ番号AF124349)、それぞれ、SEQ ID NO:18及びSEQ ID NO:19にて示してある。
【0106】
プラスミドpSP100を、リボソーム結合部位、PacI及びNotI制限部位を、標準的プロトコールを利用して、予めEcoRI及びBamHIで消化したpUC18ベクターに導入することにより得た。pSP100の完全なヌクレオチド配列をSEQ ID NO:14に描写する。
【0107】
プラスミドpEVL5を、リボソーム結合部位、PacI及びNotI制限部位を、標準的プロトコールを利用して、予めEcoRI及びBamHIで消化したpQEベクター(Qiagen)導入することにより得た。pEVL5の完全なヌクレオチド配列を、SEQ ID NO:15に描写する。
【0108】
実施例9:サッカロミセス・セレビシエに由来するピルベートデカルボキシラーゼをコードする遺伝子のクローニング
染色体DNAを、サッカロミセス・セレビシエS288C株(ATCC 204508)から抽出して、ピルベートデカルボキシラーゼ遺伝子を、下記のプライマーを利用する標準的プロトコールに従ってPCRにより増幅した:
5'-ATATTTAATTAATGTCTGAAATTACTTTGG-3' (SEQ ID NO:16に描写);
5'-ATATGCGGCCGCTTATTGCTTAGCGTTGGT-3' (SEQ ID NO:17に描写);
SEQ ID NO:16及びSEQ ID NO:17に描写した2つのプライマーを利用して増幅したDNA断片を、予めPacI及びNotIで消化したpSP100又はpEV5(それぞれ、実施例8に記載した通りのpUC18由来のベクター又はpQE70由来のベクター)中に連結して、それぞれ、プラスミドpVDM61及びプラスミドpEVL419を生成した。このクローンかした遺伝子のヌクレオチド配列並びに対応するポリペプチドのコードされた配列は、GenBankにて見出すことができ(受入れ番号NC001144)、それぞれ、SEQ ID NO:20及びSEQ ID NO:21に示してある。
【0109】
実施例10:ピルベートデカルボキシラーゼ活性の大腸菌における発現及び2−デオキシ−D−リボースの、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの酵素的合成
ピルベートデカルボキシラーゼの発現及び無細胞抽出物の調製
大腸菌MG1655株のコンピテント細胞を、pEVL107又はpVDM61(実施例8及び9に記載したように構築)でトランスフォームして、それぞれ、+1735株及び+844株を生成した。これらの株を、100mg/l アンピシリンを含むルリア−ベルターニ(LB)培地(Difco)中で、OD(600nm)が1.5の値に達するまで37℃で培養した。
【0110】
pREP4プラスミド(Qiagen)を有する大腸菌MG1655株のコンピテント細胞を、pEVL420又はpEVL419(実施例8及び9に記載したように構築)でトランスフォームして、それぞれ、+3150株及び+3148株を生成した。これらの株を、100mg/l アンピシリン及び30ml/l カナマイシンを含むルリア−ベルターニ(LB)培地(Difco)中で、OD(600nm)が0.6の値に達するまで37℃で培養した。その後、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を、終濃度0.5mMまで加えた。2時間と30分の更なる培養時間の後に、細胞を遠心分離により集めて、20mM リン酸ナトリウム(pH7.2)で一回洗った。
各株につき、無細胞抽出物を、実施例2に記載したのと同じプロトコールを利用して調製した。その後、粗無細胞抽出物を、50mM トリス酢酸緩衝液で平衡化したPD−10カラム(Amersham)を通過させて、−20℃に保存した。
【0111】
2−デオキシ−D−リボースの、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの酵素的合成
1.0mlの無細胞抽出物を、20mM 2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸ナトリウム、0.5mM チアミンピロリン酸及び5mM MgCl2と、総容積1.5mlの50mM トリス酢酸緩衝液(pH6)中で混合した。2−デオキシ−D−リボース(DRI)合成の進行を、37℃でのインキュベーション期間を増大させた後に採取したアリコートを分析することにより追跡した。予め蒸発により5倍に濃縮した各1μlのアリコートをシリカプレート上に付着させて、次の溶媒系にてクロマトグラフィー分析した:ブタノール/トリエチルアミン/水(10/2/5)。65時間のインキュベーション期間の後に+3150株又は+3148株の無細胞抽出物を利用した場合、オルシノールへの曝露後に、DRIの青いスポット(Rf〜0.50)が検出された。DRIに相当するスポットを含む粗調製物を濃縮して、イソプロパノールで平衡化した1.5mlのシリカカラムを通過させた。予想されるDRI化合物を含む画分をプールし、濃縮して、その結果の試料を質量スペクトル分析により分析した。かかる分析の結果は、単離された化合物のDRIとの同一性、及びDRIの、ザイモモナス・モビリス又はサッカロミセス・セレビシエに由来するピルベートデカルボキシラーゼにより触媒される、KDGからの生成を確認した。
【0112】
実施例11:アセトバクター・パスツーリアヌス由来のピルベートデカルボキシラーゼをコードする遺伝子のクローニング、コードされたピルベートデカルボキシラーゼ活性の大腸菌における発現及び2−デオキシ−D−リボースの2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの酵素的合成
アセトバクター・パスツーリアヌスNCIB8618株(DSMZ2347)を、DSMZコレクション(ドイツ、Braunschweig在、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)から得た。染色体DNAをこれらの細胞から抽出して、ピルベートデカルボキシラーゼ遺伝子を、標準的プロトコールに従って、下記のプライマーを利用するPCRにより増幅した:
5'-TCTTTAATTAATGGGTTGTCCGTCATTCATATA-3' (SEQ ID NO:22に描写);
5'-CTAAAGCTTTTAGGCCAGAGTGGTCTTGCGCG-3' (SEQ ID NO:23に描写);
SEQ ID NO:22及びSEQ ID NO:23に描写した2つのプライマーを利用して増幅したDNA断片を、予めPacI及びNotIで消化したpSP100又はpEVL5(それぞれ、実施例8に記載のように、pUC18由来の又はpQE70由来のベクター)中に連結して、それぞれ、プラスミドpEVL541及びプラスミドpEVL560を生成した。このクローン化遺伝子のヌクレオチド配列SEQ ID NO:24並びに対応するポリペプチドのSEQ ID NO:25のコード配列は、GenBankにて見出すことができる(受入れ番号AF368435)。
【0113】
大腸菌MG1655株のコンピテント細胞を、pEVL541によりトランスフォームして+3559株を生成した。pREP4プラスミド(Qiagen)を有する大腸菌MG1655株のコンピテント細胞を、pEVL560によりトランスフォームして+3924株を生成した。これらの株を培養して、無細胞抽出物を実施例10に記載のように調製した。無細胞抽出物をKDGとインキュベートして、2−デオキシ−D−リボース(DRI)合成の進行を実施例10に記載したように追跡した。DRIに相当するスポットが認められたが、これは、アセトバクター・パスツーリアヌス由来のピルベートデカルボキシラーゼがKDGを脱カルボキシル化してDRIとすることができたことを示している。
【0114】
実施例12:ザイモバクター・パルメ由来のピルベートデカルボキシラーゼをコードする遺伝子のクローニング、コードされるピルベートデカルボキシラーゼ活性の大腸菌における発現及び2−デオキシ−D−リボースの2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの酵素的合成
ザイモバクター・パルメT109株(DSMZ10491)を、DSMZコレクション(ドイツ、Braunschweig在、Deutche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)から得た。染色体DNAをこれらの細胞から抽出して、ピルベートデカルボキシラーゼ遺伝子を、下記のプライマーを利用する標準的プロトコールに従って、PCRにより増幅した:
5'-ATCTTAATTAATGTATACCGTTGGTATGTACT-3' (SEQ ID NO:26に描写);
5'-TATGCGGCCGCTTACGCTTGTGGTTTGCGAGAGT-3' (SEQ ID NO:27に描写);
SEQ ID NO:26及びSEQ ID NO:27に描写した2つのプライマーを利用して増幅したDNA断片を、予めPacI及びNotIで消化したpSP100又はpEVL5(それぞれ、実施例8に記載したようなpUC18由来のベクター又はpQE70由来のベクター)中に連結して、それぞれ、プラスミドpEVL546及びプラスミドpEVL561を生成した。このクローン化遺伝子のヌクレオチド配列並びに対応するポリペプチドのコードされる配列をそれぞれSEQ ID NO:28及び29に示すが、これらは、GenBankにて見出すことができる(受入れ番号AF474145)。
【0115】
大腸菌MG1655株のコンピテント細胞を、pEVL546によりトランスフォームして、+3568株を生成した。pREP4プラスミド(Qiagen)を有する大腸菌MG1655株のコンピテント細胞を、pEVL560によりトランスフォームして、+3923株を生成した。これらの株を培養して、無細胞抽出物を、実施例10に記載のように調製した。無細胞抽出物をKDGとインキュベートして、2−デオキシ−D−リボース(DRI)合成の進行を、実施例10に記載したように追跡した。DRIに相当するスポットが認められたが、これは、ザイモバクター・パルメに由来するピルベートデカルボキシラーゼが、KDGを脱カルボキシル化してDRIとすることができたことを示している。
【0116】
実施例13:シュードモナス・プチダに由来するベンジルホルメートデカルボキシラーゼをコードする遺伝子のクローニング、コードされるベンジルホルメートデカルボキシラーゼ活性の大腸菌における発現及び2−デオキシ−D−リボースの2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートからの酵素的合成
シュードモナス・プチダMigula株(DSMZ291)を、DSMZコレクション(ドイツ、Braunschweig在、Deutche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)から得た。染色体DNAを抽出して、ベンジルホルメートデカルボキシラーゼ遺伝子を、下記のプライマーを利用する標準的プロトコールに従って、PCRにより増幅した:
5'-CTATTAATTAATGGCTTCGGTACACGGCACCA-3' (SEQ ID NO:30に描写);
5'-TATGCGGCCGCTTACTTCACCGGGCTTACGGTGC-3' (SEQ ID NO:31に描写);
SEQ ID NO:30及びSEQ ID NO:31に描写した2つのプライマーを利用して増幅したDNA断片を、予めPacI及びNotIで消化したpSP100又はpEVL5(それぞれ、実施例8に記載のようなpUC18由来の又はpQE70由来のベクター)中に連結して、それぞれプラスミドpEVL681及びプラスミドpEVL670を生成した。このクローン化した遺伝子のヌクレオチド配列SEQ ID NO:32並びに対応するポリペプチドのコードされる配列SEQ ID NO:33は、GenBankにて見出すことができる(受入れ番号AY143338)。
【0117】
大腸菌MG1655株のコンピテント細胞をpEVL681によりトランスフォームして、+4050株を生成した。pREP4プラスミド(Qiagen)を有する大腸菌MG1655株のコンピテント細胞をpEVL670によりトランスフォームして、+3927株を生成した。それらの株を培養して、無細胞抽出物を、実施例10に記載したように調製した。無細胞抽出物をKDGとインキュベートして、2−デオキシ−D−リボース(DRI)合成の進行を実施例10に記載したようにして追跡した。DRIに相当するスポットが認められたが、これは、シュードモナス・プチダに由来するベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼが、KDGを脱カルボキシル化してDRIとすることができたことを示している。
【0118】
2−デオキシ−D−リボースの調製用の酵素的合成
+3927株に由来する無細胞抽出物100μl(2.5mgの細菌性タンパク質を含む)を、300mM 2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸ナトリウム、0.5mM チアミンピロリン酸及び5mM MgCl2と、0.5mlの総容積の80mM リン酸カリウム緩衝液(pH6)中で混合した。16及び40時間のインキュベーション期間後に、数μlの2N HCl溶液をこのインキュベーション混合物にpHが6に達するまで加えた。2−デオキシ−D−リボース(DRI)合成の進行を、やはり、37℃でのインキュベーションの増大する期間後に採取したアリコートを分析することにより追跡した。各1μlのアリコートをシリカプレート上に付着させて、実施例10に記載したようにしてクロマトグラフィー分析した。2−デオキシ−D−リボースの濃度は、標準溶液との比較により、約200mMであると見積もられた。粗混合物の13C NMR分析は、2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートから形成された化合物が2−デオキシ−D−リボースであること及び2−デオキシ−D−リボースの濃度が25g/lに近かったことを確認した。
他の調製用の酵素的合成を、酸の添加をインキュベーション期間に沿って行なわなかった点を除いて、同じ条件で行なった。それらの条件において、2−デオキシ−D−リボースの濃度は、10g/lに近かったが、これは、これは、pHを制御して6とした先の実験で到達された濃度より遥かに低いものである。
【0119】
実施例14:2−デオキシ−D−リボースのD−グルコネートからの酵素的合成
2−デオキシ−D−リボースのD−グルコネートからのワンポット酵素的合成を、アグロバクテリウム・ツメファシエンスのgcnD遺伝子によりコードされるD−グルコネートデヒドラターゼ及びザイモモナス・モビリス由来のデカルボキシラーゼを利用して、次のように行なった:
それぞれ、実施例2及び実施例10に記載したように調製した50μlの+1289株からの無細胞抽出物(1.5mgの細菌性タンパク質を含有)及び400μlの+3150株からの無細胞抽出物(限外濾過による濃縮後に、17mgの細菌性タンパク質を含有)を、50mM D−グルコン酸カリウム、0.5mM チアミンピロリン酸及び5mM MgCl2と、総容積0.5mlの50mM N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N’−(2−エタンスルホン酸)(HEPES)緩衝液(pH7)中で混合した。2−デオキシ−D−リボース(DRI)合成の進行を、37℃での増大するインキュベーション期間の後に採取したアリコートを分析することによっても追跡した。18時間のインキュベーション期間後に、約1μlのインキュベーション混合物を、シリカプレート上に付着させて、実施例10に記載のように、クロマトグラフィー分析を行なった。2−デオキシ−D−リボースの濃度は、標準溶液との比較により、約1g/lであると見積もられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2’−デオキシヌクレオシド又は2’−デオキシヌクレオシド前駆体の、下記式(I)の化合物
【化1】

若しくはその塩又はそれらの保護形態からの、脱カルボキシル化工程を含む方法における製造方法。
【請求項2】
脱カルボキシル化工程が、式(I)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態のC1−C2結合を開裂させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱カルボキシル化工程を、式(I)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態について直接行なう、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
脱カルボキシル化工程を、式(I)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態を過酸化水素と反応させることにより起こして、式(II)の化合物
【化2】

若しくはその塩又はそれらの保護形態を2’−デオキシヌクレオシド前駆体として生成する、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
式(II)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態の、2’−デオキシヌクレオシド前駆体としての式(IV)の化合物
【化3】

又はその保護形態への変換を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
式(II)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態の、2’−デオキシヌクレオシド前駆体としての式(III)の化合物
【化4】

又はその保護形態への変換を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
式(II)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態の、中間体としての式(IV)の化合物又はその保護形態への変換を含み、該中間体は、その後、式(III)の化合物又はその保護形態に変換される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
脱カルボキシル化工程を、式(I)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態を、アミンY−Hと反応させることにより起こして(式中、Hは、アミノ基の窒素原子と結合した水素原子を表す)、式(V)の化合物
【化5】

若しくはそのトランス異性体又はそれらの保護形態を2’−デオキシヌクレオシド前駆体として生成する、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項9】
Y−Hが、直鎖又は環式の第二アミンを表す、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
Y−Hが、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、N−メチルピペラジン又はジエチルアミンである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
式(V)の化合物若しくはそのトランス異性体又はそれらの保護形態を、Z−H(式中、Hは、水素原子を表し、Zは、脱離基を表す)と反応させて、式(VI)の化合物
【化6】

若しくはそのトランス異性体又はそれらの保護形態を2’−デオキシヌクレオシド前駆体として生成する工程を更に含む、請求項8〜10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
Z−Hが、水であり、式(III)の化合物又はその保護形態を2’−デオキシヌクレオシド前駆体として生成する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
式(I)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態を、式(VII)の化合物
【化7】

若しくはその塩又はそれらの保護形態或はそれぞれのエピマーの混合物に変換し、次いで、それを脱カルボキシル化して、式(III)の化合物又はその保護形態を2’−デオキシヌクレオシド前駆体として生成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
(I)若しくはその塩又はそれらの保護形態の、(VII)又はその保護形態への変換を、ボロ水素化ナトリウムによる還元により又はラネーニッケル若しくは酸化白金触媒を利用する水素化によって起こす、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
脱カルボキシル化工程を、過酸化水素との反応により起こす、請求項13〜14に記載の方法。
【請求項16】
式(I)の化合物若しくはその塩又はそれらの保護形態を、式(VIII)の化合物
【化8】

若しくはその塩又はそれらの保護形態或はそれぞれのエピマーの混合物に変換し、次いで、それを脱カルボキシル化して、式(III)の化合物又はその保護形態を2’−デオキシヌクレオシド前駆体として生成する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項17】
式(VIII)の化合物又はその保護形態或はそれぞれのエピマーの混合物をニンヒドリンと反応させ、それにより、化合物(III)又はその保護形態へと導く、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(I)若しくはその塩又はそれらの保護形態の、(VIII)又はその保護形態への変換が、アンモニア及びシアノボロ水素化ナトリウムによる還元的アミノ化により起きる、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
保護基を、独立に、酢酸エステル、安息香酸エステル、アリルエーテル、ベンジルエーテル、トリチルエーテル、t−ブチルジメチルシリル(TBDMS)エーテル、イソプロピリデン又はベンジリデンアセタールより選択する、請求項1〜18の何れかに記載の方法。
【請求項20】
脱カルボキシル化工程が、単一工程を含む酵素反応により達成される、請求項1〜3の何れか一つに記載の方法。
【請求項21】
酵素反応が、ケト酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素により触媒される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ケト酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素が、チアミンピロリン酸(TPP)依存性ケト酸デカルボキシラーゼである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
TPP依存性ケト酸デカルボキシラーゼが、ピルベートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.1)、ベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.7)、インドールピルベートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.74)、ホスホノピルベートデカルボキシラーゼ、スルホピルベートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.79)、オキサリル−コエンザイムAデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.8)、オキソグルタレートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.71)又はフェニルピルベートデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.43)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ピルベートデカルボキシラーゼが、真核生物起源である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
真核生物が、酵母である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
酵母が、サッカロミセス・セレビシエである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ピルベートデカルボキシラーゼが、原核生物起源である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
原核生物が、ザイモモナス、ザイモバクター又はアセトバクター属のものである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
生物が、ザイモモナス・モビリス、ザイモバクター・パルメ又はアセトバクター・パスツーリアヌス種のものである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
ベンゾイルホルメートデカルボキシラーゼが、原核生物起源である、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
原核生物が、シュードモナス属のものである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
生物が、シュードモナス・プチダ種のものである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
pHを、pH5〜9の酸の添加により調節する、請求項20〜32の何れか一つに記載の方法。
【請求項34】
pH値を、pH6〜pH8の間に調節する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
酸が、HCl、H2SO4、D−グルコン酸又は2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコン酸である、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
式(I)の化合物をD−グルコネート又はD−グルコネート塩からグルコネートデヒドラターゼ活性の利用により生成する予備工程を含む、請求項1〜35の何れか一つに記載の方法。
【請求項37】
D−グルコネート塩が、D−グルコン酸カリウム又はナトリウムである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
グルコネートデヒドラターゼが、下記よりなる群から選択するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる、請求項36又は37に記載の方法:
(a)SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(b)SEQ ID NO:1のコード配列を含むヌクレオチド配列;
(c)(a)又は(b)のヌクレオチド配列によりコードされる断片をコードするヌクレオチド配列;
(d)(a)〜(c)の何れか一つのヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(e)(d)のヌクレオチド配列から、遺伝コードの縮重の結果として、外れているヌクレオチド配列。
【請求項39】
式(I)の化合物をD−グルコサミネートからグルコサミネートデアミナーゼ活性の利用により生成する予備工程を含む、請求項1〜35の何れか一つに記載の方法。
【請求項40】
グルコサミネートデアミナーゼが下記よりなる群から選択するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる、請求項39に記載の方法:
(a)SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(b)SEQ ID NO:3のコード配列を含むヌクレオチド配列;
(c)(a)又は(b)のヌクレオチド配列によりコードされる断片をコードするヌクレオチド配列;
(d)(a)〜(c)の何れか一つのヌクレオチド配列とハイブリダイズするヌクレオチド配列;及び
(e)(d)のヌクレオチド配列から、遺伝コードの縮重の結果として、外れているヌクレオチド配列。
【請求項41】
D−グルコネートをD−グルコネートデヒドラターゼの発現により2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートに酵素的に変換することができ及び/又はD−グルコサミネートをD−グルコサミネートデアミナーゼの発現により2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートに酵素的に変換することができ、そして2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートをケト酸デカルボキシラーゼの発現により脱カルボキシル化によって2−デオキシ−D−リボースに酵素的に変換することのできる生物。
【請求項42】
2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートキナーゼ活性を発現しない、請求項41に記載の生物。
【請求項43】
2−デヒドロ−3−デオキシ−D−グルコネートアルドラーゼ活性を発現しない、請求項41又は42に記載の生物。
【請求項44】
2−デオキシ−D−リボースアルドラーゼ活性を発現しない、請求項41〜43の何れか一つに記載の生物。
【請求項45】
請求項41〜44の何れか一つに記載の生物を利用して行なう、請求項20〜40の何れかに記載の方法。
【請求項46】
請求項38に規定したポリヌクレオチド又はかかるポリヌクレオチドによりコードされるグルコネートデヒドラターゼの、請求項36又は37に記載の方法における利用。
【請求項47】
請求項40に規定したポリヌクレオチド又はかかるポリヌクレオチドによりコードされるグルコサミネートデアミナーゼの、請求項39に記載の方法における利用。
【請求項48】
ケト酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素又はかかる酵素をコードするポリヌクレオチドの、式(I)の化合物を2−デオキシ−D−リボースに変換する方法における利用。

【公開番号】特開2012−82221(P2012−82221A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5561(P2012−5561)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【分割の表示】特願2006−516047(P2006−516047)の分割
【原出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(505475138)マルリエル テクノロジエ ソシエテ シヴィル (2)
【出願人】(390023135)ロディア・シミ (146)
【出願人】(505475150)
【Fターム(参考)】