説明

2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体の混合物との製造方法

【課題】ピペリジン、及びプロリンといった汎用性の高い化合物を用いた、高い収率、選択性及び生産効率を有する2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンとの混合物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させて2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとアルキリデンシクロアルカノンとの混合物を製造する方法であって、下記の工程を有する製造方法である。
工程(I):酸性化合物ならびにピペリジン及び/又はプロリンの存在下、ならびに水の存在下又は不存在下、60〜100℃の条件で、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンとの混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンは、生理活性物質や香料の合成中間体として有用であることが知られている。この2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンの製造方法としては、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを、水と塩基触媒の存在下で反応させる方法が知られている(特許文献1〜3参照)。しかし、これらの方法は、(i)アルカリ金属水酸化物などの塩基触媒の水溶液による不均一系反応であり、廃水が大量に生成するなど生産効率の点で不十分である、(ii)アルキルアルデヒドに対してシクロアルカノンを過剰に使用するため、環境負荷が増大するなどの問題があった。
【0003】
また、ケトンとアルデヒドからエナミン化合物を経由してα,β−不飽和ケトンを合成する方法も知られている。例えば、特許文献4には、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとのエナミン経由でのペンチリデンシクロペンタノンを合成する方法が開示されている。しかし、この方法は、シクロアルカノンにモル当量のアミンを用いてエナミンを合成した後、強酸でアルキルアルデヒドを付加反応させており、溶媒が必要な点などの生産性の面で満足いくものではない。
【0004】
特許文献5には、ほぼ同量のアミン及びカルボン酸からなる触媒系を用いてエナミン経由の付加反応によるα,β−不飽和ケトンの製造方法が開示されている。しかし、特許文献5には、当該製造方法がシクロアルカノンの合成に適用し得ることに関する記載は全くない。また、実施例ではケトンとしてアセトンを使用しているが、使用するケトンによる反応の選択性向上に関する検討は一切なされていない。さらに、使用するアミンとしては、常圧・常温で気体でありハンドリングが容易ではないジメチルアミン、及び高価なピロリジンのみであった。
【0005】
【特許文献1】特開昭56−147740号公報
【特許文献2】特開2001−335529号公報
【特許文献3】特開2004−217619号公報
【特許文献4】特開昭57−48935号公報
【特許文献5】特開2001−163822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ピペリジン及びプロリンといった汎用性の高い化合物を用いた、高い収率、選択性及び生産効率を有する2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンとの混合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ピペリジン及び/又はプロリンを特定の使用量で用いて、かつ特定の温度条件下においてエナミン化合物を得る方法を採用することによって、目的とする2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノン(以下、単に脱水体ということがある。)との混合物を高い収率、選択性及び生産効率で得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させて2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとアルキリデンシクロアルカノンとの混合物を製造する方法であって、工程(I):酸性化合物ならびにピペリジン及び/又はプロリンの存在下、ならびに水の存在下又は不存在下、60〜100℃の条件で、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させる工程を有する製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、ピペリジン及びプロリンといった汎用性の高い化合物を用いた、高い収率、選択性及び生産効率を有する2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンとの混合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の製造方法は、工程(I):酸性化合物ならびにピペリジン及び/又はプロリンの存在下、ならびに水の存在下又は不存在下、60〜100℃の条件で、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させる工程を必須とし、好ましくは工程(II):工程(I)で得られた反応終了物に含まれるシクロアルカノンを蒸留回収し、再使用する工程、及び工程(III)工程(I)で得られた反応終了物に含まれるピペリジン及び/又はプロリンを回収し、再使用する工程を含むものである。本発明の製造方法の好ましい態様の一つとしては、以下の反応式(A)により示すことができる。反応式(A)は、酸性化合物の存在下において、シクロペンタノンとピペリジンとを反応させて中間体を形成した後、バレルアルデヒドを添加して、目的化合物である2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペンタノンとその脱水体との混合物を得る反応を代表例として示すものである。
【0011】
【化1】

【0012】
[工程(I)]
工程(I)は、工程(I):酸性化合物ならびにピペリジン及び/又はプロリンの存在下、ならびに水の存在下又は不存在下、60〜100℃の条件で、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させる工程であり、この工程により、本発明の目的化合物である2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体との混合物を含む反応終了物が得られる。
温度条件としては、反応活性の向上と副反応の抑制の観点から、70〜95℃が好ましく、より好ましくは75〜95℃である。また、ピペリジン及び/又はプロリンは、アルキルアルデヒドの使用量に対して1.5〜10モル%の割合で使用することが好ましく、反応性及び選択性の観点から、好ましくは1.5〜8モル%、より好ましくは1.5〜6モル%であり、3〜4.5モル%がさらに好ましい。ピペリジンとプロリンは、各々単独で用いることもできるし、併用することもできる。また、後述するように、プロリンは、上記反応式(A)に示される中間体の形成に使用すると同時に、酸性化合物として使用することもできる。
【0013】
[シクロアルカノン]
本発明で用いられるシクロアルカノンは、好ましくはシクロペンタノンまたはシクロヘキサノンであり、より好ましくはシクロペンタノンである。
シクロアルカノンの使用量は、アルキルアルデヒドの選択性を向上させる観点から、アルキルアルデヒド1モルに対して、好ましくは1〜5モル、過剰分のシクロアルカノン回収などの生産性を考慮すると1〜4モルが好ましく、2〜3.5モルがより好ましく、3〜3.5モルがさら好ましい。
【0014】
[酸性化合物]
本発明における酸性化合物は、触媒として用いられるものであり、カルボン酸が好ましく挙げられる。カルボン酸としては、2〜10個の炭素原子を有する、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸などの脂肪族カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸;プロリンなどの窒素含有のカルボン酸が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を同時に使用することができる。また、2個以上のカルボキシル基を有する2〜10個の炭素原子を有するカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸を使用してもよい。好ましいカルボン酸としては、酢酸、ヘキサン酸、フタル酸、アジピン酸、及びプロリンであり、酢酸及びプロリンがより好ましい。プロリンは、上記反応式(A)に示される中間体の形成に、かつ酸性化合物として同時に使用することができる。この場合、別途の酸性化合物を用いる必要が無いため、生産時の管理・作業を軽減することができる。
酸性化合物の使用量は、反応性及び選択性の観点から、アルキルアルデヒド1モルに対して、好ましくは1〜5モル、より好ましくは1.5〜4.5モルである。また、プロリンを上記反応式(A)に示される中間体の形成に、かつ酸性化合物として同時に使用する場合、プロリンの使用量は、上記した中間体の形成に用いられる使用量と酸性化合物としての使用量との合計量とすればよい。
【0015】
[水]
本発明の製造方法において、水の存在下でシクロアルカノンとピペリジン及び/又はプロリンとの反応を行うことができる。水を使用することで、さらに高い収率で目的化合物が得られ、また反応後にピペリジン及び/又はプロリンを水層に溶解させることで回収・再使用することが可能となり生産効率を向上させることができる。
水の使用量は、反応活性の過剰な低下を抑制する観点から、アルキルアルデヒドに対し0.05〜1質量倍が好ましく、0.1〜0.55質量倍がより好ましく、0.2〜0.35質量倍がさらに好ましい。
【0016】
[溶媒]
本発明の反応は、溶媒を用いずに行うことも可能であるが、溶媒を用いることもできる。溶媒は、本発明の反応系において不活性であり、かつ本発明の目的化合物の分離精製を阻害しないものであれば特に制限されない。このような溶媒としては、例えば、沸点範囲が140〜210℃程度の、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ノナン、デカン、ウンデカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒などが挙げられる。溶媒の使用量は、アルキルアルデヒド1モルに対して、通常0.5〜10質量倍程度である。
【0017】
[アルキルアルデヒド]
本発明で用いられるアルキルアルデヒドは、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数3〜5、さらに好ましくは炭素数4の直鎖アルキル基を有するアルデヒドである。炭素数3〜5のアルキル基を有するアルデヒドとしては、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒドなどが挙げられ、炭素数4の直鎖アルキル基を有するアルデヒドは、バレルアルデヒドである。これらのアルキルアルデヒドを用いることで、本発明の反応の選択性が向上するので、後述するシクロアルカノンの有効な回収・再利用が可能となり、目的化合物を生産効率よく得ることができる。
【0018】
アルキルアルデヒドの添加方法は、特に制限はないが、滴下して添加することが好ましい。本発明の反応は、アルキルアルデヒドの滴下を終了した後、すぐに終了させることもできるが、0.5〜3時間、好ましくは0.5〜2.5時間程度、反応温度を維持しつつ保持した後に終了させることが、生産効率などの点から好ましい。本発明の反応時間は、上記のアルキルアルデヒドの滴下時間を含めて、通常3〜8時間程度であり、3.5〜7.5時間が好ましく、5〜7時間がより好ましい。
【0019】
[反応終了物]
上記のようにして、本発明の目的化合物である2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体の混合物を含む反応終了物が得られる。得られた混合物は、そのまま混合物として使用することもできるし、蒸留などにより単離した後に各々を使用することもできる。
本発明の製造方法において、反応終了物中の2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体とのモル比率は、1:2〜2:1程度であり、本発明における反応を水の存在下で行った場合は、1:2〜4:1程度である。当該モル比率は、所望に応じて調整することができ、脱水体のモル比率を低くしたい場合は、水を使用する、酸の使用量を低く抑える、低温にするなどにより調整すればよく、脱水体のモル比率を高くしたい場合は、水を使用しない、酸を過剰に添加する、高温にするなどにより調整すればよい。
【0020】
[工程(II)]
本発明の工程(II)は、工程(I)で得られた反応終了物に含まれる未反応のシクロアルカノンを蒸留回収し、再使用する工程である。本発明の反応において、過剰に用いられたシクロアルカノンが、未反応のまま反応終了物中に含まれるため、生産効率を向上させる目的で、蒸留により回収し、これを再使用することが好ましい。
蒸留は、生産性、減圧条件の制御の容易さの観点から、0.1〜100kPaの真空度で行うことが好ましく、0.5〜50kPaの真空度がより好ましい。温度条件は、蒸留塔内温度が通常50〜130℃程度であり、塔頂温度は50〜120℃程度である。蒸留装置としては、特に制限なく、回分式蒸留装置でも、連続式蒸留装置であってもよい。また、蒸留塔としては、特に制限なく、例えばビグリューカラム、回転バンドカラム、棚段塔、充填塔などを用いることができる。
回収した未反応シクロアルカノンの再使用の方法は、該シクロアルカノンを原料として用いられれば特に制限はなく、本発明の反応が行われる連続式、回分式などの方式に応じて適宜選択すればよい。
工程(I)で水を使用した場合、得られた反応終了物は、上層が有機層、下層が水層の2層に分離しているので、これらの層を分離した後、有機層を蒸留して、シクロアルカノンを回収すればよい。分離の方法は、特に制限なく常法により行えばよい。また、蒸留及び再利用の方法は、上記と同様である。
【0021】
[工程(III)]
本発明の工程(III)は、工程(I)で得られた反応終了物に含まれるピペリジン及び/又はプロリンを回収し、再使用する工程である。工程(I)で水を使用した場合、反応終了物の水層にはピペリジン及び/又はプロリンが溶解しているので、環境負荷の低減、生産効率の観点から、分離した水層をそのまま再利用することができる。当該水層に溶解するピペリジン及び/又はプロリンの量は、反応条件などにより変わるので一概にはいえないが、反応において用いられるピペリジン及び/又はプロリンに対して、通常50〜90モル%程度であり、反応活性を低下させない程度に水の使用量を多めに設定することで、70〜90モル%程度とすることができる。回収したピペリジン及び/又はプロリンの再使用の方法は、特に制限なく、本発明の反応が行われる連続式、回分式などの方式に応じて適宜選択すればよい。
【0022】
[アルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法]
下記式(6)で表されるアルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテート(以下、化合物(6)という。)は、香料素材、生理活性剤として有用な化合物であり、本発明にかかる下記式(1)で表される2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノン(以下、化合物(1)という。)、その脱水体である下記式(2)で表されるアルキリデンシクロアルカノン(以下、化合物(2)という。)、あるいは化合物(1)と化合物(2)との混合物を原料として得ることができる。
【0023】
【化2】

【0024】
式中、nは1又は2の整数を示し、1が好ましい。R1は水素原子、又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、炭素数3〜5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数4の直鎖のアルキル基がより好ましい。また、R2は、炭素数1〜3のアルキル基を示し、メチル基が好ましい。
【0025】
化合物(6)の調製方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして得られる。まず、化合物(1)を、シュウ酸などを用いた脱水反応により化合物(2)を得て、還流するn−ブタノール中で、塩酸、臭化水素酸などの水性酸の存在下で、化合物(2)を異性化反応させて、下記式(3)で表される2−(アルキル)シクロアルカノン(以下、化合物(3)という。)を得る。次いで、化合物(3)と下記式(4)で表されるマロン酸ジエステル(以下、化合物(4)という。)と、を塩基性触媒存在下で反応させて、下記式(5)で表される化合物(5)を得る。
【0026】
【化3】

【0027】
式中、n、R1、及びR2は前記と同じであり、式(4)及び(5)における複数のR2は、同一でも異なっていてもよい。
【0028】
化合物(3)と化合物(4)との反応に用いられる塩基触媒としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシドなどのアルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。該塩基触媒の使用量は、化合物(3)1モルに対して0.005〜0.2モルが好ましく、溶媒としては、アルコール類などの極性溶媒を好ましく用いることができる。反応温度は−10〜30℃が好ましく、0〜20℃がより好ましい。
【0029】
このようにして得られた化合物(5)と水とを反応させることにより、化合物(6)が得られる。水は、滴下しながら添加することが好ましく、添加量は、化合物(5)1モルに対して1〜3倍量が好ましい。また、反応温度は150〜250℃が好ましい。
【0030】
[5−アルキル−5−アルカノリドの製造方法]
本発明にかかる2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノン(化合物(1))、その脱水体であるアルキリデンシクロアルカノン(化合物(2))、あるいは化合物(1)と化合物(2)との混合物を原料として、香料素材、生理活性剤として有用な、下記式(8)で表される5−アルキル−5−アルカノリド(以下、化合物(8)という。)を得ることができる。
【0031】
【化4】

【0032】
式中、n及びR1は前記と同じである。
【0033】
化合物(8)の調製方法は特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして得られる。まず、化合物(1)を、シュウ酸などを用いた脱水反応により化合物(2)を得て、還流するn−ブタノール中で、塩酸、臭化水素酸などの水性酸の存在下で、化合物(2)を異性化反応させて、化合物(3)を得る。次いで、Pd/Cなどの触媒存在下で水素還元させて、化学式(7)で表される化合物(7)を得る。
【0034】
【化5】

【0035】
式中、n及びR1は、前記と同じである。
【0036】
このようにして得られた化合物(7)を例えば特開平9−104681号公報に記載されているように、過酢酸などの酸化剤を用いて、バイヤービリガー(Baeyer−Villiger)酸化させることにより、化合物(8)が得られる。
【実施例】
【0037】
本発明の製造方法における、反応の評価は、以下の数値により行った。
(1)アルキルアルデヒド転化率
アルキルアルデヒド転化率は、下記式(1)により算出された値であり、原料として用いたアルキルアルデヒドがどれだけ反応に消費されたかを示す値である。
アルキルアルデヒド転化率(%)=[1−(AA1/AA2)]×100 (1)
AA1:反応前のアルキルアルデヒド量(モル)
AA2:反応後のアルキルアルデヒド量(モル)
(2)収率
収率は、下記式(2)により算出された値であり、反応に使用したバレルアルデヒドに対する本発明の目的化合物である2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノン及びその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンの合計生成量の割合である。
収率(%)=(HA1+HA2)/AA1×100 (2)
HA1:生成した2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノン量(モル)
HA2:生成したアルキリデンシクロアルカノン量(モル)
AA1は、上記と同様である。
(3)選択率
選択率は、下記式(3)により算出された値であり、反応において消費されるシクロアルカノンの量に対する本発明の目的化合物である2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノン及びその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンの合計生成量の割合である。
選択率(%)=(HA1+HA2)/(CA1−CA2)×100 (3)
CA1:反応前のシクロアルカノン量(モル)
CA2:反応後のシクロアルカノン量(モル)
HA1及びHA2は、上記と同様である。
【0038】
実施例1
還流冷却管を付けた500mLの4つ口フラスコに、シクロペンタノン178.7g(2.12mol)、ピペリジン2.27g(26.7mmol)、酢酸1.63g(27.1mmol)を仕込み、撹拌しながら74℃に加熱した。加熱後、バレルアルデヒド56.1g(0.65mol)を5時間かけて滴下し、滴下した後すぐに冷却して反応を終了させた。
得られた反応終了物をガスクロマトグラフィーで分析を行い、反応終了物にはバレルアルデヒド1.34g(15.6mmol)、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペンタノン35.7g(0.21mol)、ペンチリデンシクロペンタノン51.2g(0.34mol)が含まれており、アルキルアルデヒド転化率は97.6%、収率は83.9%となった。一方、反応終了物にはシクロペンタノン128.8g(1.53mol)が含まれており、選択率92.0%となった。
【0039】
実施例2及び3
還流冷却管を付けた500mLの4つ口フラスコに、シクロペンタノン、ピペリジン、ヘキサン酸(または酢酸)を第1表−1に示される量で仕込み、撹拌しながら第1表−1に示される反応温度に加熱した。加熱後、バレルアルデヒドを第1表−1に示される量及び時間で滴下し、滴下した後すぐ冷却して反応を終了させた。
得られた反応終了物をガスクロマトグラフィーで分析を行い、各実施例の反応終了物には第1表−2に示される化合物が含まれていることが分かった。また、各実施例のアルキルアルデヒド転化率、収率、及び選択率を、第1表−2に示す。
【0040】
実施例4
還流冷却管を付けた500mLの4つ口フラスコに、シクロペンタノン、プロリン及び水を第1表−1に示される量で仕込み、撹拌しながら第1表−1に示される反応温度に加熱した。加熱後、バレルアルデヒドを第1表−1に示される量及び時間で滴下し、滴下した後、反応温度を保持しつつ第1表−1に示される時間攪拌した後に冷却して反応を終了させた。
得られた反応終了物は有機層である上層と水層である下層との2層に分離しており、これらの上層及び下層をガスクロマトグラフィーで分析を行った。上層の有機層には、第1表−2に示される化合物が含まれていることが分かった。また、各実施例のアルキルアルデヒド転化率、収率、及び選択率を、第1表−2に示す。
また、上層及び下層の窒素分析を行ったところ、全窒素(反応に使用したプロリン)の80%が下層に含まれることが確認され、水を添加することによってプロリンの有機層からの分離が可能であることが分かった。

【0041】
【表1】

*1、実施例4は、バレルアルデヒドを5時間で滴下し、その後、反応温度を2時間保持しつつ攪拌し、反応を終了した。
*2、アルキルアルデヒドに対するピペリジン及び/又はプロリンの使用量(モル%)
*3、アルキルアルデヒドに対する酸性化合物(酢酸・ヘキサン酸)の使用量(モル%)
*4、アルキルアルデヒドに対するシクロアルカノンの使用量(モル比)
*5、アルキルアルデヒドに対する水の使用量(質量倍)

【0042】
【表2】

【0043】
比較例1及び2
還流冷却管を付けた500mLの4つ口フラスコに、シクロペンタノン、ピペリジン、酢酸を第2表−1に示される量で仕込み、撹拌しながら第2表−1に示される反応温度に加熱した。加熱後、バレルアルデヒドを第2表−1に示される量及び時間で滴下し、滴下した後すぐ冷却して反応を終了させた。
得られた反応終了物をガスクロマトグラフィーで分析を行い、各比較例の反応終了物には第2表−2に示される化合物が含まれていることが分かった。また、各比較例のアルキルアルデヒド転化率、収率、及び選択率を、第2表−2に示す。

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
実施例1及び2の結果より、本発明の製造方法によって目的化合物は80%を超える非常に高い収率で得られ、水を用い、上記反応式(A)に示される中間体の形成に、かつ酸性化合物としてプロリンを用いた実施例4においても80%を超える非常に高い収率で得られることが示された。原料のシクロペンタノンの使用量、及びピペリジンの使用量が少ない実施例3でも、目的化合物を収率78.0%で得ることができた。また、実施例1〜4において、選択率は88.5〜92.7%と非常に高いことが示された。
比較例の結果より、反応温度が低い比較例1では、反応活性が大きく低下するうえ、バレルアルデヒドの重合体などの副反応物が多く生成するため、収率及び選択率が著しく低下することが確認された。また、ピペリジンの使用量が少ない比較例2では、反応活性が大きく低下する上、バレルアルデヒドの重合体などの副反応物が多く生成するため、収率が低下するだけでなく選択率も低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法によれば、ピペリジン、及びプロリンといった汎用性の高い化合物を用いて、高い収率、選択性及び生産効率で、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとその脱水体であるアルキリデンシクロアルカノンとの混合物を製造することができる。当該混合物は、生理活性物質や香料の合成中間体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させて2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンとアルキリデンシクロアルカノンとの混合物を製造する方法であって、下記の工程を有する製造方法。
工程(I):酸性化合物ならびにピペリジン及び/又はプロリンの存在下、ならびに水の存在下又は不存在下、60〜100℃の条件で、シクロアルカノンとアルキルアルデヒドとを反応させる工程。
【請求項2】
水の使用量が、アルキルアルデヒドに対して0.05〜1質量倍である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ピペリジン及び/又はプロリンの使用量が、アルキルアルデヒドに対して1.5〜10モル%である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
シクロアルカノンの使用量が、アルキルアルデヒド1モルに対して1〜5モルである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
さらに、下記の工程(II)を有する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
工程(II):工程(I)で得られた反応終了物に含まれるシクロアルカノンを蒸留回収し、再使用する工程。
【請求項6】
シクロアルカノンの回収率が、反応終了物に含まれるシクロアルカノンに対して90〜95%である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、下記の工程(III)を有する請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
工程(III):工程(I)で得られた反応終了物に含まれるピペリジン及び/又はプロリンを回収し、再使用する工程。
【請求項8】
ピペリジン及び/又はプロリンの回収率が、工程(I)で使用したピペリジン及び/又はプロリンに対して70〜90%の量である請求項7に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−155233(P2009−155233A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332867(P2007−332867)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】