3次元ナノ金属構造体の光還元加工法
【課題】 金属イオンを光還元して金属構造体を製造する方法において、従来の技術よりも加工分解能を大幅に改善することができる方法を提供する。より具体的には、金属構造体を構成する金属結晶の成長を抑制することで加工分解能を改善した金属構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】 金属結晶の成長を抑制することができる物質を金属イオンが分散した媒体中に添加することで、当該金属イオンが光還元されて生成される金属結晶の成長を防ぎ、これにより当該金属結晶からなる金属構造体の加工分解能を改善する。
【解決手段】 金属結晶の成長を抑制することができる物質を金属イオンが分散した媒体中に添加することで、当該金属イオンが光還元されて生成される金属結晶の成長を防ぎ、これにより当該金属結晶からなる金属構造体の加工分解能を改善する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンを光還元して金属構造体を製造する方法に関する。さらに詳細には、金属構造体を構成する金属結晶の成長を抑制することで加工分解能を改善した金属構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光リソグラフィ技術や光ディスク製造技術等のように、光を用いた微細加工技術が広く利用され、また、各種の方面で研究されてきている。
【0003】
例えば、現在最も広く利用されている光を用いた微細加工技術として、上記した光リソグラフィ技術がある。この光リソグラフィ技術は、半導体チップ等のような各種の電子デバイスの製造には欠かせない基幹技術であるが、原理的には写真転写技術を用いた大量複製技術であって、最終的には化学的な手法によって特定の部位の金属を溶解、析出もしくは除去することにより、金属構造体として所望の金属パターンを作製するというものである。従ってこの方法は平面的な加工しか行えず、3次元構造の金属構造体を自由に作製することはできない。
【0004】
一方、金属構造体として所望の金属パターンを作製する技術としては、上記した光リソグラフィ技術の他に、レーザー光を特定の材料に直接照射することによって金属パターンを作製する手法が知られている。具体的には、金属ナノ微粒子の分散体にレーザー光を集光照射することによって、レーザー光の集光点において金属ナノ微粒子を溶解結合させ、これにより金属構造体として金属パターンを作製する手法や、金属イオンに光を集光照射することにより金属イオンを光還元させることで金属体を析出させ、これにより金属構造体として金属パターンを作製する手法等が存在する。
【0005】
ここで、上記した金属イオンを光還元させることで金属体を析出させるという手法においては、光を金属イオンに集光照射しながら当該集光を走査することによって、当該走査軌跡に応じて金属構造体として任意の金属パターンを作製することが可能である。従って3次元構造の金属構造体も自由に作製することができるためその応用範囲は極めて広範囲に及ぶものであって、近年さまざまな分野で研究開発が行われている。
【0006】
金属イオンを光還元させることで金属体を析出させるという手法において、金属構造体の加工分解能を改善する方法も知られている。
【0007】
一般的に金属構造体の析出に伴って光の吸収率が増加するので、金属構造体の量が増加してある閾値を超えたとたんに爆発的に反応が進行してしまうことが多い。このような現象がおきると、集光点の周辺に存在する金属イオンの光還元も同時に進行してしまい、金属構造体の加工分解能が低下してしまう問題があった。特許文献1には材料中にある種の色素を添加することで、非加工材料の吸収スペクトルならびに吸収断面積を一定に保ち、レーザー光の集光点以外の領域へレーザー光のエネルギーが伝搬して加工分解能を低下させることを防ぐとともに、レーザー光の集光点での光還元効率を向上させる方法が開示されている。
【0008】
この方法によって、加工分解能がマイクロメートルオーダーまで改善されたが、より精度の高いナノメートルオーダーの加工分解能が要望されていた。
【特許文献1】特開2006−316311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、金属イオンを光還元して金属構造体を製造する方法において、従来の技術よりも加工分解能を大幅に改善することができる方法を提供することである。より具体的には、金属構造体を構成する金属結晶の成長を抑制することで加工分解能を改善した金属構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、光還元により生じた金属結晶が、光照射を止めてもしばらく成長を続け、最終的に数マイクロメートルのサイズにまで成長すること、そして、この現象が金属イオンを光還元することによる金属構造体の加工分解能の制約となっていることを見出した。そして、鋭意研究を重ねた結果、金属イオンが分散された媒体中に含有させることで金属結晶の成長を抑制できる物質を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)金属イオンが分散された媒体中に光を照射することにより前記金属イオンを光還元して金属結晶を生成させる工程を含む金属構造体の製造方法であって、前記媒体は金属結晶の成長を阻害する物質を含むことを特徴とする方法、
(2)前記物質が、イオン性官能基及び配位結合性官能基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有する物質である(1)に記載の方法、
(3)前記イオン性官能基を有する物質が一般式(I)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-COOH (I)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(4)前記イオン性官能基を有する物質が一般式(II)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-NH2 (II)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(5)前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(III)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-SH (III)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(6)前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(IV)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-OH (IV)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(7)前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(V)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-CN (V)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(8)前記物質が一般式(VI)で表される物質又はその塩である(1)に記載の方法、
R1-O-R3 (VI)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(9)前記物質が一般式(VII)で表される物質又はその塩である(1)に記載の方法、
R1-C(=O)-NH-R3 (VII)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(10)前記物質が、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基及びチオール基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有するモノマーから構成されるポリマー又はコポリマーである(1)に記載の方法、及び
(11)前記金属イオンが銀イオンである(1)〜(10)のいずれかに記載の方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、金属イオンを光還元することで生成する金属結晶の粒子サイズをナノメートルのサイズに抑えることができるので、当該金属結晶から構成される金属構造体の加工分解能を大幅に改善することができる。これにより、金属構造体の微細で精密な任意のパターンの3次元構造を容易に作製することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明において金属構造体とは、金属イオンが光還元されて生成する金属結晶から構成される構造体を指す。従って、金属結晶のサイズが小さくなれば、それだけ金属構造体の加工分解能が改善される。本発明の方法により製造される金属構造体の形状としては、直線や曲線のような1次元構造、平面的な2次元構造、及び立体的な3次元構造が挙げられる。本発明の製造方法により、媒体中のいかなる部位にも任意のパターンで金属構造体を作製することができ、例えば媒体表面の一部又は全部に金属構造体を作製することや、その内部に金属構造体を作製すること等も容易に行える。
【0015】
本発明の方法において照射される光は、金属イオンを還元するためのエネルギーを供給するものであるため、金属イオンが吸収をもつ波長の光を照射する。ただし、照射光の波長を金属イオンが吸収をもつ波長に変換するような物質が媒体中に含まれている場合には、照射される光は金属イオンが吸収をもつ波長に限られない。光源の種類としては、レーザー光源、発光ダイオード、ランプ等が挙げられるが、金属イオンを光還元するためには強いエネルギーを必要とするため、レーザー光源を利用することが好ましい。照射光は通常には集光レンズを用いて集光されて金属イオンが分散された媒体中で焦点を結ぶ。光を集光することにより集光点(焦点)の光子密度を極めて高くすることができ、金属イオンを還元するのに必要な光エネルギーを集光点に局在させることができる。これにより集光点付近のみで金属イオンを光還元することができ、集光点を走査することで集光点の軌
跡にそった微細な金属構造体を製造することが可能になる。さらに光を集光することで、集光点のサイズスケールでの微細な加工が可能になる。さらに、フェムト秒短パルスレーザー光等を利用することで、時間当たりにさらに高い光エネルギーを付与することもできる。
【0016】
金属イオンを光還元するのに必要な照射光の強度は、金属イオンの種類や照射光波長における金属イオンの吸光度に依存する。すなわち、照射光波長における金属イオンの吸光度が低い場合には金属イオンを光還元するのに必要な照射光の強度は相対的に高くなり、逆に、照射光波長における金属イオンの吸光度が高い場合には金属イオンを光還元するのに必要な照射光の強度は相対的に低くなる。また、媒体中に照射光を吸収し、又は散乱するような物質が存在する場合には媒体中を照射光が通過するに従って照射光の強度が小さくなるため、照射する光の強度を相対的に高くすることが必要となる。従って、金属イオンを還元するために必要な照射光の強度は一概に決定することができないが、例えば媒体への入射前の段階でおよそ0.1mW〜10mWの範囲に設定することができる。照射光の強度は加工時に常に一定である必要はなく、適宜変化させてもよい。
【0017】
集光点の走査速度は照射光の強度と同様に、照射光波長における金属イオンの吸光度や媒体中の物質の存在によって適宜調節することができる。従って、金属イオンを還元するために必要な走査速度は一概に決定することができないが、例えば0.1μm/s〜100μm/sの範囲に設定することができる。走査速度は加工時に常に一定である必要はなく、適宜変化させてもよい。
【0018】
集光点の走査は、例えば金属イオンが分散された媒体をXYZ軸ステージの上に乗せた状態で光を照射し、ステージを1次元、2次元又は3次元的に移動させることで行うことができる。ステージの移動により媒体中の集光点を任意に走査させることができる。また、集光点の走査は、金属イオンが分散された媒体の位置を固定した状態で、媒体中における集光点の位置を任意に移動させることによって行うこともできる。金属イオンが分散された媒体と照射光の集光点を同時に移動させることで集光点を走査することもできる。
【0019】
集光点を走査することにより3次元構造の金属構造体を製造するために、集光点の軌跡が既に生成された金属結晶によって妨げられないようにする事が望ましい。このための方法として、媒体中に製造されるべき金属構造体のうち、照射光の媒体への入射位置から遠い部分から近い部分に向けて連続的に集光点を走査して順次金属イオンを還元して金属構造体を製造することが考えられるが、集光点の軌跡が妨げられなければ、最も遠い部分から最も近い部分に向けて走査する必要はない。このように集光点を走査することで、任意の3次元構造の微細な金属構造体を製造することができ、例えば箱のように中が空洞の金属構造体でも容易に製造することができる。また、集光点の軌跡が既に生成された金属結晶によって妨げられるおそれがある場合には、一度照射光を消した上で、照射光の媒体への入射角を適宜変化させ、集光点の軌跡が妨げられない位置から再度照射を開始して再び集光点を走査することができる。
【0020】
本発明において、光還元される金属イオンとしては以下のものが挙げられる。
(1)周期表におけるIIIA族からIB族の遷移元素のイオン。中でもCrイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Pdイオン、Ptイオン、Cuイオン、Agイオン、Auイオンが好ましい。
(2)IIIB族元素のイオン。中でもAlイオン、Inイオンが好ましい。
(3)Znイオン、Cdイオン、Hgイオン、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン。
【0021】
光還元される金属イオンが媒体中に分散している状態とは、例えば、金属イオンが水溶性の媒体中に溶解している状態や、溶解せずに例えば有機溶剤や樹脂等の媒体中に分散
している状態を指す。分散している状態とは、コロイドやミセル形態で分散している状態をも含む。
【0022】
本発明において媒体中に分散している金属イオンの濃度に特に限定はないが、0.001M〜10Mの範囲であることが好ましい。より好ましい金属イオンの濃度は0.01〜1Mの範囲である。
【0023】
本発明において利用可能な媒体は金属イオンを分散することができるものであれば特に制限はなく、水、有機溶剤、油脂のような液体や流動体、さらにはゲルのような半固体、樹脂(PMMAやPVA等の有機溶剤や水に可溶な物質が好ましい)、ガラス等のアモルファス材料、ニオブ酸リチウム等の金属イオンをドープ可能な無機結晶のような固体も含まれるが、水であることが好ましい。金属イオンが分散された媒体は直接光を照射されてもよいし、当該媒体を容器に入れ、又は基板に乗せた後で容器又は基板を通して光が照射されてもよい。金属イオンが分散された媒体が液体や流動体の場合には、容器や基板と媒体との接触面に集光照射することで、容器の内表面や基板上に金属構造体を作製することも可能になる。
【0024】
本発明において、金属結晶の成長を阻害する物質とは、金属が析出して結晶化し、その結晶同士が結合して大きくなるのを防ぐ物質をいう。このような物質としては、金属結晶の表面を覆い、当該金属結晶と他の金属結晶との結合を妨げる作用を有する物質が考えられる(図1)。このような観点から、金属結晶の成長を阻害する物質は、以下のような特性の全てを備えることが好ましい。
(1)分子中に金属や金属イオンと親和性をもつか、又は直接結合する原子を有すること。
(2)金属イオンが分散している溶媒中に分散すること。
(3)直接金属イオンを還元する能力が低いこと。
(4)金属イオンと結合し沈殿物等を生じないこと(ただし、溶媒のpH調整や金属イオンの錯イオン形成によって沈殿物を再度溶解させることが可能な場合は使用可能である)。
【0025】
以上の条件を満たすと考えられる物質のうち本発明に利用可能な物質はさらに以下のいずれかの特性を少なくとも1つ以上備えている炭化水素鎖である。
(5)分子構造中にイオン性官能基を有する。
(6)分子構造中に非共有電子対(ローンペア)をもつ配位結合性官能基を有する。
(7)分子構造中にペプチド結合又はこれに類似した構造、エーテル結合、エステル結合を有する。
(8)分子構造中にカルボニル基を有する。
【0026】
上記炭化水素鎖には、飽和又は不飽和炭化水素鎖が含まれるが、金属イオンを還元する能力がより低い点で、飽和炭化水素であることが好ましい。
炭化水素の鎖長に特に制限はなく、使用する媒体の種類や、分子構造中の親水基の存在等を考慮して媒体中に分散しやすいものを適宜選択することができる。溶媒が水の場合で,かつ分子鎖に親水基を含まない場合は,炭素鎖の長さは5〜10程度が好ましい。
【0027】
上記イオン性官能基とは、水溶液中でイオン化し得る官能基を指し、アニオン性官能基、カチオン性官能基が含まれる。アニオン性官能基としてはカルボキシル基、スルホニル基、リン酸基、シラノール基及びこれらの塩等が挙げられ、カチオン性官能基としては、アミノ基、ピリジニウム基及びこれらの塩等が挙げられる。上記イオン性官能基の塩としては、アニオン性官能基の場合はナトリウム塩、カリウム塩等,またカチオン性官能基の場合はハロゲン化塩等が挙げられる。
【0028】
上記配位結合性官能基としては、チオール基、水酸基、シアノ基等が挙げられる。チオール基は金、銀、銅等とチオール結合を形成することができる。
【0029】
以上のような性質をもった物質は、金属と親和性を有するか、金属原子と直接結合するために金属表面を覆うことができ、これにより金属結晶の成長を防ぐことができると考えられる。
【0030】
下記一般式(I〜VII)で表される物質及びその塩は本発明に係る金属結晶の成長を阻害する物質に含まれる。
【0031】
R1-COOH (I)
R1-NH2 (II)
R1-SH (III)
R1-OH (IV)
R1-CN (V)
R1-O-R3 (VI)
R1-C(=O)-NH-R3 (VII)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【0032】
上記R2のアルキル基の鎖長に特に制限はなく、使用する媒体の種類や、分子構造中の親水基の存在等を考慮して適宜選択することができる。溶媒が水の場合で,かつ分子鎖に親水基を含まない場合は,炭素鎖の長さは5〜10程度が好ましい。
【0033】
上記一般式(I〜VII)で表される物質の塩としては、例えばカルボキシル基のナトリウム塩である-COONa、カリウム塩である-COOK、カルシウム塩である(-COO)2Ca、銀塩である-COOAg等を有する物質が挙げられる。また、上記一般式(I〜VII)で表される物質又はその塩には、これらがイオン化した状態の物質も含まれ、例えばカルボキシル基又はその塩がイオン化した-COO-や、アミノ基がイオン化した-NH3+スルホン基がイオン化した-SO3-を有する物質等も本発明に係る金属結晶の成長を阻害する物質含まれる。
【0034】
上記一般式(I)で表される物質又はその塩の具体例としては、DL−アラニン、デカン酸、デカン酸ナトリウム、セバシン酸、セバシン酸二ナトリウム、ラウリン酸、ラウリン酸ナトリウム、DL−2−アミノ−n−オクタン酸、DL−2−アミノ−n−オクタンナトリウム、N−デカノイルサルコシン酸、N−デカノイルサルコシンナトリウム、N−ラウロリルサルコシン酸又はN−ラウロリルサルコシンナトリウム等が挙げられる。
【0035】
上記一般式(II)で表される物質又はその塩の具体例としては、1−ブチルアミン,1−ヘキシルアミン等のアミンが挙げられる。
【0036】
上記一般式(III)で表される物質又はその塩の具体例としては、1−ブタンチオールや2−アミノエタンチオール等のチオール類が挙げられる。
【0037】
上記一般式(IV)で表される物質又はその塩の具体例としては、6−アミノ−1−プロパノールやブタノール等の一部のアルコール類が挙げられる。
【0038】
上記一般式(V)で表される物質又はその塩の具体例としては、ブチロニトリル等が挙げられる。
【0039】
上記一般式(VI)で表される物質又はその塩の具体例としては、3,3’−オキシジプロピオニトリル等エーテル結合を有する物質が挙げられる。
【0040】
上記一般式(VII)で表される物質又はその塩の具体例としては、アラニンの二量体等のペプチド類が挙げられる。
【0041】
また、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有するモノマーから構成されるポリマー又はコポリマーも本発明に係る金属結晶の成長を阻害する物質に含まれる。このような物質の具体例として、ポリ(ビニルピロリドン)等が挙げられる。該ポリマー又はコポリマーの分子量は通常40000〜80000程度が適当である。
【0042】
媒体中における金属結晶の成長を阻害する物質の濃度は特に限定はないが、0.001M〜10Mの範囲であることが好ましい。より好ましい濃度は0.01M〜1Mの範囲である。
【0043】
本発明における金属構造体を製造するときの温度は特に限定はないが、媒体がその当初の性状を維持している範囲の温度であることが好ましい。例えば水を媒体に用いた場合には、温度が氷点下になると水が凍り、温度が高すぎると水が蒸発してしまうため、水の当初の性状を維持できず、また、温度が高いとそれだけで金属イオンが還元されてしまう傾向があり好ましくない。この場合の好ましい反応温度は5〜60℃程度であり、通常は室温で加工を行うことができる。金属イオン等により光エネルギーが吸収されると、そのエネルギーが熱に変換されて媒体の温度が加工中に上昇する可能性がある。従って、必要があれば加工中の温度変化を抑えるために冷却装置等を用いて温度上昇を抑えることもできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明を加える。ただし、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
金属結晶の成長を阻害する物質を媒体に添加したときの金属構造体の形状
硝酸銀水溶液にN−デカノイルサルコシンナトリウム(NDSS)(化学式VIII)を添加してガラス基板(マイクロカバーガラス、松浪硝子工業株式会社製)上に滴下した。ガラス基板の上面で集光するように調整されたレーザー光(光源:チタンサファイアフェムト秒レーザー(Tsunami(登録商標)、スペクトラフィジックス社製)、中心波長:800 nm,パルス幅:80 fsec)をガラス基板の下から照射しながら、集光点を基板表面と水平方向に直線状に走査した。ここで、NDSSの最終濃度は0.1M、硝酸銀濃度は0.05M、照射されたレーザー光強度は0.8mW、走査速度は7μm/sとした。加工は室温で行った。
CH3(CH2)8−CO−N(CH3)−CH2−COONa (VIII)
NDSS
【0046】
〔比較例〕
金属結晶の成長を阻害する物質を媒体に添加しないときの金属構造体の形状
硝酸銀水溶液にクマリン400(製造元:エキシトン(Exciton)社,販売元:東京インスツルメンツ社)の0.01wt%エタノール溶液を添加したものをガラス基板(マイクロカバーガラス、松浪硝子工業株式会社製)上に滴下した。ガラス基板の上面で集光するように集光レンズを透過させたレーザー光(光源:チタンサファイアフェムト秒レーザー(Tsun
ami(登録商標)、スペクトラフィジックス社製)、中心波長:800 nm,パルス幅:80 fsec)をガラス基板の下から照射しながら、集光点を基板表面と水平方向に直線状に走査した。ここで、使用した硝酸銀濃度は0.05M、照射されたレーザー光強度は0.8mW、走査速度は7μm/sとした。加工は室温で行った。
【0047】
実施例1の方法で基板上に作製された銀結晶からなる直線状の銀構造体(銀ライン)を電子顕微鏡で撮影した写真を図2に、比較例の方法で基板上に作製された銀ラインを電子顕微鏡で撮影した写真を図3に示す。図2では約150nm幅の銀ラインが作製できていることが確認でき、銀ラインを構成する銀結晶の粒子サイズはナノメートルのサイズであることが分かる。これに対し、図3では銀ライン幅が1μm程度の大きさとなっており、小さな粒子状の銀結晶が成長した大きな岩状の塊が存在するため表面には粗い凹凸が見られる。このような大きな粒子が存在すると最終的な線幅は大きな粒子のサイズによって決定されてしまうため、比較例の方法ではこれ以上細い線幅のラインを作製するのは困難であることが分かる。
【0048】
ここでさらに特記すべき点は、実施例1の方法において、レーザーの集光点サイズが1μm程度の大きさがあるにもかかわらず、それよりも一桁程度も小さな線幅の銀ラインが引けたことである。
【0049】
図2では銀ライン幅に対して銀結晶の粒子サイズが非常に小さいことが確認できるが、このことは、レーザー光の集光点のスポットサイズをより小さくしたり、より微小な領域にのみ光を照射することができれば、より微細な加工ができ得ることを示している。
【0050】
〔実施例2〜8〕
実施例1のNDSSに代えて本発明に係る様々な物質(下記化学式IX〜XV)を添加した硝酸銀水溶液についても同様の実験を行い作製された銀ラインを図4〜11に示す。各実施例における実験条件を表1に示す。加工は室温で行った。
NH2−CH(CH3)−COOH (IX)
DL−アラニン 〔実施例2〕
CH3(CH2)8−COONa (X)
デカン酸ナトリウム 〔実施例3〕
NaOOC−(CH2)8−COONa (XI)
セバシン酸二ナトリウム 〔実施例4〕
CH3(CH2)10−COOH (XII)
ラウリン酸ナトリウム 〔実施例5〕
CH3−(CH2)5−CH(NH2)−COOH (XIII)
DL−2−アミノ−n−オクタン酸 〔実施例6〕
CH3−(CH2)10−CO−N(CH3)−CH2−COONa・xH2O (XIV)
N−ラウロイルサルコシンナトリウム水和物 〔実施例7〕
【化1】
ポリ(ビニルピロリドン) 〔実施例8〕
【0051】
【表1】
【0052】
どの物質を添加した場合にも銀ライン幅は200〜300nmの範囲内であり、比較例と比べて、大幅に細い銀ラインを作製できることが確認された。また、不飽和炭化水素としてソルビン酸ナトリウムを添加した場合にも同様にラインが引けたが、時間経過と共に金属イオンが直接還元される傾向も認められたため、不飽和炭化水素を含む物質を使用する場合は、加工直後もしくは金属イオンを含む材料そのものにあらかじめ酸化剤を加える等して不飽和炭化水素の還元能を相殺する処理が必要になる可能性も示唆された。
【0053】
〔実施例9〕
3次元構造の作製
本願の金属構造体の製造方法により、3次元構造の金属構造体の作製を試みた。
【0054】
硝酸銀水溶液にNDSS(化学式V)を添加してガラス基板(マイクロカバーガラス、松浪硝子工業株式会社製)上に滴下した。ガラス基板の上面で集光(焦点のスポットサイズが1μm程度)するように調整されたレーザー光(光源:チタンサファイアレーザー(Tsunami(登録商標)、スペクトラフィジックス社製)、中心波長:800 nm,パルス幅:80 fsec)をガラス基板の下部からガラス基板を通して上方の表面に照射しながら、集光点を基板表面と垂直方向に直線状に走査した。ここで、NDSSの最終濃度は0.1M、硝酸銀濃度は0.04M、照射されたレーザー光強度は1.21mW、及び走査速度は2μm/s(第1回目)及び4μm/s(第2回目)とした。
【0055】
第1回目の条件で基板上に作製された銀結晶からなる基板上面に直立した円柱状の銀構造体(銀ロッド)を電子顕微鏡で斜め上から撮影した写真を図12に示す。横断面の直径が約300 nmの滑らかな表面をもつ銀ロッドが作製できていることが確認できた。第2回目の条件で加工を行い、さらに拡大して撮影した写真(図13)を見ると、最細部が約100 nmの銀ロッドの加工に成功していることが確認できる。
【0056】
この結果から、本発明により、光の走査方向を制御するだけで、3次元構造の微細な金属構造体を容易に作製できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、微細な3次元の金属構造体を任意のパターンで加工することができるため、マイクロマシンの製造や、微小金属コイルの形成による微小空間での磁場の形成や物質の屈折率の制御等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】銀結晶の成長を抑制する物質の作用をイメージした図である。
【図2】金属結晶の成長を阻害する物質としてNDSSを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図3】金属結晶の成長を阻害する物質を媒体に添加しないときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図4】金属結晶の成長を阻害する物質としてDL-アラニンを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図5】金属結晶の成長を阻害する物質としてDL-アラニンを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である(図4を拡大したもの)。
【図6】金属結晶の成長を阻害する物質としてデカン酸ナトリウムを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図7】金属結晶の成長を阻害する物質としてセバシン酸二ナトリウムを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図8】金属結晶の成長を阻害する物質としてラウリン酸ナトリウムを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図9】金属結晶の成長を阻害する物質としてDL-2-アミノ-n-オクタン酸を媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図10】金属結晶の成長を阻害する物質としてN-ラウロイルサルコシンナトリウム水和物を媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図11】金属結晶の成長を阻害する物質としてポリ(ビニルピロリドン)を媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図12】金属結晶の成長を阻害する物質としてNDSSを媒体に添加して作製した銀ロッドを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図13】金属結晶の成長を阻害する物質としてNDSSを媒体に添加して作製した銀ロッドを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンを光還元して金属構造体を製造する方法に関する。さらに詳細には、金属構造体を構成する金属結晶の成長を抑制することで加工分解能を改善した金属構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光リソグラフィ技術や光ディスク製造技術等のように、光を用いた微細加工技術が広く利用され、また、各種の方面で研究されてきている。
【0003】
例えば、現在最も広く利用されている光を用いた微細加工技術として、上記した光リソグラフィ技術がある。この光リソグラフィ技術は、半導体チップ等のような各種の電子デバイスの製造には欠かせない基幹技術であるが、原理的には写真転写技術を用いた大量複製技術であって、最終的には化学的な手法によって特定の部位の金属を溶解、析出もしくは除去することにより、金属構造体として所望の金属パターンを作製するというものである。従ってこの方法は平面的な加工しか行えず、3次元構造の金属構造体を自由に作製することはできない。
【0004】
一方、金属構造体として所望の金属パターンを作製する技術としては、上記した光リソグラフィ技術の他に、レーザー光を特定の材料に直接照射することによって金属パターンを作製する手法が知られている。具体的には、金属ナノ微粒子の分散体にレーザー光を集光照射することによって、レーザー光の集光点において金属ナノ微粒子を溶解結合させ、これにより金属構造体として金属パターンを作製する手法や、金属イオンに光を集光照射することにより金属イオンを光還元させることで金属体を析出させ、これにより金属構造体として金属パターンを作製する手法等が存在する。
【0005】
ここで、上記した金属イオンを光還元させることで金属体を析出させるという手法においては、光を金属イオンに集光照射しながら当該集光を走査することによって、当該走査軌跡に応じて金属構造体として任意の金属パターンを作製することが可能である。従って3次元構造の金属構造体も自由に作製することができるためその応用範囲は極めて広範囲に及ぶものであって、近年さまざまな分野で研究開発が行われている。
【0006】
金属イオンを光還元させることで金属体を析出させるという手法において、金属構造体の加工分解能を改善する方法も知られている。
【0007】
一般的に金属構造体の析出に伴って光の吸収率が増加するので、金属構造体の量が増加してある閾値を超えたとたんに爆発的に反応が進行してしまうことが多い。このような現象がおきると、集光点の周辺に存在する金属イオンの光還元も同時に進行してしまい、金属構造体の加工分解能が低下してしまう問題があった。特許文献1には材料中にある種の色素を添加することで、非加工材料の吸収スペクトルならびに吸収断面積を一定に保ち、レーザー光の集光点以外の領域へレーザー光のエネルギーが伝搬して加工分解能を低下させることを防ぐとともに、レーザー光の集光点での光還元効率を向上させる方法が開示されている。
【0008】
この方法によって、加工分解能がマイクロメートルオーダーまで改善されたが、より精度の高いナノメートルオーダーの加工分解能が要望されていた。
【特許文献1】特開2006−316311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、金属イオンを光還元して金属構造体を製造する方法において、従来の技術よりも加工分解能を大幅に改善することができる方法を提供することである。より具体的には、金属構造体を構成する金属結晶の成長を抑制することで加工分解能を改善した金属構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、光還元により生じた金属結晶が、光照射を止めてもしばらく成長を続け、最終的に数マイクロメートルのサイズにまで成長すること、そして、この現象が金属イオンを光還元することによる金属構造体の加工分解能の制約となっていることを見出した。そして、鋭意研究を重ねた結果、金属イオンが分散された媒体中に含有させることで金属結晶の成長を抑制できる物質を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)金属イオンが分散された媒体中に光を照射することにより前記金属イオンを光還元して金属結晶を生成させる工程を含む金属構造体の製造方法であって、前記媒体は金属結晶の成長を阻害する物質を含むことを特徴とする方法、
(2)前記物質が、イオン性官能基及び配位結合性官能基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有する物質である(1)に記載の方法、
(3)前記イオン性官能基を有する物質が一般式(I)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-COOH (I)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(4)前記イオン性官能基を有する物質が一般式(II)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-NH2 (II)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(5)前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(III)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-SH (III)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(6)前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(IV)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-OH (IV)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(7)前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(V)で表される物質又はその塩である(2)に記載の方法、
R1-CN (V)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(8)前記物質が一般式(VI)で表される物質又はその塩である(1)に記載の方法、
R1-O-R3 (VI)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(9)前記物質が一般式(VII)で表される物質又はその塩である(1)に記載の方法、
R1-C(=O)-NH-R3 (VII)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
(10)前記物質が、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基及びチオール基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有するモノマーから構成されるポリマー又はコポリマーである(1)に記載の方法、及び
(11)前記金属イオンが銀イオンである(1)〜(10)のいずれかに記載の方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、金属イオンを光還元することで生成する金属結晶の粒子サイズをナノメートルのサイズに抑えることができるので、当該金属結晶から構成される金属構造体の加工分解能を大幅に改善することができる。これにより、金属構造体の微細で精密な任意のパターンの3次元構造を容易に作製することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
本発明において金属構造体とは、金属イオンが光還元されて生成する金属結晶から構成される構造体を指す。従って、金属結晶のサイズが小さくなれば、それだけ金属構造体の加工分解能が改善される。本発明の方法により製造される金属構造体の形状としては、直線や曲線のような1次元構造、平面的な2次元構造、及び立体的な3次元構造が挙げられる。本発明の製造方法により、媒体中のいかなる部位にも任意のパターンで金属構造体を作製することができ、例えば媒体表面の一部又は全部に金属構造体を作製することや、その内部に金属構造体を作製すること等も容易に行える。
【0015】
本発明の方法において照射される光は、金属イオンを還元するためのエネルギーを供給するものであるため、金属イオンが吸収をもつ波長の光を照射する。ただし、照射光の波長を金属イオンが吸収をもつ波長に変換するような物質が媒体中に含まれている場合には、照射される光は金属イオンが吸収をもつ波長に限られない。光源の種類としては、レーザー光源、発光ダイオード、ランプ等が挙げられるが、金属イオンを光還元するためには強いエネルギーを必要とするため、レーザー光源を利用することが好ましい。照射光は通常には集光レンズを用いて集光されて金属イオンが分散された媒体中で焦点を結ぶ。光を集光することにより集光点(焦点)の光子密度を極めて高くすることができ、金属イオンを還元するのに必要な光エネルギーを集光点に局在させることができる。これにより集光点付近のみで金属イオンを光還元することができ、集光点を走査することで集光点の軌
跡にそった微細な金属構造体を製造することが可能になる。さらに光を集光することで、集光点のサイズスケールでの微細な加工が可能になる。さらに、フェムト秒短パルスレーザー光等を利用することで、時間当たりにさらに高い光エネルギーを付与することもできる。
【0016】
金属イオンを光還元するのに必要な照射光の強度は、金属イオンの種類や照射光波長における金属イオンの吸光度に依存する。すなわち、照射光波長における金属イオンの吸光度が低い場合には金属イオンを光還元するのに必要な照射光の強度は相対的に高くなり、逆に、照射光波長における金属イオンの吸光度が高い場合には金属イオンを光還元するのに必要な照射光の強度は相対的に低くなる。また、媒体中に照射光を吸収し、又は散乱するような物質が存在する場合には媒体中を照射光が通過するに従って照射光の強度が小さくなるため、照射する光の強度を相対的に高くすることが必要となる。従って、金属イオンを還元するために必要な照射光の強度は一概に決定することができないが、例えば媒体への入射前の段階でおよそ0.1mW〜10mWの範囲に設定することができる。照射光の強度は加工時に常に一定である必要はなく、適宜変化させてもよい。
【0017】
集光点の走査速度は照射光の強度と同様に、照射光波長における金属イオンの吸光度や媒体中の物質の存在によって適宜調節することができる。従って、金属イオンを還元するために必要な走査速度は一概に決定することができないが、例えば0.1μm/s〜100μm/sの範囲に設定することができる。走査速度は加工時に常に一定である必要はなく、適宜変化させてもよい。
【0018】
集光点の走査は、例えば金属イオンが分散された媒体をXYZ軸ステージの上に乗せた状態で光を照射し、ステージを1次元、2次元又は3次元的に移動させることで行うことができる。ステージの移動により媒体中の集光点を任意に走査させることができる。また、集光点の走査は、金属イオンが分散された媒体の位置を固定した状態で、媒体中における集光点の位置を任意に移動させることによって行うこともできる。金属イオンが分散された媒体と照射光の集光点を同時に移動させることで集光点を走査することもできる。
【0019】
集光点を走査することにより3次元構造の金属構造体を製造するために、集光点の軌跡が既に生成された金属結晶によって妨げられないようにする事が望ましい。このための方法として、媒体中に製造されるべき金属構造体のうち、照射光の媒体への入射位置から遠い部分から近い部分に向けて連続的に集光点を走査して順次金属イオンを還元して金属構造体を製造することが考えられるが、集光点の軌跡が妨げられなければ、最も遠い部分から最も近い部分に向けて走査する必要はない。このように集光点を走査することで、任意の3次元構造の微細な金属構造体を製造することができ、例えば箱のように中が空洞の金属構造体でも容易に製造することができる。また、集光点の軌跡が既に生成された金属結晶によって妨げられるおそれがある場合には、一度照射光を消した上で、照射光の媒体への入射角を適宜変化させ、集光点の軌跡が妨げられない位置から再度照射を開始して再び集光点を走査することができる。
【0020】
本発明において、光還元される金属イオンとしては以下のものが挙げられる。
(1)周期表におけるIIIA族からIB族の遷移元素のイオン。中でもCrイオン、Mnイオン、Feイオン、Coイオン、Niイオン、Pdイオン、Ptイオン、Cuイオン、Agイオン、Auイオンが好ましい。
(2)IIIB族元素のイオン。中でもAlイオン、Inイオンが好ましい。
(3)Znイオン、Cdイオン、Hgイオン、Naイオン、Kイオン、Mgイオン、Caイオン。
【0021】
光還元される金属イオンが媒体中に分散している状態とは、例えば、金属イオンが水溶性の媒体中に溶解している状態や、溶解せずに例えば有機溶剤や樹脂等の媒体中に分散
している状態を指す。分散している状態とは、コロイドやミセル形態で分散している状態をも含む。
【0022】
本発明において媒体中に分散している金属イオンの濃度に特に限定はないが、0.001M〜10Mの範囲であることが好ましい。より好ましい金属イオンの濃度は0.01〜1Mの範囲である。
【0023】
本発明において利用可能な媒体は金属イオンを分散することができるものであれば特に制限はなく、水、有機溶剤、油脂のような液体や流動体、さらにはゲルのような半固体、樹脂(PMMAやPVA等の有機溶剤や水に可溶な物質が好ましい)、ガラス等のアモルファス材料、ニオブ酸リチウム等の金属イオンをドープ可能な無機結晶のような固体も含まれるが、水であることが好ましい。金属イオンが分散された媒体は直接光を照射されてもよいし、当該媒体を容器に入れ、又は基板に乗せた後で容器又は基板を通して光が照射されてもよい。金属イオンが分散された媒体が液体や流動体の場合には、容器や基板と媒体との接触面に集光照射することで、容器の内表面や基板上に金属構造体を作製することも可能になる。
【0024】
本発明において、金属結晶の成長を阻害する物質とは、金属が析出して結晶化し、その結晶同士が結合して大きくなるのを防ぐ物質をいう。このような物質としては、金属結晶の表面を覆い、当該金属結晶と他の金属結晶との結合を妨げる作用を有する物質が考えられる(図1)。このような観点から、金属結晶の成長を阻害する物質は、以下のような特性の全てを備えることが好ましい。
(1)分子中に金属や金属イオンと親和性をもつか、又は直接結合する原子を有すること。
(2)金属イオンが分散している溶媒中に分散すること。
(3)直接金属イオンを還元する能力が低いこと。
(4)金属イオンと結合し沈殿物等を生じないこと(ただし、溶媒のpH調整や金属イオンの錯イオン形成によって沈殿物を再度溶解させることが可能な場合は使用可能である)。
【0025】
以上の条件を満たすと考えられる物質のうち本発明に利用可能な物質はさらに以下のいずれかの特性を少なくとも1つ以上備えている炭化水素鎖である。
(5)分子構造中にイオン性官能基を有する。
(6)分子構造中に非共有電子対(ローンペア)をもつ配位結合性官能基を有する。
(7)分子構造中にペプチド結合又はこれに類似した構造、エーテル結合、エステル結合を有する。
(8)分子構造中にカルボニル基を有する。
【0026】
上記炭化水素鎖には、飽和又は不飽和炭化水素鎖が含まれるが、金属イオンを還元する能力がより低い点で、飽和炭化水素であることが好ましい。
炭化水素の鎖長に特に制限はなく、使用する媒体の種類や、分子構造中の親水基の存在等を考慮して媒体中に分散しやすいものを適宜選択することができる。溶媒が水の場合で,かつ分子鎖に親水基を含まない場合は,炭素鎖の長さは5〜10程度が好ましい。
【0027】
上記イオン性官能基とは、水溶液中でイオン化し得る官能基を指し、アニオン性官能基、カチオン性官能基が含まれる。アニオン性官能基としてはカルボキシル基、スルホニル基、リン酸基、シラノール基及びこれらの塩等が挙げられ、カチオン性官能基としては、アミノ基、ピリジニウム基及びこれらの塩等が挙げられる。上記イオン性官能基の塩としては、アニオン性官能基の場合はナトリウム塩、カリウム塩等,またカチオン性官能基の場合はハロゲン化塩等が挙げられる。
【0028】
上記配位結合性官能基としては、チオール基、水酸基、シアノ基等が挙げられる。チオール基は金、銀、銅等とチオール結合を形成することができる。
【0029】
以上のような性質をもった物質は、金属と親和性を有するか、金属原子と直接結合するために金属表面を覆うことができ、これにより金属結晶の成長を防ぐことができると考えられる。
【0030】
下記一般式(I〜VII)で表される物質及びその塩は本発明に係る金属結晶の成長を阻害する物質に含まれる。
【0031】
R1-COOH (I)
R1-NH2 (II)
R1-SH (III)
R1-OH (IV)
R1-CN (V)
R1-O-R3 (VI)
R1-C(=O)-NH-R3 (VII)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【0032】
上記R2のアルキル基の鎖長に特に制限はなく、使用する媒体の種類や、分子構造中の親水基の存在等を考慮して適宜選択することができる。溶媒が水の場合で,かつ分子鎖に親水基を含まない場合は,炭素鎖の長さは5〜10程度が好ましい。
【0033】
上記一般式(I〜VII)で表される物質の塩としては、例えばカルボキシル基のナトリウム塩である-COONa、カリウム塩である-COOK、カルシウム塩である(-COO)2Ca、銀塩である-COOAg等を有する物質が挙げられる。また、上記一般式(I〜VII)で表される物質又はその塩には、これらがイオン化した状態の物質も含まれ、例えばカルボキシル基又はその塩がイオン化した-COO-や、アミノ基がイオン化した-NH3+スルホン基がイオン化した-SO3-を有する物質等も本発明に係る金属結晶の成長を阻害する物質含まれる。
【0034】
上記一般式(I)で表される物質又はその塩の具体例としては、DL−アラニン、デカン酸、デカン酸ナトリウム、セバシン酸、セバシン酸二ナトリウム、ラウリン酸、ラウリン酸ナトリウム、DL−2−アミノ−n−オクタン酸、DL−2−アミノ−n−オクタンナトリウム、N−デカノイルサルコシン酸、N−デカノイルサルコシンナトリウム、N−ラウロリルサルコシン酸又はN−ラウロリルサルコシンナトリウム等が挙げられる。
【0035】
上記一般式(II)で表される物質又はその塩の具体例としては、1−ブチルアミン,1−ヘキシルアミン等のアミンが挙げられる。
【0036】
上記一般式(III)で表される物質又はその塩の具体例としては、1−ブタンチオールや2−アミノエタンチオール等のチオール類が挙げられる。
【0037】
上記一般式(IV)で表される物質又はその塩の具体例としては、6−アミノ−1−プロパノールやブタノール等の一部のアルコール類が挙げられる。
【0038】
上記一般式(V)で表される物質又はその塩の具体例としては、ブチロニトリル等が挙げられる。
【0039】
上記一般式(VI)で表される物質又はその塩の具体例としては、3,3’−オキシジプロピオニトリル等エーテル結合を有する物質が挙げられる。
【0040】
上記一般式(VII)で表される物質又はその塩の具体例としては、アラニンの二量体等のペプチド類が挙げられる。
【0041】
また、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有するモノマーから構成されるポリマー又はコポリマーも本発明に係る金属結晶の成長を阻害する物質に含まれる。このような物質の具体例として、ポリ(ビニルピロリドン)等が挙げられる。該ポリマー又はコポリマーの分子量は通常40000〜80000程度が適当である。
【0042】
媒体中における金属結晶の成長を阻害する物質の濃度は特に限定はないが、0.001M〜10Mの範囲であることが好ましい。より好ましい濃度は0.01M〜1Mの範囲である。
【0043】
本発明における金属構造体を製造するときの温度は特に限定はないが、媒体がその当初の性状を維持している範囲の温度であることが好ましい。例えば水を媒体に用いた場合には、温度が氷点下になると水が凍り、温度が高すぎると水が蒸発してしまうため、水の当初の性状を維持できず、また、温度が高いとそれだけで金属イオンが還元されてしまう傾向があり好ましくない。この場合の好ましい反応温度は5〜60℃程度であり、通常は室温で加工を行うことができる。金属イオン等により光エネルギーが吸収されると、そのエネルギーが熱に変換されて媒体の温度が加工中に上昇する可能性がある。従って、必要があれば加工中の温度変化を抑えるために冷却装置等を用いて温度上昇を抑えることもできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳細に説明を加える。ただし、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
金属結晶の成長を阻害する物質を媒体に添加したときの金属構造体の形状
硝酸銀水溶液にN−デカノイルサルコシンナトリウム(NDSS)(化学式VIII)を添加してガラス基板(マイクロカバーガラス、松浪硝子工業株式会社製)上に滴下した。ガラス基板の上面で集光するように調整されたレーザー光(光源:チタンサファイアフェムト秒レーザー(Tsunami(登録商標)、スペクトラフィジックス社製)、中心波長:800 nm,パルス幅:80 fsec)をガラス基板の下から照射しながら、集光点を基板表面と水平方向に直線状に走査した。ここで、NDSSの最終濃度は0.1M、硝酸銀濃度は0.05M、照射されたレーザー光強度は0.8mW、走査速度は7μm/sとした。加工は室温で行った。
CH3(CH2)8−CO−N(CH3)−CH2−COONa (VIII)
NDSS
【0046】
〔比較例〕
金属結晶の成長を阻害する物質を媒体に添加しないときの金属構造体の形状
硝酸銀水溶液にクマリン400(製造元:エキシトン(Exciton)社,販売元:東京インスツルメンツ社)の0.01wt%エタノール溶液を添加したものをガラス基板(マイクロカバーガラス、松浪硝子工業株式会社製)上に滴下した。ガラス基板の上面で集光するように集光レンズを透過させたレーザー光(光源:チタンサファイアフェムト秒レーザー(Tsun
ami(登録商標)、スペクトラフィジックス社製)、中心波長:800 nm,パルス幅:80 fsec)をガラス基板の下から照射しながら、集光点を基板表面と水平方向に直線状に走査した。ここで、使用した硝酸銀濃度は0.05M、照射されたレーザー光強度は0.8mW、走査速度は7μm/sとした。加工は室温で行った。
【0047】
実施例1の方法で基板上に作製された銀結晶からなる直線状の銀構造体(銀ライン)を電子顕微鏡で撮影した写真を図2に、比較例の方法で基板上に作製された銀ラインを電子顕微鏡で撮影した写真を図3に示す。図2では約150nm幅の銀ラインが作製できていることが確認でき、銀ラインを構成する銀結晶の粒子サイズはナノメートルのサイズであることが分かる。これに対し、図3では銀ライン幅が1μm程度の大きさとなっており、小さな粒子状の銀結晶が成長した大きな岩状の塊が存在するため表面には粗い凹凸が見られる。このような大きな粒子が存在すると最終的な線幅は大きな粒子のサイズによって決定されてしまうため、比較例の方法ではこれ以上細い線幅のラインを作製するのは困難であることが分かる。
【0048】
ここでさらに特記すべき点は、実施例1の方法において、レーザーの集光点サイズが1μm程度の大きさがあるにもかかわらず、それよりも一桁程度も小さな線幅の銀ラインが引けたことである。
【0049】
図2では銀ライン幅に対して銀結晶の粒子サイズが非常に小さいことが確認できるが、このことは、レーザー光の集光点のスポットサイズをより小さくしたり、より微小な領域にのみ光を照射することができれば、より微細な加工ができ得ることを示している。
【0050】
〔実施例2〜8〕
実施例1のNDSSに代えて本発明に係る様々な物質(下記化学式IX〜XV)を添加した硝酸銀水溶液についても同様の実験を行い作製された銀ラインを図4〜11に示す。各実施例における実験条件を表1に示す。加工は室温で行った。
NH2−CH(CH3)−COOH (IX)
DL−アラニン 〔実施例2〕
CH3(CH2)8−COONa (X)
デカン酸ナトリウム 〔実施例3〕
NaOOC−(CH2)8−COONa (XI)
セバシン酸二ナトリウム 〔実施例4〕
CH3(CH2)10−COOH (XII)
ラウリン酸ナトリウム 〔実施例5〕
CH3−(CH2)5−CH(NH2)−COOH (XIII)
DL−2−アミノ−n−オクタン酸 〔実施例6〕
CH3−(CH2)10−CO−N(CH3)−CH2−COONa・xH2O (XIV)
N−ラウロイルサルコシンナトリウム水和物 〔実施例7〕
【化1】
ポリ(ビニルピロリドン) 〔実施例8〕
【0051】
【表1】
【0052】
どの物質を添加した場合にも銀ライン幅は200〜300nmの範囲内であり、比較例と比べて、大幅に細い銀ラインを作製できることが確認された。また、不飽和炭化水素としてソルビン酸ナトリウムを添加した場合にも同様にラインが引けたが、時間経過と共に金属イオンが直接還元される傾向も認められたため、不飽和炭化水素を含む物質を使用する場合は、加工直後もしくは金属イオンを含む材料そのものにあらかじめ酸化剤を加える等して不飽和炭化水素の還元能を相殺する処理が必要になる可能性も示唆された。
【0053】
〔実施例9〕
3次元構造の作製
本願の金属構造体の製造方法により、3次元構造の金属構造体の作製を試みた。
【0054】
硝酸銀水溶液にNDSS(化学式V)を添加してガラス基板(マイクロカバーガラス、松浪硝子工業株式会社製)上に滴下した。ガラス基板の上面で集光(焦点のスポットサイズが1μm程度)するように調整されたレーザー光(光源:チタンサファイアレーザー(Tsunami(登録商標)、スペクトラフィジックス社製)、中心波長:800 nm,パルス幅:80 fsec)をガラス基板の下部からガラス基板を通して上方の表面に照射しながら、集光点を基板表面と垂直方向に直線状に走査した。ここで、NDSSの最終濃度は0.1M、硝酸銀濃度は0.04M、照射されたレーザー光強度は1.21mW、及び走査速度は2μm/s(第1回目)及び4μm/s(第2回目)とした。
【0055】
第1回目の条件で基板上に作製された銀結晶からなる基板上面に直立した円柱状の銀構造体(銀ロッド)を電子顕微鏡で斜め上から撮影した写真を図12に示す。横断面の直径が約300 nmの滑らかな表面をもつ銀ロッドが作製できていることが確認できた。第2回目の条件で加工を行い、さらに拡大して撮影した写真(図13)を見ると、最細部が約100 nmの銀ロッドの加工に成功していることが確認できる。
【0056】
この結果から、本発明により、光の走査方向を制御するだけで、3次元構造の微細な金属構造体を容易に作製できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、微細な3次元の金属構造体を任意のパターンで加工することができるため、マイクロマシンの製造や、微小金属コイルの形成による微小空間での磁場の形成や物質の屈折率の制御等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】銀結晶の成長を抑制する物質の作用をイメージした図である。
【図2】金属結晶の成長を阻害する物質としてNDSSを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図3】金属結晶の成長を阻害する物質を媒体に添加しないときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図4】金属結晶の成長を阻害する物質としてDL-アラニンを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図5】金属結晶の成長を阻害する物質としてDL-アラニンを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である(図4を拡大したもの)。
【図6】金属結晶の成長を阻害する物質としてデカン酸ナトリウムを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図7】金属結晶の成長を阻害する物質としてセバシン酸二ナトリウムを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図8】金属結晶の成長を阻害する物質としてラウリン酸ナトリウムを媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図9】金属結晶の成長を阻害する物質としてDL-2-アミノ-n-オクタン酸を媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図10】金属結晶の成長を阻害する物質としてN-ラウロイルサルコシンナトリウム水和物を媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図11】金属結晶の成長を阻害する物質としてポリ(ビニルピロリドン)を媒体に添加したときの銀ラインを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図12】金属結晶の成長を阻害する物質としてNDSSを媒体に添加して作製した銀ロッドを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【図13】金属結晶の成長を阻害する物質としてNDSSを媒体に添加して作製した銀ロッドを電子顕微鏡下で撮影した写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンが分散された媒体中に光を照射することにより前記金属イオンを光還元して金属結晶を生成させる工程を含む金属構造体の製造方法であって、
前記媒体は金属結晶の成長を阻害する物質を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記物質が、イオン性官能基及び配位結合性官能基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有する物質である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン性官能基を有する物質が一般式(I)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-COOH (I)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項4】
前記イオン性官能基を有する物質が一般式(II)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-NH2 (II)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項5】
前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(III)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-SH (III)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項6】
前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(IV)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-OH (IV)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項7】
前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(V)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-CN (V)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項8】
前記物質が一般式(VI)で表される物質又はその塩である請求項1に記載の方法。
R1-O-R3 (VI)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項9】
前記物質が一般式(VII)で表される物質又はその塩である請求項1に記載の方法。
R1-C(=O)-NH-R3 (VII)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項10】
前記物質が、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基及びチオール基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有するモノマーから構成されるポリマー又はコポリマーである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属イオンが銀イオンである請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
金属イオンが分散された媒体中に光を照射することにより前記金属イオンを光還元して金属結晶を生成させる工程を含む金属構造体の製造方法であって、
前記媒体は金属結晶の成長を阻害する物質を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記物質が、イオン性官能基及び配位結合性官能基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有する物質である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イオン性官能基を有する物質が一般式(I)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-COOH (I)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項4】
前記イオン性官能基を有する物質が一般式(II)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-NH2 (II)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項5】
前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(III)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-SH (III)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項6】
前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(IV)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-OH (IV)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項7】
前記配位結合性官能基を有する物質が一般式(V)で表される物質又はその塩である請求項2に記載の方法。
R1-CN (V)
(式中R1は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項8】
前記物質が一般式(VI)で表される物質又はその塩である請求項1に記載の方法。
R1-O-R3 (VI)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項9】
前記物質が一般式(VII)で表される物質又はその塩である請求項1に記載の方法。
R1-C(=O)-NH-R3 (VII)
(式中R1及びR3は、任意の水素原子がカルボキシル基、アミノ基、チオール基、水酸基及びシアノ基から選ばれる1種類以上の置換基で置き換えられてもよく、任意の-CH2-が-C(=O)-または-N(R2)-(R2はアルキル基)で置き換えられてもよい、飽和又は不飽和の炭化水素基である。)
【請求項10】
前記物質が、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基及びチオール基から選ばれる1種類以上の官能基を1つ以上有するモノマーから構成されるポリマー又はコポリマーである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記金属イオンが銀イオンである請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−228097(P2009−228097A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77913(P2008−77913)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】
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