説明

3,7−ジメチル−5−オクテン酸とその誘導体、およびそれらを含有する香料組成物。

【課題】
飲食品や香粧品に要求される嗜好性が多様化してきていることから、各種各様の特徴ある香気特性を有する香料組成物が求められており、特に従来にない香気特性を有する香料組成物が求められている。
【解決手段】
3,7−ジメチル−5E−オクテン酸、3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸、ならびにこれらの低級アルキルまたはアルキニルエステル化合物が、従来にない香調を持つ特徴的な香気特性を有し、またこれらの化合物を含有する香料組成物は有用な調合素材となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3,7−ジメチル−5−オクテン酸、およびそれらのエステル、並びに、これらの化合物を含有する香料組成物、飲食品、香粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式(3)
【化1】

(Rは水素原子またはエチル基を示す)で表される(3R)−3,7−ジメチル−5E−オクテン酸およびそのエチルエステルは、昆虫に対する生理活性物質をL−メントールから合成する過程の中間体として報告されている(非特許文献1)が、これらの化合物の香気に関する報告はされてない。
【0003】
化学式(1)
【化2】

(波線はZ−配置またはE−配置を示し、Z−配置の場合、Rは水素原子、或は炭素数1〜5のアルキル基またはアルケニル基を示し、E−配置の場合、Rは、炭素数1、3、4または5のアルキル基またはアルケニル基を示す)で表される3,7−ジメチル−5−オクテン酸および同誘導体は、天然界に存在するとの報告も、有機合成により製造したとの報告もされてない。
【0004】
また、化学式(3)および化学式(1)で表される化合物、即ち化学式(2)
【化3】

(波線はZ−配置またはE−配置を示し、Rは水素原子、或は炭素数1〜5のアルキル基またはアルケニル基を示す)で表される3,7−ジメチル−5−オクテン酸および同誘導体を含有する香料組成物、或はこれらを含有する飲食品や香粧品は報告されてない。
【0005】
本出願の発明に関する先行技術文献としては次のものがある。
【非特許文献1】Bulletin de l‘Academie Polonaise des Sciences, Serie des Sciences Chimiques, 第25巻, 529−40頁(1977年)
【非特許文献2】Synthesis, 767−768頁(1976年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
飲食品や香粧品に要求される嗜好性が多様化してきていることから、各種各様の特徴ある香気特性を有する香料組成物が求められており、特に従来にない香気特性を有する香料組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記に鑑みて、カルボン酸およびそのエステル化合物について鋭意研究を重ねてきた結果、3,7−ジメチル−5E−オクテン酸、3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸、ならびにこれらの低級アルキルまたはアルキニルエステル化合物が、従来にない香調を持つ特徴的な香気特性を有することを見い出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸は、いくぶんミント様のニュアンスのある重い脂肪酸臭を、イソプロピル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート(幾何異性体混合物)は、拡散性のあるアップル、ペア様のグリーン香、フルーツ香を、メチル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート(幾何異性体混合物)は、シャープでメタリックなペア様のグリーン香、フルーツ香を有するという香気特性を示し、いずれも従来にない香調をもつ特徴的な香気特性を有する。また、これらを含有する香料組成物も特徴的な香気を有し、香料組成物における有用な調合素材として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書中に用いられている各記号について、以下に説明する。RおよびRは、水素原子、或は炭素数1〜5のアルキル基またはアルケニル基を示す。炭素数1〜5のアルキル基またはアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状であってもよい。ただし、化合物(1)の波線がE配置の場合は、Rは上記の記載から水素原子およびエチル基は除かれる。
【0010】
およびRとしては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、第2級ブチル基、第3級ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、第2級ペンチル基、第3級ペンチル基、2−メチルブチル基、ビニル基、アリル基、クロトニル基、メタリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、プレニル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基などがあげられ、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、第2級ブチル基、第3級ブチル基などが挙げられる。
【0011】
本発明に用いる化学式(1)或は化学式(2)で表される化合物は、例えば、下記工程図
【化4】

に示す方法で合成することができる。
【0012】
即ち、工程−1において、Wittig反応もしくはHorner−Wadsworth−Emmons反応(以下、HWE反応ともいう)によって、δ−オキソカルボン酸エステル(工程図の式3)を出発原料として、3,7−ジメチル−5−オクテン酸エステル(工程図の式2)を得る。続いて工程−2において、加水分解反応により、所望の3,7−ジメチル−5−オクテン酸(工程図の式1)を得る。
【0013】
工程図の式3で表されるδ−オキソカルボン酸エステルは、従来公知の方法で合成できる。例えば、3−メチルグルタル酸モノエステルから容易に調製できるモノ酸クロライドを用いて、改良型Rosenmund還元によって効率的にδ−オキソカルボン酸エステルに変換する方法が知られている(非特許文献2)。
【0014】
また、他にも例えば3−メチルグルタル酸モノエステル、またはジエステルを直接還元することによってもδ−オキソカルボン酸エステルを得ることができる。
【0015】
工程−1において、Wittig反応に用いる反応試剤としては、例えばイソブチルトリアルキルホスホランが挙げられ、さらに好ましくはイソブチルトリフェニルホスホランを挙げることができる。該ホスホランの前駆体としては、例えばイソブチルトリアルキルホスホニウムハライドが挙げられ、さらに好ましくはイソブチルトリフェニルホスホニウムハライドを挙げることができる。ハライドとしてはアイオダイド、ブロマイド、クロライドが適している。
【0016】
イソブチルトリアルキルホスホニウムハライドの添加量は、工程図の式3で表されるδ−オキソカルボン酸エステル1モルに対して、0.5〜3.0モルの範囲を挙げることができ、好ましくは0.8〜2.0モルの添加量である。
【0017】
工程−1において、Wittig反応のかわりにHWE反応を実施する場合、用いる反応試剤としては、例えばジアルキルイソブチルホスホネートが挙げられる。ジアルキル部位については、ジメチル、ジエチル、ジイソブチルなどを挙げることができる。
【0018】
Wittig反応またはHWE反応のいずれであっても、塩基を必要とするが、ここで用いられる塩基としては、例えばブチルリチウムなどのアルキルメタル類、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)などのメタルアミド類、ジムシルアニオンなどを挙げることができ、その添加量はイソブチルトリアルキルホスホニウムハライドまたはジアルキルイソブチルホスホネート1モルに対して0.7〜1.5モルの範囲を挙げることができるが、0.8〜1.3モルの添加量が好ましい。
【0019】
反応に用いる溶媒としては、例えばジエチルエーテルやテトラハイドロフラン(THF)などのエーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド類などが挙げられる。
【0020】
反応温度については、例えば−100℃〜100℃の範囲を挙げることができるが、さらに好ましくは−80℃〜80℃の範囲で、用いる反応試剤の違いに応じて適宜調整できる。
【0021】
反応時間については、例えば10分〜24時間の範囲を挙げることができるが、さらに好ましくは30分〜10時間の範囲で、TLC(薄層クロマトグラフィ)などによる反応追跡の結果に応じて適宜調整できる。
【0022】
工程−2において、加水分解を行うにはアルカリによる方法がもっとも効率的である。用いられる反応試剤としては、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの苛性アルカリ類、炭酸カリウムや炭酸セシウムなどの炭酸塩類などを挙げることができる。その添加量は、工程図の式2で表されるカルボン酸エステル1モルに対して、0.7〜3.0モルの範囲を挙げることができるが、0.8〜2.0モルの添加量が好ましい。
【0023】
また、反応の実施の形態としては上記反応試剤の水溶液を用いることが好ましく、その濃度は5%〜50%(重量%)の範囲で、反応試剤の違いに応じて適宜調整できる。
【0024】
反応に用いる溶媒としては、例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、THFなどのエーテル類、DMSOなどのスルホキシド類、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類など、水に溶けやすいものが好ましい。
【0025】
反応温度については、例えば0℃〜150℃の範囲を挙げることができるが、さらに好ましくは10℃〜100℃の範囲で、用いる反応試剤の違いに応じて適宜調整できる。
【0026】
反応時間については、例えば30分〜10時間の範囲を挙げることができるが、さらに好ましくは1時間〜5時間の範囲で、TLCなどによる反応追跡の結果に応じて適宜調整できる。
【0027】
全工程において、必要に応じて使用される不活性ガスとしては、窒素やアルゴンが挙げられる。
【0028】
全工程において、単離精製に用いられる方法としては、例えば常圧または減圧蒸留、順相または逆相クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ(以下、GCともいう)または高速液体クロマトグラフィ(以下、HPLCともいう)による分取クロマトグラフィ、および再結晶などが挙げられ、目的に応じてそれぞれの操作を単独、もしくは組み合わせて適宜使い分けることができる。
【0029】
また、化学式(1)あるいは化学式(2)に示す化合物は、天然物より抽出し、単離操作により得ることもできる。
【0030】
すなわち、化学式(2)記載の化合物のうち、Rが水素である化合物、即ち3,7−ジメチル−5E−オクテン酸や3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸は、Mentha arvensisの精油や、天然メントール製造工程で生じる精油由来成分を含む画分などから抽出、あるいは単離操作により得ることもできる。
【0031】
その方法としては、例えばMentha arvensis精油を飽和重曹水溶液などのアルカリで酸性成分を塩として水層に抽出した後、例えば希塩酸などの酸を加えて水層を酸性とし、溶剤抽出を行う。得られた有機層をエバポレートすることにより、酸性成分の濃縮物が得られる。該濃縮物を、蒸留やカラムクロマトグラフィーなどによって、3,7−ジメチル−5E−オクテン酸や3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸を単離することができる。
【0032】
上記の有機化学合成、あるいは天然物からの抽出・単離などによって得られる化合物は、独特の香気を有している。さらに、それ自体の香気だけではなく、公知の香料組成物に本発明化合物の1種または2種以上を含有させ、組み合わせて用いることもできる。
【0033】
本発明の香料組成物は、3,7−ジメチル−5E−オクテン酸、3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸または、これらの混合物や、これら酸の低級アルキルまたはアルケニルエステルの1種または2種以上を含有するものである。
【0034】
一般的にその含有率は、香料組成物全重量の約0.001〜約20重量%、好ましくは約0.01%〜約10重量%の範囲が挙げられるが、これらによって限定されるものではなく、対象とする香料組成物の種類に応じてそれらの含有率を変えてもよい。
【0035】
また、3,7−ジメチル−5E−オクテン酸と、3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸の比率については特に限定されず、任意比率の本発明化合物を使用することができ、3,7−ジメチル−5E−オクテン酸または3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸各々単独でも用いることができる。
【0036】
本発明の化合物を使用して香料組成物を調製する場合、共に使用される香料化合物については特に限定されない。例えばリモネン、ピネンに代表される各種炭化水素類;オクタナール、デカナール、シトラールなどの各種アルデヒド類;マルトール、ダマセノン、メチルヘプテノンなどの各種ケトン類;L−メントール、オクタノール、リナロール、フェニルエチルアルコールなどの各種アルコール類;メチルフェニルエチルエーテル、リナロールオキサイド、1,4−シネオールなどの各種エーテルおよびオキサイド類;エチルブチレート、ゲラニルアセテート、ヘキシルアセテートなどの各種エステル類;γ−デカラクトン、クマリン、ジャスミンラクトンなどの各種ラクトン類;インドール、フェニルアセトニトリル、リモネンチオールなどの各種ヘテロ化合物類;ペパーミントオイル、ジャスミンアブソリュート、シダーウッドオイル、オリスコンクリートなどの各種天然香料素材類;などが挙げられるがこれらに限るものではない。
【0037】
使用する溶剤に関しても特に制限されるものは無く、一例をあげると、エタノール、グリセリン、トリアセチン、トリエチルサイトレート、水、ジプロピレングリコール(DPG)、ベンジルベンゾエート(BB)などが挙げられる。
【0038】
本発明の香料組成物は、下記の飲食品類および香粧品類に用いることによって、特徴的な香気または香気香味特性を商品に付与できることにより、消費者ニーズを満足させることができ、特徴ある商品を生み出せる。
【0039】
飲食品類として、例えばアルコール飲料類、柑橘系飲料類、フルーツ飲料類、乳飲料類、茶およびコーヒー飲料類などの各種飲料類、アイスクリーム、シャーベット、アイスキャンディーなどの各種冷菓子類、タバコ、ガム類、キャンディー、プリン、ゼリーなどの各種嗜好品類、スープ類やインスタントラーメン類などのインスタント食品類、ポテトチップに代表されるスナック菓子類、動植物エキス類などが挙げられる。香粧品類としては、例えばパルファム、オードトワレなどの香水類、シャンプー類、リンス類、トリートメント類、石鹸類、歯磨き、洗口液、ボディーシャンプー類などの各種トイレタリー製品類、線香、ろうそく、練り香などの各種香料、染毛剤類、ブリーチ剤類、ヘアトニック類などの各種毛髪料製品類、ファンデーション、化粧水、口紅などの各種化粧品類、室内および車内などの各種芳香剤類、食器洗剤類、洗濯洗剤類、柔軟剤類などの各種洗剤類などが挙げられる。
【0040】
化学式(2)で表される化合物を、ガム、キャンディ、歯磨きに用いることは、好ましい。特に、化学式(2)で表される化合物のうちRが水素原子である化合物は、ハッカ油に含有されている成分でもあり、ガム、キャンディ、歯磨きに用いることは、取り分け好ましい。化学式(2)で表される化合物は、有機合成により得られたものでも、天然物から抽出したものいずれでもよい。
【0041】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0042】
イソプロピル 3,7−ジメチル−5−オクテノエートの合成
【0043】
イソブチルトリフェニルホスホニウムブロマイド19.2g(48.0mmol)と、シクロペンチルメチルエーテル(以下、CPMEともいう)80mLの懸濁物に、攪拌下0℃で、2.62M n−ブチルリチウムヘキサン溶液16.0mL(48.0mmol)を滴下した。滴下終了後、3時間を要して室温に昇温してWittig試薬を調製した。
【0044】
イソプロピル 3−メチル−5−オキソペンタノエート7.3g(40mmol)と、CPME40mLの溶液に、先に調製したWittig試薬のCPME溶液を−20℃で滴下した。2時間を要して0℃に昇温した後、n−ヘキサン100mLを加え、析出するトリフェニルホスフィンオキサイドをろ別した。ろ液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて分液し、水層を再度n−ヘキサン40mLで抽出した。
【0045】
合わせた有機層を食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。減圧下に溶媒を留去し、黄色油状物質を7.9g得た。このものをシリカゲルカラムクロマトグラフ(以下、SCCともいう)を用いて精製し、透明な液状物質6.6gを得た(収率77.1%)。
【0046】
GC測定したところ、純度98.1%、E:Z=17:83のイソプロピル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート(幾何異性体混合物)であることを確認した。
【0047】
上記操作で得たイソプロピル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート(幾何異性体混合物)のうち0.2gを、逆相HPLCで分離および精製し、イソプロピル 3,7−ジメチル−5E−オクテノエートを5mg、イソプロピル 3,7−ジメチル−5Z−オクテノエートを40mgを得た。
【0048】
イソプロピル 3,7−ジメチル−5E−オクテノエートのスペクトルデータを示す。
【0049】
EI−MS(m/z,相対強度)212(M,2),169(12),153(38),152(52),110(100),109(49),95(82),81(17),69(75),55(34),43(34),41(40)
H−NMR(400MHz,CDCl,δppm):0.91(3H,d),0.96(3H,d),1.24(3H,d),1.90−2.10(4H,m),2.25(1H,m),2.30(1H,dd),5.01(1H,m),5.20−5.45(2H,m)
13C−NMR(100MHz,CDCl,δppm):19.6,21.8,21.9,22.6,22.7,30.5,30.9,39.6,40.8,67.4,124.3,140.1,172.9
【0050】
イソプロピル 3,7−ジメチル−5Z−オクテノエートのスペクトルデータを示す。
EI−MS(m/z,相対強度)212(M,2),169(12),153(38),152(52),110(100),109(49),95(82),81(17),69(75),55(34),43(34),41(40)
H−NMR(400MHz,CDCl,δppm):0.94(6H,d),0.95(3H,d),1.23(3H,d),1.94−2.10(4H,m),2.29(1H,dd),2.56(1H,m),5.01(1H,m),5.15−5.30(2H,m)
13C−NMR(100MHz,CDCl,δppm):19.5,21.8,21.9,23.1,23.1,26.4,30.9,34.1,41.6,67.3,124.7,139.1,172.8
【実施例2】
【0051】
メチル 3,7−ジメチル−5−オクテノエートの合成
【0052】
イソプロピル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート(E:Z=17:83)1g(4.7mmol)、メタノール30ml、ナトリウムメトキサイド28%含有メタノール溶液0.2g(0.1mmol)をフラスコに入れ、50℃の湯浴で3時間攪拌して反応を完結させた。室温まで放冷し、反応混合物を氷冷した希塩酸水溶液に注ぎ、酢酸エチル20mLで2回抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。減圧下に溶媒を留去し、黄色油状のクルードを0.8g得た。このものをSCCを用いて精製し、透明な液状物質0.6gを得た(収率69.4%)。
【0053】
GCにより測定したところ、純度98.1%、E:Z=17:83のメチル 3,7−ジメチル−5−オクテノエートであることを確認した。
【0054】
メチル 3,7−ジメチル−5Z−オクテノエートのスペクトルデータを示す。
EI−MS(m/z,相対強度)184(M,1),153(15),152(38),110(66),95(100),69(31),55(29),41(25)
H−NMR(400MHz,CDCl,δppm):0.93(6H,d),0.95(3H,d),1.90−2.15(4H,m),2.34(1H,dd),2.55(1H,m),5.15−5.30(2H,m)
13C−NMR(100MHz,CDCl,δppm):19.7,23.0,23.1,26.4,30.8,34.2,41.0,51.4,124.6,139.2,173.7
【実施例3】
【0055】
3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸の合成
【0056】
実施例1において、HPLCで精製したイソプロピル 3,7−ジメチル−5Z−オクテノエート20mg(0.094mmol)に、メタノール0.1mlと、10%水酸化ナトリウム水溶液0.1mlとを加え、50℃の温浴で1時間攪拌して反応を完結させた。室温まで放冷し、氷水を加えてヘキサン10mLで抽出後、水層に希塩酸水を加えてpHを3にし、酢酸エチル20mLで抽出した。この酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。減圧下に溶媒を留去し、黄色油状物質を12mg得た。
【0057】
得られた黄色油状物質をSCCにより精製し、GC純度99%の標題化合物を10mg得た(収率62.6%)。以下にこのカルボン酸のスペクトルデータを示す。
【0058】
3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸のスペクトルデータ
【0059】
GC−MS(リテンションインデックス(RI),DB−WAX):2147
EI−MS(m/z,相対強度)170(M,3),152(20),110(63),95(100),69(46),55(52),41(38)
H−NMR(400MHz,CDCl,δppm):0.93(6H,d),0.98(3H,d),1.96−2.18(4H,m),2.40(1H,dd),2.56(1H,m),5.17−5.32(2H,m)
13C−NMR(100MHz,CDCl,δppm):19.6,23.1,23.1,26.5,30.6,34.1,41.7,124.5,139.4,178.5
【実施例4】
【0060】
Mentha arvensis精油から、L−メントール精製工程で生じた残渣部700gを、減圧蒸留に付し、3mmHgにて留出温度170℃の留分250gを得た。この留分を、ヘキサンと酢酸エチルとの組成比率を変えた溶媒を用いてSCCで11に分画した。
上記画分のなかで、酢酸エチル3%、ヘキサン97%の混合溶媒を用いて溶出した画分55gを、ジエチルエーテルに溶かし、10%炭酸ナトリウム水溶液で酸性成分を抽出した。水層を希塩酸でpHを3に調整し、酢酸エチルで抽出した。洗浄、乾燥後、減圧濃縮したところ、強い酸臭を有する0.6gの油状物質を得た。
【0061】
このものを、ジアゾメタンでメチルエステル化した後、逆相ODSカラムクロマトグラフィーで分画した。最後にアピエゾンカラムを装着したGCによる分取を行い、目的とするメチル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート5mgを得た。
【0062】
得られたメチル 3,7−ジメチル−5−オクテノエートを、GC−MS分析したところ、E:Z=81:19(GC−MSのトータルイオン比)の幾何異性体混合物であった。
【0063】
メチル 3,7−ジメチル−5E−オクテノエートのスペクトルデータ
EI−MS(m/z,相対強度)184(M,1),153(15),152(38),110(66),95(100),69(31),55(29),41(25)
H−NMR(400MHz,CDCl,δppm):0.92(3H,d),0.96(6H,d),1.89−2.15(4H,m),2.25(1H,m),2.33(1H,dd),5.25−5.45(2H,m)
13C−NMR(100MHz,CDCl,δppm):19.6,22.6,22.6,30.6,31.1,39.7,40.9,51.4,124.4,140.1,173.8
【0064】
このメチルエステル1mgに、微量の水酸化ナトリウム水溶液とメタノールを加え、実施例3と同様にアルカリ加水分解してカルボン酸を得た。GC−MS分析の結果、同一のマスパターンを示す2つのピークが現れ、含有率の少ない方が実施例3で示した3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸であることを確認した。
【0065】
3,7−ジメチル−5E−オクテン酸のスペクトルデータ
GC−MS(RI,DB−WAX):2128
EI−MS(m/z,相対強度)170(M,3),152(20),110(63),95(100),69(46),55(52),41(38)
【0066】
3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸
GC−MS(RI,DB−WAX):2147
EI−MS(m/z,相対強度)170(M,3),152(20),110(63),95(100),69(46),55(52),41(38)
【実施例5】
【0067】
天然ハッカ油蒸留留出部に含まれる3,7−ジメチル−5−オクテン酸の分析
【0068】
天然L−メントール製造工程で生じたハッカ油蒸留最終段階の留分104gをヘキサンに溶解して、飽和重層水で酸性成分を抽出した。実施例4と同様に処理して酸成分0.1gを得た。GC−MS分析の結果、実施例4と比較することにより、3,7−ジメチル−5E−オクテン酸と、3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸とが存在することを確認し、GC−MSのトータルイオンクロマトで比較し、これらのE/Z比は、E:Z=77:23であった。
【実施例6】
【0069】
実施例3で合成した3,7−ジメチル−5Z−オクテン酸を、3名の熟練したパネリストにてその香気を評価した結果、いくぶんミント様のニュアンスのある重い脂肪酸臭と表現された。
【実施例7】
【0070】
実施例1で合成した純度98.1%、E:Z=17:83のイソプロピル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート(幾何異性体混合物)を、3名の熟練したパネリストにてその香気を評価した結果、拡散性のあるアップル、ペア様のグリーン香、フルーツ香と表現された。
【実施例8】
【0071】
実施例2で合成した純度98.1%、E:Z=17:83のメチル 3,7−ジメチル−5−オクテノエート(幾何異性体混合物)を、3名の熟練したパネリストにてその香気を評価した結果、シャープでメタリックなペア様のグリーン香、フルーツ香と表現された。
【実施例9】
【0072】
下記の処方1に示した香料組成物を調製し、3名の熟練したパネリストにて官能評価した結果、比較例に対して実施例は、トップの爽やかなミント感はそのままに、ボリューム感が付与された。
【0073】
処方1
成分名 実施例 比較例
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ペパーミントオイル 61.9 62.0
メントール 30.0 30.0
ユーカリ オイル 5.0 5.0
シトラス オイル 3.0 3.0
実施例3で合成した化合物 0.1 添加せず
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
合計 100.0 100.0
【実施例10】
【0074】
下記の処方2に示した香料組成物を調製し、3名の熟練したパネリストにて官能評価した結果、比較例に対して実施例は、ナチュラルなアップルの果肉様でグリーンな香気が強化された。
【0075】
処方2
成分名 実施例 比較例
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
エタノール 526.7 527.7
精製水 400.0 400.0
イソアミル アセテート 15.0 15.0
エチル ブチレート 12.0 12.0
エチル アセテート 8.0 8.0
ヘキサノール 6.0 6.0
イソアミル イソバレレート 6.0 6.0
トランス−2−ヘキサナール 5.0 5.0
ヘキサナール 5.0 5.0
2−メチル酪酸 4.0 4.0
アセトアルデヒドジエチルアセタール 4.0 4.0
プロピオン酸 3.0 3.0
ブチル ホーメイト 2.0 2.0
エチル イソバレレート 2.0 2.0
ヘキサナール 0.2 0.2
ダマセノン 0.1 0.1
実施例1で合成した幾何異性体混合物 0.1 添加せず
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
合計 100.0 100.0
【実施例11】
【0076】
下記の処方3に示した香料組成物を調製し、3名の熟練したパネリストにて官能評価した結果、比較例に対して実施例は、ナチュラルなペアのフレッシュでグリーンなトップノートが強化された。
【0077】
処方3
成分名 実施例 比較例
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
エタノール 557.5 560.0
精製水 400.0 400.0
ヘキシル アセテート 15.0 15.0
エチル アセテート 10.0 10.0
シス−3−ヘキセノール 6.0 6.0
イソアミル アセテート 5.0 5.0
ヘキシル ブチレート 2.0 2.0
2−メチル酪酸 1.0 1.0
シス−3−ヘキセニル アセテート 0.7 0.7
α−ダマスコン 0.2 0.2
1−ヘキサナール 0.1 0.1
実施例2で合成した幾何異性体混合物 2.5 添加せず
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
合計 100.0 100.0
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の化合物を用いることによって、特徴的な香気特性を有する香料組成物が得られるとともに、これらを飲食品や香粧品に使用することにより特徴ある飲食品や香粧品が得られる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)
【化1】

(波線はZ−配置またはE−配置を示し、Z−配置の場合、Rは水素原子、或は炭素数1〜5のアルキル基またはアルケニル基を示し、E−配置の場合、Rは炭素数1、3、4または5のアルキル基またはアルケニル基を示す)で表される3,7−ジメチル−5−オクテン酸および同誘導体。
【請求項2】
化学式(2)
【化2】

(波線はZ−配置またはE−配置を示し、Rは水素原子、或は炭素数1〜5のアルキル基またはアルケニル基を示す)で表される3,7−ジメチル−5−オクテン酸および同誘導体を含有する香料組成物。
【請求項3】
請求項1記載の化合物または請求項2に記載の香料組成物を含有する飲食品。
【請求項4】
請求項1記載の化合物または請求項2に記載の香料組成物を含有する香粧品。
【請求項5】
請求項1記載の化合物の香料としての使用。



【公開番号】特開2007−297286(P2007−297286A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123818(P2006−123818)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本化学会主催の第49回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会にて、平成17年11月1日に発行された第49回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会講演要旨集に記載の発表を、平成17年11月6日に福井大学文教キャンパスにおいて行った。
【出願人】(000121512)塩野香料株式会社 (23)
【Fターム(参考)】