説明

4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩、この結晶形態、調製、および治療的使用

本発明は、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩、この2種の結晶形態、この調製方法、およびこの治療的使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートの新規な塩、この結晶形態、これらの調製、および治療的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
下式(I)の遊離塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラート、およびこの調製方法は、文献WO00/58311に記載されている。
【0003】
【化1】

【0004】
他の1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラート誘導体のなかで、この化合物は、ニコチン受容体のα7サブユニットのリガンドとして記載されている。
【0005】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートの塩酸塩がさらに、文献、例えばPichat P.ら、Neuropsychopharmacology(2007)、32(1)、17から34に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第00/58311号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pichat P.ら、Neuropsychopharmacology(2007)、32(1)、17から34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この同じ化合物の(2E)−ブト−2−エンジオアート塩化形態(フマル酸塩としても知られる。)は、この化合物を薬剤の活性成分として用いるのに特に適したものにする有利な特性を示すことが、ここに見出された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の主題は、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩、この調製、およびこの治療的適用である。
【0010】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、下式によって定義される。
【0011】
【化2】

【0012】
本発明の別の主題は、I型およびII型として知られる、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩の2種の多形形態であり、これらの物理化学的特徴を以下に記載する。
【0013】
I型およびII型の特徴決定
赤外スペクトル
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートの2種の結晶形態の赤外(IR)スペクトルを、分解能4cm−1で4000cm−1から400cm−1まで、フーリエ変換分光光度計(Nicolet、Magna−IR550)で記録した。KBrと混合したこれらの化合物(生成物の約1%w/w)をペレットにし、透過モードで検査した。
【0014】
これらのスペクトルは、下記の表に示す吸収帯によって特徴付けられる。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】

【0017】
X線回折図
I型およびII型の粉末試料から開始して、粉末X線回折図を記録した。
【0018】
分析は、設定反射(set−up in reflection)を示し、ブラッグ−ブレンターノ型焦点配置を有する(θ−θ)、Anton−Paar TTK温度チャンバを備えたD8 Advance回折計(Bruker−Siemens)で行った。
【0019】
銅対陰極管は、入射光(λKα1=1.5406オングストローム)を提供する。
【0020】
周囲温度での図形の記録は、2θで2から40度で行う。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
【表5】

【0024】
【表6】

【0025】
サーモグラム
温度の関数としての示差熱量測定は、窒素を通しながら、TA InstrumentsのQ1000熱分析計で行う。
【0026】
継続的に窒素を通しながら、分析する試料を、10℃/分で10から350℃の温度プログラムに供した。粉末をクリンプ穿孔アルミニウムパンに入れる。分析する生成物の量は、約2mgである。
【0027】
各多形で行った示差熱力学分析は、溶融前にどのような熱的事象も示さなかった。
【0028】
【表7】

【0029】
本発明の別の主題は、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩、およびこの結晶形態を調製する方法である。
【0030】
本発明によれば、一般式(I)の化合物は、出願WO00/58311に記載の方法に従って調製できる。
【0031】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩I型は、塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートをメタノールまたはエタノールなどの溶媒中、フマル酸と反応させることによって得ることができる。
【0032】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩II型は、メタノールなどの溶媒中、添加剤(2,4−ジブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩)の存在下、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩I型から得ることができる。
【0033】
2,4−ジブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートは、クロロギ酸2,4−ジブロモフェニルから(US2007/0270373)、文献WO00/58311に記載の方法に従って得ることができる。その後2,4−ジブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、メタノールまたはエタノールなどの溶媒中、フマル酸の存在下で形成することができる。
【0034】
非常に良好な純度の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩II型を得るために、メタノールなどの溶媒中、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩I型に4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩II型を種として加えることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩およびこの結晶形態を調製する例を以下に記載する。
【0036】
以下において、出発材料および反応物は、これらの調製が記載されていないとき、市販され入手可能であるか、または文献に記載されているか、または本明細書に記載されているか、もしくは当業者に知られている方法に従って調製できる。
【実施例1】
【0037】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のI型の調製
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラート(WO00/58311)232.45gを、6lジャケット付反応器のエタノール2331mlに入れる。反応媒質を60℃にする。フマル酸87.17gのエタノール1000mlおよび水97ml溶液を、予め60℃に加熱し、その後添加する。続いて、溶媒1900mlを留去し、次いで反応媒質を2.5時間かけて20℃に冷却する。20℃で2.5時間の接触時間の後、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のI型を濾別し、エタノール400mlで2回洗浄し、その後真空下50℃で乾燥する。
【0038】
融点(DSC):175℃
H NMR(400MHz,d−DMSO)δ(ppm):1.80(bs(a),2H),2.10(bs,2H),3.10(bs,6H),3.71(bs,1H),3.84(bs,1H),4.25(bs,0.5H),4.40(bs,0.5H),6.58(s,2H),7.14(m,2H),7.57(m,2H),11(bs,2H)
(a)bs=ブロードシングレット。
【実施例2】
【0039】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のI型の調製
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラート24.26kgおよびフマル酸8.52kg(1.1当量)を、630lジャケット付ホウロウ反応器のメタノール197lに入れる。完全に溶解するまで、反応媒質を65℃で攪拌する。これを2時間かけて45℃に冷却し、その後、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のI型0.5%で開始する。この温度を1時間保持する。続いて、反応媒質を4.5時間かけて0℃に冷却し、その後、この温度で2時間保持する。4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のI型を濾別し、冷メタノール24lで2回洗浄し、その後真空下60℃で乾燥する。
【0040】
融点(DSC):175℃
H NMR(400MHz,d−DMSO)δ(ppm):1.80(bs(a),2H),2.10(bs,2H),3.10(bs,6H),3.71(bs,1H),3.84(bs,1H),4.25(bs,0.5H),4.40(bs,0.5H),6.58(s,2H),7.14(m,2H),7.57(m,2H),11(bs,2H)
(a)bs=ブロードシングレット。
【実施例3】
【0041】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のII型の調製
A)添加剤の添加によるII型の結晶化
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のI型のメタノール溶液Aを、濃度約30mg/mlで調製する。必要であれば、生成物をすべて溶解するために、約40℃に加熱を行い、その後濾過を行う。
【0042】
添加剤のメタノール溶液Bを、濃度約3mg/mlで調製する。添加剤は、2,4−ジブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩である。
【0043】
溶液Bと溶液Aを、添加剤/4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートI型の比約0.003で混合して、溶液Cを得る。
【0044】
溶液C2mlを、周囲温度で約24時間、磁気攪拌しながらビーカーで蒸発させる。幾つかの試験に対応する幾つかのビーカーを場合により用意できる。
【0045】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のII型であることを確認するために、蒸発後に得られた生成物Dを、粉末回折によって分析する。
【0046】
B)精製
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩I型のメタノール溶液Eを、濃度約100mg/mlで調製する。この溶液を約15分間加熱還流し、その後濾過する。溶液Eの温度を約10℃に下げる。
【0047】
溶液Eに存在する4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩I型の量に対して、約0.5重量%の生成物D(段階Aで調製されたII型)を添加する。混合物を約2時間、約−10℃で攪拌する。
【0048】
得られた生成物Fを濾別し、その後、乾燥窒素を通しながら乾燥する。4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のII型であることを確認するために、粉末X線回折によって分析を行う。
【0049】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩II型の純度をさらに向上させることが所望であれば、場合により、生成物Dの代わりに生成物Fを種として加えて段階Bを繰り返すことができる。
【0050】
意外にも、式(I)の化合物のフマル酸塩は、塩基形態の同じ化合物に比べてさらに改善された純度、安定性、および溶解性を有することが明確に実証された。
【0051】
これは、塩基形態の式(I)の化合物を精製することが非常に困難であるためである。塩化段階、即ち遊離塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートからフマル酸塩への変化は、以下に示す(表1)HPLC(高速液体クロマトグラフィ)による不純物の定量の結果によって示されるとおり、この化合物を化学的に精製することを可能にする段階である。
【0052】
クロマトグラフィの条件
カラム:Inertsil ODS3 150×4.6mm、5μm、25℃で保持
移動相:
緩衝液pH4.5:0.01M KHPO、0.5g/lヘプタスルホン酸ナトリウム
1M KOHでpH4.5に調節
相A:90V 緩衝液pH4.5
10V アセトニトリル
相B:20V 緩衝液pH4.5
80V アセトニトリル
勾配:40分で相A100%から相B80%
流速:1.0ml/分
検出:UV、λ=220nm(光路:1cm)
注入溶液:水50容量およびアセトニトリル50容量の混合物中の(塩基または塩)0.2mg/ml溶液
注釈:定量のため、得られた結果は非分解塩基の%(w/w)で表わす(周囲温度で保管した非分解塩基または塩コントロールで検定することによる。)。
【0053】
【表8】

【0054】
フマル酸塩は、純度95.5%を示す塩基とは対照的に、満足できる純度で得られた。
【0055】
さらに、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、遊離塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートより安定である。これは、遊離塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートの融点が112℃で、この融解エンタルピーが29kJ/molであるのに対して、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩の融点が175から176℃(それぞれII型−I型)であり、融解エンタルピーが39kJ/molであるためである。
【0056】
固体状態での熱安定性試験
式(I)の化合物の塩基およびフマル酸塩を、
80℃
80℃および相対湿度(RH)80%
で1、7、および14日保管した後、分析する。
【0057】
外観
結果を下記の表2に記載する。
【0058】
【表9】

【0059】
上で得られた結果に照らして、式(I)の化合物の塩基は、熱の影響下、ならびに熱および湿度の影響下で外観が変化することがわかり、これは生成物の化学的品質の悪化を表わす。対照的に、式(I)の化合物のフマル酸塩の外観は変化しないままである。従ってこれらの結果は、試験条件下において式(I)の化合物の塩基に対するフマル酸塩のより高い安定性を実証している。
【0060】
非分解生成物の定量および不純物の割合
クロマトグラフィの条件
カラム:Inertsil ODS3 150×4.6mm、5μm、25℃で保持
移動相:
緩衝液pH4.5:0.01M KHPO、0.5g/lヘプタスルホン酸ナトリウム
1M KOHでpH4.5に調節
相A:90V 緩衝液pH4.5
10V アセトニトリル
相B:20V 緩衝液pH4.5
80V アセトニトリル
勾配:40分で相A100%から相B80%
流速:1.0ml/分
検出:UV、λ=220nm(光路:1cm)
注入溶液:水50容量およびアセトニトリル50容量の混合物中の(塩基または塩)0.2mg/ml溶液
注釈:定量のため、得られた結果は非分解塩基の%(w/w)で表わす(周囲温度で保管した非分解塩基または塩コントロールで検定することによる。)。
【0061】
HPLCによる定量の結果を下記の表3に要約する。
【0062】
【表10】

【0063】
このようにフマル酸塩は、熱に対しておよび湿気存在下の熱に対して、塩基ほど分解しない。
【0064】
注釈:不純物はUVで検出できないか、またはこれらの分析条件で分離しない生成物に分解する可能性があるため、定量された不純物の合計は相対湿度80%80℃で保管された後に少ない可能性がある。
【0065】
さらに、医薬製剤中、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、遊離塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートに比べて、賦形剤に対して反応性が低い。これは、フマル酸塩の場合、第2級アミンにおいてフマル酸と4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートとの間にイオン結合が形成されているためである。遊離塩基の場合、結合の不在が、製剤時に賦形剤とのより高い反応性をもたらす。
【0066】
最後に、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、下記の分析によって示されるとおり、遊離塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートに比べて、より可溶性である。
【0067】
溶解性試験
式(I)の化合物の塩基およびフマル酸塩の即時溶解性を以下の媒質で求めた。
【0068】

緩衝液pH1.2:0.01M KHPO、オルトリン酸でpH調節
緩衝液pH7.2:0.2M KHPO、KOHでpH調節
緩衝液pH9.0:0.04M Na・10HO、ホウ酸でpH調節
ジメチルスルホキシド(DMSO)
瞬時溶解性の測定:化合物が溶解するまで、連続容量の媒質を試験試料に添加する。ボルテックスミキサを用い、周囲温度で攪拌を行う。
【0069】
結果を下記の表4に記載する。European Pharmacopoeiaによる対応する分類の情報も表4に示す。
【0070】
【表11】

【0071】
表4の結果に照らして、式(I)の化合物のフマル酸塩は、遊離塩基形態の式(I)の化合物と比べて、全体としてより可溶性であることがわかる。
【0072】
式(I)の化合物のフマル酸塩は、同じ化合物の塩酸塩形態と比較して、向上した温度安定性を有することも実証された。
【0073】
これは、温度の影響下、または窒素を通しているとき、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートの塩酸塩は、この水化学量論を失う傾向を有するためである。従って、塩化段階後の乾燥段階中、および化合物の医薬製剤の場合製剤段階中の結晶相の監視および制御には多くの制約が示される。水吸着/脱着等温線は、化合物Aの塩酸塩が半水和物形態および2つの無水形態で存在することを示し、制御が困難であるこの水分含有量は、乾燥に対する感受性を増し、塩酸塩を工業規模で用いるのを困難にする。
【0074】
対照的に、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、2種の非吸湿性多形形態(I型およびII型)で結晶化する。蒸気または液体形態の水の存在は、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩のI型またはII型の結晶形態に影響を及ぼさない。4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩の2種の多形形態のこの特性は、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートの塩酸塩と比較して有利である。
【0075】
式(I)の化合物のフマル酸塩は、塩基形態または塩酸塩形態の式(I)の化合物と比べて、より良好な溶解性および安定性を同時に示すことがこれらの分析から明らかになり、これは式(I)の化合物のフマル酸塩を薬剤の製造に特に適したものにする。
【0076】
フマル酸塩形態の式(I)の化合物の物理化学的特性はまた、光、温度、および湿度の存在に対して、過度に制限的な予防措置なしに、この化合物を通常の条件下で保管することを可能にする。
【0077】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、ニコチン受容体のα7サブユニットのリガンドである。
【0078】
従って、このフマル酸塩は、薬剤、特に中枢神経系ならびに末梢系における、特にニコチン受容体の機能不全に関連する障害を治療または予防するための薬剤の調製に用いることができる。
【0079】
これらの障害には、有害な認知変化、より具体的には有害な記憶変化(獲得、固定化、および想起)、および注意処理における発作、ならびにアルツハイマー病、病的加齢(加齢性記憶障害、AAMI)または正常な加齢(老年性認知症)、パーキンソン症候群、21トリソミー(ダウン症候群)、精神医学的病状、特に統合失調症(CIAS)または心的外傷後ストレス障害(PTSD)に伴う認知機能障害、コルサコフアルコール症候群、血管性認知症(多発脳梗塞性認知症、MDI)、または頭蓋外傷に関連する実行機能の障害が含まれる。
【0080】
本発明の化合物はまた、パーキンソン病、またはハンチントン舞踏病、トゥレット症候群、遅発性ジスキネジア、および運動過剰症など他の神経疾患で観察される運動障害の治療に有用である可能性がある。
【0081】
本発明の化合物はまた、上述の神経変性疾患に関連する解剖学的組織病理学的発作に対して、神経保護治療活性を示す可能性がある。
【0082】
本発明の化合物はまた、多発性硬化症の治療に有用である可能性がある。
【0083】
本発明の化合物はまた、脳卒中および脳低酸素性エピソードの治癒的治療または対症療法となる可能性がある。本発明の化合物は、精神医学的病状、統合失調症(陽性症状および/または陰性症状)、双極性障害、抑鬱、不安、パニック発作、PTSD、注意欠陥多動性障害(ADHD)、または強迫性行動の場合に用いることができる。
【0084】
本発明の化合物は、タバコ、アルコール、またはコカイン、LSD、大麻、もしくはベンゾジアゼピンなどの種々の依存症誘導物質からの離脱による症状を予防する可能性がある。
【0085】
本発明の化合物は、様々な起源の疼痛(慢性、神経障害性、または炎症性疼痛を含む。)の治療に有用である可能性がある。
【0086】
さらに、本発明の化合物は、下肢虚血、下肢動脈閉塞性疾患(PAD:末梢動脈疾患)、心虚血(安定狭心症)、心筋梗塞、心不全、糖尿病患者の皮膚治癒不全、静脈不全の静脈瘤性潰瘍、または敗血症性ショックの治療に用いられる可能性がある。
【0087】
本発明の化合物はまた、様々な起源の炎症過程、特に中枢神経系に関連する炎症、アレルギーもしくは喘息に関連する肺の炎症、歯周炎、サルコイドーシス、膵炎、再灌流障害、または関節リウマチの治療に用いられる可能性がある。
【0088】
本発明の化合物はまた、乾癬などの皮膚病変の治療、および喘息の治療に有用である可能性がある。
【0089】
本発明の化合物はまた、潰瘍性大腸炎の治療に用いられる可能性がある。
【0090】
従って、別の態様によれば、本発明の主題は、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩を含む薬剤である。これらの薬剤は、特にニコチン受容体の機能不全に関連する障害、特に上述の障害の治療および予防に治療的に用いられる。
【0091】
従って、本発明の別の主題は、ニコチン受容体の機能不全に関連する障害、特に上述の障害を治療または予防するための薬剤の調製における、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩の使用である。
【0092】
別の態様によれば、本発明は、活性成分として、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩を含む医薬組成物に関する。これらの医薬組成物は、有効用量の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩、および少なくとも1種の医薬的に許容される賦形剤を含む。前記賦形剤は、所望の医薬形態および所望の投与方法に従って、当業者に知られている通常の賦形剤から選択される。
【0093】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、表面(topical)、局所(local)、気管内、鼻腔内、経皮、または直腸投与用の本発明の医薬組成物において、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩は、上記障害または疾患を予防または治療するために、動物およびヒトに、通常の医薬賦形剤との混合物として、単位投与形態で投与することができる。
【0094】
適切な単位投与形態には、錠剤、軟質または硬質ゼラチンカプセル剤、粉剤、顆粒剤、および経口で摂取される液剤または懸濁剤などの経口形態、舌下、口腔、気管内、眼内、または鼻腔内形態、吸入による投与形態、表面、経皮、皮下、筋肉内、または静脈内投与形態、直腸投与形態、ならびにインプラントが含まれる。表面適用のために、本発明による化合物は、クリーム、ゲル、軟膏、またはローション剤で用いることができる。
【0095】
前記単位形態は、この医薬製剤形態に応じて、体重1kg当たり活性成分0.01から20mgの毎日の投与が可能となる用量を含む。
【0096】
より多量または少量の投与量が適切である特定の場合が存在する可能性があり、このような投与量は本発明の範囲から逸脱しない。通常の実施によれば、それぞれの患者に適した投与量は、投与方法、ならびに前記患者の体重および反応に従って、医師によって決定される。
【0097】
別の態様によれば、本発明はまた、有効用量の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩を患者に投与することを含む、上記の病状を治療するための方法に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【請求項2】
結晶多形I型であることを特徴とする、請求項1に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【請求項3】
赤外スペクトルが、以下の特徴的な吸収帯の少なくとも3つを示す、請求項2に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【表1】

【請求項4】
粉末X線回折図が、以下の特徴的な線の少なくとも3つを含む、請求項2に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【表2】

【請求項5】
融点が176℃±2℃であり、平均エンタルピーが107J/g±2J/gであることを特徴とする、請求項2に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【請求項6】
結晶多形II型であることを特徴とする、請求項1に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【請求項7】
赤外スペクトルが、以下の特徴的な吸収帯の少なくとも3つを示す、請求項6に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【表3】

【請求項8】
粉末X線回折図が、以下の特徴的な線の少なくとも3つを含む、請求項6に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【表4】

【請求項9】
融点が175℃±2℃であり、平均エンタルピーが109J/g±2J/gであることを特徴とする、請求項6に記載の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩。
【請求項10】
遊離塩基形態の4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートを溶媒中、フマル酸と反応させることを特徴とする、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩I型を調製する方法。
【請求項11】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩I型を溶媒中、2,4−ジブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩と合わせることを特徴とする、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩II型を調製する方法。
【請求項12】
4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩を含むことを特徴とする薬剤。
【請求項13】
活性成分として4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩、および少なくとも1種の医薬的に許容される賦形剤を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項14】
ニコチン受容体の機能不全に関連する障害を治療または予防するための薬剤の調製における、4−ブロモフェニル1,4−ジアザビシクロ[3.2.2]ノナン−4−カルボキシラートのフマル酸塩の使用。
【請求項15】
アルツハイマー病に関連する実行機能の障害を治療または予防するための薬剤の調製における、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
統合失調症に伴う認知機能障害を治療または予防するための薬剤の調製における、請求項14に記載の使用。

【公表番号】特表2011−522016(P2011−522016A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512184(P2011−512184)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051039
【国際公開番号】WO2009/156678
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】