説明

4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートの、心血管疾患の治療における利用方法

新規の化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート、その調製方法、および心血管疾患の治療における利用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートおよびその調製方法に関するものである(以下の化学式5の化合物)。
【0002】
【化1】

【0003】
本発明はまた、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートの、心血管疾患の治療における利用にも関している。
【背景技術】
【0004】
心血管疾患(CVD)は、心臓および血管の疾患群である。
【0005】
推計1670万件の死亡(つまり世界の全死亡の29.2%)は、心血管疾患(CVD)のさまざまな形態に起因している。
【0006】
心筋梗塞(心臓発作)は、冠動脈疾患による重篤な疾患である。心筋梗塞(MI)は、長時間の虚血に続発する心筋の不可逆的壊死である。心臓発作すなわち心筋梗塞は、心臓への血液供給が突然にそして大幅に減少あるいは途絶されて、酸素の欠乏により筋肉の死を引き起こすという医学的な緊急事態である。毎年110万人超の人々が心臓発作(心筋梗塞)に襲われており、そしてそれらの人々の多くにとって、心臓発作は彼らの初めての冠動脈疾患の症状なのである。心臓発作は、死をもたらすに十分なほど深刻なこともあるし、無症状のこともある。五人に一人もの人は、軽度の症状のみあるいは全く症状がなく、心臓発作はその後しばらくして行われた定期的な心電図検査によって初めて発見されることもある。
【0007】
心臓発作(心筋梗塞)は、通常、心臓の動脈を塞ぐ血栓が原因で起こる。動脈は、多くの場合、動脈壁への脂肪性沈着物によって既に狭くなっている。これらの沈着物は、裂けたり破れたりする可能性があるが、これは血流を減らし、また、血液の血小板を粘り気のある、またより血栓を形成し易いものにする物質を放出することになる。ときには、血栓は心臓そのものの中に形成され、それから剥離して心臓に血液を供給する動脈に詰まることがある。これらの動脈のうちの一つにおける痙攣は、血流を止める原因となる。
【0008】
γ‐ブチロベタインは、最初に、心臓拡張期に呼吸を速め、唾液分泌および流涙、瞳孔拡張、血管収縮および心停止を引き起こす毒性物質として特徴づけられ、哺乳動物は、該物質からカルニチンを合成する。LINNEWEH,W.Gamma−Butyrobetain,Crotonbetain und Carnitin im tierischen Stoffwechsel.Hoppe−Seylers Zeitschrift fur physiologische Chemie.1929年第181巻42〜53ページ。その一方で、より最近の研究論文で、他の著者達により、γ‐ブチロベタインの毒性が極めて低い(LD50>7000mg/kg、皮下注射)ことが確認された。ROTZSCH,W.Iber die Toxizitat des Carnitins und einiger verwandter Stoffe.Acta biol.med.germ..1959年第3巻28〜36ページ。
【0009】
非置換γ‐ブチロベタインの文献データには、心臓血管系作用は記載されていないが、HOSEIN,E.A.Pharmacological actions of γ‐butyrobetaine.(γ‐ブチロベタインの薬理学的作用)Nature.1959年第183巻328〜329ページでは、γ‐ブチロベタインが、持続性作用を伴うアセチルコリンと類似した物質であることが報告されている。しかしながら、後に、同じ著者達は、実験結果が、誤りにより、γ‐ブチロベタインの代わりに、実際にコリン作動性の特性をもつそのメチルエステルを取り込んでいたことを報告した。前者に反して、γ‐ブチロベタインは、薬理学的な不活性物質として特徴付けられた。HOSEIN,E.A.Isolation and probable functions of betaine esters in brain metabolism.(脳代謝におけるベタインエステルの分離および予想される機能)Nature.1960年第187巻321〜322ページ。
【0010】
4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートに構造的に関係している化合物が、以下において開示されている:
・英国特許第1238868号明細書1971年7月14日において、4−トリメチルアンモニオブタノアートのような、ポリマーとして利用されるベタインが開示された。しかしながら、これらのベタインの薬理学的特性は示されなかった;
・米国特許第5973026号明細書(XEROX CORP ゼロックス社)1999年10月26日において、インク組成物用の利用のための、4−トリメチルアンモニオブタノアートおよび3−[ジエチル(メチル)アンモニオ]プロピオナートが開示された;
・LLOYD ANDREW氏他 A comparison of glycine,sarcosine,N,N−dimethylglycine,glycinebetaine and N−modified betaines as liposome cryoprotectants.(リポソーム凍結防止剤としてのグリシン、サルコシン、N,N−ジメチルグリシン、グリシンベタイン及びN−修飾ベタイン類の比較)Journal of pharmacy and pharmacology.1992年第44巻第6号507〜511ページにおいて、リポソーム用の抗凍結剤として利用される、2−[エチル(ジメチル)アンモニオ]アセテートが開示された;
・DAVID B.,THOMAS氏他 Synthesis, Characterization,and Aqueous Solution Behavior of Electrolyte− and pH−Responsive Carboxybetaine−Containing Cyclocopolymers.(電解質及びpH応答性のカルボキシベタイン含有シクロコポリマの合成、特性解析と水溶液挙動)Macromolecules.2003年第36巻第26号9710〜9715ページにおいて、4−[ジアリル(メチル)アンモニオ]ブタノアートおよび、N,N−ジアリル−N−メチルアンモニウムと4−ブロモ酪酸エチルとから始まるその合成が開示されている。遊離酸は、イオン交換樹脂アンバーライトを利用する第二段階においてエステルから得られる。生成物は、ポリマーを合成するための中間体として利用される;
・Prelog V.1930年第2巻712〜722ページにおいて、4−ジメチルアンモニオブタノアートおよびヨウ化メチルから始まる4−トリメチルアンモニオブタノアートの合成が開示された;
・特開第2009‐096766号公報(甲南学園)2009年05月07日に、4−トリメチルアンモニオブタノアートおよび、トリメチルアミンと4−ブロモ酪酸エチルとから始まるその合成が記載された。遊離酸は、イオン交換樹脂アンバーライトを利用する第二段階においてエステルから得られる;
・国際公開第2008/055843号(KALVINSH IVARS;CHERNOBROVIJS ALEKSANDRS;VARACHEVA LARISA;PUGOVICHS OSVALDS)2008年05月15日において、4−トリメチルアンモニオブタノアートおよび、対応するエステルから始まり、KOH溶液を利用する合成が記載された;
・加国特許第2508094号明細書(VIVIER CANADA社)2006年11月20日において、ベタイン、たとえば4−トリメチルアンモニオブタノアートが、コラーゲン合成を促進するための薬剤として開示された;
・米国特許第5965615号明細書(大鵬薬品工業株式会社;VALSTS ZINATNISKA IESTADE BEZP)1999年10月12日において、心筋代謝異常の治療用の薬剤として4−トリメチルアンモニオブタノアートが開示され、同じ化合物が米国特許第2007191381号明細書(CONCERT PHARMACEUTICALS社)2007年08月16日において、心筋梗塞の治療用に開示された。
【0011】
3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナート二水和物は、心臓保護特性をもつ化合物として既知である(この物質は、その国際一般名であるメルドニウムとして既知のものである)。3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートは、米国特許第4481218号明細書(INST ORGANICHESKOGO SINTEZA)1984年11月06日において、ならびに米国特許第4451485号明細書(INSTITU ORCH SINTEZA AKADEMII)1984年05月29日において開示されている。
【0012】
二水和物としての3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートが、カルニチン対ガンマ−ブチロベタインの濃度比、ひいては体内の脂肪酸ベータ酸化速度を制御するために広く利用されていることは、非常に既知である。DAMBROVA M.,LIEPINSH E.,KALVINSH I.I.Mildronate:cardioprotective action through carnitine−lowering effect.(ミルドロネート:カルニチン低下効果による心臓保護作用)Trends in Cardiovascular Medicine,.2002年第12巻第6号275〜279ページ。
【0013】
これらの特性により、メルドニウムは、さまざまな心血管疾患および他の組織虚血を伴う病理の治療において、抗虚血薬、抗ストレス薬、心臓保護薬として、医学の分野で幅広く適用されている。KARPOV R.S.,KOSHELSKAYA O.A.,VRUBLEVSKY A.V.,SOKOLOV A.A.,TEPLYAKOV A.T.,SKARDA I.,DZERVE V.,KLINTSARE D.,VITOLS A.,KALNINS U.,KALVINSH I.,MATVEYA L.,URBANE D.Clinical Efficacy and Safety of Mildronate in Patients With Ischemic Heart Disease and Chronic Heart Failure.(虚血性心疾患と慢性心不全の患者におけるミルドロネートの臨床効果と安全性)Kardiologiya.2000年第6号69〜74ページ。心血管疾患の治療において、3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの作用機序は、カルニチン生合成速度の制限および、関連する長鎖脂肪酸の運搬のミトコンドリア膜を介した制限に基づくものである。SIMKHOVICH B.Z.,SHUTENKO Z.V.,MEIRENA D.V.,KHAGI K.B.,MEZHAPUKE R.J.,MOLODCHINA T.N.,KALVINS I.J.,LUKEVICS E。
【0014】
3−(2,2,2,−Trimethylhydrazinium)propionate(THP)−a novel gamma−butyrobetaine hydroxylase inhibitor with cardioprotective properties.(3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナート(THP)−心臓保護特性を備えた新規のガンマ−ブチロベタインヒドロキシナーゼ阻害剤)Biochemical Pharmacology.1988年第37巻195〜202ページ、 KIRIMOTO T.,ASAKA N.,NAKANO M.,TAJIMA K.,MIYAKE H.,MATSUURA N.Beneficial effects of MET−88,a γ‐butyrobetaine hydroxylase inhibitor in rats with heart failure following myocardial infarction.(心筋梗塞に伴う心不全ラットにおけるγ‐ブチロベタインヒドロキシラーゼ阻害剤MET‐88の有益な効果)European Journal of Pharmacology.2000年第395巻第3号217〜224ページ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
メルドニウム二水和物の心臓保護作用は既知であったが、しかしγ‐ブチロベタインそのものに明白な心臓保護作用があるとのデータはないのである。欧州特許第0845986号明細書(KALVINSH IVARS,VEVERIS MARIS)2003年04月02日では、心血管疾患の治療において用いられるメルドニウム二水和物およびγ‐ブチロベタインの医薬組成物が開示されている。
【0016】
本発明の一つの目的は、明白な心臓保護作用をもつ化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的は、メルドニウムまたはγ‐ブチロベタインと類似の構造をもつ、新規の化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート(化学式5の化合物)を提供することによって達成される。
【0018】
【化2】

【0019】
驚くべきことに、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートは、明白な心臓保護作用を有し、また、メルドニウム二水和物のin vivoでの心筋梗塞モデルよりも効果的であり、この特性のために、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートは医学の分野で利用されることが可能である。4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートは、注射液および錠剤として利用されることができる。
【0020】
本発明の次の目的は、前記化学式5の化合物の調製方法である。
【0021】
化学式5の目標化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを生成するために利用されることができる四つの過程が開示されるが、以下の図解を参照頂きたい。
【0022】
【化3】

【0023】
第一の過程(ルートA)は、以下の工程段階を含む:
a)N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを生成するために、4−(ジメチルアンモニオ)ブタノアートに、臭化エチルを加える;
b)望まれる化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを水酸化カリウムで処理する。
【0024】
第二の過程(ルートB)は、以下の工程段階を含む:
a)N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを生成するために、4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリドに、炭酸カリウムおよびブロモエタンを加える;
b)4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを、イオン交換樹脂カラムに通す。
【0025】
第三の過程(ルートC)は、以下の工程段階を含む:
a)メチル−4−(ジメチルアミノ)ブタノアートを生成するために、4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリドに、炭酸カリウムおよびジクロロメタンを加える;
b)N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを得るために、メチル−4−(ジメチルアミノ)ブタノアートを、ジクロロメタン中のブロモエタンで、撹拌する;
c)望まれる化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを水酸化カリウムで処理する。
【0026】
第四の過程(ルートD)は、以下の工程段階を含む:
a)4−エトキシ−N−エチル−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを得るために、ジクロロメタン中のエチル4−ブロモブタノアートに、N,N−ジメチルエチルアミンを加える;
b)4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、4−エトキシ−N−エチル−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを、イオン交換樹脂カラムに通す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、以下の非制限例を参照しながら、より詳細に説明されていく。
【0028】
4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート(5)の合成
【0029】
4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリド(3)の調製
【0030】
無水メタノール(300ml)中の3−カルボキシ−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムクロリド(2)(45.93g、0.27mol)の溶液に、(−10)−0℃でゆっくりと塩化チオニル(55ml、0.76mol)が加えられて、反応混合物は室温で1時間の間撹拌された。反応混合物は、その後40〜50℃で3時間の間撹拌され、そして蒸発した。残留物は、アセトン(110ml)の中で溶解され、エーテル(400ml)を添加することによって沈殿した。固形物は、濾過され、エーテルで洗浄され、そしてもう一度アセトン(110ml)の中で溶解され、続いてエーテル(400ml)で沈殿した。沈殿物は、濾過され、エーテルで洗浄され、そして乾燥されて、38.4g(77%)の4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリドが得られた。
【0031】
H NMR(DMSO−d,HMDSO)δ:1.91(qui,J=7.7Hz,2H);2.43(t,J=7.74Hz,2H);2.71(d,J=4.9Hz,6H);2.98−3.06(m,2H),3.61(s,3H);10.76(bs,1H)。
【0032】
ルートA
【0033】
4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート(5)の調製
【0034】
無水アセトン(20ml)中の4−(ジメチルアンモニオ)ブタノアート(4)(7.87g、0.06mol)と臭化エチル(13.08g、0.12mol)との混合物は、出発物質4−(ジメチルアンモニオ)ブタノアートが無くなるまで還流された(TLC標準品、メタノール:含水水酸化アンモニウム、3:1)。反応混合物は、イソプロパノール(100ml)が補充されて、溶液は蒸発乾固された。96%エタノール(70ml)中のKOH(7.28g、0.13mol)の溶液が、0℃で残留物に加えられ、そして反応混合物は4時間の間撹拌された。沈殿物は濾過されて取り除かれ、濾液は、媒体のpHが7〜8になるまでメタノール中の2N HClで処理された。反応混合物は、12時間の間−18℃で保たれたのち濾過された。濾液は蒸発乾固され、残留物はイソプロパノール(3×100ml)で共沸乾燥された。得られた油状固形物(13.4g)は、イソプロパノール(100ml)の中で溶解されて、12時間の間−18℃に保たれた。沈殿物は濾過され、そして濾液は、蒸発乾固され、−18℃でアセトン(30ml)から結晶化して、4.14g(43%)の4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得た。
【0035】
H NMR(DMSO−d,HMDSO)δ:1.24(t,J=7.3Hz,3H);1.68−1.78(m,2H);1.87(t,J=6.5Hz,2H);2.96(s,6H);3.16−3.23(m,2H);3.29(q,J=7.3Hz,2H)。LC ESI−MS(m/z):160[M+H]
【0036】
17NO・1.3HOの解析計算値:C52.61,H10.82,N7.67。
【0037】
実測値:C52.64,H11.00,N7.58。
【0038】
ルートB
【0039】
N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミド(6a)の調製
【0040】
アセトン(40ml)中の、4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリド(3)(7.27g、0.04mol)と、無水KCO(5.52g、0.04mol)と、ブロモエタン(4.48ml、0.06mol)との混合物は、室温で2日間の間しっかり撹拌された。沈殿物は、濾過され、アセトンで洗浄され、イソプロパノール(100ml)中に懸濁され、そして室温で2時間の間しっかり撹拌された。混合物は濾過され、濾液は、蒸発乾固されて、イソプロパノールで数回共沸乾燥された。残留物は、酢酸エチル(35ml)の添加によりアセトン(10ml)から結晶化され、P上で真空乾燥されて、6.51g(64%)のN−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドが得られた。
【0041】
H NMR(CDCl,HMDSO)δ:1.44(t,J=7.2Hz,3H);2.01−2.12(m,2H);2.55(t,J=6.6Hz,2H);3.40(s,6H);3.66−3.73(m,4H);3.69(s,3H)。
【0042】
LC ESI−MS(m/z):174[M+H]
【0043】
20BrNO・0.09HOの解析計算値:C42.26,H7.95,N.48。
【0044】
実測値:C42.26,H8.28,N5.35。
【0045】
4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート(5)の調製
【0046】
エタノール(20ml)中の、N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミド(6a)(6.51g、0.025mol)の溶液は、エタノール(100ml)でゆっくりと溶出するアンバーライト(登録商標)IRA−410(OH)イオン交換樹脂カラム(190ml)に通された。溶出液は蒸発乾固され、残留物は、イソプロパノールで数回共沸乾燥され、それからイソプロパノール(50ml)に溶解されて、12時間の間0℃に保たれた。混合物は濾過され、濾液は蒸発した。残留物(7.35g)は、冷たい酢酸エチルと混合されて、12時間の間0℃に保たれた。混合物は濾過され、沈殿物はP上で真空乾燥されて、3.54g(86%)の4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートが得られた。材料の純度は、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートの水溶液をDOWEX(登録商標)50WX8イオン交換樹脂に通すことによって増した。溶液は蒸発乾固され;残留物は、イソプロパノールで共沸乾燥され、続いてP上で真空乾燥されて、1.27g(31%)の4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートが得られた。
【0047】
ルートC
【0048】
メチル−4−(ジメチルアミノ)ブタノアート(7)の調製
【0049】
ジクロロメタン(70ml)中の、4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリド(3)(5.44g、0.03mol)と無水KCO(5.52g、0.04mol)の懸濁液は、室温で24時間の間しっかりと撹拌された。沈殿物は濾過され、ジクロロメタンで洗浄され、そして濾液は蒸発した。残留物は、32〜35℃/3〜4mmHgで蒸留されて、2.88g(66%)の4−(ジメチルアミノ)ブタノアートが得られた。
【0050】
H NMR(DMSO−d,HMDSO)δ:1.64(qui,J=7.2Hz,2H);2.09(s,6H);2.17(t,J=7.1Hz,2H);2.30(t,J=7.4Hz,2H);3.57(s,3H)。
【0051】
N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミド(6a)の調製
【0052】
ジクロロメタン(15ml)中の、メチル−4−(ジメチルアミノ)ブタノアート(7)(1.45g、10mmol)と、ブロモエタン(1.2ml、16mmol)との混合物は、室温で撹拌された。反応混合物は蒸発乾固され、白い固形物(2.438g)は、アセトンを用いて粉砕され、濾過され、P上で真空乾燥されて、2.397g(94%)のN−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドが得られた。
【0053】
ルートD
【0054】
4−エトキシ−N−エチル−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミド(6b)の調製
【0055】
氷浴温度のジクロロメタン中のエチル−4−ブロモブタノアート(8)(19.5g、0.1mol)の溶液に、N,N−ジメチルエチルアミン(10.8ml、0.1mol)が加えられ、室温で一晩中撹拌された。反応混合物は蒸発乾固され、残留物はアセトン(50ml)を用いて粉砕されて0.5時間の間0℃に保たれた。沈殿物は濾過されP上で真空乾燥されて、22.274g(94%)の4−エトキシ−N−エチル−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドが得られた。
【0056】
H NMR(CDCl,HMDSO)δ:1.26(t,J=7.2Hz,3H);1.44(t,J=7.4Hz,3H);2.00−2.11(m,2H);2.52(t,J=6.6Hz,2H);3.40(s,6H);3.64−3.73(m,2H);3.69(q,J=7.4Hz,2H);4.14(q,J=7.2Hz,2H)。
【0057】
4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート(5)の調製
【0058】
水(10ml)中の、4−エトキシ−N−エチル−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミド(6b)(12.00g、44.7mol)は、エタノール(TLC標準品)でゆっくりと溶出する(約10滴/分)アンバーライト(登録商標)IRA−410(OH)イオン交換樹脂カラム(250ml)に通された。溶出液は蒸発し、残留物(12g)は水(50ml)の中に溶解された。この溶液にDOWEX(登録商標)50WX8イオン交換樹脂(5g)が加えられて、0.5時間の間室温で撹拌された。反応混合物は、セライト(1cm)を通して濾過され、溶出液は蒸発乾固された。残留物は、イソプロパノール、アセトニトリル、およびアセトンで共沸乾燥された。得られた固形物はアセトン(10ml)を用いて粉砕され、混合物は2時間の間0℃に保たれた。沈殿物は濾過され、P上で真空乾燥されて、4.65g(65%)の4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートが得られた。
【0059】
H NMR(DMSO−d,HMDSO)δ:1.24(t,J=7.3Hz,3H);1.66−1.76(m,2H);1.81(t,J=6.4Hz,2H);2.95(s,6H);3.16−3.23(m,2H);3.29(q,J=7.3Hz,2H)。LC ESI−MS(m/z):160[M+H]
【0060】
17NO・1.55HOの解析計算値:C51.34;H10.82;N7.48。実測値:C51.36,H11.40,N7.34。
【0061】
心臓保護作用
【0062】
200〜250gの生後10週間のウィスター系ラットの雄50匹が、標準環境下(21〜23℃、12時間の明/暗サイクル)で収容され、食べ物(R3規定食、Lactamin AB、スウェーデン)と水が制限なく与えられた。
【0063】
ラットは、治療開始前2週間の間、局地的条件に適応された。一回分の投与量5mg/kgあるいは100mg/kgのメルドニウム二水和物、一回分の投与量5mg/kgのガンマ−ブチロベタイン、そして一回分の投与量20mg/kgのEGが、経口で毎日、8週間の間投与された。対照群ラットは水を与えられた。
【0064】
単離ラット心筋梗塞調査
【0065】
単離ラット心臓の実験は、基本的に先に記述されたように行われた(Liepinsh氏他,J.Cardiovasc.Pharmacol.2006;48(6):314−9)。最後の投薬の24時間後、心臓は摘出され、37℃で、酸素を含んだクレブス−ヘンゼライトバッファーで一定の圧力で大動脈を介して逆行的にかん流された。心拍数、左心室拡張終期圧および最大左心室圧が、連続的に記録された。冠血流は、超音波探傷器(HSE)およびADInstruments社製のPowerLab8/30システムを使って測定された。心臓は、血行動態機能を安定させるために20分の間かん流され、それからプラスチックチューブに通した糸を締め付けることによって、60分の間閉塞された。冠血流の約40%の低下によって、閉塞の成功が確認された。糸を解放することによって、再かん流が達成された。150分間の再かん流の終わりに、リスク領域は、0.1%のメチレンブルーで輪郭が描かれた。それから心臓は、心尖から心底まで2mmの厚さの5枚の薄片に、横に切開され、そして、生活組織を赤色にまた壊死組織を白色に染色するために10分間の間リン酸緩衝液(pH7.4,37℃)中の1%のトリフェニルテトラゾリウムクロリドの中で培養された。百分率%で表される左心室のリスク領域と壊死領域を測定するために、ソフトウェアImage−Pro Plus 6.3を利用して、SONY A900の写真の、コンピュータによる面積測定分析が行われた。得られた値はそれから、以下の式にしたがって、リスク領域の百分率%としての梗塞面積(IS)を計算するために利用された:
【0066】
梗塞面積=壊死領域/リスク領域×100%。
【0067】
単離ラット心筋梗塞モデルにおける効果
【0068】
調べられた物質の抗梗塞効果が、単離ラット心筋梗塞モデルにおいて調査された。左冠状動脈の閉塞の間に、全ての実験群における冠血流が40%低下した(11ml/分から7ml/分)。さらに、最大左心室圧の50%の低下が観察された。閉塞時間の間の心拍数には著しい変化はなかった。再かん流の段階において、冠血流、最大左心室圧、±dp/dtの値は、対照群レベルの約80%まで回復した。対照群と治療群の間に著しい差はなかった。
【0069】
単離ラット心筋梗塞実験におけるメルドニウム二水和物(5mg/kgあるいは100mg/kg)、ガンマ−ブチロベタイン(5mg/kg)、そして4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート(EG)(5mg/kg)の、治療2週間後の梗塞面積への効果が、表1に示されている。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示されるように、一回分の投与量5mg/kgのメルドニウム二水和物治療は梗塞面積を5%小さくしたが、メルドニウム二水和物の治療作用は100mg/kgになって初めて観察され、梗塞面積は24%小さくなった。一回分の投与量5mg/kgのガンマ−ブチロベタインは、治療効果を示さなかった。一回分の投与量5mg/kgの4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートでは、梗塞面積を41%小さくするという、最良の治療効果が観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0072】
【特許文献1】英国特許第1238868号明細書
【特許文献2】米国特許第5973026号明細書
【特許文献3】特開2009−096766号公報
【特許文献4】国際公開第2008/055843号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート。
【化1】

【請求項2】
以下を含む、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート調製方法:
a)N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを生成するために、アセトン中の4−(ジメチルアンモニオ)ブタノアートに、臭化エチルを加える;
b)望まれる化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを、エタノール中の水酸化カリウムの溶液で処理する。
【請求項3】
以下を含む、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート調製方法:
a)N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを生成するために、アセトン中の4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリドに、炭酸カリウムおよびブロモエタンを加える;
b)4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、エタノール存在下のN−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを、イオン交換樹脂カラムに通す。
【請求項4】
以下を含む、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート調製方法:
a)メチル−4−(ジメチルアミノ)ブタノアートを生成するために、4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムクロリドに、炭酸カリウムおよびジクロロメタンを加える;
b)N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを得るために、メチル−4−(ジメチルアミノ)ブタノアートを、ジクロロメタン中のブロモエタンで、撹拌する;
c)望まれる化合物4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、N−エチル−4−メトキシ−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを、エタノール中の水酸化カリウムの溶液で処理する。
【請求項5】
以下を含む、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート調製方法:
a)4−エトキシ−N−エチル−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを得るために、ジクロロメタン中のエチル4−ブロモブタノアートに、N,N−ジメチルエチルアミンを加える;
b)4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートを得るために、水に溶解した4−エトキシ−N−エチル−N,N−ジメチル−4−オキソ−1−ブタンアミニウムブロミドを、イオン交換樹脂カラムに通す。
【請求項6】
薬剤として利用するための、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート。
【請求項7】
心血管疾患の治療に利用するための、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアート。
【請求項8】
心血管疾患の治療用の薬剤の製造のための、4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートの利用方法。
【請求項9】
虚血性心疾患の治療用の薬剤の製造のための、請求項8に記載の4−[エチル(ジメチル)アンモニオ]ブタノアートの利用方法。
【請求項10】
虚血性心疾患が心筋梗塞である、請求項9に記載の利用方法。

【公表番号】特表2013−508342(P2013−508342A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534709(P2012−534709)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065924
【国際公開番号】WO2011/048201
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(509126117)グリンデクス,ア ジョイント ストック カンパニー (9)
【氏名又は名称原語表記】GRINDEKS,a joint stock company
【Fターム(参考)】