説明

7軸多関節ロボットの制御装置および教示方法

【課題】 教示作業時においてロボット全体の動作軌跡を容易に把握して適切な教示を行うことができる7軸多関節ロボットの制御装置および教示方法を提供する。
【解決手段】 7軸多関節ロボット1の教示を行う教示モードにおいて、所定の平面Pzを設定する設定器21と、肘部Eの動作軌跡が設定器21により設定された平面Pz内に制限されるように7軸多関節ロボット1を動作制御する制御器23と、手先11の位置が教示された場合に、肘部Eの動作の制限を拘束条件として、手先11の位置変化に基づく各回転軸A1〜A7の回転角度を演算する逆変換演算を行う演算器22とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7軸多関節ロボットの制御装置および教示方法に関し、特に教示時における7軸多関節ロボットにおける肘部の動作制御に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来から広く用いられている6軸の多関節ロボットにさらに1軸(冗長軸)を追加した7軸多関節ロボットが開発されている。7軸多関節ロボットにおいても、6軸多関節ロボットの場合と同様に、手首の位置および姿勢から各関節の回転軸の回転角度を逆変換演算にて求めている。しかしながら、6軸多関節ロボットにおいては、手首の位置および姿勢を指定すると、各軸の回転位置が一義的に決定されるが、7軸多関節ロボットにおいては、手首の位置および姿勢を指定しても、各軸の回転位置が一義的に決定されない。これは、冗長軸の存在により、手先の位置を保持した状態で肘部の位置を変更することが可能であるからである。従って、7軸多関節ロボットにおいては、周囲の障害物への影響を考慮すると、手首の位置および姿勢だけでなく多関節ロボット全体の位置および姿勢を教示する必要がある。
【0003】
ここで、7軸多関節ロボットの制御方法としては、冗長軸を固定した状態で制御する態様(例えば特許文献1参照)や肘部の角度が一定になるように制御する態様が知られている。また、7軸多関節ロボットの教示方法として、ロボットアームの動作領域を複数の領域に分割して、当該分割された領域ごとにロボットアームの基準位置および基準姿勢を予め教示しておく態様も知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−125892号公報
【特許文献2】特開2009−226552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように冗長軸を固定した状態で制御すると、結果として6軸多関節ロボットとしての機能しか発揮できず、適切な教示を行うことができない。また、肘部の角度が一定になるように制御しても、肘の位置は大きく動いてしまうため、ロボット全体の姿勢が大きく変化することになり、適切な教示を行うことができない。また、特許文献2のような態様では、分割された領域ごとにロボットアームの基準位置および基準姿勢を教示するために試行錯誤が必要となる。しかも、依然として肘部などが作業者にとって思いがけない方向へ動き、周辺機器と干渉する可能性があり、ロボットの動作速度を遅くして教示作業を行う等の必要が生じ、教示に手間がかかる。さらに、結果として生成されたロボット動作において、手首位置が新たな領域に入るたびに必ずロボットが当該領域における基準位置および基準姿勢をとることとなるため、ロボットに無駄な動作が生じ、作業時間が長くなる問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、教示作業時においてロボット全体の動作軌跡を容易に把握して適切な教示を行うことができる7軸多関節ロボットの制御装置および教示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るロボット制御装置は、先端に設けられた手先と基台から当該手先に向かって順に設けられた7つの関節とを具備し、前記7つの関節が回転軸をそれぞれ有しかつそれぞれの回転軸周りに次の関節を回転させるように構成することで、前記基台から順に3軸の肩部、1軸の肘部および3軸の手首部を実現している7軸多関節ロボットの制御装置であって、前記7軸多関節ロボットの教示を行う教示モードにおいて、所定の平面を設定する設定器と、前記肘部の動作軌跡が前記設定器により設定された前記平面内に制限されるように前記7軸多関節ロボットを動作制御する制御器と、前記手先の位置が教示された場合に、前記肘部の動作の制限を拘束条件として、前記手先の位置変化に基づく各回転軸の回転角度を演算する逆変換演算を行う演算器とを備えている。
【0008】
上記構成によれば、手先の位置を教示する際に、手先に次いでロボット全体の動作に影響が大きい肘部の移動を所定の平面内に制限させることができる。これにより、教示作業時において肘部の動作軌跡がイメージし易くなることにより、ロボット全体の動作軌跡を容易に把握して適切な教示を行うことができる。
【0009】
前記肘部の動作が制限される平面は、前記7軸多関節ロボットの基台を基準に設定されるベース座標系の座標軸のうちのいずれか1軸の座標を所定値に固定した平面、または、前記7軸多関節ロボットの手先を基準に設定されるツール座標系の座標軸のうちのいずれか1軸の座標を所定値に固定した平面であってもよい。
【0010】
さらに、前記肘部の動作が制限される平面は、前記ベース座標系の座標軸のうちの高さ方向軸の座標を所定値に固定した平面であり、前記演算器は、前記肩部の回転軸のうち前記基台の平面に平行な回転軸の回転角度が一定であることを前記拘束条件として前記逆変換演算を行ってもよい。
【0011】
前記設定器は、前記7軸多関節ロボットの教示を行うための入力装置に設けられた所定の設定ボタンが、前記肘部が所定の位置に位置した状態で操作入力されることにより前記所定の平面の設定を行い、前記所定の位置を含む前記平面内に前記肘部の移動が制限されてもよい。これにより、肘部の移動を制限する平面を実際の障害物を考慮しながら容易かつ適切に設定することができる。
【0012】
また、本発明に係る7軸多関節ロボットの教示方法は、先端に設けられた手先と基台から当該手先に向かって順に設けられた7つの関節とを具備し、前記7つの関節が回転軸をそれぞれ有しかつそれぞれの回転軸周りに次の関節を回転させるように構成することで、前記基台から順に3軸の肩部、1軸の肘部および3軸の手首部を実現している7軸多関節ロボットの教示方法であって、所定の平面を設定する設定手順と、前記7軸多関節ロボットを前記肘部の動作軌跡が前記平面内に制限されるように移動制御する制御手順と、前記手先の位置が教示された場合に、前記肘部の動作の制限を拘束条件として、前記手先の位置変化に基づく各回転軸の回転角度を演算する逆変換演算を行う演算手順とを含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は以上に説明したように構成され、教示作業時においてロボット全体の動作軌跡を容易に把握して適切な教示を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る7軸多関節ロボットとロボット制御装置とを有するロボットシステムの構成を示したブロック図である。
【図2】図2は図1に示すロボットシステムにおける7軸多関節ロボットの動作軌跡を示す概念図である。
【図3】図3は図1に示すロボットシステムにおける入力装置の概略構成を示す平面図である。
【図4】図4は図1に示すロボット制御装置における教示モードの流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は図1に示すロボットシステムにおける7軸多関節ロボットの肘部の位置を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る7軸多関節ロボットとロボット制御装置とを有するロボットシステムの構成を示したブロック図である。図1に示すように、本実施形態のロボット制御装置2は、7つの回転軸(動作軸)を有する7軸多関節ロボット1の動作制御に適用される。7軸多関節ロボット1は、先端に設けられた手先11と基台12から当該手先11に向かって順に設けられた7つの関節JT1,JT2,JT7,JT3,JT4,JT5,JT6とを具備している。7つの関節JT1〜JT7は、それぞれ回転軸A1〜A7をそれぞれ有している。そして、7軸多関節ロボット1は、それぞれの回転軸A1〜A7周りに次の関節を回転させるように構成する(すなわち、隣り合う関節の回転軸が実質的に互いに垂直となるように構成する)ことで、基台12から順に3軸の肩部S、1軸の肘部Eおよび3軸の手首部Wを実現している。なお、本実施形態においては、7軸多関節ロボット1は、基台12が作業スペース下側の床面に設置されるいわゆる床置き型の垂直多関節ロボットとして構成されている。7軸多関節ロボット1は、基台12上に設けられ、第1関節JT1として構成される旋回台13と、各関節間に設けられるアーム部材(リンク部材)14〜19とを有している。
【0017】
言い換えると、7軸多関節ロボット1は、基台12から手先11に向って順に設けられた6つの関節JT1〜JT6を具備し、6つの関節JT1〜JT6が第1乃至第6回転軸A1〜A6をそれぞれ有し、かつそれぞれの回転軸周りに次の関節を回転させるように構成された6軸多関節ロボットにおいて、第2関節JT2(第2回転軸A2)と第3関節JT3(第3回転軸A3)との間に冗長軸として第7関節JT7の第7回転軸A7が設けられたものであり、第7関節JT7の第7回転軸A7が第2回転軸A2および第3回転軸A3に対して垂直となるように配設されている。
【0018】
第6回転軸A6には、例えばアタッチメント、ハンド、ツール、エンドエフェクタ等の様々なツール部材が取り付けられて手先11が形成されている。
【0019】
本実施形態の7軸多関節ロボット1は、手首部Wを構成する回転軸A4〜A6の3軸が1点で交わるように構成される一方、肩部Sを構成する回転軸A1,A2,A7は1点で交わらず、第1回転軸A1に対して第2回転軸A2および第7回転軸A7がオフセットされた構成を有している。
【0020】
また、本実施形態のロボットシステムは、7軸多関節ロボット1の動作を制御する制御装置2を備えている。具体的には、制御装置2は、7軸多関節ロボット1の第1乃至第7関節JT1〜JT7が具備するサーボモータをサーボ制御することにより、手先11を任意の位置および姿勢に任意の経路に沿って移動させる。本実施形態の制御装置2においては、7軸多関節ロボット1の各関節(各回転軸)の位置を基台12を原点とした直交座標系であるベース座標系および手先11を原点とした直交座標系であるツール座標系で把握することができるように設定されている。
【0021】
また、7軸多関節ロボット1の第1乃至第7関節JT1〜JT7には、それぞれサーボモータおよび位置検出器(ともに図示せず)が設けられている。位置検出器は、例えば、ロータリエンコーダで構成されている。制御装置2の制御指令に基づいて各サーボモータを駆動することにより、第1乃至第7関節JT1〜JT7において第1乃至第7回転軸A1〜A7周りの回転動作が行われる。なお、各サーボモータは互いに独立して駆動することが可能である。また、各サーボモータが駆動されると、対応する位置検出器によって各サーボモータの各回転軸A1〜A7周りの回転角度(回転位置)の検出が行われる。
【0022】
さらに、本実施形態のロボットシステムは、7軸多関節ロボット1の動作を教示するための入力装置3を備えている。入力装置3は、例えばティーチペンダントにより構成される(詳しくは後述する)。制御装置2は、入力装置3によって入力された教示操作に基づいて、教示モードを実行し、7軸多関節ロボット1の各回転軸A1〜A7の回転角度(回転位置)を演算する。
【0023】
制御装置2は、7軸多関節ロボット1の教示を行う教示モードにおいて、所定の平面Pz(後述)を設定する設定器21と、肘部Eの動作軌跡が設定器21により設定された平面Pz内に制限されるように7軸多関節ロボット1を動作制御する制御器23と、手先11の位置および姿勢が教示された場合に、肘部Eの動作の制限を拘束条件として、手先11の位置変化に基づく各回転軸A1〜A7の回転角度を演算する逆変換演算を行う演算器22とを備えている。制御装置2は、例えば、マイクロコントローラを備えており、このマイクロコントローラのCPUが設定器21、演算器22、制御器23として機能し、このマイクロコントローラの内部メモリが下記各演算処理を行うプログラムおよび各種データを記憶する記憶部として機能してもよい。
【0024】
オペレータが入力装置3を操作することにより、制御装置2に、オペレータの操作に応じた7軸多関節ロボット1の教示操作(動作指令)が入力されると、演算器22は、入力された教示操作に基づいて、手先11が位置すべき目標位置を算出する。この目標位置は、操作時間と手先11の移動速度の設定値等から求められる移動距離とに基づいて算出される。さらに、演算器22は、目標位置に基づく各回転軸A1〜A7の回転角度を演算する逆変換演算を行う。そして、制御器23は、演算された各回転軸A1〜A7の回転角度と各回転軸A1〜A7の移動前の回転位置との偏差に基づき、第1乃至第7関節JT1〜JT7に設けられたサーボモータの動作量の指令値を演算し、各サーボモータに出力する。これにより、手先11が目標位置に移動する。
【0025】
制御装置2は、本実施形態のロボットシステムにおいて7軸多関節ロボット1に対する教示操作を行うための教示モードを有している。制御装置2は、教示モードにおいて、入力装置3を用いて7軸多関節ロボット1の手先11の位置を順に教示することにより、各回転軸A1〜A7の回転角度をその都度演算する。
【0026】
図2は図1に示すロボットシステムにおける7軸多関節ロボットの動作軌跡を示す概念図である。図2においては破線で示す各関節の位置(変更後の位置と異なる関節および手先をJT2’〜JT7’および11’で示す)から実線で示す各関節の位置へ移動した場合の状態を示す。この移動は、手先11を破線で示す手先11’の位置αからy軸方向へ所定距離移動させて位置βに位置させるものである。本実施形態の制御装置2は、7軸多関節ロボット1の教示モードにおいて、入力装置3からの操作入力に応じて肘部Eの動作軌跡が所定の平面Pz内に制限されるように制御する。例えば、図2に示すように、制御装置2は、肘部Eの動作軌跡がベース座標系におけるz軸(高さ方向軸)の座標を所定値に固定した平面(ベース座標系のX軸およびY軸を含むXY平面に平行な平面)Pz内に制限されるように制御する。すなわち、制御装置2は、手先11を位置αから位置βへ移動させた際、肘部Eを構成する第3関節JT3が平面Pz内を移動するように制御する。
【0027】
図3は図1に示すロボットシステムにおける入力装置の概略構成を示す平面図である。図3に示すように、本実施形態における入力装置3は、各種操作入力を行うことができる入力ボタン群31と、入力結果や基本設定等の各種情報を表示するとともに、各種設定入力も行うことができるタッチパネル32とを有しており、これらを用いて7軸多関節ロボット1の教示入力を行うことができるように構成されている。入力ボタン群31には、タッチパネル32に表示されるカーソルの操作等を行うための入力ボタン311および正値入力(+)と負値入力(−)とが一対となった複数対のボタン列312が含まれる。複数対のボタン列312は、例えばベース座標系の並進座標軸および各軸周りの回転方向ごとに+または−を入力操作することにより手先11を所定の方向へ移動させたり、関節JT1〜JT7ごとに+または−を入力することにより対応する関節JT1〜JT7を移動させたりすることが可能である。複数対のボタン列312の機能の切り替えはタッチパネル32や入力ボタン群31の他のボタンを操作入力することにより実行される。
【0028】
タッチパネル32は、教示モードにおいて、肘部Eの動作を制限する平面の固定方向(座標を固定する軸方向)を指定する肘部固定方向選択タッチ入力部321と、肘部Eの動作を制限する制御(移動制限制御)を行うか否かを決定する移動制限制御オンオフ切替タッチ入力部322とを表示しかつ当該表示された部分をタッチすることにより操作入力可能に構成されている。肘部固定方向選択タッチ入力部321に表示されたベース座標系の座標軸のいずれかを選択する(図3においてはz軸が選択されている)ことにより、固定方向が指定される。
【0029】
さらに、入力装置3を操作して肘部Eが所望の位置に位置させた状態で移動制限制御オンオフ切替タッチ入力部322をオンに操作することにより、当該肘部Eの位置座標のうち肘部固定方向選択タッチ入力部321で選択された座標軸の座標が固定される。すなわち、移動制限制御オンオフ切替タッチ入力部322をオン操作したときの肘部Eの位置を含む平面が肘部Eの移動を制限する平面(肘部移動制限平面)として設定され当該平面(肘部固定方向選択タッチ入力部321で設定した平面)内に肘部Eの移動が制限される。これにより、肘部Eの移動を制限する平面を実際の障害物を考慮しながら容易かつ適切に設定することができる。
【0030】
以下、教示モードにおける処理について順に説明する。図4は図1に示すロボット制御装置における教示モードの流れを示すフローチャートである。まず、制御装置2は、入力装置3の肘部固定方向選択タッチ入力部321により固定方向が選択されているか否かを判定する(ステップS1)。固定方向が選択されていない場合には(ステップS1でNo)、後述するステップS5に進む。入力装置3により固定方向が選択されている場合には(ステップS1でYes)、固定方向を設定する(ステップS2)。図2および図3の例においてはz軸が固定方向として設定されている。また、制御装置2は、入力装置3の肘部移動制限制御オンオフ切替タッチ入力部322により肘部移動制限制御がオン入力されて(ステップS3)、肘部移動制限平面(Pz)を設定する(ステップS4)。オフ設定の場合には後述するステップS5に進む。
【0031】
また、制御装置2は、入力装置3の複数対のボタン列312が操作入力されることにより教示操作が入力されるか否かを判定する(ステップS5)。教示操作が入力されていない場合(ステップS5でNo)には、ステップS1に戻る。教示操作が入力された場合(ステップS5でYes)、制御装置2は、肘部Eの移動を制限する肘部移動制限平面(Pz)が設定されているか否かを判定する(ステップS6)。移動制限平面が設定されていない場合(ステップS1またはS3でNoによりステップS6でNo)、制御装置2は、演算器22として機能し、肘部Eの移動を制限するような拘束条件を設定することなく、通常の逆変換演算処理を行い、手先11の位置から各回転軸A1〜A7の回転角度を演算する(ステップS8)。
【0032】
一方、肘部移動制限平面(Pz)が設定されている場合(ステップS6でYes)、制御装置2は、設定された肘部移動制限平面(Pz)に応じた拘束条件を設定する(ステップS7)。そして、制御装置2は、演算器22として機能し、肘部Eの移動の制限を拘束条件として逆変換演算を行い、手先11の位置変化に基づく各回転軸A1〜A7の回転角度を演算する(ステップS8)。逆変換演算においては拘束条件に応じて解析解を得るための演算式を使い分けたり、収束演算における収束条件を変更するなどの処理が行われる。
【0033】
例えば、図2および図3に例示するように、肘部Eの移動を制限する肘部移動制限平面をz軸の座標を固定した平面Pzとする場合には、演算器22として機能する制御装置2は、肩部Sの回転軸A1,A2,A7のうち基台12の平面(ベース座標系のXY平面)に平行な回転軸A2の回転角度が一定であることを拘束条件として逆変換演算を行う。すなわち、肘部Eのz軸座標は、第2関節JT2の回転軸A2の回転角度のみで決定されるため、回転軸A2を所定値に固定する拘束条件を適用することにより、肘部Eの動作軌跡を肘部移動制限平面Pz内に制限することができる。
【0034】
なお、肘部Eの移動を制限する肘部移動制限平面をx軸の座標を固定した平面Pxとする場合またはy軸の座標を固定した平面Pyとする場合には、第1関節JT1の回転軸A1および第2関節JT2の回転軸A2に拘束条件を適用することにより、同様に、肘部Eの動作軌跡をそれぞれ各平面内に制限することができる。
【0035】
より具体的に説明する。図5は図1に示すロボットシステムにおける7軸多関節ロボットの肘部の位置を説明するための概念図である。図5(a)は斜視図を示し、図5(b)は図5(a)における平面図を示す。なお、図5(b)においては肘部Eより手先11側は図示を省略している。図5に示すように、第1関節JT1の回転軸A1と第2関節JT2の回転軸A2との鉛直距離(高さ)をL1vとし、水平距離をL1hとし、第2関節JT2の回転軸A2と第3関節JT3の回転軸A3との距離をL2とし、第1関節JT1と第2関節JT2との間のアーム部材14のX軸に対する角度をθ1とし、第2関節JT2と第3関節JT3との間のアーム部材15,16の水平面に対する角度をθ2とする。このとき、第2関節JT2と第3関節JT3との間の鉛直距離(高さ)L2vは、L2v=L2sinθ2で表わされる。また、第2関節JT2と第3関節JT3との間の水平距離L2hは、L2h=L2cosθ2で表わされる。従って、肘部E(第3関節JT3)のz軸座標Zeは、Ze=L1v+L2sinθ2で表わされ、肘部E(第3関節JT3)のx軸座標Xeは、Xe=(L2h+L1h)cosθ1=(L2cosθ2+L1h)cosθ1で表わされ、肘部E(第3関節JT3)のy軸座標Yeは、Ye=(L2h+L1h)sinθ1=(L2cosθ2+L1h)sinθ1で表わされる。このように、固定方向に対応する座標表現を拘束条件とすることにより、肘部Eの動作軌跡を対応する肘部移動制限平面内に制限することができる。
【0036】
上記のような逆変換演算処理の結果、制御装置2は、制御器23として機能し、演算された各回転軸A1〜A7の回転角度に応じて各回転軸A1〜A7(各関節JT1〜JT7)の動作を制御する(ステップS9)。
【0037】
上記構成によれば、手先11の位置を教示する際に、手先11に次いでロボット全体の動作に影響が大きい肘部Eの移動を所定の平面(Pz)内に制限させることができる。これにより、教示作業時において肘部Eの動作軌跡が3次元(空間)から2次元(平面)に落とし込まれるため、肘部Eの動作軌跡がイメージし易くなる。従って、ロボット全体の動作軌跡を容易に把握して適切な教示を行うことができる。これにより、作業工数を削減したり、ライン立ち上げ時間を短縮することができる。
【0038】
例えば、作業対象であるワークの下回りで作業を行う場合、7軸多関節ロボット1全体がワークが存在する高さより低い状態で作業する必要がある。このような場合に、肘部Eのz軸座標を固定して肘部Eの移動を所定の平面Pz内に制限することにより、7軸多関節ロボット1が不用意にワークに接触することを防止しつつ、7軸多関節ロボット1を適切かつ迅速に教示することができる(教示の際に手先11の位置のみに注視することができる)。同様に、ワークの形状や隣接するロボットなどの障害物の位置に応じて肘部の移動を制限する平面を適宜設定することにより、7軸多関節ロボット1が不用意にワークや障害部に接触することを防止しつつ、7軸多関節ロボット1を適切かつ迅速に教示することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0040】
例えば、本実施形態において、肘部Eの動作が制限される平面は、ベース座標系に基づいて設定されているが、本発明はこれに限られず、例えばツール座標系の座標軸のうちのいずれか1軸の座標を所定値に固定した平面として設定されてもよいし、他の座標系に基づいて設定されてもよい。また、各座標系の座標軸に垂直な平面だけでなく座標軸に対して斜めの平面を設定することも可能である。
【0041】
また、本実施形態においては、平面の指定手段として、肘部Eの位置が所望の位置に位置している状態で入力装置3の移動制限制御オンオフ切替タッチ入力部322を操作する態様を説明したが、本発明は所定の平面が適切に設定される限りこれに限られない。例えば、予め制御装置2に入力装置3や別の入力手段を用いて所定の平面の式や固定する座標およびその座標位置を入力することにより予め所定の平面を設定することとしてもよいし、入力装置3を用いて7軸多関節ロボット1を教示操作して、手先11における所望の3点を入力し、当該3点を含む平面を所定の平面として設定することとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の7軸多関節ロボットの制御装置および教示方法は、教示作業時においてロボット全体の動作軌跡を容易に把握して適切な教示を行うために有用である。
【符号の説明】
【0043】
1 7軸多関節ロボット
2 制御装置
3 入力装置
11 手先
12 基台
13 旋回台
14〜19 アーム部材
21 設定器
22 演算器
23 制御器
31 入力ボタン群
32 タッチパネル
311 入力ボタン
312 複数対のボタン列
321 肘部固定方向選択タッチ入力部
322 肘部移動制限制御オンオフタッチ入力部
A1〜A7 回転軸
E 肘部
JT1〜JT7 関節
S 肩部
W 手首部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に設けられた手先と基台から当該手先に向かって順に設けられた7つの関節とを具備し、前記7つの関節が回転軸をそれぞれ有しかつそれぞれの回転軸周りに次の関節を回転させるように構成することで、前記基台から順に3軸の肩部、1軸の肘部および3軸の手首部を実現している7軸多関節ロボットの制御装置であって、
前記7軸多関節ロボットの教示を行う教示モードにおいて、所定の平面を設定する設定器と、
前記肘部の動作軌跡が前記設定器により設定された前記平面内に制限されるように前記7軸多関節ロボットを動作制御する制御器と、
前記手先の位置が教示された場合に、前記肘部の動作の制限を拘束条件として、前記手先の位置変化に基づく各回転軸の回転角度を演算する逆変換演算を行う演算器とを備えた、7軸多関節ロボットの制御装置。
【請求項2】
前記肘部の動作が制限される平面は、前記7軸多関節ロボットの基台を基準に設定されるベース座標系の座標軸のうちのいずれか1軸の座標を所定値に固定した平面、または、前記7軸多関節ロボットの手先を基準に設定されるツール座標系の座標軸のうちのいずれか1軸の座標を所定値に固定した平面である、請求項1に記載の7軸多関節ロボットの制御装置。
【請求項3】
前記肘部の動作が制限される平面は、前記ベース座標系の座標軸のうちの高さ方向軸の座標を所定値に固定した平面であり、
前記演算器は、前記肩部の回転軸のうち前記基台の平面に平行な回転軸の回転角度が一定であることを前記拘束条件として前記逆変換演算を行う、請求項2に記載の7軸多関節ロボットの制御装置。
【請求項4】
前記設定器は、前記7軸多関節ロボットの教示を行うための入力装置に設けられた所定の設定ボタンが、前記肘部が所定の位置に位置した状態で操作入力されることにより前記所定の平面の設定を行い、前記所定の位置を含む前記平面内に前記肘部の移動が制限される、請求項1〜3に記載の7軸多関節ロボットの制御装置。
【請求項5】
先端に設けられた手先と基台から当該手先に向かって順に設けられた7つの関節とを具備し、前記7つの関節が回転軸をそれぞれ有しかつそれぞれの回転軸周りに次の関節を回転させるように構成することで、前記基台から順に3軸の肩部、1軸の肘部および3軸の手首部を実現している7軸多関節ロボットの教示方法であって、
所定の平面を設定する設定手順と、
前記肘部の動作軌跡が前記平面内に制限されるように前記7軸多関節ロボットを移動制御する制御手順と、
前記手先の位置が教示された場合に、前記肘部の動作の制限を拘束条件として、前記手先の位置変化に基づく各回転軸の回転角度を演算する逆変換演算を行う演算手順とを含む、7軸多関節ロボットの教示方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−139754(P2012−139754A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292743(P2010−292743)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】