説明

A型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防用のPAR−1アンタゴニスト

本発明は、A型ウイルス・インフルエンザ感染症、特にH1N1感染症の治療または予防のための方法及びPAR1アンタゴニストからなる(医薬組成物のような)組成物を提供するものである。PAR1アンタゴニストは、PAR2アゴニストと併用してよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防のための方法及び組成物(医薬組成物など)を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
流行性ウイルス感染症は、ありふれた風邪から命に関わるインフルエンザ感染症、西ナイル熱感染症、HIV感染症に至るヒトの疾患を通じて、甚大な地球規模の生命の損失及び金銭的被害をもたらすものである。流行性、汎発性、および動物間流行性の状況では、適時に発見し、診断し、治療することが、病気の蔓延に歯止めをかける上で肝要である。特に、ウイルスの構築と増殖を速やかに阻害する予防薬や治療薬が、治療のための投薬計画において極めて有益である。
【0003】
A型インフルエンザウイルス(IAV)が引き起こす急性呼吸器系感染症は、伝染性が強く、人畜の罹病率及び死亡率も著しい。そういうわけで、新規で改良された抗ウイルス薬が臨床分野において求められている。本発明は、そのような求めに合致するものである。
【0004】
宿主に本来備わっている免疫システムの活性化は、IAV感染症の蔓延および悪影響を制御することを目的としている。しかしながら、サイトカイン放出の調節が不全で感染症の部位での好中球の動因が強化されることから炎症反応が過剰となると、それもまた、重篤な肺炎を引き起し、IAVの発病率を上げることになることがある。そういうわけで、IAV感染症に際して、サイトカイン調節不全がIAVの致命的結末につながることがよくある。
【0005】
呼吸器内のウイルス複製部位は、複雑な微環境の典型であり、そこに細胞外プロテアーゼが大量に存在している。このようなプロテアーゼの幾つか(トリプシン、トリプターゼ)は、ウイルス複製(Riteau B.et al.2006;LeBouder F.et al.2008)および自然免疫反応において、ある役割を有し得、それは、それらが、プロテアーゼ活性化受容体群(PAR)と呼ばれる受容体ファミリーの活性化を介する炎症プロセスの重要なメディエーターであるためである(Steinhoff M.et al.2005;Vergnolle N.et al.2008)。
【0006】
これまでに、異なるプロテアーゼにより活性化される4つのPARがクローニングされている(PAR1〜4)。受容体が複数のプロテアーゼにより切断された後、その受容体は、新たに放出されたアミノ末端配列により結合され、内部で活性化される。
【0007】
肺のIAV感染症においてPAR1が有する役割は、これまで記載されていない。しかしながら、IAVに感染したマウスの気道内でpAR1のPARレベルが上がることは観察されてきており(Lan RS.et al.2004)、ウイルス性疾患の発病における、この受容体の役割が示唆されている。インビボまたはインビトロでのPAR1活性化/不活性化についての特定の役割については、これまで検討されたことがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防用のPAR1アンタゴニストに関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】PAR1アゴニストにより上皮細胞中のウイルス複製が増大することを示す図である。A549をIAV A/PR/8/34に感染させ、PAR1アゴニストペプチドで治療し、または治療しなかった。感染後の、指定された時間の後に、培養上清中の感染性ウイルス力価を、プラークアッセイにより測定した。
【図1B】PAR1アゴニストにより上皮細胞中へのサイトカイン放出が調節されることを示す図である。A549をIAV A/PR/8/34に感染させ、PAR1アゴニストペプチドで治療し、または治療しなかった。感染後の、指定された時間の後に、指定されたサイトカインの放出を従来のELISAで測定した。
【図1C】PAR1アゴニストにより上皮細胞中へのサイトカイン放出が調節されることを示す図である。A549をIAV A/PR/8/34に感染させ、PAR1アゴニストペプチドで治療し、または治療しなかった。感染後の、指定された時間の後に、指定されたサイトカインの放出を従来のELISAで測定した。
【図1D】PAR1アゴニストにより上皮細胞中へのサイトカイン放出が調節されることを示す図である。A549をIAV A/PR/8/34に感染させ、PAR1アゴニストペプチドで治療し、または治療しなかった。感染後の、指定された時間の後に、指定されたサイトカインの放出を従来のELISAで測定した。
【図2A】PAR1アゴニストペプチドにより、特定の依存的な様式で、マウスにおけるIAV誘発性の死亡が増大することを示す図である。A− PAR1アゴニストTFLLR−NH2による治療を受けた、または治療を受けなかった、感染マウスの生存率。
【図2B】PAR1アゴニストペプチドにより、特定の依存的な様式で、マウスにおけるIAV誘発性の死亡が増大することを示す図である。B−感染しなかった複数のマウスのうち、PAR1アゴニストTFLLR−NH2による治療を受けた、または治療を受けなかった、非感染マウスの生存率及び体重(最初の体重の%で示す):非感染マウスにおいてPAR1アゴニストペプチドの副作用はない。
【図2C】PAR1アゴニストによりインビボでのウイルス複製が増大することを示す図である。マウスをIAV A/PR/8/34(マウス一匹当たり50pfuまたは500pfu)に感染させ、PAR1アゴニストペプチドで治療し、または治療しなかった。感染後の指定の時点で肺におけるIAVウイルス力価を従来のプラークアッセイで分析した。
【図3A】PAR1アンタゴニストSCH79797により、用量−反応依存性の様式(A)で、IAV誘発性の死亡からマウスが防御されることを示す図である。
【図3B】PAR1アンタゴニストSCH79797により、マウス一匹当たりのpfuを変えて感染させた後(B)で、IAV誘発性の死亡からマウスが防御されることを示す図である。
【図3C】PAR1アンタゴニストSCH79797によりインビボでのウイルス複製が阻害されることを示す図である。マウスをIAV A/PR/8/34(マウス当たり50pfuまたは500pfuで)に感染させ、PAR1アンタゴニストSCH79797で治療し、または治療しなかった。次に、感染後の指定の時点で肺におけるIAVウイルス力価を従来のプラークアッセイで分析した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、A型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防のための方法および組成物(医薬組成物など)を提供するものである。
【0011】
本発明者等は、実際に、インフルエンザ発病におけるPAR1の役割を、インビトロおよびインビボにおいて調べた。インビボで、上皮細胞上のPAR1を刺激するとA型インフルエンザウイルス(IAV)の複製が増大した。インビボで、特異的アゴニストを用いてPAR1を刺激すると、IAV誘発性の急性の肺の損傷および死に関して害を及ぼした。この効果は、サイトカイン放出の修飾と相関関係を有するものであった。更に重要なことは、PAR1のアンタゴニストを用いてPAR1をブロックすると、IAV誘発性の死からマウスが防御されたことである。このような結果は意義があるものと認められた。
【0012】
したがって、本発明の第一の態様は、A型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防用のPAR1アンタゴニストに関するものである。
【0013】
本文中で用いる場合、「A型インフルエンザウイルス感染症」という語は、A型インフルエンザウイルスによって引き起こされる感染症の一切を指すものとし、その際ヘマグルチニン(H1からH15)およびノイラミニダーゼ(N1からN9)の発現に基づく血清型は考慮しないこととする。本発明で検討される典型的なA型インフルエンザウイルスとしては、H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3及びH10N7が挙げられるが、それらに限られるというわけではない。好ましい実施態様において、本発明に従ったインフルエンザウイルスのタイプは、H1N1である。
【0014】
最大限に広く解釈した意味では、「治療」という語はA型インフルエンザウイルス感染症の進行を逆転させ、緩和し、阻害することを意味し、好ましくはA型インフルエンザウイルスの増殖を阻害することを意味する。特に、A型インフルエンザウイルス感染症の「予防」または「予防処置」という時には、A型インフルエンザウイルス感染症の症状を予防する本発明の化合物を投与することを指すことがある。
【0015】
投与の量および頻度は、その処置が治療なのか予防なのかによって変化し得る。予防の用途で行なう場合には、比較的低い頻度の間隔で長期間にわたって、比較的少ない量を投与する。中には生涯にわたり処置を継続して受ける患者もいる。治療の用途で行なう場合には、病気の進行が緩和されるか、または終了するまで、好ましくは患者に病状の部分的もしくは完全な改善が見られるまで、比較的高い投与量を比較的短い間隔で投与することが必要となることもある。その後は、予防のための投薬計画で患者に投与を行なってよい。
【0016】
予防の用途で行なう場合には、PAR1のアンタゴニストを含有する組成物を、まだA型インフルエンザウイルス感染症にかかっていない患者に投与する。むしろ、このような組成物は、そのような疾患を発症する恐れがある、またはこのような疾患を発症する傾向がある患者に対するものである。このような適用により、患者の抵抗力を強めたり、A型インフルエンザウイルス感染症の進行を遅らせたりすることができる。
【0017】
本文中で用いる場合、「プロテアーゼ活性化受容体−1」、「プロテイナーゼ活性化受容体−1」、または「PAR1」、もしくは「PAR−1」という語は、互いに入れ換え可能で、トロンビン切断によって活性化され、その結果、N末端で繋がれたリガンドを露出する、Gタンパク質結合受容体を指す。PAR1はまた、「トロンビン受容体」および「凝固因子II受容体前駆体」としても知られている。例えばVu,et al.,Cell(1991)64(6):1057−68;Coughlin,et al,J Clin Invest(1992)89(2):35I−55;そしてGenBank Accession number NM_001992参照。繋がれたリガンドがPAR1の細胞外ドメインに分子内結合すると、細胞内シグナル伝達とカルシウム流出が引き起こされる。例えばTraynelis and Trejo,Curr Opin Hematol(2007)14(3):230−5;そしてHollenberg,et al,Can J Physiol Pharmacol.(1997)75(7):832−41参照。
【0018】
この用語には、天然PAR1ならびにその変異体および修飾形態が含まれ得る。PAR1は何に由来するものでもよいが、典型的には哺乳動物(例えばヒトおよびヒト以外の霊長類)のPAR1であり、特にヒトPAR1である。
【0019】
PAR1のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は当技術分野で知られている。例えばVu,et al.,Cell(1991)64(6):1057−68;Coughlin,et al,J Clin Invest (1992)89(2):351−55;およびGenBank Accession number NM_001992参照。ヒトPAR1の核酸配列はGenBank accession number NM_001992として公表されている(合わせてM62424.1およびgi4503636も参照)。ヒトPAR1のアミノ酸配列はNP_001983とAAA36743として公表されている。
【0020】
「アンタゴニスト」という語は、本文中で用いる場合、受容体に特異的に結合して、その受容体を介するシグナル伝達を阻害する能力を有し、その受容体が媒介する反応を全面的に阻止するか、検出可能な程度に阻害する物質を言う。例えば、本文中で用いる場合、「PAR1アンタゴニスト」という語は、PAR1に全面的または部分的に結合してそれを不活性化することにより、経路のシグナル伝達と、それに続く生物学的プロセスを開始させる、天然または合成の化合物のことである。PAR−1アンタゴニストの活性は、既に知られている様々な方法を用いて評価され得る。場合によっては、PAR1アンタゴニストは、PAR1と結合してPAR1からの細胞内シグナル伝達に続くトロンビン誘発性のカルシウム流出またはトロンビン誘発性のIL−8産生を阻害する能力に基づいて(例えば、FlipRアッセイで、またはELISAにより測定される)同定され得る。さらなるアッセイは、Kawabata,et al.,J Pharmacol Exp Ther.(1999)288(1):358−70に記載されている。阻害が発生するのは、例えばカルシウム流出またはIL−8の産生により測定される、本発明のアンタゴニストに曝されたPAR1からのPAR1細胞内シグナル伝達が、アンタゴニストに曝されていない対照PAR1からの細胞内シグナル伝達と比較して、少なくとも約10%少ない、例えば少なくとも約25%、50%、75%少ない、または完全に阻害されている場合である。対照PAR1は、抗体もしくは抗原結合分子に曝されていないか、別の抗原と特異的に結合する抗体もしくは抗原結合分子に曝されているか、またはアンタゴニストとして機能しないことが知られている抗PAR1抗体または抗原結合分子に曝されていてよい。「抗体アンタゴニスト」というのは、アンタゴニストが阻害性の抗体である状況を指す。
【0021】
ある実施態様において、本発明のPAR1アンタゴニストは、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子有機化合物、アプタマー、ペプデュシン(pepducin)、ポリヌクレオチド、または抗体でありうる。
【0022】
本発明の一つの実施態様においては、PAR1アンタゴニストの投与により、PAR1シグナル伝達活性が阻害される。このような方法のうちの幾つかで用いられるPAR1アンタゴニストはペプチド模倣物であり、それは例えばRWJ−56110または([α]S)−W−[(lS)−3−アミノ−1−[[{フェニルメチル)アミノ]カルボニル]プロピル]−[α]−[[[[[1−(2,6−ジクロロフェニル)メチル]−3−(1−ピロリジニルメチル)−1H−インドール−6−イル]アミノ]カルボニル]アミノ]−3,4−ジフルオロベンゼンプロパンアミドである。
【0023】
本発明のもう一つ別の実施態様では、PAR1アンタゴニストは小分子有機化合物である。「有機小分子」という語は調合薬において一般的に用いられる有機分子に匹敵する大きさの分子を指す。この用語は、(例えばタンパク質、核酸等の)生物学的高分子には当てはまらない。有機小分子の大きさとして好ましい範囲は約5000Daまでであり、更に好ましいのは2000Daまで、そして最も好ましいのは約1000Daまでである。一つの好ましい実施態様において、PAR1アンタゴニストは有機小分子SCH−79797であり、これは(N3−シクロプロピル−7−{[4−(1−メチルエチル)フェニル]メチル}−7H−ピロロ[3,2−f]キナゾリン−1,3−ジアミン)である。
【0024】
本発明のもう一つ別の実施態様では、PAR1アンタゴニストはアンタゴニストPAR1抗体または抗原結合分子である。本文中で用いる場合、他に規定がなければ、「抗体」という語はポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の両方に加えて、そのような抗体の抗原への特異的な結合親和性を有する抗体断片も含み、そのような抗体断片にはFv断片、Fab断片、Fab’断片、F(ab)’2断片、および一本鎖(sFv)の人工的な抗体分子があるが、それらに限るものではない。その用語には更に、明確に除外されているのでなければ、キメラ抗体とヒト化抗体を含み、更に、ヒト抗体を産生可能な環境にあればヒト抗体も含む。
【0025】
このような抗PAR1物質は、例えばPAR1介在性のインターロイキン分泌のような、PAR1介在性のシグナル伝達活性に拮抗する能力を有するものである。モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を調製するための一般的な方法は、当技術分野において周知である。例えば、Harlow&Lane,Using Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1998;Kohler&Milstein,Nature 256:495−497(1975);Kozbor et al.,Immunology Today 4:72(1983);およびCole et al.,pp.77−96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,1985参照。
【0026】
更に、特異的PAR1アンタゴニスト抗体は、これまで既に当技術分野で開示されてきている。例えば、R.R.Vassallo,Jr.et al.“Structure−Function Relationships in the Activation of Platelet Thrombin Receptors by Receptor−Derived Peptides,”J.Biol.Chem.267:6081−6085(1992)(“Vassallo,Jr.et al.(1992”));L.F.Brass et al.,“Structure and Function of the Human Platelet Thrombin Receptor,”J.Biol.Chem.267:13795−13798(1992)(“Brass et al.(1992)”);そしてR.Kaufmann et al.,“Investigation of PAR−l−Type Thrombin Receptors in Rat Glioma C6 Cells with a Novel Monoclonal Anti−PAR−1 Antibody (Mab COR7−6H9),J.Neurocytol.27:661−666(1998)(“Kaufmann et al.(1998)”参照)。両文献とも、ここで参照されることにより、本文中に一体的に組み入れられている。
【0027】
Brass et al.(1992)において、モノクローナル抗体は、ヒトPAR1の残基42〜55に相当する免疫原SFLLRNPNDKYEPF(配列番号1)に対するものとして調製されたものである。このようなモノクローナル抗体は標準的な技術によって調製され、まず、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合した免疫原SFLLRNPNDKYEPF(配列番号1)を用いてマウスの免疫化を行なうというものである。このようなモノクローナル抗体としては、以下のようなものがある。
(1)その免疫原の第一断片、具体的にはSFLLRNPND(配列番号2)と結合する、Brass et al.(1992)においてATAP2と呼ばれるモノクローナル抗体、
(2)その免疫原の第二断片、具体的にはNPNDKYEPF(配列番号3)と結合する、Brass et al.(1992)においてATAP120と呼ばれるモノクローナル抗体、および同様にNPNDKYEPF(配列番号3)と結合する、Brass et al.においてATAP138と呼ばれるモノクローナル抗体。
【0028】
更に加えて、本発明の組成物や方法で使用可能なモノクローナル抗体には、SFLLRNPND(配列番号2)またはNPNDKYEPF(配列番号3)のいずれかまたは両方に特異的に結合し、その結果、SFLLRNPND(配列番号2)またはNPNDKYEPF(配列番号3)のいずれかまたは両方への親和性が、抗原−抗体複合体の解離定数の逆数によって測定すると、ATAP2、ATAP20、またはATAP138のいずれかと同様に少なくとも80%となる、モノクローナル抗体が含まれる。
【0029】
更に加えて、本発明の組成物や方法で使用可能なモノクローナル抗体には、ATAP2、ATAP20、またはATAP138の相補性決定領域と同一の相補性決定領域を有するモノクローナル抗体が含まれる。更に加えて、本発明の組成物や方法で使用可能なモノクローナル抗体には、SFLLRNPND(配列番号2)もしくは(NPNDKYEPF(配列番号3)のいずれかもしくは両方と特異的に結合する、上記のモノクローナル抗体と同一の相補性決定領域を有するモノクローナル抗体、または、上記のモノクローナル抗体と同一の相補性決定領域を有し、その結果、SFLLRNPND(配列番号2)もしくは(NPNDKYEPF(配列番号3)のいずれかもしくは両方への親和性が、ATAP2、ATAP20、もしくはATAP138のいずれかと同様に少なくとも80%となる、モノクローナル抗体が含まれる。
【0030】
Kaufmann et al.(1998)に記載されたラットPAR1受容体に対するモノクローナル抗体は、配列GRAVYLNKSRFPPMPPPPFISEDASG(配列番号4)を有するペプチドを用いて調製されたものである。この配列は、受容体のトロンビン切断部位の下にあるものとして記載されている。類似の抗体を、ヒトPAR1受容体の対応領域に対して調製することができる。全体として、本発明の抗体は、IgG、IgA、IgD1、IgE1、IgM1、またはIgY1など、どのようなクラスのものでもよいが、典型的に望ましいのはIgG抗体である。抗体は、ヒト、ネズミ科(マウスまたはラット)、ロバ、羊、山羊、ウサギ、ラクダ、馬、または鶏も含めた、どのような哺乳動物または鳥類のものでもよい。抗体を二重特異性のものにし得る場合もある。何らかのタイプの分子を抗体に共有結合的に付着させることによりその抗体を修飾することも可能である。限定する趣旨でなく例を挙げれば、抗体誘導体には、例えばグリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既に知られている保護基/ブロック基による誘導体化、タンパク分解性切断、細胞リガンドもしくはその他のタンパク質への連結、または当技術分野で知られたその他の修飾により修飾された抗体が含まれる。モノクローナル抗体の調製には、ハイブリドーマ、組換え体、およびファージディスプレイ技術、またはそれらの組合せを含む、当技術分野で知られた様々な技術を用いることが可能である。
【0031】
例えば、モノクローナル抗体は、当技術分野で知られており例えばHarlow et al.,“Antibodies:A Laboratory Manual”,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988);Hammerling,et al.,in:Monoclonal Antibodies and T−CeII Hybridomas 563−681(Elsevier,N.Y.,1981)で教示されているものを含むハイブリドーマ技術を用いて、または、当技術分野で知られた他の標準的な方法によって産生することができる。
【0032】
「モノクローナル抗体」という語は、本文中で用いる場合、ハイブリドーマ技術を通じて産生される抗体に限らない。「モノクローナル抗体」という語は、一切の真核細胞性クローン、原核細胞性クローン、またはファージクローンを含む、単一クローンから派生する抗体を指し、その産生に用いる方法を言うのではない。例えば、好適な抗体を、ファージディスプレイまたはその他の技術を用いて産生することが可能である。
【0033】
それに加えて、但し、限定する趣旨でなく、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列から誘導された抗体ライブラリーを用いるファージディスプレイ法を含む様々な技術によって、および機能的内因性免疫グロブリンを発現する能力はないがヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することはできるトランスジェニックマウスを用いることによって作製することができる。例えば、ヒト重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子複合体を無作為に、または相同組換えにより、マウスの胚性幹細胞に導入することができる。抗体は、このような抗体をコードするポリヌクレオチドの発現により産生することもできる。
【0034】
更に加えて、本発明の抗体を、例えば精製を促進するためのペプチドタグのようなマーカー配列に融合させることができる。適切なタグはヘキサヒスチジンタグである。抗体を、当技術分野で知られた方法により、診断薬や治療薬にコンジュゲートすることもできる。そのようなコンジュゲートを調製する技術は、当技術分野において周知である。
【0035】
このようなモノクローナル抗体、ならびにキメラ抗体、ヒト化抗体、および一本鎖抗体を調製する他の方法は、当技術分野で知られている。
【0036】
PAR1の生化学活性もしくはシグナル伝達活性を阻害また抑制する化合物だけではなく、PAR1発現を抑制し得る、またはPAR1細胞レベルの下方調節を行なうことのできる化合物も、本発明を実施する際に使用可能である。PAR1発現の抑制またはその細胞レベルの下方調節とは、対照細胞(PAR1アンタゴニスト化合物を用いた治療を受けなかった細胞)との比較で、検査対象となった細胞(PAR1アンタゴニスト化合物に接触させられた細胞)においてPAR1発現が減少するか、あるいはなくなることを言う。PAR1のレベルや発現は、対照細胞でのPAR1のレベルや発現に比べて、少なくとも約10%(例えば20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%)減少または低下させることが可能である。
【0037】
以上に示したように、発現の抑制またはPAR1細胞レベルの下方調節は、PAR1の遺伝子をmRNAに転写するレベル、またはPAR1のmRNAを対応するタンパク質に翻訳するレベルのいずれかで行なうことができる。
【0038】
実施態様によっては、阻害性のヌクレオチドを用いて、PAR1介在性の心臓リモデリングに対してまたはPAR1発現を抑制することによるPAR1のその他の効果に対して拮抗させることもある。これらの例として挙げられるのは、低分子干渉性RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、および合成ヘアピンRNA(shRNA)、アンチセンス核酸または相補DNA(cDNA)である。好ましい実施態様には、PAR1発現を標的化するsiRNAを用いるものもある。siRNAのような二本鎖RNAによる内因性遺伝子の機能および発現への干渉が、これまで様々な生物において示されている。例えば、A.Fire et al.,“Potent and Specific Genetic Interference by Double−Stranded RNA in Caenorhabditis elegans”Nature 391:806−811(1998);J.R.Kennerdell&R.W.Carthew,“Use of dsDNA−Mediated Genetic Interference to Demonstrate that frizzled and frizzled 2 Act in the Wingless Pathway,”CeJ 95:1017−1026(1998);F.Wianni&M.Zernicka−Goetz,“Specific Interference with Gene Function by Double−Stranded RNA in Early Mouse Development,”Nat.Cell Biol.2:70−75(2000)参照。siRNAには、自己相補配列または二本鎖配列を包含するヘアピンループが含まれる。siRNAは、塩基対が100対よりも少ないのが一般的で、例えば約30bp以下の長さしかないこともあり得、相補的DNA鎖の使用または合成アプローチを含む、当技術分野で知られたアプローチにより作製され得る。そのような二本鎖RNAの合成は、鋳型の両方向からの一本鎖RNA読み取りのインビトロでの転写と、センスおよびアンチセンスRNA鎖のインビトロでのアニーリングとにより可能である。PAR1を標的化する二本鎖RNAはまた、逆反復配列により分離された反対の向きでクローニングされているPAR1遺伝子(例えばヒトPAR1遺伝子)を有する、cDNAベクター構築物からも合成可能である。細胞のトランスフェクションに続き、RNAの転写が行なわれ、相補鎖が再アニーリングされる。PAR1遺伝子を標的化する二本鎖RNAは、適切な構築物のトランスフェクションにより、細胞(例えば腫瘍細胞)に導入可能である。
【0039】
一般的には、siRNA、miRNA、またはshRNAが媒介するRNA干渉は、翻訳のレベルで媒介されるのであって、言い換えれば、このような干渉RNA分子は、対応するmRNA分子の翻訳を妨げ、ひいては、その分解を導くものである。他の可能性として、RNA干渉が転写のレベルでも働いて、このような干渉RNA分子に対応するゲノムの領域の転写をブロックすることもあり得る。
【0040】
このような干渉RNA分子の構造及び機能は当技術分野において周知であり、例えば、引用することで本文中に一体化して組み込まれている、R.F.Gesteland et al.,eds,“The RNA World”(3rd ed,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,2006),pp.535−565に記載されている。[0110]このようなアプローチでは、ベクターの内部へのクローニングやトランスフェクション法もまた当技術分野において周知であり、例えば、引用することで本文中に一体化して組み込まれている、J.Sambrook&D.R.Russell,“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”(3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,2001)に記載されている。
【0041】
二本鎖RNAの他にも、例えばアンチセンス核酸のような、PAR1を標的化する他の核酸物質もまた、本発明の実施に際して使用可能である。アンチセンス核酸は、特異的な標的をもつmRNA分子の少なくとも一つの部分に相補的なDNAまたはRNA分子である。細胞内で、一本鎖アンチセンス分子がmRNAにハイブリダイズして、二本鎖分子を形成することになる。細胞は、mRNAをこのような二本鎖の形に翻訳しない。それゆえ、アンチセンス核酸は、mRNAをタンパク質に翻訳することに干渉し、また、そのことで、そのmRNAに転写された遺伝子の発現に干渉する。アンチセンス方法は、インビトロで多くの遺伝子の発現を阻害するために用いられてきている。例えば、CJ.Marcus−Sekura,“Techniques for Using Antisense Oligodeoxy ribonucleotides to Study Gene Expression,”Anal.Biochem.172:289−295(1988);J.E.Hambor et al.,“Use of an Epstein−Barr Virus Episomal Replicon for Anti−Sense RNA−Mediated Gene Inhibition in a Human Cytotoxic T−Cell Clone,”Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:4010−4014(1988);H Arima et al.,“Specific inhibition of lnterleukin−10 Production in Murine Macrophage−Like Cells by Phosphorothioate Antisense Oligonucleotides,”Antisense Nucl.Acid Drug Dev.8:319−327(1998);そしてW.−F.Hou et al.,“Effect of Antisense Oligodeoxynucleotides Directed to Individual Calmodulin Gene Transcripts on the Proliferation and Differentiation of PC12 Cells,”Antisense Nucl.Acid Drug Dev.8:295−308(1998)参照。これらの文献全てが、このように引用することで本文中に一体化して組み込まれている。アンチセンス技術はまた、引用することで本文中に一体化して組み込まれている、C.Lichtenstein&W.Nellen,eds.,“Antisense Technology:A Practical Approach”(IRL Press,Oxford,1997)にも記載されている。[0111]ヒトおよびその他多くの哺乳動物のPAR1ポリヌクレオチド配列は全て、当技術分野で記述されてきている。例えば、ヒトPAR1のcDNA配列(NM_001992)は、引用することで本文中に一体化して組み込まれている、T.−K.H.Vu et al.,“Molecular Cloning of a Functional Thrombin Receptor Reveals a Novel Proteolytic Mechanism of Receptor Activation,”CeJ 64:1057−1068(1991)において報告されている。既に知られている配列に基づき、PAR1を標的化する阻害性のヌクレオチド(例えばsiRNA、miRNA、またはshRNA)を、当技術分野において周知の方法を用いて容易に合成することができる。
【0042】
本発明の典型的なsiRNAは、最大29bp、25bp、22bp、21bp、20bp、15bp、10bp、5bp、またはこれらの数の間のあらゆる整数の塩基対を有し得る。最適な阻害性のsiRNAを設計するためのツールには、DNAengine Inc.(Seattle、WA)やAmbion,Inc.(Austin、TX)から購入可能なものが含まれる。特異的なPAR1阻害性ヌクレオチドや、PAR1発現の下方調節におけるそれらの使用も、当技術分野、例えばQ.Fang et al.,“Thrombin Induces Collagen Gel Contraction Partially Through PARI Activation and PKC−[epsilon],”Eur.Respir.J.24:918−924(2004);およびY.−J.Yin et al.,“Mammary Gland Tissue Targeted Overexpression of Human Protease−Activated Receptor 1 Reveals a Novel Link to[beta]−Catenin Stabilization,”Cancer Res.66:5224−5233(2006)で開示されてきており、両方とも、このように引用することで本文中に一体化して組み込まれている。
【0043】
本発明で検討の対象となるその他の典型的なPAR1アンタゴニストは、以下の文献に記載されているが、これに限定されるものではない。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば、第二欄、31行目から第三欄の終わりまでとExample1から10参照)、米国特許第6,017,890号明細書(Hoekstra et al.:“Azole Peptidomimetics as Thrombin Receptor Antagonists”)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば要約と特許請求の範囲参照)、米国特許第5,446,131号明細書(Maraganoreに付与されたもの:“Thrombin Receptor Antagonists”)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば要約、特許請求の範囲、およびExample1から16参照)、米国特許第5,866,681号明細書(Scarboroughに付与されたもの:“Thrombin Receptor Antagonists”)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばExample5及び6と特許請求の範囲参照)、米国特許第5,759,994号明細書(Coughlinに付与されたもの:“Recombinant Thrombin Receptor and Related Pharmaceuticals”)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばExample5及び6と特許請求の範囲参照)、米国特許第5,798,248号明細書(Coughlinに付与されたもの: “Recombinant Thrombin Receptor and Related Pharmaceuticals”)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable1から8参照)、Bernatowicz et al.(“Development of Potent Thrombin Receptor Antagonists.”J.Mecl.Chem.39:4879−4887,1996)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTableI参照)、Vassallo et al.(“Structure−Function Relationships in the Activation of Platelet Thrombin Receptors by Receptor−Derived Peptides.”J.Biol.Chem.267:6081−6085,1992)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばFig.1参照)、Andrade−Gordon et al.(“Design,Synthesis,and Biological Characterization of a Peptide−Mimetic Antagonist for a Tethered−Ligand Receptor.”Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:12257−12262,1999)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable1および2参照)、Hoekstra et al.(“Thrombin Receptor(PAR−1)Antagonists.Heterocycle−Based Peptidomimetics of the SFLLR Agonist Motif.”Bioorg.Med.Chem.Lett.8:1649−1654,1998)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばFig.1参照)、Kato et al.(“in vitro Antiplatelet Profile of FR171113,a Novel Non−Peptide Thrombin Receptor Antagonist.”Euro.J.Pharmacol.384:197−202,1999)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば要約およびFig.1参照)、Ruda et al.(“Identification of Small Peptide Analogues Having Agonist and Antagonist Activity at the Platelet Thrombin Receptor.”Biochem. Pharmacol.37:2417−2426,1988)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable2参照)、Ruda et al.(“Thrombin Receptor Antagonists:Structure−Activity Relationships for the Platelet Thrombin Receptor and Effects on Prostacyclin Synthesis by Human Umbilical Vein Endothelial Cells.”Biochem.Pharmacol.39:373−381,1990)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば15928ページ左欄の要約参照)、Harmon and Jamieson(“Activation of Platelets by Alpha−Thrombin is a Receptor−Mediated Event.”J.Biol.Chem.261:15928−15933,1986)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばFig.3参照)、Doorbar and Winter(“Isolation of a Peptide Antagonist to the Thrombin Receptor Using Phage Display.”J.Mol.Biol.244:361369,1994)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable1および2参照)、Ahn et al.(“Structure−Activity Relationships of Pyrroloquinazolines as Thrombin Receptor Antagonists.”Bioorg.Med. Chem.Lett.9:2073−2078,1999)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば要約参照)、Seiler et al.(“Inhibition of Thrombin and SFLLR−Peptide Stimulation of Platelet Aggregation,Phosphlipase A2 and Na+/H+ Exchange by a Thrombin Receptor Antagonist.”Biochem.Pharmacol.49:519−528,1995)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable1参照)、Elliot et al.(“Photoactivatable Peptides Based on BMS−197525:A Potent Antagonist of the Human Thrombin Receptor(PAR−1).”Bioorg.Med.Chem.Lett.9:279−284,1999)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば要約参照)、Fujita et al.(“A Novel Molecular Design of Thrombin Receptor Antagonists.”Bioorg.Med.Chem.Lett.9:1351−1356,1999)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えば要約参照)、Debeir et al.(“Pharmacological Characterization of Protease−Activated Receptor(PAR−1)in Rat Astrocytes.”Euro.J.Pharmacol.323:111−117,1997)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばFig.5およびTable1参照)、Ahn et al.(“Binding of a Thrombin Receptor Tethered Ligand Analogue to Human Platelet Thrombin Receptor.”Mol.Pharmacol.51:350356,1997)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable:Biological Deta参照)、McComsey et al.(“Heterocycle−peptide hybrid compounds.Aminotriazole−containing agonists of the thrombin receptor(PAR−1).”Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters 9:1423−1428,1999)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable1、Table2、Table3参照)、Nantermet et al.(“Discovery of a small molecule antagonist of the human platelet thrombin receptor(PAR−1).”Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters 12:319−323,2002)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばTable1から5参照)、Barrow et al.(“Discovery and initial structure−activity relationship of trisubstituted ureas as thrombin receptor(PAR−1)antagonists.”Bioorganic&Medicinal Chemistry Letters 11:2691−2696,2001)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばFig.1参照)、Ahn et al.(“Inhibition of cellular action of thrombin by N3−cyclopropyl−7[[4−(1−methylethyl)phenyl]methyl]−7H−pyrrole[3,2f]quinazolinel,3−diamine(SCH79797),a non−peptide thrombin receptor antagonist.”Biochemical Pharmacol 60:1425−1434,2000)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている、Chackalamannil(“Thrombin receptor antagonists as novel therapeutic targets.”Curr Opin Drug Discovery Development 4:417−427,2001)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばFig1参照)、Stead et al.(“Eryloside F,a novel penasterol disaccharide possessing potent thrombin receptor antagonist activity.”Bioorg.Mecl.Chem.Lett.10:661−664,2000)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている(例えばFig.1および2参照)、Pakala et al.(“A peptide analogue of thrombin receptor−activating peptide inhibits thrombin and thrombin−receptor−activating peptide induced vascular smooth muscle cell proliferation.”J.Cardiovasc.Pharmacol.37:619−629,2001)。
−文献全体が、引用により、本文中に一体化して組み込まれており、具体的には、トロンビン受容体アンタゴニストとして機能する化合物の教示が、引用することで、本文中に一体化して組み込まれている、Zhang et al.(“Discovery and optimization of a novel series of thrombin receptor(PAR−1)antagonists:potent,selective peptide mimetics based on indole and indazole templates.”J.Med.Chem.44:1021−1024,2001)。
【0044】
本発明の更にもう一つの目的は、A型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防用のPAR1アンタゴニストをスクリーニングするための方法に関するものである。例えば、スクリーニング法は、ある候補化合物のPAR1への結合、またはPAR1を有する細胞もしくは膜への結合、あるいはその融合タンパク質を、その候補化合物と直接または間接的に関連づけられた標識を用いて測定することができる。更に、スクリーニング法は、前記候補化合物のPAR1を不活性化する能力を測定すること、または質的もしくは量的に検出することを伴い得る。
【0045】
一つの特定の実施態様において、本発明のスクリーニング法は、
a)表面にPAR1を発現する複数の細胞を用意すること、
b)前記細胞を候補化合物とともにインキュベートすること、
c)前記候補化合物がPAR1と結合しそれを不活性化するかどうかを決定すること、および
d)PAR1と結合しそれを不活性化する候補化合物を選択すること
からなるステップを包含する。
【0046】
一つの特定の実施態様においては、本発明のスクリーニング法は、ステップd)で選択された候補化合物を、A型インフルエンザウイルス感染症のモデル動物に投与して、前記候補化合物の防御効果を実証することからなるステップを包含してもよい。
【0047】
一般に、そのようなスクリーニング法では、表面にPAR1を発現する適切な細胞を用意する。特に、PAR1をコードする核酸を細胞のトランスフェクションに用いて、本発明の受容体を発現するようにしてもよい。そのようなトランスフェクションは、当技術分野において周知の方法によって成し遂げることができる。一つの特定の実施態様において、前記細胞を、これまでにPAR1を発現したことが報告されている哺乳動物細胞(例えば上皮細胞)からなる群から選択してもよい。
【0048】
本発明のスクリーニング法は、そのような細胞とスクリーニング対象の化合物とを接触させて、そのような化合物がPAR1を不活性化するかどうかを決定することにより、PAR1アンタゴニストを決定するために用いてもよい。
【0049】
本発明の一つの実施態様では、候補化合物を、事前に合成された化合物のライブラリーから、またはデータベースにおいて構造が決定された化合物のライブラリーから、またはデノボ合成された化合物もしくは天然化合物のライブラリーから選択してもよい。候補化合物を、(a)タンパク質またはペプチド、(b)核酸、および(c)(天然かどうかに関わらず)有機化合物または化学的化合物の群から選択してもよい。
【0050】
候補化合物を用いたPAR1不活性化は、当業者の知る様々な方法で試験することができる。
【0051】
本発明のもう一つの目的は、そのような処置を必要とする患者にPAR1アンタゴニストを投与することを含む、A型インフルエンザウイルス感染症を治療または予防する方法に関する。
【0052】
本文中で用いる場合、「患者」という語は、豚や霊長類のような哺乳動物を指す。好ましくは、本発明に従った患者はヒトである。
【0053】
PAR1アンタゴニストは、以下に規定するような医薬組成物の形で投与してよい。
【0054】
好ましくは、本発明のPAR1アンタゴニストは、治療有効量で投与される。「治療有効量」は、どのような医療行為にも適用可能な合理的なリスク対効果比でA型インフルエンザウイルス感染症を治療または予防するために十分な量の本発明のPAR1アンタゴニストを意味する。
【0055】
本発明の化合物および組成物の毎日の使用量の合計は、担当医師が妥当な医療判断の範囲で決定することになることが理解されよう。いずれかの特定の患者に対する具体的な治療有効量は、治療対象となる障害およびその障害の重症度、使用される特定の化合物の活性、使用される特定の組成物の活性、患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別、および食事、投与の時間、投与の経路、および使用される特定の化合物の排出率、治療期間、使用する特定のポリペプチドと組み合わされるかまたは同時に用いられる薬剤、ならびに医療分野で周知の同様の要素も含む、様々な要素に左右される。例えば、化合物の用量を、望ましい治療効果を達成するために必要な量よりも低いレベルで始めて、その望ましい効果が達成されるまで次第に投与量を増やしていくことは、当業者の間では周知である。
【0056】
しかしながら、薬剤の毎日の投与量は、大人一人当たりで一日当たり0.01から1000mgまで大幅に変化することがある。好ましくは、治療対象の患者への投与量を症状に応じて調節するために、組成物に含まれる活性成分は、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、および500mgである。医薬品に含まれる活性成分は、約0.01mgから約500mgまでが一般的で、1mgから約100mgの活性成分が含まれていることが望ましい。薬剤の有効量は、通常、一日当たり体重1キログラムにつき、0.0002mgから約20mgの投与量レベルで与えられ、特に、一日当たり体重1キログラムにつき、約0.001mgから7mgの投与量レベルで与えられる。
【0057】
PAR1アンタゴニストは、薬学上許容される賦形剤と併用可能であり、任意で、例えば生物分解性のポリマーのような、持続放出基材と併用して、治療用組成物を形成してもよい。
【0058】
「薬学的に」または「薬学上許容される」は、適宜、哺乳動物、特にヒトに投与する際に、副作用、アレルギー反応、またはその他の不都合な反応を生じさせない分子のまとまりや組成物を言う。薬学上許容される担体または賦形剤は、毒性のない、固体、半固体または液状の充填剤、希釈剤、カプセル材、またはあらゆるタイプの製剤補助剤を言う。
【0059】
本発明の医薬組成物においては、活性成分は、単独で用いるにせよ、他の活性成分と組み合わせて用いるにせよ、従来の薬学的支持体との混合物として、単位投与の形態で動物や人間に投与することが可能である。単位投与の形態として適切ものとして挙げられるのは、錠剤、ゲルカプセル、粉末、顆粒、および内用懸濁液または内用溶液のような経口投与形態、舌下投与形態および口腔内投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下投与形態、経皮投与形態、局所投与形態、腹腔内投与形態、筋肉内投与形態、静脈内投与形態、皮下投与形態、経皮投与形態、髄腔内投与形態、および鼻腔内投与形態、ならびに直腸投与形態である。本発明の医薬組成物は好ましくは鼻腔内投与形態で投与されるのが望ましい。
【0060】
医薬組成物に含まれる媒体は、注射可能な製剤に薬学上許容されるものであることが望ましい。これらは特に、等張溶液、無菌溶液、生理食塩水(リン酸1ナトリウムもしくはリン酸2ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、もしくは塩化マグネシウム等、またはこのような塩の混合物)、または、場合により滅菌水または生理食塩水を加えれば注射可能な溶液を構成することができる、乾燥組成物、特に凍結乾燥組成物であり得る。
【0061】
注射用の薬学的形態として挙げられるのは、無菌の水溶液または分散液;胡麻油、ピーナツ油、または水性プロピレングリコールを含む製剤;および無菌の注射溶液または注射分散液を即席で調製するための無菌粉末である。いずれの場合においても、その形態は、無菌でなければならず、そして、容易な注射可能性が存在する程度にまで流動性を有していなければならない。その形態は、製造条件下及び保管条件下において安定していなければならず、そして、細菌や真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されていなければならない。
【0062】
本発明の化合物を遊離塩基または薬理学的に許容される塩として含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適度に混合された水において調製することができる。分散液もまた、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物において、ならびに油において調製することができる。通常の保管条件と使用条件の下では、このような調製物には微生物の成長を妨げる防腐剤が含まれている。
【0063】
PAR1アンタゴニストは、中性もしくは塩の形の組成物に処方することができる。薬学上許容される塩として挙げられるのは、酸付加塩(タンパク質の遊離アミン基を用いて形成された)があり、これは、例えば塩酸やリン酸のような無機酸を用いて、または、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等のような有機酸を用いて形成される。遊離カルボキシル基を用いて形成した塩はまた、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等の有機塩基から誘導することができる。
【0064】
担体はまた、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液状ポリエチレングリコール等)、その適切な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒質であってよい。適当な流動性は、例えばレシチンのようなコーティングの使用によって、分散液の場合には所要の粒度を維持することによって、そして界面活性剤を用いることによって維持することができる。微生物の作用の予防は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等の様々な抗菌剤や抗真菌剤を用いることによってもたらされ得る。多くの場合、例えば糖類または塩化ナトリウムのような等張剤を含ませるのが望ましい。注射用組成物の持続的吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウムやゼラチンのような吸収遅延剤を組成物において用いることによってもたらされ得る。
【0065】
無菌の注射溶液は、所望により、適切な溶媒中に必要量の活性ポリペプチドを、上記に列挙した他の様々な成分と混ぜ合わせ、その後に、濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散液の調製は、塩基性の分散媒質と、上記に列挙されたもののうちから選んだ、その他必要な成分とを含む無菌媒体の中に、様々な無菌活性成分を混ぜ合わせることにより行なわれる。無菌注射溶液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法として望ましいのは、真空乾燥技術および凍結乾燥技術であり、それにより、活性成分の粉末だけでなく、それに加えて、前もって滅菌濾過されたその溶液から、他の望ましい成分も得られる。
【0066】
製剤の際、溶液の投与は、投与製剤に適合した様式、および治療に有効な量で行われる。製剤は、上述の注射溶液のタイプなどの様々な投与形態で容易に投与されるが、薬剤放出カプセル等も使用可能である。
【0067】
水溶液での非経口投与では、例えば、溶液は必要に応じて緩衝されるべきであり、液状希釈剤をまず、十分な量の生理食塩水またはグルコースで等調にすべきである。このような特定の水溶液が特に適しているのは、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与である。これに関連して、使用可能な無菌水性媒質は、本開示に照らして当業者には周知である。例えば一回の投与量は、1mlの等張性のNaCl溶液に溶解して、1000mlの皮下投与液に加えるか、点滴を提案された部位で注入することができる。投与量をいくらか変化させることも、治療中の患者の状態に応じて必要となる。投与の責任者は、いずれにしても、個別の対象に適した用量を決定することになる。
【0068】
PAR1アンタゴニストは、用量当たり約0.0001から1.0mgまたは約0.001から0.1mgまたは約0.1から1.0、またはさらに約10mg程度を包含するように、治療的混合物内に製剤することができる。複数回用量を投与することもできる。
【0069】
静脈注射または筋肉内注射のような非経口投与向けに製剤された本発明の化合物だけでなく、他にも薬学上許容される形式として挙げられるのは、例えば錠剤またはその他の経口投与用固形物;リポソ−ム製剤;放出持続性のカプセル;およびその他一切の現在用いられている形態である。
【0070】
本発明では、PAR1アンタゴニストは、一つまたは複数の別々の薬学的物質、好ましくはA型インフルエンザウイルス感染症治療用の薬学的物質と組み合わせて製剤することができる。そのような物質は、特に有益な治療効果をもたらすために、大いに異なる生化学経路で作用することがある。
【0071】
本発明では、一つまたは複数の活性物質を、同時投与される単剤療法製剤または単一の共製剤のいずれかとして投与してよい。
【0072】
好ましい実施態様においては、活性物質の一つはPAR2アゴニストである。
【0073】
本発明の更にもう一つの目的は、
(i)少なくとも一つのPAR−1アンタゴニストと、
(ii)少なくとも一つのプロテアーゼ活性化受容体−2(PAR−2)アゴニスト
とからなる医薬組成物に関するものである。
【0074】
本発明の更にもう一つの目的は、対象のA型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防のための前記医薬組成物の使用に関するものである。
【0075】
本発明の更にもう一つの目的は、対象のA型インフルエンザウイルス感染症の治療または予防のために同時使用、個別使用または逐次使用する複合調製物として、
(i)少なくとも一つのPAR−1アンタゴニストと、
(ii)少なくとも一つのプロテアーゼ活性化受容体−2(PAR−2)アゴニスト、
とを含む製品に関するものである。
【0076】
本文中で用いる場合、「PAR2」という語は、当技術分野における一般的な意味を有し、プロテアーゼ活性化受容体−2を指す。その語に含まれうるのは、天然PAR2ならびにその変異体および修飾形態である。PAR2は何に由来するものであってもよいが、典型的には(例えばヒトやヒトの他の霊長類のような)哺乳動物であり、特にヒトPAR2である。
【0077】
本文中で用いる場合、「PAR2アゴニスト」という語は、PAR2と結合し、それを活性化して、経路のシグナル伝達およびさらなる生物学的プロセスを開始させる、天然または合成の化合物を指す。PAR−2アゴニスト活性を評価しうる方法としては様々なものが知られている。例えばHollenbergの方法(Hollenberg,M.D.,et al.,Cati.J.Physiol.Pharmacol.,75,832−841(1997))、Kawabataの方法(Kawabata,A.,et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,288,358−370(1999))、およびHawthorneの方法(Howthorne et al.,A High−Throughput Microtiter Plate−Based Calcium Assay for the Study Of Protease−Activated Receptor 2 Activation,Analytical Biochemistry 290,378−379(2001))を用いてPAR−2アゴニスト活性の評価を行なってよい。
【0078】
ある実施態様においては、本発明のPAR2アゴニストは有機小分子であってよい。本発明での検討の対象となるPAR2アゴニストの代表的なものとして挙げられるものは、限定はしないが、米国特許出願公開第2007123508号明細書および米国特許出願公開第2008318960号明細書に記載されているものがあり、これらは、本文中で引用することにより、本開示内容の一部として組み込まれている。他の例として挙げられるもののとしては、Graddil LR et al.2008に記載されているものがあり、それは更に具体的にはAC−55541[N−[[1−(3−ブロモフェニル)−cth−(E)−イリデンヒドラジノカルボニル]−(4−オキソ−3,4−ジヒドロフタラジン−l−イル)−メチルj−ベンズアミド]およびAC−264613[2−オキソ−4−フェニルピロリジン−3−カルボン酸[t(3−ブロモフェニル)−(E/Z)−エチリデン]−ヒドラジド]である。
【0079】
もう一つ別の実施態様では、本発明のPAR2アゴニストは、PAR2活性化ペプチドで、それはHOOC−SLIGRL−NH2(配列番号5)またはHOOC−SLIGKV−NH2(配列番号6)であってよい。
【0080】
もう一つ別の実施態様では、本発明のPAR2アゴニストは、HOOC−LIGRLO−NH2、HOOC−Fluoryi−LIGRLO−NH2、およびトランスシンナモイル−LIGRLO(tc)−NH2から構成される群から選ばれるPAR2活性化ペプチド誘導体であってよい。
【0081】
本発明で検討の対象となるその他のPAR2活性化ペプチド誘導体として挙げられるものとしては、(ここで引用することにより本開示内容に組み入れるものとする)国際公開第03/104268号パンフレットに記載の、以下の一般式(I)で表されるものまたはその塩である。
【0082】
Z−(CH−CO−NH−Leu−Ile−Gly−AA1−AA2−CO−R(I)
【0083】
式中、Zは、置換基を有していてもいなくてもよいアリール基または置換基を有していてもいなくてもよいヘテロアリール基を表し、nは0、1または2を表し、AA1−AA2はLys−ValまたはArg−Leuを表し、Rは−OHか−NH2を表す。
【0084】
Zで表されるアリール基は、6から30個の炭素原子、好ましくは6から14個の炭素原子を有する、単環型、多環型または縮合環型の炭素環基であってよく、具体的な例を挙げると、フェニル基やナフチル基が望ましい。Zで表されるヘテロアリール基は、5から7員の単環型、多環型または縮合環型の複素環基で、環の中に少なくとも1から3個の窒素原子、酸素原子または硫黄原子を含むものであってよく、具体的な例を挙げると、フリル基、チエニル基、ピリジル基またはキノリル基が好ましい。
【0085】
Zで表されるアリール基またはヘテロアリール基は、置換基を有していてもいなくてもよく、限定はしないが本発明のペプチド誘導体の活性に対する副作用のないあらゆるアリール基またはヘテロアリール基を含み、具体的な例を挙げると、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシル基、フェニル基、フェニル低級アルキル基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシル基、およびカルボキシル基が含まれる。
【0086】
ハロゲン原子の例としては、塩素原子、フッ素原子、および臭素原子が挙げられる。低級アルキル基は、好ましくは、1個から15個の炭素原子、好ましくは1個から6個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖状の低級アルキル基で、例を挙げればメチル基とエチル基などである。低級アルコキシル基には、好ましくは、1個から15個の炭素原子、好ましくは1個から6個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖状の低級アルコキシル基が含まれ、その例を挙げれば、メトキシ基やエトキシル基などである。
【0087】
フェニル低級アルキル基中の低級アルキル基には、アルキレン基が含まれ、これには例えばメチレン基やエチレン基のような低級アルキル基が含まれる。
【0088】
この低級アルキル基、低級アルコキシル基、フェニル基、およびフェニル低級アルキル基の置換基は更にハロゲン原子等で置換されてもよい。
【0089】
本発明の一般式(I)の中のZ基の例として挙げられるのは、置換または未置換のフェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、ピリジル基、およびキノリル基であり、具体的な例を挙げると、フェニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−フェネチルフェニル基、3−フェネチルフェニル基、2−フェネチルフェニル基、4−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、2−ニトロフェニル基、2,4−ジニトロフェニル基、3,4−ジニトロフェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、3,5−ジフルオロフェニル基、2,4,5−トリフルオロフェニル基、4−フェニルフェニル基、3−フェニルフェニル基、2−フェニルフェニル基、2−フリル基、3−フリル基、5−メトキシ−2−フリル基、5−メチル−2−フリル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基、4−メチル−1−ナフチル基、4−メトキシ−2−ナフチル基、4−ニエチル−2−ナフチル基、4−ピリジル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、2−メチル−4−ピリジル基、4−メチル−2−ピリジル基、2−チエニル基、3−チエニル基、3−メチル−2−チエニル基、4−メチル−2−チエニル基、4−メチル−3−チエニル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、4−キノリル基、4−メチル−6−キノリル基等がある。
【0090】
本発明の一般式(I)において、nは0、1または2であり、下付き文字nの付いた基がZ基に結合している。nが0の時、Z基は直接、カルボニル基に結合している。nがtの時、Z基はメチレン基を介してカルボニル基に結合している。そしてnが2の時、Z基はエチレン基を介してカルボニル基に結合している。
【0091】
一般式(I)のRは−OHもしくは−NH2、またはその塩を示す。
【0092】
本発明においては、一般式(I)のAAl−AA2は、共に結合した二つのタイプのアミノ酸を示す。アミノ酸AAlは、好ましくはLysまたはArgであり、一方、AA2は、好ましくはValまたはLeuであることが望ましい。AAlおよびAA2は、N末端からC末端への方向に沿って配列AA1−AA2に共に結合される。好ましくは、AA1−AA2にはLys−ValまたはArg−Leuが含まれる。
【0093】
もう一つ別の実施態様では、本発明のPAR2アゴニストは、PAR2を活性化することが知られているプロテアーゼである。例えばトリプシンおよびトリプターゼは、PAR2の主なアゴニストである。トリプシンおよびトリプターゼによりPAR2が切断されると、テザーリガンドSLIGRL(配列番号1)(ラットおよびマウスのPAR2)が暴露され、それがつぎに、切断された受容体の細胞外ループIIの中の保存領域と結合する。因子VIIaや因子Xaのように、PAR2を活性化できる凝固因子も幾つかある。他の例として挙げられるのは、マトリプターゼ、ヒト気道トリプシン様プロテアーゼ、および膵外性のトリプシン酵素のような、上皮細胞由来のプロテアーゼである。
【0094】
もう一つ別の実施態様では、PAR2アゴニストは、抗体(この語は抗体断片も含む)からなっていてよい。特に、PAR2アゴニストは、前記抗体が受容体を活性化するという意味で、PAR2に対する抗体からなっていてよい。
【0095】
もう一つ別の実施態様では、PAR2アゴニストはアプタマーであってよい。アプタマーは、分子認識において、抗体に代わる分子のクラスである。アプタマーは、実質上どのようなクラスの目標分子でも高い親和性および特異性で認識する能力を有するオリゴヌクレオチドまたはオリゴペプチド配列である。そのようなリガンドは、Tuerk C.and Gold L.,1990に記載のように、ランダム配列ライブラリーの、EXponential enrichment(SELEX)によるSystematic Evolution of Ligandsを通して単離可能である。ランダム配列ライブラリーは、DNAの組み合わせ化学合成により、入手可能である。このライブラリーにおいて、各構成要素は、固有の配列から最終的に化学的修飾された、直鎖オリゴマーである。このクラスの分子の修飾、利用及び利点として考えうるものがJayasena S.D.,1999において概説されている。ペプチドアプタマーは、ツーハイブリッド法によって複合ライブラリーから選ばれた大腸菌チオレドキシンAのようなプラットホームタンパク質により提示される、立体構造的に拘束された抗体可変領域から構成される(Colas et al.,1996)。
【0096】
上記に説明したようなPAR2に対するアプタマーを得た後、当業者であればPAR2を活性化するものを容易に選べる。
【0097】
本発明のもう一つの態様は、A型インフルエンザウイルスの複製を阻害するためのPAR1アンタゴニストに関するものである。
【0098】
本発明の更にもう一つの目的は、対象がA型インフルエンザウイルス感染症にかかりやすいかを検証する方法に関するものであって、その方法は、前記対象から採取した生物学的サンプルを分析することにより、
(i)PAR1遺伝子における突然変異および/もしくはそれに関連するプロモーターの存在を検出し、および/または
(ii)そのPAR1遺伝子の発現を分析する、
という手順からなるものである。
【0099】
本文中で用いる場合、「生物学的サンプル」という語は、血液または血清のような、対象から採取したあらゆるサンプルを言う。
【0100】
PAR1遺伝子における突然変異を検出する方法の典型的なものとして挙げられるのは、制限断片長多型法、ハイブリダイゼーション技術、DNA配列決定法、エキソヌクレアーゼ耐性、ミクロ配列決定、ddNTPを用いる固相伸長、ddNTPを用いる溶液中の伸長反応、オリゴヌクレオチドアッセイ、動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーションなどの単一ヌクレオチド多型検出方法、ライゲーション連鎖反応、ミニ配列決定、DNA「チップ」、PCRまたは分子標識と組み合わせた、単一標識または二重標識プローブでの対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションなどがある。
【0101】
PAR1遺伝子の発現の分析の評価は、転写された核酸または翻訳されたタンパク質の発現を検出するための様々な周知の方法のいずれかによって行なってもよい。
【0102】
好ましい実施態様においては、PAR1遺伝子の発現の評価は、新生RNAのような、前記遺伝子のmRNA転写産物またはmRNA前駆体の発現を分析することによって行なわれる。前記分析は、対象から採取した生物学的サンプル中の細胞からmRNA/cDNAを調製し、そのmRNA/cDNAを参照ポリヌクレオチドとハイブリダイズすることによって評価することができる。調製されたmRNA/cDNAを用いてハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイを行なうことができ、その例として挙げられるのは、限定はしないが、サザン分析またはノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析、例えば定量PCR(TaqMan)、およびGeneChip(商標)DNAアレイ(AFF YMETRIX)のようなプローブアレイである。
【0103】
好適には、PAR1遺伝子から転写したmRNAの発現レベルの分析の一環として、(米国特許第4,683,202号に記載の実験例のような)RT−PCRによる核酸増幅、リガーゼ連鎖反応(BARANY,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.88,p:189−193,1991)、自家持続配列複製(GUATELLI et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.57,p:1874−1878,1990)、転写増幅システム(KWOH et al.,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,vol.86,p:1173−1177,1989)、Qβレプリカーゼ(LIZARDI et al.,Biol.Technology,vol.6,p:1197,1988)、ローリングサークル複製(米国特許第5,854,033号)もしくは、その他のいずれかの核酸増幅法を行なった後、当業者に周知の技術を用いて増幅分子の検出を行なう。このような検出方式の数々が、核酸分子の検出に特に役立つのは、そのような分子の存在が、極めて少数である場合である。本文中で用いる場合、増幅プライマーというのは、一つの遺伝子(それぞれ正および負の鎖もしくは逆)の5’か3’領域にアニール可能な一対の核酸分子であって、その間に短い領域を内包するものとして定義づけられる。一般に、増幅プライマーは、長さが約10から30ヌクレオチドで、長さが約50から200ヌクレオチドの一つの領域の側面に位置する。条件が適切で試薬も適切であれば、そのようなプライマーにより、両側にそのようなプライマーが並んでいるヌクレオチド配列からなる核酸分子を増幅することが可能となる。
【0104】
もう一つ別の好ましい実施例においては、PAR1遺伝子の発現の評価を、前記遺伝子から翻訳されたタンパク質の発現を分析することにより、行なう。前記分析の評価に用いることができるのは、(例えば放射標識された、発色団で標識した、発蛍光団標識もしくは酵素標識の抗体のような)抗体、(例えば、基質と、もしくは(例えばビオチンストレプトアビジンのような)タンパク質/リガンドの一対のタンパク質のタンパク質かリガンドと共役の抗体のような)抗体誘導体、あるいは、そのPAR1遺伝子から翻訳されたタンパク質と特異的に結合する(例えば単鎖抗体、分離された抗体高度可変ドメイン等のような)抗体断片がある。
【0105】
前記分析の評価方法として考えられる技術としては、様々なものが業界で知られており、その例として挙げられ、但し、そのような例に限定されるわけではないのが、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定(RIA)、ウェスタンブロット法と酵素結合免疫吸着法(RIA)である。
【0106】
本発明の方法の一環として、患者から採取した生物学的サンプル中のPAR2遺伝子の発現レベルを、比較対照用のものの中の、前記遺伝子の正常な発現レベルと比較することがあってもよい。正常な発現レベルと比べて、患者の生物学的サンプル中の、前記遺伝子の発現レベルが有意に高いということは、その患者が、A型インフルエンザウイルス感染症にかかりやすくなっている徴である。PAR2遺伝子の発現レベルが「正常」だということは、A型インフルエンザウイルス感染症には全くかかっていない被験者の生物学的サンプル中の、前記遺伝子の発現レベルだということである。できれば、前記正常な発現レベルは、(例えば、A型インフルエンザウイルス感染症には全くかかっていない健康な被験者からのサンプルのような)比較対照用サンプルの中で評価することが望ましく、そして、幾つかの比較対照用サンプル中の前記遺伝子の平均的発現レベルであることが望ましい。
【0107】
本発明では、A型インフルエンザウイルス感染症患者の治療または予防は、呼吸窮迫症候群の治療または予防ではない。
【0108】
本発明を以下の図と実例で更にはっきりと説明していく。しかしながら、このような図と実例は、いかなる意味でも、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例1】
【0109】
素材及び方法
【0110】
実験動物
【0111】
複数の雌野生型C57BL6マウス(Charles River,Rhone,France)を用いて以下の研究をおこなった。マウスは全て、受け入れ時に生後五週間で、実験に供する前の七週間、以下のような条件に順応し、蛇口から出る水と標準的な実験動物用の餌を自由に摂取できるようにした。マウスたちは、国立農学研究所(Institut National de la Recherche Agronomique)(INRA)動物愛護施設(Jouy−en−Josas,France)において、(一定光周期、12:12時間明暗周期、22℃という)適切な条件に置かれた。そのマウスたちに関わる処置の全ては、獣医業務局(direction des Services Veterinaires)発行(認定番号78−114)の免許証の権威の下でおこなわれた。
【0112】
上皮細胞とウイルス株
【0113】
この研究で用いられたヒトII型肺胞上皮細胞(A549)とイヌ遠位尿細管由来の細胞株(MDCK)は、American Type Culture Collection(アメリカ・養細胞系統保存機関)から入手し、それぞれMEME(10% SVF、PS、グルタミン)とMEME(5% SVF、PS、グルタミン)の中で育成したものである。G.F.Rimmelzwaan(Erasmus Medical Center,Rotterdam,Netherlands)より寄贈のIAV A/PR/8/34(HlNl)を育成し、前述のように産生した(F.LeBouder and al,2008;K.Khoufache and al,2009)。
【0114】
使用した薬剤
【0115】
PAR1−アゴニストペプチドTFLLR−NH2(H−Thr−Phe−Leu−Leu−Arg−NH2,SEQ ID N°7)と比較対照用ペプチドFTLLR−NH2(H−Phe−Thr−Leu−Leu−Arg−NH2,SEQ IDN°8)をスイスのBACHEM(Bubendorf,Switzerland)から購入した。PAR−1アンタゴニストSCH79797二塩酸塩をオランダのAXON MEDCHEM(Groningen,Netherlands)から購入した。
【0116】
PAR1−アゴニストTFLLR−NH2によるA549の前処理
【0117】
IAV A/PR/8/34菌株に感染させる前に、A549細胞の幾つかを五分間、250μMのPAR1特異的活性化ペプチドTFLLR−NH2で刺激し、あるいは刺激しなかった。放出されたRANTES、IL−6及びIL−8の量を、ELISA(R&D Systems)による感染から、8時間、24時間、48時間そして72時間後に、培養脱離液中で分析した。ウイルス滴定量もまた、従来のプラーク検定法により同じ脱離液中で測定した。
【0118】
インビボのPAR1−アゴニストTFLLR−NH2の効果
【0119】
PAR1アゴニスト(TFLLR−NH2)刺激実験については、生後六週間のC57BL/6雌のマウス(Charles&River Laboratories)に三日間、毎日、麻酔をかけ(IP)、鼻腔内を25μlの様々な溶液に曝した。最初の日、麻酔をかけたマウスの鼻腔内に(5000、500、50または10PFUのA/PR/8/34に、50μMのTFLLR−NH2 PAR−1アゴニストまたはFTLLR−NH2 PAR−1比較対照用薬剤付きの、または抜きの)25μl溶液を接種した。感染してから二日後と三日後に、そのようなマウスのまさに鼻腔内を25μlのペプチドのみに曝し、あるいは治療なしのマウスにはMEME媒質(25μl/マウス)にした。つぎに感染したマウスの生存率と体重を毎日、観察し、ウイルス負荷をプラーク検定により測定し、サイトカイン(RANTES&IL−6)と多核好中球(PMN)を、犠牲に供したマウスの肺の中で、感染から24時間後と48時間後に、気管支肺胞洗浄液(LBA)中に添加した。最後に、PAR−1アゴニストの二次的効果をインビボで確認するために、そのマウスの鼻腔内を25μlのPAR−1アゴニスト(50μM)に曝す一方で、比較対照用マウスはMEME媒質に曝した。つぎに治療したマウスの生存率と体重を毎日、観察した。
【0120】
インビボのPAR1−アンタゴニストSCH79797の効果
【0121】
インビボのSCH79797保護投与量を確認するため、生後六週間のC57BL/6雌のマウス(Charles&River Laboratories)複数に、三日間、毎日、麻酔をかけ(IP)、鼻腔内を、濃度可変のSCH79797(50;5;0.5及び0,2μM)と一定のA/PR/8/34pfu(5000pfu)を含む25μlの溶液に曝した。最初の日、麻酔をかけたマウスの鼻腔内に、50、5、0.5及び0.2μMのSCH79797PAR−1アンタゴニストを伴い、もしくは伴わないで、25μlの溶液(5000、PFUのA/PR/8/34)を接種した。感染した後の二日目と三日目に、そのようなマウスの鼻腔内を25μlのSCH79797に、50、5、0.5そして0.2μMで曝し、一方、比較対照用の(感染した)マウスには等量のMEMEにした。つぎに、感染したマウスの生存と体重を毎日、観察した。
【0122】
第二の手順として、そしてIAVpfuの低い値でのSCH79797の保護率を確認するために、生後六週間のC57BL/6雌のマウス(Charles&River Laboratories)に三日間、毎日、麻酔をかけ(IP)、そして鼻腔内を、pfuが可変のA/PR/8/34(5000、500、50pfu)ウイルスと、一定濃度のSCH79797(50μM)を含む25μlの溶液に曝した。処置後、二日目と三日目に、そのマウスたちの鼻腔内をまさに、25μlのSCH79797に50μMで曝し、あるいは比較対照用マウスにはMEMEにした。つぎに、上記のように、感染したマウスたちの生存と体重を毎日、観察し、ウイルス負荷をプラーク検定により測定し、感染の24時間後と48時間後に、犠牲に供したマウスの肺の中で、サイトカイン(RANTES&IL−6)と多核好中球(PMN)を気管支肺胞洗浄液(LBA)中に添加した。
【0123】
メイ・グリュンヴァルト・ギムザ染色
【0124】
気管支肺胞洗浄液(BALF)を1mM EDTA(in vitrogen)を補ったPBS(in vitrogen)中に回収した。細胞遠心分離後、多核好中球のパーセンテージの測定を、メイ・グリュンヴァルト・ギムザ染色を施した集細胞遠心装置Superfrost−Plus(登録商標)のスライド複数を顕微鏡検査することによって、サンプル毎の500個の細胞の合計を数えることにより、行なった。
【0125】
肺組織学
【0126】
複数の肺組織切片を10%ホルマリン液の中に固定した肺全体から切り出し、パラフィンの中に埋め込んだ。十二マイクロメーターの厚みの切片を取り、前述の病理組織学的評価のため、H&Eで染色した。
【0127】
統計的分析
【0128】
マンホイットニーのU検定を、ウイルス複製の統計的有意性とELISA実験のために用いた。カプラン・マイヤー検定をマウスの生存率の差について用いた。その統計的有意性を、必要時に記録し、p<0.05の敷居値で検定した。
【0129】
結果
【0130】
PAR1−アゴニストTFLLR−NH2はIAVに感染した上皮細胞中のIAVウイルス複製の放出を増大させる
【0131】
IAV複製におけるPAR1の役割を詳しく調べるために、A549肺胞上皮細胞をIAVに感染させて、選択的TFLLR−NH2PAR1アゴニストか比較対照用のペプチドで刺激した。PAR1アゴニストに曝された時、IAVに感染した細胞は、その後に、比較対照用の不活性なペプチドに曝された細胞と比べると、より多くのウイルス(図1A)を産生した。PAR1活性化は、A549に感染した細胞中のウイルス産生を増大させることになるという結論に達した。
【0132】
つぎに、IAVに感染した肺上皮細胞中の炎症サイトカインの放出に及ぼすPAR1活性化の効果を詳しく調べた。そのような細胞中のPAR1の刺激により、RANTES、IL−8及びIL−6の放出が有意に増大した(図1B、C、D)。そのようにして、PAR1のアゴニストは、A549−IAVに感染した−細胞中のサイトカイン放出に影響を及ぼす。
【0133】
PAR1−アゴニストTFLLR−NH2はインビボの発病及び死を増大させる
【0134】
PAR1のインビボでの役割を詳しく調べるために、マウスの鼻腔内を、様々な量(5000、500、50そして10pfu/マウス)で投与したIAVに曝し、50μMのPAR1アゴニストペプチドで刺激し、または刺激しなかった。結果を見たところ、PAR1アゴニストによる処置で、IAVが誘発するマウスの死亡率は、刺激しなかったマウスに比べて、増大した(図2A)。感染しなかったマウスはPAR1アゴニストに感応しなかったので、この死亡率上昇は、PAR1の副作用によるものではない(図2B)。このようにIAVに感染したマウスの発病がPAR1アゴニストにより増大したことを見て、PAR1アゴニストがインビボでのIAVの複製を調節しうるのかどうかを、更に詳しく調べることになった。そういうわけで、感染したマウスを、感染してから24時間後と48時間後、PAR1アゴニストで刺激し、あるいは刺激せずに、その肺の中のウイルス負荷の数値を求めた。結果を見たところ、PAR1特異的アゴニストで処置した感染マウスは、刺激を受けなかったマウスに比べて、肺の中の感染性ウイルス負荷が有意に増大していた(図2C)。このことは、pfu/マウスの値が異なった二つの場合において観察された。そういうわけで、PAR1アゴニストはインビボでのIAV複製を増大させる。
【0135】
PAR1−アンタゴニストSCH79797によるIAV誘発性の発病及び死からの保護
【0136】
インビボでのPAR1アンタゴニストの役割を詳しく調べるため、マウスの鼻腔内に5000pfu/マウスを投与して感染させ、様々な濃度のPAR1アンタゴニストSCH79797で処置した。結果を見たところ、PAR1アンタゴニストを用いた処置により、その投与量に応じた形で、マウスはIAVが誘発する死から保護されていた(図3A)。更に、5000、500そして50のような、様々なpfu/マウスの値で感染させた後も、50μMのアンタゴニストPAR1により、マウスはIAVが誘発する死から保護された(図3B)。このことから、PAR1アンタゴニストは、マウスをIAVが誘発する死から守ったという結論に達した。最後に、感染したマウスを、感染してから24時間後と48時間後、PAR1アンタゴニストで刺激し、あるいは刺激せずに、その肺の中のウイルス負荷の数値を求めた。結果を見たところ、特異的なPAR1のアンタゴニストの処置を受けた感染マウスは、処置を受けなかったマウスに比べて、肺の中の感染性のウイルス負荷が有意に減少していた(図3C)。したがって、PAR1アンタゴニストは、ウイルス複製を阻害し、IAV誘発性の発病及び死からマウスを保護する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0137】
【非特許文献1】Riteau B.et al.2006;LeBouder F.et al.2008
【非特許文献2】Steinhoff M.et al.2005;Vergnolle N.et al.2008

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のA型ウイルス・インフルエンザ感染症の治療または予防の際のプロテアーゼ活性化受容体−1(PAR−1)アンタゴニストの使用方法。
【請求項2】
前記A型ウイルス・インフルエンザがH1N1ウイルスである請求項1の使用方法。
【請求項3】
前記PAR−1アンタゴニストが、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子有機化合物、アプタマー、ペプデュシン、ポリヌクレオチドまたは抗体のうちのいずれかから選ぶものである請求項1または2の使用方法。
【請求項4】
前記PAR−1アンタゴニストが、N3−シクロプロピル−7−{[4−(1−メチルethyl)フェニル]メチル}−7H−ピロロ[3,2−f]キナゾリン−1,3−ジアミンである請求項1から3のいずれかの使用方法。
【請求項5】
その患者が哺乳動物で、できればヒトであることが望ましい請求項1から4のいずれかの使用方法。
【請求項6】
(i)少なくとも一つのPAR−1アンタゴニストと、(ii)少なくとも一つのプロテアーゼ活性化受容体−2(PAR−2)アゴニストとからなる医薬組成物。
【請求項7】
患者のA型ウイルス・インフルエンザ感染症の治療または予防のための請求項6の医薬組成物の使用方法。
【請求項8】
患者のA型ウイルス・インフルエンザ感染症の治療または予防のために、同時使用、個別使用または逐次使用するための総合製剤として、(i)少なくとも一つのPAR−1アンタゴニストと、(ii)少なくとも一つのプロテアーゼ活性化受容体−2(PAR−2)アゴニストとを含む製品。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【公表番号】特表2013−510832(P2013−510832A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538360(P2012−538360)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067516
【国際公開番号】WO2011/058183
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(505129079)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ アグロノミック (15)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA RECHERCHE AGRONOMIQUE
【Fターム(参考)】